コメディ・ライト小説(新)
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- あなたの剣になりたい 【完結】
- 日時: 2020/01/24 19:10
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: zh8UTKy1)
初めまして。
あるいは、おはこんにちばんは。
四季と申します。
今作もお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。
《あらすじ》
——思えば、それがすべての始まりだった。
親や使用人らと退屈ながら穏やかな日々を送っていた令嬢、エアリ・フィールド。
彼女はある夜、買い物を終え村へ帰る途中の森で、気を失っている見知らぬ少年リゴールと出会う。
だが、その時エアリはまだ知らない。
彼との邂逅が、己の人生に大きな変化をもたらすということを——。
美しかったホワイトスター。
憎しみに満ちるブラックスター。
そして、穏やかで平凡な地上界。
近くて遠い三つの世界。これは、そこに生きる人々の物語。
※シリアス要素があります。
※この作品は「小説家になろう」にて先行掲載しております。(完結済みです)
《目次》連載開始 2019.6.23
prologue >>01
episode >>02-31 >>34-205
epilogue >>206
《コメントありがとうございます!》
いろはうたさん
- Re: あなたの剣になりたい ( No.32 )
- 日時: 2019/07/20 20:48
- 名前: いろはうた (ID: iruYO3tg)
お久しぶりです!!
数か月カキコを離れていたら、
新作が出ているだけでなく、更新頻度も高くてとても驚きました…!
題名からもうこれは面白いってわかるやつですね……
祈るような題名、とても好きです。
戦闘シーンでは緊迫感があり、
手をぎゅっと握りしめながら
がんばれー!!って応援していました笑
ちょっとお転婆なエアリお嬢様と
まじイケメン王子なリゴール君が織りなすらっぶを!!
らっぶを!!(大事な事なので二回言いました)
お待ちしています!
更新がんばってください!!
- Re: あなたの剣になりたい ( No.33 )
- 日時: 2019/07/21 01:37
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: MMm5P7cR)
いろはうたさん
はっ!∑(゚Д゚)
お久しぶりです。
コメントありがとうございます!
題名、気に入っていただけたようで、とても嬉しく思います。
ネーミングセンスがあまりないのでいつも迷ってしまいますが、いろはうたさんに温かいお言葉をいただけ、元気が出ました。
これからもちょこちょこ更新していけたらと思います。
ありがとうございました!
- Re: あなたの剣になりたい ( No.34 )
- 日時: 2019/07/21 01:40
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: MMm5P7cR)
episode.31 意外な形でやって来る
私は、ペンダントを握り、奇跡を願った。
——でも、奇跡なんて起こらなくて。
どんなに願っても、ペンダントがあの時のように剣になることはなかった。あの時はできたことが、今はできなかった。
「……何をしているの? エアリ……?」
失望する私。その姿を見て、エトーリアは戸惑ったような顔をしていた。まさに「何をしようとしたの?」と聞きたげな顔だ。
「前は、ペンダントが剣になったの。だから、また剣にできるんじゃないかって、考えていたのよ」
敢えて嘘をつくこともない、と判断し、私は本当のことを言った。
すると、エトーリアはさらに戸惑ったような顔つきになる。
「エアリ……まさか、寝惚けて……?」
「寝惚けてなんかないわ!」
「……無理しなくていいのよ。エアリ……恐怖のあまり、おかしな妄想に取り付かれ——」
「違うわよ!」
私はつい調子を強めてしまう。
倒れ弱っているエトーリア相手に声を荒らげるなんて、いけないことだと分かっているのに。
その時、ふっ、という小さな笑いが耳に飛び込んできた。
「奇跡にさえ見放された、か……」
笑いが聞こえた方を向くと、哀れむようにこちらを見ているウェスタが視界に入った。
馬鹿にされていると分かり、悔しくて。でも、言い返せるような状況ではない。だから、黙って笑われるしかない。それが、悔しくて仕方がなかった。
「……まぁいい」
哀れむような目になっていたウェスタの両目が、いつもの冷ややかな目に戻る。
「すぐ楽になる」
——刹那、ウェスタの手から帯状の炎が放たれる。
避けなければ。
そう思った。
けれど、すぐに考えが変わる。私の後ろにはエトーリアと馬車がいることを思い出したからだ。
罪なき者を、関わりすらない者を、傷つけさせるわけにはいかない。
だから私は避けなかった。
「んっ!」
帯状の炎が肩に命中する。
熱を感じ、直後に痺れるような痛みが駆け抜ける。
「……避けないとは」
ウェスタの唇にうっすらと笑みが浮かぶ。
「やはり、度胸はある」
「貴女に褒められてもあまり嬉しくないわ」
「……この状況でまだ言い返せるとは」
一応強気に振る舞ってはいる。が、実際の胸の内は不安ばかり。発言とは程遠い弱気さである。
「でも、次で終わらせる」
ウェスタはゆっくりと唇を動かす。
そして、燃えるような赤の瞳でじっと見つめてきた。
「……諦めて」
高いヒールの靴で地面を蹴り、凄まじい勢いで接近してくるウェスタ。
「エアリっ」
背後から、エトーリアの声。
避けなくては。そう思いはするのだけれど、動けない。恐怖のせいか、こんな時に限って体が動かない。
もう駄目。
そう思い、瞼を閉じる。
——しかし、私の体に痛みが走ることはなかった。
ゆっくりと瞼を開けると、目の前には人の背。
緩く一つに束ねた濃い藤色の髪が、風で揺れているのが見える。
「……え」
見覚えのある髪色に戸惑っていると、目の前の彼は首から上だけを動かし振り返る。
「こんなところで何をしているのです」
「デスタン……」
なぜ彼がここにいるのか。
謎でしかない。
「呼び捨てにするなと言ったはずですが」
「あ。ごめんなさい、デスタンさん。……でも、どうして貴方がここに?」
「私が時折働きに行っているのは、この近くの酒場ですから。遭遇したのは偶然です」
ウェスタはデスタンのいきなりの登場に動揺しているようで、言葉を発することさえできぬまま数歩後退していた。
「……助けてくれて、ありがとう」
「呑気にそんなことを言っている場合ではありません」
デスタンはやはり冷たい。
彼の発する言葉には、優しさなんてものは欠片もなかった。
だが、偶然遭遇しただけなのに助けに出てきてくれたというのは、感謝しても感謝しても足りない。
奇跡は意外な形で起こった——そう言っても問題ないだろう。
「なぜこんなところにいるのか? そこに転がっている女は何者なのか? 聞きたいことはたくさんあります。が、今は目の前の敵を殲滅するのが先です」
淡々とした調子でそう述べてから、デスタンはウェスタの方へと視線を向ける。
「何をしに来た、ウェスタ」
デスタンが発する声は、星一つない夜空のように、重苦しく暗い。
「……その女を殺す。ただそれだけ」
「それは許可できない」
きっぱりと答えるデスタン。
ウェスタは眉間にしわを寄せる。
「邪魔しないで」
「いや、悪いが邪魔はする」
「どうして……!」
いつも冷静沈着で、まるで人形のようだったウェスタ。そんな彼女が声を震わせる様を見て、私はただ戸惑うことしかできなかった。
「今すぐ去れ。あるいは、それができないなら散れ」
「本当にホワイトスターの言いなりになったの……兄さん! どうして!」
ウェスタは叫ぶ。
それは、聞いているこちらの胸が痛むような、悲しげな声。
「なぜブラックスターを捨てたの!」
こんなことに発展していくとは思わなかった。が、一方的に攻撃されるという危機的状況から切り抜けられたということを考えたら、これが最善だったのかもしれない。
「……私がブラックスターを捨てたのではない」
「なら何だと言うの。兄さんはブラックスターを裏切った! それは事実! 本当はそうではないとでも言うの!?」
ウェスタは感情的になるが、デスタンは冷静さを失わない。
「王子殺害に失敗した時点ですべてが終わっていた。もし仮に、逃走しブラックスターへ帰ったとしても、首が飛んでいたはずだ」
私は倒れているエトーリアの体を少し持ち上げて支え、少しずつ後ろへ下がる。彼女を馬車へ乗せたいからである。
「そんなことはない! 一度の失敗で首が飛ぶなんて、あり得ない!」
冷静さを失っているウェスタが、鋭く言い放つ。
だが、デスタンは、ゆっくりと首を左右に動かすだけ。
「魔法も使えぬ出来損ないが、任務失敗で逃げ帰ってきたとして。それを許すほど、ブラックスターは寛容か」
「……兄さん」
「私にはとてもそうは思えない」
「そうかもしれない……でも! 許してもらえる道は、きっとある! だから兄さんっ……」
二人が交わす言葉には驚かされてばかりだ。
だが、ウェスタはデスタンを敵とは見なしていない、ということが分かったのは良かったかもしれない。
……いや、もちろん、味方とも思ってもいないのだろうが。
しかし、倒すべき敵だと完全に思っているような雰囲気ではない。それを知ることができただけでも、この状況に陥ってしまった意味があったと言えるだろう。
「何を言おうが無駄だ。私はもう、帰らない」
「兄さん……なぜそんなことをっ……。まさか、ホワイトスターの王子に洗脳でもさ——っ」
そこまで言いかけて、ウェスタは急に言葉を切った。
その理由が、彼女の首にデスタンの手が触れていたからであると気づくのに、数秒かかってしまった。
「王子はそんなことをする方ではない」
デスタンは白に近い薄い藤色の手袋をはめた右手で、ウェスタの首を握っている。
その状態のまま、彼は述べる。
「王子を侮辱するなら、誰であろうが関係なく殺す」
- Re: あなたの剣になりたい ( No.35 )
- 日時: 2019/07/21 01:41
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: MMm5P7cR)
episode.32 母と娘、兄と妹
その時ようやく、静寂が訪れた。
今までは聞こえていなかった風の音が、唐突に耳に入ってくる。
「……兄さん」
「私はもう戻らない。説得しようとしても無駄だ」
「どうして……故郷を捨て敵の王子に仕えるなんて信じられない……」
首を握られているという明らかな不利な状況であっても、ウェスタはあまり危機感を抱いていないようで、彼女は会話を続けている。
「……裏切り者」
そう呟き、ウェスタは、首元のデスタンの手に自分の手を当てる。
直後、彼女の手から赤い炎が溢れる。
すると、デスタンはすぐに、彼女の首から手を離した。
驚いてなのか、熱さを感じてなのか、そこは不明。
だが、ウェスタが炎を放ったことにすぐに気づいたようだった。
ウェスタとデスタンの間の距離が広がる。
「許せない……許さない、兄さん……」
「何も無理に許す必要はない。お前には、私を許さない資格がある」
私は少し離れたところで、エトーリアを馬車に乗せようとしながら、ウェスタとデスタンが言葉を交わしているのを密かに聞いていた。
「帰る気になってくれないなら……力づくでも、連れて帰る……!」
「こんなところで殺り合う気か、ウェスタ」
数秒後、帯状の炎が宙を飛ぶのが見えて。
ウェスタがデスタンに攻撃を仕掛けたのだと、すぐに分かった。
幸い、彼女の意識は完全にデスタンに向いている。さすがに、今の状態では、私の方にまで攻撃してきたりはできないだろう。
つまり、今は安全と言える。
そう思ったから、私は素早く、エトーリアを馬車に乗せた。
「エアリ……よく分からないけれど……逃げるの……?」
脱力し重くなったエトーリアの体を馬車に乗せることに成功したちょうどその時、意識を取り戻した彼女が口を開いた。
「母さんは馬車で先にここから離れて。私はもう少しここに残るわ」
問いにそう答えると、エトーリアは馬車内の椅子に横たわったまま、首を左右に動かす。懸命に動かしていた。
「駄目……そんなの駄目よ……!」
「大丈夫よ、母さん。私は一人じゃないもの」
「エアリまで失ったら、私……」
エトーリアは懸命に瞼を開け、瞳で訴えてくる。
悲しげな目で見つめるのは止めてほしい。そんな瞳をされたら「一緒に行くわ」としか答えられなくなってしまう。そう答えなければ、胸の内の善良な部分が痛んで仕方がない。
「……心配してくれてありがとう、母さん。でも、私、彼を置いて逃げることはできないわ」
私は正直に返した。
上手く飾ることなんてできないと思ったから。
「だから残らなくちゃ。見守らなくちゃならないわ」
「そう……ならエアリ、わたしもここに残る……」
「分かったわ、母さん。じゃあここにいて」
本当は先に去ってほしかったのだが、エトーリアの優しい心を乱雑に扱うことはできない。だから私はそう返したのだ。
「少しだけ様子を見てくるわね」
そう言って、私は馬車から離れた。
——だが、馬車を降り様子を確認しようとした時、ウェスタの姿はもうなくて。
そこには、デスタン一人が立っているだけだった。
私は、哀愁漂うその背中に向けて、彼の名を放つ。
「デスタンさん!」
すると、彼は振り返った。
髪に隠されていない片方、一つだけの黄色い瞳が、私をじっと捉える。
私が「大丈夫!?」と問うと、彼は控えめに「はい」と答えた。さらにその後、数秒空けてから、はぁ、と大袈裟な溜め息をつく。
「……しかし、逃げられてしまいました」
悔しげに漏らすデスタンに、私は速やかに歩み寄る。
「怪我はない?」
「はい」
デスタンは頷いたが、その顔からは、感情なんてものは欠片も感じられなかった。ただ言葉を発しているだけ、という雰囲気である。
「貴女は怪我がありますね」
「え」
「その右肩、炎を食らったのでしょう?」
彼に言われ、思い出した。一度ウェスタの炎の魔法攻撃を受けてしまった、ということを。
「えぇ……そうだったわ。忘れていたけれど。デスタンさんって、意外と鋭いのね」
「服を見れば分かります」
「え、そうなの?」
言ってから、自分の右肩へ視線を注ぐ。すると、ワンピースの黒い袖が、一部分だけ焦げてしまっているのが見えた。
……これは分かりやすい。
「確かに、これはさすがにバレるわよねー……」
「はい」
日頃も結構心が読めないデスタンだが、今日の彼は特に心が見えない。
だとしても、これだけは言っておかなくては。
「……あの、デスタンさん」
人を寄せ付けない冷ややかな空気をまとっているデスタンにいきなり話しかけるというのは、勇気が要る。けれど、感謝の気持ちはきちんと伝えておきたくて。
「今日は危ないところを助けてくれて、本当にありがとう」
恩知らずな女なんて、もう言わせない!
「貴方が来てくれたおかげで、私も母も助かったわ」
私は真剣に礼を述べた。
しかしデスタンは適当な返し方をしてくる。
「はぁ」
「……ちょ、ちょっと! その言い方は何なの!」
「それはこちらのセリフです」
うぐっ……。
よく分からないけれど、何だか妙に悔しい。
「で、貴女はどちらへ?」
「え」
「高台の家へはもう戻られないのですか?」
デスタンの問いに、私は首を左右に振る。
「いいえ。一度母の家へ行くだけよ。用が済めば、またあの家へ戻るわ」
そう告げると、デスタンは吐き捨てるように発する。
「……迎えが来たのなら、さっさと去ればいいものを」
酷いわね! 口が悪いにもほどがあるわよ!
「しかし、一つ判明したのは良かったです」
「何なの?」
「倒れていたあの女は、貴女の母親だったのでしょう」
私はそっと頷く。
「……それが判明したところだけは、良かったです」
「だけは、って何よ! いちいち嫌みね!」
「私は不快な女にも親切にできるほど完成した男ではありません」
よくそんなことをきっぱりと言いきれるわね。
そう言ってやりたい気分だった。
「では、私はお先に失礼します」
「また戻るということは、リゴールには伝えてあるわ。だから、そこは心配しなくていいわよ」
「承知しました」
こうして、デスタンとは別れた。
そして私は再び馬車に乗り込み、エトーリアと共に、彼女が住んでいるという家へ向かう。あんなことがあったにもかかわらず御者が逃げ出さず待ってくれていたのは、運が良かったと思う。
- Re: あなたの剣になりたい ( No.36 )
- 日時: 2019/07/22 16:35
- 名前: 四季 ◆7ago4vfbe2 (ID: N7iL3p2q)
episode.33 エトーリアの屋敷
馬車に再び乗りしばらくすると、白い石と銀色の棒でできた立派な門がある屋敷の前にたどり着いた。
「着いたみたいね」
横たわって休んでいたエトーリアは、そう言って、少しずつ体を起こす。
「……母さん、こんな立派な屋敷に住んでいるの?」
「いいえ、立派な屋敷なんかじゃないわ。外から見れば綺麗でも、中は意外と普通よ」
とてもそうは思えないのだが。
「さ、行きましょ」
「えぇ……」
エトーリアがこんなところに住んでいたなんて驚きだ。
私は戸惑いながらも馬車を降り、彼女について歩いた。
門を通り、白い石畳の道を抜け、玄関を開けて建物に入る。エトーリアが言っていた通り、建物の中は地味だった。内装にはあまりお金をかけていないようだ。
——と、その時。
「エアリお嬢様!」
聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。いきなり名を呼ばれたことに驚き、すぐに声がした方へ視線を向ける。すると、使用人の格好をした女性が視認できて。しかも彼女は、よく知っている人だった。
「バッサ!」
「お嬢様!」
懐かしい顔。
目にした瞬間、喜びが湧いてくる。
それはバッサの方も同じなようで、彼女は、ワンピースの裾を重そうに揺らしながら駆け寄ってきた。
そして、そのまま抱き締めてくる。
「お嬢様、良かった……!」
「く、苦しいわよ。バッサ」
肉付きのよいバッサに抱き締められると、胸元が圧迫されて呼吸がしづらくなってしまう。
「ご無事で何よりです……!」
「ちょっと、聞いているの?」
「あの晩、お嬢様が行方不明となってから……心配で心配で……」
バッサの目もとには、小さな涙の粒が浮かんでいた。
私がリゴールらと呑気に暮らしている間も、バッサは、私の身を案じてくれていた——そう思うと、何だか申し訳ない。
「……ありがとう、バッサ」
「いえ、お礼を言うべきはこちらです……。また生きている姿を見せて下さって、ありがとうございます」
あの火事の後、リゴールたちについていく道を選択をしたのは、私だ。まさか気づいたら村から出ているとは思わなかったけれど。だがしかし、バッサが心配してくれるであろうことを考慮せず勝手な道を選んだということは、変わることのない事実である。そのことは、心の底から、申し訳なかったと思っている。
「良かったわね、エアリ」
横から挟んできたのはエトーリア。
彼女は穏やかに微笑んでいた。
「その再会が終わったら、わたしと、少しこれからの話をしましょ?」
すると、バッサは私から腕を離した。
「申し訳ありません、エトーリアさん。つい……」
バッサは私から数歩離れると、肉付きのよい体をエトーリアに向け、頭を下げる。
「いいえ。気にしなくていいのよ。エアリは可愛いものね。娘を可愛がっていただけて、わたしも嬉しいわ」
エトーリアは微笑みを崩さず返した。
するとバッサは安堵したように頬を緩め、落ち着いた調子で「では、お茶を淹れて参ります」と言って、去っていった。
「行きましょ、エアリ」
「そうね。でも母さん……これからの話って?」
「わたしとエアリの、これからのことについて話すのよ。少しだけ、ね」
そうだ。父親が亡くなったのだから、考えなくてはならないことがたくさんある。母親——エトーリアはまだ元気でいてくれているから、すぐ一人になるということはないだろうが、だからといって油断してはいられない。
その後、私とエトーリアは食事のための部屋へ向かった。
木製のテーブルに白いレースのクロスを掛けた物が一つと、座る面が柔らかそうな四本脚の椅子が四つ。何の変哲もない、地味な部屋である。
「さぁエアリ、座って」
「えぇ。……それにしても、あっさりした部屋ね」
建物の外観はかなり高級感が溢れていたのだが、中に入ってみれば、わりとシンプルな家であることが分かった。
内装の高級感対決なら、ミセの家の方が勝っているかもしれない。
「そうよ。だから言ったでしょう? 中は意外と普通だって」
エトーリアはそう言って笑っていた。
そのうちにバッサがお茶を運んで来てくれて。
「あら、美味しそうなお茶。ありがとう、バッサさん」
「いえいえ」
「ありがとう、バッサ」
「いえ。けれど……エアリお嬢様にまたこうしてお会いできて、嬉しいばかりです」
私とエトーリアの前に、それぞれ、ティーカップとクッキー二枚を乗せた小さな皿が置かれる。
「では、失礼致します」
バッサは軽く頭を下げ、部屋から出ていった。
それから私は、話を続ける。
「でも母さん……ここはとても素敵な家ね」
外観は高級感たっぷり。
内装は素朴で自然な雰囲気。
そのギャップは、嫌いじゃない。
「エアリがそう言ってくれて、わたし、嬉しいわ」
「母さんがこんな立派な家で暮らしているなんて知らなかったけどね」
「ふふ。黙っていて悪かったわね、エアリ」
エトーリアは笑みをこぼしながら、白いティーカップの端を唇に当てる。そうして、ティーカップの中の液体を数秒かけて飲むと、彼女は一旦、ティーカップを置いた。
「わたし、この家の外観が好きでここを選んだの」
「へぇ……」
時間の流れはいつになくゆったりとして。
心が穏やかになる。
こんなに静かに寛げるのは、いつ以来だろう。
「外、白い石畳の道があったでしょう?」
「えぇ」
「白い石畳はホワイトスターにはたくさんあるの。だから何だか懐かしくって」
エトーリアがホワイトスターの関係者。
そこがまだ、しっくり来ない。
「なるほど! じゃあ、リゴールも気に入るかもしれないわね!」
「リゴール王子が……?」
「えぇ! そうだ。また今度、リゴールをここに誘わない? きっと喜ぶわ!」
私は「これは良さそう」と思いそう提案したのだが、エトーリアは即座に首を左右に動かした。
「無理よ、それは」
個人的にはかなり良い案だと思ったのだが、さらりと断られてしまった。
「どうして?」
「冷静に考えてみて。王子をこんな家にお呼びするなんて、可能だと思う? 無理でしょう」
「よく分からないわ。ただ、リゴールは素直な人よ。だから、懐かしい風景を見れば、きっと喜ぶわ」
私はそう返し、小皿の上のクッキーをかじる。
「エアリ……貴女にはいまいち分からないかもしれないけれど、彼は王子なのよ?」
「でも私の友人だわ!」
すると、エトーリアは黙ってしまった。
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