小説カイコ
作者/ryuka ◆wtjNtxaTX2

◇第四話 昨日の消しゴム編◇-21
「 !? 」
「なんじゃらほい、そげな驚かんでもよかろうが。」 にゃん太がニッと目を細めて笑った。「そなたの母上はもっと順応が早かったぞ。」
そう言うと、にゃん太は皿の上に置かれた缶詰を何事も無かったのように食べ始めた。そして俺の背後に立った太一とハツは、別にこれといった様子もなくこの状況を眺めている。
「ねぇ高橋。」ハツが左の人差し指を顎に当てながら呟いた。「私たちもお腹減ったんだけど。なんか御馳走してよー。こっちの食べ物はおいしいからさ、私ケーキとか食べたい。」
すると太一も騒ぎ出した。「僕も僕も!あのさ、一回でいいから牛丼が食べてみたいんだ。あの、よくテレビのCMでやってるやつ!頼むよー、一生のお願いでいいから。」
二人とも猫が喋ったのに全く気にしていない。平成バンザーイ!! とか言ってハイタッチして遊んでいる。なんだこの俺だけ置いてかれてる感は。
「ちょ、ちょっと待った……!」二人の間に右手をチョップの形で滑り込ませる。ハツが キャー痴漢! と大声で叫んだ。
「ッ、痴漢じゃねぇ!っていうか展開早すぎだよいくらなんでも!意味わかんないんだけど、どうしてこうなったんだよ、どうして二人とも何とも驚いてないんだよ!」
すると予想外に太一が気の抜けた顔をした。「えー、なんだがや高橋。別にいいじゃん、猫が喋っても。蚕だって喋ってたんだからさぁ、あはは。」
「あはは、って!確かにそうだけど……!」
するとまた、足元でにゃん太の少ししわがれた声がした。
「まったく、騒がしいやろこじゃな。落ち着いてメシも食えなんだ。」ペロペロと、白い足先を舐める。それからゆっくりとライトグリーンの大きな瞳を開けると、急に鋭い目付きになって俺をキッと見上げた。「さて、ワシはもう行くぞ。どうやら友人が困っておるようだからな。」
「……友人?」
「そうだ、友人だ。それにお前の友人でもある。」にゃん太の首の鈴が、チリン、と小さく鳴った。「かれこれ七十年近く会っておらん。別に会う必要もなかったからな。」
「?? 七十年っておい、お前まだ十五歳だろ。」
にゃん太は呆れた様子で一息つくと、ふいと玄関の方へ歩き出してしまった。
「頭が固いのぅ、まぁ無理もないか。」
そう言って長いしっぽを振りながらしばらく歩くと、数メートル離れたところでピタリと立ち止って俺を振り向いた。
「太一にハツ、昨日話したことだが、どうやらワシの悪い予想は当たったようだ。ほど遠くない、近くで血の匂いがする。」
「やっぱり、そっか。」太一が静かに呟いた。僅かに、着物の裾の茶緑色を握りしめる。「じゃあ、僕らをこの平成の世界に引き戻したのも……」
「左様、土我のしわざじゃろな。それも無意識のうちにだろう。頼む、助けてやってくれ。ワシを手伝っておくれ。奴はワシの友人なんじゃ。」

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