コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第24音 ( No.229 )
日時: 2013/05/29 20:09
名前: 歌 (ID: OSKsdtHY)





日本に帰ってきてからの初登校と言えば、
それはもう、悲惨でした。



教師からも生徒からも質問マシンガンが
あちらこちら四六時中、打たれ死ぬかと
思ったくらいに。


何やら新聞記者の人やテレビ関係の人まで
来ていたらしいけど、私の独断でそれは
丁重にお断りした。


これ以上騒がれると、後々めんどくさい。


とりあえず、授業に関してはフランスでも
一応やっていたし、全く問題はなかった。


私は、ね。


頭を抱えて唸る空雅くんは相当滅入ったみたいで、
机とキスをしている。


愛しの愛花ちゃんに会えたことが
唯一の希望でしょうか。



そんなこんなで、無事、普段の生活に戻りました。



バンド関係の人にもしっかり連絡は、今月末の
前までなら作詞作曲の依頼は受けるというメールも
送信完了。


生徒会のメンバーにもいろいろ迷惑を
かけちゃったけれど、大したこともなく
平和だったらしい。


2学期が終わる、ただそれだけで。


フランスに行く前と何も変わらない生活に
戻ったはずだけど。


目に見えないだけで、大きく変わったものは
たくさんある。


学校全体も、冬休みに入る前に期末試験が
あるせいか、ちょっとピリピリとしていた。



私の頭の中に学校とか試験とかバンドとか、
フランスに行く前にはしっかり存在を
示していたものは。


確実に、薄れている。



決められた机とイスに座り、白い文字が並ぶ
黒板に向かうただの学生に戻ったけれど、
頭の中は全く戻っていない。



これからのことを、ずっと考えていた。




冬休みに入る前にやること、冬休みに入ってから
やることを。



だから、やっぱりまずは。
彼らに、言わなければいけない。




私の決意を。







「私、冬休みに横浜に行ってきます」






フランスに帰ってきてから、1週間後の
12月第2土曜日。


1週間ぶりに集まった私たちは、いつものように
私の家で日向が作った鍋を、食べていた。



『みんなに報告がある』と言って、姿勢を
正してから発した言葉に。



空気が、凍えた。



凍えるほどの寒さはないから、気温のせいでは
ないのは確かで、表情までも凍えているような
気がする。




「ど……ういう、こと?」


「冬休み中はずっと、横浜にいようと思う」



静かに言葉を漏らした煌にしっかり告げると、
瞳は行き場を失くしたように泳いだ。


空雅は口をあんぐりと開けていて、玲央は
持っていたお箸を落としている。


大和は眉間にぐっとシワを寄せていて、
日向は呆然と遠くを見つめていた。


唯一冷静なのは、やっぱり築茂。



「……どうして、急に?」


「確かめたいことがあるの。横浜に行かないと
 分からないこと。フランスにいる間に、
 ずっと考えていたんだ」



呆然としている日向の声は僅かに聞き取れる
くらいだった。


冬休みの間だけだから、フランスほど長い
わけじゃないし、必ず帰ってくるんだけど。



すごく、不安なのも、事実。



「大丈夫。別に一生会えないわけじゃないし、
 すぐに帰ってくるからさ。そんなに
 ビックリしないでよ。ただの旅行に行ってきます
 ってな感覚だし。冬休みなんだから」



私だけでも明るくいようと思って、声の
トーンを上げたけれど、うまく笑えていたかは
分からない。



大和の眉間のシワが、濃くなったから。




宿泊場所はもう決まっているし、中学時代の
友達にも会いたいから。


里帰り、ってことみたいなものだし、別に
普通でしょ?



私が笑顔で投げかける言葉に、誰一人笑顔を
返す人はいなかった。



ますます凍えていく彼らの表情と、空気。




「………確かめたいことって、何?」




張りつめていた空気の中、やっと返事が
返ってきたと思ったら、ちょっと
苛立ちすら感じさせる煌の声。


大和は見てすぐに分かるほど、怒りを
露わにしていた。



「大したことではないんだけどさ。ちょっと
 記憶が曖昧なところがあるから、それを
 確かめようと思う」




嘘では、ない。


記憶が曖昧なことは事実だし、それを
確かめることも、もちろんする。




記憶の主旨は、言えないけれど。





「本当に、冬休み中…ずっと?」



悲しそうな瞳で私を見つめる玲央の綺麗な
漆黒の瞳を、見つめ返しながら、頷いた。



「ってことは……えぇー!?クリスマスも
 年越しも初日の出も何もできねぇじゃん!!
 悠なしでってことかよ!?」



突如、青白い顔をして叫び出した空雅の
言っていることは、聞かなかったことにしよう。



「そ、そうだよ!楽しい行事がたくさんあるのに、
 悠がいないなんて…嫌、だな。それにその
 記憶を確かめるのに冬休み全部いらなくない?」



まさか空雅のどうでもいい戯言に日向も
乗るとは予想外でしたよ。


ほーら、空雅が調子に乗って頭がもぎれそうな
くらいに首を縦に振ってるじゃんか。



「沖縄に来て初めての里帰りだから。ちょっと
 ゆっくり回りたいところもあるんだよね。
 だから冬休み全部使っちゃおうと思って」



これも、事実。


横浜には柚夢との思い出の場所がたくさん
あるから、もう一度行きたいと思っていた。


今はもう、辛いだけじゃないから。


きっと、寂しいとか悲しいとかそんな想い
だけで私の目に映ることはないから。




唯一、無表情のまま箸を動かしている築茂
以外、納得できていない。


何とか安心させようと、私は笑顔で
優しく言葉を次々と繋げていくけど。



「……本当に1人で、行くの?」



不安気に瞳を揺らす煌に、もう何度目かの
首を縦に振る。



「クリスマスも年越しも1人で過ごすってのか!?」

「まぁそうかもね。ってかそんなのは
 どうでもいいんですよ」



まだそこにこだわる空雅に苦笑しながら
答えると、唇を尖らして拗ね始めた。


だって本当にどうでもいいこと。


1か月学校を休学していたんだから、学校を
休んでまで横浜に行くわけにはいかない。


だとしたら、やっぱろ冬休みしかチャンスは
ないんだ。



「もういいだろ。故郷に帰りたいというのは
 普通のことだ。俺たちに止める権利はない」



それまで黙っていた築茂が箸をおき、落ち着いた
声で言うと大和が築茂を睨みつけた。



「…んだよ、それ。お前は何でそんなに
 冷静でいられんだよ?分かってんだろ!?
 俺たちが……どうして、ここまで
 不安になるのか」



え?


分かってるって、どういうこと?
不安になってるのはただの過保護じゃなくて?

ただ、私1人で行くことに不安が
あるだけじゃないの?




「もし……悠が、記憶を取り戻したら………
 そしたら、俺たちの元に戻ってこなくなるかも
 しれねぇんだぞ!?」

「大和!!!」




ん?はい?


『記憶を取り戻したら俺たちの元に戻って
 こなくなるかもしれない』


って、どういうことでしょう。



これ以上言うな、と言わんばかりに築茂は
大和を睨み返す。


………6人は私の記憶のこと、何か知ってる…?




第24音 ( No.230 )
日時: 2013/05/30 22:09
名前: 歌 (ID: hap96gvm)




しまった、と顔に出ている大和に引きつった
微笑みを向けながら。



「大和、今の……どういうこと?」



1オクターブ低い声を、出した。



「私の記憶のことを何か知ってるみたいな
 言い方だったけど。どういうことか
 きちんと説明してくれるかな?築茂」


「………はぁ」




えー、何でそこで頭抱えて盛大なため息を
吐かれなきゃいけないわけ?


眼鏡の奥の瞳がかなり、呆れている。



「……わりぃ」

「もう仕方ない。話すしかないだろ」



罰が悪そうに謝った大和に、築茂は
顔を上げて私と視線を合わした。



「お前がフランスで倒れたとき、ムウさんに
 何の話をしていたか、聞いた。だがあいつは、
 答えなかった。だから俺たちも、あの時
 何が起こったのかは知らない」



淡々と話す築茂の言葉を、ゆっくり頭の中で
整理していく。


ムウさんが、あの時のことを誰にも
話していないなんて、どうして
言わなかったんだろう。


言えなかった、とか?



「しかしそれで俺たちの気がすむ訳にも
 いかないからな。俺たちはずっと気になって
 いたことを聞いた。『お前は悠の何を
 知っているんだ』って」



……やっぱり、気付いていたんだ。


フランスにいる間、私とムウさんの関係が
おかしいことに。



「そしたらあいつは何て言ったと思うか?」


「……何?」


「『何でも知ってる』そう言ったんだよ」



眼鏡の奥で光る切れ長の目には、薄らと
憎悪すら芽生えているような気がする。


私を通してムウさんを睨んでいるのかも
しれないけど、嫌な汗が流れた。



何でも、知ってる……か。




「別にそれを聞いたくらいでは、ただの思い込み
 だと思えばどうだっていい。だがその後の
 言葉が、今こいつらを不安にさせている最大の
 原因だ」




一度、深呼吸をした築茂が吐いた言葉は。





「彼女は日本に帰ったら、きっと……いえ、必ず」






『記憶を確かめるために、横浜に帰ると言います』






私の心を、痺れさせた。







心臓が、止まるかと思うくらい、うまく息を
吸えていないような、気がする。



どくん、どくん、と。
激しく大きく脈を打つ心臓。



ムウさんは私が横浜に帰ることを、私自身が
決める前から、分かっていた。


本当に私のすべてを、知っているかのように。




「どういうことか、と俺はあいつの胸倉を
 掴みながら吐き出した。それでもあいつは
 変わらない表情で……」



『本物の記憶を彼女が取り戻したら、おそらく
 あなた方のところへは帰らないでしょう』




これが、6人を不安にさせている、原因。



私が本当に横浜に帰ると言い出すのか、それすら
疑わしかったけれど。


今、こうしてそれが現実となっているんだから、
ムウさんが言った言葉を否定することは
できなくなったということ。


本当に、私が6人のところに帰らないかも
しれないという、不安が湧いて来たんだ。




「だから…っ……俺たちは、お前が横浜に
 行くことに賛成できない!!頼む、から……
 俺たちのそばにいてくれ……」




泣きそうになりながら声を振り絞った大和の
姿が、さらに私の思考をかき乱す。


意味が、分からない。


ムウさんは確実に私のことを知っている人間で、
私のこれからの行動を知っていた。



次第に疑問に思っていたことが、確実に
形を作り始めている。



もし、ムウさんの言う通りならば。
なおさら私は。




「横浜に、行ってくる」





全てを、確かめにいかないといけない。
全てを、確かめたい。




「必ず、帰ってくるから。約束する」




帰ってくる場所があるから、“行ってくる”
という言葉を使えるの。



私の居場所は、ここ以外もうあり得ない。



たとえムウさんの言った言葉が現実味を
帯びていたとしても、私は私の意思で
ここへ帰ってくる。



必ず、みんなのもとへ。
戻ってくるよ。







「……お前が1人で行くくらいなら、俺も行く。
 連れていけ」




しばらくの沈黙の後。


聞こえてきた言葉は、私の元からひどい顔を
さらに崩壊させた。



「は?」


「悠と離れているなんて無理だ。俺もついて行く」


「………大和、我儘はやめましょう」


「我儘なんかじゃねぇ。命令だ」



出たよ、俺様。



しかも腕なんで組んじゃって堂々と、何を
そんなに開き直ってるんですか。


空雅なんてどんだけ目が乾くんだよってくらい
瞬きの回数やばいからね?



「大和が行くなら……俺だって行くよ」



日向さん、そういうの本当にいらないから。


反抗心とかここで生まなくていいし、頼むから
そこは誰か反対しましょうよ。



「必然的に、俺も行くことになるな」



おーい、煌までそんなこと言ったら誰が
止めてくれるんですか。



「いい加減にしろ。これ以上、悠を縛るな」




お、こんなところに救世主が。



「お前は平気なのかよ?悠が……戻ってこなく
 なるかもしれないってのに」

「そんなわけあるか。第一、俺はあの胡散臭い
 笑顔のあいつの言葉を信じるわけがないだろ。
 何の根拠もない言葉に惑わされるな。現に、
 悠は必ず帰ってくると言っているんだ」

「それでも!不安じゃねぇのかよ!?悠が……
 1人で横浜に帰るってことは、中学時代の
 友人に会うってことは……」

「お前はどんだけ悠を信じていないんだ」

「…っ……」



築茂の核心を突く言葉に、大和は喉を詰まらせた。


ぐ、と唇を噛みしめてバンッと机に
拳を振り落とす。


机と机の上にいる鍋たちが可哀想だから
やめてください。



「悠の中学時代の友人の中に、悠を好きだった
 奴がいて、そいつに襲われないかとか、そんな
 ことでいちいち不安になってどうする。
 俺たちの知っている神崎悠は、そんな脆い
 人間じゃないだろ」



……何、そんな不安まで含まれてたんですか。


へへへっ、愛されているのはよく分かるんだけど
愛されすぎも困ったものですね。




「築茂の言う通りかもしれないけど……それでも、
 やっぱり悠だって女だ。男の力に敵わないし、
 何か起こってからじゃ遅いだろ」

「……悠を信じてる、けど。離れてるのは…怖い。
 どっかに…行っちゃいそうで、怖い」



煌の言うことは正論だし、玲央の想いが
分からない訳でもない。


私だって少し、不安だし怖いし。



それでもさ、そんな感情よりもずっと
強い想いがここにあるんだ。



「俺たちが何を言おうと、最終的に決めるのは悠だ」




築茂が私を見て、答えを出せ、と目で訴える。


大和の真剣な瞳と玲央の不安そうな瞳、
築茂以外の視線は私が出す答えとは
真逆の期待が込められているけど。




「ごめん。私は1人で行くよ」





全員に向かってはっきりと、言った。




「ごめんなさい。行かせてください……必ず、
 帰ってくるから。私は…大丈夫、だから」




どうして、だろう。
ちょっと、泣きそうになって。


それを悟られないように、深く頭を下げて
震えそうになる声に力を込めた。



こんなに心配されるほどに私は愛されて、
大切にされて、嬉しくて溢れそうになる涙。


こんなに不安にさせて、不安になるほどに
自分の記憶のことが分からない恐怖で
溢れそうになる涙。


これから1人で横浜に行くことと、6人と
しばらく会えないという寂しさから
溢れそうになる涙。



すべてを、ぐっと、呑み込んだ。




第24音 ( No.231 )
日時: 2013/06/01 01:28
名前: 歌 (ID: A4fkHVpn)


どのくらい頭を下げていたのか分からなくなるほど、
私は精一杯だった。




「……分かったから、もう頭上げて?」



私の頭を撫でるような、日向の優しく穏やかな
声で、やっと頭を上げたときには。


困ったように笑う日向と、苦しげに顔を
歪ませた煌と、目が合った。



「悠……こんなことさせて、ごめん。築茂の
 言う通り、俺たちには悠を止める権利なんて
 ない。だけど………それほど、俺たちが
 悠を大切だってこと、覚えておいて」


「……うん」



煌の落ち着いた声に、また溢れそうになる
涙を堪えながら、頷いた。



「あぁー……本当、悠には敵わねぇなぁ」



天井に向かって大きく伸びをしながら
叫んだ大和の表情からは、もう怒りも
苛立ちも感じない。


変わりに、優しい表情が私を見つめていた。



「行って来い。待ってるから。絶対に、
 帰って来いよ」



と。

あまりにもそう言った大和の表情が、
優しくて温かくて……儚くて悲しそうで、
消えてしまいそうだったから。



それまで我慢していた涙が、1粒、落ちた。




1度、流すことを知ってしまった涙は、
次々と私の頬をつたっていく。


彼らに出逢うまでは、絶対に人前でも1人の
時でも泣かなかった私が、あの日を境に
涙の流し方を思い出してしまった。



涙を流せるようになったから、悲しい気持ちを
流せるようになった。



彼らが、私に教えてくれたこと。



それは、これから生きていくうえで人として
大切なことで、忘れたままではいけないもの。



だからこそ私は、心から笑える自分に
逢えたのだから。




「あり…がと、う…っ……」



詰まりそうになる言葉を、しっかり最後まで
言い切ってから。


笑顔を、向けた。




「悠!お土産は八橋な!」

「はぁ?八橋って大阪の名物だろ!
 横浜にはねぇよ」

「いや、京都だから。空雅も大和も思いっきり
 間違ってるから」

「あ?横浜って何県だ?」

「そこからですか……」



日向の鋭いツッコミに空雅は立てていた親指を
折り曲げ、首を傾げる。


煌は最大限まで顔を引きつらせて憐みの
視線を送りつけていた。



「ぷっ……はははっ!!」



笑わせようとしてくれたのか、本気の天然なのか、
まぁどっちでもいいんだけど。


やっぱり最高におもしろくて、私は泣き笑いを
気が済むまでしていた。



玲央は鍋に向かって黙々と箸を動かし、築茂は
もう満足したのか、お茶をすすっている。


空雅と大和のバカの言い合いに日向はしきりに
ツッコミを入れて、煌はそれに呆れ果てていて。



さらに私の涙腺と腹筋は崩壊した。




それからはもう、いつものようにどんちゃん騒ぎを
して、1人が歌を口ずさめばハーモニーが出来上がる。




目覚めた場所
消えかかった世界で
走り去った
暗闇の坂の上

胸に抱きかかえたもの
心の隅にある過去

迫り来る暗闇に
後が無くなって行く

加速するスピード
目と鼻の先 
そこは闇

理由を知ろう
過去を引きずっている

希望
過去の希望
降ろして行け
足が軽くなる

輝く未来
見つけても
行けないなんて悲しすぎる

嵐を超え
絶望を超え

何処までも行けるように
限界まで加速しよう

ねぇ






いつだったか、空雅が作った歌詞。


空雅らしい率直な詞と明るいメロディに、
思わず身体を揺らしたくなるリズム。



歌い終えれば、私が横浜に行く前に
ちょっと早いクリスマスパーティーを
しようと言い出した空雅。


日向もケーキや料理を何にしようか張り切り
出して、築茂はかつて作ったとんがり帽子……


「コーンハットだ」


あ、はいすいません。

コーンハットのさらなるレベルアップを
するために、模型図を制作し始めました。


私が横浜に行くのは冬休み初日の、12月
23日の土曜日。


すでに飛行機のチケットも取ってあるし
ホテルもばっちり。


だからクリスマスパーティーは私が出発する
1週間前、今日から1週間後の土曜日に
やろうということになった。


愛花を呼ぶか呼ばないかという議論に、
空雅がもちろん呼ぶと強く言い、私も
激しく同意を示すと。


呆れながらも渋々承諾した、大和。


どうやら大和は愛花のことがあまり
得意じゃないらしい。


まぁ、大和の性格だと分からないこともないけど。



そんなこんなで、1週間後の午前中にまたここに
集合ということで解散。




外に出るとちょっとヒンヤリとした風が
頬を掠めて、思わず身を小さくする。



「風邪、ひくなよ」



煌の車に乗り込む寸前、ポンと私の頭に
手を乗せて無愛想に言った築茂に、
微笑んで手を振った。




連休明けの月曜日。



本日は生憎の曇りで午後からは傘マークが
あったような気がする。



「あぁー!!!ゆぅうぅ……数学!
 意味分からないんだけど!!教えてっ」

「今からこれやっても無理だから違うことに
 専念しましょう」



イツメンであったはずのメンクイちゃんとは、
最近あまり一緒に行動しなくなったな。


空雅と大高と私と愛花でなんだか勝手に
盛り上がっちゃってるから、入りずらい
んだろうけど。


と、いうことで今日から3日かけての期末試験。


常に一番のりで教室に入り、机に突っ伏すと
いう日課の時間が削られる時です。


ぞろぞろといつもより早く登校してきては、
人の睡眠妨害をして教えてと懇願する生徒が
続出してたりする。


今さら泣きついてきてもあと20分後には
紙切れが配られるんですけどね。



「古典!この前築茂が変なこと言ったから
 『ヤバい』しか頭にねぇんだけど!」

「あははー、それはねぇ未来の古典だから
 未来に飛べば使えると思うよ?」

「ちょっと悠、空雅に変なこと吹き込まないでよ。
 留年したらどうすんの」

「空雅なら別にいいんじゃね?やっと平和が
 訪れるし」

「おい翔貴!それはどういう意味だ!?」



朝から元気だこと。




そしてなんだかんだ叫んで朝の時間は過ぎ去り、
分厚い紙の束を持った担任が入ってきた。


やっと緊張感に包まれた教室で、私は1人、
窓の外を眺める。


まだ、愛花にも大高にも横浜に行くことは
言っていない。

期末試験に変な影響が出たら嫌だから、3日間が
過ぎたら言おうと思ってる。


それまでに空雅が口を滑らさないといいんだけど。



ご丁寧なことに1人1人の机に紙切れを置いて行く
担任は、必然的に私の1番窓際の列は一番最後。


その中でも後ろから2番目の席だけど、私の
後ろの席の子は期末試験だって言うのに
テニスの大会があるらしく欠席。


つまりテニス部は全員欠席、まぁ欠席
扱いにはならないらしいけど。



何が言いたいかと言いますと、結果、担任から
紙切れをもらうのは一番最後。


それを担任は計算してたのかしてないのか、
紙切れと一緒に。



本当にどうでもいい小さな小さな紙切れを、
机の上に置いた。





第24音 ( No.232 )
日時: 2013/06/01 22:53
名前: 歌 (ID: 8.g3rq.8)


2時限目の数学の試験が残り15分と
言ったところで、窓の外で、雨が降り始めた。


午後からだって言ったのに、これだから
天気予報は信じられない。



冬の窓ガラスを雨粒が叩いている。


まるでフランボワーズだな、なんて
思いながらフランボワーズって何だっけ
と考える。


雨は酸っぱい苺のようで、メランコリックな
気持ちを和らげてくれる。


肩から滑り落ちたストレートの黒髪から
香る、ヘアトニック。


すでにシャーペンと紙切れの役目は終了したし、
ちょっと眠りにつこうか。



チャイムが鳴り終わるまで。連休明けの月曜日。



本日は生憎の曇りで午後からは傘マークが
あったような気がする。



「あぁー!!!ゆぅうぅ……数学!
 意味分からないんだけど!!教えてっ」

「今からこれやっても無理だから違うことに
 専念しましょう」



イツメンであったはずのメンクイちゃんとは、
最近あまり一緒に行動しなくなったな。


空雅と大高と私と愛花でなんだか勝手に
盛り上がっちゃってるから、入りずらい
んだろうけど。


と、いうことで今日から3日かけての期末試験。


常に一番のりで教室に入り、机に突っ伏すと
いう日課の時間が削られる時です。


ぞろぞろといつもより早く登校してきては、
人の睡眠妨害をして教えてと懇願する生徒が
続出してたりする。


今さら泣きついてきてもあと20分後には
紙切れが配られるんですけどね。



「古典!この前築茂が変なこと言ったから
 『ヤバい』しか頭にねぇんだけど!」

「あははー、それはねぇ未来の古典だから
 未来に飛べば使えると思うよ?」

「ちょっと悠、空雅に変なこと吹き込まないでよ。
 留年したらどうすんの」

「空雅なら別にいいんじゃね?やっと平和が
 訪れるし」

「おい翔貴!それはどういう意味だ!?」



朝から元気だこと。



そしてなんだかんだ叫んで朝の時間は過ぎ去り、
分厚い紙の束を持った担任が入ってきた。


やっと緊張感に包まれた教室で、私は1人、
窓の外を眺める。


まだ、愛花にも大高にも横浜に行くことは
言っていない。

期末試験に変な影響が出たら嫌だから、3日間が
過ぎたら言おうと思ってる。


それまでに空雅が口を滑らさないといいんだけど。



ご丁寧なことに1人1人の机に紙切れを置いて行く
担任は、必然的に私の1番窓際の列は一番最後。


その中でも後ろから2番目の席だけど、私の
後ろの席の子は期末試験だって言うのに
テニスの大会があるらしく欠席。


つまりテニス部は全員欠席、まぁ欠席
扱いにはならないらしいけど。



何が言いたいかと言いますと、結果、担任から
紙切れをもらうのは一番最後。


それを担任は計算してたのかしてないのか、
紙切れと一緒に。



本当にどうでもいい小さな小さな紙切れを、
机の上に置いた。





2時限目の数学の試験が残り25分と言った
ところで、窓の外では、雨が降り始めた。


午後からって言っていたのに、やっぱり
天気予報は信じられない。



冬の窓ガラスを雨粒が叩いている。


まるでフランボワーズだな、なんて
思いながらフランボワーズって何だっけ
と考える。


あぁそうだ、ラズベリーと同じだったな。


雨は酸っぱくて甘い苺のようで、
メランコリックな気持ちを和らげてくれる。


肩から滑り落ちたストレートの黒髪から
香る、ヘアトニック。


すでにシャーペンと紙切れの役目は終了
したから、ちょっと眠りにつくかな。


チャイムが鳴り終わるまで。






キミの音を拾う。
小さな小さな心音、1つ。


紡ぐ音の色の不思議。


私という戸惑いの音の色を乗せ、
やがて響きあい溶け合って。


キミの音、私の音。
2つが1つ、1つが2つ。



その音は世界が生まれ落ちた産声。




『ラブソングを歌うなら相手を考えて
 なんて言わないでね』


何で?


『サンタクロースは永遠に1人なんだから、
 僕も世界で1人の存在だから』


うん。


『悠の存在も、大切にしているだけなんだ』



ギターと混ざり合った歌は、さながら
花びらを散らした愛のようで。


私はふと、あなたを見上げる。


この目は。
愛で溺れていませんか?
深く溺れていませんか?
と。


そしらぬフリしたあなたは、
その日も私を抱いた。



世界の外で、抱いた。






「神崎、おい神崎。起きろ」

「ぎゃふっ!!」

「ぎゃふって……お前、頭大丈夫か?」

「試験なら問題なく」

「いいから頭起こせ。古典の試験用紙
 配るから」

「へいへーい」



くすくす、と飛んでくるクラスメイトの
笑い声と視線。


どうやらすでに本日最後の試験に突入するらしい。


顔をしかめて机の上に紙切れを置いた担任は、
「放課後忘れるなよ」と小さく吐き捨てて。


試験開始の合図を、した。



50分ある試験なのに、20分で回答欄を埋め終えた
私はもう寝ることはしない。


さっきの夢の続きを見てしまったら、
学校だと言うのに、涙が出そうになるから。


ずっと浅い眠りばかりで夢を見ていたけど
覚えていなかったのに、最近では夢ばかり見ては
ほとんど覚えている。


それも、懐かしく遠い記憶の夢だったり、
全く知らない光景だったりとバラバラ。


それが何を意味するものなのか、見当も
つかないけれど、今までみたいに。


「ま、いっか。何とかなるでしょ」
で済ましたくない。


深く考えることをとことん嫌ってきた私だけど、
そればかりでは何も分からない。


考えなければ、行動が変わらない。
行動が変わらなければ、何も得られない。


私という人間を知るためには、私自身と
真正面から向き合って、逃げずに
考えなければいけない。


たとえそれがどんな結末であろうと、今の
ままの私では満足できないから。




どんより雲の隙間から止めどなく落ちる
水滴を呆然と眺めながらそんなことを
考えていれば。


残りの30分をいうのはあっという間に過ぎて、
期末試験初日は無事終了した。


3分の1が無くなったことを喜び叫んでいる
バカや、出来が悪かったらしく肩を落としている
数名の生徒。


HRが終われば、部活もそれぞれ休みだし、
家に帰って明日の試験の勉強をするのだろう。





愛花と空雅、大高やクラスメイトに手を振り、
誰もいなくなった教室には、私1人。


時刻はまだ、13時過ぎ。


小さな小さな紙切れの中に閉じ込められた
黒文字を見つめて。


「はぁ………」


重たいため息を吐きだしてから、席を立った。



図書室や資料室などで勉強する生徒の姿が
ちらほらとあるけれど、誰とも視線は
交わることなく足を止めたのは。



生徒指導室の、ドアの前。



2回軽くノックをすると、中から担任の声が
返ってきたことを確認し「失礼します」と
言いながら扉を、開けた。


「遅かったな」

「すいません」

「まぁいい。座りなさい」


チーク色の楕円型をしたテーブルを挟んで、
担任と向かい合って座る。


サッカー部の副顧問をしている担任は、
実年齢は40代だけど、見た目は若々しく
30代前半に見えなくもない。



「で、今回のお話は何ですか」

「あぁ……そうだな…」



こうやって生徒指導室に呼び出されるのは、
よくあること。


大抵、学校の評判を上げるために、私を
使って交流会や大会、ボランティア活動に
参加してほしいという内容。



だから今回も、冬休み中に行われる
何かに私を参加させるために呼び出したの
だろうと。


断るつもりで、来たけれど。




「神崎の中学時代の教師と名乗る方から
 お電話が入ったんだ。同窓会をするから
 来れないかと」




的が、はずれた。




第24音 ( No.233 )
日時: 2013/06/02 21:38
名前: 歌 (ID: UruhQZnK)



中学時代の、教師……おそらく3年の時の
ぽっちゃりしたおもしろい女教師だったっけ。


同窓会、ねぇ。



「それで?」

「だから冬休み中に神奈川県に帰ってこれないかと
 おっしゃっていた。お前の連絡先に繋がらなかった
 から、うちの高校を調べて電話をしたらしい」



連絡先が繋がらなかった、ねぇ。



「それと、宿泊先は当時のクラスメイトの
 家に泊まらせてもらいなさいと言っていたぞ」



なるほど、ねぇ。



「分かりました。報告わざわざありがとう
 ございます。神奈川にはすでに行くことに
 なっているので心配ないです」

「あ、そうなのか?なら一応その教師の方から
 連絡先を聞いておいたから、連絡した
 ほうがいいだろう」


そう言って差し出された、連絡先が書かれた
紙切れを受け取り。


「ありがとうございました」

「いや……横浜、楽しんできなさい」

「はい」


作り笑いをして、頭を下げた。


「1つだけ、聞いてもいいですか?」

「あぁ、なんだ」

「教師の声は、男でしたか?女でしたか?」

「男の声だったが……担任だったのは
 男性の教師だろう?」

「はい、そうですね。変なこと聞いて
 すいませんでした。あ、それと」


それと。


「この電話は、いつかかってきたんですか?」

「あぁ……実は結構前だったんだ。試験問題を
 作ったりお前がフランスから帰ってきてから
 新聞社やメディアの方の対処に追われてな。
 確か………お前がフランスから帰ってきて
 3日後くらいだったはずだ」

「分かりました。ありがとうございます」


表情は変えずに、微笑んだ。



「神崎」

「はい?」


もう用は済んだだろうと思って席を立ち、
ドアのほうへと向かうと呼び止められて
振り返れば。



「試験中、いくら簡単だったからと言って
 寝るのはもうやめろよ」



そう言いながらも、穏やかな笑みを浮かべている
担任に向かって返事はせずに。



とびっきりの笑顔を、返した。





今ので、収穫はかなり大きかったな。


同窓会の話は中学時代の親友から一昨日、
話が回ってきた。


普通、同窓会の連絡は教師ではなく、3年の
3学期に学級委員を務めた生徒がやるもの。


親友と私はかつてそれをしていたから、
私が沖縄にいる限り、その役目は親友と
男子の学級委員がしてくれていた。


定期的に集まっていたらしいし、たとえ
私が行けなくても私にも連絡はあったから
今回もそれと同じ。


だけど今回は行けると返信をした時には、
めっちゃ喜ばれたし。


その同窓会で同時の担任だった女教師が
来たという話は、聞いたことがない。



電話の相手は男だったという時点で、
それは絶対に違う人物なんだけど。



恐らく、もっと早く担任が私に伝達すると
思っていたんだろう。



しかし大幅に遅れて、同窓会の話が先に
親友から回ってきたことを、まだ彼は
知らないはずだ。


教師から同窓会の話があり、来るように
言われれば私が行く気にでもなる、と
思ってやったことだろうね。



宿泊先をクラスメイトの家に泊めてもらう
ように指示したのは、私が1人で横浜に
来るようにするため。


6人が着いてこないように、するため。



彼の読み通り、6人はついて来ようとして
いたしね。


だけど私がそれを拒否するのは誤算だったのか、
こんな遠回しなやり方をしなくても、私は
横浜に1人で行くと決めていた。



やっぱり彼が、裏で手を回している。



それほど私に記憶を取り戻してほしいのか、
彼が私とどんな関係なのか、まだ
分からないことだらけだけど。




あの人が望んでいることとは真逆のことを
している彼は、一体何が目的なんだろう。




とりあえず、疑問だったことが少しずつ
明白になってきたし、これからやることも
増えそうだ。


これは私の問題だから6人を巻き込むわけには
いかないし、自分で考えないと。



あの人と彼が、私とどんな関係で私の
何を知っているのか。


私の記憶はどこから、違うのか。


今ある記憶はどこから来ていて、どうして
事実と変わってしまったのか。



調べることは、たくさんある。



考えれば考えるほど、期待と不安と恐怖が
胸の中を渦巻いて、呼吸もままらないけれど。



やるしか、ない。





12月の第3土曜日。



期末試験も無事終了し、後は冬休みを待つと
いうだけの嬉しさで浮かれている空雅と愛花。


今日は約束した、ちょっと早いクリスマス
パーティーの日。



「空雅ー!!つまみ食いしないでって
 言ったでしょ!」


日向の叫び声がキッチンと通り越して
リビングで響く。


今、一生懸命私も日向のお手伝いをしながら
クリスマスパーティーの料理を手伝って
いるときです。


沖縄にクリスマスなんてあるのかと思った
そこのあなた。


しっかり、あります。


まぁホワイトクリスマスなんてのはあり得ないし、
気温も16度くらいなんでそこまで寒くないように
思うかもしれないけど。


外は風がびゅーびゅー吹いているので、
ちゃっかり暖房もしっかりかかっています。



「うっわ、このとんがり帽子めっちゃ
 ヤバくね?」

「コーンハットだ」

「とうもろこしだかとんがりコーンだかよく
 分かんねぇけど、上出来じゃん!」

「だからコーンハットだ。俺が計算に計算を
 重ねて作ったのだから当然だ」


大和はコーンハットの名前を覚える気は
さらさらないみたいだけど、築茂の
作ったとんがり帽子は本当にパワーアップしてる。


「だからコーンハットだと何度言ったら……」

「はいはーい!料理運ぶよー」


い、痛いよ築茂くん。
そんなに睨まないでください。



「…うまそう」

「玲央、まだ駄目だからね。よし、って言ったら
 ゴーしていいからね」


煌、玲央は犬でもペットでもありません。


自由で気ままなマイペース猫なので、
言うことは聞かないですよ。


ほら、もう食べてるし。



「本当……荻原先輩の料理って女子力高すぎて
 私が惨めになってくるんですけど」

「愛花、一緒に頑張ろうね……」

「悠は見た目だけで女子力メーター振り切ってる
 からいーよねー」


やだ、この人、目が笑ってない。



そんなこんなで、いつものように
やりたい放題してるパーティーという名の
裏に隠れている、どんちゃん騒ぎをする
今日です。





ただの料理を食べさせるわけもなく、
私の悪戯心満載で、ロシアンルーレットばかり。


8等分されているピザのうち2つに大量の
タバスコがチーズの下に隠れていたり。


大量にあるチキンフライの4分の1は
なんちゃってチキン、見た目はチキン
中身は梅干しだったり。


最後の大目玉は、ケーキですよね。


一見、綺麗に盛り付けされている大きな
フルーツケーキとチーズケーキはある1部分だけ、
醤油と塩がべったり塗られている。


どんな味なんだろうね、ふふふ。



「げほっ…ごほっ…んだ、これは……」

「きゃはは!築茂がフルーツケーキの
 爆弾ひきましたー!」


自分に当たらなかったことを喜んだ空雅や
大和が指笛をしたり叫んで笑っている。


私は相変わらず食べれないから、上に
乗っていたフルーツを少しだけ。


誰も私だけずるい、なんてことも言わない。



涙目になりながら、笑って差し出した日向の
水をひったくるように飲んだ築茂。


貴重なシーンだったので、ばっちり写真にも
収めたし、永久保存行き決定。


チーズケーキの爆弾を引いたのは。



「ぎゃぁぁぁ!!んあぁぁっ!」



人間とは思えない叫び声を上げてもがく、
自称キレイなジャイ○ンに似ている愛花さん。


うん、そっくりかも。


そんないまずいものなんだね。
大成功で何より。


隣でめっちゃ嬉しそうに爆笑している大和は
人でなしという言葉がピッタリ。


空雅なんて「愛花は俺が助ける!」とか
言って愛花に飛びついたけど、思いっきり
吹っ飛ばされていた。


ケーキを嬉しそうに黙々と食べる玲央の手が
止まるほどに、そりゃもうすごい勢いで。


未だに私と日向を睨む築茂の横では、
煌が大爆笑。



楽しすぎて、恐いくらい、楽しい。





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