二次創作小説(紙ほか)
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- バカな自分は召喚獣? 〜二学期編〜 お知らせあり>>270
- 日時: 2016/03/25 21:41
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
初めましてな方は初めまして。そうでない方はお久です。こちらはバカとテストと召喚獣の二次創作であり以下のスレッド
【バカな自分は召喚獣?〜一学期編〜】及び【バカな自分は召喚獣?〜夏休み編〜】
の続章となっています。読まれていない方はそちらもよろしくお願いします。
暑い夏も乗り切ってやってきました二学期編!夏休みを満喫したいつものメンバーとFクラスの前に立ちふさがったのは……無敵の鉄人による持ち物検査!?
『お願いします、西村先生!僕らにその本を返してください!』
『僕らには———僕らにはその本がどうしても必要なんです!』
『お願いです!僕たちに、保健体育の勉強をさせてください!』
『西村先生、お願いします!』
『『『『お願いします!』』』』
「黙れ。一瞬スポ根ドラマと見紛うほど爽やかにエロ本の返却を懇願するな」
『『『『鬼っ!悪魔っ!!鉄人っ!!!』』』』
毎日バカやる明久たちがそんな教師たちの横暴を黙っているはずもなく。正々堂々鉄人に挑むFクラスだったけど……(正々堂々の意味、今すぐ調べてください皆さん by造)
「ええい!こうなりゃ実力行使だ!僕らの大事な参考書(エロ本)を守るため、命をかけて戦うんだ!」
「ほう?良い度胸だ、かかってこい……シメるついでに夏休みで緩んだ頭のネジをキッチリ締めなおしてやる」
明久たちの必死の抵抗虚しく、鉄人に阻まれ大事なもの(エロ本)を取り上げられるFクラスメンバー。このまま為すすべがないのか?否、まだ手はある……!召喚野球で教師を蹴散らし、取り戻せ僕らの聖典(エロ本)!
体育祭に召喚野球。そしていよいよ試召戦争が解禁となり恋に嫉妬に勉強に、ますます楽しくそして忙しくなる造や明久たち。そんないつものメンバーの非日常的な日常をどうかよろしくお願いします。
———目次———
序章 1〜4章及び各種設定【バカな自分は召喚獣?〜一学期編〜】>>6参照
5〜5.5章及び各種設定 【バカな自分は召喚獣?〜夏休み編〜】>>7参照
6章 体育祭&召喚野球編>>1-117
102時間目>>1-5 103時間目>>8-11 104時間目>>12-16 105時間目>>20-23
106時間目>>24-28 107時間目>>29-32 108時間目>>33-36 109時間目>>37-40
110時間目>>41-44 111時間目>>45-48 112時間目>>49-52 113時間目>>53-56
114時間目>>59-62 115時間目>>63-66 116時間目>>67-70 117時間目>>73-76
118時間目>>80-83 119時間目>>84-87 120時間目>>91-94 121時間目>>98-101
122時間目>>104-107 123時間目>>110-113 124時間目>>114-117
覚えよう野球のルール〜スクイズしてください!〜>>77-79
6.5章 文化の秋・食欲の秋・文月学園の秋編>>120-221
酔いと造と幼児返り!?〜お酒は大人になってから〜
前編>>120-122 中編>>125-127 後編>>130-132
週刊☆文月学園ラジオ放送 特別企画・文化の秋!
前編>>135-136 後編>>137-138
ワシと自分と演劇と〜演目はバカテス童話!?〜
その①>>141-143 その②>>146-148 その③>>149-151 その④>>154-156 その⑤>>157-159
その⑥>>164-166 その⑦>>167-169 その⑧>>170-172 その⑨>>173-175 その⑩>>176-178
召喚実験シリーズ〜自分と本音と暴露大会〜
その①>>179-181 その②>>182-184 その③>>185-187
その④>>188-190 その⑤>>191-193 その⑥>>194-196
寒い日は鍋が一番!〜闇鍋?病み鍋?暗黒鍋デス〜
その①>>197-199 その②>>202-204 その③>>209-211 その④>>214-216 その⑤>>219-221
7章 二学期試召戦争開幕&Fクラスの変編>>224-330
125時間目>>224-226 126時間目>>229-231 127時間目>>234-236 127.5時間目>>241-242
128時間目>>243-245 129時間目>>246-248 130時間目>>251-253 131時間目>>256-258
132時間目>>261-263 133時間目>>264-266 134時間目>>267-269 135時間目>>271-272
136時間目>>273-274 137時間目>>275-277 138時間目>>280-282 139時間目>>283-285
140時間目>>286-288 141時間目>>289-291 142時間目>>292-294 143時間目>>295-297
144時間目>>298-299 145時間目>>300-302 146時間目>>303-305 147時間目>>306-307
148時間目>>308-309 149時間目>>310-311 150時間目>>312-313 151時間目>>314-316
152時間目>>317-318 153時間目>>319-321 154時間目>>322-323 155時間目>>324-326
156時間目>>327-330
7.5章 とあるお休みの一日:同棲生活は命がけ編
召喚実験シリーズ:〜みんなの子どもシミュレーション〜
その①>>334-336 その②>>337-338 その③>>339-341
その④>>342-344 その⑤>>345-347 その⑥>>348-350
文月学園新聞&特別補習:鉄拳先生の情報講座>>353-355
彼と彼女のとある日の出来事
〜明久と瑞希編〜
前編>>356-358 中編>>359-361 後編>>362-365
〜雄二と翔子編〜
前編>>366-368 中編>>369-372 後編>>373-377
〜造と秀吉と優子編〜
前編>>378-380 中編 後編
〜明久と美波編〜
前編 中編 後編
〜造と葵編〜
前編 中編 後編
〜康太と愛子編〜
前編 中編 後編
おいでませ文月学園!久保弟の学校見学
前編 中編 後編
8章 最終決戦!Aクラス対Fクラス試召戦争編
———バカテスト集———
その⑦>>18-19 その⑧>>240 その⑨>>278
———各種設定———
文月学園レポート:腕輪編その①>>17 その②>>279
お知らせ>>270
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜中編 ( No.359 )
- 日時: 2016/03/25 21:12
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
明久Side
何とか瑞希&姉さんの必殺料理人コンビを説得し、無事に昼食を終えた僕は……今現在瑞希と一緒に市内のショッピングモールへと来ていた。
「それで瑞希、何を買うのかな?」
午前中に掃除もやり終えたし、後は夕方まで美波と葉月ちゃんの連絡を待つだけと言うことで暇をしていた僕は、昼食後何やらちょっとした買い物があると言って外に出かけようとしていた瑞希の荷物持ちを買って出たんだけど……肝心の何を買うのか聞いていなかったね。と言うわけでモールの入り口でそう尋ねる僕。
「えっ!?え、えーっと……ちょっと服を買おうかなって思ってまして。た、大した荷物にならないので荷物持ちもしなくていいんですよ明久君」
「良いって良いって。どうせ夕方までやることもなかったしどんどん使っちゃってよ」
「(ボソッ)いえ……これから買うものはちょっと明久君に持たれると恥ずかしいものと言いますか……」
「ん?恥ずかしい?何が?」
「コホン!わ、私の買い物はともかく、明久君こそ良いんですか?何か用事があるって行く前に言ってましたけど」
「あ、うん。用事って言っても僕のは大したものじゃないから後で適当に行ってくるよ」
当たり障りのないことを言ってお茶を濁す僕。瑞希について来たのは勿論彼女の荷物持ちが最優先事項ではあるけれど実はもう一つ隠れた目的がある。そう———新作ゲームの購入だ。最近は姉さんの監視が厳しすぎてずっと我慢してきたけれど、そろそろ我慢も限界。話題の新作なんだし、なんとしても手に入れたいわけで。
「あ、でしたら明久君のお買い物が先で構いませんよ。何でしたらついて行きますし」
「えっ!?」
それは困る、すごく困る。ゲームの事は姉さんは勿論なるべくなら瑞希にもバレないようにしておきたい。素直で良い子で嘘が苦手な瑞希だからうっかり姉さんの卑劣な誘導尋問に引っかかってゲームの事がバレる恐れがあるからね……
「い、いやホラ!ぼ、僕のは……本当に楽しくも無ければつまらない用事だし!」
「いえ、私の方こそ大した用事ではないんです。ですからどこだろうといくらでもお付き合いしますよ」
「いいや、瑞希の用事の方が大事だって!」
「いいえ、明久君の用事の方が大事です!」
遠慮深くて優しい瑞希は気を遣って僕を優先に考えてくれているようだけど、どうしようこのままじゃゲーム買いに来たってバレてしまう……こ、こうなったら———
「み、瑞希……今から行くところはキミにとっては刺激が強すぎるんだよ」
「???刺激、ですか……?それってどういう……?」
「なんたって———目的はエロ本を買いに来たんだからねっ!」
「…………え、ええっ!?」
———肉を切らせて骨を断つ。この際僕の名誉が失墜しようともこの程度のことはなんてことは無い。と言うか、以前姉さんのせいで瑞希と美波に僕の宝物(エロ本)を所持しているってバレてるしこの前の持ち物検査でも持って来ている事は最早周知の事実。今更取り繕っても後の祭りだし。そんな僕の決死の覚悟を込めた一言に、目を白黒させて驚く瑞希。よしよし。これで付いて行く、なんて言わないハズだ。
「さ、さあ瑞希!それでも一緒に付いてくるというのかな!」
「行きますっ!それが本当なら、私も一緒に選んであげますからっ!」
「…………なんですとぉ!?」
お、おかしい。さっきより余計にやる気になってる……っ!?こういう時って普通引いたりするんじゃないの!?ま、待って……このままじゃ僕は同級生の女の子と一緒にエロ本を選ぶなんて恐ろしき体験をすることに……!?予想の斜め上の反応されて驚かそうとした僕の方が混乱してきたぞ……っ!?
「(ボソッ)こ、今後の為にも……是が非でも明久君の趣味嗜好は知っておくべきですし……美波ちゃんもきっと知りたいって思っているはずです———と言うわけで、ど、ドンとこいですっ!」
「ぐっ……い、良いのかな瑞希っ!すっっごい……ハードなものを買うつもりだったんだよ?」
し、仕方ない……こうなりゃ我慢比べだ。あまり瑞希を怖がらせるのも申し訳ないけど背に腹は代えられない。ビビらせて付いてこさせないようにしよう。
「す、すっごいハード……!?そ、それって一体……せ、説明してみてくださいっ!」
「説明しなきゃいけないの!?」
何という羞恥プレイ。神様、アンタは僕を試しているとでもいうのか。そ、そうかこれはきっと念願の新作ゲームの為の試練。こうなったらやってやろうじゃないか!
「きょ、今日買うのは(ピー)が(ドゴーン)で(ズキューン)する(ザッパーン)なやつなんだ!」
「ぴ、(ピー)が(ドゴーン)で(ズキューン)する(ザッパーン)ですか!?あ、明久君ってそう言う趣味だったんですっ!?」
流石にこれは効いたようで、顔を真っ赤にして動揺する瑞希。よしよし、このまま畳みかけよう!
「ふふん!それだけじゃないんだよ瑞希!他にも(放送事故)や(検閲削除)や(自主規制)なんてものも買うつもりなのさ!」
「は、はぅ……あぅう……」
僕の止めの発言にさっきまでの勢いはすっかりなくなり小動物チックに可愛らしくオロオロする瑞希。うーん……ちょっと脅かしすぎたかな?まあ、でもこれで一緒に行くなんてことは言わないハズ。心置きなく新作ゲームを買いに行けるね。
…………なんて思っていたら、不意に背中から声をかけられる。
「君たち、高校生かい?ちょっとこっちで保護者の方と学校の連絡先を———」
「さぁて買い物に行こうね!向こうには一体何があるんだろうね!」
「え、わわっ!?あ、明久君!?」
「君たちっ!待ちなさいっ!」
僕のちょっと(?)過激な発言を聞いていたのはどうやら瑞希だけではなかったらしい。大慌てで瑞希をお姫さま抱っこして猛ダッシュする僕と追いかける警備員のおじさん。捕まったら最後、姉さんや鉄人を呼び出されその二人に物理的な折檻&長時間の説教をされてしまうだろう。
『……あ、あれ?今の……アキさん……?』
『む?何じゃ造。どうかしたのかの?』
『い、いえ……気のせい、だと思います……多分』
『なになに?何か気になることでもあったの造くん』
『いやその、女性をお姫さま抱っこしたまま警備員さんに追いかけられている男性がいたんですけど……』
『何じゃそれは……?』
『ず、随分変わった人ね。お客さん……かしら?』
『あ、あはは……何だったんでしょうねー(ボソッ)その人アキさんに似てたような気がしたんですけど……言わない方が良さそうですね』
〜明久逃走中:しばらくお待ちください〜
FFF団に鍛えられた逃げ足を武器に逃走すること数分、途中で警備員のおじさんは僕らを見失ったようで、振り向いたら姿は無くなっていた。
「やれやれ……危うく補導されるところだった。ゴメンね瑞希、急にこんなことして」
「あ……いえ、その……とても……うれし……かったので……またいつでもお願いしたいなーって……」
もう追いかけられる心配はなさそうだし、抱えていた瑞希を降ろしてあげると何かごにょごにょ言っている。
「ん?」
「な、何でもありませんっ!そ、それより……明久君。さっきのことですけど……」
「え、さっき……?さっきのことっていうと……あ」
あ、ああ……ゲームを買いに来たことを誤魔化すために言ったエロ本を買いに来たって話かな。どうやらさっきの僕の発言を真に受けてしまった瑞希はちょっぴり涙目になっている。どうやらさすがにやり過ぎたみたいだ……すっごい罪悪感。
「さっきの話、本当ですか……?(ボソッ)私も美波ちゃんも普通が良いので……そう言う趣味は……できればで良いので持たないでくれると……」
「あの、ゴメン瑞希。さっきの全部嘘なんだ。ホント大した用事じゃないんだよ」
「えっ?嘘……ですか?」
よくよく考えたらこれからしばらく瑞希も美波も葉月ちゃんも同棲するわけだし、こんなケダモノと一緒に住むなんて不安にさせるのはマズい。我ながら変な言い訳しなきゃよかったと反省しながら本当の事を話すことに。
「で、でしたらどうしてそんな嘘を……?」
「……その、ごめんなさい。実はゲームをこっそり買いに行こうとしてました」
「え?ゲーム、ですか?」
「うん。今日ちょうど新作の発売日なんだ。それで……瑞希経由で姉さんにバレるとマズいと思って変な言い訳しました」
「な、なんだぁ……そうだったんですか。安心しました」
今の説明でどうやら安心したようで、ホッと胸を撫で下ろす瑞希。
「その一応確認しておきますけど……と言うことは、明久君の趣味ってああいうのではないんです……よね?」
「あ、当たり前だよ!僕は至ってノーマル!超普通だからね!?」
……今更だけど、我が事ながらもう少しマシな言い訳を考えられなかったのだろうか。冷静に考えたらゲームを買うことを誤魔化すためにエロ本を買うって言う何てそっちの方がアウトだよ……お陰で瑞希に変に思われてしまったじゃないか。恨むよ僕の残念頭脳……
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜中編 ( No.360 )
- 日時: 2016/03/25 21:13
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
「そ、それなら良かったです!普通が一番ですよねっ!———(ボソッ)ま、まあ明久君が望むなら……私も美波ちゃんもイロイロ頑張る予定ですけど———コホン、じゃあ誤解ってわかりましたし、早速ゲーム屋さん行きますか?」
「あ、それはホント後ででいいんだよ。いつでも買えるわけだしゲーム買うだけなら5分もかからないと思うし」
「私の用事からでいいんですか?」
「うん。確か瑞希は服を見て回りたいんだったよね?だったら二階に行こう。服飾品とかって二階にあるし。終わったらすぐにゲーム屋にも行けるし」
「そう……ですね。私もとりあえず二階に上がるのは賛成です」
このショッピングモールは一階がフードコートやスポーツ用品店、それに生鮮食品売り場があり、二階には書籍やゲームなどのお店がある。瑞希が行きたがっていた服飾品を扱っているのは二階だし、どの道僕が行く予定のゲーム屋も二階にある。と言うわけでまずは二階に行ってみることに。正面のエスカレーターに乗り二階へと上がる。
「あ……明久君、明久君」
「ん?どしたの瑞希」
「その、お買い物の前にちょっと遊びませんか?」
早速瑞希の行きたがってる服屋にでも行こうとした矢先、瑞希が僕の袖をくいくいっと引いてゲームで遊ぶアミューズメントエリアを指差しそう言う。
「わ、ちょっと意外かも。瑞希って普段ああいうので遊ぶの?」
「いえ、いつもは……と言うかほとんど遊んだことなんてないんですけど……ダメ、ですか?」
そう可愛らしくもじもじとお願いする瑞希。そんなお願いを断る選択肢など勿論存在しない。
「いいよいいよ!こちらこそ喜んで。時間もまだまだあるし遊ぼっか」
「あ、ありがとうございます♪じゃあ行きましょう!」
「うんオッケー———っとと。そう急がなくても」
「ふふっ、ダメです。一日には限りがありますからね」
楽しそうな瑞希に腕を引かれてアミューズメントエリアに足を踏み入れる僕。クレーンゲームやガンシューティング、メダルゲームに格闘ゲームなどなど……豊富なゲームが揃っているね。
「えーっとまずは……あ……この人形可愛い……」
「ん?どれどれ?」
何で遊ぼうかときょろきょろしていた瑞希は、一台のクレーンゲームの前で足を止めた。瑞希の視線の先には真っ白なウサギの携帯ストラップ。二頭身にデフォルメされ、なんだか猫とウサギの合いの子みたいだね。うんうん、確かにこりゃ可愛い。……けど、クレーンゲームかぁ。
「私、やってみますねっ!」
「あ、ちょい待ち」
と、僕が止める間もなく百円玉を迷わず投入する瑞希。そのまま慎重にボタンを押してクレーンを動かすけれど……
「「あ……あれ……?」」
けれど、そのクレーンのアームはどういうわけか狙っていたストラップとは二つ離れたパンダのストラップを掴む。お、おお……?これはもしや……
ゴト、ゴトンッ!
なんて音を立ててそのまま取り出し口からストラップが落ちてきた。こりゃ驚いた、景品はバッチリゲットだね。
「……え、えっと。あうぅ……」
「凄いじゃないか。一発で成功なんて」
普通こういうクレーンゲームはちょっとコツがいる。アームの強さや配置位置、掴む場所の調整とか結構難しいはずなのに最初の一回だけで賞品がとれるのは中々凄い。…………狙いはともかく。
「うー……明久君、わかってて言ってますよね。ホントは別の欲しかったのに……二つも隣の取っちゃいました……」
「まあまあ。こういうクレーンゲームってお金全部使っても取れなかった、なんて良く聞く話だし一発成功は純粋に凄い事だよ。そのパンダもパンダで中々可愛いし良いんじゃないかな?」
「そう……ですか?ま、まあちょっぴり残念ですけどあんまり遊びすぎてお金が無くなっちゃうのも困りますし、今日はこの子で我慢しますね」
「もし今度やるなら僕もアドバイスするよ。その時は頑張ろ。んじゃ次は何をやる?」
誰が言ったかクレーンゲームは貯金箱。遊ぶだけならまだしもこの後買い物を控えている瑞希(と一応僕)がこれ以上どっぷり嵌って一文無しになるのもマズいしクレーンゲームはこの辺にしておくことに。さて、何をやろうかな。シューティングゲームとかなら協力プレイとかできそうだけどあんまし瑞希の好みじゃなさそうだし……
「そうですね……じゃあ、何でもいいので一度明久君と勝負してみたいです」
「へ?僕と勝負?」
と、何をやろうかとゲームを吟味していた僕に、瑞希がポツリとそんなことを言ってきた。勝負?はて、どうしてまた瑞希はそんなことを?
「あ、その。ダメならいいんですけど……」
「いや、ダメじゃないよ。折角来たんだし色々やってみようよ。と言うわけで、勝負だよ瑞希っ!」
こんなにもいっぱいゲームがあるわけだし、こういう場所にあまり来ないと言っていた瑞希もきっと楽しみたいんだろう。そういう僕も瑞希と一緒にこんなことが出来る日が来るなんて思ってなかったし……存分に楽しもうかな。
「あ、ありがとございますっ!私、頑張りますねっ!」
「うん!手加減はしないからね!」
「はいっ!望むところです。私もぜーったい負けませんからね」
「じゃあどれで勝負しようか。やってみたいものあるかな?」
「えーっと、そうですね。勝負できるものと言うと———」
パッと目に付くのはエアホッケーとか格ゲーあたりだけど、エアホッケーみたいな身体動かす系は瑞希に無理させちゃうかもしれないし、格ゲーは初心者の瑞希はよくわからないかもしれない。他に何かちょうど良いものは……
「あ、明久君。あれはどうですか?」
「どれどれ?おお、いいじゃない」
瑞希が指差したのは早押しクイズゲーム。うん、あれなら大きく身体を動かすわけでもないし難しい操作を必要とするものでもない。一番ちょうどいいゲームかもしれないね。
「なら早速やろうか。ふふん、瑞希。僕が意外と雑学に詳しいってところ見せてあげるよ」
「ふふっ、知識なら負けませんよ明久君」
そんな軽口を楽しく言い合いながら椅子に座って、それぞれ百円玉を入れて筐体のスタートボタンを押す。名前の入力の後にはクイズのジャンル選択があった。
「好きなジャンルを選べるんですね。私は……“社会”にしますね」
「んー……なら僕は“スポーツ”にするね。よし、じゃあスタートだ」
ジャンル選択を終えてボタンを押すと、いよいよ問題が始まる。
『第一問:社会』
最初は瑞希の選んだ社会の問題か……まあ、多少なりとも僕も最近は勉強している(と言うかさせられている)し、瑞希の得意分野とは言え案外僕でも簡単に答えられる問題かも。なんて思いながらゲームの筐体から聞こえてくる問題の読み上げる声に耳を傾けると———
『日本がラッコ・オットセイ保護国際条約を締結したのは何年か。西暦で答えなさい』
ハッハッハ!———わかるかそんなもん。
「えっと、確か1911年でしたっけ」
「そしてなんでわかるの!?」
瑞希が数字を打ち込むと、見事画面には“正解!”の文字が出てくる。これで一点リードされたか。と言うか今更だけど瑞希の知識の幅ってめちゃくちゃ凄くない……?それと何かこのクイズ難しすぎないだろうか……これ勝つどころか付いていける気が全くしないんだけど……
『第二問:スポーツ』
若干慄きながらも二問目に備えることに。二問目は僕が選んだジャンルのスポーツだけど、さっきの問題を見るに相当難しめの問題が出てくるハズ。気合いを入れ直し再び筐体から聞こえてくる問題を読み上げる声に耳を傾けると———
『サッカーで唯一手を使っても良いポジションは?』
ハッハッハ!———さっきの問題との難易度の落差激しすぎない!?何でこっちはこんなに簡単なんだよ!?
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜中編 ( No.361 )
- 日時: 2016/03/25 21:14
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
「え、ええっと……キャッチャー、でしたっけ……?」
とは言え解答者の知識の落差も激しかったようで。うん、これなら何とか僕も勝つ見込みはあるようだ。
「キャッチャーは野球の捕手のことだね。キーパーが答えだよ」
そう言いながら“キーパー”と打ち込むと、今度は僕の方に点数が入って同点となった。
「むむむ……やりますね明久君。でも負けませんから」
「こっちこそ、さあ次の問題行くよ瑞希」
そんな感じでしばらくお互いに得意ジャンルでしか得点できない一進一退の攻防が続いて、同点で迎えた最後の問題。ジャンルは……最後の問題だけあってどうやらランダムに選択されるようだね。ここまで来たからには勝たせてもらおう。そう意気込みながら筐体の読み上げる問題に耳傾けていたその時。
「ねえ明久君」
「うん?」
「こういうの、なんだかデートみたいで楽しいですね♪」
「んなっ!?」
突然瑞希がそんなことを言いだした。
「動揺しましたね、明久君。隙ありですよ」
思わず立ち上がってしまった僕を横目に、その隙をついて問題に答える瑞希。その結果は正解で、これで瑞希の勝ちで僕の負けになってしまった。
「これで私の勝ちですね、明久君」
「ぐぅ、まさかこんな方法で動揺させるなんて……」
瑞希がこういう手を使うとは全く思っていなかった。完全に油断してたよ……
「ふふっ、動揺する方が悪いんですよー」
「うぅ……い、意識しないようにしてたのに……」
「えっ?い、意識しないようにって……」
荷物持ちに来たとは言え、瑞希とお買い物なんてシチュエーション意識しちゃうと絶対僕はギクシャクしてしまう。なるべくその……で、デートみたいだって意識しないようにと心掛けていたのに、なんて的確に動揺させるんだ……完敗だよ。
「(ボソッ)それはつまり明久君も意識してくれてたんですね。なら、なおさら嬉しいです♪」
「おお、何だかめちゃくちゃ嬉しそうだね」
「はいっ!とっても嬉しいです!」
勝ったことが余程嬉しかったのだろう、ご機嫌になっている瑞希にこっちまで癒されていたその時。
「(——————っっ!!?)」
僕の第六感が何者かの気配を感じ取った。姿は見えない、けれど僕にはわかる……伝わってくる。幾度となく危機を切り抜けてきた勘が、僕に教えてくれる。これは、この気配は———
「(敵(バカ)の気配……っ!)」
恐らくはFクラスの誰か……雄二か須川君、福村君なんて線も考えられる。何にせよ僕と瑞希がこんなところにいると連中に知られたらどうなるかなんて考えるまでもない。最悪の場合僕らの同棲生活のことも知られたらと思うと……
「あれ?明久君、どうかしましたか?」
「うん、瑞希。ちょっとこっちに」
「へ?あ、はい」
とにかくまずは隠れよう。瑞希の手を引いて敵(バカ)の気配とは逆の方向へ歩き出すことに。しばらく歩くとその先には幕がある何かのゲーム機が。よし、とりあえずこれなら外には顔が見えないハズ。
「あ……このゲームって」
ゲーム機の中に入ると、瑞希が何か小さく声を上げる。一方の僕はと言うとさっきの気配の主に気付かれていないかと外の様子をうかがっていた。
「(……おかしい。さっきの敵(バカ)の気配、こっちに近づくどころか逆に離れていった感じがする?)」
僕が気づいたということは向こうも僕の気配に気づいている可能性が高い。あまり考えたくはないけれど瑞希を連れていたところが見られていたかもしれない。だと言うのに僕を追って来ないなんて……何故だ?それともさっきの気配は僕の気のせいだった?
「まあ、いいか。とりあえず当面の身の危険はなさそうだし。ゴメンゴメン瑞希、巻き込んじゃって———瑞希?」
警戒を解いて瑞希に向き直る僕。その瑞希はと言うと、やけに真剣な目でゲーム機に向かっている。
「えっと……12月21日のA型で……はい。次は明久君の番ですよ」
「???」
いつの間にかお金を入れてこのゲームをやっていた瑞希に促されて画面の前に立つ僕。そこには『誕生日と血液型を入力してください』って表示されているけど……ああ、なるほどこれ占いのゲーム機か。
「んじゃ10月18日の、血液型は———」
とりあえず言われるがまま誕生日と血液型を入力する僕。そういやこんな占いとかするの僕初めてかも。
『最後に、二人一緒に中央の水晶に触れてください』
画面の表示に従って中央の水晶に手を乗せる僕ら。ちなみに瑞希はめちゃくちゃ緊張した面持ちで水晶に手を当てている。……いや瑞希、何事も一生懸命なのはキミの素敵なところではあるけれど、ゲームなんだしそこまで真剣にならなくても……
『結果をプリントアウトします』
しばらく待つと、取り出し口からレシートっぽい紙が印刷されて出てきた。瑞希はそれを受け取ると脇目もふらずに中身を確認する。
「瑞希、どうだった?なんか良い事書いてあった?」
「…………」
「?もしもーし、瑞希聞こえてる?」
僕の声が耳に入らないくらい一心不乱に読んでいる瑞希。うーむ、結果は知りたいけど僕の場所からじゃ読めないなぁ。仕方がないから待つこと数分、読み終えた瑞希は顔を上げると———
「♪♪♪」
さっき以上に、いやと言うか今まで見たことがないってくらいに上機嫌に笑みを浮かべている。
「ふむふむ、その様子だと良い事書かれてたみたいだね瑞希、良かったじゃない」
「はいっ!とっても!それに、書いてあったことだけじゃなくて明久君がこういうゲームを私と一緒にやろうとしてくれたことが一番嬉しいんです♪」
……ん?あ、いや僕はただ妙な気配から逃れるためにここに逃げ込んだだけで———と言おうとしたけど、瑞希がこんなにも嬉しそうなんだし言うのは無粋か。何にせよ喜んでくれたのは嬉しいし。
「あ、それと明久君。これ貰っちゃってもいいですか?」
「へ?あ、うん。それは良いんだけど———」
「ありがとうございます。大切にしますね。それじゃあそろそろお買い物に行きましょうか」
「あ、ちょ!ちょっと待って瑞希」
そう言って、結果がプリントされた紙を丁寧に畳み大事そうに財布の中に仕舞いつつ、さっきとは逆に僕を引っ張る瑞希。いや、それは構わないんだけどさ———僕、占いの結果は勿論何についての占いかすら教えてもらってないんだけどなぁ……
「あまり遅くなって玲さんに心配かけたくありませんし、美波ちゃんたちから連絡がくるかもしれませんからねっ!」
「……まあいっか。あーうん。そうだね。あんまりのんびりもしれられないね。じゃあ行こうか———ところで瑞希」
「はい?」
「ちょっとしか遊べなかったけどさ、楽しかったかな?」
「はいっ!最高でしたっ!」
……ま、占いの内容何てどうでもいいか。だって———こんなにも楽しそうな瑞希の零れんばかりの笑顔を見せられちゃ、そんな事なんてささいなことだろうからね。
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜後編 ( No.362 )
- 日時: 2016/03/25 21:15
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
明久Side
瑞希と美波と葉月ちゃん、ついでに姉さんとの同棲生活一日目。その記念すべき一日目でまずは何やら買い物があると言う瑞希と一緒にショッピングモールにやって来た僕。ほんの数十分前くらいまでは瑞希とちょっとしたデートみたいにゲームをしたりととても楽しかった……ハズなのに。
「ハァ……ハァ……くそぅ、まだ追いかけてくる……」
『テメェ、待てやゴラァ!』
その数十分後には、綺麗で可憐な美少女瑞希とは似ても似つかない楽しい時間をぶち壊す殺意交じりのバカでブサイクな野郎に追われることとなってしまった。畜生……どうして、どうしてこんなことに……!?
〜遡ること10分前〜
クレーンゲームにクイズゲーム、そして内容はよくわかんなかったけど占いゲームで遊んだ後アミューズメントエリアを出ることにした僕と瑞希。さて、あんまりのんびりもしていられないしそろそろここに来た目的の場所に行くとしようかな。
「明久君はゲームを買いに行くんですよね?」
「うん、そのつもりだよ」
「もう……あんまり無駄遣いしちゃダメですからね?玲さんに怒られちゃいますし」
「はーい」
なんて言いつつ、こっそり「今日だけは見逃しますけどね」なんて言う瑞希はホントに優しいと思う。
「そういう瑞希は服屋さんに行くんだっけ?どこのお店に行くのかな?買い終わったらすぐに荷物持ちする予定なんだけど」
「えっ!?あ……その……あぅ……」
「???瑞希?」
「そ、その!ちょ、ちょっと適当に見て回る予定です!」
「……ふむ」
もしかして……この慌てている反応、瑞希も何か人には言い辛いものを買う予定なのかな?
「ねえ瑞希———」
「ななな、何でもないんです!少しだけフラフラしたいなーって思ってまして……そのぅ……」
何だか瑞希の挙動がおかしい。これはまるでさっきゲームを買いたいことを隠していた僕みたいじゃないか。やっぱり瑞希も何か隠れて買いたいものがあると言う事なんだろう。だったら……
「瑞希、携帯持ってる?」
「へ?け、携帯……ですか?え、ええ勿論」
「よしよし。ならさ、とりあえず僕はゲーム屋に行ってゲームを買ってくるよ。でもこの僕の事だし買い終わってからもしばらく他に面白そうなゲームがないかゲーム屋でウロウロしてると思うんだ」
「は、はあ……」
「それでうっかり時間も忘れてゲーム屋にいるかもしれないからさ、瑞希の用事が終わったら電話してくれないかな?すぐに荷物持ちに戻るから」
「あ……は、はいっ!」
うん、これでよし。こう言っておけば瑞希も気兼ねなく自分の買い物が出来るだろう。
「じゃあ、終わったら電話かメールをしますね」
「うんオッケー、ならまた後で」
そう言って途中の通路で一旦バラバラに行動することになった僕と瑞希。さて、このまま真っ直ぐゲーム屋に行っても良いんだけど……まずは“アレ”を先に取ってみますかねっと———
『よ、よかった……でも、あれって明久君が気遣ってくれたんですよね……やっぱり明久君って優しいな……えへへ♪』
『———ん?あら瑞希じゃない。こんにちは、お買い物かしら?』
『えっ?……あっ!優子ちゃん!』
〜明久寄り道中:五分後〜
「いやぁ、上手くやれて良かったなぁ」
新作ゲームの前のちょっと寄り道を終えた僕。多少の出費は覚悟していたけど、一発で成功出来て何よりだ。これでゲームを買うお金が無くなったら元も子もないし、ああいうのも偶に遊んでてよかったよ。
「さてと。んじゃゲームゲームっと」
もしかするとすぐに瑞希が用事を済ませちゃうかもしれないし、僕も急いで本来の目的であった新作ゲームの為にゲーム屋を目指す。と、その目的地であるゲーム屋のすぐ近くの曲がり角を曲がった次の瞬間。
「(———っ!)」
咄嗟に回れ右をして、物陰に隠れる僕。
『……あ?今何か……いや、また気のせいか』
あともう少しでゲーム屋だと言うのに、僕の前方に一人の男の姿が。
———ライオンのような鬣の髪型。
———野性味溢れる野蛮そうな顔立ち。
———頭悪そうなのに悪知恵だけは得意気な雰囲気。
ま、間違いない……あれは……!
「ゆ、雄二……!?」
見紛うことなどあり得ない、僕の大敵である坂本雄二だ。
「なんでアイツがここに……!?」
と、思わず小さく呟いてしまう僕。いや、別にヤツがここにいること自体は不自然ではない。休日のショッピングモールだし、この町の人間ならバッタリ出くわすことなんてそうおかしいことでもないだろう。ただ問題は……
「よりにもよって、なんでこのタイミングでアイツが……!」
問題は、瑞希とデートしているように見えてしまう状況で、あの男と出くわしてしまったと言う事だ……さては、さっきの敵(バカ)の気配はアイツのものか……!
さて、ここで瑞希と一緒だということがアイツにバレたらどうなるか考えてみよう。ヤツは他人の不幸は蜜の味がモットーのFクラス代表。他人の幸せを防ぐため、日夜努力を欠かさない。僕を一旦戦闘不能にした後で、異端審問会に連絡して僕を引き渡し、異端審問にかけるのはまず間違いない。最悪異端審問中に瑞希と美波と葉月ちゃんとの同棲生活の件もバレたらと思うと……
「同棲生活の件をちゃんと説明しても……多分FFF団は聞く耳持たずに死刑宣告するだろうからね……」
同棲生活一日目で僕の人生が終わりを告げることになるだろう。この状況で、出会ったのはあの男。こうなれば僕のやることはただ一つ———
「…………殺るしか、ない」
先手必勝、見敵必滅。殺られる前に殺るしかない。ここでぐずぐず迷ってしまい何もできずに見つかったら最後、仲間(FFF団)を呼ばれてしまう恐れもある。そう、方針を決めたからには迷っている時間は無い。息を殺しつつ物陰から物陰へと移動し、奴の背後へと忍び寄る。標的は———よし。僕に気が付いていない。これなら……殺れる!
狙うは奴の首、鍛えられているとは言え不意打ちで殺れば流石の雄二も一たまりも無いはず。アホ面であくびなんかしている今が絶好のチャンス。口封じついでに日々の恨みも込めて必殺の一撃を、気合いと共に解き放つ。
「クタバレ雄二ィイイイイイイイイイイ!」
「っとと、やれやれ靴紐が……」
ブゥン!
突然屈んだ雄二の頭上を、僕の渾身のハイキックが通過していった。
「「…………」」
ハイキックの姿勢の僕と、屈んでいる雄二で、ちょっとしたにらめっこ開始。……これ傍から見たら超シュールな光景だろね。
「……………………おい、テメ———」
「命拾いしたな雄二!だが次はないものと思えっ!」
「あっ!コラ!待ちやがれ!」
ちぃ……奇襲失敗。こうなれば即座に離脱。いくらなんでもアイツに正面から挑むのは分が悪いし、一旦仕切り直そう。捕まらないようにダッシュでその場を離れながら、同時にあることを考える僕。
「(奇襲されたとはいえ、アイツも驚きはしても追ってはこない……かな?)」
うん、きっとそうだ。ああ見えて雄二のヤツは結構合理主義者。休日の自由に過ごせる時間と僕に対する仕返しをする時間を天秤にかけて、前者を選択するのが普段のアイツの行動パターンだ。僕と瑞希が一緒にいるところを見たならともかく、そうじゃないならわざわざ公衆の面前で僕を追いかける必要はないし無駄な労力は使わないだろう。明日にでも学校で仕返しすれば済む話だからね。
そう思って、一応追いかけてこないか後ろを確認してみると———
『明久!待ちやがれ!』
「なんで!?」
僕の考えとは裏腹に、鬼気迫る形相で僕を追いかけてくる雄二。え、どういうこと!?なんでわざわざこっちに走ってきてるの!?なんでそんなに必死になってんのアイツ!?と、ともかく追いつかれたらマズい。急いで撒くしか……
『『…………』』
『ね、ねぇヒデさん……今のって……』
『う、うむ……明久に雄二、じゃったの。こんな場所で一体何をやっておるのじゃあやつらは……』
『やっぱりさっき見えたのはアキさんとゆーさんでしたか……と言うか良いのでしょうか?あんまり騒ぎ立てると警備員さんにまた———』
〜明久&雄二鬼ごっこ中:しばらくお待ちください〜
- 彼と彼女とある日の出来事〜明久と瑞希編〜中編 ( No.363 )
- 日時: 2016/03/25 21:16
- 名前: 糖分摂取魔 ◆YpycdMy5QU (ID: 4.tSAP96)
「ハァ……ハァ……くそぅ、まだ追いかけてくる……」
『テメェ、待てやゴラァ!』
背後から聞きなれた声が響き渡る。ちぃぃっ!全然引き離せないっ!
「このままじゃマジでマズい……」
これじゃあわよくば仕切り直して、ヤツが油断しているところをまた奇襲———なんて僕の作戦は通用しそうにない。と言うか、それ以前にこのままじゃ僕が殺られる……!今この時だって走っているうちにどんどん距離が縮まっている。一応僕と雄二の足の速さはほぼ互角。けれど向こうは僕の逃走に合わせてショートカットを駆使してくる分アドバンテージがある。
「くそ……追いつかれるのも時間の問題……こうなったら———」
そう、こうなったらイチかバチかだ!角を曲がった瞬間、そこにあるお店の中に間髪入れずに入る僕。このままここに隠れて、ヤツをやり過ごす……!
『っ!ヤロォ!どこだっ!』
その一瞬でアイツは僕を見失い、駆け込んだ店の前でキョロキョロと辺りを見回している。よし……上手くいった!とりあえず乱れた息を整えつつ、ヤツに気付かれないように気配を断つ。気を抜けば見つかるし何としてもここはこの店の客として溶け込まないと……
「(…………あれ?そういえばここは何のお店なんだろ)」
咄嗟に駆け込んだから何のお店かわからないや。雄二に気付かれぬように出来る限り不自然な仕草を取らないように注意しながら、ゆっくりと周囲を観察する。そんな僕の眼前に広がるのは———
白、水色、ピンクにベージュ。他にも何種類もの色が辺り一帯にちりばめられている。ふむ……なるほどね。ここは———
「(———女性用下着店、か)」
色彩鮮やかなブラやショーツがディスプレイされている女性用の下着売り場。さぁて、と。
「(どうやってここに溶け込めと……っ!?)」
あ、アカン……苦難多き僕の人生と言えど、ここまでの難題に直面したことは未だかつてない。女性用下着店に飛び込んできた男子高校生。なんて字面的にもアウトすぎる……そんなものどう取り繕っても浮いてしまうに決まってる。……これがさっきのように瑞希と一緒ならまだ色々と言い訳は出来たはず。けど残念ながら今は一人だし、このままじゃ変態街道まっしぐらなんだけど……!?
「(だ、ダメだ……ここはホントにダメだ……っ!?)」
流石にヤバイと判断し店を出ようとすると、前方には今まさにこちらに首を向けようとしている雄二の姿。こ、こっちもマズいっ!?咄嗟に首を引っ込めて、下着を付けたマネキンの陰に身を隠す。前門の虎後門の狼……クソ、どうすりゃいいのさ……!?
「あ、あの……お客様……?」
「っ……!」
と、そんな僕の様子を不審に思ったのか、店員さんの一人が意を決して僕に声をかけてくる。どどど、どうする……!?こ、こんな時僕はどうすれば……!?え、ええぃままよ!
「あ、あはは……す、すみません店員さん。かかか、彼女に連れられて……来たんですけど……ぼ、僕浮いちゃってますよねー!ははは……お、男の僕がここにいちゃ、マズい……ですよね?」
「あ、ああなるほど。いいえ、大丈夫ですよ。男子禁制というわけでもありませんし、彼氏連れのお客様なんて珍しくはありませんので」
「そ、そうですか?は、はは……なんだか、こういう場所は初めてですし無駄に緊張しちゃって……ま、まだ試着してるのかなー……」
「ふふっ、彼女さんきっと気合い入れて選んでいると思いますよ。ごゆっくり———できないかもしれませんが、私共の事はお気になさらずに彼女さんをお待ちくださいね」
そんな僕の決死の演技に納得してくれたのか、店員さんは僕に一礼してカウンターに戻っていく。『彼女さん待ちの彼氏さんだったみたい。彼氏さん初心な反応で可愛かったなー』『ああ、そう言えばちょうど今何人か彼と同い年くらいのお客様が試着してたっけー』なんて店員さんたちの声も聞こえるし、何とか信じてくれたようだ……た、助かった……
「(けど、このままここにいるのもマズいな……)」
思わず嘘ついて誤魔化しちゃったけど、店員さんに試着室にいる人が僕の彼女じゃないってバレたら大変なことになる。精神衛生的にも出来れば今すぐにでも出ていきたいけど……この店の入り口付近は未だに雄二のヤツが僕を探してウロウロしている。さて……考えろ吉井明久、この窮地を脱する方法は何かないか……?
少しの間考えて、一つの結論に達する。やはりヤツをこの場から排除するにはこれしかない。
「(霧島さんに連絡しよう)」
彼女に電話を掛けて『実はショッピングモールの二階で雄二を見かけたけど、何だか酷く取り乱していた。霧島さんとはぐれて霧島さん依存症の発作が出ている可能性が高いから急いで会いに行った方が良いかもしれない』なんて言えば雄二は霧島さんに二秒も経たず確保され、僕はその隙に脱出でき瑞希と一緒だってこともバレずに済むハズ。
「うむ、我ながら完璧な作戦だね。そうと決まれば———っと」
携帯を取り出して、電話帳から霧島さんの番号を呼び出す。すると———
Prrrrr! Prrrrr!
なぜか僕の呼び出し音に応じるかのように、近くの試着室から同時に着信音が聞こえてきた。……あれ?
「《……もしもし?》」
聞こえてきたのは霧島さんの声。ただし携帯のスピーカーからだけじゃなく、僕の真後ろにある試着室からも聞こえてくる……え、うそ……まさか……!?
「あ、あの……霧島さん?」
「《……うん。どうしたの吉井?》」
はっきりと霧島さんの肉声が試着室から聞こえてくる。そ、そう言えばさっき店員さんが僕と同い年くらいのお客様が試着してる、なんて言ってたような……そ、そっかー……霧島さんちょうどこのお店に来ていたんだー……
さて、ここでこのお店が何のお店だったのか再確認してみよう。ここは女性用下着店。そしてそのお店の試着室から霧島さんの声が聞こえるってことは———
「ご、ごめん霧島さんっ!ま、また後でかけ直すね!?」
その事実を再確認し慌ててしまい、思わずそう叫ぶように言ってしまう。そんな僕の声はどうやら思っていたよりも大きかったようで———
「《???……あ。ひょっとして吉井って、今ショッピングモールの二階にいるの?》」
「えっ!?い、いやその」
「《……それなら、直接話そう。ごめん吉井。電話は、ちょっと苦手》」
「…………は、い?」
そんな台詞と共にシャッ!と言う音が後ろで聞こえる。それはつまり霧島さんがカーテンを開けた音ってことで———まさか下着姿のまま出てきたの!?その瞬間見たいと思う気持ち以上に見たらダメだという自制心が強く働き咄嗟にその場から逃れるための行動に出る僕。具体的に言うと……手近な試着室に飛び込む、なんて行動をとる。
「……???吉井、どこ?」
間一髪、カーテンの向こうからはそんな霧島さんの声が聞こえてくる。なんとか覗き野郎にならずに済んだね。
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