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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第28音 ( No.259 )
日時: 2013/06/30 12:00
名前: 歌 (ID: ZFblzpHM)


悠は必ず帰る、頭を下げてそう言って沖縄を1人で
出たのに、記憶を取り戻してその自信がなくなった。

本当に、帰らないこともあるかもしれない。


「だったら尚更っ…!何とかしねぇと……」

「しかし、沖縄に帰らないということは住所や戸籍、
 学校関係もすべて変えなければいけない。そんな
 手間のかかることをするには時間がかかるし、
 何と言っても一度沖縄に帰ってこなければできないことだ」

「悠が…いなく、なる……?」


悠が沖縄を出る前提の話に玲央は呆然と
空っぽの瞳を築茂にぶつけた。


「まだ決まったわけじゃない。それにいくつか
 気になることもあるしな。一応、明日から学校が
 始まる。悠が欠席するなら学校にも連絡が行くはずだ。
 空雅、お前に頼みがある」

「何々!?」

「担任に悠の欠席理由を聞いてきてくれ。それと、
 教師たちの表情が今まで違っていないか、雰囲気も
 緊張感がないか、よく見ろ。バカのお前に頼むのは
 酷だが、この中でそれができる立場にいるのは
 お前だけだ」

「わ、分かった!」


あまりにも真剣な築茂に空雅は厭味を言い返す
ことすらできずに、緊張した表情で頷いた。



「とりあえず、今日はここまでだ。全員が悠を
 想う気持ちは同じだ。心配で不安でも今自分が
 出来ることを確実に見つける。それがやるべきこと」

「そうだな。明日の夜、もう一度集まって空雅の
 報告を聞こう。そしてこれからどうするか決める。
 焦っても仕方がない。今はいつでも動けるように
 体調管理をしっかりしておこう」


俺はしっかりそう言い、まだ苛立ちが治まらない
大和の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。


「そんな顔すんな。今は悠の最後の言葉通り、
 俺たちの中の悠を信じよう」

「………あぁ」

「ほら、玲央も!そんな顔したお前を悠が見たら、
 怒るかもしれないぞ?だから、自分を見失うな。
 悠のことも自分のことも信じていこう」

「信じる……うん、俺、信じる…っ…」


強く頷いた玲央に笑って見せて、
今日のところはこれで解散となった。



築茂と空雅を車で送り届け、俺は家に帰って
すぐにベッドに倒れる。

ポケットから携帯を取り出して、繋がらないとは
分かっていても、悠の名前を押して電話をかけた。


やっぱり聞こえてくるのは無機質な機械音だけ。


ぐ、と胸が痛くなり、さっきまで無理やり
支えていた心が折れそうになる。


大切な人がそばにいない。


それがこんなにも辛くて苦しくて不安になること
だとは、思わなかった。


万が一のことを考えたくもないのに、思考は
どんどん悪い方に進んでいく。

考えれば考えるほど、悠が大切すぎるということを
痛感するだけだ。


悠の声が、温もりが、笑顔が、愛おしすぎて。


早くこの腕の中に閉じ込めたいと、そう願わずには
いられない。


悠に出逢うまでは、自分がこんなに1人の
女に溺れるなんて想像もしていなかった。


容姿はそれほど悪くないことは自覚しているし、
近寄ってくる女は確かに今でもいる。

だけど誰に何を言われても心を震わすものは
なく、退屈な日々だった。


音楽だけが俺の楽しみで、女なんて
どうでもよかった、はずなのに。


悠と出逢い、人を愛することを知り、仲間の
大切さを知った。


そして、誰かを愛することはこんなにも苦しく、
胸が痛いことを知った。


いや、きっと……“誰か”ではなく“悠”
だったから。


俺は、悠を好きになったから、こんなにも
自分の欲望が制御できなくなるほど、
乱されるんだ。



悠を、傷つけたくない。
悠の涙は、見たくない。
悠に、そばにいてほしい。



だから、悠………早く帰ってきてよ。



ぎゅ、と携帯を握りしめたまま溢れだす涙を
零さないように、腕を瞼の上に置いて。



そのまま、眠れぬ夜を過ごした。






冬休みが終わり、高校2年として過ごす
最後の学期になった。


課題を全くやっていなかったとか、冬休みは
楽しかったとか、そんなことは何も
考えることはできずに。


俺は、築茂の言葉をひたすら頭の中で
繰り返していた。



『担任に悠の欠席理由を聞いてきてくれ。それと、
 教師たちの表情が今まで違っていないか、雰囲気も
 緊張感がないか、よく見ろ。バカのお前に頼むのは
 酷だが、この中でそれができる立場にいるのは
 お前だけだ』



俺だけが、できること。


正直、単細胞な俺はいまだにこの状況を
理解しきれていないけど、悠がいないって
ことだけは確かだ。


あの時の電話は何かの冗談かと何度も思ったし、
何度も電話をしたけれど繋がらない。

悠は俺にいろんなことを教えてくれて、いろんな
想い出をくれて、いろんな大切なことを与えて
くれた、大切な人。


悠がいない世界なんて、もう考えられないのに、
本当にそうなってしまった時のことを考えるだけで
胸が押しつぶされそうだ。



「…っ!…雅!空雅!!」

「っ!?」

「何ぼーっとしてんの?おはよう」

「あ…愛花……はよ!」


考え込んでしまっていたらしく、席の目の前に
愛花が来ていたことに気付かなかった。


「……何か、あったの?」

「へっ?い、いやいやいや!何もないよ!」

「ふーん……課題やってなくて焦ってるとか?」

「そ、うそう!全然やってないからちょっと
 やべーかなって……」

「あんたって本当に……ま、悠がいれば
 何とかなるでしょ?」

「あー……うん」


愛花は、何も知らない。


俺たちみたいに、悠と愛花はもともと毎日
連絡を取り合うような関係ではない。

ベタベタしすぎず、さっぱりとしている。

だから悠と連絡が取れないことも愛花は
まだ気が付いていないはずだ。


「悠にさぁ、横浜どうだった?って昨日
 メールしたんだけど返ってこなかった
 んだよねぇ。疲れて寝てたのかな」

「あ、あぁ…かもな」

「あれ、でも悠いないよね?まだ来てないとか?
 いやー…でもいつも一番早いし、職員室にでも
 行ってるのかも」


でもこの様子だと、もうすぐ気付くな。


悠も愛花も俺の大切な人には変わりはないし、
愛花に余計な心配もさせたくない。

そのためにも、やっぱり早くいろいろと
探らないと。




HRが始まる時間になり、担任が教室に入ってくれば
それまでざわざわしていた教室内は一瞬で静まる。


窓側の後ろから2番目の席には、やっぱり
悠の姿はなかった。


教壇に立って連絡事項を話す担任の様子に、これと
言って違和感は感じられない。

冬休み前と何ら変わりない雰囲気で、淡々と
話をするだけ。

俺は目に穴が空くんじゃないかってくらい、担任を
じっと見るけどやっぱり分からない。


「先生、神崎さんは欠席ですか?」


と、悠の隣の席の男子が不思議そうに声をあげた。


「……あぁ、今日は体調不良で欠席となっている」


体調、不良……それは悠本人から連絡が
あったことなのか?

悠と連絡が取れない状況なのに、学校には
連絡をしてきたってことか?

どうして悠と連絡が取れないのか、学校側は
もちろん担任は知っているに違いない。


俺はなるべく早く知りたいから、1時限目の
授業とも言わない授業を終えてすぐに、
職員室に向かった。


教室を出るとき、愛花がちょっと不安そうに
『悠、大丈夫かな』と言っていたことを思い出す。


大高も他のクラスメイトも、悠が学校を
体調不良で休むのは初めてだと言っていた。

それだけ、悠と連絡が取れないこととは関係なしに
心配されている。


本当に体調不良なら、それもそれで心配だけど
余計に悠の声が聞きたくなった。



第28音 ( No.260 )
日時: 2013/06/30 22:14
名前: 歌 (ID: Bf..vpS5)


職員室に入り、担任の席へと近づく。


「先生……」

「月次、どうした。何か用か」

「悠のことで、聞きたいことがあるんすけど」


単刀直入に聞くと、担任はちょっと眉を顰めて
俺から視線を逸らし、ため息を吐いた。


「……2時限目が終わったら生徒指導室に
 来なさい。ゆっくり話そう」

「あ、はい…」


すぐに俺の言いたいことが分かったのか、それとも
担任も何か話があったのかは分からないけど。

とりあえず話は出来そうでよかった。


何事もなく2時限目を終えて、俺は生徒指導室へと
向かった。

ノックをして中に入るとすでに担任は
イスに座っていて、考え込むようにして
俯いていた。


「……座りなさい」


そういえば築茂は雰囲気に緊張感がないかも
よく見ろって言っていたけど……今の
担任から緊張感って言うか…ちょっと暗い
雰囲気は感じるかも。

何かを思いつめているような、すごく
深刻そうな表情をしている。



俺が担任の目の前に座ったことを確認して
から、担任は口を開いた。


「神崎のことで聞きたいこととは、何だ?」

「えっと……悠が今日休んだのは、本当に
 体調不良が原因なんすか?」


そう聞くと、担任は一度瞼を伏せて腕を組み、
何かを考え込んでいるようだった。

この雰囲気で、俺はすぐに悠に何かあった
ことを察知する。

ただならぬ雰囲気に、じわりと握る手に
汗を感じる。

これから聞く言葉がどんなものか、全く想像も
できない俺はごくり、と唾を飲んだ。


「ふぅ……本来はお前に話してはいけないと、
 直々に言われたんだが……」


俺に話してはいけないと言われたって…誰に?


「俺は…1人で事実を受け入れることが、辛い……。
 だから教師の俺がこんなことをするのは
 間違っているのかもしれない……だが、お前には
 伝えておきたい…っ…」


さっきまでとは打って変わって、表情を苦しそうに
歪めて頭を抱えた担任。

こんな担任を見るのは初めてで、一体どういうこと
なのか、回らない思考をフル回転させてみるけど、
余計に混乱するばかり。


そして俺は、信じられない言葉を、耳にした。




「神崎が………事故に、遭った」





は………?



事故に遭った?誰が?悠が?
え、何…それ……意味が、分からない。


事故、って何の?



「フランスで、一般車に撥ねられたたらしい」



フランス、で……撥ねられた?



「ど、いうことすか……」

「事故の原因は教えてもらえなかったが…昨日、
 俺の携帯に神崎の番号から電話がかかってきた」

「え?」

「でも電話に出て聞こえてきた声は、神崎では
 なかった。以前に、一度神崎の中学時代の
 教師として電話をしてきた声と、同じだった」


話に、ついていけないんですけど。

意味が分からないどころじゃないし、中学時代の
教師とか何でそんなのが出てくるんだよ?


俺の小さい頭は、パニック寸前だった。



それでも一言一言を忘れないように、しっかり
頭の中で何度も繰り返し、刻み込む。

整理も理解も、全くできていないけれど。


「中学時代の教師として俺が神崎を横浜へ
 帰れと言うように頼まれたんだ。同窓会が
 あるからって……でもそれは、嘘だった」


何かよく分かんねぇけど担任は自分のした
ことを悔んでいるっぽい。

ってか担任が悠に横浜に帰れって言ったから
悠が帰ることになったのは違うんじゃね?


「先生……いつ、悠に横浜に行けって
 言ったんすか?」

「確か期末試験初日だ。本当はもっと早く
 伝えるように頼まれたんだが、いろいろ
 立て込んでてな」


期末試験、って……悠が俺たちに横浜に行くって
言った後のことだったよな?

うん、やっぱり担任の言葉は関係ない。


「先生、悠は先生に言われたから横浜に
 行ったんじゃねぇよ。だって先生が悠に
 話す前に、悠から横浜に行くって
 聞かされてたもん」

「ほ、本当か……?」

「あぁ、間違いない!ってかさ、何で先生は
 そんなに思い悩んでんの?」

「……教師として、事実をしっかり確かめることも
 せずに生徒を送り出してしまった。もし、電話の
 人物が全く知らない人物だったときのことを
 考えたら……恐ろしくて」


全く知らない人物だった“とき”?

あぁー、何か回りくどい言い方でよく
分かんねーんだけど!


「でも知っている人で安心してしまった……どうして
 嘘を吐いたのかまでは教えて頂けなかったが」

「え?知っている人って?」


悠の中学時代の教師と嘘を吐いて電話を
してきた奴が、悠が事故に遭ったことを
担任に連絡してきた奴ってことだよな?

担任の知り合いだってのか?



「風峰暁さんだよ。お前もお世話になっただろ」




……風峰、さん?



「な、んで……?」



うわ、何なんだよこれ。

次々と衝撃的なことが起こりすぎて、
顔の筋肉が引きつりまくってんだけど。


意味、分かんねー……。



「風峰暁さんが、フランスで事故に遭った神崎を
 保護しているらしい」



それは……助けてくれた、ってことか?


いい人、だったよな…あの人。
別におかしいことは、ねぇよ…な?



フランスでの知り合いは風峰さんだけだし、
悠を保護するのは当たり前、だよな?


あれ……そういえば『ムウさん』って
風峰さんの…執事みたいな感じじゃなかったっけ?


「幸い、すぐに病院に運ばれ擦り傷程度で
 済んだらしい。だが、一応大事を取って
 しばらく様子を見るそうだ」


ダメだ、考えれば考えるほど意味が分からなくなる。

今、俺が出来ることはこの情報をすべて
築茂たちに報告すること。

だから何一つ零さないように頭に記憶することだ。

って、記憶力悪い俺が全部間違いなく覚えて
説明なんて出来るのか?


「せ、先生……わりぃ、俺、頭悪いからちょっと
 パニクッてる。ちょっと、紙に書いてもらえない?」

「あぁそうだな。一応、書いておこう」


すぐに紙とペンを手に、担任は今俺に言ったことを
すべて分かりやすく書いてくれた。


「一応、学年主任と校長だけがこのことを知っている。
 お前を入れて4人だけだ」

「えぇ!?そんなこと、俺に言ってよかったんすか?」

「……俺がお前に言いたかったんだ。教師として、
 恥ずべきことをしてしまったからな…。神崎に
 励ましのメールでも入れといてやってくれ」

「あ……はい」


担任は悠と連絡が取れないことを、知らない?

それとも、悠と連絡を取っているから
そんなことが言えるのか?


「あの、先生は悠と連絡は取ってんすか?」

「イヤ……療養の邪魔をしたくはない。メールは
 一応したが、返信はなかったからゆっくり
 休んでいるんだろう」

「そうっすよね…」

「神崎がいつ日本に戻ってくるかは聞かされていない。
 また連絡すると言われたから、近々分かるだろう」


やっぱり、悠からの連絡はないのか。

でも擦り傷だけで大事を取るって…ちょっと
大袈裟なような気がする。

大丈夫ならメールや電話をすることも簡単な
ことのはずなのに。


「大事な学期だってこと、分かっているはずだから
 すぐに帰ってくるだろう」


すぐ、帰ってくる?


「……そうっすよね!すぐに帰ってくるよな!
 うん、大丈夫大丈夫…」


本当は全然、大丈夫じゃない。


「あ、それと……悠が事故に遭ったのって
 いつのことっすか?」

「日本時間で1月6日らしい」


担任は紙に書き足してくれた。





第28音 ( No.261 )
日時: 2013/07/01 23:54
名前: 歌 (ID: TtH9.zpr)




「つまり……日本時間の1月6日、一昨日に
 悠は事故に遭い、今は風峰さんに保護されて
 いるということだな?」

「そう!担任が書いてくれたんだ」


空雅が自信満々に突き出した紙を、俺は
食い入るように見つめた。

バカで無能だと思っていたが、案外やるときは
やる奴らしい。


「事故って……悠が…?大丈夫なのかよ?」

「擦り傷程度だと書いてあるが……あまり
 信用できんな。担任を安心させるために
 嘘を吐いたとも考えられる」

「確かにそうだな。悠との連絡が取れないことと
 何かしらの関係はあるはずだ」

思いっきり不安を露わにした大和に、俺は
冷静に分析をする。

煌も真剣な表情で頷いた。


風峰暁……あいつの執事であるムウが悠の兄で
あり、その兄に会いに行ったところで事故に遭った。

悠を保護できるのは、確かに風峰暁しかいない。


それはつまり、風峰暁の傍にいるムウも悠を
保護しているということ。



「……まずいな」



ぼそっと呟いた俺の声が、全員にしっかりと
届いていたらしい。

玲央と日向の不安そうな瞳を、強く
この身で感じる。


「築茂…何が、まずいの?」

「考えてもみろ。死んだと思っていた人間の
 すぐそばに悠はいるんだぞ?悠の兄から
 すれば、そのまま二度と日本に帰したく
 なくなってもおかしくはない」

「っ……やべぇじゃねかよ!!どうすんだよ!」


静かに聞いた日向に淡々と答えれば、大和は
昨日と同様に、取り乱した。


「大和、落ち着いて。どうするかをこれから
 考えよう」

「そうだぜ、大和!俺の手柄を無駄にはしねぇ!」

「お前…うぜぇ」

「はぁ!?あ、分かった!負け惜しみだろ!」

「マジうぜぇよ…バーカ!」


励ます煌に、空雅は正反対の言葉を投げかけ、
大和は白い目で見るがすぐにどちらともなく
吹き出す。

俺としては、どうするかなんて、答えは
1つしかないと思っているんだが。


「…悠を、取り戻す…?」

「レオレオ〜取り戻すって何かかっけぇな!
 お姫様を助けに行く騎士たちって感じ!」

「これは遊びではない。浮かれるな、バカ」

「はい、すいません」


視線で殺気を出せば、空雅はすぐに大人しく
ソファに座った。


「まぁ、まずはみんな飲み物飲んで、ちょっと
 頭も休ませよう?難しいことばかり考えても
 何も変わらないかもしれないし、ね?」


日向の入れてくれたブラックコーヒーを、
こく、と一口含んですぐに、もう一度
紙に視線を落とした。



どうする、か……。


悠が事故でどれほどの傷を負っているのか、
悠と連絡が取れなければその不安は
増すばかりだ。

俺たちのそばにいない時間が長ければ長いほど、
あいつの傍にいる時間が長くなるということ。

さらに、悠は日本に帰ることを戸惑うかもしれない。


「やっぱり、悠と連絡が取れない以上、俺たちが
 できることは限られてくるな。風峰さんが
 担任の先生に連絡をするのを待つか、悠から
 連絡を来るのを待つか……」

「待つことしかできねぇのか?そんなの…何も
 してねぇのと同じだろ……」


煌と大和の言う通り、俺たちがここに居る限り
俺たちには待つことしかできない。


だとしたら。



「フランスに行けばいい」



悠を、迎えに行けばいい。



「築茂………?本気で言ってんの?」

「俺がいつ冗談で物を言う?」

「いや、だって…そんなこと……」

「悠が帰ってこないなら、俺たちが迎えに
 行くしかないだろ。それともお前は
 ここで大人しく待っているほうがいいのか?」

「それは!違う、けど……」


煌が躊躇するのもよく分かる。

俺たちはすでに普通の学校生活が戻り、部活も
あるし何よりフランスに行くにはお金がかかる。


煌の家は母子家庭だから生活的にもあまり
余裕がないことは知っていた。



「俺が金はすべて免除する。フランスに行きたい
 奴だけ、着いてこい」



これは、半端な気持ちじゃない。


元はと言えば、悠が横浜に行くことに関して
反対をせずに背中を押したのは俺だ。

俺にはあの時の言葉の責任っていうのがある。


本当に悠が帰ってこないなんて、あの時は
ほんの一握りの可能性だと思っていたが、
今となってはほぼその可能性が高い。


このまま悠と離れ、これから俺たちが今まで
通りに過ごせるとも思えない。


「煌、今のこんな気持ちで俺たちは部活で
 自分たちの役割が果たせると思うか?いつも
 悠は言っていた。音楽は心だと」

「……っ…」

「…築茂、俺は絶対に行く。行かせてくれ。
 バイトも何とかなるし今の生活を捨ててでも
 悠のところに行く覚悟はとっくに出来てる」


大和の強い眼差しを、俺は真剣に受け止めた。



日向は視線を落として迷っている様子で、
玲央は何を考えているのか、その表情からは
よく分からない。


「お、俺も!!もちろん行くからな!」

「いや……フランスに行ったとしてもいつ
 帰ってこれるか分からない。空雅は
 1か月の休学で勉学のほうがかなりやばい
 みたいだし…」

「そんなっ!じゃ、じゃあ俺、冬休みの課題も
 全部死ぬ気で終わらすから!!」

「……冬休み、終わってんじゃんか」

「うっ…」


煌の適切な答えに反論するものの、大和に
呆気なく打ち砕かれた。


「空雅、お前は留年する可能性は十分にある。
 それにいつ帰ってくるかも分からない状況の
 中で青田はどうするんだ?何て説明をする
 つもりだ?」

「そ、れは……」

「俺としては全員で行くことが一番望ましいと
 思う。だが、悠は自分のせいでお前の人生が
 変わることを望んでいない」

「…っ……」


悔しそうに唇を噛みしめる空雅に、俺は
追い打ちをかけるように口を開いた。


「お前は、ここで待ってろ。ここで待って
 悠がいないことで不安になる青田の傍に
 いてやれ。それと、もしかしたら俺たちと
 行き違いになった時、悠が帰ってきたときに
 出迎えられるように、な」


こいつにはこいつにしかできないことが、ある。

それを俺の中では率直に言ったつもりだが、
しっかり伝わっただろうか。


「そう、か……そうだよな!よし、俺は
 みんなの帰りを愛花と一緒に待ってる!!
 だから早く帰って来いよ!」


すぐに気持ちを切り替えられるこいつの
こういうところが、俺はすごく羨ましく
思ってきた。

こいつの存在が俺たちの中で大切なことは
分かっているが、後先考えずに行動する
こいつを止めるのは俺の役割だ。


「日向はどうするの?受験生だし、もうこれ
 以上学校を休むのは……」

「いや、行くよ」

「え?」

「実は俺、煌たちと同じ音楽大学に推薦で
 受けたんだ」


俺と煌は思わず顔を見合わせた。

ずっと日向は偏差値の高い大学に入ると
思っていたし、まさか音楽の道に進むとは
考えもしていなかった。

確かうちの推薦は12月で終えているはずだ。


第28音 ( No.262 )
日時: 2013/07/03 21:09
名前: 歌 (ID: 1lT/rquu)




「黙っててごめん。落ちたときのことを
 考えたらどうしても言う自信がなくて」

「そうだったのか!でも俺は嬉しいよ、日向。
 お前なら絶対に大丈夫。きっとフランスでの
 ことがかなり高く評価されるだろうから」

「ありがとう、煌。結果は1月の中旬。それを
 待つことはしなくていいよ。俺も実は
 受かってる自信しかないから」

「お、言うねぇ!日向が頑張ってるんだから
 俺もフランスに行かないわけにはいかないな」


煌はふっと微笑んで、俺に向き直る。


「築茂、俺もフランスに行く」


口角を上げて、俺もしっかり頷いた。


「後は玲央だけだぞ、どうすんだよ」


大和の声にそれまで俯いていた玲央が
ゆっくりと顔を上げた。


「…俺、レイのことが、心配…で。でも悠に、
 会いたくて……」


そうか、こいつは猫を飼っていたな。


「レオレオ!そんなの俺と愛花に任せておけって!
 ほら、フランスに行ってた時も愛花が預かって
 くれてただろ?レイ、愛花にめっちゃ懐いてた
 みたいだし」

「……ありがとう、空雅」

「そういうことだ。他に何かあるか?」

「…漫画は、大丈夫。俺も、行く」


これで、方向性は決まりだな。


俺はすぐにパソコンを取り出して飛行機の
チケットを5枚取る。


「出発はいつにするか?学校に連絡したり荷物の
 整理に2日あれば十分か?」

「そうだな。明日、それぞれの学校やバイトに
 報告をしよう。家族にもね」


それぞれ、首を縦に振り決意を固くした。


たった1人の女のためにこんなことまで
するのは、おかしな話だろう。

家族でもない、ただの『仲間』としての関係で、
お金を出し遠くまで行くのは容易ではない。

だが1人の“女”ではなく、“悠”だから
俺たちはここまでできる。


他の奴らがどうかは分からんが、俺は悠に
たくさんのことから救われてきた。


初めて、感情というものはどれだけすごい
ものか身を持って教えられた。

昔の俺が今の俺を見たら驚くどころじゃない。

悠に出逢う前の俺が誰かのために利益を
考えず、自分の何かを犠牲にしてでも動く
なんてことは絶対にあり得なかった。


そう思わせたのは、あいつの笑顔。



あいつの笑顔を、すぐそばで守りたい。
あいつの笑顔を、すぐそばで見ていたい。



だから俺は、悠を迎えに行く。




「1つだけ言っておく。どんなことがあっても、
 悠が何を言っても、悠の最後の言葉通り
『俺たちの中の悠』を信じろ」




おそらく、迎えに行ったとしてもそう簡単に
いくわけじゃない。

むしろ、かなり困難なはずだ。


「どういう、こと?」

「そのままの意味だ。何があっても『俺たちの
 中の悠』を信じるんだ。フランスに行き、
 目の前に悠がいたとしても、それだけを
 信じるな」

「つまり……悠は何か、変わっているかも
 しれないってこと?」


分からない。


情報が少なすぎて、一体どんなことになって
いるのか想像すらできないが、何となく
悠の最後の言葉だけは忘れてはいけない
ような気がする。


「否定も肯定もできないが、目に見えるもの
 だけがすべてではないということだ」


それと………



「かなりの、覚悟をしておけ」



これから俺たちが何を目にするのか、それは
考えても分からないことだ。

だが、少なからず衝撃を受けることを最初から
考えていた方がいいだろう。



「悠の兄が悠のそばにいることを、忘れるな。
 それなりのことを見せつけられてもおかしくない。
 それでも逃げない覚悟を、今からしておけ」




誰かが息をのむ音が、聞こえた。


俺だって考えたくはないが、悠の兄が悠に
手を出していない可能性はまずない。


それを悠が拒んでいるのか受け入れているのか、
後者を望むが俺の望みは悠の意思とは関係ない。


だからこそ、心に保険をかけておかなければ、
もたないだろう。



「……分かった」



低く静かに煌の声が、落とされた。



必ず、悠を取り戻す。
絶対に、あいつに渡さない。


俺たちには……俺には、悠がいなければ
ダメなんだ。


好きとか大切とか、そんな言葉だけじゃ
表せないほどに。



絶対に、悠とここへ帰ってくる。




築茂たちが帰り、しんと静まり返った部屋の
ソファに深く腰をかけた。


「ふぅー……」


大きなため息を吐いて天井を見上げる。


今までの出来事がすべて非現実的で、夢を
見ている気分だ。

でも2週間以上も悠の姿を見ていないことが、
悠がそばにいないことが、これは現実だと
いうことを思い知らせる。


出来れば、悠がいないことすら夢だったら
いいのに………。



ソファから立ち上がり、机の上に飾ってある
1つの写真を手に取る。


その中に映っているのは、俺を真ん中に幸せ
そうに微笑んでいる父と、今は亡き母。


悠に興味を持ったのは、母に後ろ姿がそっくり
だからだった。

でも実際は、悠自身が持っている独特の雰囲気と
魅力に無意識に惹かれていたんだと思う。


母親が死んだとき、俺はすべてを失った
ような気になった。


きっと悠を失ったら、あの時とは比べようが
ないほどに……考えたくもない。


もう二度と、大切な人を失いたくないから、
俺は悠をこの手で抱きしめたい。

強く気高く美しい心を持ちながらも、どこか
儚く脆く消えてしまいそうな悠だからこそ、
手に入れたくなるんだ。


たとえ敵が悠のお兄さんだったとしても、俺は
絶対に負けない。


悠の優しく穏やかなピアノの音色を、もう一度
聞きたいから。

悠とみんなとまだまだたくさんの音楽を
一緒に楽しみたいから。

ずっとずっと悠のそばで、あの眩しい笑顔を
見つめていたいから。


だからどうか、無事で帰れますように。


そしてまた、みんなでバカやって笑って、
たくさんの想い出をつくり、懐かしめますように。



願わくば、悠の笑顔が消えませんように。




第28音 ( No.263 )
日時: 2013/07/07 08:31
名前: 歌 (ID: bFB.etV4)


バイクを止めてヘルメットを外し、すぐに
目に映るのは悠の家の玄関。


『大和!DVDありがと!おもしろかったぁ』

『はぁ!?お前、もう見たのかよ?お前の家で
 一緒に見ようと思ってたのに…』

『あ、そうなの?ごめんごめん。じゃ、また
 見たいから後で来てよ。一緒に見よ?」

『……あぁ』


つい最近のことが、どこか遠い昔の出来事のように
感じるのは、どうしてだろう。


手を伸ばせばすぐに届くところにいたのに、
今はその姿さえ見えない。

事故に遭ったと聞いた時、どうしようもない
不安に襲われた。


部屋着のまま外に出て、自動販売機でジュースを
買っていた悠の無防備な姿。

誰にでも隔てない笑顔を見せ、下心のある
奴にすら気づいていながらも普通に
接していた姿。

1人で何でも解決しようとして、誰も頼らずに
何ともないように笑ってる姿。

水平線を見つめながら小さく歌を口ずさむ
儚げな姿。


あいつはいつも、自分は絶対に大丈夫、そう
変な自信を持っているせいで、俺は不安で
仕方がなかった。


今にもあの海に飛び込んで、いつか俺の目の前から
消えてしまうんじゃないか。

いつか悠にはまっさらな羽が生えて、そのまま
遠くへ飛び立ってしまうんじゃないか。

俺が腕を掴もうとしても、簡単にすり抜けて
違う奴のところに行ってしまうんじゃないか。



悠を好きになればなるほど、不安と嫉妬が
大きくなるばかりで……そんな自分が怖い。



いつか自分の欲望を抑えきれずに、この手で
悠を傷つけてしまいそうで。


俺はただ……ずっと悠のそばで、悠の笑顔が
俺に向けてくれれば、それでいいのに。


それ以上のことを、望んでいる。



「悠…っ……」



頼むから、帰ってきてくれ。


いや……悠が帰りたくないと言っても、俺は
絶対に無理やりにでも連れて帰る。


悠にとっては、俺なんかいなくても
何とも思わないのかもしれない。



だけど俺には、無理だ。



カッコ悪すぎることに、悠が少しの間
いないというだけで俺はおかしくなる。

冬休みのときだって、あと少しで悠に逢えると
思っていたのに……どうしてこんなことに。



「くそっ!!」



ガンッッ、とマンションの壁に苛立ちを
ぶつけた。


ぐしゃ、と髪を握り潰し、やりきれない想いを
何とか鎮めようと大きく息を吸う。


あぁ……悠に、会いたい。


どうしようもなく、悠に会ってこの手で触れて、
悠がここにいるんだと温もりを確かめたい。


出来ることなら……そのまま、俺と悠しか
いない世界に行きたい。



『大和』



悠………好きなんだよ、お前が。


何でお前なんかを、こんなに好きになっちまった
んだろうな。


誰からも愛され、それなのに誰のものにもならず、
自由に伸び伸び生きるお前なんかを……。



『あー!大和、見て見てっ。クジラだ!』



どうしてあんなに無邪気な笑顔で、俺を
こんなに縛り付ける?

どうして俺はお前から抜け出せない?

こんなに好きで好きでたまらないのに……
どうしてお前は俺のものにならない?



『行こう、大和!』



悠、俺のことをどう思ってる?
俺はお前の何なんだよ?



『大切だもん、当たり前じゃん』



………その答えを聞くために、俺は絶対に
お前を諦めない。


必ず、この腕の中に閉じ込めてみせる。



だから、待ってろよ。
絶対に、見つけるから。




守るから。





鍵もかけていないドアを開けてすぐに電気を
点ければ、足元に温かいものが触れる。


「レイ、ただいま」

「にゃぁ〜」


抱きかかえて頭を撫でると、嬉しそうに
頬をすり寄せてきた。

部屋に入り、すぐにキャットフードを
お皿に出してあげれば、相当お腹がすいて
いたのか、勢いよく食べ始める。

そんなレイの柔らかい毛並みを撫でながら、
今日のことを思い出した。


「レイ……ごめん、またちょっと、出かける。
 その間、この前の…青田さん、の家に
 いられる?」


言葉が通じてるかは分からないけど、レイは
いつだって俺の言葉に反応してはいろんな
表情を見せてくれる。

不安そうな表情をしたらどうしよう、そう
思って反応を待つと。


「………」


きょとん、として大きく澄んだ青の瞳で
じっと俺を見つめる。

俺の左目の青とは比べものにならないほど、
ずっと綺麗な青。

ごく、と唾を飲んでそのまま固まれば。


「にゃぁ」


俺を安心させるかのように、レイは俺の
膝の上に飛び乗り、しっぽを振った。


「ありがとう……レイ」

「にゃ〜」


微笑めば、レイも安心したようでまたキャット
フードの元へと降りた。


悠はよく、俺は大きな猫のようだといつも
言っていたけれど、俺から言わせれば
悠のほうがよっぽど猫だ。


自由気ままですぐにどこかに何も言わずに
消えてしまうところとか。

懐いたと思ったらすっとどこかに行って、
でもすぐに帰ってきてまたすり寄るところとか。

自分の健気さを自覚しないで、無防備に
しているところとか。


その度に俺がどんな想いでいるのか、何も
考えずに。



ぐっと拳を握りしめ、歯を食いしばる。


悠がほかの男のところに行くなんて嫌だし、
触れられるのだって嫌だ。


でもそれ以上に、悠を失う方が嫌だ。


「レイ、俺……頑張るから。応援、してて。
 悠を苦しめるものから、助ける」



たまに、本当にたまにだけど悠が暗い雨に
打たれて悲しんでいるように見えることがある。

繊細な心に、重すぎるものを抱えている。

自由な翼はたたんだままで、ずっと涙を
流してるんじゃないかって。


それでも想う、悠のことを。


闇も光も関係なく、悠のすべてを愛して
いるから。

何もない場所で花を咲かすまで、永遠の
未来を捧げようと、決めたんだ。


だから悠を、助けるよ。


悠を閉じ込めた部屋を、モノを、人を
叩き壊そう。


俺はハンマーになって、すべてを悠に委ねて
ただ、ぶち壊すよ。


ずっと自由だった悠を閉じ込めたモノを
叩き壊して、また悠を自由にする。


いつでも悠には自由に笑っていてほしいから。


悠に出逢えたことで、俺を孤独から
救って自由にしてくれたように。

何度も助けてくれた悠だから、今度は
俺が悠を助けたい。


難しいことも、悠の過去もすべて理解する
ことはできないけど、一緒に苦しむことは
できるはずだから。


お願い、1人で苦しまないで。


俺にも悠の悲しみや苦しみを分けてほしいんだ。


そしたら俺は、俺の幸せと喜びを悠に
分けてあげられるから。



「にゃぁ〜?」

「……大丈夫だよ、レイ」



レイを抱きしめながら、悠のことを強く想った。





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