包帯戦争。 作者/朝倉疾風

<番外編> =殺したがり屋の脇役くん= ~01~
僕を好きになってくれたのは、
あまりにも危険で壊れた人だった。
※
何回も言うけど、マジでガキは大嫌いの分類に入る。
何なわけ?あの泣き声。豚でもあるまいし。
うぜぇ。がちうぜぇ。
良くて高校生ぐらいがいいよな。幼稚園・小学生はもう生理的に受け付けない。鬱陶しい。
でも、俺が初出勤して1年くらい経った頃、そいつは現れた。
何でも仲良しのじょーちゃんの兄貴に監禁され、心身共にふかーい傷を負ったらしい。
んで、自分の名前の二文字を取って『ちゃん』をつけられると、いかんらしい。
禁句用語。
しっかり覚えておけと小春っちに言われた。
アイツ、あんな不真面目で不良のクセによく義務教育受けたよな。教室で暴れ、高校は行かなかったらしいけど。ご立派ご立派。
んで、そいつと嫌々ながらのご対面。
「…………………………」
俺は正直、その糞ガキが気に入ってしまった。
「あの、何ですか」
何ですかじゃねーよ、阿呆。コイツ何?
監禁されて性的暴行と暴力受けたって聞いたからどんな壊れた奴だと思ってたけど。
普通じゃねーか。
あ、いや。目が死んでるわ。うん。濁ってる。
「おめー、入院しろ。病院で」
「いいですけど……はい、わかりました」
「おう、いい返事だ。糞ガキのクセに」
「…………えっと、先生「先生っつーな。メジロさんでいいわ。俺、基本的に『先生』とか無理」
普段ならガキに名前んも呼ばせねーのに、コイツにだけは呼ぶように言った。
ヒナトっつー奴はマジで気に食わない。嫌いの分類だ。でも、アイツは『大事な子だから』って抜かした。ヒューヒュー。お熱いねぇ、羨ましいわい。
んで、ヒナトの方は入院を三日して終了。
それを言ったら糞ガキは、
「多分、嫌なんだと思います。ヒナちゃん、病院嫌いだから」
いやいや。
病院じゃなくて人間嫌いだろ。あんだけわやにされれば。
カウンセリングは一番めんどいけど、糞ガキの時はさほど気にならなかった。
「んで、ここに絵ぇ書いてー」「何のですか?」「んっと、『自分』を表現してみろー」
真っ白な画用紙に、色鉛筆やらクレヨンやらを渡してみた。
数十分後。
「………………………………………………」
糞ガキの画用紙は真っ白のままだった。
「書けつってんだろ」
「出来ました」
「は?」
「怒られるかも知れないけど、これ、僕なんで」
そう言って画用紙を渡してきた。
へー。
真っ白。つまり「無い」って事か。
「ヒナちゃんに、言われたんです」
聞いてもないけど、糞ガキは口を開いた。
「『祝詞が、いない』って」
「……………………」
「ヒナちゃんにとって、僕はもう『いない』んです。僕は消されたんです。記憶から」
「あいつだけだよ。俺は覚えてるし」
「…………でも、ヒナちゃんの世界は僕なんだって。だから、僕がいなくなったらヒナちゃんはいなくなるんだって」
意味がわからん。
でも、アレだ。
泣きそうな声だけど泣いてないって事だけはわかる。
自分の存在を認められないって事か。
「じゃあ、お前にとって世界は何なわけ」
「イメージで、ですか?」
「そーだよ」
しばらく何かを考える糞ガキ。ホントにキレイな顔だよな。そりゃ男にもモテるわ。ま、気に入られた相手が悪かったけどな。
「濁った、灰色」
灰色……か。
「何でそう思ったわけ?」
「真っ白で何もないけど、汚れてるから」
声が震えている。泣くかと思ったけど、泣かなかった。いや違う。
涙が、出てこねぇんだ。
「汚れ、てるから。……汚い。トイレとかお風呂の時、一番やだ、です。嫌いだ。だって、だって」
「もういい。みなまで言うな」
これ以上は壊れてしまうと思い、止めた。
多分、これからこいつは女とでもしねーんだろうな。
怖くて。
「ヒナちゃん、もです。だから、ヒナちゃ、がナイフ、てじ、自分の、を切ろうとして、そ、そこ、血が出て、変形して、て」
「目閉じろ、何も考えるな。別の、何か別の考えろ」
下半身、グロテスクだったんだろうな。
ヒナトも風呂入って絶叫してたくらいだし。
「…………………先生」「メジロさん」「……メジロさん、苦しいから。苦しいから早くどいてください」
こんの糞ガキ。
人がせっかく心配してハグしてやってんのによお。
そっと離すと、糞ガキは迷惑そうな顔で
「メジロさん、本当に先生ですか」
「お前、大人からかってるだろ」
「いえ、メジロさんは何ていうか……ヤンキーっぽいんで」
コイツ、すげぇ。何で分かったんだよ。
小春とかと同じ匂いすんのかねぇ。
「小春、知ってる?」
「………小春、さんですか?あぁ、知ってます。高校生の人、ですよね。親戚の」
あいつ、高校行ってねーけどね。働いてるけどね。
実家の駄菓子屋で。ププッ。

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