包帯戦争。               作者/朝倉疾風

1:僕の一時てきな回想。



僕の暮らすこの平凡な田舎町に、6年前事件があった。その加害者である、人体改造という凄まじい性癖を持ったヒナトと、自分で言うのもなんだけど、被害者である僕は、大きな心の誤作動があるものの、何とか高校生まで生きてこれた。
そんな僕らの町で、十代の少女の目玉をくりぬくという、何とも形容詞しがたい事件が勃発。
その犯人であり、僕のクラスメイトである木庭里輪廻と、只今決闘中……。
「死んで。もう、終わりやから」
「こっちは終わるつもり、ないんだけど」
そうだ。終わってたまるか。
いや、そんな熱血なものでもない。
どちらかといえば、終わってもいいけど、こんな奴に人生を終わらせられたくない。
僕の人生を終わらす事ができるのは、彼女だけなんだから。

「もうすぐで、キミは捕まるよ。殺人罪で」
「知らんしっ!」
逆ギレかよ。でも、もうここまで付き合うつもりはない。飽きた。そろそろ、そろそろ。
「ぎゃあああああああああああああああああああっ」
奇声を発しながら、木庭里が走ってくる。
ナイフがこちらを向く。
うーん、腹部の痛みが強くなってきた。
「しねえええええええええええええええええええっ」
だから。
言ってるじゃん。




「死ぬ気は、ないって」




誰かが、「そうだね」と答えた気がした。



          ♪


戸が開く音がして、そちらを見る。
でも、見えない。
「誰ですか?」
答えはない。少し不安になり、ナースコールを握り締める。
「誰、ですか?」
少し強めに訊ねると、
「木庭里輪廻の、おねーさんですか?」
逆に聞かれた。
あっていたので、頷く。その男…男の子?男の人?どちらかはわからないけど、その人は私のすぐ横を通った気がした。
「どちら様ですか?」
ベッドの横の、パイプ椅子が軋む音がする。
「ま、僕の事は聞かなくていいよ。それより……ナゴミさん、だよね」
「はい」
目がないという事は、これほどまでに不便だろうか。
声質で、大体高校生か大学生だという印象を受ける。
「僕、木庭里さんの同級生。んで。キミにどうしても話して置きたい事があって」
「何ですか?」
意図的に、数拍おいた。
「木庭里輪廻が、捕まったよ」

真っ暗だけど、目の前で何かが崩れた。
音をたてながら、フラッシュのようなものが広がる。
「キミの、為なんでしょ?」
こいつは、誰だ?どうして、どうして?
「木庭里ナゴミが、木庭里輪廻を指図して目玉をくりぬけと命令したんだ。違うか?」
「ちっ……違……っ」
歯がガタガタと震え始める。でも、だってどうしたって、それは……
「り、輪廻が言ったの?」
「ううん。でも、木庭里はそんな事するはずじゃないなーって思って」
何なんだ、こいつ。
いけない。体中が震え始める。怖い。こいつの側にいると、とても怖い。
「警察には……何て……」
「それは、ほぼ堪忍したって思っていいわけ?」
「早く答えろっ!」
「…木庭里は、キミが指図したとは言ってないよ。よかったね」
声で、そいつがどんな表情をしているのかわかる。
手にとるように。

「お…まえは、どーする…」
「僕?僕はだってほら。部外者じゃん。興味ないし。一応、キミにも伝えておこうかなって思っただけ。退院してなくてよかったよかった」
軽口でそう言い、また、パイプ椅子の軋む音。
そいつが、前を通った。…気がした。
「じゃ、ばいばい」
「……………」


          ♪



両目が潰れた少女は、きっと僕を睨んでいたんだろうな。せっかく偽善でやってやったのによう。
ま、いいや。
「少年」
僕にはヒナトがいるから。なんて。
「終わったか?」
「もう大丈夫。事件終わりっ。ヒナトをバカにする奴は、もういないよ」
ヒナトは答えなかった。
そのかわり、普段あまり変わらない表情を、少しだけ柔らかくした。