二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.84 )
- 日時: 2013/05/12 18:39
- 名前: さくら (ID: 1RG8a0Ta)
「だーっ!!いつまで待たせる気なんだよっ」
山の峰々から世界を眩しく照らす朝日に不知火は叫んだ。
「うるさいぞ…不知火」
神社に隣接する母屋で寝泊りをしている遼と不知火は朝食を居間でとっていた。
障子を開放して、朝の清々しい空気を部屋に招く。眩い朝日を浴びながら、遼は不機嫌そうに不知火を睨んだ。
朝は弱いのだろう。欠伸を噛み殺しながら、箸を口に運ぶ。
「どうしてお前はそんなに悠長に構えていられんだ!もう三日だぞ!?いい加減説明があってもいいんじゃねぇのか!?」
「仕方ないだろう。玉依姫が倒れてまだ目が覚めないんだ。話はそれからということだろう」
温かい白飯を口に運んで、遼は咀嚼をする。その態度や言葉が今の不知火には癇に障った。
不知火は風間に命じられてからこれまで一切の説明を受けていない。この騒動が一体なんなのか。封印とは。姫とは。あの刀とは。
自分が一体何に巻き込まれているのかを知らない。玉依姫が倒れて連れてこられた場所は荘厳な神社だった。遼は何の疑いもなくこの社に馴染み、くつろいでいるようにも見える。
自分だけ事情を知らないのは遺憾の他ならない。
不知火はつかつかと遼の目の前に腰を下ろした。
「じゃぁまずはお前の話を聞かせてもらおうか、遼。俺はお前の名前以外、何もしらねぇんだ」
「話なら後にしろ。今は飯を食っている」
やはり気に食わない。
不知火は額に青筋を浮かべながらも黙って自分の膳の前に戻る。箸を手に取って、自分も朝食をとることにした。
璞玉が倒れてからここに連れてこられたが、それからの展開が一切ない。ただ部屋を与えられ飯を出される。
平凡すぎる時間を過ごしていた不知火は我慢の限界だった。
「俺は一体ここで何をしてんだ…」
遼が風間を裏切った。その大胆な行動に不知火は楽しみを見つけた。風間はときどき手を組むことはあっても仲間というほど馴れ合ってはいない。
あの傲慢で高飛車な鬼に一泡ふかせるならば、と思ってここまで付き合ってきたが、どうも自分が思っているようにことは運ばないらしい。
不知火は目の前の朝食を平らげると誓った。
ここを出て行こう。何を好き好んでこのような辺境の地にいるのか。自分の見込み違いに呆れてしまう。
立ち上がろうとする不知火より先に、遼がぽつりと呟いた。
「この世が終わらせる刀があったら、あんたはどうする?」
「あ?」
腰を浮かせていた不知火は眉根を顰めた。唐突過ぎる言葉に一瞬呆気にとられる。だがすぐに答えた。
「そんなもん、あるわけ———」
「あるんだよ。実際」
朝食を食べ終えた遼は不敵な笑みを浮かべた。。
「はぁ?何言ってんだ、お前。そんなものがあったら日本中、それこそ世界中が知ってるはずだろう」
いくら記憶を手繰ってもそのような代物は知らない。第一、世界が滅びるほどの危険物が世間が、世界が放っておくはずがない。どうにか対処するはずだ。
現実離れした話題に不知火は鼻で笑った。だが、遼はその不敵な笑みを絶やさない。
「世間にその刀が知られていないのはこの村総出で封鎖してきたからだ。村と言ってもごく一部の人間しかしらないだろな」
「…本気で言ってんのか」
信じられないこともなかった。何かを守るように配置されていた封具。それを死守しようとしていた鬼。そして神通力を持つ少女。
彼らが何かを守ろうとしていることはよくわかった。封具を持ち出そうとした遼を彼らは必死に止めようとしていた。
それがその刀のためか。
「信じる信じないはあんたに任せる。だが、その危険物があの鬼———風間の手に渡ったんだ」
「…あれか」
不知火が呼び出されたとき風間は異様な刀を持っていた。随分と古びた刀を持っていることに少し違和感を感じていたのだ。
風間は刀にはあまり執着しない。切れ味が納得いくものであれば何でも構わないらしい。
その風間が持っていた古刀が不知火は気になっていた。
あんなものが世界を滅ぼす力があるというのか。不知火は信じられなかった。
「昔。昔だ。気の遠くなるような時代に、その姫神はいた。そして最初のカミと呼ばれていた邪神を形成したのが鬼斬丸。凶悪な刀を管理していた玉依姫神は封印が綻びた際に自分の命と引き換えにそれを守った」
ふっと一度息を吐くと遼は茶を口に含んだ。
「…だがその先また封印が解けようとしていた。その際に玉依姫に中世を誓っていた鴉、狐、蛇が死守したんだ…そこからが輪廻の始まり…狂おしいほどの運命に縛られ続けることになる…」
「…どういうことだ?輪廻の始まり?まるで今も続いてるみてぇじゃねぇか」
「今も続いているんだよ。そしてそれはこれからも…ま、“俺達の時代”で鬼斬丸は破壊した」
御伽噺のような話に不知火は首を傾げた。
「“俺達の時代”?今もまだその封印を守ってるんだろ?現に風間が持って…」
「俺は先の世から来た。言っていなかったか?」
「はぁっ!?」
唐突に遼の口から吐かれた言葉が、部屋に響いた。不知火は今度こそ言葉を失う。
こいつはホラを吹いているのか。それとも馬鹿なのか。
唖然とするがしかしすぐに我に返って不知火は一笑した。
「ば、馬鹿じゃねぇのか。そんなことどうやって…」
「俺も何故ここに来たのかわからねぇんだよ。だからたまたま出会った風間が持っていた鬼斬丸に気付いて、あいつについていけば、必ず今の時代の玉依姫に出会えると思ったんだ」
混乱しはじめた不知火は自分の頭を抑えた。一体何がどうなっているのか。突然色々な情報を告げられ思考が追いつかない。
遼はさらに言葉を続ける。
「その封印を守った鴉、蛇、狐とそして後に守護者となる二つの家系が代々その血を受け継ぎ、鬼斬丸と玉依姫を封印してきた。玉依姫も同じだ。何代と輪廻を繰り返し、受け継がれるその血で封印を守ってきた」
「ってことはお前もその守護者ってやつか?」
話を整理するために不知火が確認をとると遼は口端を吊り上げた。
「そうだ。何でわかったんだよ」
「お前は少し変わった気配をしていたからな。人であってそうではない。血に何か混じっている訳でもない。だが人間とその異端の力の狭間にいる、そんな気がしただけだ。お前とあの鬼も…」
不知火の脳裏には鮮やかな赤髪を揺らし、少女に忠実なあの鬼。
あれも守護者というのだろう。納得した不知火は話を整理しようと黙り込んだ。
「お前も鬼だろ」
「あ?あぁ。そうだな」
「俺達のように転生してその力に覚醒しているようではないようだな」
「あぁ。俺や風間は純血の鬼だ。お前達のように転生して受け継がれるわけじゃねぇ。純血の鬼同士が結ばれなければその血は薄まっていく」
不知火の言葉に遼は一つの疑問を抱いた。
「守護者の中にも鬼がいる。あれとお前達とはどう違うんだ」
遼の問いに不知火は答えられなかった。そんなことを考えたことがなかったからだ。
必死に考えてその問いの答えを探す。いつぞやの記憶。天霧が鬼とは何かを風間に語っていたことを思い出した。
「鬼も昔は一つの一族だったらしい。だが、人間の力が及ぶにつれ、それはちりじりになりひっそりと暮らすようになった。その封印を解こうとした鬼もきっと俺の先祖だろう。だが、鬼のなかにも特異な奴がいたんだろう。お前達の鬼のような転生を繰り返す者もいたんだろうさ」
「正確には常世神であった鬼が玉依に忠誠を誓い、神意によってその血が受け継がれることになった、というのが事実だ」
部屋に現れた拓魅は仏頂面だった。露草色に鶴が飛んでいる羽織をはためかせ、拓魅はふぅっと溜息をつく。
不機嫌そうに言葉を足して、すっと二人の前に座った。
「そんなことも知らなかったのか」
「俺はお前達みたいに古い血族じゃねぇんだ」
「知らないのか。お前も犬戒の血を引いているのなら、火遠理命の血を引いているはずだ。火遠理命は後に玉依姫神の姉、豊玉姫神と婚姻し、子をもうけた。その子供、天津高日子神と結婚したのが玉依姫神だ。お前は玉依姫とは縁戚関係だぞ。そんなことも知らんとは」
「俺は過去にこだわらない主義なんだよ」
二人の間に激しく火花が散る。時代が違っても鬼の性格は好かん、と再確認した。
何を話しているのか全くわからない不知火はただ黙って二人を交互に見るしかない。
「拓魅。あまりそのような言い方は良くないと思いますわよ」
衣擦れとともに開け放たれた障子から姿を現した璞玉は羽織を肩にかけ、静かに入室する。拓魅の隣に腰を下ろすと深く頭を下げた。
「申し訳ありません。私の体調が優れなかったために、お二方には待っていただく形になってしまい…」
「全くだぜ。ほったらかしは流石になかっただろうよ、姫さん」
大仰に溜息をつく不知火に璞玉は微笑んだ。
「はい。大変申し訳ありませでした。ですが、どうしても私の口から説明したいことがあったのです」
璞玉はすっと息を吸い込んで意を決したように口を開いた。
「鬼斬丸の封印を一度解こうと思うのです」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.85 )
- 日時: 2013/05/24 23:21
- 名前: さくら (ID: v20iF7Or)
「正気か…」
遼は唖然と呟いた。目の前に鎮座する少女が何を言ったのか一瞬理解が遅れる。
しかし璞玉は毅然とした態度を崩さないまま大きく頷いた。
「封印を解いて、もう一度強固な封印をするんです」
「それがどれほど大変なことか、わかっているのか」
遼の目つきが険しくなる。璞玉が行おうとしていることがどれほど危険なことかわかっているのだろうか。
経験してきた遼はその恐ろしさを知っている。
「俺達は鬼斬丸を破壊した…だがそれは守護五家が揃っていたからできたことだ。守護者も一人。加えて玉依姫は体が弱い。そんなことで封印を解く?本気で言ってんのか」
「本気です。そのためにあなた方、守護者をお呼びしたんですのよ」
「…おいおい。もう一度俺達にあれをやれっていうのか」
遼の顔が引き攣る。無理もない。鬼斬丸を破壊することにどれだけ骨を折ったことか。
何度血を、涙を流したか覚えていない。苦痛を背負い、恐怖と戦い、やっとのことで破壊したものだ。
もう二度と無く経験したくないものだ。
だがそれを目の前の少女は手伝ってほしいというのか。
「ですから、目的は“破壊”ではなく“封印”です。あなた方に負担はかけません。ただ、弱まっている封印を強固なものにしたいのです」
「封印を解けば何が起こるかわかってるのか」
全く話についていけない不知火は二人の舌戦を黙って見ていることしかできなかった。
「…どうかご理解下さい。次の世の姫が、守護者が安寧に暮らせるために…」
畳に手をつき、深く頭を下げる璞玉に遼は黙り込んだ。隣に座っていた拓魅は舌打ちをした。
「お前が危険を冒して封印を強めても、いずれ薄まる。こんな奴に頭など下げずとも…」
「拓魅。何度も話し合ったはずです。私の意志は変わらない。古くから続くこの因果を変えることはできない…ならばせめても先の世に安穏を願いたいのです」
拓魅は苦虫を噛み潰したように渋い顔つきになる。遼は二人を交互に見やって二人の関係を何となく悟った。
きっと幼い頃から二人は一緒だったに違いない。姫と守護者。役目のために両家はともに過ごし、その役目すらも超えた関係なのだろう。
互いが大切で、相手のためなら自分の命すら惜しまない。まるで珠紀と拓磨を見ている気分になって遼ははぁっと溜息をついた。
「どの時代の姫も鬼も同じかよ…」
呆れたように、だが同時に慈愛の篭った笑みを湛えて遼はすっと璞玉の前まで移動する。
「やってやろうじゃねぇか。その決意、気に入った」
遼の言葉に璞玉は目を輝かせて喜んだ。
「あぁ、有難うございます。何と心強い言葉でしょう…」
璞玉の横で拓魅は眉根を寄せて黙したままだ。
「あーあのよ」
一人話についていけない不知火はそっと挙手した。
「何の話かわからねぇが、具体的にこれからどうすんだよ」
「お二人に、大役をお願いしたいのです」
「大役?」
璞玉の不敵な笑みに二人は眉を顰めた。
「良かったのか。あいつらはまだ信頼できるかどうかわかないのだぞ」
日も高くなり、澄んだ空は晴れ渡っている。だが、吹き抜ける風は冷たいものだった。木々からは葉が散り去り、紅葉の時期は終わりを告げようとしている。
冬の足音が近づいてくるかのような風の冷たさに、璞玉は少しだけ震えた。
その反応を見逃さず、拓魅は羽織をそっと璞玉の肩にかけてやる。
境内の山道に立つ二人は、遼たちが去ったあとを見つめていた。
「相変わらず人を認めるということができませんのね、拓魅。少しは人を信じようと思わないのですか?」
璞玉が悪戯っぽく笑っておどけて見せたが、拓魅の顔から険しい表情は消えなかった。
「…俺が弱いから…お前に苦労をさせてしまうのだろう」
「拓魅…」
守護者の現役は自分だけ。他の守護家は引退した者や幼すぎるために継承者がいない。そんな状況に鬼斬丸が奪取された。落ち度は自分にある。自分が至らないせいで璞玉に無理を強いているのだ。
自分がもっと強ければ。もっと力があれば。
その思いで胸が苦しくなる。
「俺がもっと強ければ…先の世から姫をお呼びすることもなかった…」
「拓魅、それは…」
「違うと言うか!?俺が不甲斐ないからこんなことになったんだ…っ」
あの鬼が来たときにもっと早く対処していれば。未来の玉依姫や守護者を巻き込むこともなかった。
自分の非力を思い知らされているようで、拓魅は歯がゆかった。
「俺は…守護者失格ではないのか…」
「やめて、拓魅。そんなこと言わないで…!拓魅は立派な守護者よ。私をいつだって護ってくれたわ。だから…」
璞玉は拓魅の背中に抱きついた。年の差もあって拓魅の腰辺りまでしか身長がない璞玉はしがみつくように小さな腕を回す。
「…私の守護者は貴方だけ…お願い、自分をそんなふうに言わないで」
「だが実際お前に負担をかけている」
「違うわ」
「違わない」
「違うわ、拓———」
「ならば日に日にお前が痩せ細っていくのは何故だ!?体調を崩すのは何故だ!?」
拓魅は璞玉の肩を掴んで叫んだ。細い肩は小刻みに震え、戸惑っているように瞳を揺らす。
「何を…」
「お前の体が弱いことは知っている…だが、近頃は倒れることが多い…体に負担がかかっている証拠だろう」
「…拓魅、違うの…これは…」
「先の世から姫をお呼びした…それだけでも巨大な負担があったはずだ…先の世からこの時代に人を呼ぶなど相当な力を使ったのだろう」
「違う、違うの。拓———」
それ以上聞きたくない、言わせないというように拓魅は璞玉を抱きしめた。
胸にすっぽりと埋まる少女の体の細さに驚かされる。こんなにも痩せていたのか。一体いつから無理をさせてしまっていたのだろう。
「お前の苦悩に気付けぬ守護者など…」
「拓魅…くる、し…」
腕に力を込めて抱きしめると崩れてしまいそうな少女を、しかしその腕を緩めることはできずに拓魅は目を閉じた。
「璞玉…」
「ん…」
「誓ってくれ。お前自ら命を投げ打つことなど決してしない、と…」
「拓魅…」
璞玉の頬に顔を寄せて、拓魅は苦しげに呟いた。耳元で紡がれた言葉が慟哭のようで、璞玉は胸の奥が痛んだ。
「…誓いましょう。貴方が私を護ってくれるもの…」
「璞玉…」
拓魅は顔を離して璞玉を見つめるとその赤い唇に己の唇を重ねた。唇の隙間から漏れる吐息が熱くて、璞玉はむずがるような声を上げる。
そっと唇を離すと、拓魅はもう一度璞玉を抱きしめた。今度は優しく、包み込むように。
「俺の前から勝手にいなくなるなよ…」
「心配性ね。拓魅がいれば私は消えたりしないわ」
温かい腕の中で璞玉はその身を委ねる。薄っすらと開いた瞼からそっと拓魅を見やった。
壊れ物を抱くような切ない瞳に璞玉は目を細める。
今はまだ秘めておこう。胸の奥に決めたこの思いはまだ———…
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.86 )
- 日時: 2013/06/18 22:34
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
そうして数日が経ったある日。珠紀はと千鶴は庭で衣類を洗濯していた。晴れてはいるものの、風が冷たい。桶に張っている水に手をつけることも億劫になってきた。
珠紀はそれでも懸命に着物を洗って、絞り、竿に着物を干していく。
「今日は寒いねぇ」
「もう冬に入るもんね。珠紀ちゃん、寒くない?大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。動いていれば寒さなんてへっちゃらだから!」
かじかむ指先を叱咤して竿に洗濯物を並べていく。珠紀は風にはためく洗濯物を見つめて動きを止めた。
竿には隊服も干してある。だんだら模様のあさぎ色の羽織だ。それを見つめて珠紀は呟いた。
「私たち…やっぱりここにいちゃいけないのかな…」
「え?」
着物を洗っていた千鶴は手を止めて、顔を上げた。空を仰いで珠紀は目を細める。
「迷惑かけないようにって思ってたけど…余計皆に迷惑かけてる気がするなぁ…」
「珠紀ちゃん…?」
千鶴は腰を上げると珠紀の横に並んで顔を覗き込む。空を見つめていた珠紀の表情は険しいものだった。
「どうしたの?珠紀ちゃん…何か嫌なことでもあったの?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど…この間ね。私達のことでもめちゃって…幹部の皆さんに迷惑かけちゃって…」
「珠紀ちゃん…」
「沖田さんも言ってた…正体不明の輩を置いておきたくないって…」
今度は地面を見つめて珠紀ははぁっと溜息をついた。どうして自分達はこの時代に来てしまったのだろう。どうしてこの場所なのだろう。
動乱の時代に危機迫る状況が続いている。この幕末に生きる人々は皆懸命に自分の信念のために闘っている。そんな人々に自分達の都合で迷惑などかけられない。鬼斬丸だの封印だのと自分達の事情に巻き込むわけにはいかない。自責の念を感じずにはいられない珠紀は苦悩の日々を過ごしている。どうすればいいのだろう。自分はどう動くべきなのか。
「珠紀ちゃん、でもそれは皆さんを心配してくれたから、今は上手く説明できないだけだよね?そのときが来れば説明してくれるんでしょ?」
「うん。もちろん、そのつもりだよ。だけど今は…」
「珠紀ちゃんは優しいね」
「え?」
「本当なら帰る方法を探したいはずなのに、新撰組を心配してくれてるんだもの。土方さんもそれをわかってると思うよ。だから言及しないんじゃないのかな?」
千鶴も珠紀たちの事情を知らない。だが、それでいいと思っている。こうして生活をともにして千鶴は思った。相手のことを知るのは大切だがそれは自ずとわかることではないのか。焦って素性を知ることもない。
珠紀は一瞬目を見張って、そしてすぐに微笑んだ。
「優しいのは千鶴ちゃんもだよ。私たちの面倒までみてくれて…千鶴ちゃんがいなかったら今頃どうなってたか」
「にーにー!!」
「え!?」
「あっ、こら、おーちゃん!」
突然珠紀の影から飛び出してきた鼠のような生き物に千鶴は声を上げた。
「こ、この動物…珠紀ちゃんに初めて会ったときにも…」
「あ、あのこれはね。えっと…どう説明したらいいのかな…」
珠紀が口を濁している間にもオサキキツネは千鶴の肩によじ登るとその頬に顔を摺り寄せる。
「ふふっ。くすぐったい。可愛い子だね。名前はあるの?」
「あ、うん。おーちゃん。えっと狐の妖でね。私をいつも守ってくれてるの」
「きつねのあやかし…?」
「あ、これは誰にも内緒にしてほしいの!まだ誰にも言ってなくて…」
「うん、わかった。内緒ね。あやかしっていうのは妖怪みたいなもの?」
「うーんそうなるのかなぁ…でも恐い妖怪じゃないから、大丈夫だよ」
「おーちゃん、これからよろしくね」
「にー!」
元気の良い返事に千鶴は微笑んだ。ひとしきり千鶴とオサキキツネは戯れた後、突然千鶴は声を上げた。
「私、井上さんに呼ばれてたんだ!ごめん、珠紀ちゃん、今から行ってくるね!」
「うん。大丈夫だよ。あとは干すだけだし」
千鶴は小走りでその場を後にした。
「あんまり深く聞かない方がいいよね…」
オサキ狐のことをもっと言及したかったが、それでは珠紀を困らせるだけだろう。千鶴はそれをわかっていた。彼女達が何かを隠していること。それは決して疚しいものではなく、優しさを感じた。まるで巻き込むことを恐れているかのように。
「私達だって隠してることはあるんだし…」
千鶴は足を止めた。そうして脳裏に浮かんだ白髪の男達を思い出す。
「…深く首を突っ込んじゃだめ…」
千鶴は自分に言い聞かせるように呟いた。空を仰いで一つ頷くと千鶴は再び走り出す。
庭から玄関に上がり、広間に向かおうとしていた千鶴は前方から歩いてくる二人の男を見止めた。
一人は長身の男、と千鶴は目を瞬いた。男にしては随分と顔立ちが女性らしい美しさがあった。端整な顔はまるで女形を演じる男優のように凛々しい。だが袴を穿いているところと刀を提げているところから男だと考え直す。
その横に並んで歩いていた青年は長髪をひとつに結び上げ、幼さが若干残る表情で前を見据えていた。
二人の横を通り過ぎるときに、千鶴はその青年と目が合った。
ほんの一瞬だったが、千鶴は彼の瞳を通して何かを見通されたような気がして胸が騒いだ。
「…」
「…」
どちらも視線を外さずすれ違う最後まで視線を合わせていた。
完全に横を通り過ぎた千鶴は小首を傾げる。
「隊士さん…かな?」
平隊士の顔はだいたい覚えた千鶴は記憶を手繰る。あんな変わった二人組みなど見たことがない。
「新しく入った隊士さんかな…」
「そうだよ。確か彼らは伊東さんの勧誘で入ったんじゃなかったかな」
「井上さん!」
千鶴の背後でにこやかに微笑む中年の男、井上は目元の皺を深くした。
「すまないねぇ。呼び出したりして」
「いえ、大丈夫です。あの、さっきの方達が伊東さんの勧誘で入ったってことは…」
「うん。あまり皆からは良い目で見られていないようだね。このところ伊東さんの勝手な行動が土方さんの耳にも届いて…屯所内はあまり良い雰囲気とは言えないね」
「そんな…」
千鶴は顔を曇らせる。お上が崩御し、時代は大きく揺らぎはじめている。休息もままならない土方の苦労がまた増えているのだと思い知ると、千鶴は胸が苦しくなった。
「大丈夫だよ、雪村君。君を呼んだのはそんな気分も吹き飛ぶような話だから」
「え?井上さん、それは一体…」
「副長室に行っておいで。私はただの伝言係りだよ」
井上はそう言い残すとその場を去った。その井上の笑みがとても嬉しそうで、千鶴は気になって呼び止めようとしたが、土方が呼んでいるのなら早くそちらに行った方がいいのではないかと思い直して千鶴は方向転換した。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.87 )
- 日時: 2013/06/20 22:19
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
「土方さん」
「千鶴か。入れ」
副長室の前で膝を折り、声をかけると少しだけ上擦った声が返ってきた。
静かに入室すると土方の広い背が目に飛び込んでくる。疲れているような寂しい背中を見つめてまた胸が痛んだ。
その広い背中がくるりとこちらを振り返った。
「話がある。単刀直入に聞くが、千鶴」
「はい」
疲れた背中とは少し違って土方の表情は若干強張っていた。何か緊張しているようにも見える。
「お前酒は飲めるか?」
「はい?」
あまりに唐突すぎて千鶴は素っ頓狂な声を上げてしまった。険しい表情の土方の口から出た台詞が思いもよらぬものだった。
「いや、飲めなくても構わんねぇんだが。宴会の席は苦手か?」
「いえ…お酒は飲めませんけど…宴会の席は大丈夫です。それが何か?」
小首を傾げる千鶴に土方の表情はさらに険しさを増す。
「原田が会津藩からの報酬を貰ってその金で今夜角屋に行こうって話がでてんだが…お前もたまには羽根伸ばしてぇんじゃないかと思ってな」
「え?」
「酒は飲めなくても料理は上手いはずだからな。行って損はねぇと思うぜ。原田に甘えてきたらどうだ?」
土方の言葉から思いやりが伝わってきた千鶴はさらに胸が苦しくなった。
身を粉にして働いている土方を差し置いて自分だけ楽しんで来いと言っているのだろうか。
千鶴のそんな考えを読み取ったのか土方は咳払いの後に珍しく言葉を濁しながら補足した。
「あー…その、何だ。仕事も片付いたことだし…俺も行くつもりだ」
何故か視線を逸らせて口ごもる土方に千鶴は目を瞬いた。それは、つまり———
「私が以前言ったことを…気にして下さったんですか…?」
千鶴の問いに土方は取り乱したように慌てて訂正する。
「別にそういうわけじゃねぇぞ。たまたま今日は仕事が速く終わりそうだからだな———」
「ありがとうございます、土方さん」
「…礼を言われる意味がわからねぇんだが…」
慌てる土方を見て千鶴は微笑んだ。
以前千鶴が土方の体を心配していた。土方が多忙なことはわかっていたが、それでも言わずにはいられなかったのだ。
その千鶴の気持ちを痛いほど感じた土方は居た堪れなかった。その気持ちは有難いのだが、自分が休息をとらないと千鶴は安心しない。
悩み悩んだ末、事情を知る原田が唐突に提案してきたのだ。
『宴会に幹部達を誘うつもりだけどよ、土方さん。あんたも来たらどうだ?千鶴も呼べばもう心配させることもねぇんじゃねぇか?』
「それでも、嬉しいんです」
「そうか」
目を細めて微笑む千鶴は心から安堵したような柔らかいものだった。その笑顔につられて土方も笑ってしまった。
人に心配されたり気を遣ってもらえるのはこんなにも心地よい。土方はふっと微笑する。
たまには誰かの思慮に身を委ねるのも悪くは無い。自分のために笑って、心配してくれる人がいる。それだけで幸せを感じることができた。
「ふぅん…」
冷たい風が青年の髪を弄ぶ。
晴天の空の下、青年———正彦はほくそ笑んでいた。
「あら、正ちゃん。こんなところで盗み聞き?」
「正ちゃんはやめろ。ここでは正彦って呼べ。さっき言ったところだろ」
屋根の上で胡坐をかいていた正彦は同じく屋根を登ってきた清次郎を睨み据えた。清次郎は臆することもなく苦笑して肩をすくめる。いつものやり取りに清次郎はさほど気にしていない様子だ。
「何を盗み聞きしてたの?」
「今夜は新撰組幹部が角屋に繰り出すらしい」
そこまで口にして清次郎はようやく正彦の言いたいことがわかった。
ここは副長室の真上だ。耳の良い彼らは室内の会話を聞き取れる。
口端をを吊り上げて嗤う雅彦に清次郎は呆れた口調で言った。
「その顔、まるで泥棒さんみたいよ」
「泥棒と変わりないだろう、俺達は。ようやく潜入できたんだ。清」
名を呼ばれて清次郎は年下でありながらも頼りになる友を見つめる。
「今夜この屯所を調べる。新撰組について調べるんだ。幹部がいない今夜なら自由に動ける」
「でも他の隊士に見つかったりしないかしら?」
「みたところ、幹部と平隊士は離れて部屋を構えている。厄介なのはあの伊東だ」
正彦は腕を組んで唸った。対立関係にあると聞かされた伊東派と近藤派は酒の席すら同じくしたことはないらしい。
となれば今回も近藤派が角屋に赴くだけで、伊東派は動かないということだ。
「伊東派と近藤派の部屋も離れているとは言え…」
同じ敷地内だ。何が起こるかわからない。
「新撰組に入れて下さった伊東さんを探るのはあまり気が進まないけど…いいわ。じゃぁ私が伊東さんが今夜どんな予定なのか探ってみる」
「頼んだ。俺は屯所のつくりを記憶してくる」
お互いの任務を確認したところで、二人は反対方向へと散っていった。
その様子を遠くから見つめていた影には気がつかずに…
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.88 )
- 日時: 2013/06/22 00:13
- 名前: さくら (ID: 4BMrUCe7)
冷え込むようになった朝晩は、外出するならば着込まなくてはいけないほどだった。
千鶴は長着の下に一枚着物を重ね着した。
そうして軽い足取りで玄関へと向かう。
「遅いぞ、千鶴」
「ごめんね。着替えてたら遅くなっちゃって…」
「これで全員か。よし、じゃぁ行くとするか」
「っじゃぁ!!たらふく食って飲みまくってやる!!」
「あんま調子乗んなよ、新八」
幹部達が玄関に集まり、ぞろぞろと行列をなして屯所を後にする。
千鶴は土方の姿を見止めて微笑した。良かった。
千鶴は皆の和に入ってから首を傾げた。近くにいた珠紀に声をかける。
「珠紀ちゃん、拓磨君は…?」
「それがね。何かよくわからないんだけど、行きたくないって言ってね」
「行きたくない?お腹でも壊したのかな?」
「あいつ馬鹿だよなぁ。美味いもん食えるってのに来ないなんてよ」
珠紀の隣を歩いていた真弘は肩をすくめた。珠紀の同意のようで複雑な顔をしている。
「調べたいことがあるから行かないって…何を調べるんだろう」
珠紀からすれば拓磨一人で何か動いていることが気になるのだろう。不安げな顔の珠紀に千鶴も同調して焦燥を感じた。
「ま、別にどっか外出する訳でもねぇみたいだし。屯所にいるんだったら心配することねぇよ」
珠紀の気持ちに気付いていた真弘は明るく言った。その会話を後ろで聞いていた祐一が振り返り、落ち着いた口調で会話に加わる。
「真弘の言うとおりだ。単独行動で外出するなら否めないが、屯所内ならば危険はないだろう」
ようやく安堵したのか珠紀はひとつ頷いた。杞憂にすぎない。きっとそうだ。
珠紀の顔に笑顔が戻ると千鶴も安堵した。少なくとも千鶴より長い時間を過ごしてきた彼らが言うのだ。きっと何事もおこらない。
静かな夜道を行列が行く。最後尾にいた土方が突然声を上げた。
「———ところでそこのあんたは誰なんだ」
幹部の行列の中に見知らぬ人物がいたことに違和感を感じながらもここまで来てしまった。誰かが説明をするのかと待っていたがそれもなく、気になって口火を切った。
そう思っていたのは土方だけでなく、沖田、近藤も同様に頷く。
見知らぬ人物———大蛇の姿に土方と沖田と近藤以外は顔見知りなのか特に異を唱えなかった。
「これは申し遅れました。私は大蛇卓。こちらの珠紀さんの守護者です。今は」
「あんたが…珠紀たちがずっと捜してたっていう…」
土方とそう変わらない身長に、今の時代には珍しい、髷を結っていないところをみるとどうやら未来から来た人物だと判断できた。
物腰柔らかそうな優しい笑みに、土方は表情ひとつ変えず問うた。
「あんたも守護者か…なぜここにいる」
「それは———」
「俺が誘ったんですよ、土方さん。珠紀の提案でもあるんだけどな。珠紀達だけじゃ自分達のことを上手く説明できないから適任の人を連れて来たらどうかって」
「なるほど…」
目を細めて微笑を浮かべる大蛇を見つめる。
「お世話になっているというのに素性も説明しないのは失礼と思いましたので…同行すること、ご容赦いただけますか?」
どうやらこの大蛇という男は話がわかるようだ。土方の疑心を感じ取り、新撰組がずっと疑問を解こうという。
「…ふん。この宴会は俺が主催したんじゃねぇ。原田がいいんなら別に俺の許可なんざいらねぇだろう」
土方の返事に大蛇はにっこりと微笑んで頷いた。
その会話を最後まで聞いていた沖田は口を開く。
「じゃ、君達の正体とか聞いてもいいんだね?」
その言葉に珠紀達の顔が凍りつく。大蛇は相変わらず人の良い笑みを浮かべて沖田に目をやった。
「構いません。いつまでも隠し通すものではありませんしね」
「そう、じゃぁ———」
「ただし。私達の正体を知る覚悟はおありですか?」
一行は足を止めて大蛇の言葉の先を待つ。夜の風がひどく冷たく感じられた。
「どういうこと?」
「私達の正体を知りたい…それはごもっともな意見です。私達も正体を隠すなど失礼な真似はいたしたくありません。ですが…私達の正体を知っても尚、今のように私達を見る目が変わらないのか、と言っているんです」
「その言い方じゃぁまるで君達が化け物か何かみたいだね」
「化け物ですよ。私達は」
一陣の冷たい風が一行の間をすり抜ける。緊張感が増す空気に誰も動けない。
「どうかその覚悟をお忘れなく…今夜ゆっくりお話いたしましょう」
大蛇の柔らかい笑みが今では恐怖にも感じる。歩き出した大蛇にならって一行も行進を再会した。
「ま、まぁその話は後々しっかりと聞かせてもらおうではないか。さ、先を急ごう」
「そうそう。近藤さんの言う通りだぜ。そう暗い顔すんなよ。今夜は憂さを晴らしに行くんだしな」
原田の言葉は場を一気に緩めた。不安げだった女二人は特にその言葉に救われる。
「おや、私としたことが…今夜は皆さんの宴会です。ややこしい話は後にして楽しみましょう」
皆が暗い表情になっている原因が自分だと気が付いた大蛇は謝罪した。
「そうそう!堅苦しい話は後で!今夜はぱーっと飲むぞぉ!!」
「新八つっぁん、人の金だと思って張り切りすぎ」
「そう言ってるお前だって嬉しいくせに!」
永倉と藤堂が声を上げるといつもの調子に戻ったのか、一行は再び和やかな雰囲気のまま角屋に到着した。
色町だけとあって夜は常世のように光で溢れ、活気に溢れていた。
最後尾で難しい顔で土方は沖田を呼び止める。
「何ですか、土方さん」
「あんまり口を出すなよ、総司」
「何のことですか?僕何か言いましたっけ?」
とぼける沖田に土方は視線だけで釘を刺した。これ以上場を混乱させるようなことは口にするな。鋭い視線がそう言っている。
一同は入店しはじめ、土方もそれにならって見せに上がった。
その背中を見つめていた沖田に斉藤が近づいてくる。
「お前の気持ちもわからないこともないが、それでも待たねばならないこともある」
「え、それ何の格言?一君?」
斎藤はそれだけを言い残すとさっさと入店した。一人取り残された沖田は面白くない。
まるで自分が悪いことをしたような土方の言い方に少し気分を害した。
知りたいことを知ろうとすることはいけないことなのか。
この苦い感情は二度目だ。一度目は屯所で沖田が珠紀たちの素性について言及したときだった。それから珠紀たちに少し距離を置かれていたようだ。今でもそれは変わりない。
「やれやれ…一体どんな話になるのかな…」
ひとつ溜息をつくと沖田も店に入った。
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