包帯戦争。               作者/朝倉疾風

番外編  もしも、僕らが在ったなら  ~01~



「ノリちゃん! 課題見せてっ!」
世間も、僕の頭の中も春真っ盛り。 窓から注ぎ込んでくるあったかいお日様は凄く心地いい。
本日は学校も休みで、尚且つ部活にも入ってない僕は一度目は覚めたものの、まだ9時という事もあり、再び深い眠りにつこうとしてい、た、けど、 「どうしよっ! 終わってないっ! 終わってねないっ! 先生怖いっ! 見せてぇぇええぇぇっ!」
物凄い勢いで、ヒナちゃんに引っ張られた。 ぐえ。
「あ? ……課題?」
「私、提出まだしてなかったわけだよっ」
「うん、それで?」
「でも、やってないわけだよっ」
「…………僕、もう課題提出したよ」
「ッッ!!! 学校から盗って来なさーい!!」
ンな無茶な。
慌てて布団から上半身を起こして、僕の家なのに何故か無断で侵入しているヒナちゃんをジト目で見た。
長い、キレイな黒髪をポニーテイルにして、キレイな顔で僕を睨んでいる。

「んー、じゃあ一緒にやろ」
「うっきゅー♪」
頭を軽くフル回転させて、欠伸を一つ。 ヒナちゃんはさっそく僕の机に課題を広げている。
「お兄さん方に手伝ってもらえばいーデショ」
「だってリツとリク、甘やかすか! って言うんだから。 手伝ってもくれない」
まあ、社会人になって大変なんだろうねぇ。
「で、その課題の資料は?」
「………………………………どあっ!!」
「何?」
「家に忘れたーーーーーー!!」




いつ見ても、まあ何ていう豪華な屋敷なんでしょーか。
「ささ、どーじょどーじょ」
「……ははは」 空笑い。
中に入って、玄関の戸をガラガラと横に移動させる。
「あ、祝詞じゃん」
玄関先に、双子のどちらかがいた。 眼鏡かけてるから…… 「リツさん、すか?」 「正解」 
よし、当たった。
小さく頭の中でガッツポーズ。
「ヒナト、たまには祝詞に頼らず自分でやってみろよ」 
「却下」
「祝詞、甘やかすなよ? コイツ、マジで馬鹿になってくから」
「もう、手遅れだと思います」
本心でそう言ってみたら、ヒナちゃんが物凄い剣幕で僕を睨んでくる。 視線が、痛い。
「……嘘、です」
そう言っておいた。 その言葉自体が嘘だけど。
リツさんは苦笑しながら、 「ま、ゆっくりしてけ」
とだけ言ってくれた。 いい人だ。



   *



「ありゃー、ノリちゃんじゃないのさ」
「お邪魔してます、春瀬さん」
ヒナトに似た、童顔で凄く美人なおねーさんが顔を出した。 おねーさんっても、もう何歳だろ。 三十代後半じゃないか?
そんな年を感じさせないような若さで、僕を愛称で呼んでくる。
「お母さん。 後でお菓子運んでね」
「あいよー。 ゆっくりしてけ」
「ありがとうございます」
春瀬さんと僕の母が仲良しで、そのせいでもあるのか昔からここのお宅とは付き合いが長かった。
ヒナちゃんとは、幼なじみという間柄。
「あったあった。 これこれ。 コレなのですよ、祝詞くん」
得意気に見せられた資料をざっと見て、
「コレ、凄く簡単じゃん」 「その簡単が私には理解不能なのだー」 
何故が自慢された。 やれやれ。
内装も和室だ。 畳とかの木の匂いが心地いい。 僕の家は洋風だから、こういうのもたまにはいい。
座敷に男座りして、
「では、シャーペン持ちたまえ」
「あいあいさー」
ヒナトが構える。 真っ白いレポート用紙を目前にして、 「……で、何?」 とな!!
ここまでとは予想外だ。
「ヒナト、何って言われても、課題でしょ? 先生なんて言ってたわけ?」
「…………ほへー」
「いやいやいやいや」
僕とヒナトはクラス違うから、わからんのだよ。

「多分この資料からだと、古代の何かだと思うけど」
「あーもーいーやー」
よくないっす。 マジで赤点、落第決定っすよ。
「留年でもいっかー」
何人生どうでもいい的な事言ってんですか、ヒナトさん。
「はははははっ」 
うぬ? 後ろから笑い声が聞こえたため、首を動かした。 
「もういいじゃん、祝詞。 そいつに何教えても無駄だっつーの」
「うげっ!? ちょっと何言うんだよリトー!! 」
ヒナトが、双子の弟のリツさんにむかって殴りかかる。 安易にそれを阻止して、
「コイツ、もう落第決定だから。 適当にやっとけばいーんだって」
「ば、ば、ば、馬鹿にしないでよっ」
「馬鹿じゃん」
クスクスと笑いながら、ヒナトの怒りっぷりを明らかに楽しんでいる。 うーわー、サディストだ。
ヒナトは思い切り頬を脹らませながら、
「おかーさーん! リトがヘンな事言ってくるー!」
ついには春瀬さん頼み。
「おかーさーん! ヒナ、もう人生棘道突入ー」
「リツさん、大人気ないです」
呆れつつも一応言っておいた。 多分聞こえてない。
いつもながら、ここの兄妹は元気すぎて困る。
突っ込む側の気持ちにもなってくれ。

階段を上って、おぼんの上にお菓子を乗せて、春瀬さんが困った顔で二人を見た。
「もう。 ノリちゃんが困ってるでしょ。 休日の朝に大きな声出さないの」
「リトさぁ、ちょーっと女の子にモテるからって調子乗らないでよねー」
「うっそー、俺モテるわけー? 感激ー」
わざとらしく照れるリトさんを、ヒナちゃんがしかめツラで睨む。
「もーいいしっ! ノリちゃん、出かけよう!」
「えー。 課題はー」
「ンなの後!」
はぁ。 どうでもいい兄妹喧嘩に巻き込まれてしまった。 課題、終わらせないとホントに落第だろうねぇ。