コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
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- 第19音 ( No.185 )
- 日時: 2013/04/20 23:02
- 名前: 歌 (ID: oUAIGTv4)
柚夢は5歳のときからアコースティックギターを
初めて、暇さえあれば弾き語りをしていたらしい。
それからすぐに、私も音楽をやりたいと
いう強い気持ちが芽生えて。
柚夢のお母さん……いや、私のお母さんでもある
翡翠さんが弾いていた、ピアノに触れた。
ピアノを小学1年生で習い始め、さらに
歌を歌ったり自分で勝手に音を繋げたり、
その頃から私の音楽に対しての想いが
出来上がってきて。
柚夢のギターと一緒に合わせたり、一緒に
歌を歌ったりしている時間が、何よりも
大切な時間だった。
『悠。今日は駅で流れている音楽あるでしょ?
あれ、やってみようよ!』
『うん!!えーと、確か……』
駅でよく流れている音楽は、いつも学校へ
行く朝の8時に流れている。
耳で聞いただけの音を、思い出しながら
ピアノで音を、奏でる。
一生懸命音を拾っている私の姿を見ながら
柚夢の指は、静かに私の髪を掬う。
昼下がり。
冬が濃くなっていたその日も、柚夢の指は
ミルクティーの缶に添えられている。
『できた!!』
満足の笑顔を見せると、柚夢はミルクティー
よりもずっとずっと甘い表情で、ギターを抱えた。
ミルクティーに添えられていた指は、
ギターの弦とピッグに触れる。
そして、私が繋いだ音を、奏でた。
いつでも柚夢の指は、私の世界の音を紡いで
いて、頭を掻くのも、文字を書くのも、
ギターを弾くのも。
柚夢の隣には。
いつも、私と。
柚夢の指が奏でる音たちが、居た。
外では兄貴、もしくは兄と呼んでいたけど、
2人きりのときは柚夢と呼ぶ。
それは、柚夢から言われたことだ。
慶司さんが亡くなってから、親戚の家でも
この家でも、いつも柚夢と一緒にいて。
いつしか、お互い、男と女を意識するように
なっていた。
私と柚夢は常に背中合わせで、お互いの
存在を感じる。
私が笑い、柚夢は悲しむ。
柚夢が喜び、私は怒る。
私は喜び、柚夢は怒る。
柚夢が笑い、私が悲しむ。
行き違って、すれ違って、立ち止まって、
背中を合わせた私たち。
柚夢は、私を振り向かないし、私も柚夢を
振り向くことはしなかった。
振り向いてお互いを見たら、きっと
何かが変わる。
何かが、音を立てて、崩れるように。
怖いから、恐いから、私も柚夢も
振り向かずに『兄妹』の関係を保ってきた。
ただ背中から伝わる体温だけを感じて、
お互いの存在を確かめるみたいに
大切なものはすぐ傍にあるというのに、
息苦しくも、息をする。
それでも、いつか、必ず息切れを起こして
しまうのは当然で。
助けを求めるように、振り返ったのは、
柚夢のほうだった。
『………愛してる』
好きだよ。
その言葉は毎日のように、抱きしめられ、
耳元で囁かれていたけれど。
その言葉は、妹としての愛ではなく、
私を女として見ている、愛だということに、
気付かないわけがない。
それでも、その言葉を受け入れてしまったら、
私は一生柚夢から離れられなくなりそうで。
『愛、って何……?』
最後の我慢を、した。
『愛ってね、その人の幸せを願い続けること。
どれがどう真実とか不真実とか関係ない。
ただ、その人の幸せを願う心のことを
愛というんだよ』
『……私も、柚夢の幸せをずっとずっと
願っているよ?』
『本当?悠………僕の幸せは、なんだと思う?』
『何?』
琥珀色をした、柚夢の綺麗な瞳が、
愛おしそうに私を見つめながら。
『悠と、ずっと一緒にいること』
私の頬を、優しく、撫でた。
その指をぎゅ、と握りしめたまま、私は
柚夢の首に腕を絡めて。
『………私も!!』
耳元で必死に叫んだ私を、柚夢はおかしそうに
笑って、ちょっと拗ねた私の額にキスを1つ。
次第に、瞼、鼻、耳、首筋にキスを
落として行く。
『愛してるよ』
最後に落とされた、唇。
それが、今までお互いに背中合わせだった
関係を、向かい合わせにしてしまった。
14歳の、冬。
16歳だった柚夢と。
『兄妹』ではなく、『恋人』になった。
たとえ血が繋がっていなくても、戸籍上は
しっかり兄妹となっているんだから、
決して一緒になることは許されない。
ただの、シスコン、ブラコンだと思わせる
くらいで、特別な感情がお互いにあることは
誰にも話してはいけない。
私たちが、ずっと一緒にいるためにも。
関係名が変わってから、家では家政婦が
いなければたった2人きり。
愛し合える時間なんて、いくらでもあった。
夜は何度も何度も、柚夢に身体を求められては、
ギターを奏でるその指に、快楽を覚えて。
朝、目覚めれば、綺麗な顔をした柚夢が
すぐ隣にいる。
そんな最高の幸せが、これからもずっと、
続くんだと思っていたのに。
柚夢は、私とは真逆で、この幸せが続かない
ことを、最初から知っていた。
私が中学3年の夏、それは突然のこと。
慶司さんが亡くなった時のように、真っ青な
顔をした教師が、私の腕を引っ張った。
『お兄さんが、倒れたって!!』
幼かった私とは違う、伝えられなかった頃とは
違う、その意味を理解するのは、早かった。
すぐに柚夢が運ばれた病院に連れてってもらう
車の中、流れる景色を見ながら。
……あの時と、全く同じだ。
病院に着いた時、もう慶司さんは還らぬ
人となっていたから。
もし、本当にこのまま、柚夢まで死んで
いたら………私、どうすればいいんだろう?
そう思えば思うほど、病院に着くのが怖くて、
それでも早く柚夢に会いたくて、矛盾した
気持ちを胸に抱えたまま。
病院の中に、入った。
白いベッドの上で、点滴を打たれながら酸素
マスクをしている柚夢の胸が。
小さく、動いているのを見たときの安心感は、
一生忘れられない。
ゆっくり柚夢に近付くと、薄らと目が開かれて、
その琥珀色をした瞳が和らいだ。
『…柚夢…っ…!』
死んじゃうんじゃないか。
そう思いながら入った病室のせいで、柚夢が
まだここで生きているということだけで、
涙が溢れる。
『よかった…っ!死んじゃうかと思ったぁ……』
ぼろぼろと零れる私の涙を、柚夢は弱々しく
触れるだけで、いつものように力強く
拭うことはなかった。
……拭えなかった。
私が落ち着いた頃を見計らって、思いつめた
ような表情をした医師に連れられて。
診察室で聞かされた言葉。
柚夢の指だったものは、恐怖のように散らばって、
冷たい床で静かに笑った。
『お兄さんは………残念ながら、あと
半年かも…しれません』
半年……?
『末期寸前の、ガンでした』
なに、それ?
慶司さんと同じ、末期のガンで柚夢はもう
助からないって言うの?
手術すれば治るんじゃないの?
早く直せば、慶司さんみたいに死ななくて
すむんじゃないの?
医師なら、それができるんじゃないの!?
泣きながら、喚き散らして悲しそうな顔を
する医師にぶつけた言葉は。
私をあざ笑うかのように、意味のないものだった。
- 第19音 ( No.186 )
- 日時: 2013/04/21 23:07
- 名前: 歌 (ID: zbxAunUZ)
冷静さを失った私を、周りの看護師たちが
押さえつけなければならないほど、
私は暴れたらしい。
それでも、医師は病気を治すために存在
しているはずなのに、手遅れだと言われた
ときは、憎悪が芽生えた。
『……いくら、ですか。いくら払えば
柚夢を治せますか!?』
何が何でも、柚夢を失いたくなかった。
お金ならまだ慶司さんの遺産が残っているし、
全然大丈夫だと、思っていた……のに。
『悠さん……手術をするとしたら、最低でも
1000万はかかる大手術になります。しかし、
成功する確率は0.1%未満です』
ほぼ、どう足掻いても助かることはないと、
はっきり言われたけれど。
それでも、その0.1%にかけるしか、柚夢が
助かる方法はなかった。
『……やります』
すぐにその場で返事をすれば、医師たちは
難しい顔をしてばたばたとし始めた。
『お金は本当に大丈夫ですか?手術だけで
1000万ですが、それからの抗がん剤治療や
入院費を込むと2000万は平気で行きますよ。
まだ中学生のあなたにこんなことを言うのは
酷ですが……』
『私の家族は彼しかいないんです。絶対に
彼は死なせません。もし、お金が足りなくなり
そうなら、私が何とかします』
こうして、その日から2週間後に手術が
行われることになった。
通帳を確認すれば、慶司さんが残してくれた
遺産はあと2300万だった。
家政婦や私たちの学校費、食費などを
含んだら、もしかしたらこれから
生きていくお金は無くなるかもしれない。
それでも、私はすぐに1000万を病院に
下ろしてもらい、柚夢の手術は無事、
終わった。
『…柚夢……』
手術が終わってすぐに、痩せ細った柚夢に
駆け寄れば、私の顔を見て弱々しい笑顔を
見せた柚夢。
手を握り、何か、口を動かしているのを見て、
柚夢の口元に耳を近づけると。
『……愛し、てる………あ、りがと……』
これが、柚夢の最後の言葉だった。
言葉を言い終えた柚夢は安心したように眠りにつき、
次の日にはまた目を覚ますだろうと思っていた、のに。
柚夢が目を覚まさないまま、2か月が
過ぎようとしていた。
それでも、ずっと入院費は払い続けて、いつしか、
通帳には2万円の文字。
費用を払い続けるには、お金が必要だった。
私には柚夢以外家族も親戚もいないし、
まだ中学生で働くことなんてできない。
義援金をもらっていても、それでは全く
足りなかったから、やっぱり私が
お金を稼ぐしかない。
当時中学生だった私が、高額なお金を
稼げる唯一の、方法。
「だから私は、援助交際をしてたの」
こんな夢を何度も見続けている。
灰色の世界、立ちはだかる壁、壁、壁。
淀んだ空気、狭く濁った空。
慣れきった世界、心はいつもそこへ還る。
音符の欠けた騒音ばかりが響く、それでも
広がるのはただただ、無音。
柚夢は私の太陽だった。
虹色の世界に柚夢といればいられたのに、
誰も柚夢を追わない。
ただ心が、柚夢から安らぎを与えられる。
そうして柚夢は、ようやく眠ることが
できたかのように、瞼を閉じる。
『ねぇ、正義ってなんだと思う?』
なんて幼稚な私にただ何も言わず、寄り添って
見せた柚夢、抱きしめた柚夢。
そんな柚夢はいつでも笑顔で、みんなの
人気者で取られないかといつもヒヤヒヤもので。
だけど仇となんてたんだね、その魅力。
隠れて泣いてた。
涙はただ頬を伝って。
隠れて泣いてた。
私にばれないように。
自分の死が近いことを、知っていた。
太陽にも見えた柚夢だけど、ただ私の心を
取り繕うための微笑みだったの?
柚夢は寂しがりの甘えん坊で、いじめらないように、
ハブられないようにいつも、必死。
1人ぼっちは、格好悪くて怖いから。
私が居る限り、絶対に1人ぼっちには
ならないのに。
私を1人ぼっちにさせたのに。
痛覚、普段は我慢してばかりで、違和感、
本当に痛いときにしか柚夢は顔を歪めない。
辛そうな顔なんて、私に見せてくれた
ことがなかった。
あの日、柚夢を引き止めることも、
抱きとめることも叶わないと分かっていながら、
柚夢の後を追うことは、しなかった。
もししていたら、すべては変わっていたのかな。
私は死ぬのが怖くて、柚夢の逝ってしまった
世界なら綺麗だと思うのに、生きることを
諦めたくなかった。
さりげないその言葉は、すべて愛されたいが
ためだったというの?
違うよね、私だけでも信じていたいよ。
もういない柚夢。
私の世界から消えてしまった柚夢。
壊れてしまった柚夢。
1人でただ、絶望を謡い続ける。
柚夢の消えた世界は、白と黒の世界で、
刻々と消えてゆく記憶に、柚夢の
声すらもう忘れてしまいそうで。
柚夢のためならなんでもできると思った。
なんにでもなろうと思った。
生きて行こうと思った。
守りたいと思った。
聞きたいよ、柚夢にとって私は
なんだったんだろう?
何にもできなかったね。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
ごめんなさい。
柚夢の壊れた世界で私は、夢を見続ける。
柚夢のいない、世界の。
「柚夢が死んだと知らされて病院に行ったとき、
私は怖くて柚夢の顔を見ていない。すべてが、
真っ白の世界に見えたんだ」
もう、数えきれないほど見上げた、空。
分かるかな、どうして私が空を
好きなのか、何でいつも空を見上げているのか。
空、だけは。
空と、だけは。
柚夢と繋がっていると、思えるからだよ。
「それからしばらく放心状態で、1週間経った時、
柚夢も慶司さんと同じように高額の保険を
かけていたことを知った。柚夢も慶司さんも、
お金があれば死んでもいいと思ってたのかなぁ」
零れ落ちた涙は、もう渇き始めている。
誰の目も見ずにただ、空と海を見つめては
全身で風に包まれる。
次第に薄墨色に変わり始めた空を
見上げたら、どこか物問いたげな、その表情。
白いペンキのように、白く、白く、
世界を全部白く塗り替えよう。
私のこの手は、どれだけ塗れただろう?
「それから今までずっと、私は精神科の病院に
通っている。柚夢が死んでから、ご飯を
食べるとすぐに吐いてしまうんだ。今もね」
精神的ショックとストレス、疲労の
せいで、私は今でもまともに食事をとることが
出来ずにいる。
飲み物や軽くなら、次第に食べれるように
なってきたけど、それでも成人女性の
4分の1にも満たない。
「だから栄養剤を毎日飲んで、何とか今まで
生きてこれたって感じかな?」
生きていること事態が、自虐なのかもしれない。
- 第19音 ( No.187 )
- 日時: 2013/04/22 21:36
- 名前: 歌 (ID: n3KkzCZy)
薄墨色に幸い覆われていない、青い空の
中を飛ぶ1つの、飛行機。
そういえば、幼い時、よく柚夢と紙飛行機を
作って飛ばしてたっけ。
柚夢の作る紙飛行機はとてもよく飛ぶのに、
私の紙飛行機は、いつだって、墜落した。
あのさまは、着陸とは呼べない、墜落だ。
私は紙飛行機を作っては空に放つことが
できるけれど、無事に着陸させてやることは
一度だってできたためしがなかった。
もし、神がいるなら、同じことだ。
人間を造って、世に放つけれど、
ただ、それだけ。
幸せにしてやることなんて、できやしない。
大地は叫んでいる。
血は飲み飽きた。
涙は飲み飽きた、と叫んでいる。
柚夢と笑いあいながら過ごしていた時は、
私たちが笑っている隣で死んでいく人間なんて
どうでもいいと思っていたのに。
昔の自分と同じような人間を、その時は
心から、憎くて憎くて仕方がなかった。
「柚夢が死んだ世界でも、生徒は机に向かい、
教師は教壇に立つ。何もなかったかのように。
それがその時の私には、とても辛くて、
憎くて、苦しかった」
生きたくても生きれない人間がいることを、
日々考えながら生きている人間には
生きて行ってほしいと思うけれど。
そんなこと考えながら生きていくなんて、
重すぎるだろうから。
誰かのための誰かは、たぶんいないはずな
この現代日本でも、誰かのための誰かに
なっているパラドクス。
そうして社会が出来上がり、とても
大きく透明な手で歯車は今日も
回されている。
死んだ人間なんて、最初からこの世に
存在していなかった、かのように。
教師やクラスメイトは、柚夢が亡くなった
ことを知っていたせいか、ずっと
私を気を遣う毎日で。
可哀想、大丈夫かな、1人じゃないよ。
そんな言葉が飛び交う教室に通っている
自分が、惨めだった。
誰も、知らない世界へ、行きたい。
これまでの私のことも、柚夢の存在の
ことも最初から知らない人しかいないところに
行って、そこでひっそり生きたい。
たとえ、孤独でもいいから、人を憎む
自分にはこれ以上になりたくなくて。
「これが、私1人で沖縄に来た理由。日本の
最南端で、誰も知っている人がいないから。
もう一度ここで、生きようと思ったの」
私たちは、風船。
夢や希望で胸を膨らませていないと、
生きていけないんだ。
空っぽで、ぺったんこなままでは、
生きていけないんだ。
ふわりと空に浮かばない風船は、恨み辛み
くだらないプライドなんかで、心がいっぱいに
なっているんだと思うから。
重く沈んだまま、はち切れそうになるほど。
ふわりと、軽やかに宙を遊ぶ風船は、
愛、優しさ、いっぱい詰まっている。
ほわほわ、ぽかぽか、命を目いっぱい
楽しんでいるんだ。
私たちは、風船。
何かで胸を膨らませていないと、
生きていけないんだ。
光や期待で心を膨らませていないと、ふわり、
舞い上がることができないんだ。
「……私の過去って、暗いものばかりだと
思うでしょ?でもね、私は生まれ変わっても
また自分でありたい。そう思える自分でいるよ」
気付けば。
私の話を聞いていた7人、全員が、
純粋で綺麗で透明な、涙を……流していた。
その姿がさらに、私の視界を滲ませる。
「柚夢が死んで、2年3か月。日に日に薄れていく
柚夢との想いでを忘れたくないと思っていたけど、
違ったみたい。……忘れない、きっと、ずっと。
起こったすべてを……っ…忘れないっ!!」
最後は、溢れる涙に喉が詰まれそうになりながら、
吐き出した言葉に。
「……ここに来るまで強がって我慢してきた涙は、
今、流せばいいんだよ」
「あぁ、そうだな。何が悠の幸せで、何を求めて
いるのか。答えは意外とシンプルで、こうして
生きていることが嬉しいんだ」
切なげに微笑む日向に、鼻をすすった煌。
「人生は振り返った時にしか、本当には分からない。
今ここにある涙も。あの時受け止めた、別れの意味も」
「初めて見た悠の泣いた顔も好きだけど、
やっぱ笑ってる顔が一番、好きだわ!
笑いすぎて死んだ奴なんて、いないしさ!」
眼鏡の奥で細められた瞳に、相変わらず
空気は読めないけど元気づけようとしてくれる
空雅の言葉。
「…寒さを、震えた人ほど……太陽を、暖かく、感じる。
人生の悩み、を……くぐった人ほど、生命の
尊さを…知る。人は、いつだって……いろんなものに、
さよならを…言わなければ、いけない」
「泣いたり笑ったりした後に、空を見上げて踏み出す
一歩は、本当の第一歩だって、何年後かの
自分がきっと笑顔でそう言っているはずだ」
静かに囁く玲央に、必死に堪えようとしていた
涙を堪えきれなかった、大和。
声を出すことすらできないほど、涙で
歪んだ表情の大高。
……あぁ、私って。
こんなにも、愛されていたんだ。
ねぇ、柚夢。
いつもね、ただ柚夢の面影だけを、
探していたんだ。
心の記憶を、1つ1つ、柚夢の元へ辿るように。
私には見せてくれなかった、柚夢にしか
分からない涙の意味があったんだね。
だから柚夢は、私の涙もまた、そっと隣で
くみ取ることができたんだね。
繋がってる、よね。
今もずっと、これからもずっと、
目に見えないだけだね。
大切なのは、過去を嘆く今ではなくて、
今を変えようとする未来への意志。
過去の結果としての今より、未来への進化と
しての“今”を大切にしていけたら。
想いのまま、心のまま、私の今日を、
私の人生を、歩けるよね。
「……そっか。いつの間にか、私の人生が
思い通りにいかなくなったと思ってたのは、
私の人生がいつの間にか、たくさんの人の
人生と重なっていたからだったんだ」
それだったら。
たとえ、苦しいことも辛いことも悲しいことも、
これから増えていくとしても。
うまくいかないことを嘆くより、大切な人が
たくさんいることを幸せに思おう。
「その通りだな。きっと、孤独だと思っていたら
孤独を探すし、幸せだと思ったら、幸せを
探すんだ。俺たちは今も、これからも、自分を
探す旅をしていくんだろうな」
「さすが煌、言ってることがカッコよすぎ!」
「大和には負けるし!」
柚夢、私は幸せです。
涙の数よりずっと
苦しさの数よりずっと
私は笑ってる
私は歌ってる
生きていくことの辛さを
何度経験し続けていても
苦しさになんて慣れない
そんなときはいつも思う
道端に咲いた花だって
私たちが知らないだけで
意味があるんだって
私たちが気付いてないことは
この世界にまだまだあるってね
1つや2つなんて
全然数のうちじゃなくて
数百や数千になって
初めて結果がでるものでしょ?
生まれて死んでいくまで
何度だって何千度だって
立ち上がればいい
そして最後に幸せの数が
一等だったら
何も言うことないでしょ?
涙の数よりずっと……
そんな理想的な夢を
数百や数千描き続けて
ねぇ、生きて行こうよ
誰も聴いていないかのように、歌った。
- 第20音 ( No.188 )
- 日時: 2013/04/23 12:45
- 名前: 歌 (ID: B81vSX2G)
コオロギの奏でる音に、起こされた
今日の朝。
夕べもあんなに頑張っていたのに、一晩中。
何のために。
誰のために。
私は耳を澄まして、癒されていた。
何のためでもなく。
誰のためでもなく。
どこで奏でているのか、探したけれども、
揺れているのは萩の花だけ。
陽は昇り、動き出した今日に紛れて、
彼らはタクトを置いた。
「神崎会長!パイプいすが20個足りません!」
「図書室の倉庫と家庭科室は確認した?
そこにまだあったはずだから見てきて!」
「神崎先輩!マイクの音量、調整したので
確認してもらっていいですか?」
「分かったよ!マイクテストして!」
「三線の最終テストしたら、3つの三線の
弦が切れていました!」
「分かった!後で直しておくから先生にすぐに
弦を買ってきてもらうようにお願いして!」
音楽祭、前日。
生徒会、放送部員、音楽祭実行委員を中心に、
体育館では準備が着々と行われていた。
白と赤の横断幕、500ものパイプイスの間に
敷かれら、レッドカーペット、派手に
創られた音楽祭の飾り付け。
チームごとに作られた、優勝を目指す
色とりどりの旗。
明日に迫った音楽祭に向けて、ハプニング続出
しながらも、私は生徒会長として淡々と
指示を出していく。
2階に設置されているライトアップ、カメラを
確認して司会者に笑顔で話しかける。
明日の音楽祭を成功させるために、たくさんの
生徒が緊張と期待と楽しみを抱えていた。
「悠、お疲れ様」
「日向!お疲れ!」
差し入れ、と言いながら渡されたペットボトルの
お茶を受け取る。
「やっぱり、すごいなぁ。悠の力って感じ。
こんな舞台で明日、一番最後に演奏するのか……。
ちょっと緊張してきたかも」
「えー早い早い!でも本当に一般のお客さんも
かなり入るみたいだから、楽しませないとね!」
「あぁ。悠のその笑顔なら、何の問題もないかな。
今日、練習したら最終確認もしっかりしないと、
間違えたら大変だ」
「日向は大丈夫だよー。問題は空雅と大和と玲央だな。
あのバカたちは本当に心配だから、煌たちに
見張っててもらわないと!]
「ははは!まぁ、きっと大丈夫だよね」
お互い笑いあう姿を、周りから好奇心の目が
向けられていることは、もうどうでもいい。
顔を赤くしたり、羨ましそうに見ている人も、
1か月前の出来事なんて、なかったことのよう。
私の過去を打ち明けて以来、一度は壊れて
しまうかと思った6人との関係も。
全員が涙を流しながら言いたいことを言った
おかげで、清々しい空に迎えられた。
前の関係とは比べものにならないほど、ずっと
ずっと強い絆と心で繋がった、私たち。
音楽祭でやる曲もしっかり決め、最高の
ステージを披露するために、今まで
ぶつかり合いながらも、練習を重ねてきた。
私の過去を打ち明けて、私が1つの歌を
歌った後。
『今の歌、最高だったから音楽祭でそれ、
歌おうよ。一番、最後に』
そう言ってくれた日向に、意味を理解していない
大高以外、全員一致で頷いていた。
大高にはその場で理由を説明して、これからも
友達としてよろしく、と固く握手。
『俺、やっぱ生きてて本当によかった。
考え方1つ、感じ方1つで出逢う景色は全然
違ったものになるんだな。希望さえ
手放さなければ』
『大和の言う通りだ。自分が生きているという
快感がないまま、生きたって記憶も何もないまま、
この世から消えることほど怖いものはない』
ふ、と微笑んだ大和に、出逢った頃とはまるで
別人の築茂の言葉が並べられれば、心の
かたちがまとまっていく。
『私、生きることが大好き!!生きる理由なんて
考えられないくらい、好きだから生きてる』
掬い上げた、空の青。
風の、緑。
私たちはみんなで、上を向いて、泣いた。
自然は清々しいばかりではなく、私たちに
何の意見も文句も言わないのだから。
空から見たら私たちの涙なんて、私たちの
人生なんて、ちっぽけなのかもしれない。
だけど、私は今のこの人生を、もう一度そっくり
そのまま繰り返してもかまわないという
生き方をしていきたい。
出来るならば、なるべく長く、今
目の前で一緒に涙を流してくれている、
彼らと、共に。
「……い、…先輩!神崎先輩っ!!」
「え、あ、逢坂くん?」
「もう、さっきっから名前呼んでるのに全然
気付かないんですもん」
「ごめんごめん!ちょっとぼーっとしてた!」
「……何か、とてもにやけてましたけど」
「げ、嘘……」
「まぁ、そんな先輩もめちゃくちゃ綺麗で
可愛くて見惚れましたけどねー」
「………あはっ」
いかんいかん。
黄昏てたり隙を見せたりすることは、今までの
私なら絶対にあり得なかったのに、最近、
自分でも分かるくらいぼーっとしてる。
平和ボケ、かもしれない。
「……先輩、僕、先輩のこと本気ですから!」
「うん、ありがとう。でも何度でも言うけど
逢坂君の気持ちには答えられないから
早く違う人、見つけたほうがいいよ?」
「それでも!絶対に、振り向かせますから」
「はいはい」
逢坂君に告白されたのは、つい先週のこと。
遅くまで音楽祭の準備で生徒会室に残ったのが
私たち2人だけだったとき。
突然、話を切り出された。
だけどもともと、学校の後輩としか見ていなかった
から、逢坂君にはしっかり振ったつもり。
それでも全く怯むこともなく、今でも
ストレートに伝えてくれる。
「誰が、振り向かせるって?」
と、後ろでにこやかに笑みを浮かべながらも、
どす黒いオーラと一緒に現れた日向が
逢坂君を挑発するように、見る。
「もちろん、僕が神崎先輩をです。
荻原先輩にだって負けませんから」
そんな日向に平然とこんなことを言える
逢坂君は、只者ではないな。
ほら、明らかに青筋を立てて静かに殺気を
出しているじゃないか。
やめてよー、日向を怒らすのはもう
こりごりなんです。
しばらく日向の黒いオーラを背中で感じながら、
静かににらみ合っている2人を無視して、
コンピューター室に向かった。
今、コンピューター室ではプログラムを
作っているところだから、進み具合によっては
手の空いた生徒を向かわせなければいけない。
「みんなお疲れ様。どんな感じ?」
「神崎会長!お疲れ様です。後、一般人向けが
100部綴じれば終わります」
「そっか。この人数で大丈夫そう?何人か
ヘルプに来た方がいい?」
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます!」
「うん、じゃぁ大変だと思うけどお願いします」
「はい!」
みんな早く帰りたいはずなのに、誰一人嫌な
顔せずにやってくれている。
それだけ、みんな明日の音楽祭を楽しみに
しているということ。
ふと、ドアに手をかけてコンピューター室を
ぐるっと眺める。
……ここで、大高とヤってしまったんだな。
普段、生徒が授業のために使用する場所で
してしまったと考えるだけで、自分の
愚かさを痛感する。
もしかしたら、コンピューター室に入るたびに
毎回毎回、思い出すのかもしれない。
大高、自身も。
もし、そうなったらあの日のみんなの言葉と涙を
思い出せばいい。
一生消えることはない過去だけど、私の中で
薄れていくことには間違いないから。
彼らの言葉が心に生き続けている限り、
絶対に大丈夫。
まだ、ドアのところで立っていた私に怪訝な
視線が送られていることに気付いて、
すぐに笑顔を向け、ドアの外に出た。
- 第20音 ( No.189 )
- 日時: 2013/04/23 21:07
- 名前: 歌 (ID: k9gW7qbg)
プログラムと生徒会用の計画表をもう一度
確認する。
ゴスペルが最大人数の約150人を3つのグループに
分けて、歌声を響かせる。
三線は沖縄の人間なら、小学校の時から
音楽の授業でやるからほとんどの人間が
弾けるため、約120人を3つのグループに
分けて演奏。
人数分の三線を用意するのは容易なことでは
なかったけれど、持っている生徒が多かったのと、
団体から借りることができて何とか集まった。
ハンドベルも約70人を3つのグループに分ける。
そしてバンドは、約20人で4、5人のグループが
4つあり、最後に私たちのスペシャルライブと
いう構成だ。
それぞれ、パフォーマンスや制服の着こなし、
舞台でのお辞儀なども審査の対象に入れた。
生徒たちには誰がライブをするのか、全く
知らされていないし、もしかしたら私たちを
知らない人も多いはず。
だけど、これをきっかけに私たちの音楽を
好んでくれる人が増えてくれたら、とても
嬉しい。
「悠!!」
「あれ、空雅もまだいたの?」
「もっちろん!力仕事してきたぜ!」
「それはお疲れ。ありがとね」
「おう!でさ、今日ももちろん練習するだろ?
何時に行けばいい?」
「なんだったら日向もまだいるから一緒に
帰る?少し遅くなっちゃうかもしれないけど」
ちょっと声のトーンを落とした空雅は、少しは
学習能力のある奴だ。
「了解!じゃぁ他にやることないか、探して
くるわ!後で電話してくれ!」
「あいよー!」
元気よく走って行った空雅の後ろ姿を
見つめながら、無意識に笑みが零れた。
もう少しで日が落ちる、という時間。
鮮やかな橙色から深い群青色に染まりくる
空を見上げれば、それはそれは見事な羊雲。
瞳に飛び込んだ、秋のヴィジョン。
本当に羊の大群が空を横切るかのような
ダイナミックに流れる雲を眺めながら、
その雲の数を、数えた。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が……」
「おいおい、悠!そんなこと今から言ってたら
眠くなっちまうだろ?」
「あはっ。だってあまりにも綺麗だったからさ」
「確かに綺麗だけどキリがないし、大和たちも
待っていることだから、急ごうか」
自転車を押しながら歩く空雅と、甘い
笑顔で微笑む日向に挟まれながら、
秋のヴィジョンを楽しむ。
どこか懐かしい風を、ちょっと火照った私の
頬が覚めるのを感じた。
「あーいよいよ明日かぁ……。いくら顔は見られない
とは言っても、やっぱり緊張するな」
「そうかぁ?俺はもうめちゃくちゃ楽しみで
不安なんて一つもないんだけど!」
「空雅のその意気込みが私たちには不安だよ。
私は演奏よりも顔がばれないかのほうが
心配で仕方がないんだけどね」
「まぁ大丈夫だろ!!楽しもうぜ!」
181cmの空雅と178cmの日向に挟まれていると、
いくら165㎝ある私でも小さく見えるんだろうな。
注目されていることは、全身で感じる
視線ですぐに分かるけれど、それも
今となっては日常茶飯事のことだ。
6人のうち誰かとコンビニや買い物に出かける
だけでも、かなり見られていることは確か。
いつも一緒にいるからあまり気にしていなかったけど、
やっぱりそれほど彼らは目立つ容姿をしている。
……慣れ、って怖いですね。
家に着けば、すでに部屋の明かりはついていた。
すぐ目の前の大和と最年長の煌には、
もう結構前から合鍵を渡している。
半同棲、と言ってもおかしくない生活を
今まで何とも思わずにしてきたけど、
愛花にでも言ったらいろいろと突っ込まれそうだ。
「ただいまー!遅くなってごめんね」
「お、お帰り。あとお疲れ。ジュース買ってあるから
好きなの適当に飲んでちょっと休んだほうがいい」
「大和ってば気が利くぅ!」
アルトサックスのマッピを調節しながら気を
利かせた大和に、空雅は早速炭酸に手を伸ばす。
「空雅!だから手を洗ってからだっていつも
言ってるだろ?」
「へいへーい」
それをいつものように、日向に手を叩かれて
阻止されていた。
「……おか、えり」
「玲央、ただいま。ご飯は何か食べた?」
「ん。コンビニで、肉まん…買ってきた」
「お帰り。ってか玲央!いつもいつも
悠に引っ付きすぎ!暑苦しいだろ」
「………ごめん」
のそ、とソファに寝転がっていた玲央が
起き上がるや否や、私の背後から私の首に
腕を回して微笑んだ玲央を。
つまむようにして引き離した煌に、
思わず苦笑が出た。
「悠、悪いんだが松脂貸してもらえるか?
今日大学に置いてきてしまったらしい。
明日取りに行くから音楽祭には問題はない」
「うん、分かったよ。じゃぁ先に肉まん
食べてから最終確認、始めよっか!」
バイオリンの弓につける松脂がなければ、
綺麗な音は出ない。
築茂に頷いて見せてから、それぞれに肉まんを
皿の上に準備した。
こうやって、言いたいこと言い合って、前よりも
さらに彼らとの距離がぐっと近づいたことが
今の私には何よりもの幸せ。
あの時は、すべてを捨てる覚悟で話したけど、
誰一人、私を軽蔑する人はいなかった。
本当に、彼らとの時間は生きているって
感じられる、楽しさがある。
「さ、食べ終わったことだし、明日の音楽祭に
向けて最後の練習しますか!」
いつもの煌の掛け声でそれぞれ、楽器を準備。
今回やる曲は、動画再生回数が最も多かった
カノンロックと、同じように人気だった
最近のJ-Popのカバー。
そして最後にあの日、私が歌ったオリジナル曲を
アカペラで歌う。
空雅は、カノンではドラム、J-Popでは
トランペットを使う。
私も、カノンではエレキバイオリン、J-Popでは
ピアノを担当するから、その間の準備を
素早くやらないといけない。
そういったこともすべて含めて、リハーサルの
ような形で、練習をした。
「うん、もう言うことなし!これ以上はやっても
楽器に負担がかかるからやめとこうか」
健康のためには、腹八分がいいって
言われているし、仕事も趣味も腹八分が
いいと思うんだ。
心の健康のためにね。
今日はもっと頑張れるって思うときだって、
あえてそれ以上は頑張らない、無理をしない。
何だって、腹八分がいいって気がするんだ。
「そうだね。明日は早いし、順番で風呂入って
早めに寝たほうがよさそうだね」
「おう。じゃぁいつも通りの順番で入るか」
既にお風呂をためてくれていた日向に、大和が
返事をして、いつも一番最後の私は
メールが何件か来ていたことを思いだして、
携帯を手に取った。
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