包帯戦争。 作者/朝倉疾風

第八章 僕が、僕であるために。 ~02~
<春瀬ラビュー>
知り合いの、てか親友のお家に招待されたのです♪
きゃほーっ♪
××ちゃんがいじれるぜぃ♪
ヒナトもすっかり××ちゃんラブになっちゃって。
嬉しいやら、寂しいやらで、ママとして複雑なのよん。
お兄ちゃんたち二人も××ちゃんと遊んでくれるし。本当助かるわ~。
んでんで、親友に会いに行くわけですが。
何を着て行こうかしら~。
「母さん」
あら、なぁに?リツくん♪
「早くしないと、相手の人、待たせちゃうよ」
あららら~!そうね、早くしましょうね!
やっぱりしっかり者だわ~。
「俺、ヒナトとリト呼んで来るから」
んまぁ、さすがお兄ちゃん♪
双子だけどリツの方がしっかり者ね!生徒会長にまでなっちゃって。ママは鼻が高いわ~。
勿論、ヒナトも可愛いしね♪
あら、もうこんな時間。
そろそろ一条さん宅にお泊りしに外出しなきゃ♪
*
双子の狂気の塊は、リツとリトという似すぎた名前だった。ヒナトの双子の兄で、殺人者で、殺された。
今思えば、あんな天真爛漫で、子供ぽくて、無邪気な春瀬さんの子供がどうしてあんなに壊れていたのかさっぱりだ。理解できない。しなくていいけど。
春瀬さんは不思議な人だった。
僕を子供みたいに可愛がってくれて、僕の母と仲が良かった。
僕は今、一番呼ばれるのを拒む名称を使っていたのも、春瀬さんだ。
ガラスみたいに固く、薄い精神の人だった。
透き通っているけど、一歩間違えれば自分で自分を傷つけそうな印象。
自分の子供三人を大切にしていて、僕の母とお互いの家庭の自慢を笑いあいながら話していた。
そして、
その自慢に満ちた好青年の双子に刃を向けられた。
あの時の春瀬さんの表情が、しばらくは夢に出て消えない日が幾度か続いた。
浮かんでは消え、浮かんでは消え。
危なっかしい人でもあったな、そういえば。
包丁の使い方は僕の方がうまかったし。母が教えていたけど。
常識もなかったかなー。
信号は赤でダッシュだ!って言い張って危うく大事故を起こす所だったし。
その度に僕の母が子供みたいにしゅんとしている春瀬さんを叱っていたけど。
何でだろう。
自分の母親の顔はスモークが張って、思い出せないのに、春瀬さんのキレイな童顔はすぐに思い出せる。
ヒナトが似ているからか?多分そうだろうな。
自転車がパンクしている為、歩いてヒナトの家に向かう。
今日も暑いなー。何で一週間で死ぬセミがこんな鳴いてんだよ。おかしいだろ。
人間よりも人口密度高くねえ?冗談です。
田んぼ道を延々と歩き続け、学校を通り過ぎ、裏門の道をどんどん歩く。
虫かごや網を持った小学生のちびっ子諸君が数人通り過ぎ、カキ氷売りのおじさんが自転車で走り去り、部活に行く先輩を無視して、ヒナトの家はそこにあった。
人通りが少ないから、この家は結構目立つ。でかいし。僕もここで遊ばせてもらったけど、何だか初めてという気持ちがする。
洋風の館みたいな、ホラーとかに出てくる屋敷だ。
『茅野』と表札が出てある。
チャイムを押し、しばらく待っていると
『どちら様ですか』
「こちら様です」
僕が返事して、数秒後に大きなため息が聞こえてきた。
『…………立て込んでるんですけど』
「恋人であるヒナトちゃんとデートしに来ましたー」
しばらく無言。
そして屋敷の扉が開き、声の主であるナチが出てきた。靴も履かず、裸足で僕の方へ近づいてくる。つか、走ってくる。
猛ダッシュだ。
………………………っっ!!!
キスしそうなくらい顔を近づけられた。
「こ、ここここここここ恋人おおおおおお???」
面白い奴だ。
「うん、あれ。聞いてな「聞いてねぇぞ!」
このシスコンめ。
やっぱ男だったんだー。
「大体、何で?何でお前があねねと?理解できないっ!釣り合わないっ!今すぐ僕の前から立ち去れっ」
「いやいやいや。そんな事言わないでよ。ヒナトは?ラムネ持ってきたんだけど」
「いるか!え、詳しく教えろ!どっちから?どっちからだって聞いてんだよ、この糞!」
うわー。ナチのイメージが崩れていく。
「ヒナトから」
「死ねっ!」
あぁ、そういうわけか。なるほどねぇ。
「好きなんだな。ヒナトの事」
「ぬぽっっっっ!!!!」
恐ろしく顔に出やすい奴だな。顔真っ赤でプルプルしてるし。
「い、従兄弟だからだよっ!」「顔真っ赤だぞ、青二才」「死ねっ!この似非野郎!」
元気だこと。おほほほほ。
こういう奴の方がいいかもな。
僕よりも、こういう純粋に好きって言える奴の方が。
「あ、あねねは今ちょい手ぇかかってるから……。今日は無理。帰れ」
「それってご乱心?」
「薬飲ませて寝かせてる」
「僕、ここにもう一人会いたい人がいるんだけど」
「誰だよ」
「春瀬さん」
スゥッとナチの顔から血の気が失せた。
少しだけ震えている。
「何で?何で春瀬に会いたいわけ?」
「会って、話がしたいから」
「無駄だから。人形みたい。何言っても答えてくれないし。ヒナトは、あの人を『母親』と認識さえもしてない。でっかい人形だと思ってる」
母親を人形と思う子供かぁ。
シリアスだな。
「ナチは、両親とかいねーの?」「いるけど」
……いるんだ。
「えっと、どこにいるの?」「この家」
……マジでか?意外だ。
「住んでるんだな」「ヒナトはほぼ無視だけど」「ナチの事は無視しないわけ?」「うん」
どこか嬉しそうだった。微笑ましいねー。
屋敷の中に入りたくてうずうずしてきた。
「今はその両親は?」「仕事だっつーの。あんま帰って来ないけどね」
ふーん。
では、行きますか。
「ナチ」「何だよ」「渡したいものあるから、目ぇ閉じて」「?はあ」
ナチが目を閉じる。
睫毛長いねぇ。ヒナトそっくりだ。
さて、今のうちに。
門を飛び越し、敷地内に潜入成功した。
「ッ、おい!お前っ!」
「では」
招かざる客、出動なり。

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