コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
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- 第20音 ( No.190 )
- 日時: 2013/04/25 11:12
- 名前: 歌 (ID: /ReVjAdg)
音楽祭を見に来てくれるバンドの人や、
生徒会のメンバー、私と同じグループの人
からのメールすべてに返信を終えて。
静かな夜が佇むベランダに、出た。
夜空にくいこんだピアスのような三日月は、
きらきらと銀色に輝き、優美を物語っている。
「何してるんだ?悠」
「煌、すごくキレイな三日月をね。見てたの」
「本当だ。すごくキレイ」
「でしょ?きっと明日は、最高の日になるね」
「あぁ、当たり前だ。楽しもうな」
「うん!」
肩が触れるか触れないかの距離に立っている、煌は
一度私に優しく微笑んでから。
その大きな手を、私の頭の上にのせた。
「煌の手、って大きいし温かいよね」
「そうか?悠の髪の毛って触り心地がいいから
どうしても触りたくなるんだよな」
「そうかなぁ」
「そうだよ。とってもキレイな黒と艶が
ある髪だ」
「ふふ、ありがと」
頭に置いていた手が、するり、と私の
髪を掬いあげては流し、掬い上げては流しの
繰り返し。
それがとても、気持ちよかった。
「……悠」
「ん?」
「音楽祭が終わったら、2人でご飯でも食べに
行かない?落ち着いてからでいいから」
「全然いいに決まってるじゃん!そういえば、
煌と2人で出かけたのはコンビニとか
くらいだっけ?たまには2人もいいよね」
「そうだな。悠が食べれそうなところに
連れて行くから、考えておけよ」
「分かった!ありがとうね」
そう言って微笑めば、髪を掬いあげていた
指が、私の頬を優しく包んで。
意味ありげに、なぞられた。
背中を蹴り倒されて明日に押し出される。
朝日が爛々と笑って、眩しい金色の
光は何もかもを照らしだす。
朝が、きた。
「おはようございます。今日は音楽祭
当日です。リハーサル通り行かないことも
あるかもしれません。臨機応変に
楽しく、成功させましょう」
「はい!!」
生徒が登校してくる時間よりも早く、
生徒会、音楽祭実行委員は体育館で
最終調整をしていた。
まだ眠たそうな生徒は1人もいなくて、みんな
張り切ってくれている。
『じゃぁ、後で』
後から合流することになっている6人に
見送られて、清々しい朝。
最高の天気に、恵まれた。
「神崎」
「あ、樫村。どうしたの?」
「……いや、いよいよだな。ちょっといろいろと
緊張してきてさ」
「あはは、大丈夫だよ。ちょっとしたハプニングが
あったらあったで、それも楽しいじゃん。
自分がやってきたことを思う存分やればいいよ!」
「あぁ、ありがとう。……あの、さ」
「ん?」
体育館のステージから一番遠いところに立って、
全体を見ていると、隣に樫村が来て。
ちょっとぎこちない笑顔を、向けた。
少し頬が赤くなりながら歯切れの悪い
切り出し方に、何となく嫌な予感が。
「音楽祭終わったら……話が、あるんだ」
「うん。相談とかならいつでも大歓迎!」
「……まぁ、そんな感じ。時間、いつ
空いているか?」
「じゃぁ今日片づけも終わったら、どこでも
いいから話そうよ」
「分かった、ありがとな」
きっとこの予感は、100%的中する。
ぎこちなかった笑顔が嬉しそうなものに
変わったことが、何よりもの証拠。
一気にご機嫌になった樫村は、さらに
やる気が出たのが、Yシャツの袖をまくって
ステージの準備の手伝いに加わった。
そしていよいよ、開会式。
生徒たちは1年生を前に、クラスごとに1列に
並んで座っている。
その後ろに、予想以上の一般客が入ってきた。
日曜日ということもあってか、他校の制服を
来ている高校生や、若者の姿も多い。
体育館全体が、期待感の空気に包まれている。
全貌を見渡せる2階のロビーもぎっしり人で
賑わっていて、大型のカメラなどもある。
その様子を体育館裏の袖で確認して、無線で
司会者に合図を促した。
「それでは大変お待たせいたしました!ただいまから、
第13回、音楽祭を開催いたします」
ざわざわとしていた会場内は、一気に静まり、
拍手が沸き起こる。
口笛を上手に吹いてくれる人も、いた。
「まず最初にオープニングを飾ってくれるのは、
バンド部門から『チームCALL』でオリジナル曲です!」
ステージにかかっていたカーテンが一気に開き、
4人組のバンドが登場すると、観客はそれぞれの
やり方でエールを送る。
ドラムのスティックが鳴らされると、私が作って
あげた、オリジナル曲が響き始めた。
実際にバンド活動をしている奴らだったから、
オープニングを任せられたし、技術も
いい線行っているバンド。
一番、私の曲を欲しがっているバンドでもある。
ノリのいい曲で、低音から高音の難しい
メロディーをボーカルはキレイに歌い上げて。
見事に、音楽祭オープニングの役割を
しっかり果たしてくれた。
次々とバンドが入れ替わり、それぞれ個性豊かな
音楽と表現をしてくれたから、観客も飽きることはなく。
一緒に飛び跳ねたり、手を振ったりと、全員で
楽しんでいる感じがすでに出来上がってきた。
バンド部門のステージが終了し、ドラムやキーボードの
セッティングを崩すために幕が下ろされ、
10分間の休憩に入る。
その間に私は、6人と待ち合わせをしていた。
体育館裏のドアを出て、すぐ曲がったところにある、
ほとんど使われていない水道の前。
ドアからも死角になっているし、校舎に続く
道とは真逆のため、誰にも気づかれない。
周りの状況を把握しながら、すぐに向かうと。
「悠!お疲れ!」
「全員揃ってるぞ」
トーンを落としながら手を上げた煌と、
左手にたくさんのメモがぎっしり書かれている
紙を持った築茂。
「うわ、さすが築茂!審査も容赦ないねぇ」
「当たり前だ。公平に判断しなくてはいけないからな」
「でも思った以上にクオリティ高かったな。
かなりプレッシャーになってきたんだけど」
ちょっと引き気味の大和の瞳を見て、
目を細めた。
「私たちは私たちの音楽をすればいいだけだから
なんてことないよ!それより、目立ってない?
ちゃんとみんなバラバラに動いてるよね?」
1人1人目立つ容姿をしている彼らは、生徒と
して席に座っている空雅と日向以外、2人1組で
動いてもらっている。
4人でいれば、必ず目立つし、怪しまれるかも
しれないから。
「あぁ、大丈夫だよ。悠は疲れていない?
生徒会とか、すごく忙しそうに動いてるから
ビックリしちゃったよ」
「あはは!全然大丈夫!めっちゃ楽しんでるし!
このまま審査もお願いね」
「了解!」
気を遣ってくれた煌に、ニカッと満面の笑みを
返して、それぞれ戻るところに、戻った。
やばい、今最高に楽しい!!
- 第20音 ( No.191 )
- 日時: 2013/04/26 08:34
- 名前: 歌 (ID: .YMuudtY)
明らかににやけている顔を、慌てて引き締めて
ステージ袖に戻り、幕の内側で用意をしているのは、
ハンドベル部門の1つ目のチーム。
指揮者を中心に、円形に並び終えてちょっと
緊張した様子の生徒に、声をかけた。
安心させて楽しめるように、1人1人に気を配ることも
生徒会の役目だと思うから。
準備が整い、会場の観客が席に着いたことを
確認し、司会者に合図を出す。
「お待たせいたしました。続いてはハンドベル
部門の発表です」
司会者がチームの紹介をしている間に幕は引かれ、
ハンドベルを持った生徒が現れた。
指揮者がお辞儀をすると、静かに拍手が
沸き起こり、指揮者の手が振られると。
きらきらとした音楽が、降ってきた。
美しい音色に美しい音楽に、何か
美しい心情が見える。
音色のなかに心がからめとられて、綺麗で
素直な心が一つとなって。
涙している人も、いた。
合計3つのグループの発表が終わり、もう一度
幕が下ろされ、時間が少し押しているため、
急いで三線部門のセッティングをする。
三線は座って弾くのが基本だし、歌を歌う
人のところにはマイクも用意しなくては
いけないため、全員で素早く準備。
みんなの協力のおかげで予定通り、三線部門の
発表を始めることができた。
沖縄らしい衣装に着替え、名曲をたくさん
披露してくれる。
『イーヤーサーサー』や『ハーイーヤ』など
ところどころの掛け声ではさすが沖縄人、
全員が叫んでくれた。
手拍子はもちろん、カチャーシーが流れれば
全員が立ち上がり手を舞い、踊る。
カチャーシーというのは沖縄でお祝いごとや
楽しいことがあったときに踊る音楽。
男の人は手をグー、女の人は手を伸ばして
頭の上で舞い、ひたすら動くというもの。
これがとても、楽しすぎるんだ。
三線部門の発表もすべて終え、最後に残ったのは
ゴスペル部門。
ゴスペルとカッコよく名前をつけたけど、
いわゆる四部合唱になる。
ステージ上にはひな壇が素早く組み立てられ、
生徒たちはパートごとに決められた
場所に立てば、準備は万端。
「それでは最後の部門の発表になります!
ゴスペル部門からまずは『チームA』で
『WINDING ROAD』です!」
あの有名な、曲。
前奏なしですぐに体育館中には力強くも
優しい、たくさんの声が重なった歌声が、
飛んで行く。
女子の綺麗な高音、男子のしっかりした低音、
どれをとってもすごく練習を重ねてきたのが
よく分かる。
ただ、歌うだけじゃなく、手拍子をしたり
身体を揺らしたり、それでも瞳はまっすぐ
指揮者に向けられていて。
こんなに大人数で歌っているとは思えないほど、
心が1つにまとまっていた。
「神崎が指導者なだけあったな。やっぱり
すげぇや」
と、舞台袖から聞いていた樫村が隣で
小さくつぶやいた。
そう、生徒会はそれぞれ部門に役割をふって、
練習などをまとめてきた。
私はゴスペルの担当でもあり、指導者でも
あったから、素直にとても嬉しい。
そしてあっという間に、すべてのチームの
発表が終了してしまった。
「全てのチームの発表が終わりましたが、
まだ音楽祭は終わりません。もうしばらく、
席に座ったままお待ちください」
司会者のマイクを通した声に、会場が
少しざわめき始める。
「じゃぁ私はあの人たちを呼んで来るから
ひな壇を綺麗に片付けて、ドラムとピアノの
セッティングお願い!」
そう生徒会役員に言い残し、すぐに
休憩中に集まった場所へと向かった。
そこにはすでに、仮面や覆面を被って
楽器も容姿し終えた6人の姿が。
「お待たせ!さぁいよいよだぁー」
「やっべー……めっちゃ緊張してきたんですけど」
「あはっ大和らしくないなぁ。いつもの
俺様で堂々としてればいいんだよ!」
「はぁ!?俺のどこが俺様なんだよ?」
「え、何々、もしかして無自覚だったの?」
緊張している大和に日向が当たり前のように
口にした『俺様』に大袈裟に反応する。
私がきょとん、として見せると、全員が
笑って少しは緊張がほぐれたみたいだ。
「今セッティングしてるからその間に、自分の
中で優勝チームだと思うところを教えて!」
1人1人答えてもらったら、全員一致となった。
耳にしていた無線で呼ばれたことに返事をして、
無線を外し、私用の黒い覆面をかぶる。
そして制服の上から真っ黒の羽織を着れば、
すぐに脱げるし気付かれることもない。
……かなり怪しい雰囲気が出ちゃうけど。
ステージ袖に繋がっているドアから入ると、
マイクを持った大高と愛花、生徒会役員が
何名かいた。
実は、覆面をしてるし声を聞かれたら私と煌、
日向と空雅はバレる可能性もある。
残りの大和か築茂にトークは危ない気がして、
私たちのことを知っている2人に通訳として
事前に打ち合わせをしていたセリフを
マイクで言ってもらうことにした。
「は、初めまして!今日はよろしくお願いします!」
私たちを一番に推薦してくれた逢坂君が
感極まった様子で駆け寄り、頭を下げる。
私たちは声には出さず、頭を下げた。
「あれ、神崎は?」
その後ろで一緒にいるはずの私がいないことに
気が付いた樫村が首を傾げる。
「あ、悠は2階のロビーで動画撮るために行ったよ!
後ろで聞きたいんだって」
「そっか。よろしくお願いします」
もともと聞かれると予想していたことだから、
愛花は上手く答えてくれた。
樫村を含めて誰も疑う様子もなかったから、
ほっと一安心。
「ドラムとピアノのセッティング、終わりました!
もう大丈夫です」
ステージで準備をしてくれていた生徒の声に、
私たちはそれぞれ頷いて。
幕が下ろされたままのステージに、立った。
愛花が司会者に合図を送り、会場内はしん、と
静まり返ったことに、見なくても全員の視線が
ステージにあることが分かる。
もう一度全員とアイコンタクトを取り、
エレキバイオリンをしっかり握りなおした。
「大変お待たせいたしました!これで音楽祭最後の
スペシャルライブです!登場していただくのは
………この方たちです!!」
甲高い声が響くと同時に、ステージの幕が
一気に引き上げられる。
パイプイスは生徒、一般人のも含めて約500席は
用意していたけど、全く足りていなかったらしい。
通り道として空いている隙間にぎっしり人、
ドアにも座り込んでいる人、さらには2階まで
人で埋まっていた。
たくさんの人の視線が注がれる中、私たちの
ことを知っている人がどのくらいいるのか、
表情だけを見て見ると。
『え、え?あれって……』
『うっそ!?沖縄の人だったの?』
『でももしかしたら内地からわざわざ来て
くれたのかもよ!?すご!』
『今日も覆面かぶってんの?顔、見せて
くんねーのかな?』
と、生徒や若者はざわつき始めた。
保護者の方や年配の方も何やらひそひそと
話している。
思った以上に、会場の興奮が伝わってきた。
「ご紹介しましょう!こちらは動画サイトで
100万以上の再生回数を誇るミュージシャンの
方々です。それぞれの楽器を持ち合わせて
オリジナルでアレンジし、その発想、技術、
ともに素晴らしい音楽を披露してくださいます」
私たちはお辞儀をしたり、手を振ったり、
カメラを向けてくれる人にピースをして見せる。
司会者が曲の説明と覆面をしている理由……って
言っても適当に考えた理由を話している間に、
ちょっとした音だしで最終確認。
エレキバイオリンはコードが繋がっているから、
少しでも回線が悪いと雑音が入ってしまう。
それも念入りにチェックし、司会者の
「よろしくお願いします!」を合図に。
空雅のドラムスティックが、響いた。
- 第20音 ( No.192 )
- 日時: 2013/04/26 22:55
- 名前: 歌 (ID: LU1dyaTr)
最初に観客の心を震わせたのは、玲央が奏でる
コントラバスの重低音。
そこに築茂のバイオリンが入った後、私と煌の
エレキバイオリンが音を乗せる。
弦楽器ならではの美しい和音を響かせた後。
空雅のドラム、大和と日向のサックスが
一気にテンションを上げる。
いつだったか、初めてカノンロックをした
時のことを思いだすと、まさかこんなふうに
大勢の前で演奏している今が、信じられない。
でもこれが現実で、私たちの音楽が
たくさんの人の心に響いている。
つい、1か月前のことなんて、なかったかの
ように私たちの音楽は心で出来上がっていた。
……いや、1か月前のことがあったからこそ、
さらにいい音楽を作ってこられたんだ。
あの時は、もうこんなふうに7人で演奏できない
ことも覚悟していたはずだけど。
今、こうしてステージに立つと、やっぱり
彼らとの音楽が何よりも楽しい。
すると、どこからだろう。
嬉しい以外に込み上げてくるものがぎゅっと
気持ちに詰まってて、本当に笑顔になれる。
会場を見回せば、誰もが笑顔、感動の表情で。
こんなにも自分が楽しいのは、私たちらしさの
音楽を出せて、聞いてくれている人たちを
笑顔にできるからなんだ。
呼吸とリズムを愛に合わせて、足で軽く
ステップを踏んで、盛り上がるところで
飛び跳ねて。
確かな幸せを、掴んだ。
私の生き方も感じた想いも、私のリズムで
奏でてやるの。
そしてそれは、彼らのリズムでもあって、
零れた大好きもすべて繋げて、1つになるんだ。
今心から出てくる言葉、今私の音楽に関わっている
全ての人に伝えたい言葉は、ただ1つ。
ありがとう。
カノンロックを弾き終える前の、大歓声と大拍手。
胸がじわじわと何かに包まれて、6人に視線を
向けてみると、顔は見えなくも同じものを
感じていることが手に取るように分かる。
深く一礼をし、愛花と大高のセリフに合わせて
大袈裟に手を上げたり頷いたり、動く。
そして今、人気のアイドルグループの曲を
アレンジしたものに移るために。
私と空雅は用意を始めた。
きちんとリハーサル通りに進められ、私は
ピアノの鍵盤に指を添える。
一度目を閉じて深呼吸をしてから、全員に
頷いて一斉に音を奏でた。
何の曲だか、聞いてすぐにわかるため、観客も
嬉しそうに、楽しそうに聞いている。
ところどころ手拍子をしたり口笛を吹いて
盛り上げてくれる人もいて、さらに
強く激しく、それでもどこか冷静に指を回した。
今は簡単に弾きこなしていても、この音に
満足するために私たちは。
たった1つの和音、たった1つのリズムに
何十時間、何日とかけてようやく納得する
音を作り上げてきた。
お互いを信頼しているからこそ、任せられる
音があり、お互いの音が好きだからこそ、
自分の音を奏でられる。
信じることに、好きなものに、理由は
いらないんだから。
私たちから生まれた音には、自分たちの命
よりも、ずっとずっと長く生きてほしい。
今、聞いてくれている人の心の中で。
私たちが消えてなくなった後も、私たちが
ここで演奏したことを、ここにいた意味を、
私たちの意志を、この世界に残したい。
私たちの言葉を話すかのように。
そんな1音を、たった1つの音を鳴らそうって
みんなで決めたんだ。
そしていよいよ、クライマックス。
「ついに最後の曲となってしまいました。
最後にお届けするのはオリジナル曲で、
アカペラをします」
愛花の放送をしている間に、ピアノとドラムは
そのままで、ほかの楽器は片付ける。
「この曲に込められた想いは、とても特別です。
どうかたった1つの言葉も聞き落とさずに
歌詞の意味を感じてみてください。私たちを
強くした、この曲をお届けします」
大高のセリフに、思わずぎゅ、と手を握る。
今目の前にいる人に伝えたいのはもちろん、
出来ることなら、空の彼方にいる柚夢に
一番に届けたい。
私は、生きているよってことを。
何色に色をつけたらいいか分からない、
心を塗りつぶしたあの日から、この世界は
モノクロームだと思っていた。
希望のスカイブルーに憧れながらも、
心は涙色に染まっていて。
だけど今は、6人と出会って、変われた。
自分次第でどんな色にも好きなように
染まれるということ、知った。
お願い、柚夢、届いて。
瞳にかかる涙のフィルター外して、
この声にのせて言葉を飛ばそう。
『大丈夫』
私を見つめる彼らの雰囲気が、そんなふうに
言っているようで、見えなくても伝わる、
最高の笑顔で頷いた。
全員で丸くなって並び、深呼吸を1つ。
心も声も準備万端なことを確認し終えてから、
煌の革製の靴が、ステージを震わせた。
涙の数よりずっと
苦しさの数よりずっと
私は笑ってる
私は歌ってる
生きていくことの辛さを
何度経験し続けていても
苦しさになんて慣れない
そんなときはいつも思う
道端に咲いた花だって
私たちが知らないだけで
意味があるんだって
私たちが気付いてないことは
この世界にまだまだあるってね
1つや2つなんて
全然数のうちじゃなくて
数百や数千になって
初めて結果がでるものでしょ?
生まれて死んでいくまで
何度だって何千度だって
立ち上がればいい
そして最後に幸せの数が
一等だったら
何も言うことないでしょ?
涙の数よりずっと……
………覆面を被ってて、よかった。
覆面の中で流している私の涙に、誰にも
気付かれることはない。
声が震えていたことに、少し焦りもしたけれど、
練習通りに、それ以上にいい歌を歌えたと。
歌い終わった時の観客の表情を見て、感じた。
大歓声に大拍手、そしてちらほらと
スタンディングオベーションをする人が
出ればいつの間にか。
席に座って拍手をしている人は、誰一人として
見当たらない。
その光景がさらに、頬を濡らした。
涙が甘くなくて、よかったと。
心から、思う。
だって甘かったら、ほしくもなくなって
感動の涙もうれし涙も流せなかったと思うから。
泣き虫の人なら逆で、甘かった欲しくて
欲しくてたまらなかったと思うけど。
私は甘いものがダメだから、涙の味が
しょっぱくてよかった。
もう、涙の流し方を忘れることはない。
ううん、涙の流し方なんてそんなマニュアルは
もともと存在しなくて。
心が泣きたいときに、泣ければそれでいいんだ。
愛を、見つけました。
歌で、見つけました。
世界に、笑顔を。
あなたには、ありったけの愛を。
毎日、音符をつけよう。
365日という、歌のために。
- 第20音 ( No.193 )
- 日時: 2013/04/28 08:16
- 名前: 歌 (ID: KqRHiSU0)
って、そんな呑気なことを言っている
場合ではないのです。
私たちは深く深く一礼をし、すぐにステージ
袖に戻り、生徒会役員にも頭を下げてから。
さっきと同じように水道の前で誰もいないことを
確かめてから、覆面と羽織を脱いだ。
「あー!やばいっめっちゃ楽しかった!!」
やっと素肌を空気に触れられた解放感から、
思わず叫んだ。
「もう、最高すぎたわ!!」
「まさかスタンディングオベーションして
もらえるなんて思わなかったよな!」
「本当だよねー!ビックリしたんだけど」
空雅の眩しい笑顔に、いつも無愛想な大和が
興奮を隠しきれていない。
大人びた煌ですら、驚愕の表情だ。
「悠、こんな素晴らしい音楽祭を作ってくれて
本当にありがとう」
「さすが、というかやはりお前はすごいな」
「……うん、悠…大好き」
「玲央、最後のいらないと思うよ」
日向がふわり、といつも以上に穏やかな笑みを
綻ばせて、築茂はふっと目を細める。
玲央が大胆な告白をすれば、日向の
鋭いツッコミが入った。
「あははっ!私もみーんなが大好きだから!!
本当にいつもいつもありがとう。最高の
音楽を一緒に奏でてくれて、本当にありがとう」
そういえば、私。
みんなにいつもどれくらい感謝の気持ちとか、
大好きだよってことを伝えていたっけ。
ありがとう、は何度か言っているけど
大好きは初めて言ったような気が……する。
いや、初めてです、多分。
うわ、何かそう思っただけで一気に気まずい
雰囲気になってしまった。
みんな視線を泳がせたり顔を赤くしたり、
かなり戸惑いを隠せていない。
「あ!私、絶対に探されているから行くね!
結果発表をしないといけないから!また後で!」
そう言って、逃げるようにしてその場を
立ち去った。
慌ててステージ袖に駆け込めば、樫村や
逢坂君が思いっきり私を指さして。
「いた!!」
叫んだ。
「はい、すいません。結果発表だよね?
すぐに行けるよ!」
「もうみんなそわそわして待っているぞ!
今までどこにいたんだ?」
「いやぁ、ちょっとお腹が痛くなってトイレに
駆け込んでた!女の子の日なもので……」
「あ、あぁ!それは仕方ないですね!」
樫村に問い詰められそうになるのを、
男に言い訳して100%クリアできる理由を述べれば、
逢坂君は顔を真っ赤にして頷いた。
それ以上は聞いてこないし、誰にも特に
怪しまれている様子がないことを確認して。
司会者の言葉を、待った。
「それでは大変お待たせいたしました。音楽祭で
発表をした全13チームの中から、いよいよ
優勝チームが決まります!!」
そして私は、緊張した空気が流れる会場の
ステージに1人、立った。
「みなさん、音楽祭お疲れ様でした。どのチームも
どれだけ練習してきたんだろうと思わせる、
素晴らしい演奏でした」
手には紙も何も持たずに、会場全体を
ぐるっと見回す。
手を握り締めて祈る人、私を真っ直ぐ見つめる人、
胸を抑えてその時を待っている人。
私はふ、と微笑んで。
「この中からたった1つのチームに優勝を
絞ることは大変難しかったと、審査を
してくださった方からお聞きしました。
それでも、優勝を手に入れるためにどの
チームも頑張ってきた。その努力を
無駄にするわけには行きません」
今までの練習を頑張ってきた生徒の姿を
思い出しながら、深呼吸を、した。
「発表します。優勝チームは……………
ゴスペル部門チームで『WINDING ROAD』を
発表してくれた、『チームA』です!!」
その瞬間、ゴスペル部門のチームAの生徒たちは、
一斉に席を立ち、歓声を上げる。
悲鳴にも似た黄色い声が体育館中に響き、
泣きながら抱き合う生徒、大きくガッツポーズを
する生徒のいる中。
優勝できなかったチームの生徒の中には、
涙を流し、悔しさを滲ませている生徒も多い。
きっとその涙が、これからその人たちにとって
大切な想い出になっていくんだろう。
「ゴスペル部門『チームA』のみなさん、
おめでとうございます。優勝したみなさんには、
1泊2日の京都旅行をプレゼントします」
そう、この優勝賞品は、とても豪華なもの
だったせいもあり、生徒たちは頑張っていたのだ。
それから表彰式と校長先生の話に、今回の
優勝賞品を決定してくれたPTA会長の話が
終われば。
一般客は感動、満足、そんな表情を崩さないまま
学校を出始め、生徒たちは体育館の片づけを始めた。
私たち生徒会も片付けの指示をマイクで出しながら、
なるべく早く帰宅できるように、要領よく動く。
全員で協力してもらえたこともあり、1時間ほどで
すべての片づけが終了。
「お疲れ様でした!本当にみんなよく頑張ってくれて
とてもいい音楽祭が開催できたこと、心から
感謝しています。今日はゆっくり休んでください」
生徒会、音楽祭実行委員、放送部員を含む
手伝ってくれた委員会の部長を集め、
最後の挨拶をして、解散となった。
片づけをしている間にも、隅やあまり人の目に
つかないところで2人1組でいた彼らの姿を
見ていたから、待っているだろうな。
あまり待たせると悪いから、樫村の話が終わったら
とっとと帰らないと。
「樫村、どこで話す?」
「あ……えーと…非常階段の下とかは?」
「うん、分かった」
だいぶ人が引いたことを確認してから、私たちは
バラバラに非常階段の下に向かった。
遠くで笑い声や、打ち上げの話で盛り上がる
声が耳につく。
生徒1人1人の心に残る音楽祭をできて、
本当によかった。
私の役目もきちんと果たせたし、何よりもあんなに
感動してもらえるとは思わなかったから。
「……神崎?話してもいいか?」
「あ、うん!何?」
今日のことを振り返って余韻に浸りそうに
なっていたところに、樫村の声で慌てて
笑顔を見せた。
樫村はちょっと目を泳がせて、頬もほんのり
上気している。
もう、この雰囲気は、間違いない。
「たぶん、気付いていると思うけど………
俺、神崎が好きだ」
告白。
緊張した色を見せるその瞳を逸らさずに、
私は表情も変えなかった。
一度目を伏せて、息をゆっくり、吐いてから。
「ありがとう。でもごめんね。いつか出逢う
大切な人と幸せになってください」
笑顔で、答えた。
- 第20音 ( No.196 )
- 日時: 2013/04/29 10:23
- 名前: 歌 (ID: 9/mZECQN)
悲しそうな瞳を一瞬した樫村だけど、すぐに
スッキリしたような表情になり。
「ありがとう。伝えられてよかった。
これからも友達として、生徒会仲間として
………よろしく、できるか?」
「もちろん!これからもよろしく!」
微笑んで手を差し出した樫村の手を、
私もしっかり握りなおして、しばらく
見つめ合っていた。
ら。
「はーい!そこまでー!!」
と、突然横から見覚えのありすぎる腕が
伸びてきて、私と樫村の手を引き離した。
この手は、私と同じピアノとバイオリンを
奏でる、私にとって大切な、煌の手。
「悪いけど、こいつは返してもらうから!
ちょっと急いでるんで。んじゃ」
「え、ちょ!?」
その手は一瞬にして私の腕を掴み、
さらうようにして強く引っ張り、私の足を
無理やり動かせた。
「煌!?ちょっと、どうしたの?」
「悠……ヤバいことになったぞ!!!」
「え、何が?」
「いいから黙って着いてこい!!」
うわ、煌が大和みたいなこと言ってる……何、
そんなヤバいことが起きたの?
まさか……私たちの顔が見られてたとか?
まぁ別に見られたらそれはそれでいいし、
ただめんどくさいことになるだけだから
そこまでヤバいことではないと、思う。
しかも煌の握る手が、じわりと熱いから、
何かとても緊張しているのが伝わる。
聞いても答えてくれなさそうだから、大人しく
腕を引っ張られていると。
煌の車に大和と玲央のバイクが止まっている
裏の校門の駐車場に、6つの人。
………ん?
6つ、っておかしくないか?
私と煌はここにいるんだから、あそこに
いるのは5人だけのはずだ。
じゃぁ、残る後1つは、誰?
一瞬、大高かなとも考えたけど、近付くに
連れて全く違うことが分かった。
他の5人は私服だけど、1人だけきっちり
スーツを着ていて、雰囲気では
とても年配のように見える。
「悠!!やっと来た!」
いち早く私と煌に気付いた空雅が声をあげれば、
全員の視線が私に集中する。
そして私は、スーツを着た男性と、目が合った。
顎には白いひげ、ちょっと出ているお腹、
目元にいくつかのしわ、楽しそうに面白そうに
私の瞳を見つめる。
どこかの、お偉いさんとか、でしょうか?
「初めまして、神崎悠さん。ずっと君に
会いたかったよ。私は風峰暁と申します」
「……初めまして?えーと、神崎悠です」
風峰暁(カザミネサトル)と名乗った男性は、
気品がありながらも爽やかな笑みを浮かべて
手を差し出してきた。
私は意味が分からずもその手を取り、一応
挨拶をする。
ちら、と5人のほうを見ると、とても
緊張と驚きと戸惑いの表情が見てとれる。
「実はこの人が……前回の音楽祭まで審査をして
くれていた音楽家の風峰先生なんだよ」
そう、説明してくれたのは日向。
そういえば、この人が今回は海外に出張で行って
しまうから合唱ではなくなったんじゃ?
ならばどうして、ここにいるんだ?
「実はね、今回の音楽祭は今までとは違った
形になったと校長から聞いてとても興味が
湧いたんだ。何とか昨日から明日まで時間を
作ることができ、ひっそり会場で見ていたんだよ」
顎鬚を触りながら、とても嬉しそうに笑う
風峰さんを見ていると、こっちもつられて
笑顔になりそう。
「いやぁー……驚いたよ。まさかあんな素晴らしい
音楽をたくさん聞けるなんて思っていなかった。
最後の君たちの音楽、肝っ玉抜かれたよ」
き、肝っ玉って……風峰さんの第一印象とは
似ても似つかない表現を使ってるよ。
って、どうして私たちが最後に演奏したことを
知っているんだろう。
そんな私の想いを察知してくれたのか、煌が
口を開いた。
「俺たちが着替えをしているところや集まっている
ところが、丁度風峰さんがひっそりと見ていたところに
近かったらしい」
「そうなんだよ。まさか君があの神崎悠さんだとは
思わなかったけど、本当に会えて嬉しいよ。
ずっと会いたかったんだ」
出た、このパターン。
「君の音楽の才能は校長を含むたくさんの方から
聞いていたんだ。だから一度は君の音楽を
聞きたいと思っていたからね。本当によかった」
「ありがとう、ございます」
まぁ、ありがちなパターンだということは
もうどうでもいいとして、私が今一番
気になるのは。
どうして、6人が、緊張しているのか。
緊張だけではなく、難しい顔をしているようにも
見えるし、落ち着かない表情にも見える。
「で、本題は何でしょうか?彼らには
言ったんですよね?」
「あぁ、すっかりその話を忘れてたよ。そうそう、
さっきの君たちのライブを聞いて、ピンと
来たんだけどね」
風峰さんは、何一つ、表情を変えずに。
「コンサートに、出てみないか?」
………えーと、コンサートって言うと、
私たちが今までやってきた小規模の
コンサートということ?
「明後日には私はフランスに行く。ある
コンサートの準備をするためだ。その
コンサートは1か月後。席数は2000ある。
そのコンサートに君たちをぜひ出したい」
では、ないみたいです。
フランスに席数は2000ということは、
かなり大規模ということですよね?
「フランスに行くお金はもちろん私が援助するし、
君たちには何も負担はかけないよ。どうしても
あの音楽をもっとたくさんの人に聞いてほしいんだ」
いやいや、だったらまずは日本から攻めるのが
普通だと思うんですけど。
いきなりフランス、って。
「それぞれの学校には休学届を出しておけばいい。
私の力でその穴くらいは埋められるはずだ。
どうだろう、明後日、一緒にフランスに行かないか?」
「え、えーと……でも風峰さんが気に入って
下さっても、そのコンサートの関係者さんたちが
みんな許可をしてくれるとは…思えません」
「そんなことはどうでもいい!私が主催者であり、
私が最高責任者なんだから、私の決定事項には
誰も背けないんだよ」
「そ、それにしても突然すぎないですか?だって
コンサートは一か月後ってことは、私たち、
フランスに1か月滞在するってことですよね?」
うん、そうだよ。
絶対無理に決まってるでしょう。
どこに宿泊するのかとか、移動手段とか、
どう考えても突然すぎて何もできやしない。
「当たり前じゃないか。ホテルも車もすべて
用意するし、私には簡単にできることなんだ。
だから安心して、フランスに来なさい」
……ダメだ、常識が通用しない人か。
いや、かなりのお金持ちと言うことはよく
分かったし、本気なのも分かった。
それに、めちゃくちゃ音楽を愛している瞳を
している。
こういう瞳に、私は弱い。
「………私は、行きたいです」
そう、はっきり述べた後にそれまで黙っていた
彼らに視線を向けると。
煌は私がそういうことが分かっていたかのように
頷き、空雅はまだ頭の整理がつかないのか、
視線をきょろきょろとしている。
玲央はちょっと不安そうな顔、日向は
優しく微笑んでくれて。
大和は口角を上げて自信たっぷりの表情、
そして築茂は、愉しそうな瞳を眼鏡の奥で
光らせた。
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