コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第25音 ( No.244 )
日時: 2013/06/14 23:06
名前: 歌 (ID: VHEhwa99)



夜が更けて、窓からもれる灯りと街灯だけで
照らされる夜道。


空には、丸い月明かり。


瑠璃色の風が、そっと通り過ぎては
頬を掠めていく。



「なぁ……神崎」

「ん?」


途中でばらばらと帰り始めたクラスメイト
1人1人にお礼と手を振って。


すっかり遅くなってしまった帰り道を、
ホテルから一番家が近かった小学時代からの友人、
大貫隼也(オオヌキトシヤ)と歩いていた。


色黒で目力が強く、整った顔立ちをしている
けれど、普段はほとんど無口。

だけど私には結構話をしてくれる。


身長も175以上はあるし、陰から女子に
すごく人気があったような記憶が。


そんな大貫が自転車を押しながら私の
横を歩き、ぼそっと呟いた。



「あの、さ……その、さっきはみんながいて
 あまりゆっくり話せなかったから。
 ちょっと、あの公園で話してかない?」


あの公園、と指さしたところは、よく
柚夢と遊びに来ていた公園。


懐かしさから、思わず言葉が詰まってしまって
その場に立ち止まると。



「あ、いや…っ!別に無理にとは言わないんだ!
 遅いし、疲れているなら……」

「ううん!全然大丈夫だよっ。さ、行こう!」

「お、おう!!」



慌てて首を振って、ちょっと駆け足に
なりながら公園に入った。


久しぶりに入った公園の遊具は、あの時から
すべてが小さくなっているように、見える。


木でできたイスのブランコも、ちょっと
錆びれた滑り台も、一番大きかったはずの
鉄棒も、小さい。


公園そのものが、小さく見えた。



冬の冷たい風がどこか心地よくて、空いている
ブランコにちょこんと座って、ちょっと揺れてみる。


中学に上がってから一度も来ていなかったけど、
昔のままのブランコはキーキーと音が鳴って、
それもまた懐かしい。



「ははっ……懐かしいな」

「本当だよねー!ちょー小さいんだけど」

「俺たちが大きくなったんだよ」

「うん、そうだね。この公園は変わらないけど
 私たちは変わって行くんだ」

「……あぁ。でも時間は姿を変えても
 面影あでは変えねーと思う。神崎は昔も
 今も………」


隣のブランコに座った大貫は、揺れずに
地面を見つめる。

その先に来る言葉を聞き返さずに、私は
ただ勢いよくブランコをこいでいた。



「……でもやっぱり、神崎は変わったな」

「え?どこらへんが?」

「なんていうか…昔よりずっと、笑ってる。
 すっごい楽しそうに」

「嘘、そうかなー?」

「うん、そうだよ。……彼氏でも、できた?」

「いやいや、まっさか!」


そう笑い飛ばしてみたけど、内心、
罪悪感が溢れてきた。


彼氏じゃないけれど、私は彼らと抱き合ったり
キスしたり手を繋いだりしている。


普通のこと、のように。



「マジで言ってんの?」

「いやいや、そんなビックリするような
 ことでもないでしょ!大貫こそ、今は
 彼女とラブラブらしいじゃん?」

「え、あ、いや……それは…」

「はははっ!!照れすぎでしょ!!
 可愛いねぇ」

「………」



大貫が中学3年の夏から、女遊びが激しく
なったことはクラスメイトなら誰でも知ってる。

昔は女が苦手で話すことすら嫌がって
いたのに、ある日を境にそれがすべて
嘘だったかのように、暴れ出した。


今はちょっと落ち着いたみたいで、髪色も
黒だしピアスの数も減っている。


大貫の親友が笑いながら話していたから、
本当なのかどうか分からないけど。


今回の彼女には、本気でいてほしいと、思う。



「学校はどう?商業高校だよね?すごいなー。
 将来やりたいこととかは決まったの?」

「……いや、まだ。結構勉強も大変でさ」

「そっかぁ。でもゆっくり焦らないで
 見つけていけるといいね!」

「………あぁ、ありがとう」



お願いだから、もうやめてほしいと、思う。



「神崎……」



私にフラれてから女遊びをするようになり、
私を忘れるために女の子を傷つけることは。



「どうしたの、大貫」



乗っていたブランコを降りて、大貫は
私のブランコを止めた。


私の前に立って私を見下ろす大貫の表情が、
切なそうに歪んでいる。


何とも思っていない笑顔で、首を傾げた。



「今日会ったら、ずっと言おうと思ってた……」



そんなこと、沖縄を出る前にやり取りした
メールの内容ですぐに分かったよ。



「やっぱり俺……まだ、神崎のことが好きだ」



それも、知ってるよ。




告白ってさ、どのくらい勇気がいるもの
なんだろうね。


私は不思議なことに、今まで数えきれない
ほどの人から告白というものをされてきた。


その意味が、いまだに分からないけれど。


どれほどの気持ちを振り絞ってたった一言を
言ってくれていたのか、今となっては
本当に残酷なことばかりしていたな。


告白を酷薄に打ち消して、何もなかった
ことにしようと、何度もしてきた。


相手のその感情もその表情も、初めから
存在なんてしなかったかのように。


ついさっき、発生した脳の疾患なんかで、
私の世界を毒さないでほしかった。


相手はただ、少しだけ寂しくて、心の隙間を
埋めたかっただけだろう、と勝手に
自分の中で結論付けて。


『好き』とか『愛してる』とか低俗で
下劣な言葉は、柚夢の口からしか
聞きたくなかったんだ。


その言葉を他の誰かから聞くと、ひどく
動揺して灰色の空が堕ちてきそうだった。


灰色の空の先には、目が開けられないほど
鮮烈な青が広がっているっていうのに。


一人ぼっちの世界に流星みたいに
降って来ていいのは、柚夢だけだと
決めつけているから。


私は誰の告白も、受け取らなかった。




「……うん。ありがとう」



感謝の気持ちは、しっかり伝える。


こんな私に好意を寄せてくれて、私の
知らないところで私のことを想って
くれていたんだから。

こんな私なんかのために意味のない
時間を使わせてしまったんだから。



「でも、ごめんね」



告白するのはどのくらい勇気がいるのか
分からないけど、すごくドキドキするらしいね。


でもね、断る方も、胸が苦しいんだよ。



「……いや、ただ伝えたかっただけだから。
 それでもやっぱり………俺には、チャンス
 ない?俺じゃ、ダメ?」

「うん、本当にごめんなさい」

「遠距離、だから?それなら俺、全然大丈夫だけど。
 神崎が好きって気持ちだけで……」

「大貫」



距離とかそんなの、関係ない。


私はずっと、届くことのない遠距離を
今の今までしているんだから。



「ごめんね」



人を傷つけることは、悲しい。


そう教えてくれたのは、やっぱり6人の
存在だと思う。


昔の私は、簡単に傷つけるようなことを
言ってきたから。



大貫の黒い瞳は、僅かに濡れているようで
さらに胸が苦しくなる。


それでも、期待させるようなことは
絶対にしたくない。



「……俺こそ、ごめん。ありがとう」


「ううん、私こそ本当にありがとう。
 これからよき友達として、よろしく」


「……あぁ」



交わした、握手。


握った大貫の手は、固く厚く大きく、
とても冷たかった。




「寒い、ね……帰ろうか」

「…あぁ、そうだな。時間取らせて悪かった」

「全然!私が泊まってるホテル、あそこだから。
 ここで大丈夫だよ」

「そ、っか。気を付けて帰れよ」

「送ってくれてありがとう。大貫も気を付けて。
 またいつかの同窓会で会おうね」

「……あぁ、楽しみにしてる。それまで、
 元気でな」

「うん!!大貫もね。じゃ、またね!」



手を振って、小走りで出た公園。


数百メートル先のホテルに向かいながら、
かじかむ手を、こすり合わせた。



第25音 ( No.245 )
日時: 2013/06/15 22:32
名前: 歌 (ID: HhjtY6GF)




月が夜道の私を照らして、私はふらり
ふらり歩いている。


ぬるま湯に浸かっているみたいにさ。



ポケットの中で震えた携帯は、すぐに
オルゴールのメロディと共に鳴り出した。


携帯のマナーモードを切っとけと煌に
言われたからすぐにそうしたけれど、
随分長いことマナーモードだったから
まだ慣れない。


画面を見て見れば、築茂からの着信。


珍しいなと思いながらも、ゆっくり
通話ボタンを押した。



「もしもーし」

『……あぁ、俺だ』

「うん、知ってますけど。どうしたの?」

『いや、今日は月がキレイだから悠も
 見ているんじゃないかと思って』

「あ、うん!見てるよ。本当にキレイだよね。
 沖縄でもキレイに見えてるんだ!」

『そうみたいだな』


築茂の低くて落ち着いた声が耳たぶを
くすぐって、ちょっと足取りが軽くなる。


キレイな月を一緒に見ているんだと思ったら、
やっぱり距離なんて大したことないなと思う。


心が繋がっていれば。



私と柚夢は……まだ、繋がっているのかな。



『そういえば、同窓会はどうだったんだ?』

「とーっても楽しかったよ!みんな集まって
 くれてすっごく嬉しかったなぁ」

『そうか、よかったな。変な奴に絡まれたり
 しなかったか?』

「そんなことする人いないから大丈夫ですっ。
 築茂は今日はどうしてたの?」

『普通に部活だったが。冬の練習は結構
 空いているんだけどな』

「そうなんだ!あー、バイオリン弾きたーい!
 持って来ればよかったなぁ」

『ははっ!俺だって2週間もバイオリンに
 触れなかったことがないから無理だな。
 でもお前ならブランクとかもあまり
 しないだろ』



築茂の声は低いけれど、どこか透き通っていて、
笑うと優しい声が出る。


その声が、すごく好きなんだ。


……あれ、今気付いたけどもしかしたら私、
声フェチかもしれない。



「ねぇ、築茂……」

『なんだ?』

「私、声フェチだって今気付いた」

『どういう、意味だ?』

「いやね、築茂の普段は低い声が笑うと
 優しさが含まれる声がすごく好きだなって
 思ったらさ。よく考えてみれば、結構
 いつもそんなこと考えてると思って」

『………それは…そうかも、しれないな。
 っていうかお前なぁ……』

「え、なになに?なぜため息?」



電話の向こうで頭抱えて盛大なため息を
吐いている築茂が見える。



『そういうこと、無意識に言うな。
 ………会いたく、なるだろ』

「へっ?いや、私も会いたいけど」

『……お前、学習能力が全くない。いい加減、
 自覚しろ。このバカ』

「はい?私めちゃくちゃ能力高いほうだと
 自覚してるんですけど」

『はぁー……』



あれ、何か物凄い呆れられちゃった。


まぁ話題はどんどん変えていき、築茂の
盛大なため息はところどころ聞こえて来たけど、
もう気にしないことにしよう。



「じゃ、もうホテルだから」

『あぁ、遅くに悪かったな。ゆっくり休めよ』

「うん、ありがとう。おやすみ」

『おやすみ』



築茂との電話を切って、点いている電気の
数が減ってきたホテルの中に、入った。




叩いたら、キーンとガラスのような音がしそう。


12月の凍りついた青空に、1つのヘリコプターが
飛んで行く。


巨木も揺さぶれる強風の日も、長靴の中に
溜まる大雨の日も、ただ眠るだけの
柚夢に会いにいくために毎日通った、この道。


今日の快晴の青空が、これから私を
待ち受けている現実を少しでも軽くして
くれようとしているみたいで。


寒くて寒くて手足も痛いけど、空に浮かぶ
白い雲がどこか懐かしい。



遠くの地にいる彼らの空も、青空で
あったら良いと願いながら、私の道を歩く。




待ち合わせ場所は、病院のすぐ隣にある
ファミリーレストラン。


まだ雪は降っていないこの道に、もし雪が
積もったら、きっと私は柚夢と足跡をつけて
はしゃいだあの日のことを思い出すだろう。


そんなことを考えながら、高鳴る鼓動を
痛みになる寒さで必死に抑えた。



連絡先がメモされた紙をもらい、その日のうちに
連絡をして今日の約束が決まったけれど。


メールでのやり取りで二宮先生は、
真実をすべて話しましょう、とあの時とは
別人のような言い回しになった。


一体何を企んでいるのか全く分からないけど、
真実を知れるのなら仕方がない。


本当にこれから話してもらえることが
真実かどうかというのも怪しいけれど、
聞いて損はないはず。


やっぱり手は震えるし、歩く足も竦みそうに
なるけれど、私は行かなければいけない。


真実を、知りたいから。



あともう少しで私は遠い昔に約束した
あるべき自分に、逢える。


それがたとえどんな現実だったとしても、私は
逃げずに今ここにいるんだから、堂々と
歩いて行きたい。


私と、向き合うために。
柚夢と、向き合うために。


彼らのもとに、帰るために。




天気は、快晴。



冬の澄んだ青空に輝く白い太陽の下、
ヘリコプターだけが、私を見つめていた。



待っててね、柚夢。







会いに行くから。










第26音 ( No.246 )
日時: 2013/06/17 08:42
名前: 歌 (ID: ACwaVmRz)







キミ。

音楽。

キミの歌声。

アコースティックギター。




それさえあれば、僕は他に何も
いらない。



何も、いらなかった。






「柚夢!見て見て!!」

「こらっ、悠!!そんな格好で雪遊びしてたら
 風邪ひくだろ?ついこの前、高熱出した
 ばかりなんだから」

「えー、もう全然平気だもん!柚夢も一緒に
 雪だるま作ろうよっ」

「あぁ、もう本当に悠は自分の身体を
 大切にしなさすぎ……」

「早く早くー!!!」


キミ、音楽、キミの歌声、アコースティックギター。


それが僕を構成しているもので、どれか
1つ欠けてもダメ。


分かってよ、悠。


キミが欠けたらダメなんだよ。
キミは僕の一部なんだよ。



「柚夢!遅ーいっ」

「ちょっ……そんなに遠くに行くな!!」

「早く来ないと置いてくよーっ」

「待って!!悠!」



だからこれ以上、僕から離れていかないでよ。




「捕まえたっ」


「きゃははっっ!捕まっちゃった!」



僕の傍にいて、離れないで。




「柚夢〜!大好きっ」

「……僕のほうが大好きだし」

「えぇー!絶対私のほうが大好きだもん」

「僕は大好きってレベルじゃないの」

「どういうこと?」



僕の腕の中であどけない笑顔を、僕だけに
向ける愛おしいキミ。



真っ白な雪の上で、キミを抱きしめながら。




「愛してるよ」




愛おしいその唇を、僕の唇で優しく撫でた。





神崎悠。


僕の2つ下で、サラサラの黒髪に甘い匂い、
透き通る白い肌に整った顔立ちと
すらりとしたモデル体型。


成績優秀、運動神経抜群、愛嬌のある笑い方、
寛大な心を持っている女の子。



出逢ってすぐに、僕の自慢の妹になった。



小学校に通う時も、家に帰るときも、
家の中でも、出かけても、常に一緒で。


父さんを亡くした時にだって、キミがいた
おかげで僕は立ち直れた。


死というものを初めて知ったキミは、僕よりも
父さんの死を悲しんでいたけれど。


その時に初めて僕の大好きなギターを
聞かせてあげたとき、キミが見せてくれた
笑顔を僕は一生忘れない。



キミは見る見るうちに音楽の才能を伸ばして、
音程や耳は確実に僕よりもキミのほうが上だった。



キミはいつも真っ直ぐな瞳をしていて、
誰の言葉にも流されず、キミという人間を
しっかり持っている。


誰からも信頼され愛され、いつしか君の
笑顔は僕だけのものではなくなっていく。



キミの価値観が明らかに普通の人と
比べるとスバ抜けていて。


絶対にぶれない価値観を持っている
キミが羨ましかった。


右から左と言われて、左から右と言われる。


僕の価値観というのはそういうのに
酔ってしまって嘔吐寸前だったりするのに。


世の中に流れている価値観はきっと、
山の上の水が川に乗ってゆらゆらと
流れていくように、自然なもの。


僕には柔軟性が無くて、キミは柔軟性が
ありすぎる。



僕の中には誰に頼まれたわけじゃないけど、
これをせき止めるダムみたいなのがあって、
頑固とは少し違う気がするけれど、
自然破壊が進んでいる。



何も迎合しない、と息巻いてるわりに
キミ以外の誰かに受け入れて欲しいなんて
思ったりした。


安っぽい歌詞みたいな感情は、安っぽい
って勘違いしているから、嘔吐寸前。


キミに気付かれないように、必死に
隠していたんだ。




でもキミはやっぱり、僕の心を持っていくね。



「柚夢の頭の中ってどうなってるの?
 私が気付かないことばかり、考えてるよね!」

「……え?そんなことないよ」

「ううん。絶対にそうだよ。柔らかいんだね、きっと」

「柔らかい?この僕が…?それは悠だよ」

「私も柔らかいほうだと思うけど柚夢には敵わない」

「何で、そう…思うの?」



必死にポーカーフェイスを装いながら、キミの
真っ直ぐな瞳を見つめると。



「だって、柚夢の落とす言葉は1つ1つ、すごく
 生き生きしているんだもん」




屈託のない笑顔が、眩しかった。




キミがそんなことを言うもんだから、僕が
今まで自分の価値観について悩んでいたことが
バカらしくなって、ふっと微笑んだ。



「本当に悠は……変わってるね」


「誰と比べて?」




ほら、やっぱりキミのほうが柔らかい。



その笑顔もその声もその唇もすべて、僕だけの
ものになったらいいのに。



「柚夢、私は柚夢のだよ?」


「……僕ってそんなに分かりやすい?」


「私にしか、分からないよ。柚夢のことは」



本当に、敵わない。



「悠……好きだよ」



額にキスを、落とす。


わざとリップ音を響かせて、耳に、瞼に、
鼻に、頬にキスの跡をつけていく。


唇をきつく吸い上げ、舌を絡ませれば
戸惑うことなく受け入れてくれる
キミの小さくて可愛い舌。


潤んだ瞳と赤く染まった頬が、どくん、と
僕の心臓を高鳴らせる。



僕はキミに溺れてしまいそうで、恐い。




ギターをかき鳴らす様に、キミの思考を
甘く酔わせたい。


指先から弾ける厭らしい音符たちは、
部屋中に麗しく漂う。



僕等の夜は、終わらない。



そのままそっと膨らむ欲望に、淡い
恋心を乗せて、キミにキスをする。



キミの口から漏れる甘くて切ない喘ぎ声が、
僕の心をえぐる。


突き出た唇を、何度も何度もついばんで、
僕の中だけにキミの声を閉じ込めたい。



貝殻のような小さな耳たぶをかじって、
首をすくめるキミの反応を楽しむ。



あぁ、あぁ、あぁ………。



心が、えぐられる。



好きを通り越したこの、炎のような
無意味な情熱はどうしたものか。


あふれ出る独占欲がひとたび騒げば、
たちまち僕はキミの中をぐちゃぐちゃに
かき混ぜる。



何度も何度も僕の欲望をキミの中に
突き立てて、その度、その中で果てる。



唇を噛みしめて声を我慢しようとする
キミを見下ろすこの光景が、最高に
僕の理性をかき乱すんだ。


白く澄んだ綺麗な肌をきつく抱きしめ、
僕のものだという証をあらゆるところに
刻み込んでいく。



「…やっ……柚夢…そんなにつけたら……」

「何で?悠は僕のものなんでしょ?じゃぁ、
 周りの奴らに見せびらかさなきゃ」

「んぅ…っ…は、ぁ……」



どうしてキミは、そんなに可愛いの。


抵抗しているのに、僕の腰に一生懸命ついて
こようと自ら腰を振る。


その姿が堪らなく厭らしくて美しいことを、
キミは知らないだろう?



キミは僕のものなんだよね?


だったら、今日はたっぷりおしおきも
交えて朝まで喘がせてあげる。



「今日、変わったことは?」

「あっ……なんで…今…んんっ」

「答えて?」

「な、にも…なっ……い…」



あ、今、嘘をついたね?


ねぇ、どうして嘘をつくの。
ねぇ、どうして嘘をいうの。


ねぇ、どうして、どうして。
僕はキミに嘘を言わせているんだろう。



「本当に……?」

「ほ、んと…っ…あぁっ!」



僕が悪いんだよ。



ねぇ、嘘をつかないで。


それじゃないと僕は君を幸せにできないから。


ねぇ、嘘をつかないで。


キミの嘘の理由はきと僕で、キミに嘘を言って
欲しくない僕は君から離れないとならなくなるから。




いっそ、キミの嘘に気付かれないように
この瞳にフィルターをかけようか。



ねぇ、嘘をつかないで。


キミの心を嘘で汚したくないんだよ。



キミの心は僕の大切なものだから。




「悠……愛してる」




何度でも囁くよ。


僕の腕の中で快楽に溺れているキミの耳に、
心に届いたかは分からないけれど。



僕は何度だって、キミに伝える。




キミの柔らかく色っぽい声をすぐ
耳元で聞きながら、僕で感じてくれている
嬉しさをすべて。



キミの中に、吐き出した。




第26音 ( No.247 )
日時: 2013/06/18 21:51
名前: 歌 (ID: l38dU1rK)



キミは、決して僕の前でも誰の前でも
弱音を吐かなかった。


授業参観があれば、普通の生徒なら親の
姿を探したり、来るなと罵声を浴びせたりする。


キミと僕には、そんな授業参観という日が
ひどく嫌な日にしか思えない。


友人たちが親の話をすれば、友人は
しまったと言わんばかりの顔で
何も悪くないのに謝る。


友人の親からは同情され、むやみに優しく
されていた。



そんな惨めな思いを、キミは絶対に
表には出さずに笑って誤魔化す。



僕は今までに何度も何度も、両親と幸せそうに
微笑む家族を妬んできた。


両親の存在の大切さを全く知らずに、
親の悪口を言っている人間が、許せなかった。


死にたい、死ね、と簡単に口走る奴の
顔を思い切り殴りたい衝動に駆られた。


きっとキミは、僕よりもずっとたくさんの
我慢をしてきたと思う。


僕の前ではいつも笑っているけれど、
僕のいないところで涙していることも
知っていた。


そんなキミを、愛おしいとさえ思う。



キミの友達の好きな人から告白をされ、
苦しんでいることもあったよね。


告白を断るとき、キミは感情のない顔で
何ともないフリをしているけれど、
本当はすごく傷ついているんだよね。


キミは、とても優しいから。



でも僕は、そんなキミを陰で見るたびに
思うんだよ。



キミの笑った顔を下さい。


キミの苦しむ顔は見飽きました。
キミの悲しむ顔も疲れます。


キミの笑った顔を下さい。




「悠……笑って?」

「柚夢が笑わせてよー!」



キミの笑顔は、青空だ。



だけど僕が本当に欲しいのは、キミが
心から満足した顔なのかもしれない。


それなら僕は、いつまでもキミの隣で
キミの笑顔を守ろう。


たとえ悲しくて苦しくてキミのハートが
傷ついたら、僕がきゅきゅってハンカチで
拭いて磨いてあげる。


にこってした心、大切に。



本当に、そう思っていたんだよ。
キミのそばを離れるなんて、思わなかった。



あいつらに、出逢うまでは。





「…悠っ……」

「あっ…んん……」



ベッドの軋む音。
キミの喘ぐ声。


何度聞いても、僕は理性を飛ばされる。



「悠…っ…」



普段は腰を振って僕の舌で喘ぐキミを
見つめるのに集中しているから、声なんて
ほとんど出さないのに。


あいつらに出逢ってしまったから。




「……悠、好きだ…っ…」




キミに、僕の声を覚えていてほしいと、
強く思った。



「好きだ……愛してる…っ……」



キミの視界から、近いうちに僕が
消えて行っても、キミの世界は
輝いたままでいてほしいから。


だから、今、キミを呼ぶ。



「…悠……」



百の言葉、千の言葉に委ねずとも
僕の名前でもあるキミの名前を、呼ぶ。


僕の声に、偽りなどない。



「悠」



それはもう、言葉も尽くせぬほどの
憧れに似て、僕はキミを呼び続けた。



ごめん、悠。


ずっとキミのそばにいるっていつも
言っていたのに。


キミを置いて行く僕を、どうか許して。


どうかこの僕がキミの目に届くことのない
場所に行っても、僕はずっとキミを
見ているから。



だからどうか、お願い。



ずっと、笑っていて下さい。






色鮮やかな色たち、真っ白な紙に
筆でハートを描く。


ハートと言ったらピンク色なんだろうけど、
でも違う。


僕は、水色だ。


ピンクのハートなんて、もう僕に描く
資格はない。


凍り固まった寂しさ満タンな水色のハート。


力なくよろよろの線でハートを描きながら、
もう少し水を足そうかな、もう少し薄い
色にしなければ、考える。


出来上がったハートは、どこか悲しげに
泣き崩れたボロボロなハート型の絵。



こんなに僕は弱虫か?



ううん、キミが居たから僕は強く
いられたんだ。


キミを守ることに一生懸命で、どうやったら
笑うか嬉しいか楽しいか、そんなことばかり
考えていた。


反対に、僕もキミに何度も助けてもらっていた。


僕は弱虫で、僕とキミが出逢えたことは
「運命」だったと思うよ。


こんなに優しい人は、キミ以外いないだろう。



これからも大切に大事に幸せにしていく
つもりだったのに…………。




キミには薄いピンクハートがお似合い、
僕にはオレンジハートがお似合いって
キミが言ってくれたね。


少しずつでいいから、一緒に強くなって
いこうってキミに言われた。


だからもう水色なんか捨てて、少しでも
鮮やかなオレンジ色に近付けるように、
僕は変わっていきたい。


そう思えるようになったのも、全部全部
キミのおかげなんだよ。



僕のすべては、全部全部、キミから
もらったんだよ、何もかも。



それなのに、もらったものだけを僕は手に、
僕はキミだけを置いて行く。


ごめんね、悠。
ありがとう。


キミのことはずっと見守っている。



ありがとう。
ずっと、心から。



愛している。







あの日から、2年半。


晴れた日の青い空を見上げては、キミも
この空を見上げているだろうかと考える。


この空の白い雲さえ、キミの街へ流れて
いくと思うと愛おしくて。


爽やかに頬を撫でる、秋風。


この風の香りさえ、キミの元から
吹いて来たかと思うと愛おしくて。


雲よ風よ、この想いを運んで行って。


きっと届くこの想いが、キミの元で
そっと囁き、熱く輝くようにと………。





「……また、泣いているのか」


「暁、様……」



悠、キミは僕を想って何度涙を流した?


僕は毎日、あの日から一度も流さなかった
日はないよ。


いつもキミの笑顔が僕の心にあって、キミを
抱き寄せて耳元で愛を囁きたいと。



何度、想っただろう。




「来月の末に、日本に行く」


「……そうですか。今回もコンサート関係の
 打ち合わせですか?」


「いや、また違う用事だ。何か、望みは
 あるか?」


「望み……」


「彼女に、会いたいんだろう?」


「………」



もし、もう一度だけ。


たとえキミが僕を知らなくても、それでも
たった一度だけでいい。



キミを、抱きしめたい。




「……会いたい、です」


「………よく、言った。期待していなさい」


「何をされるおつもりですか?」


「別に何もしない。私のコンサートに
 一輪の花を添えるだけさ」



相変わらず、この方の考えていることは
分からないけれど。


もしかしたら、キミを連れてきて
くれるのかもしれない。


……いや、期待しなさいとおっしゃって
下さったが、弱虫な僕はやっぱりできない。



期待が外れたときのことを考えたら、
期待しないほうがずっといい。



でももし、本当にキミの姿をこの目で
見られるのなら。


もし、キミの細く柔らかい身体をこの
腕で抱きしめられるのなら。



僕は二度と、キミを離せなくなるだろう。





2年半ぶりに見る、キミは。



あの時よりもさらに。
美しく、可愛く、魅力的な。



女の子から、女性になっていた。




僕の知らない笑顔を、僕の知らないうちに
出来た、僕の知らない人間に惜しみなく
向けるキミは。


相変わらず、その無自覚な才能で男心を
くすぐってくる。


抱きしめたくて、触れたくて、キミの
名前を呼びたくて、僕はおかしく
なりそうだった。


それでも精一杯、すべての感情を殺して、
僕はこの目にキミの姿だけを刻む。



僕の隣にいたキミは、僕だけを信頼し、
僕だけを見てくれていたのに。



今のキミは、違う。





第26音 ( No.248 )
日時: 2013/06/19 21:32
名前: 歌 (ID: pR7JxfSl)


昔のキミは何処に行ったんだい?


高い冬の空に投げ掛ければ、そんな
言葉は消えてしまった。


そこに残るのは僕の白い息と、
ただの青。




僕はずっとこの青を見ては、キミのことを
想っていたのに、キミは違かった?


キミはずっと、今隣にいる彼らとこんなに
幸せそうに笑っていたの?


僕はいつも毎日、泣いていたのに。



……こんなこと、僕には思う資格なんて
ないことくらい、分かっている。


自分からキミの手を離しておいて、今でも
キミのことしか見えていない。


キミもそうだと疑わずにいたけれど、
そんなのはただの僕の醜い妄想だ。



まだ2年半、されど2年半。



この時の間に、キミはしっかり僕のことを
振り切っていたんだね。



振り切れたんだね。



じゃぁ、キミにはもう、僕の存在など
必要ないんだね。



ううん、いいんだそれで。



これで僕はやっと『僕』という人間を
捨て、違う人間としての人生を送れる。



ずっとキミの中で、死んだ人間だとしても
キミの心の中で生きてくれていれば、それでいい。



そうだと、いい。



だから、ねぇ。
どうして、今さらそんなことを言うの。





「ムウさんにそっくりな、人でした」







ずるいよ、本当に。



キミのそんな表情を見たら、期待して
しまうじゃないか。


キミにはもう、彼らという大切な存在が
いるんだろう?


きっと彼らはキミのことを幸せにして
くれると思うよ。


だから、僕のことなんて忘れて、幸せに
なってよ。



僕は、キミが幸せなら、それでいいんだ。



だから、お願い。
今だけ、今だけでいいから。




キミを抱きしめさせて。






あの時も細かったのに、さらに細くなって
いたキミの身体は。


折れてしまいそうで、消えてしまいそうで、
恐くなった。



それでも、僕の思考をしびれさせる甘い匂いと、
安心する温もりは何一つ変わっていない。



溢れそうになる涙を、ぐっと堪えた。




好きだよ。
何よりも、誰よりも。


僕の世界は、キミを中心に回っている。



『好きだよ』



その一言を、何度も何度も心の中で呟いて、
キミに届くことを祈った。



驚いた表情のキミに、キスをしたくなる
衝動を、痛いほどに我慢した。




こんなに、近くにいるのに。
キミと僕の距離は、遠い。



キミは僕を、知らない。




知ってほしくない。
知ってはいけない。



それなのに、僕は。




「暁様………私は…」


「私から逃げる気になったか?」


「……逃げるつもりは、ありません。
 彼女に、私の名を呼んでもらいたい…ただ、
 それだけなんです…っ…!」




一番の欲望を、抑えきれなかった。





泣きながら土下座をした僕を、あなたは
哀れだと言うでしょうか。


こんな願い、許されるはずがないと
分かっているのに、どうしても
頭を下げずにはいられなかった。



「……頭を、上げなさい」


「お願い、しますっ……!」



あなたの言葉にも僕は首を振り、
ひたすら祈りを捧げた。



こんな僕を呆れ、あなたは契約を
破棄するのでしょうか。


あいつらの元に、僕を送り返すでしょうか。



でも、それでも。
たとえそうなっても。



僕はキミに、僕の名前を呼んでほしい。




「頭を上げなさい。お前の望みは叶える」


「………え?」



頭上から降ってきた言葉に、僕は思わず
あなたを凝視してしまった。



「今まで、窮屈な思いをさせてきてしまって、
 申し訳ないとは思っているんだ」


「そ、んな……」


「私は、お前の幸せな顔を見ていたい。もう、
 そんな辛い顔は見たくないんだよ。奏楽」


「暁様……」



『奏楽』

『そら』



僕の、2つ目の名前。


僕が身代わりをしている方の、あなたの
大切な息子様のお名前。


契約の、条件。





「彼女に、記憶を思い出させよう」






そうやって始まった、キミの記憶を引き出す
僕の行動とあなたの計画。


それは着々と進み、キミは僕のことを
疑うようになった。



そして、あともう少しで。





すべてのシナリオが、完成する。







僕の声 キミの音
僕の夢 キミの影
織りなす旋律は響きあい
心に共鳴して
ひとつのメロディーを産んだんだ
僕と共にキミの傍で
一緒に笑いたい
繋がってる 繋がってる
僕ら無敵 淡い色で
どこまでも広がって
波紋は広がる
美しいもの 虹を見て
夢を歌いたい
ずっとずっと歌いたい
好きだよって
心を開いていたいんだ
どこまでも どこまでも
旅をしよう
荷物を積んだなら
何を奏でる?何が好きなの?
そんなキミが好きだから






いつの日だったか、キミを想って
作った歌を、キミは美しく歌ってくれたね。


僕とキミを繋いでくれているのは、
紛れもなく音楽で、キミの音楽は
やっぱり幻想即興詩。


キミの歌声が、僕は大好きだった。
キミのピアノが、僕は大好きだった。


そんなキミの音楽を、僕はまたこんなに
近くで見ていられるとは思っていなかったよ。



自惚れかもしれないけれど、光のステージに
立つキミの視線が、僕を見ている。


僕だけを、見つめている。


すべて音を、僕だけに飛ばしているような、
そんな瞳で。



キミの音楽は、どこまでも僕の心を揺らす。



あと、もう少し。
もう少しで。




キミに、僕の名前を呼んでもらえる。





それだけで、いい。



キミの声で、僕を見つめながら、僕の
名前を呼んでくれれば、それでいい。



僕の罪も、キミの傷も、キミは知らなくていい。



もし、キミが僕の存在を知って僕の名前を
呼んでくれたとしても、キミは僕を
許してはくれないだろう。


もう二度と、僕の名前を呼んでくれることも
ないかもしれない。


それでも、いいんだ。



一度だけ、もう一度だけ、キミに僕の
名前を呼んでもらえたら、僕はもう
全てを気持ちよく手放せる。



キミのいない世界を、生きていける。




だから、お願い。
どうか、泣かないで。



キミを、責めないで。



すべての真実を知ったとしても、キミは
何も悪くないから。



キミの罪は、僕の罪だから。




だから、大丈夫だよ。



全てを思い出したとしても、キミは
何も悪くなんてない。




なのに。






「……柚夢っっ…!!!!」






必死な表情で、息を切らせて僕の
名前を呼んでくれたキミ。



僕の腕の中に飛び込もうとしてきた、
愛おしいキミは。




「悠ー……!!!!来るなっ!!!!」






キキィイィィイイッッッ!!!!





僕の腕の中で。
赤い涙を。





流していた。







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