包帯戦争。               作者/朝倉疾風

第五章  迷路の出口にキミは立つ  ~01~



入院して、早二週間が経った。
正直、退屈だ。ゲームは禁止で漫画もあまり読まない。テレビとヒナトの相手ぐらいで24時間営業している。ぬあー。
そして現在、ヒナトさんは没収された愛用の金属バッドを恋焦がれ、僕の隣でごねている。
「……持っていかれた」「うん」「あたしのなのに」
「うん」「何で持っていかれなきゃならないのだ」「本当にねぇ」
キミは我が子を心配する母親かい?
一個だけ、わかった。母性本能という人間性はあるらしい。
「ヒナトさぁ」「うぬ」「子供好き?」「人間嫌い」
ありゃ。違った。
どうやら母性はバッド一途らしい。
ヒナトは僕の隣のベッドで寝転がり、シーツやら布団やらメチャクチャにしている。
精神年齢は只今途切れた10歳に戻っているらしい。

「ヒナト、シーツ直しなさい」
「嫌だ。あたしはバッドを探しに行くぞ」
「…………いってらっさい」
うぐ。まだ上半身が痛む。傷口は塞がっていないのか?
我が子を探しに行くヒナトママを送り、さて、パパは何しようか。
暇だ。あの分じゃヒナトは当分戻ってこないでしょうなぁ。パパ、悲しいぞ。浮気しなでよ、ヒナトママ。
リアル家族ごっこ終了。てか、バッドが子供ってどんだけだよ。
窓越しでもセミが鳴いているのがわかる。
あっちーなぁ。てか、もうすぐで夏休みだ。あっ!中間試験終わってんじゃねぇの?最悪だー。
まぁ、勉強は真ん中より下だけど、危なくない方だからっ、大丈夫だ!
ヒナトは学校に通ってないんだろうなぁ。今まで僕が行くから~って理由で学校に行ってたくらいだし。
今思えば、何で中退とかにならないんだろう。授業も真面目に受けた事なくて、寝てばっかのに。3年に進学できるのか、心配だ。今度から真面目に受けさそう。

決心したとこで、視線を病室全体にやる。
僕以外、人はいない。空っぽだ。
決して一人用じゃない。きちんと6つベッドが納まっている。小春ちゃんが言ってくれたのか?元ヤンなのに。関係ないか。
にしても久々の病院だ。入院も何年振りだろう。
7年ぶり?あの監禁されて以来だから、それくらいか。しかもあの時は精神科だったしなぁ。
精神科で一番印象に残っていたのは、ヤシロという変わった子供の事だ。
今は、多分僕と同い年くらいだろう。
同じ病室で、僕に本当に依存していた。

ヒナトみたいなゴスロリではないけど、フリフリのレースのワンピースを着て、髪も色素の抜けた蒼白で、銀色に近かったと思う。
ヒナト以上に髪が長かった。腰くらいまであった。
そして、美形な女顔のクセに、男だった。
当時、まだ小学校の上級生だったヤシロは、僕が病室に入ってくるなり抱きついて、僕の名前を連呼した。
初め、僕は少女だと思っていた。
でも、ヤシロが「僕、男だから~」とか言い出して。
冗談だろ、とは思ったけど本当だった。
女装が趣味らしく、決してゲイとかそんなんじゃなく男の自覚はあるけれど、僕に凄く懐いていた。

「化粧と祝詞され居れば、どこでも行けるよ~」

そう言って、僕の後ろを着いてきた。
ヤンデレ、と言うのかアレは。僕に近寄る全ての人間を嫌い、自分は精神医療を好まず、バッドではなくチェーンソーを振り回していた。
聞けば、幼稚園どころか小学校にも行っていないと言う。
小さな細い腕でチェーンソーを振り上げ、僕に近づく全ての人間を殺そうとした。
チェーンソーが取り上げられれば、僕に泣きついて、どうしようとこちらが呆れるまでシーツを涙で濡らした。

「あいつ、どこに居るんだろうな」
てか、今あいつが来たら確実にヒナトは抹殺される。
チェーンソーでぎったぎったにされる。
恐ろしやー。



   *



祝詞は僕の全て。祝詞がいて、僕がいる。
祝詞の四肢を切り裂いて、生温かい血を啜ってみたい。その苦味に顔を歪めながらも、ゆっくりと祝詞を殺してみたい。
祝詞を見たとき、僕の殺人衝動がうごめいた。
殺したい、殺したい、殺したい。
その瞳から、光が消えるのを見たい。
見たいのだ♪
だから、祝詞が病院に居るって知って、嬉しい。
会いに行こう。
会いに行こう。
そして、会って、解体しよう♪♪

ぬ?ぬぬぬぬ?
ゴスロリ女が、何か探してる。