包帯戦争。               作者/朝倉疾風

第八章  僕が、僕であるために。  ~01~



退屈、そして一人の少年の心を壊した一ヶ月が終わり、僕は駄菓子屋に戻っていた。
世間はもうサマーバケーション。
駄菓子屋のソーダーやラムネがよく売れるのだと、小春ちゃんが嬉しそうに言っていた。
ポストに投函されていた、夏休みの宿題の束。
一通り目を通したけど、一ヶ月間も学校に行っていない為、チンプンカンプン。
さ、参考書とか見ればイケルかな~みたいな。
ヒナトも相変わらず、毎日のように駄菓子屋に来ては、数少ないお金でラムネを買う。
本人曰く、ラムネのビー玉の音が好きらしい。

そして、今現在。
「これ、くれ」
「どーぞ」
退院した志乃岡がラムネ2本とソーダーのアイスを一本購入した。
二つにくくった長い髪に、白い肌が色っぽい。なんて。そんなエロじゃねーよ。
買ったばかりのラムネを、少し躊躇った後、
「………………………ん?」
僕に一本差し出してきた。
「あ、げる」
「あー。どうも」
クラスメイトの後藤くんの殺人現場も目撃なされた志乃岡ちゃんは、一時的精神が傾きかけましたが。
今では順調に回復していらっしゃるようです。はい。
「なっにー、お前。ヒナト以外に彼女いたのな」
「違うって、小春ちゃん。志乃岡はクラスメイトで隣の席」
「…………い、一条には。世話に、なってるから」
ぬ?
いつ志乃岡のお世話なんてしたっけ。
「私が、シャーペン落とした、とき。拾って、くれたから」
「……………あぁ。アレね」
ごめん。全然覚えてない。
志乃岡がラムネの蓋を開ける。ポンッといういい音がいした。
ごくごくと喉を鳴らして半分ほど飲んだ後、「そういえば、茅野さん、は?」辺りをキョロキョロして聞いてきた。
「そーいやー、今日は来てねぇな」
僕ではなく、小春ちゃんが答える。
てか煙草吸って仕事する気あんのかこの人。

「暑さで死んでんじゃねーの?ほら、あの服暑苦しそうだし」
いやー。ナチが着いてくれてるから大丈夫だろ。
でも、結構、いやかなり心配だ。
「心配?一条」
志乃岡がまた聞いてきた。てかその苗字嫌なんだよなー。小春ちゃんと苗字違うし。
「志乃岡、俺の事はもう呼ぶな。『少年』とか『お前』とかって呼んで欲しい」
「っ」
小春ちゃんが少し反応したけど、気づいていないフリをした。
志乃岡はしばらく金魚がエサを食べているような顔でこちらを見ていたけど、
とても安心したように、
無茶苦茶キレイな笑顔で、
「わかった♪」
そう言ってラムネをぐいっと飲み干し、ソーダーアイスを齧って、走って行った。

「あいつ、お前に惚れてんぞー」
「……あ。そうなの?」
「いいねぇ。モテる女は」
小春ちゃんも、その容姿だったらかなりモテるんじゃねぇの?
うちの家系は美形、多かったからなぁ。
「んで。ヒナトは心配じゃないわけ?」
「本当言うと、かな~り心配なんすけど!」
「家、知ってんだろ?行ってみればいいだろ」
サラリと言ってくれるねぇ。
まぁ、知ってるけど。
どうしようか。
何を迷ってるのかさえ、わからなくなる。

「行って、みよーかなー」