小説カイコ
作者/ryuka ◆wtjNtxaTX2

◇第一話 幽霊からのテガミ編◇-14
そのとき、いい考えがひらめいた。
壁部屋の中からでも電波は通じるだろうか?
賭けに近い。うまくいくかどうかは分からない。
自分の携帯を取り出し、鈴木宛に電話をかけてみた。それからメールも。その間にも、鈴木と俺との距離はじりじりと狭まっていく。鈴木の足取りがいつもよりおぼつかない感じがするのは気のせいだろうか。
ピリリリリリリリリ ピリリリリリリリリリリリ
十数秒して、鈴木の手元から静かすぎる空間には不似合いな電子音が鳴り響いた。その後にはメールが届いたのだろう、ジージーとバイブ音が手元が狂うぐらいにずっと鳴っている。その様子に、鈴木は不愉快そうに眉を寄せた。
「小賢しいマネしやがって。」
ちっ、と悪態をついて携帯を地面に叩きつけてしまった。その場で立ち止まってこれ以上俺に近づいてくる様子もない。
「ねぇ、鈴木じゃないよね。君。時木でしょ。」できるだけ、刺激しないように言った。「なんでこんな事するんだよ。実の弟なんだろ、お前だってこんな事してなにも得なんか無いんだろ。」
「……自分の価値観で正義を振りかざす奴は嫌いだ。それに部外者に口を挟んでもらいたくないな。私はどうしてもやんなきゃいけないことがあるんだ。もういい、お前の退治はもうやめた。邪魔な事に変わりはないけれど、まぁせいぜい弟と仲良くしたってな。」
言うや否や、鈴木は円の淵まで走り出して行って黑い壁の中に吸い込まれていった。吸い込まれていった、と言うよりは壁に触れたとたんに消えた、と言った方が語弊がないかもしれない。
後には、俺といまだに気を失い続けている時木が残されただけだ。
この壁、通り抜けられるのかな。
黑い壁に触れてみると冷たかった。例えるなら氷水が一番近いかもしれない。冷たく、指先が痺れるような感覚に蝕まれていく。このまま腕も、体も突っ込んだらどうなってしまうのだろう。
その時、時木の呻き声が足元から聞こえた。
「時木、気がついた?」
「ああ、最高に最悪な気分だ。って、なんだその黒い壁は」
時木が驚いた様子で壁を見上げながら言った。
「ああ、これ。ごめん俺もよく分かんない。お前がぶっ倒れたあと鈴木が豹変してさ、大変だったんだよ。多分鈴木に憑りついたもう一人の方のお前が出てきたんじゃないかな。更にこんな壁残していきやがって……当の本人はやる事がある!とか言って、これに突入してどっかに行っちゃったみたいだけど。」
「はあ。」
時木が珍しく弱気な声を出した。見上げるように、黒い壁を眺めている。
しばらく二人で途方に暮れてしまった。どうしたらいいか分からない。完全にお手上げだ。
「なんかさ、笑えてくるよね。ここまでどうしようもないと。」
時木はうーん。と曖昧な返事を返した。額に指を当てて何か、考えに耽っている様子だった。
「あのさ、高橋。やる事があるって言ってアイツはこの壁からどっかに行ったんだったよね。」時木が壁を今度はじっと睨みながら言った。
「そうだけど……それってどういう意味だよ。」
振り向いて、時木はニヤリと不敵な笑みを顔に浮かべた。
「つまり入口は一つ。やるべき事も一つ。……行くぞ、私らも突入だ。」

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