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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第17音 ( No.170 )
日時: 2013/04/03 15:26
名前: 歌 (ID: kI5ixjYR)



パタン、と扉が閉まると、そのまま歩道まで
歩き、玲央と日向はバス停のイスに座った。



「じゃ、またな。気をつけろよ」

「……大和」



そのまま道路を渡ってアパートに帰ろうとすると、
玲央が椅子から立ち上がり、俺に身体を向けた。


なんだ?と軽く返事をすると、すごく
真剣な表情で。




「…俺、悠のこと、好きだから。だから……
 絶対に、負けない」




ふっ、と挑発するように片端の口角をあげて、
その黒い右目を、光らせた。



思いもよらぬ宣言に、自分でも分かるほど、
眉間に深くしわが寄る。


でも、その想いはとても強くて深い、もので。




「……俺だって、ぜってぇーに負けねぇよ」




宣誓布告を、しっかり受け止めた。




「ちなみに、そこに涼しく座っている日向にも
 同じこと言っておいたほうがいいぜ。
 こいつは黙って横からさらおうとするから」

「……ちょっと、人聞きの悪いこと言うなよ」



にやり、と日向に笑顔を向けると、目を
細めて表情を引きつらせた。


そんな日向にも玲央は、俺に言った言葉と
全く同じ言葉をしっかり全力投球して。



「あぁ、分かったよ。お互い、頑張ろう」



それを日向は、さらりと、交わした。





お互い、負けるつもりなんてさらさらないように、
自信たっぷりに笑顔を見せて。


俺はそのまま、片手をあげて道路を渡った。



俺たちは、仲間だけど恋のライバルでもあるけど、
逆を言えば恋のライバルだけど、とても大切な
仲間である。


それぞれに、暗かった過去があり、それを悠と
いう光に出逢えたからこそ、俺たちの今があるんだ。


そうして、悠を通して俺はあいつらという
大切な仲間に出逢えた。


バカ言い合って笑って、お互いの背中を押し合って、
ただそこにいる存在ってだけで、心が救われる。


そんな、仲間に出逢えた俺は、すんげぇ
幸せもんだと思う。



「……いい詞、今なら書けっかも」



すぐにルーズリーフとシャーペンを取り出して、
ありのままの今の俺の心を、綴った。




そっと自由になりたくて
気持ちの扉に鍵をする
ゆっくり歩いて 遠くを見据えて
足と心が呼吸して

流れる雲はまっさらで
大きく構えて
なんだかオレには理想的

生きていることが嫌じゃなくて
感じることに誇りを持って

いまのオレってなんかいい

上手く言葉に出来ないけれど
留守した気持ちに届いてて
もっかい扉を開けるんだ

強さなんて要らなくて
勇気なんてどこかに忘れた

ただ考えず無邪気に走って
バカしてみんなで大きく笑って
いまはひらすら それでいい

刺激的な鼓動がぜんぶ
オレに楽しさくれたんだ

いまいるオレは
みんなのおかげで変われた

そんなみんなの存在に
気持ちの扉に


ありがとう 





8月16日。
空雅の、誕生日。



「………なぁ、今日って俺の、誕生日…
 だよなぁ?」


「え、そーなの?それよりもさっさと手、
 動かしてくんない?」



誕生日だというにも関わらず悠の親友、尚且つ
空雅の好きな人である青田愛花に、夏休みの
課題をみっちりしごかれている。


ついさっき、青田と初めましての挨拶を
悠が仲介してくれたんだけど。


……はっきり言って、空雅のタイプって
理解できいない。



まぁ、人の好みはそれぞれだから仕方ないか。



悠の家に来て突然青田に出迎えられた空雅は、
誕生日サプライズだと思ってかなり
舞い上がっていたけれど、いきなり「今日の
スケジュール」と書かれた紙を突き出されて。


そのあまりの内容の濃さと、これから
シバかれるであろう、課題の多さとを想像した
空雅は、初っ端から撃沈していた。



もちろん、これもすべて悠が仕組んだこと。


まだ時間は2時過ぎで、ここには俺を含めて
まだ4人だけ。

煌と築茂は部活が終わってから、日向は今、
ある買い出しに出かけている。

玲央はロシアに行っていたこともあってか、
空雅への誕生日プレゼントで描いていた
漫画がまだ終わってないらしく、今、家で
猛スピードで仕上げているらしい。


……玲央の猛スピードって、どのくらいか
想像つかないんだけど。





「はぁ?この時の作者の気持ちを答えよ、って
 締切延びればいいなに決まってるだろ!!」

「バカのくせに現実帯びたこと言うな」

「( )do you( )?(Sore)do you(imi)?だ!」

「(What)do you(mean)?に決まってるでしょ!!」

「……もう、無理だ…」

「こらっ!とっととノートに書け!」

「よしっ、提出するとき頭のノートに書いて 
 来ました、って言おう」

「どうしてそういうところだけ頭が働くのよ……」



さすがというか、バカすぎる空雅は好きな人
相手にも容赦ない。


え?俺もバカだって?
おいおい、あんなバカザルと一緒にすんなよ。


なにやらキッチンで作業をしている悠は、めっちゃ
楽しそうに笑ってみているし。


ってか俺、何かすることないわけ?



「ん?大和、どうしたの?」

「いや、暇だなーと思って」

「あの2人の茶番をガ○使のDVDを見てる感覚で
 見ているとめっちゃ爆笑するよ」

「……お前、人をネタにするなよ」

「だって楽しいんだもん!それに、愛花も
 ちょっと元気出たみたいだし」

「元気、なかったのか?」

「んー、ちょっとね。でもきっと、今いい方向に
 進めていると思うから。よかった」



ちょっと苦笑しながらも安心したように、
リビングで肩を寄せ合って叫びあっている
2人を見つめる。


そんな悠を俺は、見つめる。



「空雅はバカだけどさ、バカじゃないんだ。
 男はバカだとか女はバカだとか言っちゃうバカが
 いるけど、バカな男がいてバカな女もいる。
 それだけだよね」



私もかなりのバカだけどね、とくすくす
笑いながら付け加えた悠に、俺もだ、と
微笑んだ。



「あいつは、みんなを幸せにするバカだよな」

「うん。本当にその通り。そんな空雅の大切な
 誕生日だもん。喜ばせなきゃね!」



そうやって誰かを想いながら咲かせる悠の笑顔に、
俺は何度も惚れている。


何度も好きだ、と言いそうになる言葉を
喉にわざと突っ返させて、押し留めている。


もう、何度もそうしてきた。



第17音 ( No.171 )
日時: 2013/04/04 22:47
名前: 歌 (ID: qRt8qnz/)




千切れるくらい想いを握りつぶして、
張り裂けるくらい涙を溜めこんでいる。


きっと、俺と同じ想いを、あいつらもして
いるんだと思うから、頑張れるけど。


そうしてまで俺たちは、何を求めているんだろう。




「……大和?」

「………あ、あぁ?なんだ?」

「いや、遠くを見ていたから、大丈夫かなぁ……
 と思って…」

「大、丈夫だ。ちょっとぼーっとしてただけ」

「そっか。ならよかった。たぶんそろそろ日向が
 買い物してくると思うんだけど、そしたら
 空雅には見られたくないから寝室の部屋に
 うまく連れ出してくれない?」

「まぁ別にいいけど。何かやんのか?」

「それは後でのお楽しみ!日向と私に任せて!」



悪戯っ子の笑みを浮かべて、上目づかいで
見る悠に、思わず顔が赤くなりそうになって。


慌てて顔を腕で隠して、おう、と小さく
返事をして踵を返した。



一度、コップに注いでいた水で喉を潤してから、
どうやって寝室に連れ出そうか考える。


たぶん、まだ勉強させないと終わらない、とでも
青田は言うだろう。


ちょっと休憩、って言ってDVDでも見させるか。



「お2人さん、悠が休憩しろってさ。寝室にある
 テレビでお菓子食べながらDVDでも見てこい、ってさ」

「マジで!?やったー!!」

「……仕方ないなぁ。さっさと移動しよ。でも
 DVD見たらまたすぐに開始するからね」



最初はむ、と眉を寄せていた青田だけど、すぐに
悠と視線を合わして勘付いてくれたらしく、
素直に机の上のものをまとめて立ち上がった。



寝室に2人を追いやって、俺もリビングに
置きっぱなしにしていた携帯を取ってから
向かおうとしたら。


たくさんの荷物を抱えた日向が、裏口から
顔をのぞかせた。




「日向!お帰り」

「ただいま、悠。こんなもんで大丈夫かな?」

「すっごい量だな。こんなに何に使うわけ?」

「だから、まだ秘密だって!さ、大和も
 寝室へゴー!!」

「……はいはい」



小麦粉やフルーツ、食器類まで入っている
ビニール袋の中を覗いてみれば、すぐに寝室へと
背中を押された。


何となく、日向と悠が2人きりでやると思うと
いい気分はしないけど。


俺がいたって足手まといになるだけだから、
大人しく空雅たちとDVDを見ていることにする。



2時間あるDVDをたった30分で止められ、鬼の
ような顔をした青田は。


「課題をやるに決まってるでしょ!?」


どこまでもスパルタだな、こいつ。


空雅は半泣きになりながらも、やっぱり好きな奴
には弱いのか、言われた通りにシャーペンを握った。


そうなってしまったら、俺にはやることがなく、
かなーり暇な状態。


どうせリビングに行っても、邪魔扱いされる
んだろうし、しばらく寝ていればすぐか。



そして起きたときには、すでに6時前。


部屋ではまだ、勉強をさせられていた空雅の目は、
もう魂が抜けたような色を見せている。


「例えばこの問題をジャ○アンに例えると
 これがス○夫でこれがし○かちゃん。
 分かりやすいでしょ?」

「おーなるほどー」

「ってか私さ、この前クラスの男子に綺麗な
 ジャ○アンに似てる、って言われた」

「ぶふっ!!」

「ぶはっ」

「きたねーよアホ。ちなみにそっちで吹いた
 あなたもね。えーと、鬼藤くんだっけ?」

「今さらかよ」


一体、いつまでこんなことしてればいいんだ?



「ってか鬼藤くんさー、悠に告白しないの?」

「は?」



いきなり何言い出すんだこいつは、と思いながら
視線を向けると、至って真面目な表情をしている。



「見てればすぐに分かるけど。ってかさー、悠を
 好きな男って私が知ってるだけでも14人はいるよ」

「14人!?それマジで!?」

「お前は黙ってろ。まぁでも、ほとんどが自分なんか
 相手にしてもらえないと思って、憧れてる感じ。
 だから告白も相当勇気のいる奴しかしてないね」

「……あっそ。別にどうでもいいわ」



おい、何で俺はここで意地を張るんだよ。


青田愛花、悠の学校生活で一番一緒にいる人物から
悠のこと、教えてもらえるチャンスなのに。



「分かりやすいねー。悠を好きになるとみんな
 そうなっちゃうのかなぁ……。ま、悠の一番は
 私だから譲らないけどね」

「え、ええぇ!?君たちそういう関係!?」

「だから、うるさいよ。あんたはここの問題でも
 解いてなさい。でさ、1つ聞きたいことが
 あるんだけど」

「……なんだよ」



叱られた子犬……子ザルのように大人しく問題を
解き始めた空雅をよそに、青田は俺を真っ直ぐに
見つめて、口を開いた。





「君は悠のこと、どこまで知ってるの?」





どこまで、知ってる……?




「悠が沖縄に来た理由。悠が音楽をいつから
 やっていて、あんなにできるのか。悠が
 どうしてご飯をきちんと食べないのか」


「………」


「実は私も知らない。教えてもらえてない。
 いつもはぐらかされててさ。でも、君とかには
 何か言ってるんじゃないかなと思って」


「……いや、何も聞いていない」


「そう……まぁ、そうだよね。じゃぁ悠の過去の
 恋愛話とか聞いたことある?今、悠に彼氏が
 いるかどうかも」




悠の、恋愛話?
悠に、彼氏がいるか?


そんなこと……考えたこともなかった。




分かっては、いる。


悠の笑った顔、真剣な顔、ちょっと拗ねた顔、
穏やかに微笑んでいる顔、幼い顔、大人びた顔、
いろいろな表情は見てきたつもり、だけど。



泣いた顔は、見たこともないし、悩んでいる
顔も、想像つかない。




たまに、遠くを見つめるような、心ここに非ず
っていう表情を見せることはあっても。


絶対に、その奥を探らせては、くれない。




「やっぱり、知らないか。あーあぁ……いつに
 なったら、悠は自分の弱さを見せてくれるのかなぁ。
 それとも本当に弱いところなんてないのかなぁ」



青田は悲しそうに、呟いた。


そんな青田を見て、空雅も持っているだけの
シャーペンに視線を落とす。



「青田、悠のことでお前が知ってること、教えて
 くれないか?どんなことでもいい。あいつの
 ことなら少しでも多く知っておきたい」


「そうだなぁ……。私が知っているのは、音楽が
 天才で頭が良すぎて運動も抜群。で、モテる。
 ………完璧な人間、って感じ。あ、それと」


「それと?」


「お兄さんが1人、いるってのは聞いたことあるかも。
 本人から聞いたわけじゃないから、確かめてみたら、
 『いるって言えばいるしいないって言えばいない』
 ってはぐらかされたんだよね」


「悠の、兄……か」



悠がここに1人で引っ越してきた時点で、悠の
家族の話題は出してはいけないんだと、何となく
避けてきたつもりだけど。


もし、きちんと家族がいるなら、どうして
一緒に暮らしていないんだろう?



「悠の母親と父親のことは知らないか?」

「それも分からない。前に担任に聞いてみたんだけど
 プライバシーに関わるからって教えてもらえなかった」

「ってことは教師は知ってるってことだよな?」

「そりゃぁ、手続きの書類には必ず保護者の
 名前と印鑑が必要だし、何かしらの理由があるなら
 教師は把握しておかないとダメでしょ」

「……そう、だよな」



このまま悠が話すのを待ったとしても、いつに
なるか全く分からないし、永遠に話すつもりは
ないのかもしれない。

だとしたら、自分で調べるしかない。


第17音 ( No.172 )
日時: 2013/04/05 22:04
名前: 歌 (ID: xPOeXMj5)



悠にとってはそれが嫌かもしれないし、もしかしたら
傷つけてしまうかもしれない。


それでも、このまま誰も悠のことを知らないのは
何かあったときに力になれないってことだ。


そうなったら、悠はどうなってしまうんだろう。




「おーい、愛花!ちょっと来てもらえる?」

「大和、この前頼んだサックスのリードが
 届いたから確認してくれない?」



悠のことで頭を巡らせていると、ドアが開いて
悠は青田を、日向は俺を手招いた。


「はいはーい」

「……あぁ、この前のやつか」


本当はリードなんて買った覚えはないから、
ただ空雅を1人にするための口実だろう。


俺は、さっきまでのことはまた後で考えることに
して、立ち上がった。



「空雅は机の上のものとお菓子のゴミ、
 片付けたらリビングに来ていいからねー」



悠は最後にそう付け加えて、ドアを閉めた。




「さぁ、空雅が来る前に早く早く!」



と、言いながら渡されたのはクラッカーと
キラキラしたとんがり帽子。


「うわー、すげっ」

「でしょ?もう築茂も煌も玲央も来てるし
 料理もばっちりだから!」


そう言われながらリビングに入ると、本当に
たくさんの料理と飾り付けがされていた。



「うっわー!やべぇだろ!!」



思わず、叫んでしまう。



「しー!大和、気持ちは分かるけど空雅に
 聞こえちゃうから静かにね。料理は全部
 日向と悠が作ってくれたんだって」

「飾りつけ、は……俺たちが、やった」


唇に指を当てて微笑む煌に、ちょっと自慢げに
話す玲央。



「……ってか、築茂にとんがり帽子とか
 似合わなさすぎて笑えるんですけど」


「黙れ。これはとんがり帽子ではなくコーンハットだ。
 分度器で角度を測り、線をひいて余った部分……」


「あーはいはいはい。これは築茂の手作りで
 めっちゃ万能なんだよ。すごいだろ?」



俺の言葉に築茂は眉を寄せ、それでもまためんどくさい
話をし始めれば、煌が強制終了させた。

さすがすぎて、救われるよ。



すると煌は、俺の後ろにいた青田に視線を
移して、いつもの王子様スマイルを振りまく。


「青田さん。今日はありがとう」

「い、いえ………」

「愛花、こっちが築茂でこっちが玲央ね。まぁ
 覚えても覚えなくてもいいよー」

「適当だな」

「あれ築茂、愛花に覚えてもらいたい理由が
 あるの〜?誰かさんが顔真っ赤にして
 怒ると思うからやめときな?」

「……どうでもいい」


悠にからかわれた築茂は呆れたようにため息を
吐き、眼鏡に指をそえた。



「さてと、全員揃ったことだし、やりますか!
 えっと、空雅が入ってきたらみんな一斉に
 クラッカーを鳴らしてお決まりのセリフね!」


悠のことばにそれぞれ返事をする。

合計7人でクラッカーを鳴らすんだから、結構な
音が響くだろうな。

もちろん、悠の家だからできることだけど。


「まぁその後はケーキ食べてご飯食べて、それぞれ
 プレゼントを渡すってな感じ。楽しければ
 なんでもいいかな!」

「さすが、悠。ノープランで強行突破得意だねぇ」

「うふふっ。何が起きるか分からないほうが
 ずっと楽しいじゃん!」


もう悠の性格をよく分かっている煌も、
楽しそうに笑う。


すると、寝室の方からガチャ、とドアの
空く音が聞こえた。


全員、一斉に口をつぐんで息をひそめる。



「おーい、終わったぞー」



呑気に欠伸をしながら入ってきた空雅に。





パァァァンッッ!!!





『お誕生日、おめでとう!!!』







7つのクラッカーの音に、7つの声。


何の疑いもなくリビングに入ってきた空雅は、
きょとん、としてその場で立ち止まった。



「……え…えぇ?」


「あははっ!ビックリした?だって今日は
 空雅の誕生日だもん。今まで勉強、
 お疲れ様」



悠の言葉にみるみる涙目になっていく空雅。



「お、俺……どうしよう、すんげぇ…嬉しい!!」

「おいおい、泣くなよ空雅ー。男だろ?」

「うるさいっっ!嬉しいもんは嬉しいんだぁぁ」


ぽろぽろと涙をこぼし始めた空雅に俺が
からかってみると、さらに顔を真っ赤にさせて
嬉し泣きをする。


「よかった、サプライズ大成功だね」

「本当だな。よし、空雅、悠と日向が一生懸命
 作ってくれた料理、早く食べよう」

「あ、その前にケーキ!!」


日向が安心したように微笑むと、煌は空雅の
肩に手を置いて、頭をぐしゃぐしゃとかき乱した。

弾かれたように叫んだ悠は、日向と一緒に
キッチンへと走って行く。


「大和ー、電気消して!」


悠に言われた通りに電気を消すと。



「Happy birth day to you〜Happy birth day
to you〜Happy birth day dear Kuga〜Happy
Birth day to you〜」



鮮やかな色をしたフルーツがのった、とても
大きなホールのケーキにろうそくがついていた。


悠と日向の声に合わせて、俺たちも一緒に
歌い上げると。


空雅は、一気にろうそくの火を、消した。



「すんげー!!これ、悠と日向が作ったのか!?」

「って言っても、ほとんど日向がやってくれた
 んだけどね。本当にパティシエにでも
 なってほしいくらいに綺麗でしょ?」

「そんなことないよ。悠もすごく頑張ってくれたんだ」

「ちょっと悠!あんた料理もこんなにできたっけ!?
 何勝手に女子力高くなってんのよ!」

「愛花うっさい!」

「……すごく、綺麗…。早く、食べたい」

「玲央は食べるときだけ、頭が冴えるんだよなぁ」



煌の一言で、全員が爆笑。


この顔、楽しい顔でみんなで食べれば、たとえ
皿1つでも宴会だ。



第17音 ( No.173 )
日時: 2013/04/06 08:49
名前: 歌 (ID: 3KWbYKzL)




それから夜が更けるまで食べて騒いではしゃぐ、
どんちゃん騒ぎのようだった。


プレゼントを1人1人渡せば、感動したり感謝したり
爆笑したり、と空雅の表情はころころ変わる。


そんな空雅の姿を、悠はとても嬉しそうに
微笑んで見ていた。





「……眠れないのか?」




すっかり、静まり返った、リビング。


母親が迎えに来た青田以外、もちろん俺たちは
悠の家に泊まる。


眠いはずなのに、やけに目が冴えて、喉が
渇いたから水を飲みにリビングに入ると。



窓の前に立っている、後ろ姿の悠が、いた。



声をかけてみると、びっくりすることもせず、
ゆっくり振り返った悠。



「……ちょっと、ね」



静かに微笑んでいるけれど、どこか、妖艶な
笑みを、浮かべていた。



コップに水を注いでそのまま、悠の隣に立つ。


隣に立って初めて、悠が何を見ているのか
気付いた俺は、目を凝らした。



「すごい………大きな月、だな」



手を伸ばせばすぐに届きそうな、オレンジが
かかった大きな、満月。



「窓の向こうにいる月にね、あんなに燃え上って
 いたら熱いでしょ?入っておいでよ、って
 心の中で言っていたんだ。だけど、答えはなかった」



普通に考えたら月が窓を通り越して、ここに
来るなんておかしな話だと、思う。

だけど、悠は、月だけど、月に言ったわけでは、
ないような気が、する。



「だから、その気になったら入ってきていいよ、
 って言っておいた。たぶん、しばらく雨は
 降らないだろうね」



窓の向こうに、満月。


満月と重ねて、満月を通して何かを見ている
悠は、誰を、想っているんだろう。




今、聞いたら、答えてくれるだろうか。



「………悠」


「ん?」


「お前、いつも何、考えてんの?」


「…………」



窓の向こうの満月を見つめたまま、悠は
表情も変わらなかった。



「いつも、何考えているかって?」


「……あぁ」


「明日のことしか考えてないよ」



明日の、こと?



「明日は何やろうかな。明日はどんな音楽を
 作ろうかな。明日はどうやって生きようかな。
 明日は誰と出逢うのかな。明日は………」



そこまで言って、悠は口を閉ざした。



その言葉の先に、何か大切なことがあるような
気がして、俺は静かに、待った。



だけど。




「ま、そんな感じかな!」




月から俺に視線を合わせて、何も考えていない
かのような、おどけた笑顔を、見せた。


それ以上は、何も答えないと、そんな威圧感を
無意識に出しているのか、意識して出しているのか、
分からないけれど。


やっぱり、悠と俺の間には、いつも見えない
壁が作られているんだ。




「……悠、これだけ答えてくれないか?」


「何?」


「お前、何で音楽始めたんだ?」




いつも通り、表情も雰囲気も何も変わらない
だろう、と思っていたのに。


一気に表情を失くし、俺の瞳を見ているのか
見ていないのか曖昧で、人形のように
固まった悠を、初めて“怖い”と思った。





そんなに、触れてはいけない話だったのか?



「ゆ、悠………?」


「ユ、ウ……」


「え?」



掠れた言葉で呟いた言葉は、確かに『ユウ』と
言ったはずだけど、一体どういうことだ?


ただならぬ悠の様子に、焦りと恐怖が
じわじわと押し寄せてくる。



「悠?」



もう一度、名前を呼んでみても反応はなく、
俺の姿さえ見えていないようで。



「悠!?悠!!悠……っ!」



肩を思い切り掴んで、必死に悠の心に
声が届くように、名前を叫んだ。




「………っ」




すると弾かれたように目を見開いて、やっと
俺の目を見てくれた。



「はぁ……よかった…」


「大和?どうしたの?」


「どうしてのって……。突然名前呼んでも
 反応しなくなったから、どうしたのかと
 思ってめっちゃ焦ったんだけど」


「あーごめんごめん。たぶん、立ちながら
 眠りそうになっていたのかも」



そうやってまた、誤魔化した悠だけど。


本当に今のは、悠が壊れてしまいそうで、
どこか遠くに行ってしまいそうで、すごく、
怖かったから。


まだ質問には答えてもらってないけど、これ
以上、悠の負担になるような質問は避けたい。



「……ごめん」



あんな悠は初めて見たから、とても聞いてほしく
ないことを俺は聞いてしまったんだと思って。


そっと、抱きしめた。




折れそうな身体には、いつも強くて気高い英雄が
住む魂を持っているのに。


今の悠には、壊れそうな心も身体も、無理やり
笑顔で支えているようだった。



「大和……何で、謝るの?」


「………それでも、ごめん」



全く分からないといった様子で、俺の耳元で
優しく囁いた悠を、さらに腕に力を込める。


この前のように抵抗することもなければ、
俺の背中を抱きしめ返すこともしない。


ただ大人しく、抱きしめられている、だけ。




「大和、もう遅いから寝よう?」


「……あぁ」



ゆっくり腕をほどいたけれど、それでも俺はまだ、
悠が壊れてしまいそうな恐怖に縛られていて。


白くて綺麗な手を、握った。



ちょっと困ったように笑いながらも、悠も
淡く握り返してくれる。


俺はそのまま、俺の額と悠の額を、くっつけた。



「………大和?」



悠の吐息を肌で感じるこの距離にようやく、
恐怖が和らいだような気がする。


閉じていた目を薄らと開けて、唇がくっつきそうな
ほど近くにある悠の瞳を、見つめた。







「悠………好きだ」











「……うん、私も好きだよ?」


「……そうか」



気付いたら言葉にしていた、好き。


私も、と言った悠はきっと、好きの意味を
しっかり分かっていながらも、気付かない
フリをしているのは。


俺たちの今の関係を、壊さないようにしたい
からかも、しれない。



そっと、額を離してもう一度、悠の瞳を
真っ直ぐに見つめる。



「好きだから」


「……うん」


「どの意味でか、分かってんのか?」


「………うん」


「別に、何も変わりはしねぇよ」


「………」


「大丈夫。ただ俺が、お前を好きなだけ。
 これからも俺たちは何も変わらない」


「………っ」




苦しそうに顔を歪めながらも、絶対に視線を
逸らすことをしない、悠。


今の悠には、俺の気持ちに答えることができない
ことくらい、よく分かっている。


気持ちに答えを出したとき、関係が崩れることを
恐れていることも。




「この世界は砂のように孤独な1人1人の人間で
 できているんだ。悠、今お前の目の前を流れて
 いったメッセージは、俺が誰かと繋がりたいと
 願う、淋しい言葉たちだと思え」


「………うん。大和」


「なんだ?」


「ありがとう」




そう優しく微笑んで、水が落ちるように、悠の
手は離れた。





第18音 ( No.174 )
日時: 2013/04/06 23:16
名前: 歌 (ID: FSosQk4t)




沖縄の夏は、長い。


夏休みが終わり2学期として登校したのは、
9月の第2月曜日からだった。


本来ならば、1週間早かったはずだけど、
今年2度目の大型台風により、大幅に遅れたのだ。



夏の暑さは一向に去る気配を見せず、陽炎が
遊び始めるほどの体育館で行われた始業式では、
熱中症で倒れた生徒も。


そのため、怠い始業式は比較的早く
終わり、その分下校も早まった。



愛花や大高、クラスメイトに別れを告げ、自転車で
家から登校するようになった空雅の後ろに
乗せてもらいながら、駅まで来た。


あまりの暑さに駅まで歩くのを躊躇していた時、
ちょうど空雅が自転車置き場にいるのを見つけた
から、人目は気にせずにすぐに跨った。



「悠!そういえばさー」

「なにー?」

「俺、愛花と付き合うことになった!」

「………はぁ!?」



自転車をこぎながら、さらっと落とした言葉に
思わず掴んでいた空雅のYシャツの裾を
強く引っ張る。



「ちょ、あぶねぇだろ!!」

「だって!今、なんかすごいこと言った!?」



その反動でバランスを崩しそうになりながらも、
すぐに立て直した空雅に、もう一度耳元で
大声を出した。



「だから、愛花と付き合うことになったんだって!」

「マジで言ってんの!?」

「マジでマジで!」

「いつ?どこで?どうして?」

「花火大会の日、帰りに愛花を送って行ったとき、
 俺が告白してOKもらった!」

「うっそ……」



あまりの衝撃に、広くて大きな、そして強い
背中を、まじまじと見つめる。


愛花から何も聞いてないから、もしかしたら
空雅の思い込みかもしれない。



「本当だって!愛花に聞いてみろよ?」

「もちろんするけどさ。でも……よかったね!
 空雅!おめでとうっ」

「おう!あーもう、今もまだ夢見ているみたいだ」

「そりゃぁねぇ!10年越しの片思いが
 やっと叶ったんだもんねぇ」

「俺、諦めなくてマジでよかったわ!」

「ってかもっと早く言えよー」

「いやぁ、しばらくは夢じゃないかと疑ってて、
 今日学校で愛花と目が合った時に、笑ってくれた
 から現実だーってようやく実感した!」



顔を見なくてもとてもにやけているだろう空雅の
声を聞くだけで、私も頬が緩んだ。



帰ったらすぐに愛花に電話して、事実を
問い詰めなきゃな。


大高のことを吹っ切れたってことなんだろうし、
きちんと前に進めるようになったんだ。



……大高も、きちんと前に進んでる。



今日、大高は夏休み前に告白された女の子と
肩を並べて登校していたし、直接聞いた
わけではないけれど、そんな噂が早くも
流れていた。


大高自身は別に何も言ってなかったけど、
明らかに事実ではある。



愛花も大高も、きちんと前に進めている。



「空雅、ありがとう。本当によかったね!」

「あぁ、マジでありがとな。悠のおかげだわ」

「当たり前でしょー!デートとかに誘って、
 早く進展させなよ?」

「わ、分かってるって!!」

「あははっ!じゃぁ明日ね。ばいばい」

「おう」



夏の暑さのせいか、恥ずかしさのせいか、顔を
真っ赤にさせた空雅に背を向けて、駅へと入った。



いつもの駅で降りて、折り畳みの日傘を
取り出して、ふと、足を止める。



いつも、忍ばせている。
胸の奥に。


いつだって悲しみは突然降ってくるから、
たくさんの言い訳と、慰めの言葉。


小さく折りたたんで、しまってある。


弱虫な自分が、できるだけ傷つかないように、
傷つけられないように。



「……ふっ…」



自嘲の笑みを零して、日傘をさし、いつもの
道のりを歩く。


今日はあまりにも暑いから、風のある海岸沿いを
ゆっくり、歩いた。



太陽の、赤。
大地の、黄色。
海の、青。


これをざっと一緒にすると、そこには
暗闇の世界が広がるんだろうな。


だから人は、真ん中にいる。


太陽が溶けて、零れぬように、大地が崩れて、
割れないように、海が荒れて、打ち砕かれないように、
真ん中にいて、色混ぜる。


人は、いろんな色をあやつりながら、
いろんな世界を作っていく。


昨日選んだあの色で、今日の行く道、
描いて行く。





みんな、しっかり試行錯誤しながらも、いろんな
色から自分の色を選んで進んでいるのに。



私は、どんな色を選んで、混ぜて、
作っていきたいんだろう。


真っ青すぎる青の空と、海だけれど、今、
私の空は何色に染まっているんだろう。


空と海の青は、同じ青だけど、違う青。


しっかり水平線がはっきりしていて、
境目が分かるほどに。


でも、この心はあの水平線のように完璧な
美しさにはなれないから。



私は、どこに向かって進めばいいんだろう。


私は、この空を、何色に染めればいいんだろう。



……本当は、たとえ空が灰色で、くすんで
いたとしても、構わなかった。


あの人が、いれば。


たとえ空が泣いて、水たまりを作っても、
あの人が、いれば。


それで、よかった………のに。





健康な心なら黒でもなく白でもなく
どうでもいい「灰色」を選ぶという
赤と白のマーブルの薔薇を見ていると
花は「綺麗」を選んでいるのかな
心は繊細ではかないものを選べる

はかない羽のような心
そんな心を思い出してみる
優しさを拾い集めよう
綺麗な透き通った感情も拾い集めてみよう

はい これが優しさ 思いやり
儚い君への気持ち

綺麗でしょ?優しいでしょ?
温かいでしょ?素敵でしょ?

だからそんなこと 落としていないで
ちゃんと抱きしめて 心にいれておいて
微笑んで また 一歩ずつ歩きだそうよ

毎日を確かな自分で埋めて生きよう




あの人が歌いそうな歌を、歌った。







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