二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.220 )
- 日時: 2014/06/16 23:27
- 名前: さくら (ID: Rebn9tUA)
「ふぅ…あったわよ、正ちゃん」
「ご苦労様。清」
京のはずれの宿屋に仮住まいを用意していた正彦と清次郎はそこで作戦を実行していた。
新撰組の屯所からこっそりと抜け出し、今はこの仮住まいに滞在している。
「あの千鶴ちゃんって子。相性はいいわ。とっても操りやすかったもの。でも長時間は無理ね。あの子が嫌がってる」
「ははっ。嫌がる、ね。魂転を嫌がる娘か。それも鬼だからかな」
「そうね。鬼だから心配してたけど、そこまで難しくなかったわ。彼女の体を操るのも」
清次郎は屯所にいたときとは違い、女の格好をしている。これが自分の私服だと言わんばかりで、髪までしっかりと結い上げられている。
正彦はそんなことを気にも留めず、傍らに置いた水盆を眺めていた。
片手に持っていた煙管を口へと運び、煙をくゆらせる。
「それで、目当てのものは?」
「あったわよ。やっぱり彼が持ち歩いていたみたい」
清次郎は伸びをすると開け放っていた障子窓を閉める。外は土砂降りの雨で、雨音がうるさくて会話ができない。
障子窓の前に腰を下ろしてふっと溜め息をつく。魂転の術は体力が奪われる。壁に少し寄りかかりながら清次郎は会話を続けた。
「でもどうして羅刹の蔵の鍵が必要なの?また何をする気?」
「あぁ、清にはまだ言っていなかったのか。もちろん、守護者と新撰組を陥れるためさ」
「守護者と、新撰組?」
守護者を策に嵌めるのならば理解できるが、新撰組を巻き込む理由は何なのか。清次郎は首を傾げた。
「上から未来の玉依姫と鬼斬丸を奪取せよ、とお達しがあったよね」
「えぇ」
「それがどういう意味かわかる?」
水盆を見つめながら正彦は呟いた。
「どんなことをしてでも、どんな手段を使ってでも奪えってことだよ」
その目に優しさなどない。冷酷な光が宿った瞳を細めて笑った。
「だったら新撰組も利用する。奴らはいい材料だよ。羅刹っていう爆弾を抱えてる。それがどれだけ利用価値があるか…」
薄ら笑う彼に寒気を感じた清次郎は黙って彼の言葉を待った。
「今回羅刹を閉じ込めている蔵の鍵を盗んだのは他でもない。新撰組を撹乱させるためだよ」
「?わからないわ。どうしてこんな回りくどいことを?私たちが直接、蔵に行って錠前を壊せばいいじゃない」
「それだと駄目なんだよ」
正彦は口元に煙管を運び、ゆっくりと煙を吐いた。
「それじゃ前と同じ。施錠を破壊したと疑われるのは守護者の方だ。無理矢理に施錠を壊せば真っ先に疑われるのは彼ら。けど、それはもういいんだよ」
「もう、いい?」
「そう。今回の目的は新撰組の不和。鍵を持っているのは幹部の限られた人間。それも近藤か土方か山南。その三人の誰か。以前鍵を壊されたんだ。新たに施錠して、鞏固なものにしただろう。警戒だってしてる。そこに再び蔵の鍵が開けられたとなったら?しかも今回は錠前を溶かしたのではなく、鍵を開けて蔵が解放されていたら?さぁ…真っ先に疑われるのは誰だろうね?」
正彦の作戦を語る口調は無邪気で、その顔には笑みさえ浮かんでいる。
「新撰組が混乱すれば姫を狙う隙も増える。もう不和は以前から続いている。綻べば最後、人の信頼なんてあっけないものさ。伊東派は着々と離隊の準備を整えている。加えて新撰組を混乱に陥れる」
ゆらりと正彦は立ち上がり窓の欄干に腰を下ろした。
「守護五家にも不和が起こっているんだ。この機を逃すわけにはいかない。彼らが混乱しているときこそ好機だ。姫を奪取する。清」
「はい」
名を呼ばれた清次郎は姿勢を正して正彦を見上げた。
悠然とした構えで煙管を片手に正彦は言い放った。
「決行は今夜。屯所に忍び込み、鬼の娘から鍵を奪い、蔵を解放せよ。羅刹の混乱に乗じて玉依姫を奪取するんだ」
「正彦、貴方は?」
「俺は鬼斬丸を。いつまでも西の鬼に持たせてたまるか。あんな男が持て余していい代物じゃない。俺が奪取する。今夜だ」
障子窓から覗く空はどんよりと曇り、激しい雨が降り続いている。
夜になれば足音は雨音に消される。今夜こそ絶好の日和だ。
「そんなに上手くいくかしら…」
「大丈夫だよ、清。何だか知らないけどお姫様と鬼は喧嘩をしているらしい」
正彦は目を細めて水盆へと視線を移した。それに倣って清次郎も水盆を見る。
ゆらゆらとゆらめく水面には霧雨が降る街中を歩く拓磨と玉紀の姿があった。
「いつの時代の鬼と姫は仲が宜しいようで、その分ぶつかると溝が深まる。今夜が好機だろう?」
「えぇ…そうね…」
「それにもし姫を奪取できなくてもいい。まず目的は羅刹の解放だよ。それが成功すれば姫を攫うことができなくても構わない。お前ならやれるって俺は信じてるよ」
煙管を口から離し、正彦はゆっくりと微笑んだ。それは信頼に満ちた真っ直ぐな視線。その視線を受けて清次郎は真摯に頷いた。
「…やるわ。今夜。正ちゃんも気をつけてね」
「あぁ。日が沈んだ時分に動き出す」
「それじゃ私は準備してくるから」
清次郎は立ち上がるとその部屋から出て行った。
一人、正彦は欄干から空を見上げて煙管を口に咥える。そしてゆっくりゆっくりと煙を吐き出し、手にしている煙管を欄干に叩き付けた。
雨が激しい音を立てて世界を支配している。
宵闇の時分はもうすぐ——————
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.221 )
- 日時: 2014/06/23 22:15
- 名前: さくら (ID: r306tAcU)
「千鶴が倒れた?」
夕餉に集まった幹部の面々は目を丸くした。
このところ、千鶴が卒倒するという事態が頻発している。
「大丈夫なのか?この間も顔色悪くて土方さんが無理矢理休ませたって言ってたぜ」
永倉が珍しく箸を置いて会話に加わる。
「わかりません。今松本先生が診察しているところで…結果はまだ…」
松本を呼びに行った島田と山崎は沈痛な面持ちで言葉を濁した。
土方が慌てて医者を呼ぼうとしていたのだ。千鶴の容態がどれほどのものか心配になる。
「…ま、別に千鶴ちゃんが死んだってわけでもないんだし、とりあえずご飯食べない?お葬式じゃないんだから」
重い空気を打ち破ったのは沖田で、その言葉に少し空気が軽くなる。
一同は夕食を取ることにした。
だがそれは静かな夕食でいつものようなおかず争奪戦が繰り広げられることはなかった。
静かな夕餉に顔を上げた原田は隣に座っていた拓磨を肘で突いた。
「お前、巡察の後どこ行ってたんだよ。あのあと合流するって話だっただろうが。先に帰りやがって」
「そうだよ。これでも一応心配してその辺探しまわったんだからね、雨のなか」
追い打ちをかけるように沖田も横から言葉を続けた。
反論できなかった拓磨は罰が悪そうに眉根を寄せる。
「すみません…ちょっと…色々あって…」
「まぁそれはいいとして…あの後ちゃんと珠紀と仲直りできたのか?」
「出来たわけないじゃん。見てよ左之さん。広間に珠紀ちゃんがいないし」
「あ、そう言えば…珠紀は?」
「部屋で夕食をとると言って…」
原田の問いに祐一が答えた。どうやら食事の前に珠紀の部屋を訊ねたようだ。
「あぁ?何やってんだよ、拓磨。こじれてるじゃねぇか」
原田が拓磨の背中をばしりと叩く。だが、拓磨の浮かない表情に何も言えなくなる。
「ほっとけよ。いつものことだよ、二人の喧嘩なんざ。いつの間にか仲直りしてるって。他人が首突っ込むと余計にこじれんだよ」
横やりを入れたのは真弘で呆れたように言い放った。
彼の隣に座っていた祐一がじっと彼を見つめる。
「真弘。その言い方は良くない」
「だって本当だろうがよ」
「俺って…」
「あ?」
それまで黙っていた拓磨が口を開いた。
「俺って…男として…駄目な奴なんすかね…」
「……」
その言葉に広間は水を打ったように静まり返った。
そこまで彼に言わせる珠紀が気になる。一体彼女は彼に何を言ったのか。
虚ろでこの世の終わりのような暗い表情をしている拓磨は本当にあの拓磨なのか。意気消沈どころではない。これは放っておけば口から魂が抜け出していきそうなほど撃沈している。
誰も慰めの言葉が出てこない。否、下手に慰めて彼の傷を抉ることが心配された。今彼を突けばがらがらと音を立てて崩れそうな、そんな危うさがある。
「…俺…どうすれば良かったんだろう…」
「……」
そんな拓磨の呟きに誰も答えられるはずもなく、広間は再び重い空気が漂う。
重苦しい空気に喉を詰まらせた藤堂は咽せて、永倉は彼に茶を勧めた。
誰かこの空気を打開してくれ。そう思い沖田の方を見たが彼も流石に手に負えないのか黙って箸を進めていた。
溜め息をつくことも許されない空気が重い。
誰か。そう思ったときだ。
「…何だこの淀んだ空気は」
障子を開けて開口一番に土方は声を上げた。
その瞬間重く漂っていた空気が晴れて行くようだった。幹部はほっと胸を撫で下ろし、そのときだけ土方に感謝した。
「あ、土方さん!!千鶴は!?診察終わったんだろ!?」
「あぁ…」
土方は自分の席に着くと険しい表情で報告を始めた。
「松本先生に診察してもらったが…先生にもはっきりとした原因はわからないらしい…容態は安定してる…」
「はっきりとした…?」
「千鶴は胸の奥が苦しいと言っていた。だが、それが全ての原因ではないように思う。ただの貧血の類ならあんな…」
「副長?」
言葉が途切れた彼に、斎藤は首を傾げて先を促す。
「倒れたあと少しだけ意識を取り戻した。そのとき俺にこう言ったんだ…怖いって…」
「怖い?」
「何かが自分のなかにいるみたいだって…あいつにしては珍しく泣いてて…」
一同は首を傾げるしかなかった。千鶴の異変の謎は誰もわからない。
首をかしげる藤堂は何かを思い出したのか声を上げた。
「今日、昼間千鶴と話したんだけどさ、あいつちょっと顔色悪かったような…俺の見間違いかな…?」
「昼間?昼間なら俺も千鶴ちゃんに会ったぞ。道場に顔見せたときは元気そうに見えたけどな…」
「我々も彼女に会いました。何か急いでいるようでしたが…」
「俺も千鶴と遭遇した。買い出しの前だ。俺も急いでいるように見えたが…」
「誰か探してるって言ってたな…それが誰かは聞かなかったけどよ」
一同はさらに首を傾げた。どういうことだ。
最初に会った平助は顔色が芳しくないと言っているが、他の意見では彼女は元気そうだったという。
「…だが、彼女の様子が少しおかしいように見えた…」
「どういうことだ」
「あ、これは彼女の病状に関係するものかわかりませんが…」
山崎は口を閉ざして一度島田と見た。島田は頷いて彼の言葉を汲んだ。
「彼女にしては珍しく忘れ物をしていて…ほんのささいなことですが…」
「きっちりした性格の彼女にしては珍しいことです」
「それなら俺もおかしいと思っていた」
今度声を上げたのは斎藤で、昼間のことを話す。
「買い物に行く前に何か欲しいものはないかと訊ねたら、何もないと言っていた。だが、感のいい雪村のことだ。味噌がなくなっていたことはわかっていたはずだ。だが、それに気づかず…」
「おいおい。皆して千鶴を買い被りすぎだろう。あの子だって人間だ。失敗することだってあるだろうが」
永倉が呆れながら口を挟んだ。同意なのか土方も深く頷く。
「新八の言う通りだ。あいつは万能じゃねぇ」
「ですが…」
斎藤はさらに言葉を続ける。不審と思ったことが他にもある。
「歩き方が…」
「歩き方?」
「雪村の歩き方ではありませんでした」
「…おいおい、やめてくれ…俺たちのイメージの新撰組像が崩れてく…ここの大人は皆アホなのか…」
呆れる真弘は口を半開きにして幹部達を見渡す。ここにいるのはあの有名な池田屋事件を起こした列記とした武士なのか。教科書の世界とは違う、彼らのリアルなやりとりにその人物像はかなり崩れていたが、さらに瓦解していく。
良い大人が娘の異変にあーでもないこーでもないと論争している。心配していることは理解できるが、千鶴のそんな些事を見ているとなると一種の寒気に襲われた。
「歩き方って…じゃぁどんな歩き方だったんだよ、一君」
「女の歩き方だ」
「そりゃ彼女は女の子だもんね」
「そうではない。雪村は今袴を穿いているのに、何故か歩き方は長着を着ているような歩幅が狭い歩き方だったのだ。普段から袴を穿いていればあんな歩き方にはならない」
「いや、だって千鶴ちゃんは女だし…そりゃそういう歩き方になるだろ…」
「三年以上も男装を強いているのに、か?男装したての当初であればそうかも知れん。だが、思い出してみろ。千鶴の歩き方は小股のそそっかしい歩き方だったか?」
一同は黙って千鶴を思い描く。背筋をしっかりと伸ばし、姿勢も崩すことなく歩く姿は剣を習っている証拠だ。彼女の歩幅はしっかりとしていてそそっかしいなどと形容されるものではない。
「…確かに不審に思うが…それと千鶴が倒れたのと関係があるのか…」
祐一の問いには誰も答えない。ただ大の大人達が首をそろえて出てくる見解が迷走していて何とも言えない状況だ。
「本人が目覚めれば話を聞くつもりだ。報告は以上だ」
土方は咳払いをするとやっと自分の膳に手をつけた。
そして夕食は再開し、食べ終えた者達は膳を下げて各々の部屋に戻った。
原田はまともに夕食に手をつけていない拓磨に声をかける。
「おい、拓磨。何があったかしらねぇがわだかりってもんは早いとこ解決しておいた方がいいぜ。ややこしくなる前に」
「…うっす…」
返事に覇気があったものではない。死人のような弱々しい声に原田は嘆息して拓磨に後で部屋に行くと声をかけると広間を後にした。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.222 )
- 日時: 2014/07/01 11:45
- 名前: さくら (ID: PdKBVByY)
夕方から降り続いていた雨は止む気配を見せない。
一定の雨量を保ったまま夜を迎える。
闇の帳を縫うように、足音は雨音にかき消され、うごめく影がひとつ。
屯所の裏口にあたる方角からその影は素早い動きで敷地内に侵入した。
そしてある場所を目指し、その足を忍ばせる。
「こんばんは。さっきはありがとう、小さな鬼の娘さん」
障子が音もなく開かれる。
千鶴の部屋には当然彼女しかいない。静かに眠る彼女の寝顔を見つめて清次郎は微笑んだ。
千鶴の部屋に侵入する彼は外の激しい雨に打たれた様子もなく、彼女の枕元に座る。術で雨を弾いてきた彼は口元を覆っていた布を外した。
今回は失敗が許されない作戦だ。そんなときは必ず袴を穿く。いくら女装が好きだからといって利便性に欠けたそれを着るわけにはいかない。
身のこなしを軽くするために袴を穿いた彼は以前屯所にいた姿のそれだ。
「嫌かも知れないけど、これからもよろくね。あと、預かっててくれてありがとう」
清次郎は微笑むと彼女の腕を布団のなかから出すと、そっと袂をまさぐった。
そして静かに袂から鍵を取り出した。
それは彼女を操っていた最後のとき。泣きまねで土方の油断を誘い、そっと懐から盗んだものだ。それを彼女の袂に忍ばせ、魂転の術を解いた。
放っておけばこのまま千鶴は目を醒ます。対象者にも負担がかかる術だが、すぐに元気になるだろう。
清次郎は立ち上がると入って来たときと同様、静かに退室した。
「おい、拓磨。いるか?」
原田は一声かけてから、拓磨の部屋の障子を開けた。
するとそこには祐一と真弘が先客としていた。魂が抜けたような表情の拓磨を囲んで何やら談議していたようだ。
「酷い顔だな」
「あんたが来たんなら、俺はこれで…」
「待てよ、真弘。何も出て行く必要ねぇだろ。ちょっと付き合えよ」
退室しようとしていた真弘の腕を掴むと原田は彼を座らせる。そして片手に持っていた徳利をどんと畳みに置いた。
「ま、面倒なことがあったときはこれに限るよな」
「そうだな…今拓磨に色々聞いてみたのだが…肝心なことは何も答えない…いっそ酒で忘れるのもいいかもしれないぞ。拓磨」
拓磨にそう声をかけて祐一は原田が用意した盃に酒を注いでやる。
拓磨は無言でそれを飲み干すとおかわりを要求した。
「お、良い飲みっぷりじゃねぇか」
原田は満足げに笑うと拓磨に酒を注ぎ、真弘にも注いだ。
「お、俺は別に…」
「まぁそう言うなよ。俺のことが嫌いかも知れねぇが俺はお前と仲良くしたいんだ。今夜くらい付き合え」
「……」
真弘はしばらく押し黙って酒と原田を交互に見比べてから酒を一気に呷った。
熱い液体が喉を通過し腹の中で燃えている感覚は嫌いではなく、真弘は無言で自分の盃に酒を注いだ。そして原田にも酒を注ぐ。
「嫌いじゃないんだ…別に…ただ、俺たちは…」
「異形とかまだそんなこと気にしてんのか。ったく…お前は真面目な性格してんだな。そんなに目つき悪いくせに」
「あん?目つきは今関係ねぇだろ」
「ちっこいくせに色々抱えてんだな。偉い偉い」
「子供扱いすんなっ!!いいか、今はこんなだけどいつかお前の身長も追い抜くぐらい成長してやるんだからなっ」
盛り上がる二人を見つめて祐一は微笑んだ。
最近の真弘は周囲に警戒心を剥き出しにし、関係に境界線を引いていた。
原田の人柄のおかげか、それが解消されている。
祐一は安堵していると、拓磨がふと顔を上げた。
「珠紀は…今…」
「部屋で休んでいる。さっき部屋を訊ねたのだが、一人にしてほしいと…」
「そう、っすか…」
再び暗い表情で盃を満たす酒を見つめて溜め息を零す。
一体二人に何があったのかはわからないが、今は深く詮索しない方がいいのかもしれないと、祐一は違う会話を拓磨に振った。
酒を交わしながらしばらく談笑が続いた。
「ふぅ…」
自室で仕事をこなしていた土方は区切りの良いところで休憩を挟んだ。
筆を置くと土方は伸びをしてふと外の雨音に耳を傾ける。
「酷い雨だな…」
夕方から降り続く雨はその勢い劣らず、滝のような豪雨だった。
立ち上がって少し障子を開けると外は暗闇が広がり、見えない雨が音を立てている。
『怖いんです、私…っ』
雨音に混じって千鶴の声が耳朶に蘇る。
「どういうことだ…」
腕を組んで千鶴の言葉を思い出す。
涙を流し良い知れない恐怖に脅えている彼女に土方は困惑した。いつも気丈に振る舞っている彼女からは想像もできない姿で、正直どうすればいいのかわからなかった。
「あいつだって女なんだからな…」
取り乱すことくらいあるだろう。彼女は完璧にできていない。
らしくない自分に頭を振って溜め息を零した。
ふっと腕を組んで外を眺めていたときだ。
「……?」
懐にいつもの感触がないことに気がつく。
組んでいた腕を解いて、土方は懐をまさぐった。
「……ない…」
懐だけでなく袂にも手を突っ込んで探したが、“それ”は見つからない。
急に足下から地面を崩されたような感覚に陥る。
失くしたのか、落としたのか。
土方は自分の部屋を見渡し、文机の上や押し入れのなかを捜索し始めた。
だが部屋の荷物や棚をひっくり返しても“それ”は見当たらない。
「どこにやったんだ…っ」
土方は手を止めて眉根を寄せた。
記憶を手繰って今日のことを思い出す。
今朝から仕事が入り、屯所を開けていた。いつも“それ”を持ち歩いている。あの一件以来肌身離さず持つことにしていた。
朝出掛ける前には確かに懐にあった。そこまでは覚えている。
だが、それ以降ちゃんと確認をとっていない。出先で落としてしまったのか。
「ちっ…!!」
“あれ”を失くしたと大事だ。
探さなくては。だが、その前に。
土方は部屋を出ると足を蔵のある方向へと向けると駆け出した。
どうか、杞憂であってほしい。土方はそう願いながら蔵がある、羅刹を閉じ込めている蔵へと向かった。
豪雨など気にも留めず、庭に降りるとそのまま蔵に向かう。雨と暗闇で視界が悪いが、そんなことは関係ない。逸る鼓動を抑えながら蔵に辿り着く。
降り注ぐ雨の冷たさも忘れて土方は戦慄した。
「…どう、して…」
錠前が虚しく地面に転がっていた。
地面からゆっくりと視線を上げると厳重に施錠していた扉が開いている。
そして目を疑いたくなるような光景が土方の目の前に広がっていた。
「嘘だろ……」
蔵に閉じ込めていたはずの羅刹が一人もいない。
蔵の中に入って目を凝らして再確認するが、彼らの姿はどこにもなかった。
雨の音が遠い。この蔵のなかだけ別の空間にいるような感覚に陥る。
誰だ。誰が一体、何の目的で。
土方は呆然とする一方で頭のなかで考えていた。
鍵の施錠は前回より厳重にしたはずだ。鍵は土方と山南、近藤の三人が所持している。それは三人しか知り得ない情報で、幹部にも教えていない。
見たところ錠前は壊された形跡はなく、鍵を使って開けられていたようだ。
では、山南か近藤か。
否、近藤は今夜伊東と出掛けている。山南が土方の許可なく鍵を解錠したことはない。そんなことをする目的などないはずだ。
ではやはり。
「そんなところで突っ立ってどうしたのかしら」
声がした。
凛とした声で、男か女の声かわからない。土方はゆっくりと振り返った。
「こんばんは。鬼の副長さん。こんなところでのんびり突っ立っていていいのかしら」
「…誰だ」
蔵の前に一人誰かが立っている。闇のせいでその姿を確認することはできないが、悠然と立っているその姿は土方の神経を逆撫でした。
「あら、誰とは野暮な質問ね。貴方とは面識があるのに、覚えていて下さらないなんて…遊女達が袖を濡らすのもよくわかりますわ」
「戯れ言はいい…誰だって聞いてんだ」
じわじわと苛立ちが募る。土方の本能が吠える。目の前の人物に対して警鐘を鳴らした。
「ふふ。夜が明けるまで貴方と語り明かしたいけれど、そんなことしてる暇、貴方にあるかしら?」
表情は見えずともわかる。その影は嗤っている。そしてその言葉の意味を理解した瞬間、土方は蔵を飛び出していた。
その背中を見つめて影、清次郎はうっそりと嗤った。
土方は雨でぬかるむ地面に足を取られながらも、懸命に走った。
庭を横切り、廊下に上がるといくつもの角を曲がる。
自分の部屋に戻ると刀を手に、土方はある部屋に向かった。
「きゃあああああああっ!!!」
甲高い悲鳴が屯所に響いた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.223 )
- 日時: 2014/07/07 22:57
- 名前: さくら (ID: r306tAcU)
「きゃあああああああっ!!!」
甲高い悲鳴が屯所に響いた。
「っち!!!」
間に合え。土方は抜刀すると鞘を放り捨て、千鶴の部屋に着くと息を整えることも忘れて開け放たれている障子から部屋に入った。
そしてすぐに千鶴を見つけると彼女を抱きかかえて刀を構えた。
「ひ、土方さん…」
脅える千鶴は土方の登場に安堵したのか彼に体を預ける。
「ひひっ…ひひひっ…」
土方の目の前には我を忘れた羅刹が歪な笑みを浮かべて立っている。
赤い目を千鶴に向ける。標的はどうやら千鶴のようだ。
羅刹は刀を手にしていた。ふっと鼻腔をかすめる臭いに千鶴を振り返る。
二の腕を斬られたようだ。赤い鮮血が彼女の単衣を染め上げている。
「ひひひッ…ひゃあははははぁっ!!!」
羅刹が斬り掛かってくる。土方は千鶴とともに間合いをとりつつ剣撃をよける。羅刹の動きは不安定で、素早い身のこなしとは言えない。ふらふらと上体を揺らして二人ににじり寄ってくる。
「っち…!!」
刀を振り回す羅刹をあしらいつつ、打開策を考える。
動きが鈍いが、一撃一撃が重い。いつまでも続けていればこちらがやられる。千鶴を庇いつつの応戦だ。すぐさま手を打たねば。
「ひひっ…血を寄越せ…血だ…血が欲しい…っ」
羅刹は狂ったように暴れると、千鶴の腕から滴り落ちた血を見つけてそれを舐めていた。
その様を見て土方の何かが音を立てた。
土方は刀を振り上げると羅刹の肩口を斬りつける。一瞬羅刹は怯むが、傷は瞬く間に癒えていく。だが、すぐさま土方は刀を握り直し、羅刹に斬りつけた。
勢いをなくした羅刹を畳み掛けるように土方は追いつめると、最後に羅刹の心臓を一突きした。
「ぎゃあああああっ」
男の断末魔が雨音に混じる。千鶴は耳を塞いで身を硬くした。
返り血を浴びた血を乱暴に拭うと土方は事切れた羅刹を眼下に見た。羅刹の髪は元に戻り、その瞳も黒になる。
「無事か、千鶴」
「はい…何とか…」
千鶴の傷の具合を確認しようとした刹那。
雨音に混じって断末魔の叫びが近くで聞こえた。
顔を上げてその方向を睨んでいると反対方向から足音がいくつか近づいて来た。
「副長…っ」
「おい、大丈夫か千鶴ちゃん!!」
部屋に駆けつけて来たのは斎藤と永倉で、二人は入り口に転がる羅刹だった男を眼下に見ると一瞬にして現状を理解した。
その後に山南と藤堂が急ぎ足でやってくる。
「土方さん、これ…っ」
「申し訳ありません。私がしっかり監視していれば…」
「いや、そんなことよりおめぇら。他に羅刹が数人蔵から脱走した。平隊士に見つかると面倒だ。早急に探し出してくれ」
土方は素早く下知を飛ばす。
「っち!!またあいつらのせいか…!!」
舌打ちする永倉に土方は首を横に振った。
「いや…今回は…あいつらだけのせいじゃないはずだ…」
「どういうことだよ…?」
「新八。今は羅刹を探すことが優先だ。行くぞ」
眉根を寄せる永倉を促し、斎藤は外へと飛び出した。
「じゃぁ俺も探してくる!!」
鯉口を握って藤堂も部屋を後にして行った。
山南は畳に事切れた男を見下ろして大きな溜め息をつく。
「こうやって毎回我を忘れては、適合しても実験結果としてはとても成功とは言い硬いですね…」
悔しげに呟く山南は座り込んでいる千鶴に視線を移す。
「怪我をしているのですか」
「だ、大丈夫です。ちょっと擦っただけなので…」
「そんなに血を流して…大丈夫なはずないでしょう。見せて下さい」
山南が千鶴に近づき、その腕に触れようとしたときだ。
「うっ…!!」
「さ、山南…さん?」
背中を丸めて呻きだした山南に千鶴は嫌な予感がした。
「千鶴、立てっ!!」
土方の呼びかけと同時に山南の髪色が変化する。
黒から白へ。髪は変色し、顔を上げた彼の瞳は血のように赤い。
「きゃっ!!」
「血…血だ…」
突然千鶴の負傷している腕を掴んで小さく呟く。山南の視線は千鶴の腕に釘付けだ。
「やめろ、山南さん!!」
土方は彼から千鶴を引き離すと庇うように立ちはだかる。
「血だ…血…血…」
山南は自分の手に付着した千鶴の手を凝視してそして顔を上げた。
さきほどの羅刹同様、目を爛々と輝かせ千鶴を凝視する。
「血が、欲しい…血が…」
「くそっ!!」
我を忘れた山南は千鶴を求めて腕を伸ばす。土方は一定の距離を保ちながら彼から千鶴を守る。
どうする。羅刹化した彼を元に戻すことなど容易ではない。きっと千鶴の血の臭いにあてられたのだろう。
山南相手に刀を向ける訳にもいかない。土方は歯噛みした。どうする。
「血を…下さい…血を…血が、欲しいっ!!」
山南が大きく動いた。土方を突き飛ばし千鶴に腕を伸ばす。
まずい。そう思ったとき。
「何やってるんですか、山南さん」
横から彼を弾き飛ばした影は揚々と微笑んでいる。
「お、沖田さん…」
山南の前に立ちふさがり、腰に提げている刀に手をかける。
「言いましたよね。僕がいつでもあなたを殺してあげるって。覚悟はいいですか?」
山南は沖田を睨み、間合いを取る。部屋に緊張が走った。
山南がふと手を掲げる。彼の一挙手一投足を見守っていると、手にこびり付いた千鶴の血を舌を伸ばして舐めとった。
突然の行動で一同は息を飲んで見つめる。
更に血を求めて狂うのか。
「そうなる前に殺してあげますよ」
沖田は素早く刀を抜いて地を蹴った。
「待て、総司!!」
待ったをかけたのは土方で、沖田は寸手のところで動きを止めた。
「な、何ですか、土方さん。今やらないと———」
「山南さんを見ろ」
土方の言葉に千鶴も山南を見た。
「うぅ…ううっ!!」
再び畳に膝をつき、うずくまる彼は何かに耐えているようだ。
するとすぐに髪の色が元に戻っていく。
「…わ、私は…一体…」
顔を上げた山南はいつもの彼で彼自身何が起こったのか把握しきれていない様子だった。
困惑しているが、いつもの山南に戻ったことに一同はほっと安堵した。
「良かったですね、山南さん。もう少し手遅れだったら僕が殺しちゃうところでしたよ」
「一体…私は…」
刀を鞘に収めて沖田は微笑んだが、山南は目を丸くしたままだ。
彼は自分の手に視線を落として、千鶴をふいに見つめた。
「そうだ…血の臭いにあてられて…雪村君の血を舐めて…正気に戻った…」
「わたしの…」
千鶴は血で赤く染まった自分の腕を見た。
一体どういうことだろうか。血に狂うはずの羅刹が、千鶴の血で正気に戻った。
一同は首を傾げていると慌ただしい足音が近づいて来た。
「何の騒ぎですか!これは!!」
「伊東さん、落ち着いて」
部屋にやって来たのは外に出掛けていたはずの伊東と近藤だった。
入り口に転がっている男を見て伊東は叫び声を上げる。
「こ、こここれは一体どういうことですか!?はっ!!さ、さささ山南さん!?ど、どうして!!死んだはずじゃなかったんですか!?」
喚きだす伊東に土方は目眩を覚えた。
山南は表上死亡したことになっている。羅刹の研究を公にできない分、影の部分を山南が引き受けた。そのときに彼はこの世から去ったことにした方が何かと都合がいいからだ。
それを伊東に教えるはずもなく、当然目の前にいる山南が信じられないだろう。
「伊東さん、こっちへ。今から説明しますから…」
「せ、説明!?一体どういうことなんですか!?」
混乱している伊東を近藤が別の部屋へと連れて行く。
今は近藤に伊東を任せるとして、ちゃんとした説明が必要になるだろう。
頭を抱える土方に追い打ちをかけるように沖田が笑った。
「あーぁ。どうするんですか、あれ。ばれちゃいましたよ。一番面倒くさい人に。斬っちゃいます?」
「やめろ、総司。とりあえずお前は脱出した羅刹を探して来い。屯所の外に脱走している可能性もある」
「それは、斬っちゃっても良いってことですか?」
「…お前の判断に任せる」
沖田は意気揚々と部屋を後にした。山南は事切れた男の処理にとりかかる。
「千鶴」
「え、あ、はい」
ぼんやりしていた千鶴は呼びかけられて土方を見上げた。
「腕、見せてみろ。出血が酷い。早く止血しねぇと———」
「だ、大丈夫です!自分でできますから!!」
千鶴の腕に触れようとしたその手を払いのける。
思わぬ行動に土方は目を丸くした。
「あ、ち、違います…本当に、大丈夫なんです…っ」
必死に言い訳を探している千鶴のその焦りように土方は眉を潜めた。
そのとき。
部屋が一瞬明るくなった。
否、明るくなったのは外で、その光は一瞬にして消えた。
「な、何だ!?」
外を見ると豪雨のなか炎を踊っている。
降り注ぐ雨を蒸発しながらその青い炎は何かを燃やしていた。
「祐一…!!」
「これは一体どういうことだ…!」
羅刹を炎で包み、しばらく動けないようにしてから祐一は土方の元に駆け寄る。
「わからん。だが、羅刹が脱出した」
「俺たちじゃ———」
「それはわかってる。今回は俺たちが———」
土方が首を横に振って答えようとしていたその声を、悲鳴が遮った。
「この声は…っ」
「珠紀…!!!」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.224 )
- 日時: 2014/07/16 23:33
- 名前: さくら (ID: H0Hrr1vz)
激しい雨が降り注いでいる。
雨音以外何も聞こえない部屋のなかで、珠紀は大きな溜め息をついた。もう何度目かもわからないその溜め息は、虚しく空気に解けていく。
夕食も喉を通らず、手をつけずに膳を下げた。
食欲など湧くはずがない。
珠紀は自分の膝を抱えるようにしてうずくまった。
「私、最低だよね…」
約束したのに。
拓磨と誓った。風間と二度と会わない、と。
彼は危険だと、本能は言っていたのに。その誓いを違えたのは自分。
信頼していた彼を裏切った。
あの夜風間に会わなければ、きっと信司を助けられたに違いない。
そう思えば思うほど自分のことが許せなくなる。
「私…っ」
何のために色町に潜入したのか。結局信司を助けるどころか、彼は傷も癒えぬままどこかへ姿を消してしまった。
どうすれば良かったのか。何をすれば良かったのか。
後悔ばかり胸を占めて苦しくなる。
「ごめんね、拓磨…」
守ると、助けると言っていつも傍にいてくれた。その言葉通り危険なときはいつも守ってくれた。なのに。
「私は…拓磨が…大好きなんだよ…」
心からそう思う。けれど、今の拓磨にそんな言葉は響かない。
風間につけられた薄い痣を見つめて自分を恨む。どうして風間を拒めなかったのか。危険だと言われていた風間にどうして少しでも気を許してしまったのか。その油断が、拓磨を裏切ったようで、罪悪感が背中から這い上がってくるようだ。
「私、どうすれば良かったの…」
膝に頭を乗せてうずくまる。
しばらくそうしていたときだ。雨音に混じって小さな音が聞こえた。
ふと顔を上げて障子を見つめる。
部屋の前に誰かいる。
「誰…?」
呼びかけには答えない。
珠紀は立ち上がって障子の前に立つ。
拓磨かと思った。無言のまま部屋の前に立っているのか。
そう思って障子を開けようとしたときだ。
足下が青く光り、オサキ狐が現れふーっと部屋の前にいる人物に警戒を露にした。
「おーちゃん?どうしたの?」
威嚇しているオサキ狐を見つめていたときだ。
ふと目の前の障子が開いた。
「こんばんは。玉依姫。ご機嫌いかがかしら」
「拓磨ぁ!!そっち行ったぞっ!!」
「うっす!!!」
地面を蹴るとありったけの力を腕に込めて目の前に立つ羅刹の頭部に一発拳を見舞う。
羅刹の体勢が崩れた隙に原田が槍で胸を一突きした。
「どういうことだよ、何でまたこいつらが…っ」
真弘は苛立ちながら次々と現れる羅刹に暴風を見舞った。
騒ぎを聞きつけて外へ飛び出せば羅刹が徘徊している光景に愕然とした。
これは悪夢か。再来するあの夜の記憶が嫌でも思い出される。
「とりあえず、こいつらをどうにかしねぇと…!!」
原田は羅刹を絶命させると胸から槍を引き抜き、その勢いで背後に迫っていた羅刹を薙ぎ払った。
拓磨も応戦し、二人でその羅刹を始末する。
するとそこに斎藤と永倉が現れた。
「来るのがおせぇよ」
「別にビビってたわけじゃねぇからな」
「真弘、俺も手助けしよう。羅刹の隙をついてくれ」
「あぁ…」
永倉と原田は互いの背中を預けて、羅刹を倒していく。斎藤は真弘の力を借りて無駄な動きなく片を付けていった。
「結構な数が逃げ出したみたいだな」
「あぁ。そうみたいだぜ」
ふっと息を吐いて辺りを探る。
未だ降り注ぐ雨は冷たく、地面を打ち付けている。
神経を研ぎすませば北の方角が騒がしいようだ。
「まだいるな…ここの片付けはあとにしてあっちに向かうか」
辺りに羅刹がいないことを確認して永倉が率先して北へ向かう。
その後を原田、斎藤が追いかけようとしたときだ。
「きゃああああああっ」
甲高い悲鳴が耳を劈いた。
弾かれたように拓磨は踵を返しそのまま走る。
「今の声…!!」
「珠紀だっ!!!」
「新八、斎藤、お前等は向こうの羅刹を頼む!!」
「おうっ」
拓磨を追って真弘も駆け出した。原田は二人と分かれると守護者の二人を追った。
ふっと目が覚める。
激しい豪雨のせいでうるさくて眠れない。先ほどから浅い眠りを繰り返していた風間は上体を起こした。
喉の渇きを覚えた風間はふと横の部屋に視線を送る。
「おい、天霧…っち…」
隣の部屋は天霧の部屋で、声をかけたがすぐに舌打ちをした。
天霧は昨日里に戻ると言ってこの宿屋にはいない。そのことを思い出して風間は嘆息した。
水を飲みに立ち上がる。
枕元に置いた刀を一瞥してふとそれを手に取る。
異様な空気を放つその刀は依然鞘から抜ける気配はない。柄を持ち抜刀しようとするものの、まるで刀が拒むかのようにびくともしないのだ。
刀を枕元に戻すと、廚に向かった。
鬼斬丸———
ある村から奪った刀だが、鞘から抜けない刀の上、古刀だ。持っていて価値はないと思っていたが、遼がその刀の価値を知っていた。刀が鞘から抜けない理由も知っているようだったので、それを解消させようとしたが、一向にその気配もない。
封具を壊せばいいと言っていたがその封具も破壊できていないようだ。
時間がかかるものなのだろうが、いかんせん性格上気長ではない。
「手間取らせているのは何だ…」
風間は廚に着くと目を瞬いた。
「何だ、お前か」
「お前とは何だ」
廚に立っていた遼は風間を見止めると眉を潜めた。
「お前も水を飲みに来たのか」
「まぁ、そんなところだ」
風間は水溜の水を酌ですくうとそのまま口に運んだ。
激しい雨音だけが世界を支配している。
遼は廚を後にしようとした。だが、風間はその背中を呼び止める。
「封具の破壊とやらはどうなっている」
「…まだできねぇな」
それだけを言い残して去ろうとする遼を今度は胸ぐらを掴んで止めた。
「封印の破壊を試みてもう何ヶ月経ったと思っている?仕事ができん犬は嫌いだ。俺は気長な性分ではない」
鬼のような剣幕で風間は遼に問いただす。だが、遼はそんな彼に怯むこともなく平然と言いのけた。
「時間がかかると言ったはずだぜ。あんたはそれを承知したはずだ。悪いが俺は今できることを精一杯やってんだ」
「ふん…こそこそと不知火と何を企んでいるのかは知らんが、堪え兼ねて俺がお前の首を刎ねる前に封具を破壊した方が身のためだぞ」
「やってみろよ…そう簡単に首なんざ刎ねさせねぇよ」
二人の視線がぶつかり火花を散らす。緊迫した空気が流れ、二人は目を逸らさない。
「…駄犬ごときが俺に口答えをするか…」
「あんたの犬に成り下がったつもりはないがな」
風間は掴んでいた胸ぐらを押し倒すと遼の首に手をかけた。
「己が犬であることをそろそろ理解したらどうだ…?誰のおかげで生きていると思っている?お前が弱っていたところを俺が拾わなければお前は死んでいた。感謝こそすれ、恩を仇で返される覚えはないのだがな」
「あいにく俺はあんたを主人と思ってない。拾ってくれたことには感謝している。だから鬼斬丸の封印を解いてやろうとしてんだろうが」
「ほう…ではいつまで待たせる気だ。お前はあと何年時間をかけてその封具とやらを破壊するのだ。本当はできんのだろう。できん理由がある。違うか」
「…だから、俺はお前を主人だと思ってない。悪いがそこまで話す義理はないはじだぜ」
風間は遼にかけていた手に力を込めた。
「ぅ…っ!!!」
「口答えの多い犬だ…死ぬ前に詫びるというのなら許してやろう」
「ふん…誰が…詫びるって…?」
「どうやら死にたいようだな…」
さらに力を込める。遼の首の骨が歪な音を立てた。
遼は腕を伸ばして風間肩を掴む。そして足で風間の腹部を蹴り上げた。
だが、彼は一切怯む様子は無く、びくともしない。
遼は酸素が薄くなっていく頭で一つの道を選んだ。
ぐっと力を込めて守護者の力を使おうとしたそのとき。
「おいおい!!何やってんだよ、二人とも!!」
その場に現れたのは不知火で二人を見ると慌てて間に入った。
「騒がしいと思って来てみれば…風間、お前何しようとしてんだよっ」
「ふん…犬の躾をしていたまでだ」
「犬ってお前な…遼。大丈夫か?」
「あぁ…けほっけほっ!!」
「あー、どうしてお前は匡がいない間に面倒事起こすんだよ。収集は誰がやるんだ」
「知らん。興が覚めた…」
風間は耳障りだと言わんばかりの表情でその場を後にした。
「お前もあんまりあいつを刺激するようなこと言うなよ。あいつああ見えて短気だからな」
「ふん…」
遼は不服そうに鼻を鳴らすとゆっくりと立ち上がった。
「風間も馬鹿じゃないみたいだぜ。俺たちがこそこそしてるのを何となく勘付いてやがる」
「やっぱりな…そういつまでもあいつを騙せるわけねぇか…」
「だが、切り札がこちらにあることもあいつはわかっている。下手に手を出して刀が解放されなければ困るとも思っているはずだ…」
「けどよ、その切り札がいつまで使えると思う?もう長くは保たねぇだろう」
「そのときはそのときだ」
遼はあっけらかんと言いのけると廚を後にした。幸先が不安な不知火は人知れず大きな溜め息をついた。
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