小説カイコ
作者/ryuka ◆wtjNtxaTX2

◇第二話 左廻り走路編◇-7
「お、やっぱ任史じゃん」
………?
俺の顔を見てにっこりと笑う不良さん。
どこからどうみても正真正銘のヤンキーには、不釣合いに爽やかすぎる笑顔。
「あ、あの。どなたでしたっけ?」
「ひっでえな、俺だよ、俺。拓哉だよ。」
しばらく呆然となってしげしげと対峙する不良さんの顔をしげしげと見上げてしまった。暗がりでよく分からないが、確かにどこかで見たことのあるような、
……思い出した。
「ああ、拓哉か!ごめんごめん、しばらく見てなかったから分からなかった。もう、どっかの不良かと思ったよ。」
「アハハハハ、まー確かにどっかの不良だけどな。」
なんという偶然だろう。寝過ごした先で旧友に巡り合ってしまった。
拓哉とは昔からの知り合いで、小さい頃はよく一緒に遊んだりした。
小学校高学年ごろからグレ始めて、あまり学校に来なくなった。中学に入学してからは完璧に不良になった。ときどき学校に姿を見せても、四時間目の終わりにフラッと現れては、給食を食べるとそのまま失踪していた。
俺が受験期で塾が夜遅くまである時期は、たまに駅前で拓哉とばったり会って一緒に喋ったりした。しかし、俺が高校に合格して塾を辞めてからは今まで一度も会ったことは無かった。
約三か月ぶり。たった三か月の間に随分大きくなったなあ。
「ところでさ、お前なんでこんなとこ居んの?高校、東京の方なんだろ?反対方面じゃん。」
「ああ、うん。聞いてよ俺ったらさぁ、寝過ごしちゃったんだよね。」
「うわあ、相当なバカじゃん。」笑い転げる拓哉。ムカつくが悪い気はしない。
「……む。じゃあ拓哉はなんでここに居るんだよ?」
拓哉は一瞬返答に詰まったようだった。しかしすぐに笑顔を作り直してこう言った。
「ばーろ、お前と違って俺はもう立派な社会人なんだよ。坊ちゃんとは違って忙しーの。」
「へー、そっか……」
中学の頃から拓哉がヤバイ世界に足をつっこんでいるのには薄々、気付いていた。拓哉の言う“立派な社会人”とはそういう意味なんだろう。
けれど、あえて問いただす気はなかった。拓哉には、拓哉なりの生き方があるんだろうし。
遠くで、カンカンカンと踏み切りの落ちる音がした。
「お、電車来るぞ。電車。お前は我島岡に帰るんだよな?」
「うん。っていうか拓哉も帰るんでしょ。違うの?」
「……いや。まあ千葉駅までは一緒だから安心しな(笑)」
その後、誰も乗っていない車両に乗り込み、しばらく世間話なんかもした。彼女が居ないことがバレるとさんざん馬鹿にされた。なんなんだよ、どいつもこいつもリア充かよ。
「へえ~任史マジメすぎるんじゃねえの?ちなみに俺はもう脱童……」
「っ、あああ!うるさい、この変態!それ以上喋るな!!」
夜遅くの電車だけあって、ずいぶん都市部に近づくまで誰も乗客は乗ってこなかった。広すぎる無人車両の中で、俺らは長いことふざけあった。夜は深まり車窓の外は真っ暗で、遠くにぽつねんと灯っている白い電灯の光が心細く見えるだけだ。誰も居ない電車の中は、まるで異世界のようでなんだか不思議な気分だった。
長い時間だったような、短い時間だったような、いつも感じている時間の流れとは違う時間。昔からの友達との時は、それこそ何の遠慮もなくって、今よりずっと幼かったあの頃に戻ったようで、とても楽しかった。
そしてすぐに、終点の千葉駅に着いてしまった。
「じゃ、またな、任史!」手を振る拓哉。なんか永遠の別れみたいだ。
「うん、健康には気をつけなよ!」
そう言うと、拓哉は可笑しそうに大笑いした。「どこのババァだよ!」
それから一人になって、地方への電車に乗り換えた。ぼーっと電車に揺られながら、今日部活でやった人生ゲームを思い出した。最初は同じスタート地点から始まるのに、ゴールする頃には一人一人が全く違う経路を辿っている人生ゲーム。
「俺と拓哉も同じなのかな。」
ゴールする頃には……拓哉だけじゃない、自分の知り合いみんな、それぞれ全く違った人生を送ってきているんだろうなぁ。なーんて、感傷に浸っていたりした。

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