コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
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- Re: 青い春の音 ( No.90 )
- 日時: 2012/11/30 20:53
- 名前: 瞬 (ID: 8NCeH/RA)
- 参照: http://小学生が主人公とか一回書いてみたかったんだ(
こんばんは、瞬です。
面白いですね(
とっても読みやすかったです←
更新期待してます(
また来ますね!
- 第9音 ( No.91 )
- 日時: 2012/12/02 16:29
- 名前: 歌 (ID: GXT1iSs/)
悠に出会ってからは、母の顔を
思い浮かべるたび、悠の顔も浮かんできた。
意図的にではなく、自然に。
悠を初めて高校で見たときは、そのあまりにも
人を引き付けるオーラと容姿に目を奪われた。
男なら誰もが振り返るであろう容姿だけでなく、
俺が目を奪われたのは、綺麗な黒髪。
その黒髪を靡かせた後ろ姿は、母にそっくりだった。
顔や雰囲気は違うけど、後ろ姿だけを見ると、
母が高校生になったかのようで。
母の姿を見ているかのようで、母がすぐ
そこにいるかのようで、泣きそうになった。
でも彼女の口から出てくる言葉は、
真っ直ぐなものばかりで自分の弱さに
みじめになってくる。
真っ直ぐ僕を見る彼女の瞳は、僕のすべてを
見抜いているみたいで、ちょっと怖い。
それでも心の中心は優しさで溢れている。
今日の1日ですぐに気付いたこと、
きっと僕以外の5人も分かっているんだろうな。
それがちょっと悔しい気もするけれど、
悠に少しでも近づけたことが嬉しかった。
テナーサックスを組み立てて、リードを咥える。
いつもの手順で音を出し、今日のことを
思い出しながら音を奏でた。
僕も悠やみんなと一緒に演奏をしてみたい。
今まで部活やチームなどに入ったことはなく、
大勢で演奏するというものを味わったことがない。
だから今日の二つのアンサンブルを聞いて、
自分もすごくやりたくなったんだ。
音楽は不思議なもので、伝染していく。
しばらくサックスを吹いていると、
大和とのメールのやり取りを思い出して、
まだメールの返事を見ていないことに気付いた。
サックスを置いて机の上にあった
携帯を見てみると。
大和からの返信がしっかりあって、
『構わない。俺もゆっくり話したいしな。
夜9時までならいつでも大丈夫だけど』
そう書かれていた。
そっか、大和は夜の仕事だから
それまでは好きに時間が使えるのか。
問題は僕がそれに合わせられるかどうか。
壁に貼ってあるカレンダーに目をやり、
今週の予定を確認する。
受験生である今の僕は塾がほぼ毎日、
いれてあるけど毎週水曜日は休み。
明後日の夕方なら大丈夫かとメールを打ち、
もう一度携帯を机の上に置いた。
そういえば、悠にまだ今日のお礼の
連絡をいれていない。
大勢で家にお邪魔して、いろいろ用意も
してくれたんだから大変だったと思う。
すぐにまた新規メールを作成し、
悠にメールを送った。
ちょっと鼓動が早まっているのは、
僕だけの秘密。
この想いがどんなものなのか、今はまだ
はっきりと分かってはいない。
まだ曖昧で、脆くて、儚い。
だからこの想いはそっと、しまっておこう。
時間が削り取ってしまわないように、
感情の波にさらわれたりしないように。
小さな扉の向こうへ。
僕の影が僕から離れたとき、今日が
終わりを告げる。
街灯に映し出された僕の影が、
僕より早く角を曲がる。
角を曲がる前に一度立ち止まり、
こちらを見てから
「今日も一日、お疲れ様」
そう言っていつものようにあの角を
僕よりも風よりも誰よりも早く、
曲がって明日へ走り抜けて行くんだ。
でも、今日はまだ、終わらない。
大和との約束が待っていて、久しぶりに
ゆっくり2人で話すからちょっと、
そわそわしていたりする。
駅に着いた時点で大和にはメールを入れて、
すぐに家を出る、と返信が来た。
今日も家には僕だけ、だから
誰をいつ家に入れようと、誰にも何も
言われない。
帰宅して15分ほど経った頃、広い家に
インターホンが響いた。
滅多に誰も来ないから、その音一つだけで
心臓が大袈裟に跳ねる。
一度、軽く深呼吸をして玄関を開けた。
「……よぉ」
「……うん。入って」
大和も何年かぶりに来たからか、少し
ぎこちない。
2人ともリビングまで、無言で歩く。
「……忙しいのに悪かったね。
何時にここを出れば仕事に間に合う?」
「あぁ、8時半に出れば余裕だから
3時間くらい全然平気だ」
「そっか。さんぴん茶と紅茶、コーヒー、
どれがいい?」
リビングにある汚れ一つない白い机と
イス、そこに座らせて、飲み物を淹れるために
僕はキッチンへと向かう。
さんぴん茶って言うのは沖縄でお茶
代わりとしてよく飲まれている飲み物。
内地ではジャスミン茶っていうらしい。
「紅茶で。あ、レモンな」
「そういえば一昨日、悠の家でもそれだったけど
昔は紅茶、飲めなかったよね?」
「あぁ。でもあいつが淹れてくれるように
なってからは好きになった」
そう言った大和の表情が、驚くほどに
柔らかくて。
真っ直ぐ、大和の瞳を見れずに慌てて
ティーバッグに視線を落とした。
「はい」
「サンキュ」
レモンティーとミルクティーの入った
カップをそれぞれの前に置いた。
2人だけでこんな広い家にいても、
静けさが目立つから何の意味もなく、
テレビをつけた。
ニュースのアナウンサーの話す声だけが、
空気中を飛んでいく。
「で、単刀直入に聞く。
いつから俺を避けるようになった?」
一口紅茶を飲んですぐに、大和は
僕が話そうとしていた話題を持ちかけた。
手に持っていたカップの中で揺らめく
ミルクティーを見つめながら、
ずっと聞きたいことを聞くべく、
意を決して口を開いた。
「中3の時、俺に初めて彼女が出来た
ときのこと、覚えてるよな?」
「あぁ」
「その子のことは別にそこまで好きじゃなかった。
告白されたから付き合っただけ」
「そうだって言ってたな」
「でもさ、彼女にしたからには大切には
しよう、って思った。少しずつ、彼女を
知っていくうちに、惹かれて行ったんだ」
意外と、冷静に話をしている自分に
内心驚いていた。
あの時は、大和を憎むくらいに辛い
出来事だったはずなのに。
ミルクティーに落としていた視線を少し
上げて、大和の表情を窺う。
じっと僕のほうを見ていて何も変わらない。
「付き合い初めて3か月経ったとき、
彼女と下校するためにクラスが違かったから
いつものように彼女の教室まで迎えに行った」
過去という名の心の動画が、
ゆっくり動き出す。
「教室の前まで来たとき、中から話し声が
聞こえたんだ。……彼女の声だとすぐに分かった。
友達何人かと話していたから、邪魔しちゃ
悪いと思って入らずに外で待っていたら……
聞こえてしまった」
目を逸らさずに黙って僕の言葉の
続きを待つ大和。
その次の言葉を吐き出すのに、喉の奥が
詰まりそうになったけどコップを持つ手に
力を入れて、ゆっくり息を吸い込んだ。
「いつまで俺を利用して大和に近付こうか、って」
僕の言葉を聞いてすぐに、大和が
形のいい眉をぎゅっと寄せた。
「その言葉が最初は信じられなくてその場で
立ち尽くしてしまった。だから、彼女は
俺が教室の外にいると知ったとき、慌てて
こう言ったんだ」
『き、鬼藤君にそう言えって言われたの!
告白されて……私には荻原君がいるからって
言ったら無理やり押し倒されてっ…。
嫌なら荻原君に聞こえるようにそう言えって!』
「そしてその場で泣き崩れたよ」
- 第9音 ( No.92 )
- 日時: 2012/12/11 20:59
- 名前: 歌 (ID: YohzdPX5)
「……それが俺を避け始めた原因か?」
「そうだよ」
「お前は俺よりもそいつの言葉を信じたのか?」
その言葉に思わず言葉を詰まらせた。
いつも強気で意地っ張りで負けず嫌いの
大和が、とても寂しそうな瞳を揺らしてたから。
本当は、分かっていた。
始めから、彼女も僕のことなんか好きじゃ
なくていつも大和のそばにいた僕に
近付いて大和を狙っていたこと。
大和はそんなこと言うやつでも、人の
嫌がることを言うやつでもないってこと。
でもそれが悔しくて、認めたくなくて、
僕は1人で勝手に“大和が悪い”と
決めつけていたんだ。
何に対しての悔しさかも分からずに。
「……ごめん。頭では分かっていたんだ。
大和がそんなやつじゃないってこと。
でももし、大和に聞いてしまったら
俺の負けだと、変な見栄を張った」
ごめん、ともう一度頭を下げた。
大和との関係ががらん、と変わってしまってから
僕の毎日は埃っぽい世界になって行った。
何を見ても何をしても、何も
感じられなくて、心の真ん中に穴が
空くというのはこういうことか、と
ひどく感じさせられた。
大和との思い出が宝石のように思えて、
それがすべて空に散ってしまったのかな、
なんて思いもして。
でもそれは、自分で散らしたんだと
いうことにも後から気付いた。
何かを心に埋めることがこんなにも
難しいということも。
母が亡くなったときにですら、感じたことが
なかったからこそ、当時の僕には
さらに見栄と意地だけがこべりついた。
お互い、無言でコップの表面を見つめる。
話しているときは不思議と冷静に
言葉を紡げたのに、話し終えたら急に
鼓動が早くなるのを感じた。
話してしまったからには、もう後戻りはできない。
大和を傷つけたことは明らかに
事実だし、そんなことが理由で、なんて
思うかもしれない。
でも、当時の僕には本当に辛かったんだ。
「……はぁー。あー何か腹減った。
さっきコンビニでチキン食ったんだけどなぁ」
沈黙を破るため息が聞こえたから、
何を言われるのかと身構えたのに。
大和の口から出てきたのはそんな言葉で
一気に気が抜けてしまった。
でもそう言われてみれば、帰ってきてから
まだ何も口にしていないことに気付いて。
「……俺も」
と、思わず言葉を漏らした。
すると大和はふっ、と口角を軽く上げて
イスから立ち上がり、無造作に机の上に
置いてあった財布とバイクの鍵を手にした。
「よし、行くぞ」
突然そんなことを言い出すもんだから
どういう意味か理解できずに、ぽかんと
大和を見上げていると。
「何ぼけっとしてんだよ。飯、食いに
行くぞ。俺の驕りだからありがたく
付いてこい」
有無を言わせないその言い様が、
僕をイスから立ち上がらせた。
男の僕でも、こういう大和は本当に
かっこいいと思う。
どことなく羨ましくて、悔しい。
僕は大和みたいに強くないし、人の目を
気にしてばかりいるし、かっこ悪い。
玄関へと向かう大和の背中を見ながら、
僕は劣等感に浸っていた。
門の前に止めてあった400CCくらいある
大和のバイク。
何も言わずに大和は鍵を差し込み、
ヘルメットを渡されて僕が後ろに座るのを
待っている。
大和のバイクに乗るのは、初めてだし
ちょっと怖い気がして足が怯むと。
「俺は安全運転だから安心しろ。
それにすぐだから。ほら、早くしろ」
安全運転だということには
あまり期待しないでおこう。
そう思いながらも、大和の後ろに
またがった。
案の定、ものすごいスピードを出して
飛ばすもんだから、5分ほどで目的地に
着いたことに心から感謝をした。
大和がバイクを止めたのはラーメン屋。
それも、とても懐かしいお店で、
昔、斉藤さんに大和と二人でよく
連れてきてもらったところ。
あの時と何も変わらない風景に思わず
胸が熱くなった。
「さぁ、食うぞー」
男の中でもよく食べる大和は
ここのラーメン2杯は余裕だったっけ。
そんなことを思いだしながら
大和に続いて僕ものれんをくぐった。
すぐに鼻を掠めたあの懐かしい匂い。
先にカウンターに座っていた
大和の隣にゆっくり腰をかけた。
「お、久しぶりに見る顔だなぁ」
芯のある力強い声の主は、ここの
店長であり、斉藤さんの昔からの友人。
「お久しぶりです」
軽く頭を下げて丁寧にあいさつをする
大和につられて僕も、
「こんばんは」
と微笑んだ。
「2人とも男前になっちって!でもよく
来てくれたなぁ。さぁ、いっぱい食ってけよ」
ニカッと綺麗な白い歯を見せて笑った
店長に2人とも首を縦に振った。
メニューを見なくてもいつも2人が
頼んでいたものを、店長はすぐに作ってくれて。
僕はもやしたっぷり味噌ラーメンに
大和はとんこつラーメン、後から
チャーシュー特盛ラーメンが来るらしい。
そこに餃子とミニチャーハンも食べるって
言うんだから、本当に大和の胃袋は大きい。
懐かしい味を頬張りながらしばらく
黙々と食べていると。
「日向」
「なに?」
大和に名前を呼ばれたから顔を上げて、
返事をすると。
「お前は強くもないけど、お前が
思っているほど弱くもない」
なんて。
口にも表情にも出していなかったはずなのに、
大和にはさっきの僕の劣等感を
読み取られていたらしい。
「……そうかな。俺は大和がずっと
羨ましかった。大和みたいに強くなりたい」
「俺だって別に強いわけではないし、
強くならなくてもいい。だけどこれ以上、
弱くなるな」
さらっと、僕の心に落としてくる言葉。
それがどれほど僕に影響を与えるか、
こいつは分かっていないんじゃないかな。
- 第9音 ( No.93 )
- 日時: 2012/12/13 20:31
- 名前: 歌 (ID: jtELVqQb)
言いたいことを言い終えたら、
また食べることだけに集中する大和。
何も言わなくなったから、僕も同じように
少し冷め始めたラーメンをすすった。
「ごちそうさまでした!」
「あいよ!またいつでも来なよ」
店長の歳を感じさせない爽やかな笑顔に
見送られて、店の外に出た。
涼しい風が吹いていて、もう夏が
近付いていることを実感する。
空を見上げると、そこには綺麗な星空が
あるはずなのに少し街の光が強すぎるせいか、
その姿はなかった。
ふと、煙草の匂いが鼻を掠めた。
「煙草、いつから吸ってたっけ?」
空から視線を大和に移すと、やはり
大和が吸っている煙草の匂いだった。
食後の一服、というやつだろうか。
「さぁな。日向とは無縁だろ」
「そうだね。俺は無理。そういえば、悠も
煙草とお酒をやる男は嫌だって言ってたよ?」
今日あったいろんなことの仕返しをしてやろうと、
少しちゃかしてみるように言った、ら。
吸っていた煙草の手をピタッと止めて
じと、と僕を睨む。
そんな姿を見て、大和よりも優勢だと思ったら
嬉しくて、笑いを堪えきれなかった。
「おっまえなぁ!あー今のマジで最悪だ……。
俺が日向にはめられるなんて」
「あ、悪いけど俺のほうが口はうまいからね?
なめられちゃ困るなぁ」
「表は天使、裏は腹黒なだけだろ」
「え、俺のどこが腹黒だって言うのさ」
「俺の前では自分を俺、他人の前では僕。
どう考えても二重人格」
「それ悠に言ったらただじゃおかないよ?」
「うっわー、否定しねぇんだ。つーか言わなくても
悠はとっくに気付いてるから安心しろ」
「……嘘でしょ?」
「あいつの眼力はすごい」
久しぶりの大和とのバカらしい会話に
調子が上がってきた。
と、思ったら聞き捨てならない大和のセリフ。
でも僕も薄々気づいていたけど、悠は
どんなに演技がうまい人の本性も
見破ってしまうんだろうな。
本当に、不思議な子だ。
「日向から見て悠は……どんなふうに見える?」
突然の大和の質問に、思わずまじまじと
その横顔を観察してしまう。
ふざけて言っている質問ではないことくらい、
表情を見ればすぐに分かったけど。
その答えが、案外、すぐには出てこなかった。
「どんなふうって言われてもなぁ。
どういう意味で?」
「いや、そのまんま。あいつの性格を
一言で言い表せるか?」
そう言われてみれば……。
何にも興味がなさそうな悠、誰にでも
優しく声をかける悠、冷静に行動する悠、
幼くあどけない表情を見せる悠。
誰からも信頼され、誰からも可愛がられ、
誰にも執着せず、誰にも深入りさせない。
学校で悠をよく見ていると、本当に
いろいろな悠を僕は見つけてきた。
どれが、本当の悠の顔なんだろうか。
それとも、本当の悠の顔はまだ
誰にも見せていないんだろうか。
僕たちに見せている顔も、偽物……?
「俺はあいつがよく分からない。
本当は何を考えて何を思っているのか。
音楽を好きなのはよく分かるけど、たまに
その音楽をしているときですら、
瞳の焦点が合っていないときがある」
「……どういうこと?」
「うまく言えねーんだけどさ。ほら、あんな
家に1人暮らしもおかしいし、あいつは
自分の話を一切しようとしない」
確かに、そうだ。
そういえば、いつだったか悠に関しての
噂が全学年に広まっていたことがあった。
その内容を聞いたとき、僕はバカバカしいと
思ったのと同時に、信じられなかった。
もし本当なら、平然としていられる悠が
信じられない。
大和に僕が聞いただけの噂の内容を話すと。
「それ……ただの噂だろ?」
「だと思うけどかなり学校中やばかったよ。
悠を狙っている男なんてかなりいるし、
その魔除けで悠本人が流したかもしれない」
「やっぱり悠って学校でもすごい?」
「うん、すごい。悠を見かければ男どもは
下ネタにはしってる。殴り殺そうかと思った」
「はは、次は殺すまではいかなくても
殴っておいてくれ」
あーあ、大和もかなりイラついているみたい。
- 第9音 ( No.94 )
- 日時: 2012/12/15 19:47
- 名前: 歌 (ID: GFkqvq5s)
気付いたら外で30分くらい話込んでしまって。
大和が携帯の時間を見て、慌てて
ヘルメットを投げてきた。
もう仕事に行かないと間に合わないらしい。
行きよりも1.5倍くらい早いスピードを
出すから3分ほどですぐに僕の家の前に着いた。
「じゃ、今日はありがとな」
「こっちこそ。仕事頑張って。でもなるべく
安全運転で行けよ」
「分かってる。じゃあまたな」
そう言って爽快にバイクを走らせた大和の
後ろ姿が見えなくなってから、僕も家に入った。
風呂から上がり、携帯を開くと
煌からメールが入っていた。
『悠がまたとんでもないこと、考えてるから
注意しろよ』
え、なんだろう……。
とんでもないことって、まさかまた
アンサンブルとかそんなこと?
でもそれは僕も全然嬉しいし、いい音楽を
聴けると思ったらありがたい。
一体煌は何を示しているんだろうか。
いくら考えてもよく分からなかったけど、
対したことじゃないだろう。
そう思って『分かった。ありがとう』とだけ
返信をして眠りについた。
次の日の朝。
悠からのメールを見て、煌の言葉の
意味を知ることになる。
「冗談、でしょ?」
携帯の画面を見た瞬間にぽろっと誰もいない
部屋に僕の言葉だけが零れた。
独り言なんて滅多に言わないのに、
自然と出てしまったのは。
画面に連なる文字が、あまりにも
衝撃的すぎたからに違いない。
『来月の始めに、日向と空雅に
ソロコンサートをしてもらいます』
最初の一文を見て、一瞬にして頭の中は
ハテナマークでいっぱいに。
その後に続く分でようやく理解をしようと
頭が働いた。
この前のアンサンブルコンサートで
僕と空雅は観客側だったから、
今回はその逆転のコンサートをやるらしい。
しかも期間は1か月。
さすがというか、悠には敵わないというか、
きっとやると言ったら何が何でもやるだろう。
昨日の煌のメールの意味が嫌ってほどに
分かって、もっと深く考えておけば
よかったと小さな後悔をした。
詳しい内容を見てみると、来月最初の土曜日に
午後6時から悠の家で前のようにやるらしい。
選曲は何でもいいと。
観客はもちろん、僕と日向以外の
5人というわけ。
僕は一応毎日サックスを吹いていたから
まだ大丈夫だけど、空雅はできるのか?
まだ何の楽器をやるのかはしっかり
聞いていないけど、トランペットをまた
始めるとか言ってたっけ。
でもかなりブランクはあると思うし、
1か月で取り戻せるほど簡単なものじゃない。
レベルの低い演奏は空雅自身が絶対に
許さないと思うし。
まぁ、そこらへんは今日、学校で
空雅と悠を捕まえて聞こう。
いつもの時間に学校に行くと、3年の
昇降口にものすっごいにこやかな
空雅が立っていた。
すぐに駆け寄ってみると。
「日向っ……先輩、聞きました?」
学校では先輩後輩の関係を思い出したのか、
一度僕の名前を呼びかけて、慌てて
先輩を付けたのがものばれ。
そんな空雅がちょっとおもしろくて
笑いを堪えながら、言葉を発した。
「あぁ、聞いたよ。さすが悠だよね」
「ですよねー。でもめっちゃワクワクします!
これから死ぬ気で練習しないと」
「あ、そうそう。そのことなんだけど
空雅は楽器、何やるの?」
「あー、俺一応ドラムかトランペットしか
楽器経験ないんすよ。悠に聞いたら
好きなほうをやれって」
「でももしドラムだとしてドラムなんて
どうやって悠の家に運ぶの?」
「悠の家にドラム、あるんすよ。
トランペットも家に眠ってるし。
どうしようかなーって」
靴を脱いでシューズに履き替え、空雅と
話をしながら廊下を歩く。
2年は2階、3年は3階だから途中までは一緒。
「へー、本当に悠って音楽館って感じの
家なんだ。でもどっちでもいいんじゃない?
自分のやりたいほうをやればさ」
「やっぱり?……今は周りあまりいないから
敬語じゃなくてもいい?小声で話すから」
「ははっ、全然大丈夫だよ。空雅もきちんと
敬語とか使えたんだね」
「あー、よかった。ちょっと話ずらかったんだ。
まぁ野球部が上下関係厳しいからさ」
「そっか。野球部のほうは大丈夫なの?」
「まぁ、なんとかなるっしょ!俺は2年だし
すごい先輩もたくさんいるから」
「大変だね。悠に後でこのことでいろいろ
聞きたいことがあるから昼休み、
音楽室に来て、って伝えてもらえる?
あ、もちろん空雅もね」
「了解!じゃあ、昼休みな」
そう言って、階段の手前で別れた。
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