包帯戦争。 作者/朝倉疾風

第八章 僕が、僕であるために。 ~03~
屋敷に入って靴を脱ぐ。
「お邪魔しまーす」「ちょっと、何勝手に入ってるわけ」「油断してるそっちが悪い。はい、ヒナトはどこなわけ」
ズカズカと奥に進んで行く。外見は洋風なのに、中は和風なんだな。畳みあるし。
ナチが後ろから服を引っ張ってくるけど、汗で湿っていたのかすぐに離した。
「そっちじゃない」「んっじゃー、こっち?」
黙ってるって事はこっちなのか。
そう判断して襖を豪快に開ける。
「祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞祝詞」
僕の名前をブツブツ唱えながら、横たわるヒナト。
いつもの暑苦しいゴスロリじゃなくて、白い薄手のワンピースを着ている。のはいいけど、何故か所々が赤く染まっている。
それが血だと認識するまで、そう時間はかからなかった。
「ヒナっ」
傍に駆け寄り、小柄な体を抱きしめる。
ヒナトの目は焦点を合わせず、ギラギラ動いている。首元に引っかいたような傷があり、そこから血がこぼれてワンピースに染みを作っていた。
「ヒナト、僕が誰だかわかる?」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
「ちゃんと見て。『少年』だよ。助けに来たよ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……ぬぬっ?」
ヒナトが最後に変な声を出し、初めて僕を見た。
しばらく息を整えて、
「少年がいる。少年がいる」
「うん。ヒナトのピンチに駆けつけたんだよ。もっと早く来ればよかったね」
ごめんごめんと頭を撫でる。
「これ、自分でやったわけ?」
首を指差すと「あたし。血は出てるからまだ生きてる」妙に自分で納得するように頷いた。
ナチの方を向いて、タオルと水の入った洗面器を持ってくるようお願いした。
彼は慣れているのか無言で頷いて走って行った。
「今、知ったんだけど。アンタ、あねねに自分が『祝詞』だって教えてないんだね」
ヒナトが薬を飲んで寝たときに、ナチが聞いてきた。
あっれー、言ってなかったっけ。
「うん。まぁ、ね」
「何で」
「殺しちゃうぞ宣言を受けたので」
「……僕、知らなかったから。言っちゃったんだよ。あねねが『祝詞は何処?』ってうわ言で聞いてきて。『いつもいるじゃん』って。『アイツが祝詞なんだよ』って言っちゃった」
「それで、壊れたと」
元からだけど。
ナチがあんまり反省してないように、
「このまま自分を隠すつもりなわけ?」
僕を責めてるような口調で聞いてきた。
「バレたら、仕方ない」
「絶対にバレないから。あねねはアンタに騙され続ける。可哀相」
そーかなぁ。
まぁ、そうかもね。
「だから、僕も何も聞かなかった事にする」
……………。
ありがたいやら。
ヒナトの寝顔を見ながら、ナチが決心したらしい。ドラクエのレベルで言ったら5、かな。
「僕、まだキミに名前教えてないよね」
「うん。教えてもらってない。何て呼んだらいい?」
「『少年』」
完璧だ。

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