小説カイコ
作者/ryuka ◆wtjNtxaTX2
ごあいさつ
誠にありがとうございます。画面を乗り越えて感謝しに行きたいっす(゜∀゜)!!
プロローグ
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亡き冬は 花とのみこそ雪は散り
かくても月日は経にけりや
濁り染めつる吾が心 いつぞや夢てふものを頼みそめてき
■
―――― 人売りが来たぞ。
―――――― 鬼子商人が町に来よったぞ。
平安京、一条大路より船岡山を越え遥か外京の地。
人商人(ヒトアキンド)の一団がどこからともなく現れた。
彼らは灰に薄く汚れたくたびれた直垂姿で、のそのそと、身売りの子供を入れた大きな檻をこれまたくたびれた牛にのそのそと曳かせてやって来た。その、あまり快くない一行に町の人々は明らかに嫌悪の表情をしたり、はたまた好奇心を剥き出しに騒ぎ立てたりと、多彩な反応を示す。
やがて人商人の周りに人だかりができ始めた。そこでもう十分に人が集まったと商人の長は判断したのだろう。歩みを止めて、牛を止めて、牛と檻とを繋いでいた綱を牛から放してやった。
―――――――― 檻の中の子供たちは、ここぞとばかりに急に大きな泣き声とも叫び声ともつかぬ騒音を立て始める。
檻の隙間という隙間から悲鳴と共にうじゃうじゃと伸ばされた何本もの小さな手を商人は鬱陶しげに一瞥した。一息吸うと、人だかりに向かって大声を張り上げる。
「おおや、礪屋の人売りじゃ、日暮れまでじゃ、買いたいもんは俺に言え。」
しかし野次馬な人々はなかなか子どもを買おうとしない。興味津々に、檻の中の子供を見ているだけだ。
「鬼子がおるぞ。」野次馬の大衆の中から、そう言った声が聞こえた。「どこじゃどこじゃ、」「左の奥じゃ、鬼子が一人おる。」「見えたぞ、鬼子だ、確かに居るぞ!」「俺にも見せろ。」「どこじゃどこじゃ……」
商人は心の中で舌打ちした。確かに仲間の言った通りであった。鬼子を一緒に売りに来るべきではなかった。きっと人々は不吉な、気味の悪い鬼子と一緒の檻に入れられた他の子どもまで気味悪がって買わないのだろう。
いらいらとする頭を抑えて、商人は檻の中の鬼子を探した。鬼子は、他の子どもがしているように檻の外に手を伸ばしたり騒ぎ立てたりすることもなく、ただただ一人静かに檻の端でじっと座っていた。その、不気味な琥珀色の瞳で人々を睨みながら。他の子どもとは違う、老人のような灰色の髪を微かに風にそよがせながら。
すると突然、人々の間にどよめきが走った。何が起こったのかと、商人は鬼子から目を離して大衆の方に向き直る。
「おお、陰陽師の旦那か。」
一際目立った、長身の人物が向こうからゆっくりとした足取りで現れた。深草色の狩衣姿で、薄青色の指貫を穿いている。
この陰陽師だと名乗る長身の男は、商人にとって数少ないありがたい常連客であった。何のためにかは知らないが、陰陽師はたまにふらりと現れては気に入った子供を数人買っていくのだった。何に使うのかと聞いても不気味に微笑むだけで教えてはくれない。人々はきっと怪しげな妖術の生贄に、子供の生血が必要なのだろうと勝手に推測しては恐ろしがっていた。
陰陽師は商人の前まで現れると、しげしげと檻の中を観察した後に、商人に向き直った。
「のう、鬼子がおるな。」いつも通りの、無機質な声音でそう呟く。「あれを私におくれ。いくらじゃろか。」
商人は正直に驚いた。絶対に売れないと思っていたのに。
「でも旦那、いいのですか。あれは見ての通り見た目が……」
「構わぬ。それゆえ気に入った。」
「はぁ。」相変わらずにおかしな男だ。しかし、鬼子を買ってくれると言うのだからありがたいことこの上ない。
「そうだ、もう一人買おう。あの子と一番仲の良い子を売っておくれ。」
「は……?」
「きっと一人では寂しいだろう、鬼子も。」
鬼子と一番仲の良い子だと? 商人には見当も付かなかった。商人は子ども達をいかに上手に売りさばくかしか考えておらず、彼らの交友関係など考えたことも無かった。
第一に、もし商人が子どもたちを注意深く見ていたとしても、鬼子にはおおよそ友と呼べる者は居なかった。檻の中の子供たちも、大人たちと同じように、鬼子を気味悪がって遠ざけていたからだ。
商人は檻の中から鬼子と、もう一人適当に選んだ男の子を出させた。ほかの子供が羨ましがってぎゃあぎゃあと不愉快な叫び声を上げる。
商人は陰陽師の前に鬼子とその子を二人並んで立たせた。鬼子は、隣に並んだその子とやはり大きく違っていた。白すぎる不吉な肌、薄すぎる不気味な瞳、年老いた老人のような灰色の髪。
陰陽師はほぉ、と感嘆の声を上げた。そして商人に金を払うと、膝を折って鬼子と同じ目線になって、顔を覗き込んだ。
鬼子は、死んだ目付きで陰陽師を見つめ返した。まだ幼い子供だというのに、あらゆる意味でその子は年老いていた。
その目線の先、陰陽師の背後では、黒い鴉がギャアギャアと鳴いている。
「そなたに名をやろう。」陰陽師が囁いた。「今日がお前の誕生日だ。さすれば五行の土が欠けておるな、通り名は 土我(ドガ)とせよ。」
「……土我。」
「そうだ、土我だ。またな、真の名もやろう。」
そう言って、陰陽師は声をより低くして、鬼子の耳元で囁いた。
「よいか、真の名は誰にも言ってはならぬ。しかるべき人に出会ったら、その時にのみ、口にしてよい。」
■登場人物■
●高橋任史(タカハシ タカシ):主人公、陸上部、高校生。本気になると方言が出ちゃう。
●カイコ :喋る蚕。のっそり動く。
【陸上部メンツ】
●鈴木国由(スズキ クニヨシ):時木の弟、悔しいぐらいイケメン。短距離。
●田中誉志夫(タナカ ホシオ):陸上部初の男子マネージャー
●小久保将輝(コクボ マサキ):制汗剤大好き男。ドS。潔癖症。中距離。
●飯塚一弥(イイヅカ カズヤ):メール魔。携帯を操る野生児。中距離。
●乙海 凛(オツミ リン):何かと絡んでくる女子。短距離。
●新条智美(シンジョウ トモミ):毒舌家。小久保とは幼なじみ。槍投げ。
●宮本里菜(ミヤモト リナ):宮本なのであだ名が武蔵。中距離。
●岡谷瑞生(オカヤ ミズキ):色白。別名 美白。小久保のことが大好き。若干のオカマ。長距離。
●山本昭良(ヤマモト アキラ):頭がいい。クールにキメてるがその実ママちゃん。長距離。
●張 立人先輩(チョウ リーレン):以外と可愛いもの好き。短距離&幅跳び。
●佐藤和尋 先輩(サトウ カズヒロ):勉強&運動万能、タラシ。短距離。
●金子涼佳先輩(カネコ スズカ):佐藤先輩の彼女様。中距離。
●渡辺先輩:名前しか出てこないお。
●津田先生:顧問の先生。雷管の煙の臭いが好き。
【クラス】
●柏木 杏(カシワギ アン):高橋の好きな子。オーケストラ部
●今井 衛(イマイ マモル):級長。チャームポイントは眼鏡。
●柚木朋祐(ユズキ トモヒロ):無口、なのに放送部らしい。
●川口 ヨッシェル :学年一の美人さん、テニス部。
●荒木 学人(アラキ ガクト):テニス部。生粋のボンボン。
●津田先生:陸上部の顧問、かつ、クラス担任。
●数村先生(カズムラセンセイ):数学の先生。あだ名は数っち。
【家族】
●高橋大季(タカハシ ダイキ):弟、中二、反抗期まっさかり
●高橋優羽子(タカハシ ユウコ):妹、小二、ウルサイ
●高橋礼夏(タカハシ レイカ) :高橋の母
●高橋パパ:若干だけの出番。カワイソス。
●衣田礼治(コロモダ レイジ):高橋の叔父、礼夏の兄、由紀子の父。
●衣田美雪(コロモダ ミユキ):高橋の叔母、由紀子の母。
●柚木由紀子(ユズキ ユキコ):高橋の従姉。礼治の娘。
●にゃん太/明杰(ニャンタ/メイケツ):高橋の家の猫。しかしその正体は…!
【その他】
●時木 杏(トキ アン):鈴木の姉、第一話でけっこう出てくる
●苓見土我(レイミ ドガ):カイコの知り合い。壁部屋師
●カイコ妹:そのまんまカイコの妹。詳細は謎。
●鈴木パパ:廃人。もともと美青年だったらしい。
●切崎拓哉(キリサキ タクヤ):高橋の幼馴染、中学の時に不良化
●切崎麻里(キリサキ マリ):拓哉の母、後編ではいっぱい出てくるよ!!
●柚木達矢(ユズキ タツヤ):柚木君のお兄さん。由紀子の夫。
●太一(タイチ):江戸時代の人。瓜谷村に住む。
●カイ(化衣):江戸時代の人。神蟲村に住む。
●弥助(ヤスケ):太一の友人。瓜谷村。
●ハツ(初):太一の妹。
●お婆:瓜谷村の蚕の世話女。世話女の中では一番高齢。
●青服:高橋を付け回す変なおじさん。その正体は…?
●蟲神(ムシガミ):高橋の両親の実家の氏神。
●遊黒(ユウコク):蟲神の妹、次女。黒蝶の姿で現れる。
●蛇姫(ヘビヒメ):蟲神の妹。三女。
●薬屋の主人:薬屋「点流堂」の主人。高橋に意味深なことを漏らす。
●佐野(サノ):カイコの過去のパートナー
●長谷川隆子(ハセガワ タカコ):カイコ妹の過去のパートナー。第一話でネット上で登場した長谷川は隆子の孫。
●折馬悠(オリウマ ユウ):八王子で偶然出会った少女。
●ギーゼラ=ヒルデガルト(Gidela Hildegard):土我さんの友人。魔女。
●由雅(ユガ):ちょくちょく土我さんの会話に出てくる人。正体は謎。
●黒い土我さん:ドッペルゲンガーとしか言いようがない……
●八岐大蛇(ヤマタノオロチ):日本神話、古事記などにも登場!八つ頭の蛇の怪物。
●安倍禰道(アベノネミチ):平安時代の陰陽師。
小説大会受賞作品
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