コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
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- 第6音 ( No.65 )
- 日時: 2012/10/16 20:37
- 名前: 歌 (ID: HijqWNdI)
とりあえず話には触れないで、
キッチンに立って紅茶を入れる。
大和はレモンティーが好き。
だからおいしい紅茶を常に
用意するようになった。
「玲央は紅茶、ミルクとレモン、
どっちが好き?」
「ストレート」
「お、マジか」
出来た紅茶をリビングに持っていき、
私もソファに座った。
それにしてもまさかこんなことに
なるとは思わなかったな。
昨日出会ったばかりの玲央が今、
ここにいることも、大和と
鉢合わせしたことも。
「そういえば2人はご飯、食べたの?」
紅茶をおいしい、と言ってくれた
玲央に笑顔を向けてから
ふと思ったことを聞いてみた。
「あぁ、そういえば腹減ったな」
大和の言葉に玲央も頷く。
………なに、何で2人してそんなに
私を凝視するんだよ。
いやね?
聞いといてとてつもなく申し訳ない
んだけど、料理できるできない
の前に私の家には材料がございません。
「大丈夫だ、分かってる」
「分かってる」
哀れだね、私って……。
「でも紅茶だけだったらどう考えても
無理でしょ。お菓子はあるけど
それじゃご飯じゃないし」
「悠、一つ聞いてもいいか?」
「え、なに?」
今なんか変なこと言いました?
「この家に材料がないことは
見てすぐに分かる」
「はい」
「じゃあお前、いつも何食ってんの?」
……………。
音、かな?
とか冗談なんて言えないような
大和の真剣な表情に、玲央の視線。
まずい。
「……外食」
これで、勘弁して。
「うわぁ……どんだけ金あんだよ」
「この家見ればわかるでしょ。
私、ボンボンとかじゃない?」
「何で疑問形なんだよ」
「まぁそれは置いといて。いい加減
君たちのご飯の心配しましょ」
「お寿司、食べたい」
「お!それいいなぁ。悠、出前取ろうぜ」
「あぁいいかもね。ちょっと待って」
近くのお寿司屋さんに電話をして
出前を取ることにした。
きちんと話を逸らすこともできて、
一安心だけどいつまでもこんなのが
通用するわけがない。
ま、何とかなるでしょ。
お寿司が来るまで、玲央と出会ったときの
ことを大和が知りたいと言い出したから
そんな話をしていた。
するとすぐにインターホンが鳴って、
久しぶりに玄関のカギを開ける。
大和も玲央も結構食べるみたいだから、
4人前のを頼んだんだけど……。
「ちょっと、多くない?」
早速醤油を用意して、割り箸を割り、
マグロに手を伸ばした大和に
引きっつった笑顔を見せる。
「そうか?全然余裕だけど」
「うまい」
玲央ももくもくと食べてるし。
まぁ2人がいいなら私は何の
文句もないから、よしとしよう。
「悠も食べろよ」
「んー」
大和に強引にお箸を突きつけられて
曖昧に返事をする。
かっぱ巻きを一口食べて、
ちょっと休憩です。
それに関して何か言われる前に、
私はいろんな話を持ちかけた。
昨日も大和はここにいたから、
話すことなんてあまりないんだけども。
玲央には聞きたいことがたくさんある。
はぐらかされてた学校の質問とか、
どうして一人暮らしなのかとか。
あ、二匹暮らしだね。
「学校は行ってない。金がないから」
そう呟いた玲央の表情を見て、私も
大和も踏み込んではいけない、と
すぐに察知して話題を変えた。
金がないのに一人でアパートを
借りて住んでいるんだとしたら。
金を家の人に送るために、一人家を
出ていたのだとしたら。
もしかしたら玲央は危ない道に
立っているのかもしれない。
そう、思わずにはいられなかった。
「そういえば、大和もなんで
一人暮らしなの?」
「俺は親父と仲が悪くてな。早く
自立したかったから」
「ふーん。ってかまだサックスと
トランペット聞いてない!」
悠は何で一人暮らしなの?
って聞かれる前に、玲央も興味を
持ちそうな話を振った。
予想通り、顔をあげて私と大和を
交互に見る。
「大和も楽器吹けるんだってー。
玲央も聞きたいよね?あ、玲央の
コントラバスも早く聞かなきゃ!」
「お前、コントラバスできるのか」
「そうだよ!だから二人とも、早く
私に披露しなさい」
「何で命令口調なんだ」
「命令ですから」
「嫌だと言ったら?」
「それはお断りします」
ん?
あれ、ちょっと今なんか私、
すごいことひらめいちゃったよ!
「ねぇ!おもしろいこと
思いついたんだけど!」
「よし、じゃあすぐに忘れろー」
「今度それぞれの楽器持ち合わせて
演奏してみない?絶対楽しい!」
大和の棒読みはスルーして、
ソファから立ち上がった。
下から物凄い軽蔑の眼差しが
向けられているような気がするけど、
一度ひらめいちゃったら
絶対にゆずりません。
「どうしてそうなるんだよおい。
俺、しばらく吹いてないから」
「俺は賛成」
「はぁ!?いやいや、おかしいだろ」
ふふーんだ!
玲央は私の味方だもんね!
「2対1で決まり!楽器吹いてないとか、
大和さん、嘘はいけませんよー?」
「は、はぁ?」
「楽器も持ってるよねー?前にないとか
言ってたのも嘘って知ってるよー?」
「な、なんで知ってるんだよ……」
「それは、秘密!」
とか言っちゃってー。
きゃは、もうこーゆーの最高に
楽しいよね!
大和のアパートの大家さんに聞いたら、
借りるときに近くにスタジオは
ないかとか、楽器ケースみたいなのを
持っていたという証言を頂きました!
神崎探偵にかかればちょろいっての。
「では、決まり!いつにする?」
「ちょっと……」
「俺はいつでも」
「大和さん、次の休みはいつですか?」
「……6月4日」
「じゃあその日に楽器を持ってここに
集合!いいですね?」
「らじゃ」
「…………仕方ねぇな」
ふふふん。
まーた楽しみが一つできて、最高に
嬉しいんですけど!
話をしながらでも、4人前のお寿司は
綺麗に空っぽになっていて。
やっぱり男の人は食べる量が半端ない。
私は結局かっぱ巻き一つしか
食べれなくて、ずっと紅茶を飲んでいた。
2人は話になのか寿司になのか
分からないけど、夢中になっていたから
何も言われなくてよかった。
気付いた時にはもう日付が
変わるとき。
今日は、煌と築茂の約束に空雅が
乱入して、大和と玲央が鉢合わせして、
たくさん話した一日だったな。
「そろそろ、帰るか」
ごちそうさま、と自分の食器を
流しに持っていく大和の後を目で
追って、玲央に移す。
「玲央はどうするの?もう遅いし
今から帰るのめんどくさくない?
うちんち泊まる?」
「ばっ!お前、バカかよ!」
「え、今さら?」
玲央に来たのに大和が叫んだ。
人の心優しい気遣いをこいつは
何だと思っているんだ。
玲央だから全然大丈夫でしょうが。
「泊まる」
「なにちゃっかり話に乗ろうとしてんだよ。
ダメに決まってるだろ。そんだったら
俺んちに泊まれ、アホ」
あぁーその手があったか!
確かに私よりも大和のほうが
同性だし玲央も落ち着けるかも。
「大和、あったまいーねぇ!玲央、
そうしなよ。着替えも大和に
借りればいいんだし。家、目の前だし」
「………うん」
「じゃあ出るぞ。悠、ありがとな」
「いいえー。玲央をよろしく」
玲央にもばいばいをして、2人は
大和の家に向かった。
ふと、夜空を見上げると。
私には到底出せない光を放ちながら、
静かにたたずむ月。
青い空に浮かぶ月は
レインボーのわっかの中で涙ぐむ
ああ
君もあなたも
泣いてるんだよね
同じ世界の中で
悲しいと
寂しいと
同じ心なんだ
きっと……
月が涙を見せるから
そう思える
「私が涙ぐむから君たちが
一緒に笑えるんだろう」
月が言う
音を月に飛ばして、ドアを閉めた。
- 第6音 ( No.66 )
- 日時: 2012/10/18 18:12
- 名前: 歌 (ID: oN2/eHcw)
今日から6月に入り、衣替えになる。
赤道に近い沖縄は5月半ばからすでに20度を
超えていて、少しずつ暑くなってきた。
沖縄の梅雨は2週間もしないで
明けてしまうし、今年はかなり空梅雨
だったみたい。
だから今日の天気も、快晴。
誰よりも早く学校に入って、教室で
寝たい私は朝市のバスに乗っている。
6時半には学校に着いて、朝練に
向かう生徒とすれ違うくらいで
他は誰一人いない廊下を静かに歩いた。
教室に入り、窓際の席に座る。
カバンの中からローマ字がずらっと
書かれている原稿を取り出して、
小さく声に出した。
インタラクティブフォーラムの
地区大会は7月にあるから、それの練習。
学校の代表になった以上、
やるだけのことはやりたいし、
英語は好きだから苦ではない。
私しかいない教室に私の小さな音の粒が
落ちていくのを呆然と眺めた。
「……おはよ」
と、いつも私の次に来る大人しい女の子の
声ではないことに気付いて顔をあげると。
目の前に見慣れた黒いリュック。
「……おはよう。珍しいことも
あるもんだね。何かあるの?」
いつも遅刻間際に来る大高がこんな早くに
来るなんて、昨日の空雅といい、
本当に何か降ってきそうだわ。
「いや、別に。神崎は?何それ?」
「インタラクティブの原稿」
「あぁ……大変だな」
「そうでもないけどね」
やっぱり、あれ以来大高の態度が
静かというか、突っかかってくることが
一切なくなった。
普通の、会話。
全然面白くもなんともない、
普通の会話。
しばらく大高は私の手元にある原稿を
見つめたまま、動かなくなった。
ぼーっとしていて、心ここに非ずって感じ。
「大高?どうしたの?何かあった?」
「…………」
最近の大高はいつもぼーっとしてたし、
元気がないように見えてちょっと心配だった。
私の声が耳に入っているのかいないのか、
反応は示さない。
「……あの、さ」
「ん?」
やっと口を開いた大高になるべく
優しい声で返事をしながら首を傾げた。
「今日の放課後、話がある」
話?
大高の表情と、声のトーンと、
緊張した雰囲気と、その瞳。
ざわざわと心の中が揺れ始める。
今ならまだ断れるけど、いつか必ず
来るって分かっていたから、ここで
逃げるのは。
自分から逃げるということ。
「……分かった。どこにいればいい?」
「この教室で、いい。たぶん誰も
いなくなるから」
「うん。じゃあ放課後ね。あ、昨日大高が
言ってたおいしいお寿司屋の出前、
とって食べたよー」
「おお、マジか!」
話を変えて、この雰囲気をなくしたかった。
そしたら大高もそれに乗ってくれて、
何とか普通に話すことができている。
もし。
今のを断らなければ、愛花を裏切ることに
なるのかもしれない。
愛花を傷つけることになるかもしれない。
それでも、大高の気持ちを早く消して
次に進んでほしいから、今回は
逃げずに向き合おうと思う。
今まで、そういう雰囲気を異性と
作らないようにここまで来たから、
少なくすんだけど。
大高との関係も崩したくはないから、
なるべく早く、元に戻りたい。
1、2限目の授業を終えて3限目の授業は
担任の公民。
がやがやとうるさい教室にガラッと
勢いよく担任が入ってくると、
一気に静まり返る。
「今日は授業の前にこの前のテスト結果を
配るぞー。番号順に名前呼ぶから前に来い」
担任の一言で再び言葉が飛び交う。
テストとか、そんなんいつやったっけ?
「うわー最悪!絶対数学赤点だもん!」
テストをやった記憶が薄れていたため、
必死で思い出そうとしていたところに
斜め前の席に座っている愛花が叫んだ。
そして、勢いよく振り返って
何故か睨まれる。
「悠が数学教えてくれれば!忙しいとか
言って逃げたよねー。どうせ悠の
結果なんて誰もが分かってるんだよ」
「あのー……何のことですか」
「出た!悠のテスト忘れ!本当に
どんな頭してるんだよ」
どんな頭ってわたあめみたいな頭?
「悠の脳みそ半分よこせー」
「……引きちぎってあげようか」
「真面目な顔で言わないで。恐ろしい」
恐ろしいって、ひどいなこいつ!
そんなやり取りをしていたら番号の
早い愛花が呼ばれた。
担任に真剣な表情で何かを言われて
かなり沈んでいる愛花に、心の中で
応援歌を歌ってあげる。
「本当に不思議なんだけど、神崎って
いつ勉強してるわけ?」
「え、勉強ってするものなの?」
「………喧嘩売ってるだろ?」
「いやいや、買わなくていいからね!」
心の中で歌っていると、前に座っていた
大高が振り返って口を開いたから、
それに真面目に答えたんだけど。
殺気が見えて慌てて首を振った。
愛花が帰ってくるのが見えたから、
すぐに大高を前に向かせて何を
一番に言おうか、考える。
「………どうしよ」
先に口を開いたのは絶望的な色を
身にまとった、愛花の弱々しい声。
今にも泣きそうな顔で、結果が
書かれているであろう紙を虚ろな目で
見下ろしていた。
「ど、どうした?」
結局出てきたのはこんな言葉で、
恐る恐る聞いてみると。
「下から9、番で……このままだと
確実に行きたい音大に、行けないって」
そんなこと言われたら、こいつの
性格だとかなりへこむだろうな。
隣の大高も心配そうに見ている。
それに気付いていないみたいで、自分の
世界に行ってしまっている愛花。
何を言ってあげればいいのか
分からないけど、でもこーゆーときは。
「愛花、今日部活終わったら
うちんち泊まりにおいで」
一応女子です会、を開こう。
私の言葉に愛花は一瞬、戸惑いを見せたけど
すぐに唇をかんで嬉しそうに頷いた。
明日は土曜日だし、部活はないって
聞いたから大丈夫だろう。
愛花のお母さんも私にすごく
よくしてくれるから、何の問題もない。
ちょっと元気が出た愛花は自分の
席に座って、もう一度紙を読み始めた。
大高もそんな愛花を見てから自分の
名前が呼ばれたことに気付いて、
席を立った。
大高の次は私。
前に呼ばれてた人は呻き声や
叫び声で溢れていて、みんなテストに
操られたかのようだ。
その光景を黙って見ていると、
自分の名前が呼ばれて、大高とすれ違った。
担任はいつも通りの表情で、
「今回もトップだ。お前、テスト
できるからって授業寝たりさぼったり
すんなよ。ってか大学には
行かないのか?」
「絶対に行きません」
「学年主任や生徒指導の先生方にも
これからいろいろ言われると思うぞ。
お前の頭ならどこの大学でも行ける」
「行けるからって行かなければ
いけない理由なんてないですよね?
大学とかどーでもいーんで」
そう言って紙を担任の手から抜き出して
席に戻った。
戻るときに、クラスメイトの視線が
ついてきたけど、無視。
- 第6音 ( No.67 )
- 日時: 2012/10/19 06:10
- 名前: 歌 (ID: kJLdBB9S)
テストとかはっきり言ってバカバカしい。
あんな紙切れ一枚に何時間も使って
力を注いで、それでそいつの学力は
人間的なレベルまでもを作る。
そんなもので自分の人生を
左右されたくないし、
自分の道は自分で決める。
行けるからとか、もったいないとか、
そんな甘ったるい言葉はいらない。
私は私のやりたいことをやるだけ。
「また1位だろ?」
「この学校で1位ってだけで何の意味も
ありませんよ」
「それ、青田が聞いたら発狂するぞ」
「だから聞こえないように言ってるじゃん。
大高はどうだったの?」
「まぁ俺は普通。いつもの位置をキープ」
「それはよかったですねー。愛花に
勉強教えてあげなよ」
「お前、残酷だなぁ」
「君ほどじゃ」
紙に集中している愛花をちらちら見ながら、
大高と掠れた声で話をした。
全員に結果が渡ったみたいで、
担任からのめんどくさい言葉を
欠伸で
もみ消して、授業は聞かずに
机に
突っ伏した。
昨日は、煌たちと会って、大和たちと
遅くまで話してたから寝ないのは
当たり前だけど、体を休める時間が
あまりなかった。
だからすぐに自分の世界へ。
そこから戻ってきたのは、
次の授業は音楽だよ、と言った
イツメンの声を聞いたとき。
いつの間にか3限目は終わっていて、
みんな音楽室へと移動を始めていた。
すぐに用意をして愛花を含めた
イツメンと教室を出た。
「ねー!そういえば今日の音楽の授業、
特別コーチが来るらしいよ?」
「え、誰誰?」
「愛花は知ってるよね?吹奏楽部の
トレーナーをやってる人って聞いたけど」
イツメン2人の話からすると
たぶん
それは煌のことだろう。
……って、授業にまで来るんですか?
「へぇ、春日井先生来るんだ。
よかったね、悠!」
「何々!?何で悠がよかったねなの?」
「悠、春日井先生のピアノ好きなんだよね。
この前も会ったみたいだし」
あは、昨日も会いましたけどね。
なーんてことは言えないから黙って
笑顔を返した。
「そうなんだぁ!どんな人?イケメン?」
空雅LOVEのイツメンはイケメンハンター
だからやっぱりそこになるよね。
キャーキャー言い始めたところに、
彼女の一番お目当ての彼が。
「何騒いでんの?」
空雅が登場したことにより、彼女の
興奮もさらに上がってしまった。
煌が授業に来ることや、さっきの
テスト結果の話で盛り上がってる。
煌とプライベートで会ったことは
学校では言わないように、と昨日
釘を刺しておいたから大丈夫そうだ。
どうやら今回のテストの最下位は
空雅だったみたい。
ま、本人は何も気にしてないけど。
そんな空雅の姿を見た愛花の表情が
イラッとしたことに気付いて、
イツメン2人と空雅を置いて先に
音楽室へと入った。
するとピアノのイスに座っている
煌の周りに集まっている女子たちの
姿が見えた。
今日もご苦労様です。
私に気付いた煌が苦笑を見せたから
ガッツポーズをして見せて、
心の中で頭を下げた。
後から空雅たちも入ってきて、
イツメン2人も煌の周りに寄って集った。
空雅は私のほうに寄ってきて、
「煌、すごいな。やっぱり大人の
男ってかっこいいのか?」
「まぁかっこいんじゃない?」
「……悠も、煌みたいな男が
タイプだったり?」
「はっ!私、男を男って見てないから
そんなの考えたことないよ」
そう言うと何故か黙って、決められている
席へと向かった。
あーあ、何か傷つけるようなこと
言っちゃったかもなぁ。
ちょっとした罪悪感に駆られながらも、
チャイムが鳴ったので指定の席に座った。
玲子先生が入ってきて、授業が始まった。
煌の紹介を得て、オペラについての
DVDを観て、煌の説明を聞いて
プリントにまとめるという作業。
煌の説明は誰が聞いても分かりやすくて、
玲子先生より煌の授業のほうがいい。
と、思った生徒がほとんど。
あっという間に授業が終わって
煌に向かって拍手を送った。
チャイムと同時に生徒たちはぞろぞろと
音楽室を後にしていくけど、私は
みんなが出ていく姿を眺めていた。
愛花に先に行ってて、と言って
音楽室には私と空雅と煌だけ。
「煌!びっくりしたぁ。まさか授業まで
やるなんて。何で昨日言わなかったの?」
「驚かせたくて。全然うまくなかったと
思うけど、楽しかったな」
「何言ってんだよ!めっちゃ
分かりやすかった。いつも寝てる
俺でも真剣に聞いちまったもん!」
煌に向かって私と空雅は大絶賛。
それに照れくさそうだけど嬉しそうに
笑顔でありがとう、と言った。
「でも、こうしてみるとやっぱり
高校生って若いなぁ。羨ましい」
「そうかぁ?俺は早く煌みたいな大人の
男になりてーよ」
「はははっ!俺なんて全然!まだまだ
ガキだしお前と変わんないよ」
「空雅と煌が一緒?なわけないない!
天と地ぐらいの差だわ」
「おい!どーゆーことだ!」
「そのままの意味ですけど?」
「黙れー!今に見てろよ!お前が見惚れる
かっこいい大人の男になってやるから!」
「うん、死後の世界で待ってるわ」
しばらくぎゃーすかぎゃーすか言い合って、
煌の仲裁により、ようやく収まった。
お昼を一緒に食べよう、と言うことになって
購買で買ってきたおにぎり一つを
持ってもう一度音楽室に集合。
うちの学校はどこで何を食べても
怒られないとか。
私が手にしていたおにぎりを見て
煌と空雅はそれだけ?と目を丸くした。
さっきお菓子食べた、と誤魔化して
他愛もない話をしながら昼休みを過ごした。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、
私と空雅は教室に戻る準備を始める。
煌はこの後も6限目まで授業があるみたいで
放課後は吹奏楽部の練習を見る。
「2人は放課後どうするの?」
「俺は部活ー!大会が近いんだよな」
「悠は?」
と、聞かれて一瞬大高との約束があることを
思い出したけど、言う必要はないだろう。
「私はいつも通り、かな」
「そっか。じゃあまたな。授業、寝るなよ」
「それは分かりませんなぁ。煌も
授業頑張れよ」
「頑張ってね!」
そうエールを送って、教室へと戻った。
教室に戻る間も、戻ってからの授業の間も、
さっきの煌の質問で考えないようにしていた
放課後のことがどうしても頭から離れない。
もし、私が予想している話だとしたら。
なんて言おう。
なんて答えよう。
そんなことをずっと考えては、何も出てこなくて
焦りが積もっていく。
斜め前の席にいる愛花が視界に入れば
入るほど、それは大きくなって
次第にはため息までつくようになった。
もしかしたら、予想している話とは
違うかもしれない。
いや、そうであってほしい。
そうすれば今まで考えていたことが
バカバカしくなって笑えるのに。
大高の背中を見つめて、どうか
違いますように、と願った。
- 第6音 ( No.68 )
- 日時: 2012/10/20 20:52
- 名前: 歌 (ID: 4mXaqJWJ)
来てほしくない時間というものは、
どう頑張っても来てしまう。
帰りのHRが終わり、そそくさと部活に行く
生徒、帰宅する生徒に分かれた。
そして教室には私と、大高だけ。
まだ他クラスから話し声は聞こえてくるし、
廊下を通る生徒もまばらにいる。
それもすべて消えた5時過ぎごろ。
大高は課題であろうプリントに走らせていた
シャーペンを止めて、私のほうを振り返った。
私も終わった課題をまとめていた
手を止め、顔を上げる。
ひどく真剣な瞳に、一瞬、心臓が跳ねた。
「………話、してもいいか?」
「……うん」
あー、どうしよ。
めっちゃ緊張してるし、心臓がうるさくて
平静を装えないかも。
思った以上に心も体も震えていることに
気付いて、逃げたい衝動に駆られる。
しばらくの沈黙の間、一生懸命
視線だけでも、と思って逸らさずに
大高の瞳を見つめた。
そして、大高は軽い深呼吸をした後、
「好きだ」
はっきり、きっぱり、しっかり、
真っ直ぐに私への想いを伝えてくれた。
冗談をかまそうかとも考えてたけど、
そんなこと言える雰囲気ではないことは
もう分かっている。
でもまだ逃げたくてたまらない。
胸がぎゅっと苦しくなって息をすることも
忘れそうになるけど、返事を返さなくちゃ
いけないから心を落ち着かせる。
怖くて、怖くて、嫌だけど、
向き合うって決めたから。
「………ご、」
「待って!」
ごめん、と言おうとした直後に
大高に止められて言葉を呑み込んだ。
顔を両手で覆って、私の机に
うなだれる大高を唇を噛んだまま見つめる。
「はぁー……ほんとに、もう……
マジで俺、お前が好きすぎてやばいんだよ」
震える声で呟いた言葉に喉が
きゅーっと痛くなるのを感じた。
自分にもこんな感情があるなんて思わなかったな。
冷静に、冷めた表情ですんなり
答えを出せる自信があったのに。
そんな私はどこにもいない。
「お前の答えなんて最初から分かってる。
何度も何度も諦めようとした………でも、
無理だったんだよ!!」
今にも涙が出そうな、それを我慢しているような
姿に何も言葉が出てこない。
どうして?
どうして私何かを好きになったの?
私の何がいいの?
「………なん、で?」
「え?」
「何で、好きになんかなったの?」
「そんなの……」
「私は一生懸命友達としての距離を作って
何も壊れないように、変わらないように
してきたのに!!何で好きになったの!?」
我慢の、限界だった。
「好きになっちまったものは仕方ないだろ!?
俺だって分かんねーんだよ!いつから
お前を好きで、どうして好きなのか!
気付いたらお前しか見えてなかったんだよ……」
「そんなの!おかしいよ……。私じゃなくて、
愛花を…好きになってあげてよ」
「そんなの無理に決まってるだろ?」
「何で無理なの!?愛花の気持ち、分かってるでしょ?
好きになってくれる人を好きになりなよ!」
「それができたらこんな苦しい想い、
してねーんだよ!分かれよ!俺がお前を
どんだけ好きかってこと……」
もう、………嫌だ。
気付いたら2人とも席から立ち上がり、
お互い向き合って立っていた。
冷静に話を進めるつもりだったのに、
思うように感情のコントロールが出来なくて
愛花の気持ちを考えれば考えるほど。
それは大高が私を想う気持ちと
同じだということに気付いた。
どうして恋愛感情なんていうめんどくさい
ものを人間は持っているんだろう。
嫉妬とか、妬みとか、自分を苦しめる
だけの感情も後からついてくるのに。
楽しい友情関係だけで、十分に幸せなのに。
どうしてそれ以上のことを望んで、
壊そうとするんだろう。
分からない、私には。
「頼むから……俺を男として、見ろよ…」
私の肩を掴んで俯く大高の力は、
震えている声とは裏腹に、びっくりするほど。
強かった。
あぁ、こいつもきちんと男の力で、
男の本性で、男、なんだ。
『男友達』と『男』は別のものと思っていた。
そう思わなければ、大高とどうやって
接していけばいいのか分からなかったから。
でも、やっぱり、私とは違うんだね。
何も言えなくなった私から手を離して、
顔を上げ、私と大高の間にいる机を回って。
私の隣に来て、そっと……抱きしめられた。
抵抗しようとして手を大高の胸に
押し当ててみるけど、男の力は
びくともせずにただ私を包んだ。
愛花の顔が頭から離れなくて、
大高の腕から抜け出せなくて、
どうしていいか分からない。
私もきちんと………女、だった。
好きだ、好きなんだ………と、繰り返し
私の耳元で呟く大高の声。
何も言えずにただされるがままになって
いると、抱きしめられていた腕が
少し緩んで、大高の顔がすぐ近くにあった。
う、そでしょ……?
瞬時に次に起こることが分かって、
体が凍りつく。
頭の奥で警報が鳴っているのに、体は
言うことを聞かない。
キス、される。
「何、やってんの?」
そう思って目をぎゅっと瞑ったとき、
ひどく、怒りに満ちた声が刺さった。
大高も慌てて声のするほうに振り返る。
私も大高の先にいる人物が煌だと
気付いた時、煌を真っ直ぐ見ることができなくて
すぐに視線を逸らした。
「何やってんのか、聞いてんだけど」
「……見て分かりません?キスですが」
「ここが学校ってこと、分かってる?」
「当たり前でしょ。それより邪魔なんで
消えてもらえます?」
………へ?
大高ってこんなこと言える人、だったっけ?
人に突っかかったり喧嘩をするような
やつじゃなかったよね?
「お、大高?」
「彼女は同意していないみたいだけど」
「そんなのあんたには関係ない」
「関係あるんだよね。彼女は俺の
大切な人だから」
ま、まずいぞこれは。
煌も意味の分からないことを言い始めたし、
このままだと本当に喧嘩になる。
さぁ、頭フル回転だ!
この険悪ムードの中、一人こっそり
逃げる作戦。
あ、UFO!と叫んで2人が気を取られている
隙に逃げる作戦。
大高の股間を蹴って、煌の股間を蹴って、
逃げる作戦。
……ダメだ、逃げることしか
思いつかない。
こんな状況で逃げられるわけないと
思うし、やばいよねぇ?
でも喧嘩には巻き込まれたくないです。
「あんたは神崎のなんなの?」
「それはこっちのセリフだね。俺から見たら
ただのクラスメイトにしか見えないけど」
「あんたなんかに教えねーよ」
「分かった分かった。とりあえず、学校で
そーゆー行為はやめたほうがいい」
「学校じゃなければいいんだな?」
「いや、相手次第では俺が許さない」
うわぁ……どうしよどうしよ。
本当にお2人さんとも、いい加減に
して頂けないでしょうか?
ってかどうしてここに煌がいるんですか。
いや、煌が来てくれたから危機を
脱出できたんですけど、今の危機を
脱出するにはどうしたらいいんですか。
誰か、教えてください。
そんな神のお告げなんてものは
降りてくるわけもなく、ただ口げんかをする
子供のような2人を眺めていたら。
なんだか急にどうでもよくなった。
「はぁ………」
思わず、大きなため息が漏れていて
2人にもしっかり聞こえていたみたい。
2人の視線が痛いほどに突き刺さった。
でももう、めんどくさくなったので
神崎悠、スイッチ入りました!
落としていた視線を2人に向けて、
にこっと満面の笑みを張り付ける。
「帰ろっか!」
今までの出来事をなかったことに
するのが一番ですね。
と、いうわけで吹奏楽部の練習終了時間が
迫ってきていることだし、この状況を
見られるわけにはいかないので強行打破します!
勢いよくカバンを肩にかけて、
ドアに向かっていく私を唖然として
見ているであろう、煌と大高。
大高には悪いけど、今は煌がいる限り、
きちんとした答えは出せない。
いや、さっき返事しようとしたのに止めたのは
大高本人だから私は悪くないよね?
ドアにもたれかかっていた煌の
隣を何事もなかったかのように通りすぎる。
目も合わせないようにしたから、
呼び止められるかな、と思いもしたけど
2人とも何も言わなかった。
そしてようやく、昇降口。
誰もいないことを確認して、張り付けていた
笑顔をはがしたと同時に一気に体全身の力が抜けた。
へた、とその場に座り込む。
今頃になって動悸が激しくなるのが分かり、
心臓が痛い。
「怖かったぁ……」
私に怖いものなんて、あったんだね。
「痛かったぁ……」
掴まれた肩が?
2人の視線が?
大高の震える声が?
「苦し、かったぁ……」
こんな感情、私らしくないよね。
私には必要のない感情だよね。
だから、今だけ、今が過ぎたら、元に戻ろう。
座り込んでいた時間は長く感じたけど、
2、3分くらいしか経っていなかったみたい。
すぐに気持ちを切り替えて、
カバンの中からイヤホンとi-Podを取り出す。
MISIAの「Everything」を聞きたい気分。
うん、大丈夫。
すぐに頭の中が音楽でいっぱいになるから、
今日の私はいなくなる。
気持ちくて生き生きとした歌声が
耳に広がって、その歌声に心預けながら
ローファーに足を通した。
今日は、愛花が泊まりに来るから、
帰りに買い物をしなければ。
あいつはよく食べるしお菓子も夜食で
食べるだろう。
あ、あとは少しでも手ぶらで来て
もらうように歯ブラシとか洗顔も。
シャンプーやバスタオル、食器は余分に
あるやつを使うとして大丈夫。
家に着くまでの間、音楽を聴きながら
今日の一応女子です会の計画を考えていく。
愛花が落ち込んだり病んだりするたびに
やっているから、別に特別なことはないけど。
問題は食事だ。
愛花にも私は普通に三食きちんと食べていると
思われているから、そこを毎回回避するのが大変。
仕方ないときは無理にでも食べる。
でもそれはなるべく避けたいから、
小食、と言っていつも誤魔化していた。
うん、たぶん本当に小食なんだよね、きっと。
電車からバスに乗り換えて、スーパーの近くで
降りて買い物をすました。
家に着いて時間を確認するとちょうど愛花も
こっちに着くころのいい時間。
買ってきたものを冷蔵庫の中にしまって
愛花が大好きな、タコライスを作る。
え?私が料理できるのがビックリ?
そんなことになったら私が一番
ビックリしますよ!
だってタコライスなんてご飯にキャベツに
トマトにひき肉のせて終わりですから。
あー、タコライスって言うのは
沖縄でよく食べられている名物です。
タコスのライスバージョン。
残念だけど、タコはひとっつも入ってないから、
沖縄に来た時に探しちゃダメだよ?
………誰と喋ってるんだろう。
突っ込んでくれる人もいないから、
虚しくなってオーディオをかけた。
愛花はクラシックが好きだから、
クラシック曲が集まっているCDをセット。
そういえば携帯の存在を忘れていた。
愛花から連絡があるかもしれないから
カバンの中からすぐに見つけ出して
画面を見てみると。
電話が2件にメールが6件。
電話のほうを確認すると、一番上に
愛花の名前。
その下に………煌。
これは、見なかったことにするとして
すぐに愛花に電話をかけた。
いつもお母さんが送ってくれるから、
交通手段は心配じゃない。
家を出るときに電話したみたいで、
もう私の家に近いらしい。
気を付けてきてねとだけ伝えて、電話を切った。
受信BOXのほうを開いてみると、
煌と大高から1件ずつ入っている。
他のメールと同様、開かずに携帯を手放した。
- 第6音 ( No.69 )
- 日時: 2012/10/21 19:50
- 名前: 歌 (ID: npB6/xR8)
すぐに家のインターホンが鳴って、
玄関のドアを開けると、愛花と愛花のお母さん。
いつものように穏やかな笑みを
浮かべていて、ふっくらした顔つきが
愛花によく似ている。
「よろしくね」とお母さんが焼いてくれた
クッキーをもらって、それにお礼を言い、
愛花を上がらせた。
「タコライス、できてるよ」
「やったぁ!ね、DVD借りてきたんだ!見ようよ」
「何の?」
「君へ届け!」
「あぁ……三浦秋真が出てるやつ?」
「そうそう!もうめっちゃかっこいいんだから」
愛花の大好きな俳優が出ている恋愛映画の
DVDを早速取り出して、見せびらかす。
全く興味ないのですが。
「そんなの一人で見なさいよ」
「はぁ!?お前ふざけてんの?」
「興味ないってば」
「出たよー。悠って本当に恋愛系とか
興味ないよね」
「うん。ほら、冷めちゃうから早く食べな」
「……悠のは?」
「あんたが来るの遅かったから、お腹
すきすぎて先に食べた。まぁ、あまり
好きではないからちょっとね」
「タコライスのどこが“あまり”なの!?
味覚おかしいんじゃない?」
「あーはいはい。早く食べろって」
自分の好きなものを否定されると、ムキに
なるのが愛花の癖。
こーゆーのは適当に流すのが一番。
まだぶつぶつ言いながらも、満足そうに
タコライスを完食した姿を見て
改めて実感した。
やっぱり愛花は、大切な存在だと。
それからお風呂に入った後、嫌々言いながらも
強引に愛花の隣に座らせられてDVDを見た。
途中からぐすぐすと鼻水をすする音が
聞こえてきたから、ティッシュを
目の前に置いてあげる。
どこが感動の場面なのか、分からなーい。
つくづく冷めた人間だな、と思いながら
つまらない2時間を過ごした。
「あーもういい話だったぁ」
「それはよかったですねー。はい、お菓子」
「ありがどー。あんな恋愛したいよー」
「そうですかー。はい、ジュース」
「ありがどー。悠ー結婚しよー」
「嫌ですー。はい、ガムテープ」
「いらんわ!」
泣くのか、突っ込むのかどっちかに
してください。
しばらくいつものくだらないやり取りを
した後、愛花はお菓子を片手に、
2人で寝室に入った。
一応ベッドはあるけれど、ほとんど
リビングのソファしか使わないから綺麗な
ままで愛花がそこに寝る。
ボスン、と勢いよく座りながら
さっきのDVDの話を一生懸命していると。
「うちさぁ……告白しようかな」
遠くを見るような目でぼそっと呟いた。
誰に、とは聞かないし、いいと思う、とか
無責任なことも言えない。
愛花の表情を見ればなおさらに。
ずき、と静かに胸の奥が軋む音に
気付かないふりをして、じっと愛花を見つめる。
「このままじゃ、何も変わらないし
うちもやれるだけのことやりたいなって」
「……そっか」
「悠は……好きな人とか、本当にいないの?」
「本当に恋愛に興味がないからさ。
何も話すことないんだよね」
なるべく嫌な思いをさせないように
言い方と声のトーンを優しくする。
1つ間違えれば、友情が壊れるかもしれないから。
「もしできたら、言ってよ?」
「もし、ね」
「でも悠が恋愛なんてしたら、うちは悠の
おもりになっちゃうのかなぁ」
「んなわけないでしょうよ。何言ってんの。
愛花は愛花。私の中でそれは絶対に変わらない」
そう言うと、ちょっと照れくさそうに笑った。
「ありがと。恋愛だけじゃなくてさ、今日の
テスト結果もそう。本当に中途半端どころか
全然ダメダメだよね」
「思い当たるようなこと、あるの?」
「……うん。部活にも影響出ちゃってさ、
練習に身が入らないんだよね」
たぶんこの言葉の裏側には。
大高を好きすぎて、でも叶わないって
分かっていながらも諦めきれない。
恋愛のことしか、大高のことしか
考えられない。
だから、何をやるにもやる気が出ない。
それを実際に言葉にして私には言わないこと、
よく分かってるし聞きたいとも思わない。
愛花を苦しませてるのは、間違いなく
私が関係しているんだから。
でもたとえ大高が私を好きだとしても、
嫉妬は多少なりともすると思うけど
私を嫌ったり恨んだりするような奴じゃない。
友達だ、って信じてる。
「負ける、って分かってるんだよね。
当たって砕けるって分かってる。
だから怖くて前に進めないの」
「……うん」
「悠だったら……負けるって分かってる
勝負に、いく?」
負けるって分かってる勝負……か。
「いくよ。私に負けたくないから」
弱い自分に、逃げ出そうとする自分に、
臆病な自分に、負けたくない。
最大の敵は常に自分だから。
ベッドに座っている愛花を、下に
敷いてある布団から見上げる。
真っ直ぐに見つめる瞳が、すっ、と逸らされた。
「……本当に、悠はかっこいいよね」
寂しそうな表情を浮かべる愛花に
そっと手を伸ばして、頭を撫でた。
すると、ずっと我慢していた涙を次々と
流していく愛花。
立ち上がって優しく抱きしめた。
しばらくそうしていると、スースー、と
寝息が聞こえてきて、名前を呼んでみても
返事はない。
「おやすみ、愛花」
泣き疲れて眠ってしまった愛花を
そっとベッドに横にして、布団をかけてから
電気を消して寝室を出た。
リビングに戻ると、寝室に入る前に
消し忘れていたオーディオが小さいボリュームで
流れていることに気付いて、すぐに止める。
時計の針は深夜の2時を回ったところ。
まだ未開封のメールのせいであろう、携帯の
ランプが点滅している。
いい加減、返事しないとね。
携帯の画面を表示すると、電話がさらに
1件入っていた。
誰からかなんて容易に想像できる。
案の定、愛花の名前をはさむ煌の
名前が表示されていた。
電話があった時間からすでに4時間は入っているし、
こんな時間に電話するのは迷惑だろう。
受信BOXから、未開封のメールを一つずつ
開いていく。
煌のメールを見てみると、電話してほしい、と
一文書いてあっただけ。
大高のメールには、今日はごめん、と
ありがとう、と二文綴られていた。
何にありがとう、なのか分からないけど、
傷つけてはいないみたいでちょっと安心した。
煌には後で電話する、大高には、
私こそありがとう、と返信を打ち、
他のメールは適当に削除して。
ソファに寝転び、目を閉じた。
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