複雑・ファジー小説

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黒の魔法使い*108話更新
日時: 2013/03/10 19:52
名前: 七星 (ID: oaGCnp6S)

こんにちはっ!七星といいます。
高校生がバトってるのがどうも好きなので、魔法使いになって戦いに巻き込まれてく高校生のお話です。

[世界観]
遠い昔、魔者というものがいる世界と、サミスタリアという国とずれた世界を繋ぐ穴を作ってしまった魔法使いがいた。
その魔法使いを自らの命を持って封印した伝説の英雄。それが、黒の魔法使い。
だが、穴は小さく出来たが塞ぎきれず、姿を消し、いまだ存在して、魔者が流れ込んできている。そしてそれは、この世界にサミスタリアから魔者が紛れ込む。
そして真路玖市真路玖高校二年生の黒葉シキトは、その戦いに、巻き込まれていく——。

登場人物

黒葉シキト(識徒)
主人公。高校二年生。
人が良い。お人良し。
頭がそれほど良いという訳ではないが、切羽詰ったときなどに冷静に分析でき、機転もきく。
切ない(緋月談)くらいに鈍感。
黒の魔法使い。

ビリカ(コヴィリカ・クレリア・アルスタヴァンズ)
ドジっ娘。シキト曰く『ダメな美少女』
回復・補助魔法が得意。
朱華(はねず)の魔法使い。

御門悠(ミカドハルカ) 
生徒会所属。金髪蒼眼ハーフ美少年。女顔だと揶揄されることも。
シキト達以外のところでは猫かぶり。
シキトいわくツンデレ。
炎系統魔法が得意。
紅(くれない)の魔法使い。

天坂緋月(アマサカヒヅキ)
シキトの親友。少し不運。かなり不運。やっぱり不運。
魔力抗体ができていてたまに巻き込まれる。
頭が異常に良い。

矢畑政十郎
魔法補助協会第一連合管理庁幹部、真路玖市範囲およびその周辺の管理を勤めているナイスミドル。
怒ると怖い。

架波藤雅(カナミトウガ)
高校三年生。
関西弁で喋る男。
山吹(やまぶき)の魔法使い。

イルルク・マーベン・アーモルド
喋り方が何かおかしい。
シキト曰く『ダメな人』
菫(すみれ)の魔法使い。

白詩夜真(ハクシヨマ)
白の魔法使いで、白の魔道士。
協会内の人間なのだが、協会の人間に冷たい。
いろいろ謎が多い美少年。

虚乃桐零(コノキリゼロ)
教団の幹部。赤い目をしている。
神を信仰している。
灰の魔法使い。

リュフィール・エルクディア・クルス
教団の幹部。金髪でオッドアイ。
宣教師のことをあまりよく思っていない。
錬金術が使える。
黄の魔法使い。

春環空乃(ハルワソラノ)
少し苦労性の少女。

神崎章戯(カンザキショウギ)
シキトのクラスメート。
嘘をつくのが上手い。
煉と仲がいい。

沫裏煉(マツリレン)
シキトのクラスメート。
上下ジャージで喋り方に特徴ある女の子。
章戯と仲がいい。

Re: 黒の魔法使い*35話更新 ( No.85 )
日時: 2011/04/08 16:32
名前: 七星 (ID: sicBJpKD)


Aerith様
いやぁシキト、わりと聡い子なんですが、どうもそっち方面には…。
ビリカが不憫ですね。いや、でも幸せそうだし…。
私の場合頭痛にバファ○ンですから。すごく効きます。


Re: 黒の魔法使い*35話更新 ( No.86 )
日時: 2011/04/08 17:31
名前: 七星 (ID: sicBJpKD)


Episode 36 [あのとき、あのこと]


さぁ、懺悔の時間だ。
己の罪に許しを乞い、神に祈りを捧げよ。


「…緋月、顔色が悪いぞ?」
「え?」
シキトが心配そうな声を上げて、緋月を見つめた。大丈夫か?と声をかける。けれど緋月は大丈夫だよ、と曖昧に笑って返す。
「あのな、風邪はひきはじめが肝心なんだぞ?ほら暖かくして、水分とって。」
「…シキト。どっかのお母さんみたいだよ。」
「ねぎもいるか?」
「いらないけど。」
漫才のような掛け合いで会話する二人。けれどやはり、緋月には元気が無いように見えた。
熱あるんじゃないか?と、何度も心配そうにシキトが声をかける。けれど緋月は大丈夫、と返すばかりだ。
シキトはだが、心配になる。なんにしても緋月は不運だ。病状が悪化したら大変じゃないか。
そんなシキトの心中を察したのか、あはは、と複雑そうな顔で笑う緋月。
ふ、と一瞬、緋月が遠くを見つめるような顔をする。
「ねぇシキト。」
「ん?」
「…『僕』は本当にこのままで、いいのだろうか。」
緋月は昔の一人称に戻り、瞳を細めてそう独り言のように呟く。
窓からの風で、緋月の髪がさらさらと揺れた。
消えてしまいそうだ。そう、シキトはなんとなく思った。
「僕は『あのとき』のこと、たまに忘れてしまいそうになる。そのことに気づいて、すごく苦しくなる。僕はまだ、何一つも許されていないのに。」
「…、緋月、あのことは…、」
「シキト、君は『あのこと』を僕のせいじゃないって言ったよね?そう言ってもらえて、僕は救われた。けどねシキト。最近怖いんだ。僕は自分のしたことを全て忘れてしまうんじゃないかって。」
そう、淡々と呟く緋月の瞳に、暗い色がぼんやりと暗闇に揺れる蝋燭のように浮かぶ。
違う。シキトは叫びたかった。『あのこと』は何一つお前のせいじゃなくて、だからお前は、生きなきゃいけないと。
でも、緋月から漂う冷たい空気が、シキトの口を動かなくさせる。
「よくわからないんだ。最近、僕は僕を殺してしまいたくなる。めちゃめちゃにしてしまいたくなる。全てが…、全てが、昔に戻ったみたいなんだ。」
「緋月、お前…、」
「っ、ごめん、シキト。変なこといって。大丈夫だから。『俺』は。」
そういって、笑う。けれど、シキトはわかっていた。
緋月は『助けて』なんて言わない。でも、だからこそ、緋月から出てくる言葉にヒントが隠されている。
緋月は隠すのが上手い、けれど…、シキトにはわかる。親友、という言葉を使うくらいなのだ。
「緋月、お前さ。悪いことしたとか、そんな風に悩んでばかりじゃねぇか。」
「…うん。」
「そんなんじゃ、報われないんだよ。お前が罪だなんて思う必要なんか無い。そんなんじゃ…、悲しむぞ。」
「…。」
黙り込んで、何かに思いをはせるように俯く緋月。シキトは緋月と初めて会ったときのことを思い出す。
あの時もお前は…、まるで何かに押しつぶされているような、苦しげな表情をしていた。
「わからないんだ…、なんで今になって、こんなに苦しいのか。よくわからない。本当なんだよ、シキト。」
わからない、その言葉に不安が過ぎる。
『身近にいる人に、気をつけな。』
あの言葉が、今になって頭の中に響く。
「っ…!緋月、お前最近変なこと無かったかっ!?」
「へん…なこと?」
「えぇと…、なんか変なローブ着た奴に会ったとか!」
「ローブ…。」
シキトの言葉を繰り返し言って、ふ、と考え込む緋月。
「会ってないと思う。」
「そっか、それなら…、」
「でも俺、一昨日のこと、覚えてない。」
その瞬間、冷や汗が体中から吹き出るような感覚がした。
一昨日。フーマと戦った日。
まさか、まさかそんな。
嘘だろ。
「…緋月、体に、おかしいところとか、あったりしないか?」
「おかしいところ…?ん、頭痛い。」
いや、ただの偶然かもしれないじゃないか。いくら身近にいる人だからって。
まさか。
「あ、ところでシキト。」
緋月が無邪気な顔で言う。

「魔法使いって、どんなものか知ってる?」

Re: 黒の魔法使い*36話更新 ( No.87 )
日時: 2011/04/10 16:09
名前: 七星 (ID: sicBJpKD)



Episode 37 [君の思うその痛み]


「……偶然じゃ、ないのか?」
「偶然だと思えるか?」
「…思えないな。」
シキトは緋月の言っていたことを悠に伝えていた。緋月の様子、まさか教団が関係しているんじゃないかと。
否定してほしかった。だけど、否定する証拠は無かった。
「まぁ、教団も僕たちぐらいの人間が多いし…。近い年の奴を狙うのは簡単じゃあないのか?それに緋月は不運なことに魔力抗体が出来ている。適性がある、ということだから、普通の人間より魔法がかかりやすい。」
「…。」
不運だ。嘆くようにシキトが呟いた。
魔力抗体。魔法使いでもない、普通の人間なのに魔者が見える人間。
悠が言うに、原石は感じられないらしい。それなのに見えてしまうとか。
「…そういえば、ほんとだよな。なんで教団の奴ら子供ばっかなんだ?」
「それを調べてるところだ。僕に聞くな。」
イラつくように悠はシキトのむこうずねを蹴りつけた。

「もう、すぐだ。」
くすり、と笑みが零れる。もうすご弾けるはずだ。
思えばよくここまで耐えたと思う。あの少年の精神力を褒めたいくらいだ。木に座り、窓辺の少年を見つめる。
堕ちろ。堕ちてしまえ。
『あんな言葉』を、僕に言った罰だ。
一昨日、緋月に少年は真実を告げた。お前の友人は、魔法使いだと。最初は信じなかったけれど、間近で魔法を緋月に打ち込んで、それでやっと本気にしたようだった。
「ショックかい?」
楽しげに少年は緋月に聞いた。
「お前が親友と呼ぶ相手が、そんな秘密を持っていただなんて。」
どうだい?と感想を聞くように魔法を食らい、壁に寄り添うように蹲っていた緋月に、しゃがみこんで聞く。
「…なんというか、自分はやはり不運だということばかり思ったよ。」
「それだけ?」
「いや、シキトやっぱなんかすごいなぁって…。」
「は、」
信じられないとでも言うように目を丸くする。
「なに、なんで?なんで君はそんな風に言えるの?隠されてたんだよ?黙ってたんだよ?なんでそう平気でいられる?」
「なんでって…、」
顔をふい、と上げ、さも当然のことのように言う。
「俺はシキトのこと信じてるから。」
ふ、と少年の赤い瞳が細まる。暗い色を灯し、それを吐き出すかのように緋月の腹を蹴りつけた。ぐ、と低い唸った声を出し緋月は這いつくばって咳き込んだ。その状態の緋月に、また蹴りを入れる。
「馬鹿みたい。そうやって信じるとか言っちゃってさ。人はどうせ裏切るじゃないか。捨てるじゃないか。あいつになんの力があるっていうんだ。なんであいつを慕うんだ。僕らが信じるべきなのは神なはずなのに。」
あの、黒い鎌を使う少年。あの古い魔法を使うあいつに、興味を持った。
不思議なほど真っ直ぐな目をするあの少年を、ぼろぼろにしてしまいたい、そう思っていた。
「…可哀想だよ、君。」
掠れた声で、弱弱しい声で、緋月は、呟く。
「可哀想?僕が?」
「だって君…。」
その言葉の次に、空気を震わした声に、少年は何も考えれず、魔法を緋月に向かって放った。
感情が高ぶった。神以外に。許せなかった。その言葉に。
「いいよ、じゃあ、堕としてあげる。君の一番嫌う方法で。」
君の大事なものを、壊してあげる。他ならない、君の手で。

「緋月!」
「ん、あれ、シキト?」
ふらふらと家路につこうとしていた緋月をシキトが呼び止める。
「今日バイトは?」
「ん、ない。」
緋月をシキトが覗き込む。蒼白で、今にも倒れそうな状態の緋月。
嫌な予感だけが、シキトの頭に充満する。
「なぁ本当大丈夫か?」
「うん、大丈夫だって…。」
そう言いながらも、緋月の笑顔はぎこちない。
足取りもふらふらしていて、今にも倒れそうだ。我慢するなよ?そう言うけれど、相変わらず大丈夫、としか言わない。
「大丈夫にみえねぇよ。」
「はは、そうかな、でも平気…、」
そう言いかけたときだった。緋月がふらり、とよろめき、蹲る。
「緋月っ!?」
「い…いた…、」
体ががくがく震えだし、緋月の体中に汗が浮かぶ。シキトは緋月!と大声で叫んだ、その瞬間、緋月の後ろの首に何か変なものが付いてるのを見つけた。
マークのようなそれは、明らかに緋月がつけたものとは違うようで。異質な感じがした。これは…魔法。
「い、痛い、痛い痛い痛い痛いっ、痛い、いた、い。」
「緋月、しっかりしろ!」
まるで呪いの言葉のように繰り返し繰り返し頭を抱えながら呟き続ける。緋月の顔を覗き込むと、その目は大きく見開いており、汗だけが異常に噴出している。
シキトは携帯を取り出し、手早く操作し悠に電話した。そして悠が出たと同時に怒ったように叫ぶ。
教団が、その言葉が聞こえたとたん電話の向こうで息を呑む音が聞こえた。場所は?高校近くの裏道。わかった、すぐ行く。
手早く会話を済ませ、緋月を見ると、震えが先ほどよりも大きくなっていた。
痛い。ただそれだけを連呼している緋月。緋月の周りにぶわぁ、と魔力が立ち込めるのがわかった。それは首のマークから発せられるもので、それが漂い始める。
「緋月!しっかりしろ!緋月!!!」
必死に呼びかけるが緋月は返事を返さない。魔力はうねりながら緋月の体に入り込んでいく。シキトはそれを払う仕草をするが効果は無い。
「あ、ぅあ、あああ、あああああ、ああああああああっ!!!!!!!!!」
喉が張り裂けてしまうくらいの悲鳴のような大声を上げる。魔力が高ぶり、凄い勢いで周囲の空気を蹂躙する。あまりの勢いにシキトは吹き飛ばされ、少し離れた地面に落ちる。
魔力が吹き荒び、のた打ち回るかのように地面を抉り、木々を揺らす。幸いなことに、ここは住宅地ではなく、人もめったに来ない、シキトや緋月にとっての裏道だったので、誰かが来る心配は無かった。
「緋月!!緋月、おい、緋月!!!!」
「い、やだ、いやだいやだ、いやだ!いやだ!いやだ、いやだ、あ、あああああ、」
首を振りながら、何かに耐えている様子の緋月。シキトは緋月の名を叫ぶ。
ただ魔力が吹き荒れるなか、緋月はただ抵抗するかのように、叫び続けた。


Re: 黒の魔法使い*37話更新 ( No.88 )
日時: 2011/04/12 15:48
名前: 七星 (ID: sicBJpKD)


Episode 38 [君の痛むその不幸]


『どのくらい、辛いかとか、悲しいかとか、よくわかんないけど、』
『けどこれだけはわかるよ。今のお前をほっといたらいけない。』
ねえシキト。君はいつだって、優しかったね。


魔力が落ち着き始め、周囲に沈殿していく。濁りながら巡回する魔力は、霧のように辺りにたちこめる。
声はもう響かない。ゆらりと立ち上がるそれ。酷くくすんだ瞳の色で、見慣れぬ紋を書き付けて。
「ひ…づき…。」
そこに立っていたのは緋月だった。いや、緋月ではあったが、ぜんぜん違うもののようにも思えた。
体から溢れ出す魔力。首筋にあった印は、大きく増殖したかのように、緋月の顔の左側を蝕んでいた。
「っはは、あはははは!」
呆然とその光景を見ていたシキトの耳に響く笑い声。どこかで聞き覚えがあった声で、振り返ると見覚えのある灰色のローブ。
二つの赤い光が、妖しげに細まる。
「…お前か…!」
「いいね、その憎憎しげな瞳。」
にやり、と口元を歪め、かつり、とブーツを鳴らす。
「それこそが僕の見たかったものだよ。」
そういい終わらないうちに、シキトは口早に言葉を紡ぎ、魔力を集め、凝縮させ、その魔力の空間に手を突っ込み、空間を切り裂きながら黒い鎌を出す。へぇえ、と少年は感嘆の声をあげ、ぱちぱち、と拍手をする。
「ん、君、ローブは出さないの?」
「…出せねえんだよ。」
「ふーん、珍しい。」
鋭い目で灰色のローブの少年を睨みつけるシキト。憎悪の色が、その瞳に張り付いている。
「でも残念だけど、君と戦うのは僕じゃないんだよ。」
そのとき、ふ、と空気が揺れるのがわかった。首だけで振り向くと、ただ人形のようにぼんやりと立っていた緋月の顔がいつの間にか目の前にあった。
瞬間、息が止まるのを感じた。腹に何かがめり込む感覚。げほ、と溜まっていた空気が一斉に溢れ出た。
「ぅぐっ…!」
ゆっくりと腹にめり込んでいた緋月の足が離れる。それと同時にばた、とシキトの膝が地面に付く。それを狙ってか、今度は顎から上へと蹴り上げられた。予想以上の勢いに、激痛が走った。
「ひづ…き…、」
緋月の名を呼ぶ。けれど、反応は無い。
右手に持つ黒い鎌をシキトは空中に上げ元の場所に戻すように消す。緋月にこんなものは使えない。
さらに緋月が殴りかかってくるから、シキトは一歩引き、なんとかその拳を避ける。細い腕で、力もあまり無いはずなのに緋月が攻撃を仕掛けてくるたび、その場の空気が揺れた。
こんな無理やりの力、緋月の体に負担がかかるんじゃ。ふと思いつく。ちくしょう、と小さく呟いた。
緋月の右手が肩に当たり、大きく上がった左足を左腕で受け止める。その一つ一つが重く、痛く。
ちくしょう、とまた呟いた。

そこは、暗い、暗い闇の中だった。
あれ、と緋月は辺りを見渡す。なんだここ、夢の中?
そう思いながらも、真っ暗な闇の中のはずなのに、視界に映るものに気がついた。
ここは海の底のような闇の中なのに、そうだとわかるはずなのに、視界にはっきりと映るもの。
…シキト?
そうわかった瞬間、一昨日の記憶が全て蘇った。
魔法使い。
そっか、シキトも…。
「ぅぐっ…!」
ぼんやり、そう思ってると、低く唸ったような声が闇の中に響く。
え、と声を上げた。声を出したはずなのに、自分の耳に届かなかったけれど。
え、何、なんで。なんで俺、シキトを蹴ってるの?
自分の行動に理解が出来なかった。だって、そんなことをするなんて、ありえなかった。ましてや、シキトに、なんて。
嫌だ。こんなこと。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
深い闇の中、ただ目の前の光景に意味がわからず、嫌だ、とその言葉ばかり繰り返す。
どうして、そう、誰かに問いかけたい。
どうして『僕』は、いつも人を不幸にするの?

「…ゃだ。」
急に、だった。急に緋月の体ががくがくと震えだし、先ほどのように、汗もまた噴出してきていた。
「…緋月?」
訝しげにシキトは声をかけた。緋月は瞳孔を開いたような目で、怯えたようにシキトを見てくる。
「い…ゃだ、い…いやだ…。」
首を左右に振りながら、まるで拒否反応でも示すかのように、体を震わす。
「もう、も、ぅ僕は、ひ、人、を不幸、にした、くな、い…。」
途切れ途切れに言う緋月の瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ出した。
それは顔の輪郭をなぞり、重力のままに地面に落ちる。
「…ん、なの…、わかってるよ…!」
お前が昔のことを、自分のせいだと思ってることぐらい。
でもさ、でも、なんでそれを不幸だと決め付けるんだよ。
俺は思わない。何一つ。今だって、お前に不幸にさせられたなんて、思えないのに。
「お前は、誰も、不幸になんて、させちゃいねええええぇぇ!!!!!!!!!」
緋月の動きが止まったそのとき、シキトは一気に駆け出し、その右手を、緋月の腹にぶちこんだ。
う、あ…、と掠れた声を最後に、ばたり、とシキトにもたれかかるように倒れる緋月。
相変わらずその体重は、女子かとでも言うように、軽い。
緋月を地面に横たわらせ、緋月は灰色のローブの少年に向き直る。灰色のローブの少年は、面白くないとでも言うような苦々しげな顔をしてシキトを見ていた。
「…許さない。お前を。」
「へぇ。」
シキトは詠唱し、しまったはずの黒い鎌を取り出す。
灰色のローブの少年も、魔力をみなぎらせ、辺りに充満させる。
ただ、二人は憎悪を撒き散らし、そこに対峙していた。

Re: 黒の魔法使い*38話更新 ( No.89 )
日時: 2011/04/12 17:31
名前: 七星 (ID: sicBJpKD)


Episode 39 [神の楽園]


不思議な感覚だった。体の内側が熱く感じ、そこから魔力が溢れ出してくる。
頭に占める怒りに伴い、どんどんと魔力の量と純度が格段に上がっていく。魔力は体の外側を巡り、荒々しく空気を揺らした。
灰色のローブの少年も、魔力を溢れさせ、そのローブを翻す。
爆発的な魔力が、交差する。
「なんで、なんで緋月を巻き込んだんだ。あいつは何も関係ないのに。」
「関係ないからこそ、君は安心していたのかい?それは随分愚かだね。」
「っ…!いったい、お前は何がしたいんだ!神様神様言って…、悠を傷つけて、緋月までも傷つけて…、それが神様となんの関係があるんだよ!!」
「ないさ。でも邪魔な存在なことには変わりない。協会の中の魔法使いは、僕たちの敵、神の敵、さ。それはもちろん、君にも言えること。でも、僕が個人的に興味を持ってしまった、ということさ。」
「…どういうことだよ。」
「そういうことさ。」
ちらり、と緋月のほうに視線を動かす。ふん、と鼻を鳴らした。
「それにさ、彼は僕に屈辱的な台詞を言ったんだ。何も考えなしに魔法を打ち込んでしまうほどの、ね。」
その言葉を聴いた瞬間、シキトの体がびくっと震え瞳に怒りの色が増す。
その様子を見て、くすり、と少年は笑った。
「僕はね、君が不思議でならないんだ。神のような偉大なものでなく、君が友人だと呼ぶものを、守りたいと言う。なぜだ?なんでそんなものを?さっぱり僕には理解できない。」
「——わかんねぇよ、お前には。」
シキトの口から、低く怒りに染まった声がでる。荒々しい魔力が吹き荒れる中、微動だにせず、そこに鎮座し、黒き鎌を構えるシキト。
怒りを込めた鋭い目で、灰色のローブを揺らめかせる少年を、じっと見た。
「誰かを笑って傷つけられる、お前にはわからねぇ。」
お前だけじゃない。教団の連中も。
神様を信じるのはいい。だけれど、それでどうして人を傷つけるんだ?
「絶対に、わからねぇ!!!!!」
そう叫び、シキトは駆け出した。黒い鎌を振りかざす。
「それなら、君にだってわかると言うのか!」
イラついたように少年は叫んだ。
「僕たちに、僕にとっての神が!僕たちの望む世界が!」
シキトが振り回す鎌を避けながら、赤い瞳をぎらつかせる。シキトの黒い瞳と少年の赤い瞳の視線がぶつかった。
両方とも、敵意をむき出しにして、魔力を高ぶらせる。
シキトが右足を踏み込んだ。
「わからねぇよ!」
鎌を振り上げ、離れたところにいる少年に向かって振り下ろす。空気が割れ、魔力に包まれた衝撃波のようなものが少年に向かう。
少年はそれを左手で薙ぎ払う。その手の甲に切り傷が付く。
「魔法を使って、人を傷つけるお前たちの望む世界なんて、わかりたくもねぇ!!!それがお前たちに、お前にとって、どんな世界なのかはわからない。でも、誰かを傷つけて作る世界の、何が良いって言うんだ!!」
少年がかっと目を見開く。
「僕たちの全てを否定するというのか!僕たちの作ろうとする、『楽園』を、お前は否定するというのか!!!」
声を荒げ、魔力を集める。左手に、きらりと輝きを放つものをいつの間にか持っていた。それにつく小さめの鎖で、左腕を雁字搦めに縛っている。
それは、ロザリオ。
「我が灰の名において神の御名のもと願わんものを罰する。」
詠唱を始める。ぐわん、と魔力が高ぶり、あたり一面に撒き散らす。
「その名を汚(けが)し罪の意識を持たぬ愚者よ、後悔に苛(さいな)まれながらその意味を知れ!」
辺り全体に魔力が広がり充満する。それは酷く淀み、シキトに覆いかぶさるかのように広がる。ぶるり、と寒気がした。
「氷点化!」
そう叫んだ瞬間がくん、と周りの温度が急激に下がるのがわかった。冬なんてものじゃない。まさしく、冷凍庫の中にいるほどの。
吐く息が白くなる。がちがち、と歯が鳴り腕が震えだした。
「な、んだこれ…、」
「魔法さ。当たり前だろ。」
そう言って、また詠唱を始める。
「我が灰の名において神の御名のもと命ずる。誓いを立て跪き許しを請え。」
少年の足元から魔力の氷が湧き上がり、形を成していく。それは口になり、耳になり、目になり、鼻になり、胴体になり、足になり。
彫刻のようなそれが、何体も作り上げられていく。
「凍(こご)え狼!!!」
そう叫んだ瞬間一斉に氷の狼は走り出した。それは全てシキトに向かっていく。
「人間は、いつだって綺麗事ばかりじゃないか!それと同じさ。みんな綺麗なものが好きだ。汚いものなんて、見向きもしない!楽園を願うのはおかしいことなのか!綺麗なものを願って、何が悪い!!」
まるで悲痛な声で、ただ叫ぶ。
「宣教師様は言った!神さえ復活すれば楽園を作れるのだと!だから僕は神に願うんだ。それなのに、協会の魔法使いは邪魔してくる。だから邪魔するものは消す。何が悪いって言うんだ!君たちだって同じだろ、僕たち教団が邪魔だから、君たちは戦う!」
氷の狼たちがシキトを襲う。この寒さの中、シキトは動きが鈍くなり、氷の狼たちは生き生きとしている。
楽園。そのために?
神さえ復活すれば?
「…それは、幸せなのかよ。」
「何?」
氷の狼たちを払いのけながら、ただシキトは怒りに染まった瞳を、悲しみで満たしていく。
「戦いの末の楽園なんて、それは幸せなのかよ!!!!」
少年は目を丸くする。
「お前たちは神様を復活させて、楽園を作るなんていうけど…、でも、なんでそれじゃ戦うんだ?なんでそんなことする必要があるんだ?何一つ関係ないじゃないか!」
「それは君たちが…!」
「じゃあ、なんで協会に邪魔されるようなこと、お前たちはしてるんだよ!!」
シキトは叫ぶ。
「正々堂々と言えばいいじゃねぇか!!俺たちは神様を復活させて楽園を作るって。ちゃんと真正面から、そう言えばいいじゃねぇか!なのになんだよ、協会の人たちは知らなかった。お前たちの目的を。何にも知らなかった。何一つ伝えてないのに、そんなことお前が言えるのかよ!!!」
少年は赤い瞳をぱち、と瞬かせる。
けれど次の瞬間、憎憎しげにその顔を歪ませる。
「…知った気になって、君は…、」
ロザリオを力強く握る。
「本当に、むかつく。」
そう言って、また魔力を高ぶらせた。



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