包帯戦争。               作者/朝倉疾風

僕の回想  あんど11章なり。   ~02~



遠慮なくヒナトの顔面を蹴り上げるヤシロ。
「ぎゃああああああああああっ」「五月蝿い!五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!」
遠慮も容赦もなく蹴り上げ、ヒナトの唇から血が流れる。
「なぁ、ヤシロ」
ボール遊びを止めて、ヤシロがこちらを向く。悪い事など一つもしていないといった顔だ。
「遊ばないか?鬼ごっこだ」「鬼ごっこ?」
今更、嫌いとか言うなよ。小さい頃、僕を追い掛け回して看護婦さんにぶつかって、散々だったじゃないか。
「いーけど」「ヤシロが鬼ね」「もし捕まえたら、手足の一二本はちょーだいねっ」
勿論さっ、とは言わなかった。
「でも、どうやって倉庫内で鬼ごっこするの?お前ら、手足縛られてんのに」
「あ、逃げるのは僕だけ。んで、僕が勝ったらヒナトと志乃岡を連れて帰っていー?」
今、露骨に嫌そうな顔しやがったな。
もうちょいだ。
「いーけど・・・・・でも、うーん。いーよ」
「じゃ、今から10分ね」
上等だろ。
もう、ちょい。
「よっし!じゃあ、10数えるから。いー「っ」

今までガラスで削っていたロープがようやくほどき、手足が自由になった。
志乃岡にも目配せで合図していたため、こちらも手の平を血染めにはしているが完璧だ。
ヒナトを背負い、志乃岡と一緒に逃げる。
「嘘つきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいぎゃあああああああああっ!!!」
判断が遅れ、行動も遅れたヤシロがチェーンソーを持って追いかけてくる。
ひーっ!
超高速スピードで倉庫を走り回り、扉を蹴破って外に出た。
我ながら一日で監禁生活が終わるとは。
「あそこにスーパーあるからっ!店員いるからっ!」
それだけ言って、後は大丈夫だろう。
陸上部の志乃岡の見事な走り。ヒナトを背負っていた僕なんか、颯爽と追い越してしまう。
後ろを見る。見たくなかったけど、見た。
あっちゃー、追いかけてきている。笑顔で。もーちょーこえーよ。
やっべぇっ!
うおっ、こけそうにな  た、つかこけたぁぁっ!!

派手にドッテーンとダイビングし、ヒナトも背中から落ちた。
しかし、痛い。何でこう傷ばっかなんだ。
「追いついたぞー」
何か自慢気だし。
どうしよ、助けるとか言って、まぁ言ってはないけど、そう思っておきながら、殺されるわけ?
チェーンソーで手足バラバラ?ぐちゃぐちゃ??
もはや尋常じゃないほどヤシロが笑ってる。
「あっはははははははは、もうだーれにも渡さない」
何を?
ワット?
フー?
正確には誰を?ノリト、だろうなぁ。
グルグル凄い音をたてて、チェーンソーが動き出す。
振り上げられる。
あぁ、もう
     
「ぐべっ!!」

頭を強く押さえつけられ、鼻が地面についた。
何かと何かがぶつかる乾いた音。
「ッ、この糞女ッッ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヒナトだ。どこから出したのか、ナイフでチェーンソーを遮っている。
んな無茶な。
「その肉、ぐっちゃぐちゃにしてミートにしてやるっ!ミキサーでもいーけどねっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お断り」
僕の頭を手で抑えたまま、ヒナトが足を引っ掛ける。ヤシロが転倒し、僕の手数センチ先にチェーンソーが落ちてきたっっ!あっぶねー。
その上からヒナトが覆いかぶさる。
ナイフの刃先でヤシロの肩を貫く。それでも彼はうめき声もあげないまま、ヒナトとの立場を逆転させるべく奮闘している。
というか、ヒナトは元に戻ったんだろうか。いや、元っていうと何だかおかしいから、『異常者』に。
「っ、はっ!」
かなり深く突き刺しちゃっているナイフを抜き、もう一度、今度は手を貫く。
神経ズタズタだろうねぇ。なんて呑気に見ていた。
止めなきゃ。
ヒナトを、止めなきゃダメだろ。
僕の世界でもう、人が死ぬのは見たくない。なんてね。
キレイごとばかりが、出てくる。
「ヒナトっ」
ヤシロの首に手を沿え、そのまま静止する。
「ダメだから」「・・・・・・・・・・・そう」
ありゃ。やけに大人しい。
「でも、離したらまた暴れる」「いーから。殺したらダメ」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」
携帯を取り出し、傷だらけの手で操作。
「あ、メジロさん?ヤシロがこっち来て、ちょとヒナトと喧嘩しました。・・・・・・・・まぁ、ちょっとじゃないですけど。今抑えてますから。場所?ふもとのスーパーです。はい、はい」
ぶち切り。やっぱり、無断に外出していたのか。
ヤシロは大人しく、ただ人形のように笑っていた。一生そのままでいろ。