コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 青い春の音【完結】
- 日時: 2013/12/07 21:38
- 名前: 歌 (ID: VXkkD50w)
「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。
「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。
2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。
投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。
改めて言わせてください。
本当に本当に、ありがとうございます!!!
まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m
出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”
性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。
そして、そこから始まるさまざまな音の物語。
それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、
私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。
純粋で自然な音を。
空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。
さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。
淡い恋心さえもそこには含まれていた。
楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を
—登場人物—
名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート
カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。
キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。
ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。
タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。
オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。
ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。
カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。
後にしっかり説明します。
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- 第13音 ( No.135 )
- 日時: 2013/02/01 22:35
- 名前: 歌 (ID: yOB.1d3z)
ついに、来てしまった、この時が。
「よっしゃー!夏休みだぜ夏休み!明日から
楽しい楽しい夏休みだぜ!やっほーい!」
とてつもなく暑い季節に、暑苦しいこいつの
せいで気温が2度は上がったような気がする。
「………最悪だぁ」
「はっ!?何でそんなにテンション低いんだよ!」
「悠は夏休みが大嫌いなんだよ。ちなみに
私はあんたが大嫌い」
「あぁ、大好きなのか!知ってる知ってる!」
「死ね」
うるさいんですけど君たち。
全く話が噛み合っていない空雅と愛花に
レーザービームを視線で送る。
口を開くのは怠いからしないよ絶対。
そう、明日から私の大嫌いな夏休みが
来てしまうのです。
普通の学生ならこれほど楽しい行事は
ないというくらい、ウキウキワクワクなはず
だろうけど。
残念ながら、私はちっともワクワクしない。
学校にいるほうがずっと好きだし、楽だし、
厄介ごとが起こらないのだ。
「でもマジで悠は夏休みが嫌いなのか!?」
「この顔はどう見てもそうだろ」
「そうみたいだな。ってか大高には聞いてないし」
「後ろでうるさくされてるこっちの身にも
なれってんだし」
あー……しばらくこんなうるさいやり取りも
聞けなくなってしまうのか。
大高とはあの時のことはお互いに暗黙の了解で
誰にも何も言っていない。
最初はちょっと気まずかったものの、今では
前と同じように接している。
最近では私と愛花、それに空雅と大高で
いることも多かったり。
まぁ、ちょっと複雑な人間関係ではあるけど
楽しいから別にいっか。
でも例年よりはまだいい夏休みなのは確か。
6人と出会えたからきっと夏休み中も
みんなでうちに集まって騒ぐだろうし。
花火はもうやったけど、バーベキューとか
星空観察とか海に飛び込むのもありかも。
お祭りとか花火大会、エイサーとかも
あるんだよねぇ。
あれ、なんだかんだ楽しみっていうのかねこれは。
「ほらー静かにー。今から終業式だから
体育館に移動するように」
担任の言葉にぞろぞろと生徒は立ち上がり、
廊下に出ていく。
愛花や空雅、大高の後ろを重い体を起こして
ついて行こうとすると。
「神崎」
後ろから担任に呼び止められた。
「今日の終業式では表彰式もあるからな。
この前のインタラクティブフォーラムで
優勝したこと、校長がとても褒めていたぞ」
「あーどうもです」
「で、夏休みだがお前にはほとんど
夏休みがないことは分かっているよな?」
「……もちろんでございます」
「9月に生徒会選挙が始まる。それの準備と
ディベート研修会、来年の新入生への説明会の
打ち合わせもあるからな」
「分かってまーす」
あぁ、めんどくさい。
私は何故か毎年毎年、夏休みや冬休みに
なると学校側からいろんなことを頼まれる。
そのせいで夏休みにも関わらず、
この暑い中、学校に登校しなければならない。
それに加えて、夏休みの課題、バンドからの依頼、
知り合いのところでバイトもしなければ。
人手が足りなくて困っているらしい。
そう、つまり。
普通の学校生活よりも、休むはずの
夏休みのほうが、さらに忙しくなるのだ。
長ったらしい終業式も終え、教室に戻ってきた
私たちは今から通知表を配られる。
来年、受験生となるこの学年だから、これからの
通知表はとても大切になってくるらしい。
私としては、どうでもいいんでけど。
「悠!お前、いつインタラなんちゃらって
いうやつで優勝してたんだよ!すげー」
「いつだったっけ?まぁ別にやれって
言われたからやるからにはしっかり
やったつもり」
「ってか月次くん、夏休み夏休み言って
騒いでたけど、補習尽くしでしょ」
「げっ……」
愛花に指摘されたことが図星だったらしく、
一気に青ざめる空雅。
まぁ、こいつのことだから絶対に
そうだろうとは思っていたから、
頑張れとしか言えない。
「悠ちゃ〜ん?助けて〜?」
「キモいウザい近寄るな」
「ひ、ひどっ!お願いだから頼むよー!
補習終わらなきゃ遊べねぇんだぜ?」
「遊ばなきゃいいでしょー」
「そんなぁ……。トランペット……」
半泣き状態で縋り付いてきたのを、
適当に冷たくあしらうと。
私にしか聞こえない声でぼそっ、と
聞き捨てならない単語を吐き出した。
つまり。
補習をしなければトランペットを吹く
暇もないし、7人で演奏もできない、と。
それは私にNOを言わせない最終兵器を
奴はぶち込んできやがった。
しょぼん、と負のオーラを身にまとっている
空雅に呆れた眼差しを送る。
「はぁ……分かったよ。補習でやるプリント、
教えてやるから」
「マジで!?よっしゃぁ!」
とは言っても私だけじゃなくてあの5人にも
手伝ってもらわないと、中々の量だから
終わらないだろう。
それプラス、夏休みの課題もあるのだから。
さっきまでのしょぼくれた奴はどこへやら、
一転してはしゃぎまくる空雅。
でも別に、嫌だと思わないのは。
こいつが仲間であり大切な存在であると、
私の心が認めたから。
なんだかんだ、空雅の笑顔や言葉にはいつも
元気をもらってるし、楽しいから。
「では通知表を配るぞー。番号順に前へ来い」
担任が入ってきて、ピリッとした空気が
一瞬流れた。
次々と通知表をもらっていく生徒たちは、
こそこそと見せ合ったり、真剣に読んだりしている。
愛花ももらったらしく、その表情から
あまりよろしくないのだとすぐに察知した。
名前を呼ばれたので大高と入れ違えで担任の
ところにまで行くと。
「今回もオールA、オール5だ。この調子で
これからも頑張れよ。夏休み中にある
三者面談で大学のことも決めるから
考えておくように」
「はいはーい」
大学に行く気などさらさらないことを
知っているくせに、いちいち言ってくる
担任に乾いた笑みを向けて。
そそくさと自分の席へと戻った。
三者面談は普通、担任と親と生徒で
やるものだが、私には保護者代わりの
人間がいない。
そのため、毎年担任と学年主任との面談になる。
それがなんともまぁ、めんどくさいし
いつも同じようなことばかりで嫌になる。
ま、適当にスルーしてるから話は
一向に進まないんだけどね。
- 第13音 ( No.136 )
- 日時: 2013/02/02 20:17
- 名前: 歌 (ID: rKVc2nvw)
空雅が通知表をもらった後と言ったら
それはもう、ひどい有様だ。
全く自慢にならないCのオンパレードを
見せびらかすや否や、私の通知表を
取り上げて大声で叫んだせいで。
またもやめんどくさいことが勃発。
クラスメイトは自分の通知表よりも
私ので鑑賞会みたいになっちゃってるし。
それをさも自分のことのように
自慢する空雅にさらに野次馬が集まる。
大高はしれっとしてるし、愛花なんて
物凄い引いた目で私と空雅を見ている。
誰も助けてなんか、くれやしない。
担任の一括で何とかことは治まり、HRが
終われば、私たちの身は自由に。
「悠!これからカラオケでも行こうぜ!
そういえばまだ1回も行ったことねぇよな?」
「あんた、何言っちゃてんのさ。君には
これから補習と課題の山が待っていることを
忘れてはいませんか?」
午前中だけで終わったことを良いことに、
遊ぶ気満々だった空雅。
それに口角を思いっきりあげて、にこやかに
微笑んで見せた。
「そ、それはぁ……。今日だけはいいじゃん!
1学期お疲れ様ってことでさっ」
「あんたはいつ疲れるようなことをしたんだ」
「毎日ここに来るまでに10分、往復で20分は
歩いたぞ!かける3か月分だぞ?ちょー偉くね?」
「……私はその倍ですが」
「じゃあお互い頑張ったってことでカラオケ
行きましょー!愛花はっ?行かない?」
「暇人な貴様と違って私は部活があるんだよ」
あっけなく振られた奴の表情が、あまりにも
ショックに満ち溢れていたため、心の中で同情。
すんなりと野球部を退部した奴は、
前よりもさらに私の家への出入りが多くなった。
ま、必ず誰かしらもいるんだけど。
「俺って……カラオケに行ってくれる
友達もいないんだな。ははは」
「あーはいはい。もう分かったからその
演技臭いのやめてくんない?」
「カラオケ……」
「うっさいなぁ!行けばいいんでしょ行けば!」
「マジで!?」
「はいはい」
「よっしゃぁ!!」
こんなことで喜ぶなんて、今時の高校生は
みーんなカラオケが大好きなのね。
まぁ別に行くくらいならいいし、ただで
この私が簡単に首を縦に振ることはしない。
今日のうちに5人に空雅の補習について
一斉送信をしといたので。
明日から、時間があるやつらは私の家に
集合して空雅をしばいてやるのだ。
そんなことを知らない空雅はすでに
廊下へと飛び出している。
ってか2人で行くわけ?
別にどうでもいいんだけどさ、2人だけは
ちょっともの寂しくないのかね?
「悠!早く行こうぜ」
「ちょっと待てぃ。2人で行くの?」
「2人しかいないんだもん。別によくね?
大高誘おうとしたら隣のクラスの女の子に
呼び出されてたし」
「え、なにそれ初耳なんですけど」
それはきっと告白であることには間違いない。
私にはどうでもいい話だけど、このことを
愛花は知っているんだろうか?
そういえばさっきの愛花は空雅に対して
とても不機嫌だったような気がする。
いつもそうっちゃそうだけど、今日のは
特にひどかったから、たぶん、大高が
女子に呼び出されているところを見てたんだな。
大高は顔もルックスも普通の女子からしたら
かなりかっこよく見えるらしいし、
性格もいいからモテるらしい。
まぁ、すべて断っているとは聞いているけど。
そういえば愛花は告白しようかな、とか
言っときながら未だにできていない。
私が急かしてもいいことはないだろうから、
結果報告を待つしかできないし。
大高とは普通の友達に戻っているから、たぶん
もう私への気持ちは消えつつあるはず。
だからあともう少ししたら、きっと
愛花にもチャンスは出てくると思う。
どうか、愛花の想いが、大高に届きますように。
あれ、でもちょっと待てよ……。
もし愛花の気持ちが大高に届いちゃって
2人が付き合うとかってなったりしたら、
空雅の愛花に対する想いはどうなる?
うん、あっけなく散る、よね。
うわぁ……愛花の恋も応援したいけど、
空雅の真っ直ぐな想いも捨てきれないわけで。
複雑すぎて何がなんだか分からなく
なってきたぞ?
「…っ!悠!おい、悠!!」
「へ?」
「何1人難しい顔してんだよ!心配するだろ?」
私はあなたのことを心配して、難しい
顔をしていたんですよ、なんてことは言わない。
「ほら、行くぞ!」
まぁ、なんとかなるでしょ。
さっきまでのことは頭から消して、無邪気な
笑顔を見せる空雅の後を追った。
- 第13音 ( No.137 )
- 日時: 2013/02/03 21:09
- 名前: 歌 (ID: DT92EPoE)
それから空雅と2人で駅の近くにある、
比較的安いカラオケ店で2時間ばっかし熱唱。
空雅の歌声はいつも聞いてるし、
いつもと何も変わらない感じだったけど。
それでも、空雅は楽しそうだった、から。
私はその笑顔を見れただけで、満腹
かな、なんてらしくもないことを考えてしまった。
でもやっぱり私は、自分の歌を歌うことが
一番好きだから、駅で空雅と別れた後。
家の前の海に立ち寄って。
夏の大三角形が綺麗に輝く星空に
ぴったりな歌を、口ずさんだ。
星が1つ落ちた夜
打ち震える心の奥の音 1つ落ちた
こんな自分では救えないって
泣いた夜の味 噛みしめて
毛布にしがみつき 泣き明かした
独りきりの夜
本の中の世界の終わりを
見届けると言って
消えてった あの子の気持ち
今なら分かるのかな
使命感だけでは
もう 自分すら救えないよ
今日もまた星が1つ落ちた
叶えたい願いは皆が持てるものがいい
叶わない願いばかり
追いかけてると疲れてしまうからね
とっておきの願いは新しく
生まれたばかりの音がいい
真っ白く皆の願いであふれ返って
いないからね
染めあがってない白は
たくさんの可能性があるよ
君が泣かなくなったあの日
ほんのちょっぴり強くなった君が
そこにいたんだ
星はもう落ちなくなったよ
「歌を歌うのは星を1つ落としてるんだ。
砕けて誰かが魔法にかかればいいと思って……」
星が瞬くから瞳が瞬いて、
心が揺らいで、瞳が瞬く。
夜空の星が私の夢をそっと応援してくれる。
「星は私の心。中に赤い星が入ってる。
それは、愛なのかもしれない」
『君には夢があるでしょう?』と
言ってくれるんだ。
私の独り言は1人だけで聞いているわけじゃ、
なくて、きちんともう1人、聞いている。
歌い始めてすぐに、私の隣に
立って、私の歌を静かに聞いていた、人。
「……大和、おはよ」
「……おう」
微かに煙草の匂いを漂わせる大和を
見上げて、小さく微笑んだ。
相変わらずぶっきらぼうだけど、
私の頭にぽん、と手を乗せてくれる。
その手から伝わる体温が、とても、
心地いい。
静かすぎる海は、ひたすら繰り返し
同じ場所を歩いている。
飽きないのかな、なんて、海を見るたび
考えるんだけど。
私も、同じだから、なんとなく海の気持ちも
分かるような気が、した。
「空雅と……カラオケ行った、のか?」
「あ、うん。何で知ってるの?」
「あいつからさっき電話来てさ。ちょー
自慢されたからすぐに切ったけど」
「ははっ!自慢するようなことでも
ないのにねー」
「俺も別に羨ましくなんかない、けどな」
そう言った大和は、珍しく。
近すぎる距離にしては触れなかった、私の
手と大和自身の手、を。
ゆっくり、重ね合せてきた。
「お前の手、何でこんなに冷たいんだよ」
「心が温かいから?」
「うわー黙れー」
「……大和の手は、温かいね。やっぱり
心が冷たいからかなぁ」
冗談交じりで言ったつもり、なのに。
「じゃあ、お前の手は俺が温めるから、
俺の心はお前が温めろよ」
気付いたときには。
大和と初めて出会ったときと、同じ場所で、
同じ匂いと同じ体温、に。
あの時とは違う、温かさを、感じた。
「……どうしたの?」
「……別に。仲間と仲間の抱擁」
「……なるほど」
本来ならば、恋人でもない私たちがする
ような、抱擁ではないことくらい、
分かってはいたけれど。
振り払う理由も、拒む理由も、私には
なかったから、大和の背中に。
そっと腕を回した。
私の心臓は左側で、右側では大和の
心臓が、脈を打つ。
両胸で、2つの心臓を感じながら、
1つになっている感覚に陥った。
「……明日から夏休み、だな」
「私たちはね。大和は仕事じゃないの?」
「俺も一応、夏休みはもらえる。
1週間くらいだけど」
「そうなんだー。そういえば今日の仕事は?」
お互いの匂いと体温だけで、瞳は
交わらない会話なのに、すごく安心する。
「あれ、言ってなかったっけ?
ガソリンスタンドのバイトに変えたこと」
「うそ!?」
初めて聞いた話に思わず、身体を離して
大和の顔を凝視してしまう。
そういえば最近、夜も普通に私の家に来て
普通にいたっけ。
「そんなに驚くか?」
「いつから?何で?何時から何時まで?」
「1か月も前から。昼間暇で夜忙しく
なるだろうなと思ったから。9時から18時まで」
私のまくし立てるような質問に、
簡潔に答えてくれた大和。
夜忙しくなる、って……もしかして。
「私の、せい?」
「………いや」
「私のせいなんだ!!なら早く言ってよー」
7人で集まって演奏したりすることが
日常化してきたこの頃、みんな
昼間は学校だから大和もそれに合わすため、に。
わざわざバイトを変えて、生活習慣まで
逆転させてしまったんだ。
「別に俺が好きでそうしたんだよ。前の仕事も
あまりいい仕事ではなかったし、今のほうが
規則正しい生活って感じだしな」
「……本当にごめんなさい」
「ちょ、気持ち悪いからやめろ!それに、
今のバイトはかなり融通きくし、週に2日も
休みもらえるんだよ」
「それはそれは素晴らしい。私に感謝したまえ」
「態度変わりすぎだてめぇ」
そう言って、いつものように、くだらない
やり取りを交し合った。
- 第13音 ( No.138 )
- 日時: 2013/02/05 21:56
- 名前: 歌 (ID: 6kBwDVDs)
そして、夏休み初日。
沖縄の夏はかなり暑い、なんて思ってる人、
実は大間違いだったりするんです。
沖縄は最高気温は絶対に32度前後で関東
よりも気温はなく、海に囲われているから
風が涼しいくらい。
まぁ、確かに日差しは強いんだけども。
去年の夏は設定温度23度で余裕だったはず、
なのに、今年は19度にまで下げたのは。
部屋の人口密度が、高くなったせい。
「なぁ。somedayってどういう意味?」
「今日じゃね?」
「じゃあ色鉛筆は?」
「確か……クーピー?」
「え?スヌーピー?」
………はい、昨日カラオケに付き合ったので、
今日から空雅くんの補習のプリントを
手伝おうと集まったんだけど、も。
大和と空雅の会話は全くかみ合って
いないし言ってることもめちゃくちゃ。
だけど面白すぎるから、私は笑顔で観察。
吹奏楽部のコンクールが近いから、一番
期待していた煌と築茂の頭はここにはなく。
料理が得意だと最近カミングアウトした
日向は、キッチンに立って何やら作業。
そして玲央はお決まりの、昼寝。
「大和、1mって60㎝だよな?」
「はぁ?当たり前じゃん」
「俺、文系だからわかんねんだよ」
「いやいや、このレベルのことに
理系文系関係ないから」
うん、思いっきりはずれていることに
早く気付いたほうがいいよ君たち。
やっぱりというか、大和もきちんと
学校には行ってないため、基礎知識も
ないらしい。
でもいい加減、このままだとプリントを
やっても全問外れの可能性が
出てきたので、出陣するとしよう。
「はぁ!?何なんだこれは!こんな文字
見たことねぇよ!」
「はい、次行くよー」
「ゆ、悠!『紫陽花』って『あじさい』
って読むのか?これ絶対間違ってるって!
ラブホテルで同じ文字見たけど
『しようか』って書いてあったもん!」
「それはラブホテルだからだねー。はい次ー」
「……ちょ、ちょっと休憩し…」
「ませんねー。はい次ー」
話に、ならん。
慣れない勉強に飽きたらしい大和は、
家から持ってきたサックスを隣の
部屋で吹き始めて。
何度も逃げ出そうとする空雅を捕まえ、
何とか半分は終わらせた。
「じ、地獄だ……」
「あんたがきちんとやってこなかったのが
悪いんでしょー。来週までに全部
提出すれば学校に行かなくてすむんだから」
「俺マジで偉いわー」
「はいはい」
机にがっくしと項垂れる空雅を横目に、
私はやり終えたプリントの整理をしていると。
「2人とも、お疲れ様。ちょっとくらい
休憩しないとダメだよ」
アイスティーとコーラ、それに
何やらデコレーションされたアイスを
日向が運んできた。
「サンキュー日向!お、これ何!?
めっちゃうまそー!」
「今やっと固まったんだ。紅イモアイス。
久しぶりに作ったんだけど食べれる?」
「えっ?これ日向が作ったのか?」
「うん、まぁ。あとゼリーとパイも
あるからお腹空いたら食べて」
「日向すっげー!いっただきまーす」
「どうぞー。夕飯は冷やし中華でいい?」
「マジ!?食べる食べる!」
………なんだか日向、本当にこの家の
母親になっちゃったって感じ。
料理もするわ、汚くなったら片づけも
一番にするわ、いつでもお嫁にいけるね。
「やっぱり悠は……食べない?」
「た、食べる食べる!ありがとう、日向」
あまり食べている姿を見ていないからか、
少し不安そうにする日向に。
慌てて首を振って、アイスクリームが
入っているお皿を手を伸ばした。
一口食べてみると、なめらかな舌触りと
ほどよい甘さの紅イモが広がる。
「おいしい!」
そう言うと、ひどく安心したように、
日向はにっこり微笑んだ。
「大和と玲央にもあげないとね」
日向が部屋を出てすぐに、私はお皿を
机の上に戻した。
空雅はすでに食べ終えていて、私の
アイスクリームをじっと見つめている。
「食べたければ食べていいよ?」
「え、マジで?」
「うん」
「じゃあ遠慮なく!」
そしてペロリと2つ目も完食した空雅は
満足そうに、コーラも飲み干した。
おやつを平らげたところで、また
プリントとの取っ組み合いを再開。
もともとやればできるやつだから、教えた
ことはすんなりと吸収してくれたおかげで。
数十枚あったプリントを、たった1日も
かからずに、終えた。
「よっっっしゃあああ!!!終わったぁー」
「はい、よく頑張りました」
「悠!マジでサンキューな!これで補習の
ために学校に行かずにすむ!」
「本当によかったですよ。でも課題があるから
油断はしちゃダメだよ」
「課題は悠と一緒にやればいいじゃんっ」
「………はいはい」
ったく、人使いが荒いんだよお前は。
なーんて思いながらも、これで空雅の
夏休みは安全地帯になりそうだ。
部活に入っていたら、毎日練習尽くしで
大変だったろうから、退部して正解だったかも。
時計に目をやると、すでに5時を
回ろうとしていた。
1つ背伸びをして、リビングに行くと。
「よ!おつかれー」
「ご苦労なことだな」
「煌!築茂!来てたの?」
日向が作ったであろう、ゼリーとパイを
5人で囲んでいた。
2時くらいに吹奏楽部の練習を終えたらしく、
その後すぐに来たらしい。
「声をかけようかと思ったんだけど
すごく熱心にやってるから邪魔しちゃ
悪いと思って」
そう言った煌は、おいしそうに、
パイを1つ、口の中に放り込んだ。
……絶対、これを食べるために、私と
空雅を省いたんだな。
いや、別に私は構わないんだけど。
「あっ!ずっりー、俺も食べる!」
やっぱり、人一倍食い地が張ってる
空雅は、すかさずパイに手を伸ばす。
「空雅!手洗ってからにしろよ」
「別にいいじゃん」
「よくねーよバカ!」
「はぁ!?さっきの答えほとんど間違いを
教えてたのは誰だっけ?」
「あぁ?教えてやったのに文句かよ」
「はいはい、ストップ!空雅、大和の
言うとおり手を洗ってから食べなさい」
日向……さすが、だ。
- 第13音 ( No.139 )
- 日時: 2013/02/08 08:07
- 名前: 歌 (ID: b92MFW9H)
そしていつも寝ているのに、食べ物が
ある時だけ必ず起きている玲央、も。
しっかり、目を覚まして口を動かしていた。
「みんな、夏休みはどんな感じなの?」
「俺は補習なしほぼ決定したから、遊び放題!」
「俺はバイトがあるけど、8月に1週間
休みがとれる」
「一応受験生だから塾があるかな。あと課題を
やればいいだけ」
「……俺、何もない」
「そっかぁ。俺と築茂はほとんど同じ
スケジュールなんだけどさ。よかったら
みんなで合わせてどっか行く?」
ちょっと煌さん、私はまだ何も
答えてないんですけど。
「行こうぜ行こうぜ!海は目の前にあるから
バーベキューやろうぜ!」
「お、いいねぇ。ってか俺ら、いつも
食べてばかりじゃん?」
「まぁいいんじゃね?ビーチバレーとかも
しようぜ。俺、ボール持ってるし」
早速空雅はやる気満々で、煌も首を縦に振る。
スポーツも得意とする大和や空雅は、
体を動かすこともしたいらしい。
………私の存在、忘れてません?
「まぁまぁ。悠のスケジュール聞いてないでしょ」
さっすが日向、やっぱり一味
違うよね、あなた様は。
そして「あ」と声をハモらした3人は
一斉に私に視線を向ける。
それはもう、期待の眼差しとも言わんばかりに。
「とても、忙しいです」なんて言える
雰囲気ではないんだけど、本当に
忙しいから何て言おうか。
笑顔で誤魔化しながら、考えている、と。
私の携帯の着信音が、部屋中に響いた。
ディスプレイには、担任の名前が。
教師と生徒が連絡先を交換していることは、
もしかしたらダメなのかも、しれないけど。
いや、普通はダメですよね、知ってます。
……だけど、私はどうしてかいつも、
特別扱いをされていて。
担任との二者面談の時に、携帯を取り出すよう
言われて、簡単に交換をした。
6つの視線を浴びながらも、出ていいものか
どうか迷っている、と。
「出ないの?」
何かを探るような、目で。
「……ちょっと、失礼しまーす」
大和に聞かれた、から、すぐに笑顔を見せて
寝室へと向かった。
そういえば、6人といるときに電話に
出るのは初めて、だっけ。
いつもマナーモードだったからほとんど
着信にもメールにも気付かない。
たまたま今日は、マナーモードにするのを
忘れていたところに、着信が入ってしまった。
そんなことを考えながら、通話ボタンを
押して携帯を耳に当てた。
「もしもし」
『あぁ神崎。すまないな突然。今、大丈夫か?』
「はい、大丈夫ですけど」
『明日、ディベート研修会の打ち合わせが
入っていること、伝えてなかったよな?』
「そうなんですか?聞いてませんよ」
『すまなかったな。午後1時に図書室なんだが』
「あぁ、分かりました。大丈夫です」
『そうか、よかった。じゃぁ明日、持ち物は
筆記用具とノートだけでいいから』
「はーい。失礼します」
ほんの、数秒の電話。
ディベート研修会っていうのは、他校との
交流会みたいなもので。
ある一定のお題にそって、賛成と反対に
別れて討論をするってやつ。
毎年、2年と3年から2名ずつ選出されて
市の7校が集まるらしい。
だから今年が初めてなんだけど、別に
大したことではないから、適当にやろっと。
ほんの、数秒の電話の間。
6人が何を話していたのか、なんて、
私が知るはずも。
ない。
携帯を片手にリビングに戻ってみれば、
一斉にこちらを振り返った、6人。
なんとなく、居心地が悪いんですけど。
「ちょっと、何でそんなに探るように
見てるんでしょうか。怖いんですけど」
「……お前に怖いものなんてあんのかよ」
そう言って、うまく話をずらそうと
したのは、一番怖い顔をしている大和。
私と似たような手を、使ってくる。
ここで話を逸らすな、と言ったところで、
自分の首を絞めることになるのは
目に見えているから。
うまくずらした話に、真剣に乗っかれば
いいだけの、こと。
「あぁ、あるよ」
そう、言うと。
意外とでも言いたいんだろう、全員
きょとんと、とした顔をする。
「ちょっとみなさん、物凄い太い字で
はっきりと『こいつの怖いものなんて
存在するのか』って書いてありますよー」
「あ、やっぱりばれた?」
顔の筋肉をピクピクさせると、煌が
可愛らしくしようとして、それが本当に
様になっている反応を、返してきた。
……くそぅ、キモ!って返せないんですけど。
「で、お前の怖いものってなんなんだ?」
来た時から、手にしていた分厚い本に
しおりを挟みながら、築茂は目を光らせる。
さも、面白そうに。
こんなに聞きたがっていることをすんなりと
教えるような私でないことを、忘れてないかね?
知りたい、と言われれば、焦らしたく
なるのがこの神崎悠ですよ。
「簡単に教えるわけないでしょー!
知りたければ当ててみな!答えがビンゴなら
絶対に『正解!』って言ってあげるから」
そう言うと、それぞれ考え始めた、彼ら。
「分かった!雷とかじゃね!?」
「敢えてのゴキブリとかはどう?」
「空雅も日向も分かってないなー。絶対
悠の怖いものは幽霊だよ」
「煌、それはねーと思うぞ?」
「じゃあ大和は何だと思うわけ?」
「悠のことだから、音のない世界とか」
「うわ、それっぽい!」
しかし、首を横に振る。
「……犬」
「バカバカしい。こいつがそんなもの
怖いわけないだろう」
玲央の言葉にため息を吐いた築茂の
考える、私が怖いもの、とは。
「病院、とかじゃないのか?」
「残念、全員不正解」
不正解、なのに。
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