コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56
- 第29音 ( No.264 )
- 日時: 2013/07/08 08:37
- 名前: 歌 (ID: lerfPl9x)
真っ白な、世界。
もう、誰もいなくなっちゃった。
白い世界で白いコートを着た私は、
見えなくなりそうな道で泣きそうに
なりながら、ぎゅっとコートの裾を
握り締めた。
お家に帰ったら、温かいスープを
作って飲むんだ。
温かい飲み物を飲むんだ。
温かい食べ物を食べるんだ。
涙を拭きながら、歩いた。
明日はきっと温かいものに出会えるかも
しれないよ。
なんて。
希望を抱きながら、歩いて家に
帰ったんだ。
とりあえず、温かくなりたいと思うんだ。
開けようとしても重たくて持ち上がらない
瞼のせいで、また朦朧とした意識の中に
吸い込まれそうになる。
薄らと開く瞼の隙間から入ってくる光が
眩しすぎて、もう一度瞼を閉じる。
それでもまた寂しい夢を見るのは嫌だから、
ゆっくりと瞼を開いた。
見えるのは、見覚えのない高く高貴な天井。
やっと覚醒してきた頭でこの状況になった
原因を考える。
右腕に圧迫感を感じて視線だけを向けると、
点滴が打たれていた。
身体はベッドに深く沈んでいて、起き上がろうと
しても重くて全く動けない。
頭の痛みが、尋常ではなかった。
「…ここ、どこ……」
視線だけでぐるっと見回してみるけど、病院で
ないことは確かだ。
でも何で点滴があるんだろう……。
考えたくても痛む頭のせいでまともに思考が
働いてくれない。
あぁ、ついに私も本物のバカになるのかな。
そんなことを考えながら唯一動く視線だけで
部屋の中を見て、初めて気付いた。
窓が、1つもない。
全体的に白と淡いブルーの壁で統一されていて、
家具だって1つもなく、私の家より殺風景。
私、本当にこんなところで何やってんだろ。
確か……横浜にいて、違う。
その後………そうだ、フランスに!!
「っ……た……」
はっとして起こそうとした頭に、鋭い痛みが
走り、すぐにまたベッドに倒れた。
そうだ、私……柚夢に逢いに来て、柚夢を
見つけて走り出した瞬間。
目の前が、真っ白になったんだっけ。
あぁ……車に撥ねられて柚夢が強く抱きしめながら
必死に私を呼ぶ声が聞こえてたなぁ。
じゃぁきっと、私は柚夢に助けられたんだ。
「死んで、ない……」
よかった。
死ぬかって本気で思ったけど、そりゃぁ死ぬ前に
あんなこと考えられる余裕があったんだから
生きてるわけだ。
私はまだまだやりたいとだってたくさんあるし、
やらなければいけないこともあるんだから
こんなことで死んでたまるもんか。
でも……目覚めたときに、てっきり柚夢が
いてくれるものだと思ってたから。
ちょっと、泣きたくなる。
こんな状態で、会いたかった柚夢に伝えたい
ことがあったのに、こんなことになって。
誰も、いない。
……6人がこのことを知ったら、どう
思うのかな。
これでもかってくらい怒るのかな。
心配、してくれてるのかな。
って、6人が知ってるかどうかも分からないし、
その前に今日は何月何日で何時なのかすら
全く分からない。
でも……今一番会いたいのは、やっぱり
6人なんだな、私。
絶対に帰るって言ったのに、柚夢に伝えたら
帰れるように頑張ろうって思ったのに。
あぁダメだ、後悔しか出てこない。
いやいや、後悔とか絶対にしない私なんだから
考えないようにしよっと。
とりあえずこの痛み、何とかならないの?
「はぁー……」
今自分に起こっている現実に嫌気がさして
重いため息を吐くと。
ガチャ、と扉の開く音が聞こえた。
ビックリして、反射的に目を瞑って次第に
近付いてくる足音に耳をすまして、
寝たふりを決め込んだ。
足音がすぐ隣で止まり、人の気配がする。
そっ、と頬に人の温もりを感じて、その時に
ふわっと香った匂いで。
柚夢だと、分かった。
今、目を覚ませば、この状況やいろいろ
聞きたいことが聞けるかもしれない。
だけどどうしてか、目を開けることができなかった。
「悠………」
切なげに私の名前を呼んだ柚夢の声に、
どくん、と胸が高鳴る。
ギシ、とベッドの軋む音がして、さらに
柚夢との距離が近くなったような気がした。
ふ、と肌で柚夢の顔がすぐそばにあるんだと
思った瞬間。
唇に柔らかいものが、触れた。
「…っ……」
あまりにも突然のことに私は思わず大きく
目を見開いてしまった。
ゆっくり顔を離した柚夢の瞼が、開く。
見つめ合って数秒、金髪でコバルトブルーの
瞳、透き通った肌。
でもやっぱり、柚夢の面影がしっかりとある。
「……悠…?」
「……うん、おはよ」
「っ……」
私はそっと微笑んで目を細めると、柚夢の
キレイな目には一気に涙が溢れてきた。
「悠っっ!!!」
強く抱きしめられた、身体。
その腕が、その匂いが、その温もりが……
紛れもない柚夢で。
喉がきゅーっと苦しくなり、1粒の涙が
頬をつたった。
あぁ……温かい。
私は今、あんなにも求めた柚夢の腕の中に
いるんだね。
夢みたいで、苦しいよ。
………うん、本当に苦しいっていうか
めちゃくちゃ痛い。
いや、今感動の場面だし泣きじゃくれば
いいシーンなんだろうけど、ちょっと
痛みのほうで涙が出そうになってます。
「…悠……やっと、抱きしめられた…」
「うん。でも柚夢、ごめん……痛いです」
「あっ!?ご、ごめん!!傷が…だ、大丈夫!?」
「あはは、いてててて……」
柚夢はぱっと私の身体を離して、青ざめた
表情であわあわとしている。
そういえば昔から柚夢はすっごく心配性で、
ちょっとでも私に何かあると青ざめて
あたふたしてたっけ。
こういうところも、変わっていなくて
ほっとした。
「でも本当によかった……起きなかったら
どうしようって、毎日不安だった…」
毎日?
え、私どんだけ寝てたの?」
「ねぇ柚夢……今って何月何日何時何分?」
「1月7日13時36分だよ。1週間、寝てたんだ」
「1週間!?冗談でしょ……?」
「……すごい衝撃で撥ねられたから。でも
奇跡的に全身かすり傷と頭を軽く打ったくらいで
すんだんだ。本当に……怖かったぁ…」
そう、だったんだ。
柚夢はすごく安心したように、あの甘すぎる
笑顔で微笑みながら私の頬をずっと撫でている。
それがとても気持ちよくて、また睡魔に
襲われそうになった。
「悠、眠い?」
「うん……ちょっと。でも柚夢、本当に
柚夢なんだよね?…ムウさん、じゃないんだ
よね?」
未だに信じられなくて、柚夢を見上げると
コバルトブルーの瞳が憂いを含んでいるように
見えた。
「うん………僕だよ、悠。ずっと騙してて…
本当にごめんね……でもずっと、こうして
悠に触れたかった。悠に、僕の名前を
呼んでほしかった…っ…」
また大粒の涙を流し始めた柚夢を見て、私も
涙腺が緩んでくる。
ぐっと堪えて、重たい手を柚夢に伸ばそうと
すれば。
ぎゅ、と柚夢のほうから強く握ってくれた。
聞きたいことは、たくさんある。
だけど今はこの手を離さずに、この温もりを
感じていようと思った。
よくよく考えたら1月7日ってことは日本は
もう8日のはずだし、学校は始まっている。
学校に連絡とか愛花にも連絡しないと
いい加減、心配かけるかもしれない。
だけど、どうしてだろう。
ずっと死んだと思っていた柚夢が、今生きていて、
私の手を握ってくれている。
ただそれだけで、どうしようもなく幸せだ。
「柚夢……生きててくれて、ありがとう」
- 第29音 ( No.265 )
- 日時: 2013/07/09 10:13
- 名前: 歌 (ID: OAZcGWI8)
一番に、伝えたかったこと。
「……っ……ぅ…くぅ…」
「生きていてくれて、本当によかった。本当に……
本当、にっ…!!」
ダメだ、やっぱり涙なんて堪えられない。
「っバカ!!!柚夢の…バカ…っ!何で死んだ
ことなんかにしたの!?私が今まで…どんな
想いで……うっ…よかったぁ……生きててくれて、
本当に…よかったっ…」
「悠………!」
ずっとずっと、一緒にいてくれた柚夢。
兄でもあり、恋人でもあり、唯一の家族に
なってくれた柚夢。
だから、たとえどんな残酷な現実があったと
しても私は柚夢を許すよ。
柚夢が、私を許してくれなくても。
「僕だって…悠が死んじゃうかと思って……
本当に辛かったよっ!!悠のほうがバカだ…!
あんな事故にあって、こんなに心配させてっ…」
「だって!!柚夢に1分でも1秒でも早く
触れたかったんだもん…っ…!ずっとずっと、
心臓が痛くて怖くて……会いたかったから!」
「…っ…本当に、どうして悠はそんなに……
僕を魅了するの?もう二度と…離さないから!!」
「……っっ…!」
泣きじゃくりながら再び抱きしめあう、私たち。
傷の痛みとか、胸の苦しみとか、そんなのは
もうどうでもよくて。
いろいろな感情が混ざって、喉が詰まった。
頭では、分かっている。
柚夢と『二度と離れない』ということは、
6人との『別れ』を意味することを。
でも私には、柚夢と同じくらいあの6人も
本当に大切な存在だから、離れることなんて
できない。
だからと言って、柚夢を1人にすることも
できないんだ。
もしかしたら私は、これから究極の選択を
強いられるのかもしれない。
『柚夢』と『6人』を天秤にかけなければ
いけないのかもしれない。
「っ……」
「はぁ…悠っ……」
熱を帯びた、2つの唇。
何度も何度も角度を変えては、息を吸うことも
できないほどに重ね合う。
最後だと思っていたあの時のキスと同じように、
再会のキスもしょっぱいね。
あの時より、ずっと。
「…悠…っ…愛してる……」
あの時よりずっと低くなった声で、だけど
甘さは変わらない声で、愛を囁く。
ねぇ……柚夢、どうしよう。
私、柚夢への『愛』がどの“種類”の『愛』
なのか、分からなくなってる。
柚夢の声で聞いている『愛してる』なのに、
どうしてだろう。
胸が、ズキ、ってしたの。
その答えを見つけるのが怖くて、その理由を
知るのが嫌で、私は縋るように柚夢の首に
腕を回した。
「僕の名前を…呼んで……」
「柚夢…っ…」
「……もっと」
「っ…柚夢…!!」
甘い甘い声で、そんなに愛おしそうな瞳で、
私の心を見透かそうとしないでね。
私の中の迷いに、気付かないでね。
お互い、大量の涙を流しているからキスの味は
しょっぱいけれど、私の涙の理由はきっと、
柚夢とは違う。
悲しい。
神様がこの世にいるんだとしたら、教えてください。
どうして人の心は永遠ではないのですか。
どうして人の愛は永遠になれないのですか。
私の柚夢を想う気持ちは、何なんですか。
『……っ!…ぅ!!』
誰かが、私を呼んでいる。
キレイな光の中、手を伸ばして思いっきり
叫んでいる。
顔も見えないし、叫んでいるのは分かっているのに
誰の声か分からない。
『は…く、…っ…て来い!!』
え……なに…?
『早く……』
早く?何をそんなに急いでいるの?
『早く……帰って来い!!!』
「…っ……ん…」
「悠…起きた?あのまま寝ちゃったんだよ」
「柚夢……」
どうやら眠ってしまったらしい。
まだ重たい瞼をこすれば、柚夢のぼんやりと
した姿がはっきりした。
「喉、乾いたでしょ?何も食べず飲まずだったし。
はい、まずはこれ飲んで」
「これは?」
「怪我の薬。今、医者が来るから。あと……
風峰さんも」
「……うん、分かった」
差し出された薬を口に入れ、渡された水を
ごくごくと飲んだ。
無意識に喉はカラカラだったらしく、コップの
中に入っていた水は空っぽ。
「ご飯は食べられそう?」
「……ううん、いらないかな。ありがと」
そっか、柚夢は私がまともにご飯を食べられないことを
知らないのかもしれない。
ムウさんとしているときだって、ちょっと心配そうな
表情をしていただけだったし。
原因が柚夢の死だと知ったら、悔むかもしれないから
今はまだ黙っておこう。
「悠、気分はどう?」
「うん、大丈夫だよ」
「悠は大丈夫じゃなくても大丈夫っていうからなぁ。
本当のこと、言ってよ?」
「ありがとう。でも本当に大丈夫」
「そっか」
やんわりと微笑めば、柚夢も優しく微笑み返してくれる。
柚夢の視線が、あまりにも熱く甘く愛おしそうに
見つめるものだから、慌てて視線を逸らした。
不自然すぎたのか、柚夢は黙って私の頬を
両手で挟んで無理やり視線を合わせた。
「……何で、逸らすの?」
「柚夢…っ…」
「もしかしてこの瞳が……いや?」
何か、怖い。
独占欲が強すぎる人の瞳をしていて、
絶対に離さないと瞳だけで言っているよう。
「この髪色も…違和感、ある?」
「……私の知ってる柚夢の姿じゃないから…
ちょっとだけ、ね」
「………」
なるべく言葉を選んだつもりだけど、柚夢は
表情を変えずに黙ったまま手を離した。
「この姿は、風峰さんの息子さんの姿を
似せたものなんだ」
え……?
「風峰さんはイギリス人の女性と結婚し、息子の
奏楽くんを授かった。だけど奏楽くんが
16歳の時、交通事故で亡くなったんだ」
柚夢が死んだと思った時のことを考えると、
ぐっと胸が痛くなる。
風峰さんの気持ちは私もよく分かるから。
「息子さんを亡くしたショックで奥さんは
病に倒れ、そのまま奏楽くんの後を追うように
亡くなってしまった……」
「…そんな……」
「そんな時に、僕と風峰さんは出逢った。
丁度、僕が奏楽くんが亡くなった時と同い年だった。
公園でギターを弾いている姿の僕を見て、
風峰さんは奏楽くんが生き返ったと思ったらしい」
生き返った。
私にとっては柚夢は生き返ったようなもの
だけど、現実にそんなことはあり得ない。
だからこそ風峰さんは、さらに柚夢を
手に入れることに必死になったのかもしれない。
「難なく風峰さんは僕に接触して、最初は
憧れの風峰暁が目の前にいることが
信じられなくてすごく舞い上がってたんだ」
風峰さんの話をする時の柚夢は、いつも
穏やかで静かな雰囲気ではなく、すごく
興奮して無邪気な笑顔だった。
憧れの風峰さんに出逢い、話ができるなんて
すごく嬉しかっただろうな。
- 第29音 ( No.266 )
- 日時: 2013/07/10 22:05
- 名前: 歌 (ID: ZFLyzH3q)
そんな風峰さんから持ちかけられた話が、
柚夢を迷わせるには十分だ。
「少しずつ風峰さんは僕に過去の闇を話してくれた。
息子さんが僕に似ていると知ったその時に初めて、
どうして風峰さんが僕に近付いたのかを知った」
歪められた、表情。
その表情から言葉でなくても、裏切られた気持ちと
同情からの優しさ、そして後悔が感じられる。
膝の上できつく握りしめる拳を震わせていることが、
さらにその想いを強くしていることが分かる。
「最初はずっと断っていた。誰かの身代わりとして
生きるなんて、そんなことしたくない。何よりも、
悠と離れることなんて…っ…考えられなかった!!」
昔から、柚夢が私をどれほど大切に想って
くれているか、知っている。
それは私が柚夢を大切に想っていることと、
イコールで結ばれるから。
「だけど……風峰さんの僕を見る瞳が、本当に
愛おしそうに優しく見るから…怖くて……」
……一緒だ。
さっき、私が柚夢の瞳を見て怖いと思った
理由と、全く一緒。
愛されすぎることは、時にひどく怖くなる。
「そんなときだった。あの男が現れたのは…っ…!」
ずっと、聞きたかったことがある。
「……どうして、運ぶだけで1日5万なんていう
都合のいいバイトをしたの?怪しいことくらい、
分かっていたでしょ?」
すると柚夢は、眉を下げて首を横に振った。
「違うんだ……僕がバイトをしたのはお金なんかの
ためじゃない。お金なんてあったし、欲しくも
なかった!」
「じゃぁっ…どうして!?」
「言われたんだ!!『俺はお前の妹の男を知っている。
お前の妹にはお前には秘密にしている、密かに
付き合っている男がいる』って……」
はぁ?なんだそれ?
「最初は断ったけど…男が誰なのか、バイトを
引き受けてくれたら教えるって言われた。
だから俺は……っ!」
「そんなわけないじゃん!どうして私に確かめて
くれなかったの…?信じられなかったの?」
「っ…違う!!」
いつも冷静だけど穏やかで、ポーカーフェイス
だった柚夢は、私のことになるとそれを崩すことは
誰もが知っていた。
こうやって声を荒げるのだって、柚夢は私の
前でしかできない。
……私を、愛してくれているから。
私のことで柚夢が取り乱す姿を、本当は心の
奥底でいつも怖いと思っていた。
いつか、私を閉じ込めるんじゃないかと
思うほどに。
それで柚夢とずっと一緒にいられるなら、それで
柚夢が幸せなら、本望だとも思っていた。
だけど今の私は、昔の私とは違う。
「怖かった……!本当に悠に僕以外の男がいたら、
どうしようって。聞いた時に否定されなかったら
どうしようって…怖かったんだ!!」
私は知らないうちに、こんなにも柚夢の心を
縛り付けていたんだ。
昔も今も……柚夢はいつも一番に私のことを
考え、行動し、愛してくれている。
それなのに私は…っ……柚夢を苦しめるばかりで、
何も守れてなんかいない。
「…運んでいたのものが麻薬だと知った時、さらに
僕は絶望の淵に立たされた。悠に知られたら
どうしようって……毎日、恐怖に震えていた」
あんなに一緒にいて、何も知らず気付かずにいた
あのころの自分が、憎い…!!
記憶を失ったままだったら、一生柚夢の苦しみを
知らずに生きていくところだった。
「そして男が僕を憎んでいることも知った。
……僕を殺そうとしていたことも。僕が死ななければ
悠に手を出すと言われたときは、本気で死のうと
思ったんだ」
柚夢が自殺をしようとしていたことを知った時は、
本当に信じられなかった。
そんなに私の存在が柚夢を苦しめていたなんて、
考えてもいなかったから。
「だけど風峰さんと定期的に会っていたから……それも
中々出来なかった。そんな時に、あいつがライブの
後に来て……!!!」
「柚夢、もういいよ。ありがとう……」
これ以上、辛い過去を思い出すのは柚夢にとっても
私にとっても良いことではない。
「だけど1つだけ、教えてほしい」
柚夢の温かく大きな手を握りしめながら、
視線をしっかりと合わせた。
「どうして多額の生命保険をかけてたの?
お金さえあれば、私の前から消えても
いいと思っていたの……?」
慶司さんも柚夢も、お金だけ残しておけば
私は大丈夫だと思っていたの?
すると柚夢は、ふっと微笑んでそんなこと、と
言わんばかりの表情で口を開いた。
「悠にお金を残したのは……僕がいなくなっても、
悠らしく生きてほしかったからだよ」
「どういう、こと…?」
お金なんてなくても、私は私らしく
生きていけるのに。
「お金で幸せになれるとは限らない。だけど、
お金は幸せを掴む最大の道具であることは
間違いないと、父さんが言っていた」
幸せを掴む、最大の道具?
「悠にはたくさんの才能があることは、幼い時
から分かっていた。だからこそ、悠にはどんな道も
選べるように僕と父さんで選択肢をたくさん
作ろうと、約束したんだ」
選択肢……人生の。
「音楽大学に行きたくなったらすぐに行けるように、
医者になりたかったら医大に行けるように、
高いお金を払わなければならない道に行っても
お金のことで諦めることがないように」
………慶司さん、あなたは私が幼い時に私の
未来をそこまで考えてくれていたんですね。
そして柚夢は、それを引き継いだ。
「僕は悠を愛している前に、悠の兄であり家族。
だから、どうしても悠の人生は守りたかった」
ここまで愛してくれて、ここまで想ってくれて、
私は本当に………
「…柚夢……っ…」
「泣かないで、悠。君の涙が一番、辛い」
「っ泣かずには、いられないよ!だって……だって、
柚夢だって泣いてるんだもん!!」
「…っ……!」
今日はどれだけ涙を流せば、気がすむんだろう。
「本当に…バカだなぁ…っ…私の人生に、柚夢が
いない……それが一番、私の人生を闇にするんだよ!!」
私のことばかりで、いつだって柚夢は自分の
存在の大切さを考えない。
私のためなら、自分の命なんて簡単に投げ出そうと
するほどに……そんなの、私のためなんかじゃない。
「もう二度と私のためだからと言って、自分の命を
投げ出そうとなんてしないで!!私の前から
消えようだなんて…思わないで!!!」
残された方の、身にもなって。
柚夢に、ここまで怒りをぶつけることは、
初めてだったかもしれない。
だけど、許せなかった。
「慶司さんが守ってくれた柚夢の命を…っ…
簡単に捨てようとしないで!!!」
生きたくても生きれなかった人がいることを、
忘れていた柚夢が。
そんなことも考えないで生きている気になって、
目の前にあることだけに捉われて、そんなことを
慶司さんは望んでいなかったはずだ。
「死ぬ理由を探そうとしないでっ……!どんなに
生きることが怖くても、辛くても…っ…
生きることを諦めちゃダメだ!!!」
驚きで固まったまま、目からは涙を零し続ける
柚夢に、私はまだ怒りが治まらなかった。
「もう二度と……弱い自分から、逃げようと
しないでっ…!怖くても嫌でも……立ち上がって
立ち向かうの!!そして自分の幸せを見つけるの!!
大切な人と想い想われ、幸せを守るの!それがっ……」
死ぬことよりも、生きることのほうが闘いなんだから。
「それが……っ…生きること!!!!」
- 第29音 ( No.267 )
- 日時: 2013/07/11 23:17
- 名前: 歌 (ID: SEvijNFF)
『生きる』
どんな言葉よりも、希望であり残酷であり美しい
ものであり、重い言葉。
その重さがどれほどなのか、人によって感じ方は
バラバラだし、だからこそ人は助け合える。
「柚夢……もう、死んだように生きないで。
あなたはあなたの人生を生きるの」
「僕の、人生……」
「そう。人生は一度っきりだから、生まれ変わるなら
生きているうちにするの。運命は運ばれるものじゃ
なくて、自分の手で運ぶものなんだから」
「…悠っ…!!!」
だからもう、『ムウ』としても『奏楽』と
しても生きることはしないで。
「自分の人生だから自分で決める。決めたように
なるよう行動する。運命は自分の手で運べるもの。
命の重さで運んでいこうよ」
「悠!!」
この腕の温かさは間違いなく、『柊柚夢』この世で
たった1人しかいない人のもの。
「お願い……『柊柚夢』として、生きて…っ…」
生きること。
それは人間である限り、一生分からない謎であり、
追及するもの。
どうして生きるのか、その答えを見つけたくて
人は生きているのかもしれない。
だけど答えは、人の数の分だけある。
1人1人、生きる理由は違うのが当たり前で、
それが自分らしさというもの。
私には、理由なんていらない。
「私は生きることが好き。だから、生きる」
好きなことをとことんやるのが、私らしさ
だと思うから。
生きることに理由を探すことも考えることも
せずに、私の心のままに生きるよ。
「そして、一緒に生きていく人も私が決める」
人は絶対に1人では生きられないから。
私をここまでつくってきたのは、間違いなく
今までに私と出逢ってくれた人の心だから。
「柚夢、私の人生に柚夢がいない人生なんてないよ」
「っ……うっ…あり、がと…ぅ…!」
あぁ……やっぱり私には、この手を離すことは
出来そうにないや。
柚夢の手を取るということは………あーあ、私って
こんなに我儘で傲慢な人間だったんだ。
どの手も離したくないと、心が言っている。
「素晴らしい………本当に神崎悠さん、あなたは…
すごい方だ」
ドアの開く音がしてすぐに、後ろで聞こえた声に
柚夢の腕を離して涙で歪んだ視界をはっきりさせる。
「……風峰さん」
穏やかで、悲しげな表情をした風峰さんが、
立っていた。
涙を流している私と柚夢よりも、穏やかに微笑んで
いる風峰さんのほうが、ずっと泣いているように見えた。
「私は…人として最低なことをしてきた…っ……
憎まれても恨まれても、当たり前だ……」
ゆっくり足を前に進め、コンサートホールの
舞台に立っていた風峰暁の面影はなく、
弱々しい足取り。
私の顔がはっきり見えてくるたびに、その
瞳には悲痛の色が表れた。
「奏楽……いや、柚夢くん…」
「…はい」
「本当に、すまなかった………」
「っ!!」
深く深く頭を下げた、風峰さん。
柚夢は座っていたイスから勢いよく立ち上がり、
喉を詰まらせた。
「君を奏楽の代わりとして置いておいても、
君を傷つけるだけだとは分かっていた……。
それなのに…私はっ……愚かなことをした!」
「暁様!やめてください!!」
「もう、そんなふうに呼ばないでおくれ……私は
偉くも何ともない。君を縛り付けていたに
すぎないのだから」
「…暁、様……」
柚夢は、風峰さんの前では敬愛する意表を示す
呼び方をするほどに、この人のことを信頼して
いるんだ。
確かに私たちは、この人の言葉で引き裂かれた。
だけど、この人があの時助けてくれたことも、
私にかけてくれた言葉も、事実だから。
どんなことがあっても、私と柚夢は風峰さんを
憎むようなことはできない。
「風峰さん、ありがとうございました」
「っ……なぜ、お礼など…」
「何度も助けて頂いたから。2年半前も今も、
私と柚夢のことを。感謝してます」
「感謝なんて……されるようなこと…いえ、
むしろ罵られるようなことを!」
「いいえ」
「……っ…」
風峰さんも、ただ息子さんの死を受け入れ
られなかったんだ。
「私も柚夢も、そんなことは思ってません。
感謝の意だけです」
そう言って微笑めば、風峰さんはその場で
我慢していたものを吐き出すかのように、
泣き崩れた。
私も柚夢も風峰さんも、それぞれがそれぞれの
罪を犯した。
きっとそれは、一生抱えていくもの。
忘れることなど、捨てることなど許されない、
私たちの罪。
これからずっと思い出すたびに苦しむだろうけど、
それが私たちを強くする。
私たちの罪は自分自身だけでは許せないけれど、
こうやってお互いの苦しみを分かち合えば、
それぞれがそれぞれの罪を許せる。
「風峰さん、柚夢を解放してください」
それが、私の唯一の願い。
「悠……!」
「そして風峰さん、あなたも自分自身の過去から
解放してください。もう何にも捉われないように」
「っ…は、い……はいっ!!!」
柚夢も風峰さんも、もう十分に苦しんできた。
だからもう、これ以上自分で自分を苦しめない
ように終わりにすべきなんだ。
こんな、味も素っ気ない暮らしに終止符を
打つために。
「本当に、すまなかった……」
柚夢と肩を抱いて涙を零す風峰さんを、柚夢は
喉に詰まって言葉にならない想いを、涙で伝える。
風峰さんは、すごい音楽家だ。
『音楽は心』なんだから、あんなに素晴らしい
音楽を作り上げられる人の心を信じよう。
これからもこの人は、私と柚夢をサポートし、
素敵な音楽界を築いてくれる。
だって、あの音楽で私は震えたんだから。
でもきっといつか、私の音楽で風峰さんの
心を震わせられるようになってみせる。
だからその時まで、この人にはしっかり
私たちを見守っていてもらいたい。
「柚夢、風峰さん」
泣きながら抱き合う2人に、私は優しく声を
かけると2人の揺れる瞳が真っ直ぐ私に
向けられた。
「歌を、歌いましょう」
太陽が出ているのに
月の姿を探した
誰からも見られている
輝く太陽よりも
僕は月に会いたい
夜になれば
自然と会えるなんて
分かってはいても
どこか心配で
ふと君は何も言わずに
消えるんじゃないかな
お願い その光を
失わないで
たとえ 白くてもいい
凍えてもいい
君がいれば
それだけでいいから
太陽はいつも笑顔しか
見せてはくれないけど
月はいろんな顔を
見せてくれるんだよ
僕はすべて知ってる
誰も知らない
その顔をよく見せて
穏やかな影も
透き通った色も
僕だけを照らしてほしい
何も言わないまま
お願い その心を
投げ捨てないで
すべて 受け止めるから
抱きしめるから
君がいれば
前を歩けるから
お願い その光を
失わないで
たとえ 白くてもいい
凍えてもいい
君がいれば
それだけでいいから
- 第29音 ( No.268 )
- 日時: 2013/07/12 23:22
- 名前: 歌 (ID: w93.1umH)
その日の夜、風峰さんの知り合いだと言う
医師に検査をしてもらった。
本当は昼間にはすでに来ていて、風峰さんと
一緒に部屋に入ってくるはずだったらしいけど、
私と柚夢の話し声が聞こえ、一度医師には
帰ってもらったらしい。
身体の傷もすべて軽傷で、頭も打ったらしいけど
1週間のうちにだいぶよくなったらしい。
「まだ本調子ではないようなので、数日
このまま休んでください」
「……はい」
「では、私はこれで」
「ありがとうございました」
医師に頭を下げて、風峰さんと一緒に
部屋を出て行った。
私はベッドの隣で安心した表情を浮かべている
柚夢を見上げる。
「よかったね、悠」
「うん……あの、さ」
「なに、どうした?」
「日本には……いつ、帰れるの?」
「………」
聞いてもいいのかどうか迷ったけれど、もう
学校は始まっているはずだしこのまま
連絡をしないのはみんなに心配をかけてしまう。
予想通り、柚夢の表情は一瞬で暗くなった。
「……怪我がよくなったら、ね」
いや、もう怪我自体はよくなっているから
問題はないと思うんだけど。
でもそう言い返せなかったのは、これ以上
柚夢の傷ついた顔を見たくなかったから。
「えっと…じゃあさ、学校に連絡しないと。
もう学校始まってるし心配させちゃう」
「それは大丈夫。もう風峰さんが担任の
先生に電話してくれたから」
「あ、そうなんだ。よかった」
風峰さんは一度、担任に中学時代の教師のフリで
電話をしているから連絡はできるのか。
何て言ったのか気になるけど、きっとそれなりの
ことを言ってくれたんだろう。
後は………6人に連絡しないと、まずいよね。
「私の携帯ってどこにある?友達に連絡
したいんだけど」
すると柚夢は困ったように眉を下げた。
「実はね、悠の携帯なんだけど事故に遭った時に
壊れちゃったんだ」
「えっ……嘘…」
「でもデータは抜き取ってあるから。新しい
携帯にすれば大丈夫」
「そっか……ありがとう」
早く連絡しないといけないけど、しばらく
連絡できないって言ってあるし、大丈夫かな。
そう自己完結して、ふと顔を近づけてきた
柚夢の瞳を見つめた。
やっぱり、こうやって近くできちんと見ると
2年半前の面影がしっかり残っている。
顔立ちはもともとキレイと言うより、可愛かった
けれど、それがこの2年半でキレイに変わった。
「柚夢……キレイになったね」
「ふふっ、いきなりどうしたの?それは僕の
セリフなんだけど。悠、キレイになりすぎ。
これじゃ、悪い虫が大量に寄ってくるはずだ」
「……柚夢こそ、彼女とかできた?」
あれ、私何言ってんだろう。
柚夢もこの質問にはビックリしたのか、一瞬
表情を固めた。
でもすんなりと口から出てきたせいなのか、
心臓は平常だ。
「本気で言ってんの?」
微笑んでいるのに、低い声と後ろのオーラが
黒くて思わず冷や汗の予感。
柚夢が私に怒るときと言えば、私のひょんな
言葉が原因だったことが多い気がする。
例えば『どうして女の子と遊ばないの?』とか、
『男友達と出かけてくる』とか、『嫉妬とかする
意味が分からない』とか。
「悠こそ……彼氏、できたんじゃない?
一緒にフランスに来たあの6人の中に」
「いやいや、あり得ないでしょ」
「でも告白はされたんでしょ?」
「え、何で知ってるの?」
「……されたんだ」
「うわ、ずるい」
ますます目は細められ、身にまとうオーラは
重くなるばかり。
ベッドに腰かけて、じりじりと上半身を
近付けてくる柚夢から逃げたくても後ろは
壁だし、何よりベッドの上だ。
逃げられるはずがない。
「っていうか、私の質問に答えてよ」
「いるって言ったらどうするの?」
「それはそれでいいと思うけど。柚夢が
幸せなら」
「……はぁ………悠って本当に、残酷」
“残酷”という言葉に、どくんと心臓が跳ねた。
ぐっと押しつけられた、唇。
貪るように食らいつく柚夢の荒々しいキスを
しているときは、怒っているとき。
キスの仕方も、感情の表し方もあの時と
何も変わっていない。
それがすごく、安心した。
「はっ…んんー……」
「誰が彼女がいるのにこんなキスするって?
昼間にしたキスをもう忘れたの?」
忘れるわけがない、けどさ。
あんなに優しく見つめられたら、柚夢の気持ちは
あれから何一つ変わっていないことくらい
分かっていた、のに。
そうであったことに安心している自分と、そうで
ないといいな、なんて想っている自分がいた。
「僕が好きなのは世界中どこを探したって、
悠しかいないんだけど。悠以外、考えられない。
悠以外の人を女と想ったことなんてない」
しっかり頬を掴まれて、怒りを含んでいる瞳が
私を逃がさない。
「分かってるくせに…悠は相変わらずだね。
僕の心を弄ぶのが得意だ」
「そんなわけっ…!」
「ない、なんて言える?僕はこの2年半、1日たりとも
悠を忘れたことなんてない。ずっとずっと、
君のことだけを考えていた……」
素直に“嬉しい”と思う。
だからこそ“重い”と思う。
「もうっ…悠を二度と離したくない!!誰にも、
あいつらにも……渡さない!!」
うん、私も二度と柚夢と離れたくないよ。
「たとえ…っ……悠が僕から離れようとしても…」
「…っ…」
掴まれている腕が、痛い。
力加減が分からなくなるほどに、柚夢の想いが
強くなっているんだ。
そしてまた、猛獣のように私の唇を奪う。
舌が何度も何度も奥を攻めて、身体や心を
痺れさせる。
息を吸うことも儘ならずに、ひたすら柚夢を
受け止めた。
やっと離された唇に安堵したのも束の間、柚夢の
顔は首筋に埋められ、ちくっと小さな痛みがはしった。
「っ……」
「はぁ……僕のものだっていう印、見えるところに
つけといたから。当分、消えないよ」
「…柚夢……!」
キスマークをつけることに抵抗はないけれど、
見えるところにつけられたことには少し
羞恥が湧いてくる。
キッと睨み付けると、柚夢はがくっと私の
肩に頭を預けた。
「そういう顔だってさぁ……悠は僕にどうして
ほしいの?襲われたいの?」
「……もうとっくの昔に襲われてます」
「でもあれから僕たちは大人になった。今の悠は
あの頃と比べものにならないくらいキレイすぎる…。
あの頃だって我慢するのに精一杯だったのに」
「え、何を我慢してたの?あんだけしといて」
「………悠、怒るよ?」
「もう怒ってるじゃん」
このどこが怒っていないと言うんだろう。
当たり前のようにさらっと言えば、ばっと顔を
上げた柚夢。
ひどく歪められた表情を、していた。
「僕はね……いつもポーカーフェイスを崩さずに、
感情で動くような人間じゃないはずなんんだ!
なのにっ……悠のことになると、自分が自分で
なくなるほどに、乱れる!!」
「うん、知ってる」
「っ…悠……!そうさせてるのは君なんだよ!?
責任取ってくれるよね?」
「うん、分かった」
責任を取れ、と言われた私は何の戸惑いもなく
柚夢の綺麗な肌に触れて、そのまま。
ちゅ、と軽いキスをした。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56
この掲示板は過去ログ化されています。