二次創作小説(紙ほか)
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- バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 お知らせあり>>270
- 日時: 2016/03/25 21:41
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
初めましてな方は初めまして。そうでない方はお久です。こちらはバカとテストと召喚獣の二次創作であり以下のスレッド
【バカな自分は召喚獣?〜一学期編〜】及び【バカな自分は召喚獣?〜夏休み編〜】
の続章となっています。読まれていない方はそちらもよろしくお願いします。
暑い夏も乗り切ってやってきました二学期編!夏休みを満喫したいつものメンバーとFクラスの前に立ちふさがったのは……無敵の鉄人による持ち物検査!?
『お願いします、西村先生!僕らにその本を返してください!』
『僕らには———僕らにはその本がどうしても必要なんです!』
『お願いです!僕たちに、保健体育の勉強をさせてください!』
『西村先生、お願いします!』
『『『『お願いします!』』』』
「黙れ。一瞬スポ根ドラマと見紛うほど爽やかにエロ本の返却を懇願するな」
『『『『鬼っ!悪魔っ!!鉄人っ!!!』』』』
毎日バカやる明久たちがそんな教師たちの横暴を黙っているはずもなく。正々堂々鉄人に挑むFクラスだったけど……(正々堂々の意味、今すぐ調べてください皆さん by造)
「ええい!こうなりゃ実力行使だ!僕らの大事な参考書(エロ本)を守るため、命をかけて戦うんだ!」
「ほう?良い度胸だ、かかってこい……シメるついでに夏休みで緩んだ頭のネジをキッチリ締めなおしてやる」
明久たちの必死の抵抗虚しく、鉄人に阻まれ大事なもの(エロ本)を取り上げられるFクラスメンバー。このまま為すすべがないのか?否、まだ手はある……!召喚野球で教師を蹴散らし、取り戻せ僕らの聖典(エロ本)!
体育祭に召喚野球。そしていよいよ試召戦争が解禁となり恋に嫉妬に勉強に、ますます楽しくそして忙しくなる造や明久たち。そんないつものメンバーの非日常的な日常をどうかよろしくお願いします。
———目次———
序章 1〜4章及び各種設定【バカな自分は召喚獣?〜一学期編〜】>>6参照
5〜5.5章及び各種設定 【バカな自分は召喚獣?〜夏休み編〜】>>7参照
6章 体育祭&召喚野球編>>1-117
102時間目>>1-5 103時間目>>8-11 104時間目>>12-16 105時間目>>20-23
106時間目>>24-28 107時間目>>29-32 108時間目>>33-36 109時間目>>37-40
110時間目>>41-44 111時間目>>45-48 112時間目>>49-52 113時間目>>53-56
114時間目>>59-62 115時間目>>63-66 116時間目>>67-70 117時間目>>73-76
118時間目>>80-83 119時間目>>84-87 120時間目>>91-94 121時間目>>98-101
122時間目>>104-107 123時間目>>110-113 124時間目>>114-117
覚えよう野球のルール〜スクイズしてください!〜>>77-79
6.5章 文化の秋・食欲の秋・文月学園の秋編>>120-221
酔いと造と幼児返り!?〜お酒は大人になってから〜
前編>>120-122 中編>>125-127 後編>>130-132
週刊☆文月学園ラジオ放送 特別企画・文化の秋!
前編>>135-136 後編>>137-138
ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜
その①>>141-143 その②>>146-148 その③>>149-151 その④>>154-156 その⑤>>157-159
その⑥>>164-166 その⑦>>167-169 その⑧>>170-172 その⑨>>173-175 その⑩>>176-178
召喚実験シリーズ〜自分と本音と暴露大会〜
その①>>179-181 その②>>182-184 その③>>185-187
その④>>188-190 その⑤>>191-193 その⑥>>194-196
寒い日は鍋が一番!〜闇鍋?病み鍋?暗黒鍋デス〜
その①>>197-199 その②>>202-204 その③>>209-211 その④>>214-216 その⑤>>219-221
7章 二学期試召戦争開幕&Fクラスの変編>>224-330
125時間目>>224-226 126時間目>>229-231 127時間目>>234-236 127.5時間目>>241-242
128時間目>>243-245 129時間目>>246-248 130時間目>>251-253 131時間目>>256-258
132時間目>>261-263 133時間目>>264-266 134時間目>>267-269 135時間目>>271-272
136時間目>>273-274 137時間目>>275-277 138時間目>>280-282 139時間目>>283-285
140時間目>>286-288 141時間目>>289-291 142時間目>>292-294 143時間目>>295-297
144時間目>>298-299 145時間目>>300-302 146時間目>>303-305 147時間目>>306-307
148時間目>>308-309 149時間目>>310-311 150時間目>>312-313 151時間目>>314-316
152時間目>>317-318 153時間目>>319-321 154時間目>>322-323 155時間目>>324-326
156時間目>>327-330
7.5章 とあるお休みの一日:同棲生活は命がけ編
召喚実験シリーズ:〜みんなの子どもシミュレーション〜
その①>>334-336 その②>>337-338 その③>>339-341
その④>>342-344 その⑤>>345-347 その⑥>>348-350
文月学園新聞&特別補習:鉄拳先生の情報講座>>353-355
彼と彼女のとある日の出来事
〜明久と瑞希編〜
前編>>356-358 中編>>359-361 後編>>362-365
〜雄二と翔子編〜
前編>>366-368 中編>>369-372 後編>>373-377
〜造と秀吉と優子編〜
前編>>378-380 中編 後編
〜明久と美波編〜
前編 中編 後編
〜造と葵編〜
前編 中編 後編
〜康太と愛子編〜
前編 中編 後編
おいでませ文月学園!久保弟の学校見学
前編 中編 後編
8章 最終決戦!Aクラス対Fクラス試召戦争編
———バカテスト集———
その⑦>>18-19 その⑧>>240 その⑨>>278
———各種設定———
文月学園レポート:腕輪編その①>>17 その②>>279
お知らせ>>270
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜中編 ( No.364 )
- 日時: 2016/03/25 21:17
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
「ふぅ……良かった」
手の甲で汗を拭い、ゆっくりと顔を上げると———
「「…………」」
肌を露わにした格好———つまりは下着姿の瑞希の姿がそこにはあった。思わず二人して目を合わせたまま固まる僕ら。
「あ……の……明久君……?」
脱いでいた服で随分大人っぽい下着を着ている艶めかしい身体を隠しながら、恐る恐るといった感じで僕に話しかけてくる瑞希。
「んー?何かな瑞希?」
それに対し、慌てず騒がずに返事をする僕。経験上こういう時こっちが慌てたら相手も不安になってしまう。心臓バクバク状態だったけど、何とか表面上は冷静に対処することに。
「え、えと……ここで、何をしているんです……?」
「あれ?僕がこの店にいちゃマズい?さっき店員さんはごゆっくりどうぞって言ってくれたんだけど」
「そ、そうです……か?で、でしたらマズくはないと思いますが……あれ、ですが……あれ?」
瑞希を不安にさせないように、ごく自然な態度で答える僕。当然だけど僕がこの店に———というか僕がこの“瑞希が着替えている試着室”にいるのはマズいに決まっている。けど騒ぎになったらマジでマズいからとりあえず可能な限り誤魔化そう。
「それより瑞希こそ、どうしてこのお店に?」
「え!?え、えっと……その。折角しばらく明久君のお家にお泊りしますし……気分的にも清潔感のある新しいの買っておいた方がいいかなって思いまして……」
ああ、なるほど。これでようやく納得がいった。妙に僕に荷物持ちさせたく無さ気だなって思ってたけどこういう事か。いくらなんでも“コレ”を男の僕に荷物持ちなんてさせたくないよね。恥ずかしいに決まっているもん。
「あ、あのっ!違うんです!今着けているのは、そのぅ……いつもの私の着ているものとは違うんですよ!?これはその……ちょっと冒険しようと思ったと言いますか、さっき偶々会った翔子ちゃんと優子ちゃんにこういうので勝負すべきと薦められたと言うか……あ、あわよくば今回の同棲生活でその……(ごにょごにょ)あ、明久君に見てもらって———た、食べてもらおうと企んでたというかその……ととと、とにかくいつもこんな大胆なのをしているわけじゃなくてですね!?」
混乱し始めたのだろう、早口でなにやらちょっぴり凄い弁明をし始める瑞希。そんな瑞希の肩を軽くポンポンと叩いて落ち着かせる。
「あはは、落ち着いて瑞希。何だか混乱しちゃって何を言っているかわかんなくなっちゃってるでしょ?」
「あ、えと……その……すみません」
よしよし。さて、そろそろ霧島さんも一旦試着室の中に戻ったかな?
「それじゃ、僕はそろそろ行くね。終わったら呼んでね」
「はい、また後で」
そのまま試着室のカーテンを開けて外に出て、再びカーテンを閉める僕。そしてその数秒後———
『って、明久君何をやってるんですかぁあああああああああああ!?』
「いかん、正気に戻られたッ!」
僕は必死に商品である下着を血で汚さぬよう鼻血の衝動を堪えながらも、下着店から逃げ出した。
『明久君待ちなさいっ!ああもう……後でお説教ですからね!』
『?どうしたのよ瑞希。吉井君がどうかしたの?』
『……瑞希、やっぱり近くに吉井いたんだ。もしかして、一緒に来てた?』
『えっ!?あー……はい』
『あら♪デートだったんだ。しかも彼を下着売り場にまで連れ込むなんてやるじゃないの。瑞希が吉井君誘ったの?』
『あ、いえ。誘ったと言いますかその……実を言うとですね———私と美波ちゃん、昨日から明久君のお家で“同棲”していまして』
『……………………同棲?』
『え、同棲しちゃうほど仲進展してたの?凄いじゃない瑞希』
『あ!そ、そうじゃなくてですね優子ちゃん!?その、昨日から私や美波ちゃんの両親がストに巻き込まれて———』
『(ガシッ!)……心の底からありがとう、瑞希。それに美波に吉井』
『え、え?な、何がですか翔子ちゃん?』
『代表?どうして瑞希の手を握りながらそんなに感激してるの?』
『……灯台下暗しだった。けど、やっと見つけた……!』
〜それから10分後〜
「全くもう……信じられませんっ!」
「ホント、ごめんなさい……」
こうして色々あったショッピングモールからの帰り道。僕は当然のことながら瑞希のお説教を受けていた。
「どうして……どうして明久君は、いつもいつもああいう———その、いやらしい系のトラブルばかり起こすんですかっ!」
「あ、いや。あれは下心があったわけじゃなくて、不幸が重なってしまったというか……」
「言い訳しないっ!」
「は、はいっ!」
ぴしゃりと一喝され、思わず背筋が伸びる。あ、ちなみに当初の予定通り雄二のヤツは霧島さんに連絡して彼女に確保してもらい、その隙にショッピングモールを出た僕ら。こんな事なら襲撃する前に霧島さんに頼んで雄二を確保してもらうべきだったなぁ……なんてちょっぴり反省。
「わかっていますか明久君。女性のいる試着室に———しかも下着のお店の試着室に飛び込むだなんて、大変な事なんですからね?」
「はい……」
「あの時、私じゃなくて他の女の人が中にいたらどうするつもりだったんですか……近くには翔子ちゃんも優子ちゃんもいましたのに……」
頬を膨らませて怒る瑞希。そういう怒り方も可愛いなぁ———じゃなくて、いやホント仰る通りです、はい。
「だいたい、私にだって心の準備と言うものが……いえ、他の人のを見てデレデレされるよりいいですけど……それに、どの道見てもらうつもりもあったりなかったり……いえ、でもだったらせめてご飯一食でもいいから抜いて少しでもスリムな姿を見てほしかったと言うか……もっとムードのある雰囲気の中で見てくれたなら文句なんてないと言うか———」
相当怒り心頭のようで、ブツブツと何か呟いている瑞希。ど、どうしよう……何かお詫びしないと……えっと、僕に出来ることと言えば———あ。
「あ、あのー……瑞希。こんなのでお詫びになるわけないのはわかっているけど……これ、どうぞ」
上着のポケットからあるものを取り出して恐る恐る瑞希に手渡す僕。
「え?……これって……」
「そのさ。さっき欲しがってた……よね?」
渡したものはアミューズメントエリアのクレーンゲームで瑞希が取ろうとしていたウサギのストラップ。後で今日の記念に瑞希にプレゼントして驚かせようと思って、瑞希と一度別れた後こっそり取っておいたんだけど……
「…………」
「あの、瑞希……?」
う、うぅ……この沈黙は何だろう。もしかしてこんなもので機嫌取ろうとするなんて失礼極まりないと言う事……?そ、そりゃそうか!?いくらなんでもこんなものと瑞希の下着姿を拝見してしまったことを天秤にかけようとすること自体間違っているっていうか……
「ご、ごめんなさいっ!こんなんじゃお詫びにならないのは重々承知してますっ!?土下座でも何でもするから———」
「……明久君のくれた……雪ウサギ……」
と、手渡したストラップをジッと見て、ポツリと呟く瑞希。雪ウサギ?これどっちかと言うと猫ウサギっぽくない?
「瑞希……?どうしたの?」
「…………明久君は、ズルイです」
「うっ……だよね」
あーうん。僕もそう思い始めたよ。これじゃ釣り合ってないのに許してもらう気満々とか虫が良すぎると言うか卑怯と言うか……
「(ボソッ)……こんなこと、されたら……あの時のこと、思い出しちゃうじゃないですか……簡単に許したくなっちゃうじゃないですか……」
「いや、ホントゴメンっ!罪滅ぼしじゃないけど、今日は瑞希の好きな料理作ったりするから!それでも駄目なら———」
「…………今回だけ、ですからね」
「へ?」
「今回だけは特別に許します。玲さん達にも今日の事は黙っておきます。けれど次にああいうことしたら許してあげませんから」
…………と、言う事はそれはつまり———
「肝に銘じておくよ!あ、ありがとう瑞希!」
「もう……明久君は本当に、ダメダメなんですから……」
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜中編 ( No.365 )
- 日時: 2016/03/25 21:18
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
何て言いながらも表情を和らげてくれる瑞希。本来なら平手打ちした後110番されてもおかしくないだろうけど優しいなぁ……だからこそ、ちゃんと反省しなきゃね……とにかく以後こういう事が無いように注意して、今日の夕食は瑞希が喜んでくれるように瑞希の好物中心にご飯を作ろう。そんなことを考えていると、改めて瑞希が僕の方を向き直して深々と頭を下げる。え、ど、どうしたの?
「それはそれとして……明久君。これ、ありがとうございます。私、こっちも大事にしますね」
「ああ、これ?いやいや、お礼を言われるほどの物じゃないよ。……あ、そう言えばこのクレーンゲームの賞品で思い出した。気になってたんだけどさ、瑞希」
「はい?何でしょうか明久君」
「ゲームコーナーでさ、勝負しようって瑞希が提案してきたじゃない。あれってどうしてだったの?」
ふと一緒に歩きながら、気になっていたことを瑞希に尋ねる僕。正直瑞希は勝負事とか興味なさそうと思っていたから意外だったんだよね。その僕の質問に、数秒考えてから瑞希はこう答える。
「……敢えて言うなら、明久君と坂本君の関係が羨ましかったから……でしょうかね」
「…………は?」
……わからない。わからないよ瑞希……何で急に雄二の話に?と言うか僕と雄二の関係なんて今日みたいに隙あらば命を狙い、お互いに利用できるなら最大限に利用して、いらないと判断すれば即使い捨てにする何というかすっごくアレな関係だろうに……どこが羨ましいんだろうか?
「ああいうちょっとしたゲームでも、明久君と坂本君ってすぐ楽しそうに勝負するじゃないですか。そんな関係がちょっぴり羨ましかったんです私」
「あ、ああなるほど。そう言うこと……」
確かに僕と雄二はいつも何かにつけて勝負事をする。傍から見たら友人同士楽しそうにワイワイ勝負事をしているように見えるのかもしれないね。……まあ、当の僕と雄二の場合は大抵は賭け事したり罰ゲーム準備したりしているから楽しいと言うより毎回死闘なんだけど。
「(ボソッ)それに……坂本君みたいに良い意味で遠慮なく明久君と肩並べられる人になる為にはこういう日々の積み重ねが大事、ですからね。坂本君には負けられません」
「……ん?」
あれ?今なんか瑞希が言ったような……?気のせいかな?
「さ、それは良いですから早く帰りましょう。美波ちゃんたちから連絡がもうあったかもしれませんよ!」
「それもそうだね。じゃあ———わわ!?み、瑞希!?」
「さあ急ぎましょうねー♪」
そう言いながらも、僕の腕を組んで楽しそうに引っ付いて歩く瑞希。わわ……ちょ、ちょっとこれは……み、瑞希の胸も当たっているし、何より何だか周りに仲の良さを見せつけているようで恥ずかしい。恥ずかしいけど……今日は瑞希に迷惑かけてしまった事だし———何よりめちゃくちゃ役得で僕だって楽しいわけで。そのままちょっとお互いに顔を赤くしたままで、腕を組んだまま家に帰ることになった。…………同棲生活一日目。色々あったけど、瑞希とちょっとしたデートっぽい事が出来て幸せな時間を過ごした僕であった。
———吉井家———
そうして、何だかイイ感じでようやく瑞希と一緒に戻ってきた僕はと言うと。帰って早々に———
「「「…………」」」
「は、ははは……ね、姉さん?お、お仕事で使う資料作りは終わったの?」
「……ええ、とっくの昔に」
「あ、あはは……み、美波も葉月ちゃんも早かったねー……荷物運ぶなら電話して呼んでくれてよかったのに」
「……荷物軽かったし良いわよ別に」
「……むー」
「そ、そっかー……と、ところで皆さま方……あ、あの———どうして僕は正座をさせられているのでしょうか……?」
般若を思わせる形相の姉さん。虚ろな目で自身の胸に手を当てている美波。ふくれっ面の葉月ちゃん。この三人に冷たい床の上で正座させられていた……一難去ってまた一難、なんて言葉もあるけど———な、なにごと……?
「身に覚えがないと言うつもりですかアキくん。姉さんは悲しいです」
「……アキ、アンタ……やっぱり胸なの……?胸が大きくないとダメだと言うの……?」
「バカなお兄ちゃん酷いですっ!最低です!」
「あ、あの玲さんに美波ちゃんに葉月ちゃん……?」
玄関を開けると問答無用で姉さんにアイアンクロー交じりに部屋に連れてこられ、座布団も無しに良く冷えた床の上で正座をさせられた。部屋には美波と葉月ちゃんもいて姉さんの隣で仁王立ち。瑞希も一応何が何だかわからないまま部屋の片隅にいるこの状況。ぼ、僕何かしたっけ……?
「いやその、全然身に覚えないんだけど……」
「……ほう、そうですか。ショッピングモール・下着売り場・瑞希さんのいる試着室に突貫。このキーワードにアキくんは全然身に覚えがないと」
「「っ!?」」
その姉さんの言葉に思わず息を呑んでしまう僕と瑞希。なぜ……なぜそれを……!?この事実は当事者以外はまだ誰も知らないハズじゃ……!?瑞希が姉さんたちに話してしまった———なんてことは絶対に無いはず。黙っていてくれるって言ってくれたし、そもそも姉さんたちにさっきの出来事を話す時間なんかなかったのに……なんで姉さんたちはこのことを知ってるの!?
「先ほど、坂本君から電話がありました。随分と良い思いをしていたようですねアキくん」
「ゆ、雄二のヤツが!?」
あ、アイツかっ!や、奴ならさっきの仕返しでこういう事をやりかねないっ!?な、なんてことしてくれたんだ畜生……!?あの野郎はやはりあの時仕留めておくべきだった……
「さぁてアキくん、わかっていますよね。これから何をされるのかを……」
「べ、弁明を!弁明の機会をくださいっ!?」
「アキ、ウチ哀しいわ……ちゃんとどういうわけか説明してくれるんでしょうね……?」
「バカなお兄ちゃんのバカっ!」
「あ、あわわ……その、皆さん落ち着いてください……誤解……でもないかもしれないんですけど、あれは事故みたいなもので……」
慌てて僕を庇うべく、姉さんたちにあたふたしながらも取り入ってくれる瑞希。
「瑞希良いのよ、アキを———いいえ、こんなケダモノを庇わなくても」
「そうですよ瑞希さん。うら若き乙女の着替えを覗きに行くような変態はこれ以上ないくらい拷問したうえで死刑にしますので」
「ですから弁明を!弁明の機会を姉さん!」
「……本当に納得のいく弁明をしてくれるのでしょうねアキ?」
「葉月ぷんぷんですよバカなお兄ちゃんっ!」
「ほ、ホント事故なんだっ!大体雄二が悪くてね!?とにかく僕の話を聞いてくださいっ!」
「……まあいいでしょう。納得のいく話であれば———拷問は無しの死刑で許してあげないことも無いですけど」
「死刑は確定しているの!?」
その後、約三時間姉さんによる物理交じりの説教と美波&葉月ちゃんの冷たい視線を浴びながら必死の弁明をしつつも正座をさせられ、とんでもない事をしたオシオキとして……その、メイド服を着て全員に美味しいパエリアを作らされることとなったのは、忘れさりたい記憶の一ページ……
「とりあえず雄二、キサマだけは許さん……いずれ決着を付けてやる……!この借りは、必ず返してやるからな……!」
そんな想いを胸に抱き、迷惑をかけた瑞希の為。そして美波たち三人を宥める為に必死で四人にご奉仕しながら同棲生活一日目を終えることになったのだった……
- 彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜前編 ( No.366 )
- 日時: 2016/03/25 21:23
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
雄二Side
あの地獄の窯を思わせる、闇鍋騒動の帰り道。俺と翔子は二人で帰路についていた。……一応言っておくが、帰り道が同じだけでそれ以上の意味は何一つ無いからな?
「……雄二」
「あ?何だ翔子」
と、俺の隣を歩いていた翔子は突然立ち止まりそうポツリと話し始める。
「……今日の闇鍋、楽しかった」
「そうか。そりゃ良かったな———だが、くっちゃべってないでちゃんと足動かせ。そろそろ帰らないとマズいだろ。結構遅くなっちまったからな」
「……待って、雄二」
「なんだ、忘れもんか?」
「……ううん」
その場から動こうとしない翔子。仕方なく俺も一度立ち止まることに。
「じゃあなんだ。さっきも言ったがこんなところで話をしている暇は———」
「……私……今夜は帰りたくない……」
…………は?
「何言ってんだ翔子?」
「……私……今夜は、帰りたくないの雄二……」
まるでドラマのワンシーンのようにそんな事を言い始める翔子。
「…………本気か、翔子?」
「……本気」
「そう、か……帰りたくないか……」
「……うん」
「それじゃあ……」
期待するような目を俺に向けながら、次の言葉を待つ翔子。そんな翔子に対しての俺の返答は———
「じゃあ、俺の家は向こうだからこの辺で」
「……」
———さっと手を挙げで、そのまま別れることに。あ?今の流れは翔子を家に泊めてやるだろうだと?ふざけんな、何で俺がんなことせにゃならん。さっさと帰る俺に対して、翔子は無言のままおもむろに持っていたトートバッグの中から携帯を取り出し誰かにかけ始める。あ?何してんだアイツ……?
「……もしもしお義母さん」
「ぶふっ!?」
『あら、翔子ちゃん。どうだった?雄二、OKしてくれた?』
「……駄目でした」
『えぇ!?も〜!雄二ったら何やってるのよ!』
「…………オイ待てや」
翔子の携帯から聞こえてくる、毎日聞いているおふくろの声。何やってやがんだコラ。
『仕方ないわねぇ……ゴメンね翔子ちゃん。雄二に代わってくれる?』
「……はい。雄二、お義母さんから」
「…………」
今すぐ翔子の携帯を投げ捨てたい衝動を必死堪えながら、翔子から電話を代わる俺。
「…………もしもし」
『ダメじゃないの雄二!女の子に恥かかせるなんて最低よ!折角お母さんが翔子ちゃんに良い雰囲気になったらアタックしてねって色々アドバイスしたのに、これじゃお母さんの気遣いまで無駄にしちゃっているじゃないの!』
「やっぱりアンタが黒幕か……っ!」
今更言う事じゃないかもしれないが、俺の外堀が完全に埋まりつつある気がしてならない……
『もっとちゃんと女の子の気持ちをわかってあげなきゃダメよ雄二。———と言うわけで翔子ちゃん、今日も勿論お泊りオッケーよ♪待ってるからね〜(ピッ!)』
「あ、コラ待ておふくろ!まだ話は———ちぃ、もう切ってやがる……」
くそ……まあいい。とりあえず帰ったらおふくろに説教するとして、だ。
「……と言うわけで雄二、今日は帰りたくないの」
「…………へいへい。ったく、最初から俺に選択肢なんてねぇじゃねえか……」
結局どう転んでも翔子が家に泊まるのは確定していたようだ。盛大にため息を吐きながら、翔子に携帯を返して不貞腐れながらも歩き出すことに。
「つーか翔子、おふくろに泊まっていいって確認してるなら俺に泊めてと頼み込む必要なんざ全くねぇだろ……」
「……こういうのは雄二本人からOK貰えた方が嬉しい。お義母さんの言う通り雄二は女心を学ぶべき」
「それこそ学ぶ必要なんざ全くねぇしな」
「……産まれてくるこの子が女の子だったらどうするの雄二?娘に嫌われるお父さんって辛いよ?」
「うぉい待てや!?愛おしげに腹に手を当てんなバカ!子どもなんざいるわけねえだろが!?」
近所迷惑になりかける一歩手前で思わずツッコミを入れてしまう俺。こいつが言うとシャレにならんからマジで止めろや……!?
「……お父さんは冷たいね、しょうゆ」
「まるで俺を子どもを認知したがらない極悪非道の男のように言うな!?あと、その名前だけはやめておけと言ったろうが!?」
「……わかった、なら今夜は雄二の部屋で子どもの名前一緒に考えよう」
「家に泊めるのは認めても、俺の部屋には絶対入れんからな……っ!」
外堀はもうどうしようもないわけだしな、せめて俺の唯一のオアシスたる自分の部屋だけは何が何でも死守せねば。今になって、期末試験時に明久が姉である玲さんを追い出すために必死になって勉強していた気持ちがよく分かるぜ全く……
「……どうして?夫婦は一緒の部屋で寝るものなのに」
「誰と誰が夫婦だ。つーか、何だ急に。今日はいつも以上に攻めてくるなお前」
「……だって」
「だって、何だ?」
どうせいつもの妙な妄言だろうと、話半分で聞く俺。
「……だって、この前キスしてくれたから子どもも二人目が出来るだろうし、もっと進展したいなって思って」
「★の※っ△■♪ぺ◎に〒●ゃ!?!?!?」
「……落ち着いて雄二。国語が———というか言語が不自由になってる」
……誰の……せいだと……!?一旦心臓が落ち着くまで深呼吸を繰り返す俺。しばらくすると心配そうに俺を見ている翔子に対して———
「アホか!?デコにキスしたくらいで子どもなんざ出来るか!お前はもっと常識ってモンを勉強してこいや学年主席!?」
———近所迷惑なんざ知ったことかと言わんばかりのツッコミをすることに。……ちなみに、このバカの言っているキスがどうとかの話は……体育祭の際、俺のミスで翔子を傷つけちまった件に対する妥協に妥協を重ねた最大限の俺なりの詫びの事。色んな意味で、あの時の俺を殴りに行きたいぜ畜生め……
- 彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜前編 ( No.367 )
- 日時: 2016/03/25 21:24
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
「…………はぁ……」
「おい翔子、テメェ……なんだその、『雄二は何もわかっていないわ』的な溜息は……!」
「……現に雄二が国語どころか何もわかってないから。これじゃ溜息の一つも出る。そんなんじゃ現代国語が得意科目の娘の造に笑われる」
「いいや、間違いなく造は泣くぞ」
一応年上の男子なのに勝手に俺らの娘扱いされりゃ、泣くに決まってるからな。と、それはともかくだ。
「で、俺が何をわかっていないと?説明してみろや」
「……特別に一つ大事な事教えてあげる。世の中には———“想像妊娠”という言葉がある」
「違うからな!?それは胸張って言えるような言葉じゃないからな!?」
つーか、愛の力で何もしていないのに子どもが出来た、なんて話は美談じゃねぇんだぞ翔子……
「……違うの?」
「違うわバカ!?」
「…………ならやっぱり、ここは同棲をしてちゃんとした既成事実を———」
なんて恐ろしい計画立てようとしてんだこのバカは……と言うかちゃんとした既成事実って一体なんだ……お前の方こそ国語が駄目になってきてねぇか……?ああ、いかん。頭がおかしくなりそうだ……
「大体なぁ……前にも言ったかもしれんが高校生で同棲していやがる連中なんざいねぇだろが」
「……うん。残念ながらまだ見つからない。見つかりさえすれば気兼ねなく同棲できるのに」
「そうだなー見つかればいいなー(棒)」
もう敢えて言う気はないが、こいつにいつ気兼ねと言うものがあったのか非常に疑問だな。ああ、ちなみにコイツの言っているのは———夏休み辺りに、もし文月学園の生徒同士で同棲しているヤツらがいるなら同棲することも考えてやらんでもない———なんて俺の適当な話の事。ま、んな奴ら存在するわけが無いからそんな適当な口約束をしたわけだがな。
「……同棲が出来れば造の妹とか弟いっぱい作らないと。目指せ40人の子ども」
「お前の目指す先は一体全体どこなんだろうな……」
「……そんなの、決まってる」
と、俺の家が見えてきた辺りで、先に歩いていた翔子は振り返って一言。
「……目指す先は———雄二と一緒の幸せな未来」
……なんて、のたまいながら翔子のヤツは俺の家に上がっていった。
———次の日の朝:雄二の部屋———
ピピピッ!ピピピッ!
「…………ん……?」
———日曜だと言うのに枕もとで鳴り響く、騒々しいアラーム音。その音に俺の眠っていた意識は強制的に覚醒させられる。……ったく。何で休みだってのにお前は俺を起こすんだ目覚まし時計……
「あー……しくった。いつもの癖でセットしてたのか。何やってんだよ昨日の俺……」
そう独り言を呟きながら、バンッと目覚ましを叩いて止めることに。まあ、昨日は闇鍋だの翔子が泊まるだの色々騒動があったからな……ついうっかりするのも仕方のない事だろうが。さて、これからどうしたもんか。腹も若干減ってるし普通にそのまま飯食いに行っても良いが……
「…………そういや、昨日から翔子の奴うちに泊まってやがんだよな……」
もしこのまま起きたら———間違いなくアイツやおふくろにツッコミを入れるだけで一日が終わってしまうだろう。……良く考えろ俺。折角の貴重な休日を、そんな無駄に過ごしても良いのか……?否、休日こそ有効に使うべきだよな。…………ふむ。ならばやることは一つだな。
「寝るか」
今日は日曜。ならばこそ明日に備えつつ普段の疲れを癒すためにも惰眠を十分取るべきだな!いや、別に翔子やおふくろと一緒にいたくないわけじゃねぇからな?そう思いながらベッドに戻って布団をかぶり再び夢の中へと戻ることを決める俺。
「鍵は……よし、ちゃんとかけてるな」
念の為今一度鍵をかけていることを確認。以前アルバイトをして購入した内鍵を部屋に取り付けているからヤツやおふくろが俺の部屋に侵入することは決して無い、つまり部屋から出なければ安全ってことだ。ははっ!二度寝最高だな!後は目を閉じてゆっくりと寝るだけ———
「……雄二、ご飯できたよ(ポンポン)」
……そう、目を閉じてゆっくりと寝るだけ———
「……?雄二、まだ眠い?でもそろそろ起きないとご飯冷める(ゆさゆさ)」
…………め、目を閉じてゆっくりと寝るだ……け————
「……困った、雄二起きない。なら仕方ないし———ここは目覚めのキスを」
「させるかぁ!」
目を閉じてゆっくりとキスをしようとしやがるバカをかわすべく、ベッドを転げ落ちる勢いで離れる俺。っぶねぇ……!?
「……(チッ)コホン、おはよう雄二」
「オイ、今舌打ちしやがったなテメェ」
「……何のことかわからない」
「今の気持ちを5字以内で簡潔に言ってみろ翔子」
「……おしい」
何がおしいだこの野郎……と言うか……と言うかだ……っ!
「何でお前がここにいるんだよ!?」
また扉を見てみると……ちゃんと内鍵が扉を閉ざしている———にも拘らず、どういうわけか今現在俺の目の前に、俺の部屋に佇んでいやがるバカが一人。何でだ……どういう原理だ翔子……!?
「……何でって、昨日から私雄二の家に泊まってるし。もうご飯だからお義母さんに頼まれて雄二を起こしに」
「俺が聞いているのは“何故ここに”じゃなくて“どうやってここに”だバカ!?鍵は!?部屋には鍵ついてただろうが!?」
そう問い詰めると、窓を指差す翔子。……おい、まさかお前……
「……うん。鍵かかってて困ったから……窓空いてたし雨どいを伝って入った」
「お前は女ムッツリーニか!?ここ二階だろうが!何やってやがんだバカ野郎!?」
『翔子ちゃん、雄二は起きたかしら〜?あら?まだ鍵が……』
「……はい、お義母さん。今開けますね」
俺の渾身のツッコミもスルーして、内鍵を開ける翔子。扉は無情にも開かれて、おふくろまで俺の部屋に入り込んできた。……ああ、さらば俺の安住の地。随分短い自由だったなオイ……
- 彼と彼女とある日の出来事〜雄二と翔子編〜前編 ( No.368 )
- 日時: 2016/03/25 21:24
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
「……お待たせしました」
「ん〜♪ありがと翔子ちゃん」
「おふくろ、そいつに礼なぞ言うな。このバカ窓から入りやがったんだぞ」
「ああ、そうみたいね。も〜ダメじゃないの!」
そうだ言ってやれおふくろ。翔子、お前は常識知らずだ、そんな非常識なこと止めろとな。
「翔子ちゃんが二階から落ちて怪我でもしたら大変じゃないの雄二。これに懲りたらちゃんと扉を開けていつでも翔子ちゃんが夜這いに来れるようにしておきなさい」
「それ以上に別の問題があるだろうが……!」
バカか?バカなのかこの二人は……!?
「それより早く着替えて降りてきなさい雄二。翔子ちゃんがね、美味しそうなご飯作ってくれたのよ〜♪」
「……冷めるし、雄二早く来て」
「…………ハァ」
俺の発言は一切聞かずに、さっさと一階に降りていくバカ2人。……そんなこんなで、盛大にため息を吐きながら俺の日曜日は始まった。
〜雄二着替え中〜
「———美味しい!さっすが翔子ちゃんね〜♪」
「……ありがとうございますお義母さん」
半ば強制的に食卓に座らされ、おふくろと翔子と共に翔子が作ったらしい朝食を三人で食べることに。無難に白米の飯に豆腐とワカメの味噌汁に目玉焼きにサラダ付きと言うメニューだな。ちなみに味はと言うと……
「……どうかな、雄二」
「…………まあまあだ」
「……そっか。ありがとう褒めてくれて」
…………褒めてはねぇぞ。一応マズくはないとだけは言っておく。
「照れ隠しせずにもっとちゃんと褒めればいいのに、雄二ったら意地っ張りよね〜」
「……大丈夫です。雄二はこんな感じで褒めるってわかってきましたし」
「勝手な事言うなそこの二人っ!?」
こいつらの余計な一言さえなけりゃ、普通に上手いと感じられたかもな……あーくそ、何かまだ朝だってのにドッと疲れた気分だ……
「それにしてもホント、翔子ちゃん料理上手よね。作ってくれるたびに美味しくなるし、時々食べたことない珍しい料理も作ってくれるしお母さん感激だわ。絶対良いお嫁さんになるわよ翔子ちゃん」
「……花嫁修業してますし。けど雄二には負けます。雄二は料理上手で凄い」
「へいへい。お褒めの言葉どうも」
「……それにお義母さんの料理も凄い。私も今まで食べたことのない料理」
「翔子、そっちは褒めるな。おふくろが調子に乗る」
そりゃ今まで食べたことない料理だろうさ。ウニの代わりにタワシ。エビやカニの代わりに腐りかけたザリガニが出る食卓なんざ世界広しと言えどうちくらいなもんだろう。……まあ、そう言う意味じゃおふくろじゃなくて翔子が今朝の朝食を作ってくれたのは、一応感謝せんでもないが……
「酷いわね雄二は〜お母さんも頑張って今日はデザートを用意したのに」
「…………なんだと?」
「えっとね、昨日スーパーにお買い物に行ったら安かったんだけど———」
そう言って、このおふくろはニコニコしながら俺と翔子の前に冷蔵庫から取り出したものは———
「はい、二人とも。キウイみたいなのと栗みたいなものよ」
「…………“みたいなもの”じゃダメなんだよおふくろ……っ!」
「セットで食器用の洗剤もついてきた優れものなのよ〜」
「食器洗いとしては優秀だが、食い物としてはアウトだバカっ!?あんたはいい加減タワシを料理に使うなおふくろぉおおおおおおおおおお!」
「……うん、お義母さんの料理もやっぱり凄い」
そんなわけで。姫路が生成したものとはまた違った意味で食えねぇものを目の当たりにして、朝っぱらから頭を抱えながらも世にも奇妙なタワシのデザート(?)を後処理をする羽目になった俺であった……
〜坂本家朝食中&雄二タワシ料理処理中:しばらくお待ちください〜
「…………頭痛ぇ」
「……雄二、風邪?大丈夫?」
「あらやだ気を付けなさい雄二。寒くなったものね。病院行く?」
「お前ら二人のせいだよ……っ!」
朝食後、そう嘆く俺と頭痛の原因である翔子とおふくろで皿を洗う。
「つか、俺よりもおふくろこそ病院行くべきだろうが」
「どうして?お母さんは健康そのものよ〜?」
「その手に持ってるタワシをキウイだの栗だのと見間違えるその眼はどう考えても異常だおふくろ。今すぐ眼科行ってこい。それと翔子もついでに病院行け」
「……嬉しい」
「言っておくが、お前の行くべき場所は産婦人科じゃねぇぞ……精神科だ」
……いかん、また頭痛が……折角の休日だってのに何でこうも俺がこうもツッコミで疲れなきゃならんのだ……
「こういう時に造あたりがいればな……」
「……?造に用事?造なら今頃優子と木下の家」
ポツリとこの二人に対する生贄———ではなく生粋のツッコミ役———もとい頼れる友人の名を呟くと、翔子がそう返してくる。あー……そういやそうだった。何でも造のおふくろさんと日高先生とその他で旅行に行ったらしく造の家は現在ほぼがら空き状態。で、暇だからと秀吉たちの家に泊まるとか造は言ってたな。
「つーちゃんのこと?そう言えば最近孫のつーちゃんに会ってないわね〜。元気かしら?また会いたいわ」
「……でしたら、今度一緒に連れてきますお義母さん」
「………翔子、止めてやれ。造泣くぞマジで」
冗談なのか本気なのか、よくわからんがこのバカ2人はどういうわけか造を俺と翔子の第一子———しかも長女としてカウントしていやがる。アイツは(一応)俺らより年上で男なんだがなぁ……
「翔子ちゃんありがと〜。楽しみにしておくわね。ところで話が変わるけど、今日の二人の予定はどんな感じかしら?もしかして……誰にも邪魔されずに、二人でイチャイチャかしら♪いいのよ、お母さんのことは気にしないで二人とも」
「俺は誰にも邪魔されずに、月曜が来るまで“一人で”寝ていたいんだがな……」
「……私は朝みたいにお昼ご飯作ります。後……明日の課題を———」
ほー?課題ねぇ……やれやれ学年主席様は生真面目なこって。俺なんか課題出されても提出する気は全くねぇんだがな。
「———雄二と一緒にします」
「って、待てや。何で俺までお前の課題をせにゃならん」
「……?私の出された課題はもう昨日のうちに終わらせてる。やるのは雄二に出された数学の課題」
「やるのは俺の課題かよ!?」
つかマジで待て!?何で他クラスの翔子が俺に出された課題の存在を知ってんだ!?
「……瑞希と美波に課題の事は聞いてる。それにさっき確認したけど、まだ雄二は課題を終わらせてない。雄二、課題はちゃんと出さないとダメ」
「何勝手に探ってる!?俺のプライバシーはどこ行ったんだ……!?」
「偉いわ翔子ちゃん。それにとっても気が利いてお母さん嬉しいわ♪雄二は出来たお嫁さんを貰えて本当に幸せものよね〜」
「んなお節介いらんわ!?」
「……さあ雄二、一緒にやろう。あ、お義母さん。お昼ご飯は課題終わってから作り始めますね」
「はーい。ごめんねぇ、何から何までありがと翔子ちゃん♪」
「ぐぉおおおおおおおっ!は、離せ翔子……!?」
そのまま翔子に問答無用で部屋に連れられる俺と俺らに手を振りながらのんきに茶なぞ飲むおふくろ。お、俺の休日を返してくれぇ……!
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