包帯戦争。 作者/朝倉疾風

<番外編> =殺したがり屋の脇役くん= ~02~
また、厄介なのが来た。
今度は殺したがり屋で女装した少年。
色素の抜けた白い髪で、目は濁ってはいたがイキイキしていた。
「ノリトは?ノリトはどこなわけ~?」
俺に延々と尋ねてくる。
「ソイツの名前は?」「紅桜ノリト」
どんな洒落た苗字だよ。アイツじゃねーな。全くの別人だ。アイツ一条だし。
「どっかの宇宙で生きてんじゃねーの?」
嘘。死んだよ。
ニュースで見て、印象的な名前で覚えてんだよ。つかコイツだったんだな。
その子供が死んで発狂した奴。
変わり者だよな。ホモではねーんだけど、何ていうか。変態嗜好みてーな。
「ノリトがいーの!ノリトがいないぃぃぃぃっ」
「あーもーうるせぇ。黙れ、只でさえ頭いってーのに。二日酔いだ。あークソ」
真面目に今日仕事休めばよかったー。
ん?あ、いい所にいい奴がいた。んー、子供をからかうのは好きじゃねーな。でも、まいーや。
「祝詞」
曳詰ヤシロがその名前に敏感に反応する。
これで彼の記憶が少し狂ってくれていたらいいんだけど。
「何ですか」
糞ガキがヤシロの髪の毛を見ながら聞いた。やっぱめだつからか。
「調子は、どう「ノリト?」
ヤシロが椅子から立ち上がり、糞ガキに近づく。
小刻みに震えながら、糞ガキの頬にそっと触れた。冷たかったのか、それとも驚いたのか、怯えたのか、糞ガキがびくっと震えた。
「ノリトなのかなぁ…………?」
か細い声で確認する。でも、それは公認してくれという意味もあるのかも。
「う、うん。はい。祝詞です」
ズレた。完璧に、完全に。
「ノリトっ!ノリトノリトノリトノリトノリト!!」
名前を連呼しながら、糞ガキに抱きつく。
案の定、糞ガキは呆然として泣きつくヤシロを見ているだけだが。
まぁ、二人には何も言わずに黙っておこう。
いつバレるのかもわかんねぇしな。
あ、あと。
ヤシロが男だって事も。
*
「だーいーすーきー♪マジで超好きー♪もぉノリト無しでは生きられませーん。僕好きだからぁ」
「そこのバカップル。気持ち悪い。死ね」
糞ガキのカウンセリングなのにヤシロが邪魔でしょうがねぇな、おい。
「死ねとかー、酷いなぁ。ね、ノーリト♪」
「うん」
糞ガキも慣れたんだろうな。そりゃトイレまで一緒だったら鬱陶しさも消えて現実を認識するわな。
「えっと……ヤシロ君もカウンセリングする?」
「ヤシロでいーよぉ♪何『くん』づけしてるのさ。ずーっとヤシロだったのにぃ」
「……そうだね」
おや。糞ガキも話を合わせてきた。徐々に自分の置かれた立場を理解し始めたか。良い事だな。
「ノリトの大切な人って誰かなぁ?」
冗談ぽく、糞ガキに聞いたヤシロの目は爛々だった。糞ガキはしばらく考えて、
「…………ヒナちゃんかな」
まずい。
「………………………ひーなー?」
ネジが外れたような発音でヤシロが首をぐいっと傾ける。そして、
「どーしてどーしてドーしてドーしてどーしてどーしてどーしてどーして何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故」
疑問を連呼し、首をガクガクと上下に揺らす。
ぶらぶらぶらぶらぶらぶらぶら。
「何で、ヒナ?ヒナ?ひよこ?僕が……僕が先に見つけたのにぃぃぃぃっっ!!」
奇声。
糞ガキがぼんやりとヤシロを見ている。
「ヤシ「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
暴れだす。
糞ガキの頬に爪を引っかいて、数ミリの傷口から血が少量でてきた。
それでも糞ガキは無表情だ。
ヒナトの発狂の方が恐ろしいんだろうな。
「ヤシロっ、こいつはノリトだからっ」
嘘、ごめん。
本当は違うわけ。
ノリトなんてどこにもいない。
この地球上で、どこでも。
でも、皮肉だよな。
糞ガキは地球上にいるのに存在を認められず、ノリトはいないのに存在を認められるなんて。
「ごめん、ちょっと意地悪してみたかったんだ」
そう言ったのは、糞ガキだった。
だ。
暴れていたヤシロが動きをピタリと止め、じっと糞ガキを見る。
「ヤシロ、が好き。世界で一番、大好き、だよ」
途切れ途切れにそう言い、ゆっくりとヤシロに抱きついた。
「だから、ね、落ち着いて」
「ノリト、ノリト、ノリト、ノリト」
「僕はここにいるから」
ポンポンと、幼児をあやすようにヤシロの背中を軽く叩く。俺の方を見ず、淡々と。
ヤシロが二コツと笑い、そして涙を糞ガキの服に付着させながら、顔を埋めた。
「好き、僕もノリトが世界で一番、好き。だーいすき。もしノリトに近づく人間がいたら、殺す。そいつらぜーんぶ。だって、ノリトがそいつの事好きになっちゃうかもだから。だから、嫌い。嫌いだ。みーんな死ねばいいのに。僕とノリトだけの世界になっちゃえばいいのに」
そして、俺。
俺を見る。
ヤシロの、鋭い目が。
「こっちに来るな」
先ほどの態度とはうってかわり、どこから手に入れたのか、パジャマのポケットからナイフを取り出す。
あー、やばいな。
「死ね。ノリトに近づくな。ノリトは僕と遊ぶの。お前は嫌いだ、死ね。死んじゃえばいい」
糞ガキはぼんやりとどこかを見ている。
ヒナトの事を思い出したのか、悲しげな……あ、いや訂正。全く何の感情も入ってない目だった。
「お宅の子、えらいのに好かれちゃってますが」
「………………………話しかけんな」
ひっでー。
「殺したがり屋に懐かれちゃって。可哀相に」
「………………………黙れ」
本当に好かれてねーのな。
てか、ここ禁煙だから煙草吸うな。未成年だろ、こら。
「お前、糞ガキ養う金あるわけ?」「駄菓子屋ナメんな。いーとこのお坊ちゃんが」
先輩に対しての口の聞き方、んまになってねーな。
高校生だろ、今。
「で、ヤンキーくんが何でまた糞ガキの面倒見るって宣言したわけ?」
「人の子供を糞糞ぬかすな」
「失敬。で、あの少年を引き取る動機は?まだ高校生の糞ガキが」
うっわ、怖。睨まれた。目つき悪ぃなー、もう。俺みたい。
「同情?」
ピクッと眉が動く。
煙草を灰皿に押し付け、さも心外そうに。
「そんなんじゃ、ねーよ」
「じゃあ、何でなわけ?興味ありあり」
糞ガキが糞ガキ養うってどんだけだよ。そういう意味じゃねーけど。
だって、コイツ根はいい奴だけどどー考えても説得力ねぇし。ましてや親戚の子供を食わせて行くって宣言しちゃってぇ。
「そんな、甘くねーよ?」「んだよ、3歳年上だからってえばんな。胸糞悪ぃ」
立派な社会人ですから。
「で、何で?」
興味本位じゃないはずだ。
「…………………………目が、気に入った」
…………………。
「濁ったような、白。灰色、みてーなのが気に入った。そんで、似ていた。俺の、母親に」
従兄弟だからな。
当たり前だ。
「同情じゃねーよ。そんなんでガキ預かる訳ねーだろ。そんな生半可なツラしてねーだろ」
「ごもっともです。でも、奇遇だな」
「何が」
「俺も、アイツの目が気に入った」
うげっと嫌な目をされた。かなしーなぁ。
でも、まぁ。
こいつなら安心だろ。
ヤンキーだけど。
「じゃあ、糞ガキは頼むぜー、小春っち」
「その呼び方、本気でうぜーから」
殺し屋は何て言うだろう。
興味ありありだ。

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