包帯戦争。 作者/朝倉疾風

僕の回想 あんど11章なり。 ~03~
メジロさんと、何故か小春ちゃんが来てくれて、ヤシロは無事確保。鬼は負けて、志乃岡も保護されて一件落着。
さーて、帰って寝よう。
・・・・・・そうはいかなかった。
今までの去勢を崩し、現実を目の当たりにさせてしまった。
鼓膜が破れるような、命の壊れる音。
削りたくなる、記憶。
病院の長いすで、ヒナトは思い切りメジロさんを睨んでいる。
「今度から刃物・バッド持つな。いいか?没収だ」
「新しいの、買いますから」
「家族に言いつけてやるからな」
「消えてください」
一方的にジャンジャカ言われ、メジロさんが苦笑もせずに舌打ちする。
それにも動じず、ヒナトは壁にかけられたカレンダーをじっと見ている。
「何だ、少年。小春は?」「今コーヒー飲んでます。面倒かけるなって怒ってました」
もー超怖いんですけどー。元ヤンだけに。
「そーいえば、メジロさんと小春ちゃんって先輩後輩の仲だったんですね」
「ん?あー、知ってたの。小春に聞いたー・・・・わけじゃねぇよな」
「はい。小春ちゃん、メジロさんの事嫌がっていたし」もうそれは鳥肌がたつほどにね。
「プリクラ、見たんです。宇美さんに見せられて」
「・・・・・・・あいつ、まだアレ持ってたんか」
そのプリクラから読み取れる事は、宇美さんとメジロさんが付き合っていたっていう事だ。
ふーん。若い頃は色々あるよねぇ。今も充分若いけど。
「俺のことはどっちだっていーわ。あいつの所に行ってやれよ」
「・・・・・・・・・・・あの、メジロさん」
「あ?」
「僕、ヒナトと一緒にいて、いいと思いますか?」
ヒナトは僕を受け入れきれないのに。
僕はヒナトという存在を正常に戻す気はないのに。
壊れえるのに。
犯罪者と被害者なのに。
「僕、自分が『祝詞』だって言ったんです」
「うん」目を逸らす。
「ヒナトは、僕を受け入れてはくれない、みたいです」
「・・・・・・・おう」今度は僕を見た。
「だから、僕はちゃんと存在してますよね?」
時々、自分の存在理由がわからなくなる。
希望と絶望、幸せと不幸、暗闇と光、色々なものが僕には反対に思える。自殺したくなる。
ヒナトに求められれば、どれだけ気が楽だっただろう。
でも、ヒナトは僕ではなく、他の誰かを見ていた。
いつも、いつも。
僕はヒナトが好きじゃない。
ヒナトも、『祝詞』を殺したいほど求めている。殺意。
とてもキレイで、とても純粋な殺意。
ちゃんと、ここに立っているのか。
宙に浮いてないか、確認したいだけだけど。
「ちゃんと、いるよ」
泣きそうになる。
軽くはならないけど、心が一休みしている。
涙は出なかった。前から何でか知らないけど、涙はあまり出ないほうでして。
「お前は、祝詞だろーが」
初めて、メジロさんに名前を呼ばれた。
嬉しいのか、恥ずかしいのか、わからないけど。
────××ちゃん、
昔、春瀬さんに呼ばれていた僕のあだ名。
あの監禁生活の途中、その名前を呼ばれ続け、最終的に、完全に壊れるまでそれは続いて、
××ちゃん××ちゃん××ちゃん××ちゃん
ノリちゃん。
耳鳴りがする。ザーッとなって、鼓膜を掻き毟りたくなる。
確かにあの時、春瀬さんは僕をこう呼んでいた。
大丈夫だから。
ちゃんと、いるから。
「ヒナト」
キミが認めてくれなくても、僕はここにいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・しょ、ねん」
妙に歯切れが悪いけど、僕は『少年』と呼ばれた。
ヒナトが椅子から立ち上がり、ふらつきつつもこちらに向かって来る。
「聞いて、少年っ」「ん」「祝詞がね、一瞬だけどあたしに話しかけてくれたっ」「・・・そっか」「凄くない?あたし、祝詞とまた一緒に暮らせるかもっ」
聞いてみようか。
「ねぇ、ヒナト」
聞きたくないけど。
「何だ?」
「ヒナトにとって、『少年』は何?」
恋人?家族?友達?親友?知らない男の子?祝詞?
焦点が合わない。
「ヒナトが好きなのは、『少年』なの『祝詞』なの」
「何言ってるのか、よくわからないな」
それまでのヒナトとは違う、口調。低音で、どこか微笑んでいた。
皮膚があわ立つ。
「僕が、『祝詞』なんだよ。一条祝詞。昔は、助けられなくてごめん。本当に、ごめん」
無反応。どこかの推理ゲームで、犯人を捕まえようとする熱血刑事の気分を味わっている。なんてね。
「僕は、祝詞なんだ。少年だけど、祝詞なんだ。今までずっと、ヒナトの傍に居たんだよ」そしてキミを騙していたんだ「大好きだから」なんてね。
ヒナトが、少しだけ首を傾げる。
何か言うのかと、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、 」
痛い。
激痛が鈍感だけど走った。
あれ、れれれれ??
何で僕 刺されてるの?
ナイフ。
血、落ちた。
あれ、刺された?ヒナトに?
ヒナトを見る。
「祝詞、久しぶり」
記憶、戻った?
戻ってない。
ヒナトは正常なんかじゃない。違う、違う。
監禁前のヒナトじゃない。
「ひ、さしぶ 」
視界が、暗くなって、
ヒナトは? あ、れ?

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