小説カイコ

作者/ryuka ◆wtjNtxaTX2

◇第二話 左廻り走路編◇-24


眠い。

時刻は朝の五時。朝日が少しずつ部屋に射してきた。
さっきからずっと、ザーザーと隣の浴室からシャワーの音が聞こえる。

「……。」
まだ暗い三時半頃にシャワーの音で目覚めた。最初は何事かと思ったが、すぐに鈴木が使っているんだと分かった。
朝練は六時からなので、もう一眠りしようかと思った。しかし意外とシャワーの音がデカくて寝れない。まあ、三十分もすれば静かになると思って我慢していたのだが……




    い つ ま で 風 呂 入 っ て ん だ よ !



いいかげん頭にきた。おかげでもう五時になっちゃったじゃないか!
さすがにそろそろ仕度を始めないとまずい時間なので、嫌々布団から出て、バッグの中身を整理したりした。……眠いな……眠い眠い眠い……ほんとあいつムカつくな……時間返せよ………

しばらくすると、ガチャン、と浴室のドアが開いて、鈴木がめっちゃ爽やかな笑顔で挨拶してきた。

「ちゃーっす! お、なんだ高橋意外と早起きなんだな!!」
右手を、敬礼の形で額に当てながら、鈴木が爽快感MAXな感じで俺の前にでーんと立ちはだかった。なんだか、ムカつくを通り越して、どうでもよくなってきてしまった。
「ああ、もうなんでもいいけどさ、早くしろよ。」
「りょーかいんちょ。そういえば今日の昼からほっしーが来るって。部屋はここだってさ。」
「あ、そうなんだ。」ほっしーか。なんかUNOとか日が昇るまでやりそうだな。

それから、いざ練習場に出発しようかと思ったら、鈴木がメガネが無いとか言い出した。時間ギリギリまで探した末に、ベッドの横にぽつねんと置いてあったという。さすがにキレる寸前だった(笑)

その後、朝練を終えて、朝から運動部の合宿特有のハードな油弁当(内訳:天ぷら、唐揚げ、コロッケetc)を食べたというよりは頑張って飲み込んだ後は、しばらくの間自室待機となった。鈴木と一緒に部屋まで戻り、ほっしーの到着を待ちつつ参考書を眺めていた。

「そういえばさ、高橋、お前あの蚕はどうしたの。」ぽつり、と隣のベッドから呟く声。
「カイコ? ああ、今は繭ん中に入ってるけどこっちに連れてきたよ。」
「ふーん。」鈴木がいつもの調子で、なにかの漫画を読みながら相槌を打った。「あのさ、カイコって一体何なの?」

「うーん、とね。もともとは人間だったらしいよ。それで契約とかなんとかで、蚕の姿になってかれこれ百何十年とか言ってたけど……あ、別に無理して信じなくていいんだからね。」
すると鈴木はへへへっと笑った。「信じるよ。ねーもっと話してよ、あの土我さんって人は?」
「本当に信じてんの? まぁいいけど。あの人はね、すごいよ。なんでも平安朝以前の人なんだってさ。それで、好きだった人が生き返るのを今日までずっと待ってるんだってさ。一途な話だよね。」

すると漫画から目を離して、俺の方を見てきた。「……そりゃ、すっげぇロマンだな。」
「だよね。その割には、土我さんけっこうお茶目なんだよー。」
だって、ひよこを買いたいがために鎌倉からはるばる東京まで来ちゃうくらいなのだから。
「なんかさ、」鈴木がベッドの上をゴロゴロと転がりだした。「お前から、お前の話聞くの初めてかも。」
「はぁ? なんだよそれ、どういう意味よ。」
「だって、お前いつも人の話聞いてばっかじゃん。なんとなく。」
「……そうかな。」
「うーん、俺の気のせいかなぁ。でもなんか今、違和感っつーか、変な感じしたもん。」



それから、鈴木はまた漫画の世界へと帰って行った。あの漫画そんなに面白いのかな。