コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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青い春の音【完結】
日時: 2013/12/07 21:38
名前: 歌 (ID: VXkkD50w)



「青い春の音」の番外編、短編集
「青い春の心」もよろしくお願いします。

「青い春の音」の続編
「青い春の恋」始めました。


2013.6.14に始めて2012年冬・小説大会で
「青い春の音」がコメディライト小説部門で
金賞を取ったことを知りました。

投票してくださった方がいてくれたのに、
お礼も言わず本当にバカだと自分に呆れます。

改めて言わせてください。


本当に本当に、ありがとうございます!!!


まだまだ続くので、これからも
よろしくお願いしますm(__)m






出会うべくして出会えたこと。
かけがえのない“仲間”




性格も価値観も生き方も
全然違う私たちが出会えた。


そして、そこから始まるさまざまな音の物語。

それはキレイだけではないけど、
不協和音も聴こえるかもしれないけど、

私たちは間違いなく、自分たちそれぞれの
音を奏でていた。


純粋で自然な音を。


空と海と風と鳥に向かって、
ただ紡ぐだけで心が満たされる音楽。


さまざまな想いを抱えながらも、“仲間”
という絆から徐々に芽生える気持ちとけじめ。

淡い恋心さえもそこには含まれていた。



楽しい時だけが
仲間じゃないだろ?
オレ達は
共に悔しがり
共に励まし合い
生きてゆく
笑顔の日々を






—登場人物—



名前(年齢)性別-担当する楽器
(他にできる楽器)-アカペラで担当するパート


カンザキユウ
神崎悠(16)♀-ピアノ(バイオリン、
アルトサックス)-リードボーカル
サバサバで自由人。
好きなことを好きなだけやる。


キドウヤマト
鬼藤大和(17)♂-アルトサックス
(トランペット2nd)-コーラス
極度の負けず嫌い。
俺様なところが多少ある。照れ屋。


ツキナミクウガ
月次空雅(16)♂-トランペット1st
(ドラム)-ボイスパーカッション
空気が読めないポジティブバカ。
練習をあまり好まない。


タチバナツクモ
橘築茂(18)♂-バイオリン
(コントラバス)-コーラス
知的でクール。常に計算、
計画通りに進めたい。


オギハラヒュウガ
荻原日向(17)♂-テナーサックス
(アルトサックス)-コーラス
常に穏やかで優しい。
しかし、自分の意思はしっかり持ってる。


ヒムロレオ
氷室玲央(19)♂-コントラバス
(バイオリン)-ベース
常に眠たそうにしている。
一見無愛想だが、天然で真面目。


カスガイコウ
春日井煌(20)♂-バイオリン
(ピアノ)-リードボーカル
しっかり者で頼れる。
練習はスパルタで熱い。


後にしっかり説明します。



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第18音 ( No.175 )
日時: 2013/04/07 23:21
名前: 歌 (ID: LLmHEHg2)



夏休み中に打ち合わせをした、新生徒会選挙は
着々と進み、生徒会長として立候補した……
させられた私は、圧倒的な票の獲得で、すぐに
就任してしまった。


ディベート研修会でも交流があった前生徒会長と、
引き継ぎの式も終えて。


9月中旬、私は正式に、この学校の生徒会長となった。



副会長にはA組の男子と同じクラスの女子、
会計、書記を含む執行委員とされる計4人は、
1年生2人を含む、7人の新生徒会として誕生。


そしてこれからすぐに、大きな行事に向けて
私たちは企画しなければいけなかった。




「音楽祭?あぁ、今年はそうだっけ」

「そう。去年は体育祭で来年が文化祭なんだって」

「それで生徒会が音楽祭を仕切るってことか。
 悠も大変だねぇ」


とある、昼休み。

職員室で生徒会の教師から一枚のプリントを
渡され、放課後に生徒会メンバーに報告
しておくようにと、言われた後。


そのプリントに思いっきりガン飛ばししていたのか、
前が見えていなかった私は、人にぶつかった。


大丈夫?と、聞き覚えのあるすぎる声を
受けて顔を上げれば、日向の穏やかな笑みが
私を見下ろしていて。


私の表情を見てすぐに、眉を下げた。


そして今、冷房のガンガンきいた、無人の
進路資料室で話をしているのだ。



「いや、別に毎年、生徒会がやっているんだから
 誰でもできるんだろうけどさ。今回はちょっと
 厄介なんだよなぁ」

「厄介ってどうして?」

「過去の例を見ると音楽祭はいつもクラスごとに
 合唱を発表して順位をつけるってだけなんだけど。
 今年は毎年審査してくれる教師が出張で海外に
 留学しちゃうんだって」

「あぁ、他校から来るあの、おじさん先生?」

「私はまだ会ったことないから分からないけど。
 その人じゃないと審査は正確にできないから、
 いないってことは、合唱はできないってことに
 なるらしいんだよね」

「へぇー……。それで、どうするの?」

「だから悩んでるの!合唱の代わりに音楽祭に
 ふさわしい出し物を生徒会が考えろ、ってさ」

「無茶ぶりだね、それ」

「でしょ?1か月ちょいしかないんだから、
 早く決めないと準備も何もできないしさぁ」



早くも無理難題を押し付けられた私は、
内心、生徒会なんてやらなければよかったと、
心から思った。



「でもさ、ってことは企画から実行まで全部
 生徒会が好きなようにしていいんでしょ?」

「まぁ、そうだけど」

「悠の大好きな音楽だよ?悠が音楽祭でやりたいと
 思うことをやったら?生徒会の特権を思いっきり
 使ってさ」

「私が、やりたいこと……」

「そうそう」



やりたいこと………うん、あれしか
思いつかないな。



「……うふふ」

「え、何々?何か思いついたの?」

「んー?まだ内緒!日向、ありがとう!
 めっちゃいいこと思いついた!」

「それはよかった。少しは役に立てたみたいで」

「うん!じゃぁちょっと計画立ててくる!
 それと……覚悟、しといてね!ばいばーい!」

「え!?覚悟って何のこと!?」



問い詰められる前に、さっさと進路資料室を出て、
足早に教室へと向かった。


そうだよね、私はもう生徒会長で生徒を喜ばせる
ために自分がやりたいことはできる立場なんだから、
思う存分に利用しないと!



「神崎先輩!何かいいことでもあったんですか?」

「わぁ、逢坂くん!ビックリしたぁ」

「すいません。先輩、すっごく楽しそうに
 笑っていたから、つい……」

「あはは、ちょっとね音楽祭のことで思いついた
 ことがあるの!今日、もう一回放送するけど、
 生徒会役員は放課後に生徒会室に集まってね」

「分かりました!儀間にも伝えておきます!」

「うん、ありがとう。じゃぁまた後でね」



1年生の生徒会役員の1人である、逢坂稔
(アイサカミノル)くん。


くりっとした大きな目に、160あるかないかの
低い身長でとても可愛い男の子。

それでも成績優秀で責任感もあるから、
とても生徒会には向いている。



5限目の予鈴がなり、急いで教室へと戻った。




そして、放課後。



「今日集まってもらったのは来月10月23日に
 行われる音楽祭についてです。本来ならば、
 クラスごとに合唱を披露して優勝を目指すもの
 なんだけど、今回は審査員の重要な先生が
 いらっしゃれないようなので、違うことを
 することになりました」



B棟2階の片隅にある、小さな生徒会室には、
まだ夏の熱気が立ち込めているため、クーラーを
着けざるを得なかった。


過去の先輩方が残して行った、行事で使われたで
あろう資材があちらこちらに置かれている。



「今回の企画は、生徒会が好きなように企画し、
 準備から実行までという形になります。
 いきなり何をやるか考えろ、と言うのも
 酷ですが、1つ、私がやりたいことを出しておきます」



私が立っている後ろには、ホワイトボードがあり、
ペンをとって文字を大きく書き出す。



『コンサート』



「コンサート?……ってどういうこと?」


副会長であり2年の同じクラスの男子、
樫村慧(カシムラサトシ)が首を傾げる。


剣道部の部長でもあり、さっぱりと整えられた
髪型は好印象を持たれるだろう。

ちょっと硬い雰囲気を出すけれど、話すと
とてもおもしろい奴でもある。



「これからみんなの意見も聞いて決めていきたいと
 思っているんだけどね。私が今考えているのは、
 バンド、ゴスペル、ハンドベル、三線の4つの中から、
 好きなものを選んでもらって、発表するって感じかな」


ホワイトボードに4つの部門を書いていく。


「それは生徒全員に、クラスの中で決めてもらう
 ってことですか?」


1年生の女の子、儀間亜由美(ギマアユミ)ちゃんが
おずおずと手を上げた。

控えめで大人しい子だけれど、白黒はっきり
つけられるしっかり者だ。


「うん。1クラス30人が4クラスの3つ分で約360人。
 人数をそれぞれ大まかに決めると、ゴスペル、
 ハンドベル、三線はそれぞれ10人ずつかな」

「バンドはどうなるんですか?」

「バンドは技術が必要だし、ある程度楽器が
 できる人が必要になってくるから、4人1組で
 やりたい人は生徒会に直接に来てもらおうかな。
 クラス、学年は別にバラバラでもOK」


逢坂くんは納得したように、頷く。





第18音 ( No.176 )
日時: 2013/04/08 21:48
名前: 歌 (ID: zh8UTKy1)


「と、いうことはそれぞれの部門にまとめる
 教師と生徒会が割り振らないとダメですね」

「うん、そういうことになるね。何か
 意見や質問はある?」


2年の執行委員の1人がホワイトボードを
見つめながら呟いた。


「でもただ発表するだけなのか?やっぱり順位とか
 競わないとみんなやる気起きないと思うけど」

「確かにそうですよね。でも今回は生徒はもちろん、
 審査する人がいないんですよ?」


樫村の意見に執行委員の1人が首を傾げる。


「あ、こういうのはどうでしょう!音楽をやっている
 特別ゲストを招待して、その人たちに審査を
 してもらいながら、最後にスペシャルライブ
 みたいなのをサプライズでしてもらうんです!」


突然、逢坂くんが目をキラキラさせて
声を張った。


「確かにそれはおもしろいかも……。でも一体、
 誰を呼ぶんですか?」

「うーん、僕、動画サイトでアップされている
 あるバンドのようなサークルのような
 人たちがすっごい好きなんですよねぇ……」

「それってどういうの?」

「7人なんですけど、バイオリン、サックス、
 コントラバス、トランペットの楽器を使って
 いろんな曲をアレンジしてるんです!
 めっちゃかっこいいんですよ!」

「あ、それ私も知ってます!」



そ、それって………。



「他にもアカペラも最近アップされてたり、
 有名な曲をロックやジャズなどいろんな
 ジャンルにアレンジしててめっちゃヤバくて……。
 1度でいいから生で聞いてみたいなぁ」

「本当にすごいですよね!今、クラスでも結構
 話題になってますよー」


逢坂くんと亜由美ちゃんは、興奮したように
表情がパッと明るくなった。


うん、間違いなく、私たちのことだな。


「もしかしたら俺も聞いたこともあるかも。
 ピアノもたまに出てくるよな?めっちゃ
 うまいし、もしかしたら神崎と同じくらい
 うまいと思うんだけど」

「神崎先輩も知ってたりしますか!?」

「ちらっと聞いたことはあるかな」

「本当にすごいのでぜひ見て下さいよ!
 一体どこの人なんでしょうね……」



………まてよ?


あれれ、私ってばまーたすごいこと
思いついちゃったかもしれない。



こんなに知ってくれている人がいるなら
大成功間違いないと思うし。

何より、めちゃめちゃ楽しそうだし!!



「でもそんなすごい人たちに出てもらうなんて
 かなりお金かかるんじゃない?そしたら
 先生にも却下されちゃうと思うんだけど」

「確かに……。神崎会長、どうしますか?」



生徒会役員の不安そうな視線を浴びながら、
私は余裕の笑みを、見せた。



「大丈夫、私が何とかする!このことは全部
 私に任せてもらえないかな?」

「え、神崎先輩、知り合いなんですか?」

「いや、ちょっと心当たりがあるんだよね。
 必ず成功させるから、こっちのことは
 心配しないで!」


そう、有無を言わさない笑顔で微笑むと、
全員安心したように、頷く。



「じゃぁ、私は今の時点で決まってることを
 先生に報告して許可をもらってくるから、
 部門の担当を決めておいてもらえる?」

「分かりました」

「よろしくね」



生徒会室を出て、職員室にいる生徒会の教師に
報告をすれば、あっさりと了承を得た。

優勝したチームへの景品の費用は、しっかり
出してもらえるらしい。


審査員、そしてサプライズゲストのことについては
全て私に任せてもらえる。


本当に、教師の信頼を今までしっかり
築いといてよかった、とこの時心から自分で
自分を褒めた。



そしてその後も生徒会室では話し合いが続き、
早速、明日には各クラスにプリントを配布して
HRの時間にでも部門を決めてもらおう。


すでに部活をしている生徒も帰り始めた時間帯に
なったから、他の生徒会役員は帰して、私は
配布するプリントの作成を、コンピューター室で
1人、やっていた。




これが終わったら、明日、6人に集まって
もらうように、LIMEを飛ばしておこう。


きっとビックリすると思うけど、ずっと人前で
披露できる機会があったらやりたいと思っていたから、
夢が1つ叶えられる。

私がどんなに突拍子なことを言い出しても、
最後は必ず笑顔で頷いてくれる彼らと、
最高のステージを披露したい。


そう考えると、ふふ、と勝手に笑みが零れて、
自然とワープロを打つ手が、早くなった。



あっという間に文章は完成し、あとはクラス分と
予備の分をプリントするだけ。


席を立って、コピー機の前で1枚1枚、確認
していると。



ガラ、と。
ドアの開く音が、した。



「………神崎、まだいたのか」

「あ、大高?どうしてここに?」

「さっきまで情報委員会の仕事があってさ。
 その片付けでこれをここに持ってきたら、
 電気、着いてたから」


と、プラスチックの籠に入った紙や資材を
持ち上げて、教師用のデスクの上に置いた。



「大高って情報委員会だったんだ。お疲れ様」

「って今さらかよ。……神崎は?」

「生徒会の仕事だよー。もう少しで終わるけどね」

「そ、っか。お疲れ……」

「うん、ありがとう」



そこで途切れた、会話。


不自然なほどにぎこちないような気がするのは、
お互い感じては、いる。


もう用は済んだはずなのに、どうして
まだ残っているんだろう。



「帰らないの?」

「あの、さ」



重なった、声。


ちょっと視線を泳がした大高に、何?と
優しく微笑みかけた。



「青田と月次、付き合うことになったんだな」

「そうなんだよねぇ。昨日、空雅に言われて、
 愛花に問いただしたらまぁ、いろいろと
 白状してくれたよ。なんだかんだ、お似合いだと
 思うから、きっとうまくいくな。あの2人は」

「そう、だよな」

「あれ、やっぱり愛花の気持ちに気付いてたから
 ちょっと動揺してたりすんのぉ?」

「ち、ちげーよ!そんなんじゃ、ないけど……」


ちょっといつものように冗談でからかった
だけなのに、大袈裟に反応した大高。

いまいち、何が言いたいのか分からない。



第18音 ( No.177 )
日時: 2013/04/09 22:03
名前: 歌 (ID: O7xH2wYh)


「神崎は、さ……」

「んー?」

「俺が、隣のクラスの女子と付き合ってるって、
 もう……知ってる、よな?」

「うん、もちろん。青春だねぇ。いいことだ!」

「………」



全てプリントされたことを確認して、
綺麗に束ねる。

使っていたパソコンの電源を落として、
イスを机の下にしっかりしまってから。


3つある電気のうち、2つを、消した。



「さーてと、やっと終わった!後はこれを
 各クラスの黒板に貼っておくだけかな」



プリントをしっかり持って、脱いでいた
シューズを棚から取り出す。


そこまでしても尚、口を閉ざしていた大高を、
ふり返った。



「大高、どうしたの?電気、消すよ?」



拳を握りしめて、俯いたまま返事もしない。



「大高?」



シューズに通そうとしていた足を引っ込めて、
もう一度大高を呼びながら、近付く、と。




ぐら、



一瞬の、腕の痛みと。
背中を床に叩きつけられたような、痺れ。


手に持っていたプリントは、床に散りばめられ、
微かに私の頬を、切った。


目の前には、薄暗い明かりでどんな表情を
しているのか分からない、人の影。



大高に、押し倒されたことには、
間違いないみたいだった。





ぽた、と冷たい何かが、頬に1つ落ちれば。


それが合図かのように、次から次へと
私の頬を水滴が、濡らす。



大高の涙を見るのは、初めてだった。




「…っ…んで、何で俺は……神崎を
 諦めらんねぇんだよ!!」




悲しい音が、流れ出す。




「あんなに……苦しくて辛くてっ!もう叶わないなら、
 嫌でも他の奴を…好きになろうとしたの、にっ!!」



こんな想いで、どこに行くの。


悲しい想いだけが止まることなく、
終わらないピアノの、伴奏。

旋律は歪んで、読めない楽譜。



「どうして………神崎は、俺だけを見て
 くれねぇんだよ…?」



優しく強く、弦を弾く。



「どうやったら、俺を見てくれる?俺を
 好きになってくれる?」



どんな想いで、それを歌うの。


悲しい音のみで目指すものもなく、
変わらないメトロノームに口を開けたら、
全てが吹き飛ぶ。


矛盾と涙を、抱えている。




「追えば逃げるし、待っても、来ない……っ…。
 掴んだその手は人違い!一体、何なんだよ!?」




涙流しても、頬に振れる指は無く、
涙乾くまで1人、闇の中にいるつもりだろうか。




「好き、だって言ってんのに………」




私をまたぐようにして上にいた大高の上半身が、
崩れるように、私に乗りかかった。




粉々に砕けた美しいガラスの、破片。
私は握りしめても、血なんて出なかった。


出たのは、大高の嗚咽だけで。



すぐ耳元で流されてる涙と言葉にならない声は、
今、私の上に覆いかぶさっている重さとは
比べものにならないほど、心に圧し掛かった。




言葉を返すことも、涙を拭うことも、
その大きくも小さい背中に腕を回すことも。


私にする資格なんて、ない。



大高をここまで追い詰めたのは、紛れもない
私の安易な、言葉と行動のせいで。


ただただ、自分という人間が、ひどく
汚れていることを、痛感して。





「……私って本当に、残酷…」





心の中で呟いたのか、言葉に出てしまってたのか、
もうそんなことはどうでもいい。


自分という人間を、心から憎んだ。




そっと、少しだけ身体を起こして、すぐ
近くにある大高の、顔。




「………神崎、俺と付き合えよ?」




吐息のかかる、この距離で。






「うん、いいよ」






私は自ら、唇を重ねた。







その瞬間、大高は今まで我慢してきたものを
ぶちまけるように。


強く、深く、きつく、何度も何度も。
私の唇を、味わう。



舌と舌が触れ合えば、ずっと奥深くまで、
入れられては舐められる。




「…ふぁ……あ…」




漏れる、甘い声。



それがさらに大高の理性を弾かせて、ちょっと
ひんやりとした手が、下着の中に入る。


抵抗することなんてせず、むしろそれに
答えるように私は。


大高の頬を両手で挟んで、親指で涙を、拭った。




暗い、コンピュータ室。


もう校舎内に残っている生徒は、特別な
用事がなければ、誰1人いるはずが、ない。


そんな誰もいないはずの1つの部屋で、
唇をまさぐり合う、2つの影は次第に。



身体をも、求め始めた。





大高の冷たい指は、ブラジャーの上からでも、
しっかり膨らみを捉えている。


首筋を舐められ、胸にある手とは反対の手が、
つ……と私のふとももを、なぞる。



厭らしくも、丁寧とも言えない、無我夢中に
その手は動き回る。




慣れている人がする手つきとは、全く違った。





……大丈夫。



心の中で何度も何度も繰り返しながら、
相手が満足する反応を演じる。


心がなくたって、身体くらい、あげられる。



お金さえ、あれば。
誰とでも、ヤれる。




でも、大高とヤったってお金なんて
出ないことは分かっているのに。


今はお金なんてもらっても、
全く意味がないはずなのに。



それでもそのまま流されようと思ったのは、
ただの同情だと、思う。




だけど、どうしてかな。





頭の中には、あの6人の顔が張り付いていて、
罪悪感で支配されてしまう。



関係ない、私が誰と寝ようがあいつらには
全く関係ないはず、なのに。




『好きだから』




月明かりの下、大和の真剣な表情が
私を咎めているようで。


絶対に、このままでは後悔しそうだと、
直感でそう思った。




それなのに。
気付いた時、には。






「はぁ……はぁ……」






行為は、終わっていた。









第18音 ( No.178 )
日時: 2013/04/10 16:57
名前: 歌 (ID: kJLdBB9S)



世界が壊れる音がする
何処かで踏みしめた硝子の破片は
誰の心だったのだろう?
思い返すほどの心の強さが無いまま
歩くたびに響く音の1つ1つを
心に刻みながら
私は今日も生きる

世界が迷う音がする
何処かで踏みしめた闇の中は
誰の居場所だったのだろう?
思い返すほどの心の強さが無いまま
私は今日も歩いた

何がしたくて私は此処にいるのだろう
朦朧とした意識の奥で今日も泣いてる
小さな小さな心の行く先は
どんな音がするのだろう?

世界から失われたものを
私は今日も探してる
寂しい色を見せたくなくて
悲しい音を聞きたくなくて
だから歩き続ける
諦めたくなくて


もしこの世界が真っ白な楽譜なら
私はキレイじゃなくても
ちゃんとしてなくても
たくさんの音でこの世界を彩りたい







白鍵と黒鍵を交互に走る指は、何か違う
生き物を見ているかのように、動いていた。




「うわ、この曲めっちゃ難しそうだな。
 ってか悠は新曲作るの、早すぎ!」



私がピアノに座る両隣に立っていた6人。


最後の音を弾き終えると同時に、空雅の
ため息ともとれる声が響いた。



「よし、悠の新曲も聞けたことだし、
 話があるんだよね?」

「そうそう!みんなに重大発表があるから
 リビングで話そう!」

「なんだ!?まさか彼氏ができたとか!?」

「それは空雅でしょー。やっと愛花と結ばれて
 浮かれすぎだから」

「おい、それマジ?」

「マジマジ。ほら、見てよあの鼻の下伸ばした顔!」



煌の言葉でリビングに戻ればすぐに、
空雅の恋愛話に突入。


大和は口をあんぐり開けて驚きを隠せてないし、
煌と日向は苦笑しながらも嬉しそう。


玲央は素直にゆっくり拍手、築茂は
興味なさそうに腕を組んだ。




「はーい!空雅の話はストップ!今日みんなに
 集まってもらったのは、とーっても
 重大なことを話すためでーす」


未だに浮かれ気味の空雅は無視して、私は
話を進めることにした。



「実は、うちの高校で10月23日に音楽祭って
 いうのをやるんだけど。それに、特別ゲストと
 して、私たちが演奏することになりましたー!」



結論から先に述べると、一度聞いただけでは
理解できなかったのか、クエスチョンマークの
大行進ができている。


仕方なく私は、昨日生徒会で決まったことを
丁寧に分かりやすく、説明をしてあげた。



次第に、眉間によっていたしわや傾けられていた
首は、そのままに変わりはなかったものの。


あんぐりと、口はストライクボールが
入りそうなほどに、開けられている。



「……ってことは、人前で演奏する、ってこと?
 しかも、俺たちの音楽祭で?」

「そういうこと!簡単な話でしょ?」



日向は、『覚悟しといてね』と言った私の
ことを思い出しているんだろう、やられた、と
言った表情でもう一度確認する。


まぁ、その『覚悟』とはちょっとずれたけど。

本当はただたんに、部門の指導者をつけようと
思ったからその1人に日向を抜擢するつもり
だったんだけど。


動画サイトの話を聞いてからは、こっちに
路線変更したというわけです。



「うわぁー……マジですか。さすが悠というか、
 いやぁ生徒会長様様だなこりゃ」

「うふふ!でもこれで人前で弾くことができるよ!
 もちろん、仮面は被るし変装もするけどね」



ガシガシ、と髪を掻き上げた煌の髪を、
さらにぐしゃぐしゃにしてやった。


叫びながら抵抗する煌に満足した私は、
一度ソファに座りなおして。



「それと、いろいろシュミレーションとかしないと
 いけないし、優勝チームを決めるのも私たち
 だから責任重大だからね!もちろん、私は
 生徒会としても動かないといけないからみんなは
 適当にそれぞれ顔を見られないように」


「もうめちゃくちゃじゃねぇか!」


「ま、悠らしいな。俺と煌もすでに部活が一段落して
 物足りなさを感じていたところだ。やるからには
 最高のものを作る」



笑いながら叫ぶ大和に、自信満々の笑みを
零す築茂に、大きく首を振った。




「やっべぇ!ちょーテンション上がってきた!」

「あ、お前は生徒なんだから4部門のどこかにも
 入らないといけないし、着替えもしないといけないし
 審査もしないといけないんだから一番大変だってこと、
 分かってますよね?」

「え、あ、はい……」

「日向と私は絶対に大丈夫だけど、君がとてつもなく
 心配要素だからしっかり頼むよー」



自分の置かれている立場をようやく理解し始めた
空雅も、やる気は十分だ。



「……演奏するの、楽しみ」



玲央も人前で演奏できることがとても嬉しそうに、
顔を綻ばせる。


やっぱり、いつもみんなはこうやって、私の
無茶ぶりにも必ず賛成してくれて。


一緒に、楽しもうとしてくれる。



「まだ、具体的にどのくらい時間があるのかとか、
 何を演奏するかとかは、まだ大丈夫。一応、
 明日、部門の人数とチーム分けが決まるから、
 そしたらこっちのことも決める。それから、
 練習とかは始めよう」

「了解。やるからには絶対に聞いてくれる人を
 楽しませる演奏をしよう」

「うん!!」


煌の強い言葉に、全員が頷いた。



それからもやる曲の候補を一応出したり、
審査基準を決めたり、いつものように
それぞれの意見を出し合いながら。

笑って、話して、はしゃぐ。


誰も、私の心の奥底で震えているものに
気付くこともなく。


きちんと、私が笑えていて、隠せていることが
こんなにも、簡単なことだったんだと、
改めて実感した。



気付かれないようにしているのは、私。


それなのに、ちょっとどこかで私の少しの
変化を見落とさずに誰か、気付いてくれるんじゃ
ないか、なんて。


変な、淡い期待を持ってしまったのも、私。



気付かれずにいつものように笑っていられる
ことに、安心しながらも、どこか寂しさと
虚無感も一緒に、心の中で広がった。




第18音 ( No.179 )
日時: 2013/04/11 19:37
名前: 歌 (ID: VHEhwa99)


昨日の、夜。



行為を終えた大高は、ぐったりと私の上に
倒れ込んですぐに。


私の身体を締め付けるように、力強く
抱きしめながら、声を押し殺して、泣いた。



『ごめん、ごめん……』



と、何か重たい罪を背負わされたかのように、
繰り返し繰り返し呟きながら。


その時の私は、空っぽで。


泣き止まない大高をそっと抱き起して、
緩くなった腕から抜け出して、散らばった
プリントをすべて綺麗に拾い集めてから。

各教室にそれをしっかり置いてそのまま、
学校を後にした。



家にどうやって帰ってきたのかなんて、
そんなものは覚えているわけもなく。


気付いた時には洗面台の鏡の中の自分を、
思い出しては忘れ、忘れては思い出し、
何度も何度も塗り返してみても、顔は
歪んで見えて。


どうにも、ハッキリしない。


まるで月の裏側を描いているようで、
確かにそこには揺るぎないモノがあるのに。


刹那の記憶は無常に過ぎ去り、過去や未来を
留めようとすれば、掴んだ水のように原型を失う。


このまま私が眠ったら、今日の私は死んで、
明日の私に生まれ変わる。


そしたら鏡の向こう側の人は、この
私の世界を、何色で塗り返すつもりだろう。



終わってしまったことへの、後悔の波は
一向に引く気配はなくて。



壊したいな。
崩したいな。
潰したいな。


できることなら、作り直したいな。



もう、終わってしまったことは絶対に
消すことのできない過去として、
私と大高の心に刻まれてしまった。



ごめん、は私のほう。



大高の心を粉々にして、破片を踏みつぶして、
傷つけたんだから。


その証拠に、今日、大高は学校に来なかった。




その行為は、決してしてはいけなかったもの。


中に出したことにひどく後悔をしたのは、
きっと大高のほうで。


今は、もしものときのことを考えて、さらに
涙を流しているんだと思う。


でも、そんな心配はいらない。


今までだって何度も何度も中に出されたけど、
絶対に妊娠することはなかった。


ピルの、おかげで。



やった後にすぐ飲めば、妊娠を防ぐことができる
薬で、それを私は常に持ち歩いている。


いつ、どこで、ヤられても、いいように。




「あ、俺の午後の紅茶誰かに飲まれてる」

「それ大和のだったのか?悪い悪い、俺が
 さっきちょっともらった」

「煌のちょっとって全然ちょっとじゃ
 ないんですけど」

「ごめんごめん!」

「午後の紅茶と言えば!この前コンビニで
 おじいちゃんが『午後の紅茶って午前中に
 飲んでもいいのかのぅ』って言ってて、
 その場で爆笑しちった!」

「うわ、それ最高……」



心の中で考えていることと、顔に出るものは
私の場合、決してイコールにはならない。


簡単に、作ることができる。



昨日のことが、彼らに対して後ろめたく思って
いることですら、簡単に隠し通せる。


私が話さなければ、絶対にバレることはない。



そんな秘密みたいのこと、今までも私は
彼らにたくさん隠してきてるし。


そのこと1つ1つにいちいち、名前をつける
必要もないと思うから。



彼らに秘密なんて、何もしてない。



だから、私が勝手に罪悪感を感じているだけで、
彼らには何も、関係ない。



……絶対、に。





やりたい曲を絞って候補曲は5つ。


明日の放課後に生徒会で本格的に動くから、
明後日の夜にまた集まることにした。


6人がいなくなった家に入り、今さらになって
隠し通せたことからの安心なのか、
気付いてもらえなかったことへの不満からなのか。


動悸が、早く動いている。



もし、明日も大高が学校に来なければ、
電話をして話をしないといけない。


私は、大高の告白を、受けたんだから。


たとえ恋愛感情としての“好き”でなかったと
しても、たとえただの同情だとしても、
私は昨日の時点で、大高の“彼女”になったんだから。



大高が自分を責める必要なんてない、って
ことをしっかり、伝えないと。




誰かの“彼女”になる日がくるなんて、
思いもしていなかった。


ただの名前だけの関係だったとしても、それでも
あの人以外、私には考えられない。



もう、考えても意味のないことだけど。




あの人は、今までの私であり、これからの
私であり、私のすべてであり。




私の唯一の、家族。
大切な、人。






「ごめん、なさい……」






あなたのためでもなく、あなた以外の人に
抱かれてしまった。



もう、あなたが私を抱くことがないことくらい、
分かっているのに。



まだあなたはどこかで生きているんじゃないか、
なんて、儚い願いを捨てきれない私。




明日は、あなたに逢えるんじゃないか。
明日は、あなたが還ってくるんじゃないか。
明日は、あなたは生きているんじゃないか。



約束された明日なんて、ないのに。








いつものように1番のりで入ったつもりの
教室には、昨日、どれだけ泣いたんだろうと
思わせるくらい。



ひどい顔をしている、大高が、いた。




「……おはよう」


「………はよ」




私から声をかけると、一瞬瞳を悲しそうに
揺らしながら掠れた声で、返事をした。


席替えをして、席が離れているから、
荷物を自分の席に置いた後。



大高の席に、近付く。




「……神崎」


「大丈夫だよ」


「え?」



大高の言葉を遮って、安心させるように
微笑んだ。




「妊娠、しないから大丈夫だよ。だからそんなに
 自分を責めないで。私が同意の上で
 ヤったことなんだから」


「……っ…」



拳を強く握りしめ、唇を噛みしめながら、大高は
またあふれ出そうになる涙を呑み込もうと。


私から視線を、落とした。




「もう、私たちは恋人でしょ?だからこれからは
 ヤることが普通になるんだよ?全然、
 不思議なことでもなんでもないでしょ?」




笑いながらそう言っても、大高の顔は
俯き、拳は強く握られたまま。


それは微かに、震えているようにも見える。



「大丈夫だよ、大高。そんなに自分を責めなくたって、
 これから何も変わらずにそのまま進むから。
 私たちはただの、恋人。2人の中だけでそうして
 おけばいい。誰にも言わなくたって、いい」



やっと、顔を上げた大高の瞳に映るものは。


後悔、迷い、自責、安心、不安、辛苦、
諦め、怒り、そんなものばかりで。



嬉しそうなものなんて、何一つ、なかった。






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