コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第24音 ( No.234 )
日時: 2013/06/03 22:56
名前: 歌 (ID: HhjtY6GF)



愛花には冬休み中、横浜に行くことを
期末試験が終わったと同時に話した。


理由は適当に里帰りって言ったら、
やっぱり空雅と同じようなことを叫びやがった。


行事ごとが好きなカップルですね。


だからこのパーティーのことを話した
ときにはかなり喜んでたけど。


愛花には大切なこと、何も言えていないのが
ちょっと心苦しかったりする。



横浜から帰ってきて少ししたら、
きちんと話せるといいな。



「でさっ!この前『口づけした仲なのに
 捨てるなんて』っていう看板があったわけ!
 何の看板だったと思うか?」

「口づけ!?そんな破廉恥な看板なんてあんのか!?」

「分かんないからもったいぶってないで
 早く教えなさいよ」

「そういう生意気な奴には教えませーん」


大和と愛花のにらみ合いが開催されている中。


「大和が飲んでるそれでしょ。
 缶の投げ捨て防止の看板」

「おーい悠!言うなよ!」


しれっと言ってやれば、ふてくされた大和。


「そんなこと言ったら俺なんて『運転手、
 きょろきょろするな。美人はいない』って
 いう看板見たことあるけど」

「うわ、それ最高」


笑いながら話す煌に、大和はすぐに食いついた。


「ってかクリスマスと言えばさー。12月24日の
 夜の9時から朝の3時まで『性の6時間』って
 呼ばれてるらしいよー」

「どういうこと?」


突然、愛花が下ネタを出してきやがった。


純粋そうに見えて本当は分かってるはずの
日向が首を傾げる隣で、本気でハテナマークの空雅。


「日本国内で1年間で最もセックスする人が
 多い時間なんだって」

「せ、せっ……!?」

「ちょっと愛花、空雅になんてこと言ってんの」

「確かに事実だな。そのせいで日本人は9月
 生まれが一番多く、特に誕生日が9月3日〜24日の
 人間はその時に子作りされた可能性が高い」


あらま、築茂の止めの一発で空雅さんが
鼻血出してぶっ倒れそうだよ。


「あ、大和の誕生日って……」

「9月22日。どんまい、大和」

「……るせぇ」


大和の誕生日を思い出した私に日向はにっこりと
答えると、大和は頭を抱えていた。



ふふ、と静かに聞こえてきた笑い声の主は、
可愛いはずの玲央くん。


空雅を見て『ガキ』とか思ってるのかしら。



「あーあ、空雅には刺激が強すぎたみたいだねぇ」

「……荻原先輩って結構黒いっていうか…
 怖いですよね」

「何言ってんの愛花。この中で怒らしたら
 一番怖いのは日向だし、一番腹黒いのもこの人だよ」

「ゆーうーちゃーん?それはどういう意味かなー?」

「ナンデモアリマセン。ゴメンナサイ」

「くくくっ……よろしい」


でも今ので、確実に愛花の中での日向の
イメージが180度変わったことだろう。



こうやってバカ言い合って、くだらない話で
盛り上がって、笑い合って。


本当に、私の大切な仲間と過ごす大切な時間は、
嫌なことも不安なことも忘れさせてくれる。


でもそれは、“忘れさせてくれる”だけで
あって、なくなるわけではない。



現に今、全員がソファーや床でそのまま
はしゃぎ疲れて寝てしまったリビングに
静けさが戻ると。



一気に、鼓動が早くなる。



本当はものすごく、恐くて怖くて強くて、
ずっとここにいたくなる。


自分の過去なんてどうでもいいから、
今を……今だけを、大切にしたくなる。


もしかしたらそっちのほうが、
ずっといいのかもしれない。


そのほうが、ずっと幸せなのかもしれない。



だけど。

それでも。

私は。



真実を確かめたいの。





「……っ…うぅ…く……っっ…」




周りには、さっきまで笑い合っていた
大切な仲間がいる。


そんな仲間の元を離れていく私は、
バカを通り越しておかしいのかもしれない。



こんなに涙が溢れて、悲しくて、辛くて、苦しいのに。




助けてなんて、言えない。







もしこのまま寝て朝起きたら、悲しみも
苦しみも全て真っ白に消えていたなら。


どんなに、楽なんだろう。


望みを絶ったのは神なのかな?
サンタなのかな?


そうじゃなくて、大抵自分自身なんだろうね。



そっと、掛布団を1人1人にかけながら、
リビングの電気を消す。


余計に暗く静けさが増したリビングで私は、
涙の流し方はもういいから。


涙の止め方を、知りたかった。



心の中、月明かりが入り込んできて、
私のうなだれた顔をそっとさすって、
光はここだよと言ってるよう。


それなのに私は、涙なんて止まらずに、
月のそばで眠りたいな、なんて。


さらに、虚しくなった。


どんなにはしゃいで楽しくて笑っても、
悲しみも苦しみも捨てられない。



それでも、苦しいこともいいことだと
思うしかないの。


そこから抜けるころには、心は新しく
もっと強くなっていると、信じたいから。



闘わなきゃ。


最大の敵は常に弱虫、弱気な自分だから、
自分に負けたくない。


自分と向き合うって決めたんだから、
今さら逃げ出すようなことはしたくない。


たとえ行き着く先がどんな光景だろうと、
もう何も知らなかった私には戻れないんだから。



「……悠………」



びく、と。
身体が震えたのは。



後ろから抱きしめられながら、
耳元で囁かれた柔らかい声のせいで。




「ふぅ…ぅ…っ……こ、う……」




煌の胸の中で、声を押し殺して泣いた。







私を抱きしめる力強くしっかりした腕と、
大きく広い胸。


優しく安心させる温もりがそばにある、
これだけでも私は幸せすぎるくらい。



「悠……」



どうした?とも、何があった?とも何も
聞かずにただひたすら私の名前を、
細く掠れた声で呼ぶ。


煌の鼓動がどんなに早く動いていようが、
今はそんなことを考えている余裕もなくて。



ただただ、恐かった。




もし。


もし、真実を知ってしまったら。
もう戻れない。



今の私の中の想像している結末が、
本当に真実だったときのことを考えたら。



恐くてたまらない。



痛いとか苦しいとか誰かに何かされるとか、
そんなことじゃなくて。


ずっと何度も何度も願っては絶対に
あり得ないと言い聞かせてきたこと。


それが、現実で本当に起こった時。



6人に出逢う前の私なら、素直に受け入れて
泣いて喜ぶだろう。


でも、今の私には、その自信がない。


6人に出逢ってしまったから。
6人という大切な人ができてしまったから。


あの人と比べられないほどに。



まだ、私のただの想像というだけで、
事実かどうかなんて分からない。


分からないことのほうがずっと多い。


だけど、どうしても、私の想像は想像だけでは
すまない予感がしてならない。



すでに、在っている。



在っているし、会っているし、
逢っているんだけど。



逢わなければよかったと、心の奥底で
思ってしまう私は本当に残酷で最低な人間だ。



だって、もし、事実ならば。



怒りと恐怖と疑問と絶望が先に来て、
後から嬉しさと安心と希望が着いてくる。


聞きたいことがたくさんあって、
確かめたいこともたくさんあるの。



どうして、って。
どうしてなの、って。





本当は、今こうやって煌という優しさに
埋もれて涙を流すことも、してはいけない。



きっと、煌だって傷ついている。



私は煌の気持ちにはまだ答えられないのに、
手を繋いだりキスしたり抱きしめられたり、
期待させるようなことをして。


もしこの手を振りほどいてしまったら、
私が想像できないほどの傷を、負うだろう。


これまでも、今もたくさん傷つけているのに
これ以上傷つけたくない。


人を傷つけることに、平気でいることは
止めたいんだ。


今までの私なら無自覚で簡単にやってきた。


でも人はみんな、どこか不幸な目に
あっていて、辛い思いをたくさん
抱えているから。


泣いている私だけが辛いわけじゃない。



だから。
もう、6人の前で。



泣くことは、しない。




「……ごめん…もう、大丈夫だから…」




身勝手で、ごめんなさい。





第24音 ( No.235 )
日時: 2013/06/04 21:27
名前: 歌 (ID: oBSlWdE9)



そっと胸を押すと、すぐに解放してくれた
煌の腕。





何も言わずに、私の髪に触れるだけ。







「……本当にもう、大丈夫。さ、寝よう」







月明かりだけで照らされる煌の表情は、

悲しそうに微笑んでいて。






慌てて目を、逸らした。









口元は出来る限り微笑みをつくって、
ゆっくりと立ち上がる。


みんなはリビングで寝ているけれど、
今はそんな気分じゃないから。


自分の部屋へと、足を向けた。



髪に触れていた煌の指がするり、と
力なく落とされたのを気にすることはしない。


「おやすみ……」


小さく後ろから聞こえてきた声にも
返事をすることはしないまま。



夜の闇へと、消えた。





あなたと私。
小指で紡ぐ、赤い糸。


舞台を隔てて惹かれあう2人の距離は、
甘美な悲劇を匂わせる。


1歩踏み出せば、砕けるあなたの身体。


糸を引けば、私の小指は息もできずに
圧迫されていく。


運命の赤い糸はロマンチックに、残酷。



『さぁ、ナイフを振り上げ断ち切ろう。
 五体が赤く染まらぬうちに』



静かに叫ぶ、あなた。



『さぁ、ナイフを振り上げ終わりにしよう。
 小指が色を失う前に』



そう言ったあなたは、薄く妖艶な美しい
笑顔を浮かべた後。



ナイフを、振り上げた。



赤い糸に向かってなのか、私に向かってなのか、
あなた自身に向かってなのか、分からぬまま。



ナイフは、振り落とされた。





「…っっ……!!!」




勢いよく飛び起きた、朝。


冬が濃くなってきているというのに、
身体中には汗がべっとりと張り付いている。


呼吸は荒く、鼓動ははち切れそうなほど、
早く波打っている。


喉が砂漠のようにカラカラで、体内の
水分が30%もないような気に陥った。



まだカーテンの裏は暗く、携帯で時間を
確認すると、寝てから2時間も経って
いなかった。



つい今、見た夢の内容と光景が鮮明に脳裏に
焼きついたまま、離れない。


ぶるっ、と一気に寒気が押し寄せてきて、
慌てて布団から出た。



部屋の灯りをつけて、タオルで身体を拭き、
新しいスウェットに着替える。


水を飲むために、彼らが眠っているであろう
リビングの席にあるキッチンを目指した。



2時間前と何ら変わりない光景にほっと息を
吐いて、静かにキッチンへと入る。


冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、
一気に半分まで飲み干した。



「はぁ…っ……」



思わず零れたため息に、身体も頭も疲れが
取れていないことを知る。


それでも眠る気には、もうなれない。



これから1人で真実を確かめに行くって言うのに、
こんなことじゃ先が思いやられる。


今まで何でも1人で大丈夫だったのに、6人と
行動するようになってからは、1人になると
突然寂しさが押し寄せてきて。


不安になったり、心細くなっていた。




こんなんじゃ、ダメだ。


強くならないと。
強くいないと。


自分とも、過去とも向き合うことなんて
できやしない。



「強く、ならなきゃ……」


「なぜだ?」


「ひっ!?」



独り言を呟いたはずが、低い疑問の声が
返ってきたことに驚いて、思わず小さな
悲鳴を上げた。



「つ、築茂……驚かさないでよ…」

「あぁ、悪かったな。喉が…乾いた」


すぐ後ろにいた築茂は、寝起きのせいで
若干不機嫌気味。


それでも、すっと伸ばしてきた手は、私が
飲んでいたミネラルウォーターを掴み、
そのまま築茂の口の中に運ばれた。



「で、どうした」

「私も喉が渇いただけ」

「違う、その格好。最後に見たやつじゃない」

「着替えたんだもん、当たり前でしょ」

「なぜだ?あれだって寝巻きだろ?着替える
 必要なんてないだろ?」

「………」



寝起きのくせにどうしてこうも観察力は
鈍らないのかね。


遠慮なく聞いてくるところも煌と真逆だし、
奥まで探ろうとしてくる言い方。



威圧感、半端ないし……。



「顔色、ものすごく悪い」

「……暗いのによく見えるね」

「お前の表情の変化くらい分かる。どんだけ
 いつも見てると思ってるんだ」


言い方は冷めてるように聞こえるけど、
私の頬に触れる手から伝わるのは、
不器用な優しさ。


心配してくれているのは、すぐに分かった。



でも今、そんな優しさを見せられると
縋りたくなるから……やめてほしい。


ついさっき、6人の前ではもう泣かないと
決めたばかりなんだから。


強くなるって決めたんだから。



いつの間にか両手で私の頬を挟むようにして、
私の顔を上げさせた築茂。


月明かりだけが入り込むこの部屋では、
築茂の深い黒の瞳は、見えずらい。


そのおかげで、私は口を開けた。



「築茂……放して」



両手で、築茂の手をぎゅっと握りしめて
放そうと力を込めた。



「お前、何があった」



今、そんなこと聞かないでよ。



「何もないよ。もう眠いから寝たいだけ」



大丈夫、声も築茂の手を握る手も、
震えてはいないから……誤魔化せたはず。



「っ……こっち来い!」



誤魔化せたはず、なのに。



簡単に私の頬から手を放したけれど、すぐに
それは私の腕を掴み。


強く引っ張られて、リビングを出た。




ばさ、と。


放り投げられたのは、さっきまで私が
寝ていたベッドの上。



「ちょ…っ…築茂?」



静かに扉を閉めた築茂は、ベッドに仰向けに
倒れた私の上に、跨った。



「何があったと、聞いている」

「だから!眠いんだって!寝かせてよ!」

「言え。言わなければ……このままここで、
 犯す」

「はぁ!?ちょっと何言ってんの?」

「俺は本気だ。そんな顔のお前を1人で横浜に
 行かせると思うか?心配させるのも
 いい加減にしろ」



怒りを含んだ声に、言葉が詰まる。


暗いのに私の変化に気付いてくれたことが
本当は嬉しいはずなのに、それに頼って
しまったら後悔しそうで。


一生懸命誤魔化そうとしているのに、
いつの間にか、私の嘘は通用しなくなっていた。



「んでっ…言わねぇんだよ……!」



無理やり重ねられた、唇。


舌がすぐに入り込んできて、深く奥まで
攻められる。


荒々しく、いつも冷静な築茂の面影はない。



「どうしてお前は俺を頼らない?なぁ……
 どうして全部自分1人で抱えるんだ?」



やっと離された築茂の口から吐き出された、
悔しそうな声に、唇を噛みしめた。



「今のお前を見てると…怖ぇんだよ……!
 あの時、俺も反対していればよかったって
 後悔しそうで…っ……!!怖ぇんだよ!!!」



ここまで感情的になる築茂を見たのは、
初めてかもしれない。



ここまで弱々しく今にも崩れそうな築茂を
見たのは、初めてだ。




「言えよ!?何をそんない怯えている……?
 何がそんなに怖い?」




気付いて、いたんだ。




「記憶を取り戻すのがか?記憶を取り戻したら
 俺たちのところに戻らないからか?
 二度とここに帰らないかもしれないからか?」



違う、違うよ。
そうかもしれないけど、違うんだよ。




「なぁ!言えよ……っ……悠!!!」




あ。


涙だ。
私のじゃない。
築茂の。



頬を伝って顎を滑り落ちた築茂の涙が、
私の瞼に、落ちてくる。




同じ状況で同じ涙を流した日向とは
違う意味の、涙。




あぁ、そっか。
怖いのは、私だけじゃないんだ。





第24音 ( No.236 )
日時: 2013/06/05 23:04
名前: 歌 (ID: 8topAA5d)



常に冷静でいる築茂が、私の前で大粒の涙を
流しながら感情的になるほど、築茂だって
怖いんだ。


きっと築茂だけじゃない。


6人全員……いや、愛花も含めて、みんなも
怖いのかもしれない。


怖いと思ってくれているのかもしれない。


私が、いなくなることを。
私が、変わることを。




「お前をどんだけ大切に想っているか…分かるか?
 こんなに…っ!誰かを想うなんて、お前に
 出逢う前の俺には、あり得なかった!お前が
 俺のすべてを変えた。自覚しろよ……かけがえの
 ない存在だってこと…」


「築茂」


「人間なんて嫌いだった!生きる意味も価値も
 分からぬまま、ずっと生きてきた!それなのに、
 お前は突然俺の前に現れて……俺の世界に
 色をつけた!音をつけた!!」


「築茂」


「大切なものをたくさん与えられた!かけがえのない
 仲間に出逢えた!どうでもよかったことが、
 愛おしく思えるようになった!俺を、俺自身を
 変えられた!!」


「築茂」


「分かれよっ!!全部全部、お前なしでは
 あり得なかったってことを……!お前は俺の
 すべてだということを!!」



今だけ、期待させる私を、許してね。





「築茂………ありがとう」






築茂の首に腕を回して、私よりずっと
大きい身体を、抱きしめた。



「くっ……ぅ……」



子供のように泣きじゃくる築茂の頭と
背中を、私の手で精一杯撫でる。


ごめんね。
ありがとう。


何度も何度も心の中で呟いて、私も
気付かれないように、静かに涙を流した。



「怖い思いさせて、ごめんね」



私を抱きしめ返す築茂の腕がさらに強くなり、
これでもかってくらい、締め付けられる。



「言ってくれて、ありがとう」



知らなかったから。


言われなければ、一生築茂の本当に気持ちを
知らなかったと思うから。



「出逢ってくれて、ありがとう」



本気で怒ってくれて、本気で泣いてくれて、
心を見せてくれて、ありがとう。



「私、強くなって帰ってくるから。だから……
 待っててほしい。必ず、話すから」



あと少しだけ、待ってて。







そして、時は過ぎ。




私が横浜へ飛ぶ時が来た。






東雲の空に、光が放ち始める。


冷たい風が温かみを取り戻し、木々は
静かに揺れ、小鳥たちはさえずり、
自然の静けさに車は走る。



それでは、おはようございます。




「じゃあ、そろそろだから」




空が黄金色に滲む朝焼け。


ただいまの時刻、朝の5時過ぎだというのに
もちろん、全員集合。


空港まで送るとうるさかったけれど、
そこまで着いてこられると行きづらく
なるから、と。


強引に押し切った。



私の乗る飛行機は朝7時半に出発する、
比較的早い便。


家から空港までは、タクシーを呼んである。




「着いたらきちんと連絡するように」

「もうそれ、7回ぐらい聞いたー」

「煌、しつこい男は嫌われるぞ」

「………」


わわ、煌が築茂を殺っちゃいそうな目で
睨んでるよ!


「寂しくなったらいつでも電話して
 こいよな!」

「いや、空雅にするくらいなら愛花にするし」

「悠ー……ひどぉい…」

「気持ち悪い声出すなバカ。鳥肌やべぇんだけど」


大和に激しく同意。


「でも悠、本当に気を付けてね。寒いらしいから
 風邪もひかないようにね?」

「ありがとう、日向。体調管理は任せといて!」

「悠……」


日向に微笑んでいると、玲央がのそっと動き
出し、私の手を握りながら、私の肩に頭を乗せた。



「げっ!レオレオ!」


あ、空雅のそれ、久しぶりに聞いた。


ため息を吐いてやれやれと首を振った煌と、
眉間にシワを寄せながらも何も言わない大和。


私は玲央の頭を優しく撫でて。



「玲央、ありがとう。待っててね」

「……ん。待ってる」

「じゃぁ、約束」



身体を離して、差し出した、小指。



一瞬きょとん、とした玲央だけど、すぐに
白くキレイな小指を私の小指絡めた。



さすがに歌までは歌わなかったけど。




「それじゃ、行ってきます」



“行ってきます”は、“行って帰ってきます”
という意味も含むから。


私は必ず、帰ってくる。



道路の先に見えた、1つのライト。


それが私の出発を意味するライトであり、
全ての始まりを意味するライト。



「行ってらっしゃい」



全員の温かいまなざしをしっかり心に
刻んで。




玲央と絡めていた小指を、離した。





第25音 ( No.237 )
日時: 2013/06/06 20:33
名前: 歌 (ID: SOGiHJ/a)




空に向かって高く聳えるいくつものビル。


キレイに並べられた住宅街。


チャリティーウォークなどの進路になる
港の見える丘公園。


急ぎ足で歩く人で作られた横断歩道。


肌を突き刺すような痛みの寒さ。



沖縄とは似ても似つかないその光景は、
あの時から何も変わっていない。


そりゃ、たった2年半で変わるものじゃない
かもしれないけど。


何となく、空気は。
変わったような気がした。



沖縄の空気が澄んでいるすぎるせいか、
以前ここで暮らしていた時は何も感じなかった
のに、今はちょっと息苦しい。


海の音も風で揺れる葉が擦れあう音も、
すべて激しい車の通る音と忙しく動く
人の足音になるのが、ここだ。


ここは、沖縄ではない。



羽田空港から電車で横浜駅まで行き、そこから
バスで予約していたホテルにチェックインした後。


旭区にある、大池公園にやってきた。


正式名称はこども自然公園とか言うらしいけど、
昔から柚夢とそう言い合ってきたから今さら
変える気にはならない。



時刻は午後に差し掛かろうとしている。


公園の中心になっている大池は、周りの木の葉が
すべて散って裸になっているせいか。


寒そうに、見える。



きっと朝方ならば、池の水面上は凍っていて、
氷の膜が張っているんだろう。




柚夢とよくこの公園に来ては、この池を
眺めながら柚夢とギターに合わせて
私が歌を歌っていた。


私たちが座っていたベンチは、もう
なくなっているけど。


優しく微笑む柚夢の横で、幸せそうに
口ずさむ幼い私の姿が、薄らと見えた。



もう、あの頃には戻れない。



沖縄に来てバンド関係の人によく聞かれて
いたのが、『ギターはやらないの』と
いうこと。


ギターはやらないんじゃなくて、出来なかった。


ギターに触れることも見ることも、私の
中ではそれはタブーで。


柚夢のギターじゃなければ私は、絶対に
歌えないから。



バイオリンを、選択したんだ。




あまりにもこの公園が懐かしすぎて、
気付けば日が暮れるまで、ぼーっとしていた。


空にはすでに月が出ている。


まだホテルに帰る気にもなれなくて、私は
静かにその場に座った。


寒さでかじかむ手に向かって、はーっと
息を吐いてみると、久しぶりに見る、白い息。


どこかで、息が白くなるのは空気が汚れて
いるからだと聞いた。


私は汚い空気を吸って、汚い空気を吐く。


それと同時に、この汚れた心の塊もふわふわ
夜空に吐き出すことができればいいのに。



そう思いながらもう1つ、白い息を吐いた。



すっかり暗くなった夜空には、昨夜遊び疲れた
月が円くなって眠っている。


あの背中を撫でてみたいなぁ……。



ふと池を見て見ると、眠っている月が
池の中で、起きていた。


夜空を見上げて本当の月を見たいけど、
祖空に輝いてる月を見たら柚夢と一緒に
見たことを思い出しそうで怖いから。


私はせめて、池に映る途切れ途切れの
嘘の月だけを。


今は1人、膝を抱えて眺めている。



行けに映る、途切れ途切れの月。



もしも。
柚夢と手を繋いでいれたなら。



水面に揺れる途切れ途切れの月は、
美しく見えたんだろうね。



12月の寒さより心が、寒い。


風にさらわれた心はまるで芯まで
冷え切っているようで。


月を眺める私は切なさで、泣きたくなる。


でも。
絵にならないから、泣かない。



これから少しずつ、春の風に溶けて
いけるだろうか。



冷たい心を抱いて、今日から私は
沖縄に帰れるようになるために、
歩かないといけない。



温かくなるまで。




次の日の朝。



私は、目的を果たすためへの第1歩を
踏み出すために、ある場所へと来た。



今日も私が生きて歩いている隣で、
同じ世界で同じ日本で生きていた誰かが
死んでいく。



ここに来るまでに、どれほど体力を
消耗しただろうというくらい、鼓動は
早く落ち着かない。



ここに来ると、未だに恐怖が抜けない。




隣に死が腰かけてきて、気持ち悪いほど
嗤っているんだ。


生きることは死ぬことだと誰かが行っていたけど、
あまりにもここに来ると、死が当たり前のように
そこにいて。


まるで、生き物みたい、だ。



会いたい人物に私の名前と面会を求めている
ことを伝えると。



すぐに時間を取ってくれると、看護師に言われた。



知らない顔だから私のことは知らないようで、
怪訝そうな表情で見られたけど。


無視をして、会いたい人物が待っている
部屋へと、入った。



「失礼します」



そう言って入った、診察室には。



「……まさか、君が私に会いに来てくれると
 思ってもみなかったよ」



当時は殺したいほど憎んだ、相手。



「お久しぶりです」



医師でありながら柚夢の病気を治すことを
諦め、多額の金だけを手に入れた、奴。







「二宮先生」







二宮高志(ニノミヤタカシ)。


当時、34歳だったから今はおそらく
36歳だろう。


はっきりとした目に細い眼鏡をかけていて、
その笑顔の裏には金と欲望で満ち溢れている
瞳をしている。



「本当に久しぶりですね。あの時も可愛かったけど
 とても綺麗になった……見惚れるくらいに」



ぐ、と握る手に力を込めて込み上げてくる
怒りを抑える。



「お聞きしたいことがあって、ここに来ました」



座って、と促されて二宮先生が座る
真正面のイスに腰を掛けてから、
早速本題に入った。



「まぁまぁ……そんな固くしないで、ちょっと
 世間話でもしませんか?今は沖縄に1人で
 住んでいると聞きましたが」

「そうです。そんなことはどうでもいいので、
 質問だけに答えていただけませんか」

「はっはっは!何をそんなに怖い顔をして
 いるんです?質問の内容次第では、教えることは
 できないけど、一応聞きましょう」



見下す様に私を捉える目は、あの時から
何も変わっていない。


柚夢を助けて、と何度訴えても絶対に
首を縦に振らなかった。


一瞬悲しそうに、苦しそうに顔を歪めて
同情したように私を見たけれど、そんなのは
ほんの一瞬で。


すべて、金のためだったんじゃないかと、
冷静に考えてから思うようになった。



あの時はただ柚夢を失うことの恐怖と、
それを阻止するために必死で大人の思惑と
いうものを知らなかったけど。



もう、騙されない。




「私の記憶を入れ替えたのは、あなたですか」




真っ直ぐ、眼鏡の奥にいる邪悪な瞳に
向かって静かに吐き出した言葉に。



その瞳が一瞬、怯んだように、見えた。





「……それは、どういうことでしょう?」


「恍けなくて大丈夫ですよ。自分の記憶が
 おかしいことはもう分かっています。
 今までしっかり私の中にあった記憶が
 現実のものでないことも」



無表情のまま、視線も逸らさずに私を
見つめ返すこの人は、やっぱり
一筋縄じゃ行かなさそうだ。



第25音 ( No.238 )
日時: 2013/06/07 20:39
名前: 歌 (ID: xDap4eTO)



本当は記憶が入れ替えられたなんて
証拠も確信も全くない。


ただ、カマをかけているだけ。


自分の記憶に自信がないだけで、本当に
この人が関係しているのかすら分からない。


だからこそ、この人を試してみれば
何かが分かると思ったんだ。



「……そうですか。今のあなたの記憶に
 違和感を感じられてしまったんですね。
 でも本当に記憶はまだ、思い出していない、
 ということですか」



やっぱり、この人は何かを知っている。



「あなたの今ある記憶が、どこからどこまでが
 本物でどこからおかしいのかは、まだ
 分かっていないようですが」

「……どうして」

「だって分かっていたら、その部分だけ
 聞けばすむことでしょう?記憶がおかしいと
 思っている時点だけで、他に確証はない」

「それなら話は早いです。あなたはどこから
 私の記憶をいじったんですか」



さらに奥深くへ、進む。



「いじった、ねぇ………。残念ながら、人の
 手で人の記憶を変えることなんて、できません」


「私が気を失っているときに催眠術か何かで
 そう思いこませるようにしたり、機械でなら
 どうにでもできるんじゃないですか?」



ふっ、と口角を上げて怪しげに細められた
眼鏡の奥の瞳を、力強く睨みつける。


こんなことくらいで、引き下がらない。



「あなたは本当に真っ直ぐな瞳をしてますね。
 あの時と同じだ。私を敵視し、絶対に
 怯まない。ムカつくほどにね」


「質問の答えになってません。話を
 逸らさないでください」



私に向かってゆっくりと伸びてきた手を
払いのけて、口調を強めると。


またこの人は、鼻だけで笑い飛ばした。



「残念ですが、あまりにも突然に来られたので
 私には時間がありません。患者さんもたくさん
 待っていることですからね。また次回、
 前もってお時間を作りますよ」



そう言ってこの人は、患者に向ける表向きの
愛想笑いを浮かべて。



「年末年始には休診になりますので、その時に
 ゆっくり話しましょうか」



席を、立ちあがった。




診察室を出てすぐに、重いため息を1つ。


ずっと頭がズキズキしていて、こめかみを
抑えていないと眉間にあるシワが取れなく
なりそうだ。



ふと、病院の中を見て見ると、点滴を打ちながら
一生懸命歩いている人、腕に包帯を巻いて
出口に向かっていく人、車椅子に乗って移動する人。


さまざまな患者さんが、いた。


この中に柚夢も患者の1人としていて、柚夢が
死ぬ前にも後にも私が知らなかっただけで、
死んでいた人は何人もいたんだろう。


病院側としては、この中の患者のうち1人が
死んだだけという感覚で、誰かが死んだ次の日も
すぐに仕事に取り掛かる。


昨日死んだ人間のことなどすでに頭になく、
誰かの悲しみに同情する暇もない。



命の重みだ何だ語っている医師という
職業の人間が、本当は一番、死ということを
軽く見ているんじゃないのかな。



誰かが死ぬということ。


それは、その誰かの大切な人、その誰かを
大切に思っていた人の人生の一部が壊れると
いうこと。


人によっては人生のすべてが壊れるかも
しれないということ。


最悪の場合は、その誰かを追って、命を
自ら落とす人も出るということ。



どうして私は、柚夢が死んだって言うのに、
あの時もまだ生きていれたんだろう。


死ぬ気力すら、無かったのかな。


今となっては当時のことがあまりにも突然で
ショックすぎて、覚えていない。



これも、記憶と関係しているのか分からないけど。



とりあえず、頭も痛いし眩暈もしてきたから
早くホテルに帰って休もう。



拳を握る右手の中で丸まった紙切れを
力強く潰して、外の空気に触れた。



肝心なことは何一つ教えてもらえず、苛立ちだけが
残っているけれど焦ったって何も変わらないんだから
今はじっと耐えるしかない。




空を、眺めた。



沖縄では決して使うことのないチェックの
マフラーを巻いて、ホットレモン買って、
冬の寒空の下。


6人と作った音楽を聴きながら。



こうしていると、やっぱりいつもどれだけ
6人という存在に支えられていたのか、
痛いほどに実感させられる。


必ず隣にはバカ言い合って笑って、たまに
ケンカしてたりした、6人との時間。


今はそれが、遠い出来事のように思えて
来てしまうんだから、不思議。



たまにはこんなのもいいかな、なんて。



1人で見上げた空なんて、いくつもあった
のに、6人と立っている場所が違うんだと
思うだけで。


今見上げている空は、寒くて寂しくて切なくて
美しくて感動して、澄んでいる。



そんなのもたまには、いいかもしれない。




マフラーとホットレモンと冬空と私。
たまに、いいかもしれない。




「……それにしても、寒い」




ホットレモンだって、すでに冷たく
なりかけているし。


やっぱり、久しぶりに感じた寒さに身体は
まだついて行かない。



でもやっぱり、寒いのが好きだなと思う。



もしここに6人がいたなら、もっと
好きになっていたと思うけれど。


6人と一緒にいる場所なら、どこでも
楽しいから別にいいんだけどね。



…………。




『……悠!?』

「あ、日向ーやっほー」

『やっほーって!悠、大丈夫なの?風邪とか
 ひいてない?ご飯は食べてる?』

「ぶはは!まだ2日目ですから全然!」

『それはそうだけど…でも、どうしたの?
 何かあった?』

「ううん、ただね。日向の柔らかい声が
 聞きたくなったから電話してみた」

『………そっか。ごめん今、すんげぇ
 嬉しくてやばいかも』



ふふふ。



やっぱり、思い切って電話してみて
よかったなぁ。


声を聞いただけで、ちょっと空いていた
穴が埋まっていく。


寂しさが、埋まっていく。






乾いた冬空の下で、私は白く太い息を
ふぅーっと、1つ、吐いた。



「うあぁ……寒っ!」

『そりゃそうだよね……。そっちは今、
 何度くらいあるの?』

「たぶん7度くらい?」

『はぁ!?想像できないんだけど!』


そりゃそうだ。

沖縄で1ケタになるなんて大昔のことで
今は絶対にあり得ないからね。


「いやぁ、寒いですよ」

『マジで風邪ひかないでよ?』

「それは大丈夫!バカは風邪ひかないし」

『バカは風邪ひいてることに気付かないから
 心配なんだよねぇ…』

「それ、私をバカって言ってる?
 めっちゃストレートに言ってるよね?」

『え、今さら?そんな日本の旗は日の丸、
 ってくらい常識のことだよね?』

「ふはははは。沖縄に雪が降るのを祈るよ」

『そしたら雪合戦しようねー』


どうでもいい、バカの会話。


誰だろうね、電話なんていうこんな便利で
素晴らしい機械を発明したのは。


全く、只今全力で感謝状を差し上げたい。



「ってか、明日だね、クリスマスイブ」

『そうそう。街はすっかりクリスマスモードで
 嫌になっちゃうよ』

「日向はイブとクリスマス、どうするの?」

『んー……たぶん、空雅抜きで大和たちと
 バカ騒ぎすると思う。この寒さの中、
 海にでも真っ裸で入るかとか言ってる。
 悠、止めてよ』

「うっわ!それ最高じゃん!やってやって!
 私もやりたかったなぁー」

『いやいや!悠がいたら真っ裸になれないし、
 悠の真っ裸なんてダメだから!危険だから!』

「だってそんな楽しいことすんでしょ?
 写真撮って送ってよっ」

『……やる前提ですか、すでに』

「当たり前ー!大和に言っとくねぇ。全員
 強制参加って。で、写メ撮りまくれって」

『あぁ、言わなきゃよかった……』


もうヤバい!楽しすぎる!


やっぱり立っている場所が違くても、見える
景色が違くても、私たちは同じ空の下で
生きているんだ。


身体の距離はできても、心の距離は全く
開いていない。



それが、何よりも嬉しかった。




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