コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第25音 ( No.239 )
日時: 2013/06/08 21:55
名前: 歌 (ID: npB6/xR8)


って、まだ出発して2日しか経っていない
んだけどね。


こんなんじゃ先が思いやられるから、
今日でこんなことは終わりにしないと。



『でもこれで、大和たちに自慢できるね』

「ん?何が?」

『悠が寂しくて俺に電話してきたって』

「はぁ!?い、いや!別に寂しかったわけじゃ
 ないからね!?ちょっと暇だっただけだからね!」

『ふふふっ……あーもう、本当に悠、
 可愛すぎる!』

「えぇー…日向さん、頭おかしいよ」

『うん、知ってる。頭おかしい悠を好きに
 なった時点でね』

「うっわー!」



ありゃりゃ、一向に終わりが見えない。


でも何ていうか……日向もかなり積極的に
なったっていうか、もう好きとか普通に
会話で出すようにまでなったんだね。


反応しずらくなっちゃったんですけど。



『そういえば悠はクリスマスどうするの?
 まさか本当に1人?』

「んなわけあるかい!デートですぅ」

『デート!?どこのどいつと!?』

「ちょっと、声大きいよー。2年半ぶりに
 再会する中学時代の親友と!」

『……女、だよね?』

「いえっす」

『…………レズビアン?』

「黙りなさい。私たちは清きレズなのです」


本気で信じようとしている日向くんに
一応誤解を解いておいて。


「じゃ、そろそろホテルに戻るね」

『うん。またいつでも電話してきなよ。
 ってかたぶん、俺からもするし。
 あいつらもすると思うから大変だと
 思うけど』

「あは、実際空雅からの電話じゃなけりゃ
 大丈夫。あいつの電話長いんだもん」

『ははは!悠も大変だね』

「お互い様です。じゃ、またね」

『うん。風邪ひかないように』

「はーい!」


電話を切って、ふっと頬が緩んでいるのを
自覚しながらもそれを隠さずに。


夕焼け染まる冬空に鳴り響く、懐かしい
夕焼け放送を聞きながら。



1歩、踏み出した。




12月24日、クリスマスイブが来ました。



「悠!!!」

「舞!!!」



みなとみらい区にあるクイーンズスクエア
横浜が私たちのデートスポット。


駅で待ち合わせをして、先に来ていた
私は舞が来るのを待っていると。


古着のロングスカートにミッキーが
プリントされているスウェット、ダウン
ジャケット。

赤みがかかった黒髪に肩まであるボブ、
身長は私と同じくらいの女の子。


中学時代の親友である佐々木舞(ササキマイ)
が勢いよく走ってきた。


私も舞に向かって走り出し、その場で
熱いハグを交わす。



「悠〜!!!やーっと帰ってきたぁ!
 どんだけ待ったと思ってんの!?」

「あはは!ごめんごめんっ。でも本当に
 会えてよかったぁ。元気にしてた?」

「悠と会えるって分かってからはもう
 元気すぎるほどだよ!ってか悠………
 またそんなにキレイになっちゃって!」

「舞がかわいすぎるから大丈夫」

「はぁ……相変わらずなのね」



そんなことを言い合いながら笑って、
私たちは電車に乗り込んだ。



電車の中でも小さな声で次から次へと
言いたいことがお互いに出てきて
止まらない。


あっという間にみなとみらいに着いた。



クイーンズスクエア横浜はグルメや
ショッピングもコンサートホールにホテル、
ギャラリーとあらゆるエンターテイメントを
有するみなとみらいの大型施設。


メインストリートには、クイーンモールに
雑貨やアクセサリーなどのワゴンショップが
ずらりと並んでいる。


久しぶりに訪れたここは、出店した数が
増えていてさらに大きくなっていた。



「舞、お腹すいてるでしょ?先にゆっくり
 ご飯食べよっか」

「うん!私、最近おいしいお店見つけたの!
 そこに行こうよ」

「お任せしまーす」



舞がお気に入りだというバイキングのお店に
入り、和洋中といろいろある食事の中から
私はフルーツだけを取り席に戻ると。



「はぁ!?悠、これだけ?」

「うん。実は朝、ホテルのバイキングが
 おいしくて食べすぎちゃったんだよね」

「うっわー……それも贅沢だなぁ」


難なく話を誤魔化せたことにほっと
胸を撫で下ろして、てんこ盛りによそって
ある舞のお皿を凝視してしまった。


「こんなに食べれるの?」

「余裕余裕!今時これが普通だって!
 悠は昔から小食だよねぇ。本当、細くて
 羨ましい!ってか細すぎ!」


もう何度も言われていることだから
笑ってスルーしました。



ご飯を食べながらも舞の口は止まらずに。


「でっさー!もう、本当に総司がカッコよくて
 やばいの!あぁ……抱きしめられたい…」


新撰組、ボカロ、ゲームが好きないわゆる
オタクである舞ちゃんはひたすら2次元に
飛行している。


私は半分引きながらも、笑顔で相槌を
打っていた。


自分の好きなものを一生懸命話してくれるのは
嬉しいし、喋ってくれてたら自分のことを
話さずにすむから。


舞には沖縄でのことは何一つ話していない。


昔から自分のことを話すのは苦手で、中学の
時もほとんど言わなかったから不思議な
ことではない。


舞の話をひたすら聞いて、私のことを
聞かれたら曖昧に笑って終わらせる。


その、繰り返しだったっけ。



「あー彼氏ほしい!悠くらい可愛くて美人で
 完璧だったら選び放題でしょ!?告白とか
 やっぱり今も日常茶飯事でしょ?」

「あはは、まっさかー」

「絶対嘘だねー。中学のときだってめっちゃ
 凄かったし。そういえば28日の同窓会、
 みんなすっごい楽しみにしてるよ!
 男子なんて毎回来ない人もほとんど来るし」

「へぇー。みんなに会えるのは嬉しいなぁ。
 次いつ会えるか分からないし、なるべく
 全員に会いたいかも」

「悠が来るって連絡したら、その日用事が
 あった人も埋め合わせとかしたみたい。
 どうしてもって人も顔だけは出しに
 来るってさ。たぶん、全員の顔は見れると
 思うよ?」

「そっかぁ!楽しみだなぁ……。そういえばさ、
 担任は来ないの?」

「来るも来ないも、あの人教師辞めたって」



あらま、辞めてたんだ。



「何か離婚したらしくてさ。地元に帰った
 らしいよ?いい先生だったのにね」

「確かに。結構人気だったよね。面白くて
 気さくだったからさ。会いたかったなぁ」

「成人式の時には来るんじゃない?卒業の
 とき言ってたし」

「成人式かぁ……長いねぇ」

「あ、もちろんこっちでやるよね!?」

「うん、たぶんね」

「よかったぁ!悠がいなかったら成人式の
 嬉しさが半減するもん」

「あはは、なんだそれ!」



とりあえずこれで、1つ情報収集完了っと。



担任が教師を辞めていたという事実は
私が横浜に来ればすぐに分かったこと。


その上で担任の名前を使って私を横浜へ
来させたかった。


つまり、担任ではないとばれても別に
よかったということ。


私を沖縄から出せれば、それでよかったと
いうこと。


私、たった1人で。




結果的に、そんなことはしなくても私は
私の意思で1人で横浜に来たんだけど。


万が一のことを考えたのか、彼はちょっとした
小細工をしてきたってわけだ。


よっぽど、6人から遠ざけたかったのかな。



「あ、そうだ!悠、これ……クリスマス
 プレゼント!メリークリスマス!」

「わぁおっ……ありがとう!実は私も
 あるんだ。はい、これ」



店内に流れるのは、誰もが知っている
クリスマスソング。


赤と緑で揃えたコスチュームを着ている
店員やスタッフがぞろぞろといる。


街も気分もすっかりクリスマスモード。



舞がくれたのは、私が好きなブサカワ
キャラクターのマグカップ。


私があげたのは、沖縄ならではのトンボ玉
ネックレス。


私がガラス工房という専門のお店で
作らせてもらったやつ。



「わぁ……すっごいキレイ!これ、悠が
 作ったの?」

「まぁね。色も舞が好きなピンクと紫にしたよ」

「本当にすっごいキレイだし可愛い!ありがとう!」

「こちらこそありがとう。大切に使うね」



プレゼント交換なんてとっても久しぶりだから
ちょっと照れくさかったけど。


舞の喜んでくれる顔を見れて、すごく
温かい気持ちになれた。



第25音 ( No.240 )
日時: 2013/06/09 21:58
名前: 歌 (ID: xPtJmUl6)

それからもショッピングをしたり、雑貨を
見たりして、楽しい時間はあっという間。



「悠……今日は本当に楽しかったぁ!」

「私も!舞、本当にありがとね」

「あぁ!!もう何で悠はそんなに可愛いの
 かなぁ?男前のくせに可愛いとかマジで
 ずるいんだけど」

「え?私は舞の彼氏でしょ?」

「……んもぉー!やめてぇ!本当に
 あんなことやこんなことしたくなるぅ」

「ぶははっっ!」



周りから見たら完璧にレズに見える私たちの
会話は、人の足音や車の音でかき消されていった。


28日の同窓会で、と言って手を振り合って
別れた駅。



肌で感じる寒さとは裏腹に、心はとっても
温かく懐かしさも感じていた。




そのままホテルに帰ることもせずに、
私はゆっくりと1歩1歩を踏みしめるように
足を進めた。


今夜は、クリスマスイブ。


月はいつもの顔だけど、何処かよそいきの
顔をしている。

街は煌くクリスマスイルミネーション。


首には赤いチェックのマフラー、頭には
毛糸のベレー帽、ふかふかの手袋を
しているから夜道は温かいや。


この空の何処かでサンタとトナカイは
仕事をしているのだろうか?


赤いコスチュームは、探さなくても
あちらこちらにいて。


きらっきらっ。
胸の奥にサンタが灯を燈したようだ。


クリスマスソングが夜空から落ちてきて、
星たちのちりりんとした音色と共に。


『メリークリスマス』


そう、言っている。



やっぱりそう簡単にホワイトクリスマスに
なるわけもなく。


空はクリスマスとは思えないほど、
雲1つない、澄んだ夜空をしていた。


おかげで月と星がよく見えるから
私はこっちのほうが好きかもしれない。


通り過ぎていく恋人や、友人同士で
固まる人たち。


みんな、顔には幸せを乗せていて、今日と
いう日を心から楽しんでいる。


そんな中私は1人で、クリスマスの夜道を
歩いているんだから、寂しい人間だと
思われているかもしれない。


実際、そんなことは全くないんだけど。



でも、やっぱりちょっと。
黄昏そうには、なる。



柚夢と過ごさなくなったクリスマスも、
今日で3度目。


中学2年のクリスマスまでは、しっかり
隣には柚夢がいて、一緒にご飯を食べて、
クリスマスソングを歌った。


プレゼントも交換して、部屋の飾り付けも
一緒にして、寒いねって言いながら
2人で手を繋ぎ合って。



クリスマスは、大切な人と過ごす日だと
ずっと思っていたから。


中3のクリスマスの記憶は、ない。


去年のクリスマスはバンド関係の何かを
していた気がするけど、はっきりとは
覚えていない。


今年のクリスマスは6人と過ごすのかと
思っていたけれど、そうはならなかった。


どうしてか、クリスマスは柚夢との
想い出しかなくて。



クリスマスツリーを見ると、ちょっと
悲しくなってくる。




ホテルに帰ってすぐに、そんなに疲れていたのか、
自分でも気づかずにベッドに倒れ込んで
眠りについてしまった私は。



不思議な夢を、見ていた。






わたくし?
わたくしですか?


わたしはしがない運び屋でございます。



今宵の空はひどく冷たいですね。
そしてあなた様の心も冷たく
なりかけていらっしゃる。



何故だかわたくし、普段とは違って
赤い服に白いヒゲを付けさせられます。



そして太りたくもないのに服の中には
詰め物をするのです。




さて、準備は整いましてございます。




わたくしがどのおうちに向かうか
決める方法。



それはただ1つ。





涙の落ちる音が聞こえるおうちに
参ります。





相手は子供でも大人でもご老人でも
関係なく、泣いているお方のところへ
参ります。




今宵はホワイトクリスマスになるでしょうか。




わたくしとしては雪よりも幸せが
降ってきて頂けると嬉しいのですが。



誰にでも分け隔てなく降る雪のように、
あなた様のお心に幸せが積もりますように。





メリークリスマス。





AND





ハッピークリスマス。






どうもこんばんわ。
幸せお届けにあがりました。







目が覚めたのは、まだ真夜中にも
ならない時間。

もう少しでクリスマスイブからクリスマスに
変わるという頃。


マナーモードにしている携帯の振動で、
身体を起こした。

携帯を手にしようとした瞬間、振動は
消えて画面が映し出されえる。


未着信23件という文字に、思わず画面を
見つめたまま硬直。


やっと覚めてきた頭で履歴を確認してみると、
そこには。



23:53 鬼藤大和
23:51 鬼藤大和
23:47 春日井煌
23:44 荻原日向
23:41 春日井煌
23:39 橘築茂
   ・
   ・
   ・
   ・



と、まぁ数分刻みに彼らからの電話が
入っていた。


思わず目頭を押さえて、一度深呼吸。


こりゃ、電話をしてすぐにこっぴどく
叱られるんだろうな。

電話するとき、最初は携帯を耳から
離しておかないと鼓膜破られそうだし。


一番上にあった大和の名前を押して
電話をかけると。



『悠!!?』

「……はい」



ワンコールが鳴り終わる前に電話に
出たってことは、まだかけてくる
つもりだったのか。

携帯を耳から5㎝ほど離しておいて
よかったと、つくづく思う。


この距離でも、うるさいと思ったもん。



『お前!どんだけ心配させんだよ!!』

「はい?」

『何で電話出なかった!?』

「仕方ないじゃん。夢の中でサンタさんと
 お話してたんだから」

『……寝てたのか?』

「いえす」



即答で答えると、はぁーっと盛大な
ため息が携帯の向こうからいくつか
聞こえた。



『あー……もう、マジでよかったぁ…。
 めっちゃ心配したんだからな?
 全然繋がんねぇから何かあったのかと
 思ってちょー焦った』

「すいません。寝てただけです」


ありゃー、また心配させてしまった。


身体が離れているし、普段から過保護なのに
これじゃもっと大変だ。

心配も迷惑もあまりかけたくないって
思っていたのに、すでにダメダメじゃないか。



『大丈夫か?疲れてんのか?』

「ううん、そんなことないよ。今日はとっても
 楽しかったし!」

『……そっか、ならよかった』

『大和、電話変わって』


大和の安堵のため息の後ろから聞こえてきた
声は、すぐに近くなった。


『もしもし?悠?』

「あ、煌。ごめんね、心配かけて」

『本当、悠に何かあったらどうしようかって
 すっごい怖かった。でも寝てたなら
 起こしちゃってごめんね』

「ううん、そんなことないよ」

『ありがと。で、もしかして携帯、
 いつも通りマナーモードだった?』

「うん」

『じゃ、お願い。マナーモード切っといて。
 何かあった時に気付かないんじゃ携帯の
 意味がないから。お願い』

「確かに!分かった、切っておくよ」

『ありがとう』


煌の大人びた声が甘く変わり、電話の
向こう側で微笑んでいるのが瞼の
裏に浮かんでくる。

その周りで安心した表情を浮かべている
玲央、冷静を保つ築茂、まだ心配そうな
日向の顔が。


どうしてか分からないけど、あながち
外れていないだろうなという
変な自信があった。




「そういえば、何か用事があったから
 電話してきたんじゃないの?」

『あー、うん。なんていうか、クリスマス
 イブの夜だし悠は何してるかなーって』

「……え、それだけ?」

『それだけ、って結構大事なことなんだけど?
 本当は一緒に過ごしたかったところを
 電話で我慢しようとしてるんだから』

「あはは。それはどうも。今、みんな
 そこにいるの?」

『空雅は青田さんとデートしてそのまま
 帰ったみたい。俺らは日向の家で
 飲んだり食ったりしてるよ』

「へぇー。あ、どうせならスピーカーに
 してよ。そしたらみんなと話せる」

『了解』


すぐにスピーカーにしてくれたみたいで、
ボタンを押した音が聞こえてきた。





第25音 ( No.241 )
日時: 2013/06/11 13:32
名前: 歌 (ID: sNU/fhM0)



『悠?俺の声、分かる?』



「当たり前ー!日向でしょ。で、その隣に

 いるのが玲央。ちょっと遠くにいるのが

 築茂だよね?」



『え、何で分かったの?』



「さっき大和が電話に出たときに後ろで

 聞こえた声の大きさとかで単純計算しただけ」



『うわ。すげ』





日向の驚いた声にさらりと言うと、
大和の
驚いた声が聞こえてきた。




『ふっ……ま、悠と俺の頭でなら容易い。
 
大和には一生かけても無理だが』



『なんとでも言え。お前らが良すぎんだよ。

 至って俺は普通だ、普通!』



『いや、大和の普通の基準は低すぎるからね』



「日向に賛成でーす!そういえば、今頃だね?

 大和が作られたの、ふふふ」



『あ?どういう意味だ?』



「ほら、愛花が言ってたやつ!今じゃん、性の

 6時間とかっていうやつ」



『はははっ!確かにそうだなぁ。大和、おめでとう』



『全然嬉しくないわ!!』






煌の悪戯っ子な笑顔がすぐそこにあるようで、

私もへへっと笑ってみた。



離れているのにすぐそばにいるみたいで、
すっごく不思議。





『ってかあと2分でクリスマスなんだけど?』

「あー、本当だ!よし、0時になったら一斉に
 叫ぼうよ!」

『おっけー』


大和の声に時計を見て見ると、本当にあと僅か。


私はホテルのベランダに出て、そこから見える
夜景を一望する。

クリスマスのおかげで、至る所にカラフルな
イルミネーションがあって、とっても綺麗。


沖縄では絶対に見られない景色と見覚えのある
光景に、思わず言葉を失った。



『悠?どうした?』

「んー?あのね、今ホテルのベランダに
 いるんだけどさ。こっから見える夜景が
 すっごく綺麗なの」

『うわぁ…いいなぁ。イルミネーションでしょ?』

「うん。後で写メ送るね」


煌の不思議そうな声に返事をすると、日向が
感嘆のため息を漏らした。



冬の街。
それは、記憶。


鮮やかなイルミネーションが街を包み込む
この季節。


きっとこの小さな灯りの下では、恋人たちが
友人同士が家族が、幸せそうに笑っているだろう。


この風景を眺めると、想い出す。



3年前の冬、柚夢と過ごした幸せな日々を。




『あ、そろそろだよ?あと30秒!』



煌のちょっと大きくなった声に、ハッと
意識を電話に戻した。



『15秒!』

『10、9、8………』



みんなで、カウントダウンをしていく。



『5、4、3、2、1』


「メリークリスマス!!!!」




メリークリスマス。
メリークリスマス。


街は賑わい、花らかに彩られた
イルミネーションがさらに輝きを増した。


巡りに来る季節の中、一年に一度の
特別な夜。



見上げる空は明るすぎて、ねぇ、
闇はどこへ行ったの?と問いかけてみる。


真昼のように、明るい夜。


いつからか、ジングルベルの音と共に
恋人たちの夜になった。


けれど私の心は、凍えたまま。


電話の向こう側には、贅沢すぎるほどの
大切な仲間と笑顔があるっていうのに。



ねぇ、あなたはどこにいるの?




この世界は幻。
あなたも幻。


心はどこにある?
私はどこにいくの?


闇に溶け込みたい夜。
それなのに眩しすぎる夜空に軽く眩暈。



『やっぱり、クリスマスは大切な仲間と
 過ごすのが一番だな!』

『大和、くさい。っていうか俺たちは
 クリスマスじゃなくていっつも
 一緒にいるような気がするけど』

『確かにねぇ。今頃は空雅は青田さんと
 デートできて浮かれているんだろうなぁ』

『煌、電話してみたらどうだ?』

『あ、やっぱり築茂も空雅のことちょっと
 気になってたんだぁ?』

『黙れハゲ』



街にイルミネーションと、光影踊る夜。


彷徨える私は1人、あなたの姿を
探そうとしている。


照らさないで、明るすぎる夜。



ねぇ、闇はどこにいったの?
今宵、1人闇を探してしまいそう。


心の中の闇を、隠すために。



『ってか玲央!寝てんなよ!』

『まぁまぁ。玲央のお仕事は大変なんだし、
 今はゆっくり寝かせておこう』

『悠ー?あれ、まさか悠も寝てるとか?』

「なわけないでしょ、日向!ここで寝たら
 凍え死ぬっつーの!」


止まることのない、会話。


柚夢と過ごした冬は、白い息だけで
会話が成り立つように冬は無口で
おしゃべりだった。


そしてすべてを教えてくれていた。


知りたくないこと、分からないでいたこと。
傷と共に、痣と共に。


皮膚に、唇に、脳みそに、内臓に、冬は
刻み込んでいく。



『そういえばそっちは今何度くらい?』

「−5度くらい」

『えぇ!?悠!今すぐ部屋に入りな!
 ダメダメ!寒すぎるでしょ!!』

『本当だよ!風邪ひくから中に入って
 暖まったほうがいいよ!?』

『煌、日向、うるさいぞ』



−5度の夜空。
キレイな顔の悪魔のようです。



『でも本当に!絶対悠のことだから薄着で
 いるはずだもん。そうでしょ、悠?』

「さっすが日向、お見通しですか。今ねー
 ボーダーのニット一枚」

『はぁ!?お前、バカなんじゃねーの?』

「大和くんに言われたくありませーん」

『……やっぱ、バカだ。もう何でもいいから
 温かくしろってば』

「はーい」



大人しく部屋の中に入れば、暖房も何も
つけていないから対してあまり変わらない。


すぐに暖房をつけて、部屋が温まるのを待った。



ぐぁー、と変な音を出しながら熱の籠った
風が部屋中に広がっていく。


本当は暖房は嫌い。


喉が痛くなるし、頭がぼーっとして
思考が回らなくなるし。



「空雅に電話はした?」

『出なかったよ。たぶん、幸せそうな顔で
 寝てんじゃない?』

「あはは、よだれ垂らして『愛花〜』とか
 言ってそう」

『ハートマーク付きでね』


煌の含み笑い、好きだな。


『悠は明日…もう今日だね。今日は何するの?』

「クリスマスなのに1人で出歩くのも寂しいし、
 人が多そうだから、今日はホテルの中にある
 ピアノを弾いてる。許可、もらったから」

『マジで?でも確かに冬休み中、ずっと楽器に
 触れないのも辛いよね』

「うん。でも一度ホテルの人に聞かせたら、
 ずっと弾いていていいって言われたよ」

『そりゃ、悠のピアノはヤバいもん。たぶん、
 お金出されるんじゃない?』

「まっさかー!好きなように弾いてるだけだし」


日向は特に私のピアノを気に入ってくれて
いるから、たまに大袈裟な評価をするんだよね。

嬉しいから強めには言えないけどさ。



「みんなはどうするの?」

『明日は空雅も入ってボウリングにでも
 行こうと思う』

「うわ、いいなぁ!!」

『悠が帰ってきたら全員で行こうぜ!』

「もちろん!」


煌の言葉に叫ぶと、大和が当たり前のことを
自信満々に言ってきた。



それから会話は止まることを知らず、
朝の4時まで電話をしていて。


眠そうだったから、ようやく電話を切って、
私もソファに寝転がった。




……寒いな。


毛布をかけることの知らなかったときは、
こんなにも寒さを感じたことがなかったのに。


言葉さえあれば、温かかったのに。


ぬくもりを知った今は、冷たい浅はかな
言葉では熱くなれない。


雫、を拾い。
雫、を滴らせて。
詩、を書かないとどうにも熱くなれない。


真実の前には、言葉など冷たい葉にしか
すぎない。


ぽたん。
ぽつり。
ぽたり。


言葉が自由に落ちて行けばいい。
こころが自由に落ちて行けばいい。


行き場所などな知らない、不確定な
自由の場所に行けばいい。



第25音 ( No.242 )
日時: 2013/06/12 22:18
名前: 歌 (ID: zRrBF4EL)





気付いた時には、1つの歌詞が出来上がっていた。





きっと心の中
ぽっかりと空いた穴に
恋が入ると
恋の病にかかる

それは愛というには
とても幼くて
形をなさないもの

ぽっかり空いた心の穴は
いつだって孤独に通じていて
何でもいいの
愛してくれる何かに
しがみついてしまう

何度も何度も繰り返される
愚かな間違い
真っ直ぐな光も
私の心の中
屈折して屈折する

多分
追い求めれば逃げるもの
けれど
立ち止まるの怖くて
走り続けるの

ぽっかり空いた私の
心の空洞
埋めようとして
手を伸ばすたびに
もっと深くなる

今日も私
憂鬱の森に迷い込む






『好きだよ』


『愛してる』




ねぇ、あの言葉は本物だったの?



怖いよ、柚夢。




真実を知るのが。
あなたを知るのが。



言葉を溶かし込んだ水が、喉を通り過ぎた。




薄いタイツにデニムショーパン、淡い白の
ニットにブーツを履いて。


髪は、ムウさんに教えてもらった、ゆる三つ編み。


ムウさんからもらった赤いリボンをつけて、
後れ毛をゆるくコテで巻いた。


どく、どく、と嫌な心臓の動きを
何度も何度も深呼吸の中にしまい込んで。



部屋を、出た。




「おはようございます。ピアノ、お借りしますね」

「あ、神崎様。おはようございます。
 素敵なピアノを朝から聞けるなんて、本当に
 嬉しいです。どうぞ」

「ありがとうございます」


紳士的なホテルマンに挨拶を交わして、
ロビーの中心にあるグランドピアノの前に
腰を下ろした。


時刻はまだ、朝の7時。


ちらほらと、ホテルの朝食をとりに来る人が
いるくらいで、まだひっそりとしている。


まだ目覚めていない人の邪魔にもならないように、
優しく柔らかい曲を弾こう。



『戦場のメリークリスマス』



今日という日にピッタリのこの曲を、
静かに美しく奏でていく。


ちょっとアレンジを入れて、私の音楽を
作って行った。


次第に周りに人が集まったり、上の階から
見たりする人が増えてきたけれど、私は
お構いなしに指を動かす。


やっぱり、音楽をしているときが
一番好きな時間。


私の心を音で表現できて、聞いている人に
届けられるから。



朝を迎えるピアノ。


朝の喜びを迎える楽器の音色に、
聞き惚れてくれる人がいる。

ピアノの音は、朝をウキウキさせて
くれるからね。


朝がスキップするように、空は浮かんで
来てくれる。



ピアノと朝。


世界中に朝をピアノで演奏する人が
どれほどいるんだろう。


鍵盤の上の光が白と黒の上でダンスを
しながら、朝日の舞踏会を楽しんでいる。



毎日、朝を喜んで迎えたい。




1つの曲の終わりをまた違う新しい曲の
始まりに繋げていく。


私の奏でるピアノのメロディは、流れる
CDのように、止まることはなかった。



楽譜なんて、ない。


私は楽譜を読めるし、楽譜も書けるけれど、
自分の楽譜はいらない。


心の目で見て、ピアノを弾くから。


優しい眼差しなら優しい音が、力強い
眼差しなら力強い音が、美しい眼差しなら
美しい音が、紡がれる。


心の目を開いて、ピアノの音で誰かの
心の傷を癒してあげたい。


今の私は、優しい心で鍵盤を叩いている。




「愛されたい人、この指とまれ!!

『悠、突然どうしたの?』

「んー何かね、愛されたい人を集めたくなった!」


人差し指を太陽に向かって伸ばし、
大きな声で叫んだ私。


隣にいる柚夢は、くすくす、と小さく
笑ってから。



『その指にたくさんの人の指が集まったと
 したらさ。この指とまれ、って叫んだ悠が
 今この瞬間』



甘い甘い、優しい笑顔で。



『一番愛されているんじゃないかな』



私の額に、キスをした。




今弾いている曲は、そんなときに思い浮かんだ
音たちを繋げて作ったもの。


私の穏やかな気持ちが伝わってもらえたのかな。


聞いている人の中には涙を流しながら
静かに目を閉じている人もいた。


ホテルマンや受付嬢は忙しなく働いて
いるけれど、その表情はずっと
優しく微笑んでいる。


妊娠している女性は、お腹を撫でながら
ピアノを赤ちゃんに聞かせているようで。


出張に来ていたのか、スーツ姿の
サラリーマンはモーニングコーヒーを
飲みながら頬が緩んでいた。



さまざまな人生を生きる、さまざまな人が
私のピアノを聞いてくれている。


このピアノの音色がいつしか、人生の
壁に当たり絶望したときに、少しでも
希望の光となりますように。




ちょっと喉が渇いて、区切りのいいところで
指を止めると。


一斉に響いた、拍手の音。


周りを見て見ると、ロビーにいる人や
ホテル関係の人、レストランから顔を
覗かせている人、上の階から見ていた人、
たくさんの人が手を叩いていた。


思わず、お辞儀を数回して微笑む。



「おねぇちゃん!すっごく上手だね!!」

「本当?ありがとう」


駆け寄ってきた5歳くらいの可愛い
女の子の前にしゃがんで、頭を撫でると
嬉しそうに笑った。


可愛いなぁ……。



「お嬢ちゃん、ピアノはどのくらい
 やっているんだい?」

「もう10年になります」

「それはすごいねぇ。おいくつなんだい?」

「17です」

「あれ、まだそんなに若いんだなぁ。
 大人っぽいから20前半かと思ったよ」

「ふふふっ」


ロビーのソファで新聞を読んでいた
おじいちゃん。


「朝から素敵な音楽を聞かせてもらったわ。
 ありがとう。すごく美しいのね」

「とんでもないです。こちらこそ
 聞いてくださってありがとうございます」

「まぁ、可愛らしいお嬢さんね」


社長夫人さんっぽい上品な40代くらいの
女性が、話しかけてきた。


さまざまな人から嬉しい言葉をもらえて、
私も自然と頬が緩んでいく。


リクエストがあれば、と言うといろんな
返事が返ってきたからちょっとアレンジした
ものを弾いてみれば。


驚きや感動をしてくれて、いつの間にか、
ロビーにはたくさんの人で賑わっていた。



その中心にいる私は、あの時、空に
向かって伸ばした指に。



今、たくさんの人が集まっているような
気がした。



柚夢の言った通り、今この瞬間、私が
一番愛されているのかもしれない。




ロビーの人は1人去るとまた1人、と全く
途切れることがなく。


私の食事を心配してホテルマンが駆け寄って
くるほど、ピアノに触れていた。


それでも私は、フルーツとお水だけで
またすぐにピアノを弾き始める。


たまに弾き語りをしたり、子供たちと
一緒に歌ったり、聞いてくれる人たちも
一緒に楽しんでくれていた。



気付けば、もう夕方になっていて。


クリスマスソングを可愛いサンタクロースや
トナカイの格好をしている人たちと
歌って踊って、観ている人を笑わせる。


こんなクリスマスもいいな、と。


柚夢と過ごさなくなったクリスマスを
初めて、楽しめた。

第25音 ( No.243 )
日時: 2013/06/13 21:18
名前: 歌 (ID: 6FfG2jNs)




「神崎様、本日は本当にありがとう
 ございました」

「いえ!こちらこそ長い間すいません。
 ありがとうございました」

「それなんですが、もしよかったら
 また弾いてくださいませんか?」

「いいんですか!?もちろん弾きます!
 時間あるし、冬休み中はずっとこの
 ホテルに泊まってるんで」

「ありがとうございます!たくさんの
 お客様から反響がありまして……その、
 例年の倍はレストランの売り上げなども
 上がってたんです」


と、ちょっと罰が悪そうに説明する
紳士的なホテルマンに、にっこりと
笑ってみせた。


「それはきっと偶然です。でも私がピアノを
 弾くのが好きなんで、誰かに聞いてもらえる
 場で弾かせてもらえるのは本当に嬉しいです」

「本当に、ありがとうございます!それと…… 
 これ、なんですが」

「これは?」


差し出された茶封筒を受け取ると、チャリ、と
お金の擦れる音が聞こえてきた。


「本日、聞いていたたくさんのお客様からの
 チップでございます。神崎様に渡そうとしても
 頑なに拒まれたので、ホテル側から渡して
 ほしいというご要望が多々ありました」

「そ、そんな!!こんなのもらえませんよ!
 いきなり出てきて勝手に弾いてただけですし…」

「いいえ、神崎様。どうか受け取ってください」


きちっと分けられ、すそは短く刈りあがっていて
整髪料で固められた髪型の、ホテルマン。


清潔感が溢れていて、優しく微笑むその
姿に渋々、茶封筒を受け取った。



ホテルマンと別れて自分の部屋に戻り、
茶封筒の中身を確認すると。


「……嘘でしょ?」


1万円札5枚と千円札4枚、結構な量の小銭たちが
出てきた。

絶対、この1万円はホテルからだと確信。


あんなピアノくらいで1万円差し出す人なんて
いるわけないし。


……ん?


中にまだ何か紙が入っていて、それを見て見ると
キレイな字で携帯の電話番号とアドレスが書かれていた。

あのホテルマンさんの名前と年齢も一緒に
書かれている。


お時間あったらご飯にでも、とメッセージまで
あるけど、さてどうしようか。


明日は一応、中学時代の友達2人と約束が
あって28日は同窓会。


29日に二宮先生と会う予定。


下心のある誘いなら断りたいけど、こんな
大金までもらって連絡しないのも失礼だよね。

まだピアノを弾かせてもらえるんだから
お礼としても連絡すべき、か。


27日はまたホテルでピアノを弾きたいから、
1月になってからでもいいかなぁ。


そうと決まれば私はすぐに携帯を取り出して、
お金のお礼と1月なら時間をつくれる、と
メールをして。


新着メール16件と、着信3件という文字を
消しに行く。


メールは明日会う友達やバンド関係の人、
学校の友達が数名に沖縄にいる担任。

バカ空雅とアホ愛花の昨日撮ったらしい
ラブラブツーショットを
添え付けされたものなどなど。


そして着信は大和、煌、日向だった。


……いつも思うんだけどさ、この3人は
電話が好きだよね。


築茂と玲央は滅多に電話もメールも
してこないし。

いや、玲央くんはただたんに使い方が
めんどくさいんだろうけど。


誰に電話をしても全員一緒にいることが
目に見えているからなぁ。


よし、ここは玲央に電話してみよう。



いたたたた、腹筋と顔の筋肉が痛い。


玲央に電話をしたらそれはもう天然全開で
電話を受け取ってくれたし、後ろから
聞こえてきたバカたちの会話が……。


あぁヤバい、思い出しただけで笑える!!


まぁ、ボウリングも楽しんでたみたいだし、
私の話をしたらすごく喜んでくれた。


ホテルマンさんのことは言ってないけどね。


だって言ったらめんどくさいことに
なりそうだし、絶対止められるもん。

あまり心配もかけたくないから、
心配させるようなことを言わなければいい。


時刻はすでに、23時。


まーた長時間電話してたんだなぁ、と
勝手に頬が緩んだ。


今日はずっとピアノ弾いていて少し
疲れたから早めに休もう。


着替えてから、ちょっと星空を見たく
なってベランダに出た。


「あ、流れ星……!」


きらり。
流れ星を見て思い出した、こと。



「もしね……もし、世界の中に私たちどっちかが
 埋もれちゃって見えなくなったら
 どうしよう…?二度と話せない。そんな
 ことになったら私はどうしたらいい?」

『……そしたら、流れ星になってお互い
 確認させない前に言葉を残そう』


この時は、本当にそうなるなんて思わなかった。


『僕は絶対に悠のことは忘れない。きっと
 いつの日も悠のことを思いだす』


柚夢、そうなったのは私のほうだよ。


『苦しいときは悠の言葉を思い出すよ。
 悲しいときは温かい日々を思い出すよ。
 たくさんの言葉を思い出すよ』


柚夢、私は思い出したことがないよ。
忘れることがないから。


「それでも寂しくなったら……?」

『そしたら歌を歌うよ。それでも寂しく
 なったら、心に溜めた星宵の光の味を
 思い出すよ』


その言葉がその時はよく分からなかったけど、
今なら少し分かるような気がする。


『そして、そのとき寂しくなりすぎて
 真っ直ぐ歩けなかったとしても……あの時は
 温かい心でいたと、思い浮かべてみるよ』


うん、もう何度もそうしてきたよ。


柚夢、あなたの言葉は私の心でずっと
生き続けているの。


だからこそ私は、今が怖いんだ。





その言葉がすべて、真実ではなくなりそうで。






今日は、28日の同窓会。


場所は中学時代のクラス会から変わらずに、
地元の焼肉屋。

1人1500円のコースを予約の時点で人数を
言っておけば、用意をしておいてくれる。


いつもの座敷席に行くと、久しぶりに見た
顔がずらりとそこにあって。


私の顔を見た瞬間、店内に悲鳴が上がった。


どっと私の周りに集まれば、質問攻めに
合って、ちょっとびっくり。

まさかこんなに歓迎されるとは思わなかったから。


それからようやくお肉を焼いて食べて話して、
いろんな子といろんな話をする。

もちろん私は食べれないから、誰よりも早く
トングを手に取ってお肉を焼く係。

みんなのお皿に乗せて乗せて、自分のお皿は
どこでしょう、と探さないと分からないほどに
テーブルに物を置いた。


それにしてもみんな、元気でよかった。



いつもクラスでやんちゃをしては、担任を
怒らせていた男子がすっごく大人になっていて。

彼氏が出来て幸せのあまりぽっちゃりと
した女子の笑顔が可愛くて。

私と舞がレズ疑惑だったっていう話を
して盛り上がって。


本当に、久しぶりのメンバーだ。


32人いたクラスだけど、約30人は集まって
くれて、あまり時間がなかったけど顔だけ
見せてくれた子もいた。


相変わらず男女仲が良くて、明るいクラスに
恵まれた私は幸せだと。


今さらになって、気付いた。


柚夢が死んだときは、みんなは悪くないのに
同情されたのが悔しくて苛立って、ここに
いたくなくて、私は横浜を出た。


今思えば、本当に心から心配をしてくれて、
温かいクラスだったんだと、感じる。


でもあの時、ただの勘違いでもそう思わなければ、
私が沖縄に行くことはなくて。


6人や、愛花に大高、高校で出逢った人たちに
出逢うことはなかった。


中学時代のクラスメイトにも、今の高校の
友達にも、私は本当に恵まれている。




「もう横浜には帰ってこないの?」



と、何度も聞かれたけれど、私はきっと
もう横浜に住むことはない。

私の居場所はすでにあそこにあるから、
戻りたいと思ったとしても、戻ることはない。


でも定期的には帰ってこようかな、と
今日のみんなの笑顔を見て思ったりもした。




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