二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.210 )
- 日時: 2014/04/30 20:10
- 名前: さくら (ID: glYNRe/q)
「…それは先輩でも教えられません…千鶴ちゃんのために、どうかそれだけは聞かないで下さい…彼女の幸せにはならない…」
「千鶴ちゃんの…幸せ…?信司君は千鶴ちゃんを知ってるのね?どうしてそんなこと言うの?あの夜一体何が…」
「先輩」
信司は動けない珠紀に静かに近寄り、その距離を縮めた。
目を細めなくても信司の表情がわかるくらいに近寄ると信司は珠紀の頬に手を添えた。
「詳しく話せない僕を許して下さい…僕は守護者失格です…貴女を守ることより他を優先している自分がいる…どうか、心配しないで…僕は大丈夫です…」
「嘘だ…そんな顔してる人に言われても、納得できないよ」
珠紀は信司の手を取って首を横に振った。
悲しみを押さえて無理に笑っているようなその表情にこちらまで悲しくなる。
「お願い…どこで何をしてもいいから、せめて、その傷が治るまでは…ここにいて…」
珠紀の願いを信司はどう受け止めたのか。
笑みを消して苦しげに顔を歪めた後、またすぐに弱々しい笑みを浮かべた。
「ありがとうございます…先輩…でも、行かなくちゃ」
信司はそう言うと珠紀の手をやんわりと振りほどいた。
「待って、行かないで…っ」
背を向けて歩き出す信司に手を伸ばす。だが、その手は虚しく空を掴むだけだった。
追いかけなくちゃ。そう思うのに体は動かない。
「どうして、皆いなくなるの…真弘先輩も…信司君も…皆…」
どんどんと皆の心が離れて行く。遠いところへ行こうとしている彼らを黙って見ていることなどできない。これまでずっと一緒だった。
だのに。どうして時代を超えてこちらに飛ばされて来て皆の心は違うところにある。
「…守護者として、僕はその役目を全うできなかった…そんな僕を許して下さい…でも、先輩。僕はいつも先輩の心の傍にいます。必ず、またここに戻ってきます」
庭先に佇む信司は肩越しに振り返り、そう断言した。
「だから、心配しないで下さい…また会いましょう、先輩」
「待って!!信司君、待って!!」
珠紀の声を無視し、信司は軒先へとその身を踊らせる。
「まだ先輩が僕を守護者だと思ってくれているなら…注意して下さい…鬼斬丸はこの京にあります…旅に出て僕はそれをどうにかしようとも思っています」
「どうして、信司君は鬼斬丸がどこにあるのか知ってるの!?」
「はい…鬼斬丸は今—————」
再び強い風が吹き、信司の言葉がさらわれる。
上手く聞き取れなくて、珠紀はもう一度彼に問おうとした。
「それじゃ、先輩…また会いましょう」
信司はそう言うと宵闇へと姿を消した。
月光は静かにまた庭を照らし出し、静かな夜が戻ってくる。
残された珠紀はいつまでも信司が消えたあとを見つめていた。
「信司がいなくなった!?」
信司失踪の知らせは、その次の朝大蛇が屯所を訪れたときに届いた。
朝食を終えた隊士達は各々の仕事をに就き、今は大蛇と真弘と祐一だけだった。
拓磨と珠紀は巡察に出ており、屯所を不在にしている。
「どうして…あの傷じゃまだ動けないはずだろう!?」
「そのはずです。重篤である彼がどこかへ行けるはずもない…」
「誰かにさらわれたのか…?」
祐一の問いに大蛇は首を横に振った。
「その可能性はありませんでした。誰かが侵入した形跡も見られませんでしたし…何より…」
途中で言葉を切った大蛇に、二人は黙ってその先を促す。
「彼の枕元に置いてあった少量の薬を持ち出して行ったようです…さらわれたなら、目的はどうあれこんな配慮はしないでしょう」
「…じゃぁあいつが自分からいなくなったってことか…?」
真弘の呟きに大蛇と祐一は黙り込んでしまった。
その可能性が高いということだ。信司の本懐は皆目検討もつかないが、自分から深手を負った体を起こし、どこかへ消えた。
「…負傷した体を引きずり起こしてでも何か目的があったということか…」
「わかりません…彼は目が覚めたときも話せる状態ではなかったので…無事でいてくれればいいのですが…」
その場の空気が重さを増す。
色町の一件の鍵を握っていた唯一の人物が消えてしまった。これで色町の一件はまたしばらく闇の中に沈むこととなる。
そして信司の目的さえわからず、守護五家は揃わない。それは懸念材料になりつつあった。
鬼斬丸がこの京にあるかもしれない。そんな状況で、守護五家が不揃いとなるとこれからに不安が生じる。
「犬戒君の捜索は私も行います。彼に何かあってはいけません」
「俺たちもできるだけ捜索を続ける。あの体で動き回ればまた傷が開くかもれない」
「お願いします。それでは、私はこれで…」
大蛇は立ち上がると部屋を後にしようとした。
「大蛇さん」
だが、その背を呼び止めたのは真弘だった。
大蛇は振り返り、正座のままこちらを見上げてくる青年を見つめる。
「何か?」
「これからのこと、よろしくお願いします」
珍しく真剣な表情で頭を下げた真弘に、大蛇は目を瞬いた。
突然の言葉と行動の意味を計り兼ねて大蛇は首を傾げる。
「一体何の話ですか?急にどうしたんです」
「……」
問いかけても真弘は頭を下げたままで言葉を発しない。
彼の行動は極端だ。それは拓磨も同じだが、拓磨は素直さが混じっていてその行動の意味がよくわかる。
だが、心のなかで多くの事を考えている真弘のことは、そう簡単に理解できないときがある。
昔からそうだった。何かを考え答えを導き、行動する。それは全て一人で。
年長者としてその何でも一人で抱え込む癖を直してやりたいと思っていたが、簡単には直らないらしい。
彼がこうして意味深な言葉を残すときは決まって一人で行動するときだ。
それだけは長い付き合いのなか、わかっている。
「…何をするつもりなんですか…」
「…今は言えない…けど、このままじゃいけないから…だから…」
「君独りで動くということですか…周りに危険があるかもしれないらと…その心意気は結構ですが、その周りの人間が心配することを考えていないのですか、君は」
「…だから、大蛇さんにそれをお願いしたくて…」
「ずいぶん勝手ですね」
大蛇と真弘のやりとりを祐一は黙って見守る。
「…けど、このままじゃ、俺が動かなきゃ何も始まらない!俺がやるしかないんだ…!!」
顔を上げて叫ぶ真弘に、大蛇は表情を変えずに言葉を返す。
「君一人で動いて好転する事態なんですか?今は待つときではないのですか?この時代の玉依姫も言っていたでしょう。今はここに留まるべきだ、と…」
「それは、わかってる…!!けどいつまで待てばいい!?もう半年近くここにいるのに俺たちはまだ何もしてない…!鬼斬丸の封印も、封具の守護も、玉依姫にすら会えてない!このまま俺たちはここで何年も過ごすのか!?」
濁流のように高ぶる感情が混ざった叫びに、大蛇は口を閉じた。
黙って真弘を見下ろす。
重い沈黙が流れた。誰も口を開こうとしない。
「…わかりました…あなたのやりたいようにしなさい…」
大蛇は一瞬何かを諦めたような、悲しい表情でそう告げ、それはすぐに消えた。
退室する大蛇を追いかけるように祐一が後に続く。
「…彼を頼みます」
大蛇の短い言葉に、その全ての意味を悟った祐一は大きく頷いた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.211 )
- 日時: 2014/05/05 16:19
- 名前: 瑠々 ◆sZgkRcXqJk (ID: fIG41VUw)
はじめまして!
実は結構前から読ませて頂いていたのですがコメント残すのをいつも忘れてしまっていましt(((
ごめんなさい(´Д`;;)
薄桜鬼はゲームは持っていなくて、アニメと小説だけ読んでいるので龍之介が登場したときはびっくりしましたが、いいですね!龍之介(`・ω・´)
緋色の欠片は小説の一期を一回読んだだけでうろ覚えなので、もう一回読みたいなーと思っております(`・ω・´)
さくらさんの書く薫君が好きです←
私もシリアス好きなので島原の話は結構好きだったりw
実は私も薄桜鬼の二次書いているので、暇で暇でしょうがないときに読んでいただけると泣いて喜びまs((((
更新頑張ってください!
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.212 )
- 日時: 2014/05/09 22:03
- 名前: さくら (ID: NdcMw1Hu)
瑠瑠さん
初めまして^^
コメントありがとうございます
龍之介は私も書くつもりはなかったので無理矢理こじつけたみたいになっていて、おかしな感じですが、喜んでもらえて嬉しいです^^
薫君を好きだって言って貰えるのは嬉しいです!!
原作よりもねちっこく、残酷にをモットーに書いていました←
薫君はこれからも出てくる予定です
ここで終わりじゃありませんよー^^
そうなんですか!!それは気になりますっ!!是非拝見させて貰います!!
ありがとうございます
瑠瑠さんも頑張って下さいね
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.213 )
- 日時: 2014/05/09 22:29
- 名前: さくら (ID: NdcMw1Hu)
「…はぁ…」
大きな溜め息がごろりと口から溢れる。もう何度溜め息を零したか、覚えていない。
もちろんその溜め息は前を歩く幹部達の耳にも届いていた。
「ちょっと、珠紀ちゃんどうしちゃったの」
「さぁ…」
寒さ厳しい京都にも春はやってくる。
柔らかな日差しが冷たい空気を溶かし、優しい風に乗って微かに草木の息吹を感じるこの頃。
そんなうららかな日に巡察をしていれば欠伸のひとつも漏れそうなほどが、珠紀の口から溢れるのは溜め息ばかりだった。
最後尾を一人とぼとぼと歩き、晴れない顔をしている。
「おい、拓磨」
「はい?」
隊を率いていた原田が先頭を離れ、聞き込みをしていた拓磨の首根っこを掴んで引き寄せた。そしてそのまま列の前へと連行される。
「お前、珠紀に何かしたのか?」
「はぁ?してませんよ。それどころか俺は避けられてるって前に言ったじゃないっすか」
「だよな。原因はお前じゃないのか…」
「じゃぁ何であんな浮かない顔してるのかな」
共に巡察をしてた沖田も二人の間に入って考える。
昼から始めた巡察は基本的穏やかだ。決して事件が起こらないわけではないが、夜に比べるとその頻度は低い。
商店や大通りに目をやるだけで小者の悪人であれば蜘蛛の子を散らすように退散して行く。
そして今日も平穏な京を巡察しているのだが、街の安全よりも今の三人にとっては珠紀の晴れない表情が気になっていた。
「拓磨が気づいてないだけで何かしたんじゃないの」
「え、俺のせいですか!?」
「だな。俺たちが聞くよりお前が聞いてやる方がいいだろ。おら、行ってこい!!」
ばしりと背中に平手を食らってそのまま後列へと押しやられた。
痛みを訴える背をさすりながら拓磨は渋々珠紀に近寄る。
屯所を出てから珠紀が気になっていた。いつもの元気がないというか、最近避けられていることを抜きにしてもどこか虚ろな彼女が心配だったのだ。
「珠紀」
「え…?」
声をかけると顔を上げた。その表情にはいつもの拒絶の反応はない。
避けられていないことに安堵しつつ、拓磨は珠紀の横に並んで歩いた。
「元気ないみたいだけど…何かあったのか?」
「え…そうかな…」
珠紀が困ったように笑う。その笑みが作り笑いだということも拓磨はわかりきっていた。
彼女が無理に笑うときは決まって何か問題を抱えているときだ。
二人を前方から見守っていた原田と沖田は思案する。
「何か、拓磨絡みで悩んでるって感じじゃなさそうだね」
「だな。原因は他にあるのか…」
隊長二人は後方の若い二人を見つめる。
「何かあったんだろ?お前、元気ないみたいだし…さっきの山南さんのこととか気にすんなよ」
「うん、何でもないよ…大丈夫」
珠紀は拓磨の目を見ることなく首を横に振った。そう訂正する彼女の顔こそ何も無いと言い切れる表情ではない。
拓磨は歯痒くなって珠紀の腕を掴んだ。
「何でもかんでも一人で抱えるなって人に言うくせに、お前が一人で悩んでどうするんだよっ!そんなに俺は頼りないのか!?」
「うわ」
「おいおい…」
声を上げる拓磨に他の平隊士が何事かと視線を向ける。
二人の成り行きを見守っていた沖田と原田は嘆息した。
「俺を避けるのはいいけど、そうやって無理してるのを見るのはこっちが辛いだよ!!」
「あー総司、俺の隊任せていいか?先行っててくれ」
「りょーかーい」
沖田は苦笑すると原田の隊を率いて先に歩いて行く。原田は平隊士とは反対に後方の二人に駆け寄った。
「おいおい、お前ら揉めるなよ。こんなとこで…」
「すみません…」
白昼堂々新撰組の隊士同士が揉め合っているところを人目に晒しては、新撰組の風評に関わってくる。
原田は拓磨を落ち着かせて珠紀を見やった。
「お前らしくないな、珠紀。何かあったのは俺だってわかるんだ。俺はともかくこいつに黙りはないだろう」
「…すみません…」
尚も暗い表情で頭を下げる珠紀に原田と拓磨は互いに小首を傾げた。
何かあったのだろうがそれを話したがらないとなると無理に聞き出すのはかえって逆効果かもしれない。
原田は拓磨の肩を叩いて提案した。
「拓磨。珠紀と二人でその辺歩いて来い。散歩でもすれば珠紀の憂さだって晴れるだろ。今日はいい天気だからなー」
そしてそのまま原田は隊を追いかけるために踵を返して歩いて行こうとする。
「え、え、原田さん!?」
「後で迎えにくるから、ここでまた集合だ」
そう言って手を上げて歩いて行った。
最後まで彼の背中を見送っていた拓磨は気まずさに息を飲む。
「あれ、二人はどうしたの?」
隊に合流した原田に沖田は首を傾げた。
「あのまま巡察に連れ回すのもあれだからな。置いて来た。後で迎えに行く」
「何だ、つまんないなー」
「お互いのことはあいつらの方がよくわかってる。俺たちが介入しなくても何とかなるだろ」
「とか言って、心配なんでしょ?」
「それはお前もだろ」
二人は困ったように笑みを浮かべた。
色町以来、否、その前。羅刹の一件で珠紀たちと新撰組での間では妙な空気が流れている。完全に払拭していたと思っていたが、一度流れた悪い空気はなかなか消えない。消えたと思っても心の奥底には根を張り、些細なことでその根は広がり波紋を呼ぶ。平隊士のなかでも僅かだが彼女達を悪く言う者もいるという。
危うい均衡を保ちつつ、同じ屋根の下生活を共にしている。何とも奇妙な関係だった。
色町の一件も新撰組の意見は二つに分かれていた。
無事に不逞浪士を捕縛したと素直に喜ぶ者と、千鶴が不可解な事件に巻き込まれて不満を唱える者。
珠紀達も全力を尽くしていたが、結果は最悪だった。
仲間が血の海に倒れていた。誰かが悪いわけではない。その場に居た誰のせいでもない。
だが、その現場に倒れていた千鶴の記憶がなかった。そのこともあって余計に不信感が抱かれた。
彼らは自作自演ではないのか。仲間を探していると言って色町に潜入していたが、彼らにはもっと別の目的があったのではないのか。
「全く…人間ってのは疑えば最後、疑心暗鬼になる」
「全部が悪く見えるってやつでしょ?おかしな話だよね」
むろん二人は彼女達を疑ってなどいない。あの場に居合わせたとき、彼女たちの蒼白しきった顔。あれは仲間を想う顔だった。
そんな彼らが別の目的があったなどと考えられない。半年の付き合いから二人はわかっていた。
だが、あの現場に居合わせなかった者からすれば意見は違ってくる。
「山南さんも…どうして急にあんなこと言い出したのか…」
「あぁ全くだ…」
巡察に出発する前。昼食を広間で取っていた幹部達は珍しく現れた山南に驚いた。
いつもはともに食事をとることはない。生活習慣が違う彼と顔を合わせることも稀だ。そんな彼が昼食をとりに広間にやってきた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.214 )
- 日時: 2014/05/11 14:08
- 名前: さくら (ID: NdcMw1Hu)
不穏な空気が否応でも漂う。
さらに生憎と彼を諌める役を買っていた土方が朝から出かけている。
疑えば最後、人の心は曇る。
山南が羅刹の一件に関わっているのか否か、はっきりしないままこれまでその事実はうやむやにされたままだ。
幹部と珠紀達に静かな緊張が走る。
「久しぶりにこの時間に起きただけですよ。そう構えないで下さい」
朗らかに微笑んで山南は言うが、こちらは気が気でない。
真弘などは今にも箸を片手で折らんばかりの勢いで、怒りをぐっと堪えている。
「そう言えば…雪村君」
「はいっ」
山南の視線に射抜かれた千鶴は手にしていた湯のみを零しそうになる。
「色町の騒動のとき、一部記憶を失くしたそうですね」
「あ、はい…」
その場の空気が一気に張りつめる。
山南の次の言葉に視線が集まった。
「原因はわかったのですか?松本先生に診てらったんでしょう?」
「はい…でも原因はよくわからない、と…気楽に構えていればふとしたきっかけで思い出すだろうから心配いらないと先生は仰ってました…」
「本当ですか?」
「え?」
山南の語調が固くなったことにその場の全員が気づく。
「本当に記憶がいつか戻ると思っているんですか?君だって気づいているんでしょう?原因は他にあると…」
「山南さん。それはどういう意味だね?」
近藤が彼に牽制も込めて問うた。これ以上無意味な詮索は止せという意味もこもっている。
だが、そんなことで怯む山南ではなかった。
「聞けば雪村君は珠紀さんのお友達と倒れていたそうではありませんか。彼女は無傷でしたが、そのお友達は負傷していたそうですね。おかしいと思いませんか。彼女とそのお友達は面識が一切なかったのですよ」
「だったら何だ…」
怒りを抑えた声音は低くなり、相手を睨む真弘は今にも山南に掴み掛かりそうな気迫だった。それを横にいた祐一が制しているといったところだ。
山南はまた朗らかに微笑むと言葉を続けた。
「そのお友達は珠紀さん達同様、能力があるのでしょう。違いますか?」
山南の視線は珠紀にまっすぐに向けられた。珠紀は黙って頷く。
「おかしな点はもう一つ。そのお友達は男と聞きました。だのに何故芸者に成りすまし色町にいたのか…」
「それは信司が目覚めてからわかることだ」
拓磨の声が山南の言葉を遮る。一瞬その場は水を打ったように静まり返った。
「詮索したってわからない。信司が目覚めれば全てがわかる。ここで問答したところで答えはわからないんだ」
拓磨は山南を見据えて言い切った。だが、彼の顔から笑みが消えない。
「あぁ、君は朝巡察に行っていて知らないのですね。ちょうど良い。幹部も揃っているんです、話してはどうですか、鴉取君」
名指しされて真弘は鬼の形相で山南を睨んだ。
「何を言って…」
祐一が抗議しようとしたが、真弘がそれを止める。
「盗み聞きしてたってわけか…いい趣味してやがるな」
「たまたま聞こえただけですよ」
真弘が殺意を露にし、山南を睨み据える。
「ど、どういうことだ?何の話だよ」
一人状況を掴めていない拓磨は首を傾げた。この剣呑な空気は一体何を意味している。
「その、お友達が失踪したそうですよ。今朝松本先生のところにいる彼が訪ねて来ました。松本邸から姿を消したそうです」
「な…!?」
拓磨をはじめ、他の幹部も目を丸くした。
そんなはずはない。彼は大手術をしてまだ意識も戻らない状態だったはず。かなりの深手を負っていたことをあの場に居合わせた幹部は知っている。
それが。
「自分から消えたっていうのか…どうやって…」
呆然と呟く拓磨に珠紀は顔をうつむけた。
「鬼崎君。さっき言いましたね。お友達が目覚めたらわかることだと。ですが、そのお友達は行方をくらませた…真実とやらはどうなるんでしょうね?」
言質をとられた拓磨はぐっと言葉を詰まらせた。真弘や珠紀の反応を見て信司が失踪したことは事実らしい。
抗議の言葉も無い拓磨は山南を睨んだ。
「おかしいと思いませんか?どうして未来から来たのに一様に君たちはここに集うのか…」
「だからそれは玉依姫が…」
「信じられませんね」
祐一の言葉がぴしゃりと切り捨てられた。
「その未来から来たというのも…鬼斬丸とやらを探していることも…お友達を探していることも…全て自作自演ではないのですか?そうやって私たちを利用して何か別の目的を遂行しようとしているのではないのですか?」
「言わせておけば…っ!!」
「真弘…!!」
立ち上がった真弘は山南に掴み掛かろうとする。寸でのところを祐一と藤堂が止めに入った。
「俺たちが、いつ!!てめぇらを騙した!!あぁっ!?」
「真弘、落ち着け」
「そうだぜ!!暴れるなよっ」
広間の気流が変わる。ざわざわと空気が揺れて真弘を中心に渦巻く。
怒りを剥き出しにしている真弘を平然と見つめ、山南は口端を吊り上げる。
「では証拠を見せて下さい。鬼斬丸とやらは?玉依姫とは?お友達はどうして雪村君と倒れていたんでしょうね?」
「っ…!!!」
空気が、爆ぜた。
真弘から放たれる空気の弾丸は昼食の膳を撒き散らし、山南に向かう。だが全て命中することはなく彼の脇をかすめていった。
「落ち着けよ、真弘!!熱くなり過ぎだ!!」
「山南さん。言葉を選んでくれ。無闇な闘争は生むものじゃない」
近藤が山南を睨み、彼を諌める。
土方がいればこんなことにはならなかったろうに、と近藤は唇を噛む。
言葉で人を傷つける様を黙って見ているつもりはない。たとえ仲間であろうとそれは許されない。
「失礼しました…では率直に訊ねます。雪村君の記憶を奪ったのはそのお友達でしょう?」
山南の言葉でその場が静まり返った。
怒り狂っていた真弘が纏う空気も静寂を取り戻す。
「その方の能力がいかなるものか知り得ませんが、特殊な力を有していれば記憶を奪うことなど簡単なことなのでしょう」
山南の言葉が、空気を変える。
ざわり。
幹部の視線が一斉に珠紀たちに向けられる。
「本当なのか…?」
藤堂の問いが広間に木霊する。千鶴は目を丸くしてその答えを待った。
「…確信はありませんが…おそらく…彼が奪ったんだと、思います…」
「おい、珠紀…!」
「やはりそうでしたか。これでますます彼への疑念が積もりましたね。彼の目的は何でしょう?何かやましいことがなければ人の記憶など奪いませんよね」
山南の勝ち誇ったような声音が広間に木霊する。
珠紀は耳を塞いで首を横に振る。
「やはりあなた方はまだ何かを隠している…さぁ他に何を隠しているんですか、白状なさったらどうです?」
山南の言葉は止まらない。薄気味悪い笑みを浮かべたまま珠紀に詰め寄った。
「異形と呼ばれ、蔑まれたあなたたちの心は荒んでいる。そう簡単に他人に心許すはずがない…でなければ秘密などありはしない。他に何を隠しているんですか?そのお友達が失踪したのはまた何か隠しているからでしょう?白状した方が身のためですよ、さぁ、どんなことを、何を隠しているんですか、さぁさぁ教えて下さい—————!!」
「あーぁ」
山南の気迫に気圧されて固まっていた珠紀は視線を横に向けた。
「お腹いっぱいだし、もう戻ろっかな。巡察の準備してこよっと」
「俺も。巡察の準備しとかねぇと。珠紀、昼からも巡察あるんだからお前も支度しろよ。あ、お前の隊服渡そうと思って忘れてたんだ。ちょっと来い。今渡す」
「あ…」
立ち上がった総司は襖を開け、原田は珠紀の腕を引いて広間から去ろうとする。
「ちょっと、拓磨!君も巡察!!わかってる?」
「あ、うっす!!」
拓磨も立ち上がりその場を後にする。
「俺、昼飯の片付け当番だったわ」
「あ、俺も。そのあと平隊士に稽古つけねぇと」
「では俺も膳を運ぼう」
「私も」
「助かるぜ、近藤さん、千鶴。おい、真弘、お前も手伝えって!」
藤堂の急かされるように膳運びを任される。残った祐一と斎藤も静かに立ち上がり真弘が散らかした膳を片付けてから廚へと膳をさげた。
広間に取り残された山南はただひとり、黙って座っていた。
「あんま気にするなよ、珠紀。拓磨。山南さんの物言いはちょっとキツいだけだ。深く考えるな」
「はい…」
広間からだいぶ離れた廊下で、原田と沖田は足を止めて二人に言って聞かせる。
「俺たちは信じてる、お前達のこと。人に見せたくない部分なんざ人間誰だって持ってんだ。それを全部さらけ出せたら誰も苦労しねぇよ」
「そうそう。隠し事だって僕たちも一杯してるし。例えば、僕がこれまで何人人を殺してきたとか…」
「総司、重い。話が重い」
「あれ?でも僕だって色々隠してることはあるんだよ?棚のなかの団子勝手に食べたとか…土方さんの恥ずかしい歌を実は書き留めてあるとか…」
「うわ、それはないな…」
二人のやりとりに珠紀は思わず吹いてしまった。つられて拓磨も笑い出す。
「そうそう、君たちはそうやって笑っていればいいんだよ」
「羅刹のことだって隠してたのはこっちだ…あの件はおあいこってことで俺たちは踏ん切りをつけてる…だからお前達が悩むことじゃねぇよ」
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