複雑・ファジー小説
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- 黒の魔法使い*108話更新
- 日時: 2013/03/10 19:52
- 名前: 七星 (ID: oaGCnp6S)
こんにちはっ!七星といいます。
高校生がバトってるのがどうも好きなので、魔法使いになって戦いに巻き込まれてく高校生のお話です。
[世界観]
遠い昔、魔者というものがいる世界と、サミスタリアという国とずれた世界を繋ぐ穴を作ってしまった魔法使いがいた。
その魔法使いを自らの命を持って封印した伝説の英雄。それが、黒の魔法使い。
だが、穴は小さく出来たが塞ぎきれず、姿を消し、いまだ存在して、魔者が流れ込んできている。そしてそれは、この世界にサミスタリアから魔者が紛れ込む。
そして真路玖市真路玖高校二年生の黒葉シキトは、その戦いに、巻き込まれていく——。
登場人物
黒葉シキト(識徒)
主人公。高校二年生。
人が良い。お人良し。
頭がそれほど良いという訳ではないが、切羽詰ったときなどに冷静に分析でき、機転もきく。
切ない(緋月談)くらいに鈍感。
黒の魔法使い。
ビリカ(コヴィリカ・クレリア・アルスタヴァンズ)
ドジっ娘。シキト曰く『ダメな美少女』
回復・補助魔法が得意。
朱華(はねず)の魔法使い。
御門悠(ミカドハルカ)
生徒会所属。金髪蒼眼ハーフ美少年。女顔だと揶揄されることも。
シキト達以外のところでは猫かぶり。
シキトいわくツンデレ。
炎系統魔法が得意。
紅(くれない)の魔法使い。
天坂緋月(アマサカヒヅキ)
シキトの親友。少し不運。かなり不運。やっぱり不運。
魔力抗体ができていてたまに巻き込まれる。
頭が異常に良い。
矢畑政十郎
魔法補助協会第一連合管理庁幹部、真路玖市範囲およびその周辺の管理を勤めているナイスミドル。
怒ると怖い。
架波藤雅(カナミトウガ)
高校三年生。
関西弁で喋る男。
山吹(やまぶき)の魔法使い。
イルルク・マーベン・アーモルド
喋り方が何かおかしい。
シキト曰く『ダメな人』
菫(すみれ)の魔法使い。
白詩夜真(ハクシヨマ)
白の魔法使いで、白の魔道士。
協会内の人間なのだが、協会の人間に冷たい。
いろいろ謎が多い美少年。
虚乃桐零(コノキリゼロ)
教団の幹部。赤い目をしている。
神を信仰している。
灰の魔法使い。
リュフィール・エルクディア・クルス
教団の幹部。金髪でオッドアイ。
宣教師のことをあまりよく思っていない。
錬金術が使える。
黄の魔法使い。
春環空乃(ハルワソラノ)
少し苦労性の少女。
神崎章戯(カンザキショウギ)
シキトのクラスメート。
嘘をつくのが上手い。
煉と仲がいい。
沫裏煉(マツリレン)
シキトのクラスメート。
上下ジャージで喋り方に特徴ある女の子。
章戯と仲がいい。
- Re: 黒の魔法使い ( No.5 )
- 日時: 2011/03/10 16:48
- 名前: 七星 (ID: sicBJpKD)
Episode 4 [ベタ]
真路玖市立真路玖高校二年三組の窓際の後ろから二番目。
ぐだぁ、と机の上に覆いかぶさりシキトはため息を何度もついていた。
——魔法使い。
昨日の夕暮れの出来事が嫌に頭に張り付いて離れない。
なんていうか、なんというか。
「シキトー元気ないねー。どうしたの?」
前の席の緋月がつんつんとシキトの頭をつつく。
「なぁもしいきなり『あなたは魔法使いですっ!』って言われたらどうする?」
「魔法使いになったらもう上から花瓶落ちてきませんかって聞く。」
真顔で断言した。少し切なくなる。
「ってかいきなりどうしたの?」
「いや、なんでもねぇ…。」
きょとん、とした顔の緋月。ちくしょういい奴だ。普通だったらはぁ?とかなるはずなのに、真面目に答えるし。
「…黒葉くん、いいかい?」
ふ、と少し高めの男の声が聞こえた。
顔を上げると、そこには御門悠がいた。整った顔立ちがじっとシキトを見ていて、眩しく感じる。
「何?」
「君だけレポートを提出していないんだ。今出せるかい?」
「ん、あ、終わってねぇ。」
そうか、と困ったように眉尻を下げる。
「提出は今日までなんだけれど…、」
「あぁ、どうせ暇だから学校残るよ。それでいいか?」
「それなら。」
そういってにこりと笑い、そこを離れる。少し長めの髪がさらりと揺れた。
「うっわ相変わらず美形…。羨ましいな。しかも成績優秀だし。性格良いし。いいなぁ…。」
シキトが羨むように呟く。
そうかぁ?と緋月が顔を手のひらに置きながら言った。
「なんかあいつ猫被ってそう。」
「なんだそれ、ひがみか?」
「違うよぉ。」
ふにゃ、と腑抜けた笑顔をする緋月の頬をシキトが思いっきりつねる。
いててて、と緋月は涙目になりながら呻いた。
「諸君喜べ、転校生だ。しかも女子だ!しかも美少女だ!」
先生は入ってきた途端に、ハイテンションに叫んだ。眼鏡がきらりと光っている。
「いいのか教師がそんなんで…。」
シキトは独り言のように呟く。
ん、美少女?
嫌が応にも昨日のことが思い出される。美少女っていうか…ちょっとダメな美少女って言うところか?
…ちょっとじゃないか。
「よし、入れー。」
先生は機嫌よく転校生を呼び込む。その転校生が入ってきた瞬間、シキトの持っていたシャーペンがぽろっと落ちた。
「初めまして!コヴィリカ・クレリア・アルスタヴァンズといいます!イギリスから来ました!ビリカと呼んでください!」
そこにいたのは、紛れもなく、昨日のちょっとダメな、美少女で。
「まじかよ…。」
これって典型的なラブコメの部類に入るんじゃね?とシキトは一人ぼやいた。
- Re: 黒の魔法使い ( No.6 )
- 日時: 2011/03/11 15:44
- 名前: 七星 (ID: sicBJpKD)
Episode 5 [魔者と魔法使い]
拍子抜け、とでも言えばいいのだろうか。
どうやら学校にいる間、ビリカはシキトに話しかけようとはしなかった。まぁときおりちらちらと視線は感じたのだが、必死に我慢している、と言う様子で、多分矢畑さんがそう命令したんだろうなぁ、と予想はつく。
「ほんとに美少女だなーあの子。」
そういってる割に関わりに行こうとしない緋月。何故かと聞いたら、なんかだめな気がする、と曖昧な答えを返してきた。
親友よ、お前の勘は冴えてるな。
ついさっき見てたら、何もないところでビリカは転んでいた。変に不運なこいつのことだ。十中八九傍に居たら巻き込まれる。
まぁそこらへんがドジっ娘とかなんとかいって男共に人気になっている。ただでさえ美少女なのに。しかもそれなら女子達に嫉妬とかくらいそうなのに、よくコケるから庇護欲をそそられたのか、女子にも構われている。
…なんかすげぇ。
シキトは普通に尊敬した。
授業が終わり、人は思い思いに帰り始める。けれどシキトは、真っ直ぐ家に帰ることができなかった。
『学校が終わったら、昨日の公園に来てください。』
そう女の子らしい文字で書かれた小さな紙が机の中に入っていた。名前は書いていないが、…まぁ誰だかわかる。
「行かなきゃだめだよなぁ…。」
なんか学校まで来ちゃったしあの少しダメな美少女。
「シキトー、帰ろー。」
「悪い緋月俺今からすごく行きたくないけど行かなきゃいけないところに行くから無理。」
「…?あ、うん頑張れ。」
頭にクエスチョンマークを浮かべるように首を傾げる緋月。
特に詮索しないで、じゃあなぁ、とへにゃりと笑ってみせる。
「…お前はいい嫁になれるよ。」
「あーありがとう…って嫁っ!?」
涙ぐむシキト。軽くショックを受ける緋月。
…なんだか楽しそうであった。
「…来ましたが。」
半目で目の前にいる人間を見つめる。
そこにいるのはビリカと、今回は半透明じゃない矢畑だった。どうにも、真路玖市に魔法補助協会というのがあるらしく、矢畑が直々に来たらしい。
「勧誘、ですか。」
はいっ!とビリカがいつものように元気よく答える。学校に来てまで、学校に来てまでなのか。頭が痛くなる。
「まぁ情報操作ってやつだな。大丈夫だ。イギリス出身のハーフだとかそういうことにしてあるから。」
「何が大丈夫なんですか。ていうか俺魔法使いにはなりませんって言ったっすよね。」
「…そうだっけか?」
「とぼけないで下さいっ!」
目の前の強面にびびりながら大声で突っ込むシキト。
「命賭けるとか無理っす俺には。命は大切にしなきゃいけないってCMでも言ってんじゃないですか!」
「あーそれはきっと時と場合によるんだきっと。」
「…適当に言わないで下さい。」
「あー男がうだうだ言うな。…とりあえず一応どうして退治しなくちゃいけないのか聞け。」
手をポケットに突っ込んで、大げさにため息をつく。
「別にそんくらいなら良いだろ?」
「まぁそうですけど…。」
しぶしぶ、といった感じでシキトは頷く。
矢畑は、ゆっくり、重みのある口調で、でもどこか面倒くさそうに語り始めた。
遠い遠い昔、ある魔法使いが居た。その魔法使いはとても魔力が強く、有能で、孤独だった。
けれどそれでも魔法使いは人のために何かをしようとしたが、高すぎる魔力は人を傷つける。なので迫害され、誰からも愛されなかった。
その魔法使いはある時、禁忌と犯される魔法を使ってしまう。理由はわからないが、気が触れたか、人に復讐をしようとしたのかもしれない。
その魔法というのは、魔物を作るという魔法だった。それには増大な魔力を使うのだが、魔力が高すぎた魔法使いはそれを行うことができた。そして、失敗した。
大きな穴を開けた、空間と空間に。魔の者たちが巣くう、魔窟と、人の世と。
魔物は人を喰い、人にとり憑き、数を多くしていった。そしてその中で一際魔力が強い魔物は、魔法使いにとり憑き、その膨大な魔力を喰らい続けた。魔力を喰えばまた構築される魔力。その魔物は強大な力を持ち、人の世を支配しようとした。
魔『物』というより人を喰らい続け、知恵をつけ始めたそれは、まさしく、『者』。
魔者、と呼ばれるようになり、長きに渡り人の世を混沌とした絶望の世界に着実に変えていった。
だが、『ある』魔法使いによって、その魔法使いは強大な魔者とともに封印されることとなる。
そして穴を塞ごうと、その身をもって、その魔法使いは魔法を唱えた。だが封印の際に力を使いすぎてしまったのか、穴は不完全の状態のままで、時たま魔者がそこから這い出てきた。さらにその穴は姿を消し、塞ぎたくても、どこにあるのかわからなくなってしまった。
だが魔者が少なくなって、平和になったのは事実で、魔法使いはその時折現れてくる魔者を倒すことを自分の使命とするようになった。
その、魔法使いが居た地、サミスタリアとこの世界は少しずれた場所にあるが繋がっていて、魔者が流れ込んでくるということだった。
「とまぁ、こんなところだ。長話は疲れる。」
「…つまり、昔の魔法使いの失敗で他の魔法使いが苦労してるってことですか?」
「あぁそういうところだ。魔者は普通の人間には見えないが悪さをするから放って置いたらだめなんだよ。」
「ふーん…。」
シキトは難しい顔をして、地面を見ている。
「納得できねぇのもわかるよ。昔の魔法使いのせいで普通の人間も危険に晒されてる。」
「いえ、そうじゃなくて。」
あ?と矢畑は不思議そうにシキトを見る。
「可哀想だなって。」
「可哀想?」
「その魔法使い、気が触れてたわけでも、人に復讐したかったんでもなく、寂しかったんじゃないですか?誰にも愛されずに、一人ぼっちで。だから、魔物とかそんなんでも、傍に居て欲しかったんじゃないですか?」
そう呟くシキトを、矢畑はぽかんと見つめる。その表情に何を読み取ったのか、シキトは焦った声ですみません、と呟いた。
「まぁとりあえずなんにしたって俺は魔法使いになる気はありませんから。」
それだけ言うとぱたぱたと駆けて行く。
矢畑は何も言わず、呆然とその後ろ姿を見ていた。
「…あいつと、同じようなことを言うんだな…。」
無意識に、ぽろりと口から零れるように呟く。
「班長班長っ!猫捕まえました!」
「…………てめぇは一体何してやがんだぁっ!」
敬礼しながら頭にネコを乗っけたビリカを大声で矢畑は叱りつけた。
- Re: 黒の魔法使い ( No.7 )
- 日時: 2011/03/11 17:18
- 名前: 七星 (ID: sicBJpKD)
Episode 6 [助けてあげたい。]
魔者は普通の人間には見えない。
だが、普通の人間にも、被害をもたらす。
魔力が弱いうちは、手出しはできない。だが、強くなっていくうちに、人に手出し出来るだけでなく、人の眼にも映るようになる。
そしてさらに、魔法使いじゃなくても、魔力が弱い魔者でも、魔者が見える人間がいるのだ。
魔法使いは被害が出ないよう、魔者と戦う時は、魔法使い以外の人間が入れなくなる、見えなくなる空間を作る。だが、極稀に、魔力の抗体が出来上がっている人間がいる。魔法使いでもないのに、その空間に入れ、魔者を見ることが出来る人間。
「っとにシキトどうしたんだろうなー。」
緋月は先ほど様子がおかしかった親友のことを思い浮かべる。自分がシキトのいる小学校へ転校してからの長い付き合いだ。何か悩みがあることぐらいわかる。
——あいつ、人が良いから、変なことに巻き込まれてなければいいんだけど。
はは、と一人笑みを零す。昔から、シキトは優しかった。
「てかここってこんなに人通り少なかったっけ…。」
振る振る、と辺りを見回しても、人一人いない。
あれ、と思う。ここって結構な大通りのはずだけど…。
見れば店の人もいないし、ここら辺をいつも歩いてる野良猫も居ない。
なんだか嫌な予感がした。
「おいおい、待てよ。」
我に返った矢畑は慌ててシキトの後を追いかけた。
「何度も言ってるでしょ?俺魔法使いとか、なる気はないんで。」
「かといったってなぁ…、最近ここらで魔者が異常に発生し始めてんだよ…。もしかしたらお前の友達も被害にあうかもしれないんだぞ?」
「…異常に?ここで?なんでですか?」
「理由なんてしるか。こっちが聞きたい。だから人事不足だって言ってんだよ。」
不機嫌そうに言う。強面なので、眉間にしわが寄ると嫌な迫力があって正直本当に怖い。
「一応、ここら辺にも魔法使いはいるんだ。だがな、足りねぇんだよ。お前だって知ってるだろ?原因不明の爆発事故とか、それら全部魔法使いが足りないせいで起こってるんだ。魔法使いは戦闘のときに、一般人に邪魔されないような空間を作る。異空間って言ってもいい。そこはどんだけ破壊してもその空間だけの出来事は外には届かねぇ。」
「…そう、ですか。」
「確かに命がけだけどよ、別に逃げたってかまいやしない。給料だって払うし、弱い奴だけ倒して後は知らん振りすればいい。それだけ困ってんだよ俺たちは。」
必死な声で矢畑は言う。シキトは思わず頷きそうになった。
けれど、それでも、魔法使いだなんて。
いくら非現実なことでも、半透明の矢畑を見て嫌と言うほど魔法の存在がわかった。魔者の出てきた理由を知った。魔法使いになってほしいというのは切実な願いだと、理解できた。助けてあげたい、とも思った。
…でも、自分に何が出来る?
普通の高校生だし、いきなりそんなこといわれて、理解できても、それでも、無理だって思える。
シキトは人が良いからなぁ、という親友の声が頭の隅でした。
人が良いってだけで、決めても良いのかよ。
「…俺は、」
困ってる人を見過ごせない性質で、でも、いきなり、魔法使いとか。
…よくわかんねぇ。
ふと、矢畑さんの携帯がなった。ち、と舌打ちして出て、すぐ顔色が変わる。
「またかよ…、わかった、今すぐに行く。」
そういって切ると、俺に視線を向ける。
「悪い。急用が出来た。坊主、じゃあ考えとけよ。」
そう言うとすぐ煙草を地面に捨てた。ポイ捨てだめなんじゃ、と言おうとした瞬間、目の前で消える。
魔法なのか、これ。
矢畑は懐から杖を取り出す。服から気軽に取り出せるようなものじゃない、自分の背丈ほどある杖を。
先が狼の顔のようになっており、体がその杖にしがみついてるようでその体からはこうもり尾の羽のようなものがついていた。その杖を地面に一回つくと、瞬く間に矢畑の姿は消えた。瞬間移動、と言うべきだろうか。
「…ビリカは置いていくんだな。」
「ほぇ?」
目の前のことに驚きつつもどうしようか、と考える。
大変そうだとは、わかるんだけど。
「杖か、あれ?お前はもってるのか?」
「はい、私のはこれです。」
見せたのは前通信魔法をする時に手に持ったペンダント。
「それが、杖?」
「正確には魔法媒介です。基本的にはなんでもいいんです。大きな魔法を使うときには必要で、簡単なら魔法はいらないんですけど。壊されても少ししたらまた復活します!」
「説明下手…。じゃあ、前お前からローブでてたよな、あれは?」
「魔法使いの証です。象徴、とでもいうべきですか。あれは、魔法の補助をしたり、魔法の攻撃を防いだりするんです。あと、人によって色が違うんですよ。得意な魔法によってとか、です。あ、ちなみに私のは朱華(はねず)色です!回復とか、補助魔法が得意です!」
「なるほど…。」
二度目の説明下手と言う言葉は飲み込んだ。それから少しの沈黙が流れる。
しばらくして、恐る恐るとでもいうように、ビリカが口を開く。
「えーと、シキトさん。」
「…何?」
「班長さんはいい人なんですよ。だから、もし本当に嫌なら、わかってくれると思います。」
困ったように笑うビリカ。う、とつまる。
女の子に、こんな顔させたらだめだろ。
「た、確かにいきなりはだめですよね。私はなってほしいし、なってくれたら助かります…。けれど、無理矢理させる権限は私達にはないんです。」
「ビリカ…。」
俺は、と呟く。俺は、どうしたいんだ。
だって、困ってる人が目の前にいて、それで…。
ふと、胸がざわつく。頭に違和感が走る。
それに答えるよう、自分の電話が鳴った。その瞬間冷や汗が流れる。
「シキトさん?」
どうしたのか、とでもいうように首を傾げるビリカ。変な顔をしていただろうか、と考えながら、電話をとった。
「もしもし?」
『…シ、シキト?』
掠れた声だった。震えていた。だが紛れもない、親友の声。
「緋月っ?どうしたっ?」
異常がわかった。何かが電話の向こうで起こってる。
『い、今帰り道で…わ、わかんない、わかんないけど、たす、けて、』
瞬間大きな音と小さな悲鳴が聞こえて、電話の落ちる音がした。
「緋月!?緋月!緋月!!」
大声で電話の向こうにいる人間の名前を呼ぶ。けれど、返事がない。
冷や汗がだらだらでた。
——帰り道っ!
俺は全速力で走り出す。帰り道ならわかる。あいつはいつも同じ道で、俺の家までの道の前に家がある。
行かなきゃっ!
「シキトさんっ!?どうしたんですか!」
「俺だって知るか!」
ビリカが必死で俺の後を着いてくる。
「こんなときこ、そわた、しが!」
そう息も絶え絶えにビリカが叫んだ瞬間、シキトの体が軽くなるのを感じた。
魔法か。と小さく呟くと、さらにスピードを上げて走り出した。
- Re: 黒の魔法使い ( No.8 )
- 日時: 2011/03/13 13:15
- 名前: 七星 (ID: sicBJpKD)
Episode 7 [魔者と空間]
「で、でもそこまで大変なん、ですかっ!?」
ビリカが納得いかないような声をあげる。
「別に、走らなくたって…、」
「あいつは…っ!」
シキトはビリカの方を見ずに、前を見つめながら叫ぶ。
「あいつは絶対『助けて』なんていわないっ!」
「はぇ…?」
「前事故に遭いかけた時だって、高いところからおちそうになったって、自分のことに関しては助けてなんて言わなかった!」
「つ、つまり…、どういうことなんですかっ!?」
「『誰か』がいるんだよ。しかもかなり危険な状態で!そこまでじゃなきゃ、あいつは絶対助けてなんて言わない!」
早口でそうまくしたてる。そうだよあいつはいつだってそうだった。自分以外ばっかり気にしてる。ただでさえ若干不運なのに…っ!
ち、と軽く舌打ちをする。とりあえず全速力で学校からの道のりを走っているが、姿が全く見えない。その上、異常も見れない。
電話の向こうから大きな音がした。何かが壊れて落ちるような。建物かもしれない。でも、どこにもそんな様子はない。
そんなはずないのに。
大通りのほうを走る。人がばらついて存在しており、普通の光景が視界に移る。ここでもない、とシキトは荒々しいため息をつく。
「あ、あれっ…!」
急にビリカが声をあげ指をさした。それは道の真ん中。
「空間魔法がかかってます!魔者と魔法使いが戦ってるんです!」
矢畑さんが言っていた奴か、とシキトは思い出す。
もしかしてあそこにっ…!
「どうすれば入れるっ!」
「く、くぐればいいんですが…。」
そうビリカが言ってすぐ、シキトはその道の真ん中に向かって走り出す。
「ま、待って、魔法使いじゃないとはいれな…、」
そう言葉が言い終わらないうちに、シキトの姿が忽然と消えた。
魔者がいる空間に入ったのだ。
「う、嘘…、魔法使いじゃないと入れないはずなのに…。」
呆然と立ちすくんでたビリカ。それからはっと気付くと、急いで自分もその空間に飛び込んだ。
シキトは入ってすぐ、周りを見渡す。そこには人というものが見当たらなかった。だが、壊れた建物が点々と存在していて、地面には瓦礫が散らばっている。
「なんだよ、ここ…。」
今更ながら急に不安になる。身体の奥でどくどくと心臓の音が反響している。
「そうだ、緋月は…っ!」
いそいで瓦礫の下を覗く。あいつなら何かに巻き込まれてる。とりあえず下敷きとかになってる。あいつ、不運なくせに、悪運は割りと強いから、死んでない気がする。
…死?
嫌な汗が背中をつたう。考えてなかったけど、この惨状じゃ…、まさか…。
「シ、シキトさんっ!人、ここにいます!」
ぱたぱたと少し離れたところで手を振ってシキトを呼ぶビリカ。
「そこかっ!」
急いで駆け寄ると、路地裏のようなところの壁に持たれかかってる緋月がいた。気絶して、その上頭から血を流している。
「血、血が出てますっ大変です!」
「大丈夫この程度なら慣れっこだ。意識がないだけだと思う。」
「こ、この程度…?慣れ…?」
首を傾げるビリカ。
「…でも、なんでだろう。少し服が焦げてる。身体も火傷してるし…。」
とりあえず軽く合掌してその場を離れる。
あいつが伝えたかったこと。『助けて』という言葉を、自分のために使わない緋月。だから、誰かいる。
その時、近くでがこっと何かが壊れる音がした。
「魔者、か?」
矢畑が言っていた、魔者。あまりに現実離れして、実感が沸かなかったが、ここまでくればもう、行くしかない。
天性のお人よしだな、と自嘲する。
その瞬間、大丈夫、という声が遠くで聞こえた。
- Re: 黒の魔法使い ( No.9 )
- 日時: 2011/03/14 11:10
- 名前: 七星 (ID: sicBJpKD)
Episode 8 [もう一人の魔法使い]
異形のもの。まさしくその言葉が当てはまった。
目の前に映る光景は、本当に、夢の中にいるかのように、非現実なものだった。
「…まじかよ。」
ぎょろりとした目が、真ん中に一つ存在を際立たせてそこにあり、大きく引き裂かれた口には黄ばんだ歯がばらばらに並んである。蜘蛛の様な足が大量についていて、胴体は丸くどっぷりと肥えている。
あれが、魔者。
本能のままに建物を壊しているようで、壊れたものから砂が巻き上がり、視界を悪くする。
「あ、あれは、A級クラスです…っ!に、逃げましょうよ!」
半泣きでビリカが俺にすがり付いてきた。
「ちょっと待てよ!この空間があるってことは魔法使いがいるんだろ!?どうにかなんじゃねぇの?」
「で、でもどこにいるんですかっ!」
「俺が知るか!」
こいつだって魔法使いじゃねぇか、とビリカを睨むがビリカは涙目で慌てているだけ。あぁこいつダメな子だったな…、と哀れみそうになる。
ふと、魔者の姿をよく見る。焦げている。緋月と同じように、足が何本か黒ずんでいた。
「わ、私攻撃的な魔法使えないんです…、だ、だから、か、帰りましょう!その魔法使いさんが倒してくれますよ!」
「…とことん弱気だな、お前。」
半分呆れながら呟く。
その時だった。
「何してるっ!貴様ら出てけっ!」
少し高めの男の声。聞き覚えがあった。しかも、今日。
「へ…、」
声の出所を見る。ビルの天辺、深い赤色のローブを風に揺らめかせていた。その高い場所からぶわぁ、と飛び降りる。落ちる、と息を呑んだ、だが地面に降り立つ時、速度がゆっくりになり、ふわり、と羽のようにその場に立った。
「ここは僕が空間を張ったはず。部外者は入ってくるな。」
そこにいたのは、少し長めの髪を持つ、美少年…。
御門悠、だった。
「え、なんで、お前が…。」
「こっちが聞きたい。どういう了見で入って来ているんだ?お前もお前といつも一緒に居る奴も。はっきり言うが邪魔だ。今すぐここから消えろ。」
ずかずかとこちらに向かって早足で歩きながらその綺麗な顔を歪ませて似合わないような暴言を吐く悠。
猫かぶり、という言葉を思い出した。
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