二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.150 )
- 日時: 2013/08/25 14:57
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
アゲハさん
読んでいただきありがとうございます^^
ようやく、ようやく拓磨が復帰しましたね
長かったです
さてはて
これから珠紀達と新撰組がどのような関係になるのか
ここからがポイントになったりします^^
また読んで下さいね
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.151 )
- 日時: 2013/08/25 14:58
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
一方珠紀は原田を探していた。廊下ですれ違った隊士に原田の居場所を尋ねて、今はそちらに向かう。原田は道場にいた。日中、巡察がない者はたいてい道場で汗を流していると聞いた。そして道場に着くと珠紀は驚いた。
広い道場にひしめくように隊士達が稽古をしている。掛け声や怒号、竹刀を打ち合う甲高い音。踏み込んだときの足音。全てが一つの音となって珠紀を圧倒する。何度きてもこの活気には驚いてしまう。
「……」
珠紀には一抹の不安があった。もしここに残ることを原田に伝えたとき、原田が是と言わなかったら。もしも拒絶されたら。
あの夜から幹部達の顔を見ていない。それが余計に珠紀を不安にさせた。
時間が空けば空くほど、彼らとの関係が瓦解していくようで怖かった。
だから原田と顔を合わせることが少し怖い。彼らは、彼はここに残ることを許してくれるだろうか。
「……っ」
珠紀は気を取り直して原田を探した。人がとにかく多い。珠紀は稽古の邪魔をしてはいけないと道場の隅を恐る恐る歩く。激しく打ち合う隊士達と何度かぶつかりそうになりながら、やっと原田を見つけた。道場の一番奥で試合の審判をしている。だがそこはもっと激しい稽古の最中でとても近づけない。近づけば事故になる。加えて騒然としている道場で声を張り上げてもきっと届かない。
どうしたものかと右往左往していると、珠紀の視線に気付いた一人の隊士が原田に声をかける。隊士の言葉を聞いて原田が顔を上げた。すぐに珠紀を見止めると、審判を近くに居た隊士に任せて原田は珠紀の元まで駆け寄ってくる。
あれだけの激しい稽古を繰り広げている隊士の合間をすり抜けて来る原田に珠紀は驚いた。
「珠紀!体はもういいのか!」
「はい!ご心配おかけしましたっ」
喧騒に負けないようにお互い声を張り上げる。だが場所が悪いと判断した原田は珠紀の手をとると道場を出た。
熱気が篭っていた道場とは違い、一歩廊下に出ると冷たい空気に体が震える。
「本当にもう大丈夫なのか?」
道場から離れて中庭に下りると原田は重ねて問うた。
「はい。この通り傷も塞がりましたし…」
「…」
珠紀は腕を上げて少しだけ袂を捲った。それを見た原田は顔を顰める。
内側の腕を手首から二の腕まで伸びる赤い傷口が走っていた。傷も塞がり、瘡蓋もとれたとはいえ、刀で斬られたのだ。早々傷が消えることはない。
「…すまねぇ」
「え?」
謝られた意味がわからず、珠紀は慌てて腕を直した。
「俺達が…お前達を傷付けたんだ…羅刹のことをちゃんと話していたら…」
「そんな、原田さんは悪くありません!悪いのは多分典薬寮で…」
「それでも、俺達がもっと早くに気付いていれば…お前が怪我することもなかった」
「原田さん…」
沈痛な面持ちで原田は珠紀を見つめる。ことの起こりに原田が責任を感じることはない。珠紀は何度も首を横に振った。
「原田さんのせいじゃありません。私はもう大丈夫ですから…あの、それにこれからまた新撰組に厄介になります。また迷惑かけるかも知れませんけど」
珠紀は努めて明るく笑った。ここまで心配してくれているとは思わなかった。真弘や祐一の話からは険悪な空気が流れていると聞かされていたため、正直原田の反応には驚いた。きっと正体を知って邪険にされるのではないかと心配していたくらいだ。
「そうか…良かった。お前達が戻ってきてくれて…」
その笑みと言葉は心から素直にでたものなのだろう。珠紀は原田の優しさに胸が熱くなった。
「…あの、こんな私達ですけど…そばに置いていただけますか?」
珠紀はずっと抱えていた疑問を口にした。どうしてもこれだけは確かめておきたい。化け物と知った彼らはさぞ驚いただろう。そうして慄然したはずだ。人ではないのだから。
それを知って彼らは、新撰組はどう思ったのか。
「…当たり前ぇだろうが…何言ってやがんだ。お前達はもう新撰組の一員だろう?お前達の居場所はここだ」
「…!」
珠紀の頬に温かいものが流れた。手で触れるとそれが涙だとわかった。
怖かった。化け物だと、人ではないと否定されて拒絶されるのが。それをずっと恐れていた。いつか新撰組の人々は自分達を畏怖し、遠のいていくのではないか。それがずっと怖かった。
拒絶されることが怖い。素性を明かすときがすごく怖かった。傷つくのがつらいから正体を明かさなかったことが本音だ。
「何泣いてやがる。泣くほどのことじゃねぇだろう」
原田は苦笑しながら珠紀の涙を骨ばった指で拭う。それが余計に珠紀の堰を切らせた。どこから出てくるのかと思うほど涙が止まらない。
「うれ、しくて…ずっと…こ、怖かったんです…私達のことを知ったら、きっと…きっと…嫌って、私達を」
「もういいよ。わかったから。お前達だってつらかったんだな。それなのに俺は…一瞬でもお前達に恐怖を感じた…情けねぇ…俺の方こそ悪かった…教えてくれてありがとな」
ぽんぽんと珠紀の頭を撫でて原田は申し訳なさそうに言った。珠紀は何度も頷く。声が出なかった。だから何度も頷いて珠紀は泣き咽ぶ。
ありがとう、と言えない代わりに何度も何度も頷いた。
真弘は広間を出て中庭に出た。曇り空をぼんやり眺めていると声がしてそちらに視線を向ける。
原田と珠紀が中庭に下りて話し合っていた。一目見てわかる。きっと原田という男は心優しい性分なのだろう。珠紀が涙を流しながら何度も頷いている姿が見えた。
真弘はそれを二人から離れた廊下から見つめる。
「……」
真弘は踵を返して藤堂を探しにとりあえず彼の部屋に向かうことにした。巡察や稽古をしていなければ部屋にいるかもしれない。真弘は思い足取りで廊下を歩く。
渡り廊下を通り、右に折れて、まっすぐ歩いているとある部屋の前を通った。
部屋には数人在室しているらしく、話し声が聞こえる。真弘は部屋の前を完全に通りすぎてから足を止めた。そして自然と聞き耳をたてていた。
「…何が言いたい、新八」
「だから、あいつらが屯所に戻ってきたって本当かよ!土方さんはそれを了承したのかって聞いてんだ」
「了承した。断る理由がないだろう」
「だからってあいつらをここに置いておくのか!?そんなことしたら、また…」
「まぁまぁ永倉君。トシの意見を聞いてみようじゃないか」
副長室には土方と近藤、そして永倉がいた。声を聞いてすぐにわかった。真弘は忘れない。自分達を軽蔑して罵った永倉の声は耳朶に染み付いている。
真弘はそのまま息を殺して話を盗み聞きした。
「俺はあいつらがまだ利用価値があると思っただけだ。あいつらの力は俺達を凌ぐ。そして奴らは化け物になっても人間性を保っている。羅刹と違ってな。だったら羅刹のように閉じ込める必要なんざねぇ。ここに残って働きたいって言ってんだ。断る理由なんざねぇだろ」
「けど、あいつらは羅刹を逃がしたかもしれねぇんだぞ!?信用できねぇじゃねぇか!」
「…確かに。お前の言いたいことはわかる。お前をはじめ、何人かはあいつらの復帰を快く思っていないだろう」
真弘はぐっと拳を握った。今すぐにでも部屋に押し入りたい衝動を必死に抑える。
「だが、羅刹を逃がしたのはあいつらじゃねぇと俺は思っている」
「…っ!?じゃぁ一体誰が…」
土方の言葉に永倉が息を呑む気配が伝わってくる。真弘も耳を疑った。
一番真弘達を疑っていた土方がそう言ったのだ。今までも嫌疑をかけては真弘を苛立たせてきたその人物が。
「…確信はねぇ。だが、あの件には山南さんが関わっているように思う」
「…山南君が…?」
近藤が信じられないというように呟く。真弘は唇を噛んだ。やはり、山南が原因なのか。
真弘が歯噛みしているとふっとあることに気がつく。部屋の会話がぴたりと止んだ。
「そこに誰かいるのか」
土方の鋭い声が部屋の外、真弘に投げかけられた。真弘はまずいと慌てて辺りを見渡す。ここは廊下のど真ん中で身を隠すようなところはない。脇には庭が広がっているがそこにも当然身を隠せるようなものはない。
慌てふためく真弘は腕を後ろから引っ張られた。突然のことで真弘はそのまま後退した。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.152 )
- 日時: 2013/08/25 15:00
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
「……誰もいねぇぜ。土方さん」
障子を開けて廊下を確認する永倉は小首を傾げる。そしてそのまま永倉は障子を閉じた。
「…よし。もう大丈夫か」
「んーっ!んんーっ」
「あ、悪い悪い」
真弘は突然軒下から伸びてきた腕に引っ張られた。そしてそのまま土方の部屋の軒下に引きずり込まれる。
真弘の口を塞いで難を逃れた藤堂は安堵の息をついて、真弘の口から手を離した。
「おま、いきなり何す」
「しっ。聞こえるって」
藤堂は再び真弘の口を塞ぐ。そして黙って頭上の気配を探る。土方達が動く気配がないことを確認して、藤堂は真弘から手を離した。
「お前、どうしてここに…」
真弘は声を潜めて隣に座る藤堂を見つめた。
「たまたま。向こうの廊下歩いてたらお前が見えたからさ。そしたら副長室で一人盗み聞きしてんだもんな。お前勇気あるよ」
言いながら藤堂は静かに軒下から這い出る。真弘もそれに続いてできるだけ音をたてないように出る。そしてそのまま二人は忍び足で副長室から離れた。
「それにしてもいつこっちに戻ってきたんだ?」
完全に副長室から離れたことを確認してから藤堂は真弘を見た。
「ついさっきだよ。お前にここに残るように伝えて来い、って土方さんに言われてさ」
「俺を探してたら土方さんの部屋の前を通ったってわけか。お前すげぇよ。そんなことしてバレたら土方さんの雷モンだぜ?」
藤堂は自分に置き換えて考えているのか肩を抱いて震え上がる素振りをする。だが真弘はそんなことよりひっかることがあった。
「さっき土方さんが言ってたんだけどよ」
「ん?」
曇った表情のまま、真弘は言葉を続ける。
「山南さんが怪しいって言ってた。あの夜、山南さんは記憶がないって言ってたけど、土方さんは疑ってたぞ」
「あー…うん…」
真弘の言葉に藤堂は曖昧な返事をする。山南のこととなると何故か幹部は言葉を濁す。それほど触れられない話題、人物なのか。
「山南さんって一体何だよ。羅刹になったんなら、いずれ俺達を襲った奴らみたいになるんじゃ…」
「山南さんは一応成功例って言われてる。無事に変若水に適応したって」
「適応、した?」
「そう。お前達が会った羅刹、あれ全部失敗作なんだ。変若水に適応しなくて、それで狂っていく…」
「おいおい、拓磨を襲っていた山南さんの顔もその狂った羅刹と同じ顔してたぜ。あれが正常に適応した、成功例の姿か!?」
真弘には信じられなかった。拓磨を襲う山南の目も、自我をなくした羅刹も同じに見えたのだ。
あれのどこが成功例だ。
「…そこが俺達にもわからない…変若水を飲んですぐに狂ったり、死んじまう奴らだっている。けど山南さんはもうだいぶ前に変若水を飲んだ。けど血に狂ったり、暴れたり…普通の症状が表れない…」
藤堂が困惑した様子で真弘を見つめ返す。
「けど、最近の山南さんは様子がおかしいんだ。勝手に夜に町へ行ったり…一人で実験をして、最近俺達に顔も見せないし…」
「だったら、疑うのは俺達じゃなくて山南さんを疑えば———」
「証拠がない。あの人が血に狂った姿をまだ誰も見てないし。だから危険だとわかって土方さんは泳がせてるんだよ。いつか尻尾をだすときを待って…」
「…つまり何か?俺達がここに残ることを許したのは俺達を餌にするためか?山南が俺達の、拓磨の血をまた狙わせて…山南に俺達を襲わせるためか?」
「…それは…」
藤堂は言葉に詰まった。それを見て真弘は確信した。おかしいと思っていた。あれだけ自分達を疑っていた人物があっさりと新撰組に残ることを許した。
それは山南の“餌”とするため。山南が狙う拓磨の血で彼を誘おうとしているのか。
『利用価値がある』とはそういう意味なのか。
「俺達は、何だ…山南の餌になるために戻ってきたわけじゃねぇぞ」
「…土方さんは山南さんの狙いがお前達だってわかったから、残ることを許したんじゃねぇかな…俺にはそう思えて…山南さんもそうだけど…土方さんも何を考えてるのかわからねぇんだ」
「ふざけんな!俺達にまた血を流せって言ってんのかよ!!襲われろって言ってんのと同じだぞ!!そんなことのためにここに残ったんじゃねぇっ!!」
どこまで。どこまで土方は自分達を信用していないのか。土方の策略どおりに自分達が動いていると考えるだけでも嫌気がさした。
「…俺も、それはおかしいと思う。ここはお前達にとっては危険だ。山南さんがいつまたあんな風に狂うかわからない。なのにここにお前達を残しておいて…土方さんは何を考えてんのか…」
「…お前は山南が狂った姿見たのか」
「いや…羅刹化した後だったから…なんとも…でも。お前と山南さんが戦った痕を見た。お前が暴れ回った痕の方が多かったけど…壁に刀傷があった…それに真っ二つに折れた山南さんの刀…明らかに山南さんが刀を抜いた証拠だ。お前達は刀を扱えないから…だから山南さんが狂ってたことがわかる…平常心だったらあの人は簡単に刀を抜かないはずだ」
「それは、土方さんは…」
「知らない。俺だけが見たから…けど、土方さんのことだからきっとわかってるはずだ。山南さんは少なからず羅刹に飲み込まれてるって…」
真弘は頭が混乱していた。つまり土方は自分達を山南に襲わせるためにここにいることを許したというのか。山南の狙いが自分達と確信したから。
だったら何故すぐに山南の口を割らないのだろう。その方が手っ取り早い気がする。
真弘の疑問に何となく察した藤堂は言葉を続けた。
「それはできない。山南さんは賢い人だから、シラを切るに決まってる。それに尋問したいところだけど、山南さんは死んだことになってるから。表立って騒げない。間違って隊士達に知られちゃまずいから…」
「…胸クソ悪ぃ…」
真弘は藤堂の脇を通り過ぎて再び土方の部屋に向かおうとする。それに気付いた藤堂は慌ててその腕を掴んだ。
「待てって!!何する気だよ!?」
「決まってんだろ!土方さんを問い詰めんだよっ!!どういう魂胆で俺達をここに残したのかってな!」
藤堂の制止を振り切ろうと真弘は腕を払う。だが、藤堂もさせまいと腕に力を込める。
「やめろって!!そんなことしてお前土方さんが『あぁ、そうだ』って言うと思ってんのかよ!!土方さんがそれを認めると思ってんのか!」
「…どういう意味だ」
必死に訴える藤堂を振り返る。藤堂は苦しげに呟いた。
「ここは新撰組だ…皆が必死に作り上げた組織だ。そのためなら土方さんは鬼にだってなる。何を犠牲にしてでも…そうやって今まで進んできた」
「またそれかよっ!!組織のため、実験のため、お上のため!そうじゃねぇだろ!!お前達はそう言いながら周りのせいにしてるんだっ!!」
その言葉を受けて藤堂は動けなくなった。急に腕を掴む手に力がなくなって真弘は怪訝そうに藤堂を見た。
「…そうだ…俺達はずっと昔から武士になることだけを考えて進んできた…何度も血を流しながら…大儀のため、お上のため………そうやってきたけど……」
「平助?」
「…最近はそうじゃねぇ気がするんだ…」
この顔。あの時と同じ。松本邸で苛立つ真弘を藤堂が引きとめたとき。
「……土方さんは本当に新撰組のために動いているのかなって思うんだ…」
不和、否。疑心を藤堂から感じる。その瞳には戸惑いの色が見えた。
「平助…お前前にもそんなこと…」
「…誰にも言わないでほしいんだけどさ。俺…なんかどんどん新撰組が違う方向に走っていく気がしてるんだよな…俺だけがそう感じてるだけなのかも知れないけど…」
「平助…」
つまり平助も土方を完全に信用していない。いや、信用できなくなっているのだ。
内部の人間から見ても土方の行動には疑問を感じざるを得ない。そのような不和を抱かせるまで土方の行動は不審なのだ。
「だから俺…お前達の気持ちがわかるし…そのできるだけ、そのお前達の力になりたいし…」
「…平助…」
「だから、その…なんつーか…」
「ありがとな、平助」
真弘は藤堂の腕を掴んで笑った。その笑顔の意味がわからないというように藤堂は目を
丸くする。
「心配してくれてんだろ」
「や、その…」
「お前のおかげでよーやく見えてきたよ」
「?」
落ち着きを取り戻した真弘は不敵な笑みを浮かべる。その笑みはぞっとするほど爽快なものだった。その笑みから目が離せなくなった藤堂は真弘の言葉の続きを待つ。
「…やってやるよ。餌にでもなんでも。俺は絶対にあいつの…土方さんの思い通りにはならねぇ。せっかくここに残ったんだ…一泡でも二泡でも噴かせてやる」
不思議と真弘の言葉に否と唱えることができなかった。その顔には力強さが感じられて何故か藤堂は頷いてしまっていた。
二人の間に異様な信頼関係が築かれた瞬間だった。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.153 )
- 日時: 2013/08/26 19:30
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
珠紀達が屯所に戻ったその日の夜。色町のある店に風間はいた。
夜にもかかわらず昼のように明るい色町の景色を高窓から眺め、何度目かの溜息をつく。
「…遅い」
肩越しに振り返って傍に控える側近、天霧に声をかける。
「天霧」
「は、約束の時間を少し過ぎましたが…到着したようです」
色町の一角の店を貸切り、風間は大勢で宴会を催せる程の広い部屋にいた。燭台全てに火を灯し、部屋は十分に明るい。
風間が腰掛ける出窓の脇には刀が壁に立てかけられている。それは古い刀でどこか禍々しい正気を放っていた。
天霧は出窓で腰掛ける主に頭を垂れ、すっと視線を入り口の襖に視線を向けた。
「お待たせして申し訳ありません」
天霧が視線を投じた襖が自動ドアのように自然と開いた。だが自然に襖が開くわけもなく、膝を折っている女が二人部屋の前にいた。
その二人を見止めて風間は目を細める。
「随分と遅い登場だな。俺を待たせるとはいい度胸だ」
「女には色々と準備が必要なんですよ」
先に部屋に入った女は凄むような視線を送る風間に怖じけることもなく、くすりと笑った。一方その後ろを膝行する女は凛としていて人形のように冷たい瞳をしている。だがその目に古刀が目に入ると一瞬だけその双眸が揺れた。
「ふん。男であるお前が支度など必要あるまい」
鼻で一蹴した風間に、女———薫はうっそりと微笑んだ。襖を閉める女に視線を投げた風間は眉を顰める。
視線を受けた女は風間の視界から逃れるように部屋を移動して座った。
「あまり熱い視線を送っても無駄ですよ。今をときめく角屋の芸者ですから。風間さんでは及ばぬほどの人気の芸者なんですよ。この子を指名してもなかなか座敷に顔を出せないほどだとか」
薫の紹介を受けた女は恥らうように視線を逸らす。
凛とした顔立ちで、澄んだ丸い瞳は濡れていて男を誘う力があるように思う。だがその気配に風間は眉を顰める。
「ふん…これが人気の芸者とは笑わせる。男ではないか」
「何と…!?」
天霧が声を上げて女を振り返る。きちんと結い上げられた黒髪に髪飾りが添えられ、薄化粧でも十分その顔に映えていた。どこからどう見ても女だと思っていた天霧は我知らず、素っ頓狂な声が漏れる。
「お気づきでしたか。さすが風間さん」
「女装した男が二人、何の用だ」
風間は興が失せたと言わんばかりに出窓の外へと視線を投じる。
「ふふっ…そうつれないこと仰らないで下さいな。今日はお互いの情報交換のためにここに集まったんですから…」
天霧は腰を上げて部屋を後にする。薫は微笑しながら後ろに座る女を振り返った。
「実はこの子。私が拾ったんですけどね。この子に色町で働いてもらっているんです。色町は情報で溢れていますから。そのために女装をしていると言っても過言ではありません」
薫の視線を受けて女は俯いた。凛とした顔立ちをしているのに暗い表情をしていて風間は客であったとしてもこの女を呼ぶ気などなれなかった。もっとも男と最初から気付いていたためそんなことは何があってもしないが。
「それで今日はこの子が集めてきてくれた情報をお話しようと思いまして…志之」
名前を呼ばれた女は顔を上げて風間を見つめる。そして小さな口から声がこぼれた。
「長州について…情報がいくつか。お話してもよろしいですか?」
風間は目だけを志之に向けて黙った。それを肯定と受け取った志之はそのまま言葉を続けた。
ごくたまにこうして薫と風間は顔を合わせる。そうして互いが持っている情報を交換する。それは本当に気まぐれでどちらからともなく連絡を取り合うといったものだ。
利害が一致したとか、仲間意識があるとか。そういう理由ではない。ただ単に利用できるものはする。お互いの考えが同じなのか、この乱世を生き抜くために情報は欠かせない。
今日はその極稀な機会と言える。
志之があらかた話し終えると襖が開き、天霧が湯飲みを人数分盆に乗せて戻ってきた。
志之と薫の前にそれを置いて、主は出窓に座っているためその足元、間違って立ち上がるときに足に当たって零さない位置に湯飲みを置く。
「…以上が今回の情報です」
「さて…では次は風間さんからお話いただけますか?」
「ふん…焦らずとも話をしてやる…だがその前に、戻ってきたようだ」
出窓から外の景色を楽しんでいた風間はうっそりと微笑んだ。その言葉を理解したのは天霧だけで、二人は小首を傾げた。
するとどたどたと階段を上がってくる足音が一つ。いや二つ、部屋の前で一度止まったかと思うと、勢い良く襖が開いた。
「遅かったな」
「おいおい、使い走りさせておいてそりゃねぇだろ。前の宿に行ったらお前達いねぇんだからよ」
「置手紙を残しておいただろう」
「無駄足踏んだって言ってんだよ」
現れたのは不知火と遼で、二人の顔には少し疲労の色が見えた。二人は部屋に入ると向かい合う薫たちとは横、それぞれが三角形を描くように腰かける。
そして何となく志之と目が合った遼は驚いた。だが志之の表情は変わらず、畳一点を見つめている。
「ご苦労だったな。それで?」
「どうもこうも。封具の護りが堅くてな。五つ揃えるのに苦労したんだぜ?」
風間は出窓から腰を上げると天霧のそばで胡坐を掻き、不知火の報告を聞く。
「それで?その封具はどうなった?遼の話では破壊すると言っていただろう」
「破壊はできなかった。玉依姫と守護者に阻まれた」
「では封印は解けなかったというのか」
風間の声に少しだけ苛立ちが篭っていた。無理もない。すぐに解放できると思っていた刀の封印が解けなかったのだ。
「だが、収獲はあった」
遼は片手に提げていた風呂敷を風間の前に出し、そっとその風呂敷を解いて見せた。
「これは…?」
風呂敷の中にあったのは指輪、鏡、首飾り、腕輪だった。どれも古風な装飾が施され、風間は怪訝そうに遼を見る。
「これが封具だ。持ち帰って破壊する方法を考えようと思ってな」
「こんなものが封具というのか」
風間は呟くともう一度封具に視線を移す。ただの装飾品にしか見えないが、これであの刀の封印を構成しているとはなかなか信じられない。
「もう少し待ってくれれば破壊する方法もわかるかもしれない」
「お前は破壊したことがないのか」
「ない。だから色々と方法を試してみようと思っている」
「ま、詳しい奴がこう言ってんだ。こいつに任せてみたらどうだ?」
不知火の言葉を受けて一瞬風間は考え込んだ。そして仕方がないというように軽く息を吐くと遼を見据えた。
「…わかった。お前に任せよう」
風間の言葉に深く頷いた遼は広げていた風呂敷を片付ける。そのときにちらりと志之の方へ視線をやった。やはり畳を睨むように俯いているが、その瞳だけが揺れていた。
遼はその風呂敷を自分の脇に置くと、風間に尋ねる。
「この二人は?」
「訳あって女装をしている可笑しな二人組みだ。こっちの———薫は鬼で、ときどき顔を合わせては情報交換をしている」
「女装…?」
風間の説明を聞いた遼は眉を顰める。その視線は薫ではなく志之に注がれた。
隣で座っていた不知火も驚いたように声を上げる。
「おいおい、そっちのお嬢ちゃんも男だってのか?」
薫が女装をしている理由は知っているが、後ろの志之も女装をしているとなると、何かやんごとなき事情があるのだろうか。
「風間」
「何だ」
遼ははっきりとした口調で風間を見据えた。
「ここまで働いたんだ。その見返りを今乞うてもいいか」
「言ってみろ」
褒美をくれ、と遼が言うのだ。確かに遠出をさせたのだ。それに見合う報酬を与えるのが筋だと風間も納得する。
「そこの女———野郎と話がしたい」
遼の視線の先には志之がいた。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.154 )
- 日時: 2013/08/28 16:08
- 名前: さくら (ID: 08WtmM2w)
「そこの女———野郎と話がしたい」
遼の言葉で一同の空気が固まった。ややあって風間が鼻で笑う。
「変わった趣味をしているな。こいつは男だとさっき言ったはずだが?」
「そういう意味じゃねぇ。ただ話がしたいだけだ」
芸者として働いている志之は人気を博すほど美しい。否、若さも相まって麗しい。男とわかってもつい手が出したくなる気持ちも理解できなくはなかった。
「ふん…薫」
「私は構いませんよ。志之がいいのであれば」
一同の視線が志之に集まる。志之は漸う小さな声で答えた。
「構いません…」
それを聞いた遼は風呂敷を手に立ち上がると、志之の手をとって部屋を後にした。
残された面々は呆然とその背中を見送る。
「まさかあいつにそういう趣味があったとはねぇ」
「不知火。無駄な詮索はしない方がいいですよ」
天霧の言葉に不知火は肩をすくめてみせた。風間は口端を吊り上げながら薫を見る。
「あの男…どこで拾った?」
「ここより少し離れた…西の方です」
「いつ頃だ」
「まだ三週間も経っていないと思いますが…」
「ふん…お前があの男を拾ったとき、変わった格好をしていなかったか」
風間の問いに思い当たる節があるのか、薫は口を閉ざした。風間は近くにあった湯飲みに手を伸ばし、それを口に含む。
「…遼も突然俺の目の前に現れた…いや、倒れていた、という方が正しいか。変わった服装でな…ここのことを何も知らない様子だった」
「志之もです」
「その、志之という名前は源氏名だろう。本当の名前は?」
「犬戒慎司…と言っていました。あの子もここのことをよくわかっていない様子で…とても混乱していました」
薫は記憶を手繰りながら話す。それを聞いていた風間は喉の奥でくつくつと笑った。
「その慎司…という男も未来から来たんだろう」
「では彼も…?」
風間と薫の視線が交差する。
「これは何と言う因果だろうな。未来から二人…おかしな血の持ち主が現れた…」
「おかしな血?」
天霧が小首を傾げて風間に問う。風間はうっそりと目を細めて遼達が消えたあとを見つめた。
「お前は感じなかったか?あの慎司という男の気配…遼とはまた違う…血に何かが混じっている…いや。慎司は少し気配が違ったか…」
風間の曖昧な言い回しに天霧は首を傾げる。そのような変わった気配は感じなかったが、風間は純粋な鬼の血をひくなかで、特に優れている。自分とは違う感覚があるのかもしれない。
不知火は黙って茶を啜っている。不知火も気付いていたのだろうか。
「ま、奴らの話が終わるまで我等は情報交換の続きとしよう…」
「どういうことですか!!」
風間達に会話が聞き取れないように下の階に下りた遼と慎司は部屋に入るなり叫んだ。
「あの風間という男が持っていた刀、あれ、鬼斬丸ですよね!?」
「うるせぇ。何だ。人形みてーな面してたのに一気に戻ったな」
部屋の襖をしっかりと閉めてから、遼は嘆息した。さきほどまで無表情に近かった慎司の顔に、いつもの愛くるしい顔色が戻る。
「あれは…!その…」
「その格好も。一瞬美鶴かと思ったぜ。お前本当に女みたいな顔してるな」
遼が慎司の顎に手を添えて上を向かせる。慎司は背があまり高くない。一般女性の平均身長ほどだ。遼は拓磨と並んでも見劣りしないため、長身に分類される。したがって遼を見上げるかたちで慎司は悔しそうにその手を振り払った。
「からかわないで下さい!!僕は好きでこんな格好をしているんじゃありません!!」
「へぇ?じゃぁどうしてそんな格好してんだ?」
遼は部屋に設置されている燭台に慣れた手つきで火を灯していく。そして部屋が明るくなると慎司を部屋の真ん中に座るように促した。
言われるがまま慎司は腰を下ろすと遼は部屋の隅に置かれていた火鉢を彼の近くに置いてやる。
すると何を思ってかそのまま部屋を出て行った。
「ちょ、話の途中ですよ!…もう」
いきなり部屋を出て行ったかと思うと突然戻ってきた。その手には火の通った炭があり、陶器に入れてさらに分厚い布に包まれていた。その炭を火鉢の中へと入れる。
「それは…」
「貸し切られているといってもここは料亭だ。表は店を開いている。そこから炭をもらってきた。この部屋はその上の行為を想定して設けられてるってことだ」
「…っ!!」
遼が顎でさし示す場所を見て、声を上げそうになった。二人が入った部屋は六畳ほどの部屋で隣の部屋とは襖で仕切っている。その襖が全開され、暗くて最初はよく見えなかったがその隣の部屋には二つの布団がきちんと並べられていた。
「へ、変なこと考えてませんよね!?」
「誰がお前とするか。いくら外見を着飾ってるからって剥いだときに萎えるだろ」
「っっっ!!!」
「もしかして想像したのか?」
「馬鹿なこと言わないで下さいっ!!」
肩を抱くようにして慎司は遼と距離をとる。遼はひとしきり笑った後すっとその笑みを消した。
「それで…話の続きだ。どうしてそんな格好してやがる。何があった?」
問われた慎司は居住まいを正しながら目の前の火鉢に視線を移す。
遼が気遣って暖をとれるようにしてくれたその気遣いはありがたいのだが、さっきからかわれたこともあって素直に有難うとは言えなかった。
しばらく口ごもっていてが、慎司は言葉を選びながら口火を切る。
「僕がここに…この時代に来たのは三週間程前で…京都の…町中で気を失っているところを薫君に拾われたんです…弱ってた僕を介抱してくれている間に彼の事情を聞いて…力になりたいって思って…」
「それでそんな格好してるのか?」
「情報を集めて欲しいって言われて…女装して色町で働けって言われたときは驚きましたけど…」
「色町で潜入して、ねぇ…どうやって?」
遼の視線が意味ありげに注がれて、慎司は不快になりながらも説明する。
「もちろん、芸者だったら酌の相手だけではありませんから。楽や歌とか…その、夜の相手を申し込まれたときは相手を眠らせたり、記憶を奪ってやり過ごしてます」
「えげつないな」
「し、仕方ないじゃないですか!男なんですし、そんなことできません…っ」
芸者として潜入して慎司は酷く後悔した。容易にこなせる任務ではないと知ったとき、慎司は愕然とした。雅楽はもちろん、芸者遊びの歌など知らない。もちろん色町ということは男の世話もしなければならないのだ。それを後々知った慎司は自分の感情を押し殺すようになった。平然と、無関心に、淡々と。でなければ潜入していることがバレてしまう。
そうしている内に人形のような顔になってしまった。感情を押し殺して仕事をするうちに自分の顔から表情が抜け落ちていく。
「やりたくねぇならやらなきゃいいだろ」
「それはできません!僕は…決めたんです…」
慎司は自分の手と手を握り合わせる。両手に力が篭っているのか指先が白くなっていった。
「薫君を…助けてあげるって…」
「助ける…?」
眉を顰める遼に慎司は向き直って口を開いた。
「貴方こそ、どうしてこっちに…」
「俺は…お前達が倉で掃除をする前に先に倉で探し物をしてたんだよ…そのときにある書物を拾って…途端に眩暈がして気が付いたらこっちに来てたんだ」
「僕と同じ…じゃぁやはり珠紀先輩達も同じように…」
「お前も…珠紀達もこっちに来ているのか」
慎司は大きく頷いた。だが途端に顔を曇らせて泣き出す寸前のような顔をした。
「数日前…僕が潜入している店に珠紀先輩と真弘先輩と祐一先輩が来て…僕、その時、珠紀先輩が客に襲われているのに…助けられなかった…力を使って助けられたのに…でもそんなことをしたら今までやってきたことが水の泡になっていしまう…僕は珠紀先輩にひどいことを…っ」
肩を震わせて慎司は苦しげに呟いた。それを見ていた遼は目を細めて嘆息する。
「…お前の事情は知ったこっちゃねぇが…珠紀達もこっちに来てるとはな…あの赤髪と大蛇は?」
「いえ、拓磨先輩と大蛇さんは見ていません…」
慎司は半泣きになりながら首を横に振る。記憶を手繰っても拓磨と大蛇の姿は見なかった。
それを聞いて遼は腕を組んで考え込む。守護者全員と玉依姫が集まると聞いていたがそうではないのだろうか。
「そういえば…あの、それ…封具ですよね?どうしてこんなところに…封印域から封具を取り出したら封印は解けてしまうのでは…!」
慎司が指差したのは遼が持っていた風呂敷だった。遼はほくそ笑むとその風呂敷を持ち上げると慎司の前に移動させる。
「これは偽物だぜ」
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