コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56
- Re: 青い春の音 ( No.130 )
- 日時: 2013/01/25 16:36
- 名前: ハリーポッター ◆SVKZkFup7. (ID: geEvUTTv)
動画、見てみたい!
どんな風に笑ってたんだろう。
いつも、クールなのに・・・。
更新頑張って下さい!
- 第12音 ( No.131 )
- 日時: 2013/01/26 20:54
- 名前: 歌 (ID: REqfEapt)
すべての講義が終わったときには、すでに
空はオレンジ色に染まっていた。
混ざり合った絵の具のように鮮やかな
光を放ち、光を敷き詰めた雲は魚の
群れのようだ。
でも、俺には。
晴れ渡る空は似合わないから、空を
見るといつも、早く曇ってくれないかと
願うばかり。
それに比べて悠は、青空の似合う人間だな。
そんなことを考えながら、大学から出て、
煌と待ち合わせをしている
正門のほうに向かった。
いつも以上に視線を感じるのは、おそらく
昼間のことが影響しているんだろう。
だが俺には、関係のないことだ。
気にするだけ時間の無駄だし、何より
気にする意味がない。
正門に近付けば、視界に入ってくるのは
鉄格子に体を預けている煌。
正門を出る生徒たちから声をかけられれば、
手を振っていた。
「あ、おつかれー。待ってたよ」
「待たせたな。悠は?」
俺に気付いた煌は、鉄格子から体を
放し、いじっていた携帯を閉じた。
「近くのコンビニにいてもらってる。
ここに来られたら、さっきのことで
また騒ぎになると思ったから」
「確かにそうだな。ならば、行くぞ」
「はいはーい」
悠が待っているというコンビニまで徒歩2分。
コンビニに向かう間、昼間のことで
変わったことはあったかという問いに。
視線がいつもより少し増しただけ、と
答えて軽く流した。
まぁ、本格的には明日から始まるだろう。
教師からの誘導尋問と、悠のファンで
ある生徒からの熱い視線を集めるのは。
コンビニに着いてすぐに悠の姿を
探すが、それらしき人物は見当たらない。
「おい、いないぞ」
「あっれー?どこ行ったんだろ?」
煌も心当たりがないらしく、周辺を
きょろきょろと見る。
すると。
「だーかーら!太陽の足跡をついていったら
ひまわりの気分になれるんだってばぁ」
意味の分からない言葉を吐いている
人物のこの声は、紛れもない、悠だ。
煌と顔を見合わせて声のした、コンビニの
裏側へと行ってみると。
変なおっさんたちに囲まれている
中心に、悠がいた。
「悠!!」
「あ、煌!ねぇ聞いてよー」
そのおっさんたちにあまりいい気はせずに、
ぐっと眉間にしわを寄せたと同時に、
煌は勢いよく悠の腕を掴んで。
腕の中に閉じ込めた。
悠はそんなのはどうでもいいかのように、
ちょっと不機嫌気味。
おっさんたちを見てみると、どうやら
ホームレスらしい風貌で4人いた。
「お!お嬢ちゃん、やっぱり可愛いから
彼氏の1人や2人はいるんだなぁ」
「どっちが本命だい?」
「そんなことはどうでもいいからさー!
さっきの私が言ったこと、理解してよー」
ホームレスたちが面白そうに煌と俺を
見て気持ち悪い笑みを浮かべている。
「おい、悠。これは一体何なんだ?」
「うーんとね、コンビニに入ろうとしたら
呻き声が聞こえてここに来てみたらさぁ。
このおっちゃんたちがお腹空かせてたの!」
「このお嬢ちゃん、とっても優しくってさぁ。
コンビニで1人1つ豪華な弁当を
買ってくれたんだよ。ありがてぇ」
「豪華なって1つ500円だけど」
「500を4つだぜ?太っ腹だな、お嬢ちゃん」
……こんの、変態じじぃ共め。
顔に下心丸出しだって書いてあるのが
分からないのか、あぁ?
鼻息荒い、臭い、気持ち悪い、気味が悪い。
悠に近付いていい人間じゃないだろ。
なんてことは、声に出さず心に押しとどめ、
目で殺気を訴えれば「ひぃ!」と
肩をすくめるじじぃ。
どんな時でも爽やかスマイルを絶やさない煌は、
今回も笑顔だが、目は全く笑っていない。
というか、早く悠を離せ貴様。
そんな思いを視線に乗せて煌にぶつけると、
澄ました顔でスルーされた。
「悠は何でそんなにムキになってんの?」
「だってさぁ、さっき一曲歌ってあげたのに
その歌詞の中の『太陽の足跡をついていったら
ひまわりの気分になれたよ』っていう意味が
分からないって言われたの!」
「それで一生懸命説明していたんだな?」
「そういうこと!」
煌の腕の中で煌に口を尖らせて話す悠。
その姿にも俺の中で変な感情がわき出てきて
落ち着いていられない。
「まぁまぁお嬢ちゃん。歌詞の意味はぁよく
分からなかったがよ。いい曲だったぞぉ?」
「……ありがとです」
「気が済んだ?だったらもう行くよ」
1人のおっさんに言われた言葉で渋々引き下がった
悠に、煌は珍しくちょっと不機嫌な声を出して。
腕の中にいた悠を開放して、そのまま
手首を掴んで強引に立ち去ろうとした。
「はーい。じゃあおっちゃんたち!またね」
「おうおう。デート楽しんできなぁ」
「ごちそうさーん」
手をひらひらと振るおっさん共に悠も
笑顔を返した。
俺は最後にぎろ、と冷めた目を置き去りにして
悠と煌の後を追う。
「どこに行くの?」
「……」
悠の問いに全く無言の煌と俺。
俺たち2人がかなり頭にきていることに、
悠はすぐに気付いたらしく。
それ以上は何も喋らずに大人しくしていた。
- 第12音 ( No.132 )
- 日時: 2013/01/29 18:59
- 名前: 歌 (ID: jhXfiZTU)
煌の後を黙って着いていくと、連れて
こられたのはレンタルショップ。
DVDや漫画、雑誌がたくさん置かれている。
どうしてこんなところに連れてきたのか、
俺も悠も分からずにいるが。
俺はそんなことよりも、さっきっから
煌が悠の手首を掴んで歩いているのが、
とてつもなく。
不愉快だ。
どうしてか今日は、煌に対して不快感が
強い1日みたいだな。
別にあいつは直接的に俺には何もしていないし、
普段、気に着くところなんてない。
悠がいる、それだけがいつもと違うだけで。
そんなことを考えながら悠の手首にある
煌の手を見ていると。
するり、とその手が離されて、顔を上げた。
目の前には大量の………いや、別にいうのが
恥ずかしいとかそういうことではなく、
ちょっと驚きを隠せずにいるだけ、だ。
だから、その……どうしてこんなところに?
「AV?何、煌さんはAVを借りたくて
ここまで私たちを連れて来たんですか?」
「違う。お前、R-18ってどういう意味か分かるか?」
「アルファベットでRは18番目?」
「………」
ある意味、悠は天才だと思う。
とういか、煌はいきなり何意味の分からん
ことを言い出すんだ。
まさかこいつに如何わしいことを
する気じゃないだろうな?
「ごほん、確かにアルファベットでRは18番目
だけど、そういうことじゃない。
ここにあるものはすべてR-18だ。つまり、
18歳以上の年齢制限動画のカテゴリ」
「18禁ってことね」
「分かりやすく言えばね」
「で、それが何か?ガキに手を出したく
なっちゃったわけ?」
白い目で煌を見る悠に、煌は特別慌てる様子も
なく、平然としている。
この態度は、結構、本気で怒ってる証拠。
俺は煌が何をしようとしているのかを察知し、
口出しはせずに黙って見ていることにしよう。
「いいか、悠。ここにあるAVの中には
おっさんと若い女子高生がヤッているのなんて
ごろっとあるんだ」
「へぇー」
言葉で言っても興味なさそうな反応を示す悠。
そんなことを言ったくらいでこいつが
納得するわけがない。
だから俺は、近くにあったAVを手に取り、
裏側にある写真を悠の前に突き出してやった。
「これ見ろ」
「……これはまたすごいですねぇ。おっさん、
もう歳なんだから体力ヤバいんじゃない?」
「築茂、ありがと。悠って本当にバカだよね」
「今さら?」
「あーはいはい。それで、もしさっきの状況で
俺らが悠を見つけられずにいたら、お前は
あのオッサン達にこんなことをされていたかも
しれないんだぞ」
煌がそう強く言うと、AVを見つめたまま、
動かなくなる悠。
「悠?生きてる?」
「生きてますよそりゃあ。いやーさ、ここにある
『すっぴんのほうが可愛いよ』って言う
おっさんのセリフ」
「それがなに?」
「正直に『着飾る必要がないくらい元のいい子が
好き』って言えないのかなぁと思って」
「………」
どうしてか、こいつにまともな話は通じない。
煌の今までの話は何だったんだ、ってくらいに
全く聞いていないようだ。
「まぁ、2人の言いたいことは分かったよ。
もう知らない人に話かけたりしないし、変な
おっさんに着いて行かない」
少しは、話をまともに聞いていたらしい。
って、知らない人に話かけるのも、おっさんだけじゃ
なくて知らない人に着いて行かないのも、
小学生に親が教える基本中の基本なんだが。
と、本当は突っ込みたいところだが、
少しはまともに理解してくれたことに
胸を撫で下ろした。
煌も苦笑しつつ、悠の頭を優しく撫でる。
その行動にも、俺はまた黒い感情が
生まれたような気がした。
俺には、あんなふうに悠に気兼ねなく
触れられない。
……別に、触れたいわけじゃない、が。
「でも今時のAVってすごいねぇ。ま、こういうのが
あるおかげで、世の女の子たちが野獣に
襲われずに済んでいるから感謝だね」
「そういわれてみればそうだね。男って
生き物は大変なんだよ」
「あの爽やかスマイルの煌がこんなものを
見てるなんて女子高生が知ったら、みんな
どんな反応するかしら」
「お、おい……余計なこと言うなよ?」
「あ、やっぱり見てるんだー」
「そりゃ男だし?築茂だって見るよなぁ?」
「……お前と一緒にするな」
「築茂、見ないほうが私としてはちょっと
引くんだけど」
「なぜだ」
「AV見ない男ってあっち系の確率が高いから」
「あっち系?」
一体、何の話をしているのかさっぱり
分からない。
その後も煌と悠はAVの話題で盛り上がっていた。
俺としてはいい加減、この店から出たくて
たまらない。
店員が困ったようにこちらをちらちらと
見ているし、他の客に至っては破廉恥話を
大声でしている2人が珍しいようで。
注目の的、になっている。
一向に、話の終わりが見えてこないので
煌の肩を叩いて周りの状況を把握させれば。
顔を赤くして、慌てて店の外に悠と
出て行った。
俺はため息を吐いて、その後を追いながら。
もし、悠があのAV女優のように知らない男と
ヤッているなんて想像しようとしたが。
あの、噂が頭を過ったため、すぐに振り払った。
- 第12音 ( No.133 )
- 日時: 2013/01/30 21:06
- 名前: 歌 (ID: q9W3Aa/j)
その後は、近くの喫茶店でコーヒーを
飲みながらいつもの会話。
そういえば、悠は何の用があってこの近くに
来たんだろうか。
「悠、お前今日、学校は?」
「あー午前中だけ行って早退してきた」
「そんなに大事な用事がこの近くにあったのか?」
「うん、ちょっとね。っていうかーさっき
煌言ってたけど、煌って眼鏡っ子が好みなんだねぇ」
「だって可愛いじゃん」
「そうかねー。築茂も眼鏡っ子だよ?」
「えぇーそれはちょっと。女の子で眼鏡っ子は
もう最高の萌えなんだよ!」
「……ふっ」
「め、眼鏡っ子の何が悪い!」
「視力?」
「………」
今日の煌はさらりと交わされっぱなしだな。
どうやら、悠の今日の用事について
踏み込んではいけないらしい。
すぐにうまく会話をずらしながらも、
表情や声のトーンは何一つ変えない。
おそらく、煌もかなり気になっているだろうが、
今の雰囲気を壊したくないから敢えて
聞かずにいるのだろう。
この近くに大事な用があるんだとしたら。
公共の場だと大きな建物は、図書館と
S大学付属の高校と、総合病院くらいか。
……総合病院。
病院、に用があったんだとしたら、何となく
つじつまが合うような気がする。
もしかしたら悠は、何か病気を持って
いるのだろうか?
食事をまともに取らないことと、
何か関係があるのだろうか?
調べてみれば、分かるだろうか?
いや、そんなこと悠は絶対に拒否するだろうし
煌やあいつらが賛成するとは思えない。
悠本人の口から出るのを待つしか
方法はないな。
「それにしても築茂って本当に大学で
あんな感じなの?」
「あぁ、そうだが」
「もったいないよ絶対!世界は広いじゃん?
心はもっと広いじゃん!それなのに
すぐ限界線引いちゃうなんて」
「でも悠。これでも悠と出会ってからは
マシになったほうなんだよ?」
「余計なことを言うな」
「まぁそれはよかったけどさぁ。築茂はどんな
世界観を持ってるの?素敵な世界?」
突然、意味の分からない質問を投げかけられて
すぐに返答できずにいると。
「言葉も文字も、もしかしたら幻かも
しれないけど、今のこの気持ち、自分が
感じてるこの気持ち。それは確かなものじゃん。
だから、大丈夫だよ」
空から零れ落ちた想いのようにまっすぐな
瞳を、俺にぶつけた。
どうして、悠の瞳はいつもこんなに
真っ直ぐなのだろうか。
「すべてを壊してしまいたい、めちゃくちゃに
してしまいたい。そう思ったことの
一度や二度、お前にだってあるだろう?」
こく、と静かに首を縦に振る悠。
俺は今の生活をめちゃくちゃに
壊してしまいたいという、破壊衝動に
駆られることがある。
悠のように、真っ直ぐに生きて
これなかったから。
「これ以上、人間と関われば、俺は本当に
めちゃくちゃにしかねない。だから、
なるべく人と関わりたくないんだ」
人間が嫌い。
そう思うのと同時に、関わってしまえば
今の俺が置かれている立場の認識が
変わってしまいそうで。
父親に、刃向いそうで。
「……怖く、なるときがあるんだ」
思わず漏らした心の奥底にしまっていた本音。
もう、空中を伝って悠の元へ飛んでしまった
から戻ってくることはできない。
受け止めて、くれるだろうか?
「創造意欲だよ、それ」
「え?」
「今の自分を壊さなければ、なりたい自分に
なることはできない。今の生活を
壊さなければ、叶えたい自分に向かって
行くことはできない」
なりたい、叶えたい、自分?
「すべて壊してめちゃくちゃにして、
新しい何かを生み出したいと思って
るんだよ築茂は。きっと」
何か、落ちる音が、した。
優しく微笑んでいる悠から目を逸らせずに、
その真っ直ぐな瞳と向き合う。
心臓の脈が激しく、波立っているのは、
さっきの落ちる音は、もしかしたら。
これが、恋、なのかもしれない。
「ま、私たちとすでに関わっている時点で
もうその破壊は始まってるのかも
しれないけどねー」
さっきまでの優しい微笑みが一転、悪戯っ子の
笑みに変わった悠。
かわ、いい。
そう、異性に対してはっきりと自覚した
この感情はもうすでに。
ずっと前からここにあったのだろう。
「……悠の言うとおり!築茂、ゆっくりで
いいからお前がやりたいように
実現できるといいな」
それまで黙って俺たちの会話を隣に座って
聞いていた煌が、肩に腕を回して言った。
「暑苦しい、バカ」
「あ、照れ隠しだなー」
「気持ち悪いぞ、ハゲ」
「は、ハゲって!ハゲたらどうしてくれるんだ!」
「リーフ21買ってやるよ」
「言ったな!約束だぞ!」
なんだかんだ、こいつの存在も俺の中で
かなり、大きいのは確かで。
いつかきちんと、今日の悠のように
「ありがとう」を伝えたい。
「あ!そうだ、煌!ちょっとおもしろいの
見せてあげるー!!こっち来て来てっ」
突然目をキラキラと輝かせて煌を呼ぶ
悠の隣に、煌も「何々!」と駆け寄る。
カバンからイヤホンを取り出して煌に
付けさせると、2人は携帯画面を凝視。
そして煌の口が、真っ二つに割れた。
「な、なんだこれ!?」
「やばいでしょー」
「うわわ!やばっすご!はははっ」
「あははは!ウケるでしょー!」
「あーそれでこの後、あぁなったのな」
「いえす」
なにやら2人にしか分からない会話を
していて、ついて行けない。
それより、何を見ているのかが気になる。
………ま、さか。
- 第13音 ( No.134 )
- 日時: 2013/01/31 21:20
- 名前: 歌 (ID: lh1rIb.b)
物凄く嫌な予感がして、目の前に座っている
悠の手にある携帯を掴もう、と手を伸ばしたが。
ひょいっと交わされてしまった。
今の行動で確実に何を見ているのか察知
した俺は、悠を軽く睨む。
「くふふっ。別にいーじゃん!こんなレアな
築茂、中々見られないんだからさ!」
「本当だよなー!でもどうして築茂が
こんなに爆笑してるわけ?」
「そうそう!その原因もまたすごいんだよ!
築茂がね、私に『ありがとう』って微笑んだの!
ビックリしてその時の私の顔、ヤバかった
らしくてそれに笑ったみたい」
「へぇ……この築茂が『ありがとう』を
自ら言うなんて」
2人ともわざわざ『ありがとう』の部分だけ
強調してくるのは、軽い嫌がらせだ。
「今すぐその動画消せ」
「やっだよー!これは今度みんなで集まったときに
テレビに繋いで鑑賞するんだから」
「……ふざけんなバカ」
「ふふふーん!やっぱ築茂ってたまーに
Mだよねぇ。超Mになるよねぇ」
ニヤニヤとおもしろがっている悠と、
それから30分ほど動画のことで言い合って。
あっけなく、俺の大敗。
どうしてか、悠への気持ちをはっきりと
自覚してしまってから、悠の言動全てが、
心地よく感じている。
怒りなどはもってのほか、冷たくすることを
出来なくなりそうだ。
これが、愛しさ、というものなんだろうか。
「じゃ、そろそろ日も落ちて来たし、
帰りますか」
煌の言葉で喫茶店を出る。
昼間の暑さよりはまだマシになっているが、
やはり7月の暑さは手ごわい。
涼しい店内にいたからか、余計に
暑さを感じながら。
悠の空を見上げる、切なそうな表情を
俺は見逃さなかった。
「じゃ、私は電車で帰るから、またね」
「駅まで送ってくよ」
「ううん、大丈夫。ありがとう。じゃあね!」
笑顔で手を振り、駅へと向かっていった
悠の後ろ姿を、何とも言えない感情で見つめた。
「……じゃ、俺たちも帰りますか」
「……あぁ」
煌はバスで帰るため、バス停まで一緒だから
そこに向かって、並んで歩く。
「築茂さぁ、今日なんだかやけに
俺と悠を見て不機嫌そうだったよねぇ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる煌を
ちらっと見て反応を返さずに無視。
きっとこいつは、分かっているんだろう。
「スルーとか寂しいんですけど。で、
不機嫌だった理由は自覚してるわけ?」
「してる、と言ったら?」
「おぉ……マジですか。あーあ、築茂が
自覚しちゃったかぁ」
自分は前から知っていたかのような口ぶりに
眉間にしわを寄せる。
「俺は前々から気付いてたけどね?築茂が
自分から悠に名前を名乗った時点で」
「それはどうも。で、お前はどうなんだ?」
「俺ねぇー。築茂は俺になんて答えてほしい?
やっぱりライバル増えるのとか、嫌じゃん?」
「はっ!ライバルなどそんなものどうでもいい。
俺は俺のやりたいようにやる」
「……何か、今日1日で築茂、だいぶ変わったね」
「本来の俺が目覚めただけだ」
確かに煌の言うとおり、今日だけで俺の
気持ちはだいぶスッキリしていた。
というか、吹っ切れた感じがする。
今までどうでもいいことばかりだと言って、
力を注いだことなど、ない。
でも、なぜか。
悠だけは、手に入れたくなる。
「あーあ、大和や日向、玲央はどうするのかなぁ」
「あいつらはいい。問題はお前だ。お前の
悠に対しての気持ちは何なんだ?」
「俺、ねぇ……?まだはっきりとは分からないけど、
大切な人であることには間違いないよ」
認めない、ということか。
それとも、俺に遠慮して気持ちを言葉に
しないつもりか。
どっちにしろ、この気持ちを自覚した限り、
俺は絶対に負けない。
初めてほしいと思った、大切なものだから。
あいつは俺の心に入ってきて、もうこの先
ずっと、住み着くつもりだろう。
もちろん、出してほしいと言われても出す
つもりなどさらさらない。
あいつの言葉に、俺は無意識に救われていた。
悠自身は自分の言葉を忘れたとしても、
俺は一生忘れない。
あいつに言われた通り、俺はこれから自分の
部屋は自分で作っていく。
もう、父の言いなりにはなりたくない。
きっとまだまだ時間はかかるし、今は
この気持ちが芽生えただけでこれから
どうしようとか、そういうのは何も
考えてはいないが。
それでも、いつか必ず、父に俺の想いを伝える。
「冷めた現実に胸をえぐられながら生きるのは、
もうやめることにする」
父の、冷めた瞳に冷めた言葉。
理想など打ち砕かれ続けてきたが、もう新しい
希望も抱くことはしない。
俺自身で希望を作る。
「いくらこの世界が嘘にまみれて、黒い煙に
巻かれて黒ずんでたとしても、大地から
足を離すわけにはいかないからな」
父の表向きな顔、それは嘘の塊であり、
俺も父に嘘を重ね続けてきた。
逃げようとしても無理ならば、ここで
闘うしかないのだろう。
「……ふっ。あぁ、俺もそう思うよ」
隣で笑っている煌に視線は合わせず、
俺は心で『ありがとう』をそっと呟いた。
煌とバス停で別れてもうすっかり
暗くなった夜空を見上げる。
何処までも広がる天空の下
あの日あの時の夢の記憶が
光となり私に寄り添う
記憶は近く
眼差しは遠く消え失せ
ただ寂しさだけをここに残していく
儚い光も
花と共に散り
明日へと向かう夢の小道を探しに行く
浅き夢見る我が心は
浅き夢に向かい手を伸ばす
遥か彼方にある小さな輝きを求めて
私は探し続ける
遥か彼方まで
いつの日だったか悠が口ずさんでいた歌を、
耳の遠くで聴きながら。
悠のことを、想った。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56
この掲示板は過去ログ化されています。