包帯戦争。               作者/朝倉疾風

第七章  暗闇=絶望 光=欲望  ~03~



     <志乃岡ラビュー>


  どうしてだか。よくわかんないけど。
  これだけは、わかります。
  私は、彼が大好きです。いえ、本当に。
  いつから?って聞かれても、初めから。
  でも、そーゆー好きではないなぁ。
  ヤシロちゃん?くん?
  どっちでもいーや。
  ヤシロちゃんが彼と中庭に行くのを見て、
  もう嫉妬心バリバリでした。
  でも、良かった。
  スーパーヒーローが助けてくれて。



   *



僕がまだ、仮初のガキだったころ。

病院に、一人だけ異質な先生がいた。
先生、と言っていいのかどうかわからないけど、かなりの不真面目で、かなり格好よかった気がする。
いや、ごめんなさい。同性だから少しだけ妬みます。
いや、冗談です。
かなり、格好よかった。金髪だったし。
女子の患者さんとかが好きそうな。かなり名前が変わっているけど。
すずめ……?からす???
なんかそんな名前だった。
いつも、僕がテレビを見ていると、
「エロビデオ見てるのか?」
って聞いてきた。
見てません、って本当の事を言えば、ニヤニヤ笑い出し、
「ガーキ♪」
そう言って、僕の額を指でつんっと突いてくる。
カラコンをしていて、目がどことなく蒼かった。



「んがー」
目を開けて、初めに奇声が出てきた。
真っ白な天井と消毒液の匂いで、ここが病室だとわかる。
「起きたか?ガキ」
耳鳴りがした。
うーわー。何でだろう。走馬灯でも見てるんだろうか。いい加減、目を覚ましたい。
つか。
何でここにアイツがいるのかさえ、わからない。
世界って不思議だな~。
「………………何で、いるんですか」
「本業だろうが。んで、ここは精神科じゃない。俺はやさしーから、ガキの見舞いだ」
へぇ。優しい、ねぇ。へぇ。
聞き間違いかな。今、とんでもない単語が脳裏を駆け巡り、大脳を刺激した。
「………ツバメさん」
「メジロだ」
あ、確かそういう名前だった。
「メジロさん、ヒナトは?」
「ヤシロじゃなくて、ヒナトを心配するんだな、この糞ガキ。おめーのせいでヤシロの精神ズタぼろだ」
「反省してます」「嘘だろ」「はい」
ヒナト以外の人間なんて、どーでもいい。
「アイツなら、隣の部屋で寝てる」
「今、何時ですか?」
「朝方の6時だ」
なるほど。ヒナトが起きてないわけだ。
あれから4時間か。意外と眠りが浅かったか。

メジロさんが、僕のベッドに座る。背中を向けているため、顔は見えない。
「おっめー。ヤシロに否定しただろ」「はい」
怒っているような、そんな気がした。
「先生は「そう呼ぶな。うぜえ」
「………………メジロさんは、知ってたんですよね。ヤシロが誤解して僕を紅桜ノリトって認識してる事」
返事はなかった。ので、続ける。
「僕も、知らないと思った」
「あー、そうだわな。うん。おめーはそのままノリトになるって思ってた。ニュースとか見ねぇから」
「でも、僕はヤシロの誤解を知っていた。メジロさんの願望は阻止された、というわけで」
「がんぼー……。んま、おめーは見事俺の願いを裏切り、ヤシロに全ての種を明かして心を壊したと」
「そーゆー事に」なるのか?「なりますね」

「ヤシロはもうアレダメだわ。何言っても反応しねー」
「僕、殺されそうになったんですか?」
「ま、ノリトじゃなくなるんだったらノリトの内に殺してしまえ、だろうな。ノリトなら、殺してしまえ、ホトトギス」
「そして、そこを先生が助けてくれたと」
「先生言うな。メジロだ。礼は志乃岡に言ってくれ」
ぬ。
志乃岡ときますか。
「あいつが病室から抜け出すの見て、追って来た。トイレだったらしいけど。んで、窓の外見て驚いてたからな」

志乃岡ねぇ。あいつ精神科か。
あそこの病棟から中庭、見えやすいもんなぁ。
「ま、何はともあれ」
メジロさんがこっちを向いた。
笑ってた。
「久しぶりだな、糞ガキ。あと、奇声のご精悍、おめでとう」