包帯戦争。 作者/朝倉疾風

第六章 殺人+日常=非日常? ~05~
潰れかけのアンパンに被りついた後、ヒナトはベッドにまっしぐら。すぐに寝息を立て始めた。
できれば、学校に行ってもらいたいのだけど。
テレビをつけて、何気なく机の上を見ると名刺があった。
「………宮古佳苗、ね」
宮古さんの名前と、携帯の番号、そして話したいことがあるから今からチャイルドルームに来れないか、と書かれている。
ぬう。ヒナトは寝てるし、まっ、いっか。
名刺をパジャマのポケットに入れ、僕はまた、病室から出る。
「はい、どーも♪少年くんですねっ」
笑顔を最大にして、宮古さんがチャイルドルームのテレビの前に座っている。ガキか、この人。
読書やぬいぐるみやらで遊んでいる入院中の子供が、不思議そうに宮古さんと僕を見ている。
「ま、そんな所に立ってないでどーぞー」
「………どーでもいいけど」
独り言でそう呟き、スリッパを脱いで裸足で上がらせてもらう。
「少年くん。いえ、どう呼びましょう。聞くところによると、愛称でちゃん付けされると過去の光景が蘇り、痙攣し、発作などを起こすと言いますが」
「さっき、それを理解したうえで僕を呼んだんですか」
「はい♪確かめておきました。発作は起きませんでしたけど、胃液が逆流したそうで」
人事だな、おい。ま、人事だけど。
宮古さんがニコッと笑う。童顔な為か、可愛らしい。
「ヒナトの事、知ってるんですね」
「はい。彼女を保護したの、私ですから」
「……………………」
「あぁ、監禁の方じゃないですよ?彼女、中学生のときに夜中一人で、しかも裸足でウロウロしていて。そこを保護したんです。パトロールして正解でした。てか幽霊かと思って超びびったんですけどねぇ~」
「ヒナトに結構嫌われてるみたいですね」
「あぁ、あったりまえじゃないですか。あの子は人間嫌いだし。それに私が、ヒナトさんが過去の事件の被害者だと知って、精神に異常があると判断して、病院に送ろうと思ったんですよ」
あー、それで。
ヒナトが怒っちゃった訳だ。
参りました、と宮古さんが舌を出す。
「で、その嫌われている警察さんが、今更何の用ですか?」
「……誰が、双子のお兄さんを殺したんでしょうね」
息が一時的に止まった、気がした。宮古さんは、悪戯っ子のような目で僕を真っ直ぐ見つめている。
「………さぁ。僕は知りません」
「あの事件の生存者は、茅野春瀬さん、茅野ヒナトさん、一条祝詞さん。この三人の誰かが、双子のお兄さんを殺さないと、事件は終わらないんです」
鋭く心を突いてくる。
厄介だ。
「誰なんでしょうか」「わかりません。覚えてませんし」「覚えてるんでしょ?本当は」
じりじりと、迫ってくる。顔じゃなくて。
笑顔が怖い。怖いっすよー。
「宮古さんは、それを知ってどうするんですか?」
「逮捕です!……と言いたいんですが、違います。単なる好奇心てやつでして」
好奇心、ねぇ。
「にしても、不思議ですね」「何がですか?」
宮古さんが視線を僕からテレビの画面にずらす。
丁度、お昼のニュースが流れるときだ。
「どうして、“自殺”だと思わないんですか?」
「……………………」
「覚えてないんでしょう?ならどうして双子さんの自殺ではないんですか?と聞いてこないでしょうか」
僕が答える隙を与えない。
「それは、あなたがちゃんと“覚えている”からです。ミート状になった双子の姿を見ているからです。ですよね?」
「………こっちは狂ってたんですよ。向こうもそうでしたけど」
「人は、追い詰められれば何でもできます」
確かに。ヒナトがいい例だ。
「すいませんが、お答えしかねますね」
「やっぱり、少年さんは覚えてるんですねっ!」
「何そんなに嬉しそうなんですか」
「好奇心旺盛だからです!」
……はぁ。

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