包帯戦争。 作者/朝倉疾風

第十五章 包帯戦争終戦後。
眠い目をこすりながら、あいつがいなくなった家を見渡してみる。 物静かだった。 ま、元々そんなにベラベラ喋る奴でもなかったから・・・・喋ってたっけ。
「あ、あの」 「あ?」
不細工じゃない、どっちかってーと可愛い系の女子が財布を持って現れた。
「ラムネ、ください」
「おう。 一本80円な」
名前は・・・・・なんだっけ。 確かあいつはし、しーしー・・・・しのおかとか呼んでたよな。
同じクラスだった奴。
「いつもサンキュな」
「いえいえ。 ファンですから」
あーそー。
志乃岡が玄関先に腰掛けて、ラムネの蓋を開けた。
ここで飲むのか。
「就職、決まったわけ?」
「はい。 ペットショップです」
「・・・・・・・・・・へぇ」 それはそれは。
「ま、精々ガンバレよ。 こんな大人になるなよ」
「・・・・・・自覚、あったんですね」
うわー、きわどいな。
あいつがしんでから、もう2年ぐらい経った。
病室に入ってみたら、シーツは血の海で、ヒナト自身も血だらけで、何よりあいつが肉の塊だった。
静動脈を掻き切られ、大量出血。 それでも、あいつはヒナトの最後まで抱いていた。
そんで、肝心のヒナトは。
廃人になってしまった。
もう、呼びかけても答えず、ただ漠然と、あいつに抱きしめられながら、呼吸しているだけだった。
その爪にあいつの肉が挟まっていて、気味悪かったのを覚えている。
今回はさすがに警察沙汰になり、ヒナトも連行されたが、何の抵抗も見せなかった。
そんで、
裁判の最中に、自分の動脈をナイフで切って、呆気なく死亡した。
それまで何も食べず、喋らず、目すら動かさず。
「暑いですね」 「ああ。 夏休みだな」
これで、よかったんだろうか。
糞メジロはしばらく放心状態で、悲しげにあいつの写真を見ていたけど、今もまだ精神科医をやっている。
姉貴も・・・・・・・・、まともに働いてるらしい。 一緒に住んでるけど、アイツ何やってんだろうな。
「それじゃ、私行きますね」
「おう」
軽く手を振る。 お互いに。 そして彼女は歩いて行った。
「ヒロム、あたしラムネ飲みたい」
「うっせーな、わかったよ」
「にしてもねみーねぇ」
甲高い声の女のガキを連れて、男が立ち寄った。
「ラムネ、ください」 「80円な」
10円玉8個をラムネと交換する。
「カラカラするよ、ヒロムっ!」
「・・・・・・・まあ、ラムネだからな」
「んー、何その反応~。 ふわ~つかねみーね」
「そだな。 じゃあ、ドライブとか行きますか」
「おー、いーねー」
無駄に語尾を延ばすガキが、しっかりと男の手を握る。 男の顔が、少しだけ照れたように見えた。
そして、一人の男を彼らはすれ違った。
俺は、あいつを知っている。
見た感じ、女だけど、あいつは男だ。
「ラムネ、二本くーださい」
無邪気な笑顔でそう言ってくる。
無言で二本渡した。 160円、手に置かれた。
「ありがと♪」 「ちょい待ち」
呼び止める。
そいつが、振り返った。
「ノリトは、見つかったか?」
そして、
そいつが笑顔になる。
「ノリトって、誰だよ~」
そっか。
諦めついたのか。
「いや、ごめん。 何でもない」
これでもう、終わりかな。
頑張る必要ねーじゃん。
俺も、そろそろ女見つけようかねぇ。
煙草をふかす。
白い煙が口から出た。
「終わったねぇ」
=完=

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