コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
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- 第13音 ( No.140 )
- 日時: 2013/02/09 17:02
- 名前: 歌 (ID: kJLdBB9S)
どく、ん。
「答え、教えろよー!気になるじゃんっ」
「だから当てたら素直に言う、って
言ってるでしょー」
胸の奥底で、心臓の震える、音が。
「こうなったら片っ端から言ってやるぜ!」
「地震ー」
「噴火」
「宇宙とか?」
「宇宙人、ライオン、オオカミ!それから……」
闇を裂く、白い声。
あの人が吐く言葉は、凍てつく想いで、
胸を刺す心。
楽しそうに、おもしろおかしく、私の
怖いものが何かを考える彼らを、目の前に。
1つ、分かったことが、ある。
少なからず、築茂は私の一部の何かを、
掴もうとしている。
それが、もう6人全員でのことならばなおさら、
私は距離を置いて行かなければ、ならない。
「全部外れですねー」
「何でだよー。本当はもう何か当たってて
しらばっくれてんじゃね?」
「違いますー。別にそんなに気になるような
ことでもないでしょうに」
「いや、気になるな。ちょー気になる」
「大人げないですね、煌さん」
事前の懺悔に免罪符を願うことなど、
私はしたくない、から。
「じゃぁちょっと休憩して私から謎々
出してあげる」
「お、何々!?」
「丸くてときどき三角や四角になるもの、
なーんだ?」
私から、みんなに出す謎々。
「はぁ?なんだそれ?」
「んー難しいなぁ」
答えはね、人の心の表情。
笑ってるときは丸くても、怒ったり
悲しんだり、時には気持ちが
へこんじゃう時もある。
そういう時は、三角や四角。
でもまれに、表では笑っていても、
楽しそうにしていても。
歪んだ丸になるときが、あるよね?
今のみんなの心の表情は、
どんな形なんだろうね。
「悠!答え!」
「ふふふ、そんなものこの世に
ありませーん!」
「なんだしそれ」
私の心の表情は、どんな形、なんだろう。
眉間にしわを寄せる大和に項垂れる空雅を
無視して、携帯をマナーモードに設定した。
これでもう、変な目で見られないはず。
「それで、悠の夏休みはどんな
感じなの?」
はぐらかしていたことを忘れることなく
突っ込んできた煌の声に、ゆっくり携帯から
視線を上に上げる。
「あ、そうだった」と、空気の読めない
空雅は呑気に言ってる、けど。
なんとなく、もうみんな気付いてる。
「そんなに聞きたいなら言っておくけど、
残念ながら私、かなり忙しかったりする」
「理由は?」
「新生徒会選挙の準備、ディベート研修会、
来年の新入生説明会、そしてバイト」
最後の単語を聞くまでは、首を傾げたり
頷いてたりしてたんだけ、ど。
バイト、と言った瞬間にそれぞれさまざまな
反応を見せた。
空雅は「は!?」と驚き、大和と築茂は
ぐっと眉を寄せ、煌と日向はきょとん、
変わらないように見える玲央は、
微かに目を見開いた。
「バイト!?お前、バイトなんかやってのか!?」
「夏休み限定のバイトですよ。知り合いの
飲食店が毎年夏休みは忙しいから
手伝ってくれ、って言われてるの」
黄色い声を上げる空雅に、めんどくさい
ながらも言葉を返す。
「本当に悠って忙しいんだね……。それ
プラス、バンドの作詞作曲もやるんでしょ?」
「まぁね。でもそれは大丈夫。今年は
君たちがいてくれてるから」
心配そうに言う日向の言葉に、さらっと
言葉を投げ返す、と。
「え、どういうこと?」
「はい?」
「お前、まさか……」
「んん?俺たち何かするわけ?」
「……はぁ」
日向、煌、大和は分かっていながらも、
困惑しているようで。
空雅に至っては、やはりバカだから
遠回しな言い方は、効かない。
築茂はもう呆れ返ってため息だし、
さすがの玲央は無反応。
ふふふ、と含み笑いで全員を見下ろす。
「そりゃぁ、君たちが作詞作曲するんです。
何のためにうちに呼んでると思ってるのさ」
口角を上げて、満面の笑みで宣言すると、
嫌そうな顔をしているのが2名、驚いてるのが
1名、顔が引きつっているのが2名、
無表情が1名。
さぁ、誰だか分かるかな?
「私がいない間もここに出入りしていいし、
好きなようにやっていいから!」
「いやいや、それはまずいだろ」
さすが大和、見た目はチャラ男、頭脳は
律儀、性格はバカ。
「バカはお前だ、バカ」
「あれ、聞かれてたか……。ま、でも
本当に合鍵渡しておくからさ。
はっきり言ってみんな、かなり音楽の
才能あるし大いに期待してます」
「さ、作詞に作曲?無理無理無理!俺、
そんなのしたことねーし……」
「そんなのやる前から決めつけないの!」
「でも俺も自信、ないなぁ。音楽って言っても
サックスを吹くことと歌うことしか
してこなかったから」
「確かに。それに俺と築茂なんかは思い切り
クラシックだから、バンドとかがやるような
曲は難しいかも…」
ありゃりゃ、みーんな自信がないみたい。
「別にやってみるだけならいいかもな。
それをバンドにやるかどうかは別として」
「大和に同意だ。やるだけ無駄ではないだろう。
ただコンクールを終えてからの話だが」
「……俺、やってみる」
お、こちらの3人はやる気みたいですね。
確かに築茂と煌は吹奏楽部の練習もあるから、
そっちが落ち着いてからじゃないと、
集中できないか。
それにしても築茂、なんだか最近、物事に
結構積極的になったなぁ。
「なぜニヤニヤしてる。不気味だぞ」
「へへへ。いや、なんか築茂、変わったなぁって」
「……気のせいだろ」
相変わらず素直じゃないし、睨むとこは
変わっていない、けど。
それでも前より全然、心が違う。
- 第13音 ( No.141 )
- 日時: 2013/02/12 07:08
- 名前: 歌 (ID: p17IpJNR)
でもそれは心の中だけにしといて、
築茂から視線を外した。
「作詞作曲って言うと、すごく気難しく考える
けど全然そんなことないの。それに
6人もいるなら、いろいろな意見が出し合える」
「そうかなぁ……」
まだ不安そうな日向に、笑みを向ける。
「そうだよ。人の力は空気のように伝わるし。
それに意見がぶつかり合えばぶつかるほどいい。
全員が同意する会話ほどつまらないものは
ないからね」
きっと、彼らなら、いい詞と曲を
作ってくれる。
あんなにも、いい音楽を、持っているんだから。
「誰かに足りないものは、誰かが持ってる。
全員が持っていないものは、一緒に
見つけていけばいいんだよ。ほら、
いつもみんなで演奏するときみたいに」
うん、だってほら。
みんな、自分の可能性を手に握って、
目を輝かせているじゃん。
ただまだやったことがないくて、自信が
ないから素直に頷けないだけ。
勇気がいるのは、初めの一歩、だけ。
「……よし、やってみますか!それに
悠に言われたらやるしかないでしょ!」
「おっ、さっすが煌!」
「うん、俺もやるよ」
「だったら俺もやるに決まってるでしょ!
ぜってーに悠を驚かせてみせるからな!」
やる気が出た3人に、大きく頷いて見せた。
「もちろん、最初はコツとか教えてくれよ?」
「分かってます。えーとね……」
大和に言われて、作詞作曲のポイントや
私の裏ワザ、コツなどを伝授していく。
笑いも交えながら、熱心に聞く6人が、
とても頼もしい。
「こんな感じかな!じゃぁ早速、手慣らしに
今から作詞だけでもそれぞれ考えてみる?」
「え、マジで!?もうやんのかよ……」
「大丈夫だって!まずは素直に自分の感情を
書いて行けばいいんだから」
部屋からルーズリーフとペンを持ってきて、
6人に配る。
「お題を決めたほうが書きやすいかな。
んーじゃぁね、台風!台風にしよう!」
「台風?なんだよそれ」
「ほら、近々かなりでかい台風が沖縄に
くるらしいし」
「いや、そういうことじゃなくて。台風を
テーマにした曲なんてあるわけ?」
大和の言葉に5人も同意を示す。
あぁ、そうか。
「よし、じゃぁまずは私がお手本を
書いてあげる!」
そして私は今思いついたものを、すらすらと
手を休めることなく、ルーズリーフに綴った。
すすき野がざわめきはじめた
やつがくる
とりたちが 寝床へ逃げ込む
蟻たちが 急いで巣穴を塞ぐ
やつがくる
波が やつを運んでくる
風が やつを仰ぎたてる
雨が やつを狂わせる
やつは どんどん大きくなって
やつは 町を支配する
みんなは やつにひれ伏して
みんなは やつに怯えている
待っている
あの木は あんなに揺らされて
待っている
あの木は 雨でびしょぬれで
待っている
あの木は 決して屈しない
待っている
あの木は きっと待っている
月が出るのを待っている
たぶん あの木は信じてる
雲の向こうで笑ってる
なにより 綺麗な名月が
必ず姿を見せるのを
「この中には台風っていう単語は
“やつ”で表しているの。台風に対して
周りのものがどんな感情でいるのかを
想像してみた」
「……すげ。やっぱ悠の頭って異常だわ」
「大和、それ貶してるでしょ」
「いやいや、大和のこれは褒めてるんだよ。
でもやっぱりプロは違うなぁ」
「ありがと、日向。でもこれはかなり駄作だよ。
今適当に考えたやつだし。まぁ
詞っていうのは最初は自由でいいの。
後から少しずつ修正していけばいいから」
「なるほどなぁ。でも悠のを見たらますます
台風だとやりづらくなったんだけど」
煌が苦笑して言葉を漏らす。
「お前は才能がありすぎる。少しは
自覚しろ」
「あ、築茂が褒めてるー」
「うるさい」
「でも確かにこれは難しいかぁ。じゃぁテーマは
恋愛でも友情でも家族でもなんでもいいか。
まずは何かしら書いてみて、余裕があったら
台風をどっかに入れてほしい」
「……比喩、表現」
「お、玲央が知ってるとは以外。そう、比喩を
使えたらやってみて。すると深くなる」
「質問でー……」
「空雅、お前は素直な気持ちを書きなさい」
こいつに説明するのはめんどくさいから、
諦めることにした。
それからそれぞれ、詞を書くことに集中する。
日向と煌はすらすらとペンが進んでいて、
大和はとりあえず単語を並べている。
築茂は何を書こうか計画的に頭で
考えているって感じだし、玲央は
ルーズリーフとにらめっこ。
そして、一番大変そうな空雅は、
消しゴムを左手に常備していた。
「むむ……こんなのはダメだ。いやー、
やっぱり入れたい…。でも変だよなぁ」
などと、ぶつぶつ独り言を言っている。
一向に進まなさそうなので、ちらっと
紙を除いてみると。
消しゴムのカスが大量発生してるだけだった。
「空雅、書き綴る言葉をどうしてすぐに
消しちゃうの?その時はその言葉が
空雅の真実だったのに」
「え?」
「いいんだよ、うまく書こうとなんて
しなくて。ありのままの自分の言葉を
まずは並べてみるの。そしてからまた
次の段階に進めばいいんだから」
「ありのままの、自分……」
「うん!」
すると、意識をペンに集中させて
物凄い勢いで書いていく空雅。
どうやら、吹っ切れたらしい。
そんな空雅の姿がちょっとだけ、可愛く見えて、
ふっと頬が緩んだ。
それから15分後。
「こんな感じかな?」
「煌、できた?見せて見せて!」
書き終えたらしい煌の紙を受け取って
読んでみると。
強い風は傘達を飛ばして
ひどく汚れた雨が降る街
迎えに行く者
仕事をする者
誰かを待つ者
皆平等に傘を飛ばす
それが突き刺さろうとも
赤い傘は心臓を射抜く
黒い傘は太陽を沈める
青い傘は全てを凍てつかせ
白い傘は何もを残さない
晴れ渡る道の脇で
土砂降りの雨
傘を持っていないと
くつろげる部屋の真ん中
台風のような雨
傘だけでも持っていないと
「おー!傘の使い方がうまいねぇ」
「ちょっとシリアスな感じにしてみた。
でもやっぱり難しいね」
自信なさげに曖昧に笑う煌だけど、とても
いい線いっていると思う。
まぁ、ちょっと歌詞の意味を理解するのが
普通に歌うだけでは難しいかもしれない。
- 第13音 ( No.142 )
- 日時: 2013/02/13 07:34
- 名前: 歌 (ID: bUOIFFcu)
「よし!俺もできたぜっ」
「お、空雅以外に早かったじゃん」
「ありのまま、って聞いたらなんだか
勝手に手が動いた感じ。どうよ?」
嬉しそうにはにかんだ空雅から紙を
もらい、下手くそな字で書かれた文字を読んだ。
君と出会って
いくつの年月が流れただろうか?
空は何度表情を変えただろうか?
晴れの日君と木登りして
はだしで駆け回った
曇りの日お互いむしゃくしゃして
殴りあった
雨の日家の中でゲームをして
難しいパズルを解いた
台風の日びちょびちょになりながら
避雷針に吸い込まれる雷に感動した
学校帰り分かれ道で
「またあとで」
それが僕等の合図
君がいて
僕がいる
それがきっと最高の幸せ
これ以上は求めてはいけない
幸せを大切にしなければいけない
君は神様から僕への贈り物
「わぁ……愛花ラブですねぇ」
「う、うっせぇ!」
「いやぁ、かなり素直で可愛い。純粋で
気持ちがすごくこもってるね」
「そりゃそうだ!俺の愛花への気持ちは
これじゃぁ伝えきれないほどだし」
「はいはい。でも空雅にしてはかなり
上出来じゃん!避雷針なんて言葉もよく
知ってたね」
「バカにするな!」
顔を真っ赤にさせて叫ぶ空雅がおもしろくて
ますますいじりたくなる。
だけどこれ以上は可哀想だからこれくらいに
しておこう。
だってすぐに隣から紙を奪い取って
音読し始めた大和に、空雅は
発狂してるんですもの。
「大和!返せよ!お前のも見せろ!」
「はははっ。お前って本当に純粋なのな。
俺のは完璧ですよーだ」
鼻高々に言う大和の詞、は。
この声は届かない
声として表に出ないから
この声は聞かれない
声として表に出せないから
君の、声。
交わす言葉。
言葉は交わせど、本当の声は———
伝えたい本当の声は。
そう、まだ伝えられずに、ここにある。
青空が、広がっている。
後ろを見れば、立ち込める黒い雲。
暖かい、日差し。
時がたてば、降りしきる夕方の雨。
鳴り響く、雷。
嵐が、台風が、そこかしこを襲う。
立ち去れば、そこに青空。
雨降って、地固まれ!
キミノコエヲ、キキタイ
ボクノコエハ、キコエル?
声を出すことは、そんなに難しくないよ。
声にすることは、時として難しいけれど。
届くと いいな
届けられると いいな
受け取ってくれると いいな
ちゃんと伝えられると いいな
風が吹く。
向かい風が、襲う。
でもほら
歩く方向は、そっちだけじゃない。
自分が向きを変えてみると
それは追い風となる。
出したい声が
そこに響きますように
「……わぁお!大和も恋してんの!?」
「はぁ!?ちげーよ、そういう設定を想像して
書いてみただけ。お前だってあるだろ?」
「あー、確かにね。でもバランスとか
全体像はとてもいい。ただ濁点とか句読点が
いらないかもしれない。歌詞だからさ」
「やっぱりそうか?」
内心、大和にこんな風に想う子がいたなら、
その話でいじってやろうと思ってたんだけど。
あっさり交わされたので、ちょっと残念。
「俺も完成したぞ」
築茂も書き終えたらしく、ぶっきらぼうに
紙を押し付けてきた。
あんたは何処に行っても
まるで台風の様に
全てを巻き込んでゆく
全ての人が
あんたを意識して
知らぬ顔は出来ない
自覚しているが
やり過ごす術を
身につけているあんたは
何事も無かったかのよう
全ての人に注目される
気分はどうだい
結構 大変なんだろうな
だけど
あんたは
何事もなかったかの様
恐ろしいくらいに
あっさりした文章でこれが歌詞?と
疑問に思われるそうなくらい、短いけれど。
意外とバンド向けの曲はこういう
歌詞が、やりやすかったりもする。
「へぇー、築茂らしいなぁ。この長さなら
どのバンドにも歌いやすいからいいかも」
「それだけか?」
「後はちょっと内容が薄いからもう少し
インパクトがあると尚更いいかも」
「……そうか」
分かっては、いる。
築茂が、本当は私に何を聞いてほしくて、
何を言ってほしかったのか。
“あんた”と表現されている人物が、
誰なのか。
でも、それに気づかないふりをするのは、
ちょっと怖いからだよ、築茂。
大学でも最近は結構、人との関わりを増やせて
いるみたいだし、積極的になったことは
とてもよかったと思う、けど。
私に対しての想いは、最初と何も、
変わらないでほしい。
「……できた」
「玲央!見る見る!」
築茂に心の中で謝って、玲央に視線を移す。
風に、窓が揺れる
暗き空は、雨雲に覆われむしろ薄明りに
街の光、不気味に空に滲む
雨、街を洗う
近頃の台風は、ことさらにゆっくりと。
人々を、恐れさせることに楽しみを覚えた。
思う心。
想う、気持ち。
私はどこへゆくのでしょう
あなたは何処を
目指すのでしょうか
すさまじい勢いを持つ台風は
弱き人を翻弄しゆく
でもな、どこかにあるのだ。
誰にでも。
表に出すかは存ぜぬが、
譲れぬ何かというものは。
「これ本当に玲央が書いたの!?何か、以外」
「……そう?」
「うん。すごく重みのある詞だね。しかも
一人称が私、なんて女目線を書いたんだ。
すごいすごい!」
「ありが、とう」
照れくさそうに笑う玲央。
やっぱり、言葉ではあまり感情を表現
しない玲央だからこそ、文字にすると
爆発するタイプなのかもしれない。
そして一番時間がかかったのは、日向。
「ちょっと長くなっちゃったけど、
大丈夫かな……?」
「見せてー!」
不安そうにおずおずと紙を渡してくる日向に
微笑みながら、受け取った。
目を開けたって闇は見えるものだ
動きたくなかった今日
通り過ぎてしまえばよかった
荒ぶる台風の様に
僕の心を掻き乱して行って
いつもより笑顔な君を胸に焼き付けた
よかったね そう
うん 美味しそうだね
そんな気の抜けた返事をしながら笑う僕
完全に作り笑顔でさ
ほんと参っちゃうよね
それでも君を見ていたいと言う
素直な気持ちは
一時だけ小さく圧縮して
無視しようと決めたの
周りの空気に乗せられて
届いてしまいそうだったからさ
もし 一番泣きたくなったとすれば
貰えなかった君が悲しい顔をする時で
今 一番泣きたいと思ったのは
貰った君の笑顔を痛い程
見てしまったこの瞬間
結局 今日は泣きたい日
そんな僕も
人並みに渡したりはするわけで
その辺やっぱりずるいなーとか思ってしまう
矛盾しまくりな今日と気持ちと本音は
甘い香りに全部溶かされて
消えてしまえばいいんだ
伝わる前にぱっと消えて無くなって
目を瞑ったって光は見えやしないけれど
「わー……何か、一番圧倒されたかも。
最初と最後の文がしっかり繋がっているのも
めっちゃうまいね。綺麗な詞だなぁ」
「本当?ありがとう。悠に言われると
かなり嬉しい」
「本当のことだし?よし、これで全員
詞は書けるようになったね!」
「こんなんでいいのか?」
「いいのいいの!みんな上出来です」
怪訝そうに言う空雅にピースサインを向ける。
すると、みんなもつられて笑顔を
見せてくれた。
「よし、作詞はこんな感じで後は作曲かぁ」
「その前に悠、ちょっと休憩しない?」
「あ、そうだね。ごめんごめん」
「夕食にしよう。冷やし中華、すぐに
できるからさ」
キッチンに立ってすぐに用意をし始めた
日向に、それぞれお礼を言って。
私も日向のお手伝いをしながら、ほかの
5人は歌詞を見せ合いっこしていた。
- 第13音 ( No.143 )
- 日時: 2013/02/15 07:05
- 名前: 歌 (ID: /ReVjAdg)
冷やし中華を食べながら、さっきの
話の続きをする。
もちろん私の前には、適当に理由をつけて
食べることを断ったため、皿はない。
「作曲とかさー、実際どうやるわけ?
だってピアノとかできたらいいけど
できない奴は厳しくね?」
「あー、確かにそうかもね。低音から
メロディまで考えなきゃいけないからなぁ」
大和の言ったことは正論で、それに
煌もしきりに頷いている。
……頷いているってことは、ピアノが
できる自分ならできるって言ってるような
もんですよね?
「うん、だから作曲は主に煌がやるんだよ」
「はぁ!?お、俺?」
「だって今、思いっきり頷いてたじゃん。
ピアノできるの、6人の中で煌だけだし?」
「う、嘘だろ……?」
「お前ならできるんじゃないのか?吹奏楽部の
次期部長にもなるんだしな」
「え、そうなの?煌、すごーい!」
「マジですか……」
ちょっとした築茂の言葉が、さらに
煌にプレッシャーとして降り積もったみたい。
でも、絶対に煌は今までやらなかっただけで、
やってみたらすごいと思うなぁ。
「大丈夫だよ、煌!後で教えるし、私も
忙しいって言っても、丸1日忙しい日は
たぶんほとんどないから」
「本当に?悠がそう言ってくれるなら、
コンクールが終わったら、やってみようかな」
「でも大変じゃない?部活との両立」
さすが日向、すっかり私が忘れていたことを
さりげなく、思い出させてくれる。
次期部長って言うなら、引き継ぎとかも
あると思うし、あまり押し付けると
大変なのは当たり前だ。
「いや、そっちのほうは大丈夫だよ。別に
大したことじゃないし。それに作曲の
ほうは悠もいるんだし。もちろん、
助けてくれるよね?」
「はい、もちろんでございます」
わわわ、煌が何か知らないけどよからぬ
ことを考えていそうで、一瞬、怖くなったよ。
まぁ、何はともあれこれで大量のバンド
からの作詞作曲の依頼は大丈夫。
とか言って、本当は6人がどんな曲を
作るのかが楽しみなだけ、だったりして。
「よし、今日もハモらしますか!」
食器を洗って、リビングにいるみんなの
ほうを振り返ると。
すでに、それぞれが楽器を出して、
準備を終えていた。
「言われなくても分かってるし!この前
やったときにできなかったトリル、
ちょっとできるようになったんだぜ!」
「お、すげーじゃん。俺も今日は仕事、
休みだったし、楽器洗ってきた」
胸を張る空雅に、楽器の調子を
見ながら答える、大和。
もう、最近となってはやりたい曲を
早いもん勝ちに言って、それを完全な
オリジナルでやったり。
私が作った曲を、クラシックだったり
ロックだったりポップだったり、と。
いろんなアレンジをして、やっている。
「ね、たまには動画で撮って、他人から
聞いたらどんな感じなのか、聞いてみたいと
思わない?」
煌の、そんな一言がきっかけで。
私のオリジナル曲のうち一つを、動画で
撮って、後から見て見ると。
「……なんか、俺たちヤバくね!?」
「予想以上にまとまってるし、バランスも
いい。俺たちだけしか聞いてないなんて
もったいないような気がする」
「煌の、言う通り。俺……いろんな人、に
聞いて、ほしい」
こんなに真剣な顔をする玲央は、初めて
見たかもしれない。
私がずっと思っていたこと、それは。
「よし、動画サイトにアップしよう」
動画サイトのアカウントを持っていた、
築茂がすぐにパソコンでアップ。
顔を映したままは、かなり危険だから、
そこも築茂の技術によって合成できた。
「やっべー……やっぱり築茂って理系
って感じだもんなぁ。俺なんか
アカウント?とかいうやつすらよく
分かんねぇよ」
「それはお前がバカなだけだ」
優しい日向と興味のなさそうな玲央以外、
大きく空雅に頷いて見せた。
このくらいのことなら私も一応できるけど、
築茂はもっと奥深くまでできるのは、
外見そのまんま。
こうやっていつも一緒にいるのが
当たり前だけど、本当はとても
すごい奴だってことも、何となく分かる。
「これで、見た人たちからどんな感想が
来るのか、楽しみになるね」
と、日向の柔らかい声。
「でもちょっと緊張もするな。辛口コメントの
人も少なからずいると思うし」
「さらによくするためのものとして受け取れば
全く問題はないだろう」
「それもそっか。本当に最近の築茂は前向きに
なったよねー。怖い怖い」
「それは褒め言葉だな」
「……ははは」
煌と築茂の会話がみんなを笑わせる。
私も動画を見た人からの感想が早く
来ないか、とかなりワクワクしていて。
楽器を弾いたり、歌を歌うことだけが
音楽の楽しさだと思っていたころとは、
全然違う楽しさを感じている。
音楽を通して、今、私が私である
幸せを教えてくれたのも、彼らがいたから。
彼らと出逢ってから、私は新しい
自分に毎日出逢っているような気がする。
私の前に道はなくて、私の後ろに
道はできていく。
そしてそこを私が走るから、そこに
風が吹くんだ。
彼らとの音楽が、私にもたくさんのものを
教えてくれたから、与えてくれたから。
だから、もっとたくさんの人に。
彼らと新しい私の音楽を、心で、
心から、届けたいんだ。
そして夏休み初日は、次の日も大学の
吹奏楽の練習がある煌と築茂、
仕事がある大和は家に帰り。
暇人である空雅と玲央は、私の家に泊まった。
次、いつ集まるかはまたメールで
連絡をすると伝えて。
次の日の午前中には、うだうだ言う空雅と、
寝る気満々の玲央を何とか家に帰し。
ディベート研修会の打ち合わせのため、
学校に、向かった。
日傘を差しながら、駅から学校まで歩く。
いつものように、空を見上げると、
かしかしと音がしそうな真白い雲が
浮かんでいた。
靴で踏むときゅっきゅっって音がしそうだ。
そんな雲、積乱雲っていうのかな、空
いっぱいに広がる。
その下には赤いリンゴの色をした
夏がいるんだろうなぁ。
新しい風が吹いて、緑の風に
さらわれてしまいたい。
なんて、そんな世界にとってはどうでも
いいことを考える。
誰かが言っていたな、アイデンティティは
世界の模造品にすぎないって。
確かに、よくよく考えると、私の初めては
一体世界で何番目だったんだろう?
私が初めて作詞作曲をしたのは、世界で
何番目にも入らないだろう。
世界にとって経験なんて、しょせん、
そんなものかもしれない。
世界にとって、1つの命さえ
小さすぎるのかもしれない。
……だったら、1つの経験なんて
無価値に近いとも、思ってしまう。
きっと、今この瞬間も誰かが零した
涙なんて、誰も知らずに。
今この瞬間に、私がこぼした想いなんて
誰にも知らずに。
こうして、世界が進んでいる。
「……何考えてんだ、私」
突然、世界の中にいるちっぽけな私が
やっていることが、ちっぽけなことに
思えてしまって。
言葉を吐き出すとともに、そんな想いも
道端に、吐き捨ててやった。
- 第13音 ( No.144 )
- 日時: 2013/02/16 07:31
- 名前: 歌 (ID: hjs3.iQ/)
堅苦しい打ち合わせから解放されたのは、
午後4時を過ぎてから。
2年と3年の学年主任と担当の教師、
そして私の他に生徒3名は、終わると
同時に一斉に席を立つ。
イスと床がこすれる音がやけに
くっきりしていて、耳を塞ぎたくなる。
私と同級生の男子と、先輩も男子2名が
学校代表として行くのだけれども。
2人のうち1人は、確か生徒会長。
だからおそらく、今度の新生徒会選挙の
打ち合わせのときにもまた会うだろうな。
一応、普通に会話をできるようにまでは
なり、成り行きで全員とメアド交換。
生徒会長じゃないほうの先輩が、ちょっと
気がかりな点がいくつかあるけど、
雰囲気を壊すのもめんどくさいから、
何事もなく接した。
帰りに、途中まで一緒に帰らないか、と
3人に言われはしたものの。
得意のかわし技で逃げ切りに成功。
いつもより少し足早に駅に入ったのは、
昨日の動画サイトを早くチェック
したかったから。
改札口で定期をカバンから取り出そうと
していた、とき。
見覚えのある顔が、改札口の先、で。
ネコ目に綺麗な鼻筋、背は低めの
ちょっときつそうな顔つきの女の子と、
肩を並べて、親しげに。
私服で、歩いていた。
直感で、あの子が終業式の日に、大高を
呼び出した子だろうとすぐに分かり。
今、一緒に歩いている、ということは
そういうことなのだろうか、なんて
ぼんやりと考えていた。
………別に、驚いたとか、ショックとか、
そんなものは感じてなんか、いない……はず。
ただ、愛花はどうなるんだろう、と
頭の片隅で思っていただけで、私には何の
感情もない……はず。
だか、ら。
大高と、ちらっと目が合ったような気が
したけど、何事もなかったかのように
逸らされたのは、きっと。
気がした、だけで、大高は気付いて
いなかったんだ、と勝手に決めつけた。
そうしなければ。
意味の分からない苛立ちが、心を
支配してしまいそうだった、から。
改札口を急いで通ってすぐに、
イヤホンを耳に差し込んだ。
むしゃくしゃすると、頭の中を好きな
音楽で満たしたくなる。
iPodを大音量にして、音漏れする
くらいの爆音で頭の中を音で満たす。
心が持って行かれそうになるくらいの
美しい音と、今に見合う言葉が欲しい、から。
必死で曲を、探す。
見つけた瞬間、1人きりの爆音の世界。
頭の中は嫌なことが抜けて、音で
満たされていくんだ。
……嫌な、こと?
“嫌なこと”なんて、いつ起こった
んだろう。
いつの出来事を、“嫌なこと”と名前を
つけたんだろう。
こんな感情、私には必要ない。
包帯でぐるぐる巻かれた感情は、あの手
この手で助けを求めるけど、
するりと詐欺師にやられちゃったみたい。
1つ、小さく息を吐いて、心を
落ち着かせる。
頭の中を、音楽1つにすれば、ほらもう、
世界はシャットダウン。
電車に揺られ、イヤホンをもう一度
しっかり耳にして、音楽に浸る。
私と同じように電車に揺られながら
様々な人たちのイヤホンから流れる
音楽を、気にする自分がいる。
あの人は、どんな音楽を聞いてるんだろう。
うん、大丈夫。
さっきまでの感情は一時の感情で、
すぐに消すことができる感情。
何の意味もなかった、薄っぺらい
感情にすぎないんだ。
だから、いつもの私になって音楽を
楽しむことができる、はず。
駅を出て空を見上げると、数時間前に見た
積乱雲は厚みをましていた。
そういえば、過去最高とも言われる
台風が近づいているんだっけ。
雲が荒れていて風が強く吹いている、けど、
それでも私は真っ直ぐ歩きたいから。
足を、行くべき場所へと、向けた。
強風が吹いている海岸沿いの道を歩くのは、
少し息が苦しいとも思うけど、
この感覚も好きだから構わずに歩く。
そして、あと数百メートル先に自分の
家が見えたとき、ぽつ、と。
1つのしみが、私の足元についた。
それはまるで、私が渇いたころを
みはからったように、しとしとと静かに
雨が降り始める。
ふと、後ろを振り返ると。
私の足跡のように転々と落ちている、
私がみてるだけの、黒い、足跡。
……犬の尻尾みたいだな、なんて
笑えないか。
分身みたいなものだし、持って帰りたい
様な気がするけど、雨降って消して
くれてるから、必要ない、かな。
なんだか今日は、意味の分からないことを
考えすぎかもしれない。
外国製の雨に打たれて、頭がジンジン
してきたし、早く家に帰らないと。
そう、思うのだけど、雨の音が
心地よくも感じていて私の心の
つぶやきも、かき消されていく。
その音色の、美しさ。
ときおり、車音が邪魔をするけど、
雨は旋律の爪弾きを止めないで
いてくれる。
そうだ、こんな日はずっと家に
居たいと思うんだよね。
しとやかな雨音が勢いを増す前に、
家の中で聞いていたいと思うんだ。
台風に備えて、準備……しなくちゃ。
曇ってきた視界をよそに、ぼんやりと、
これからの台風被害を予想しながら。
雨を蹴って、前に進んだ。
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