二次創作小説(紙ほか)

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.225 )
日時: 2014/07/26 22:04
名前: せな (ID: qTh1yy9a)

こんにちは。お話の方読ませていただきました!
珠紀ちゃんは大丈夫なんでしょうか…!?心配です…!!!
真弘先輩と原田さんは少しずつですが和解されてるようでほのぼのしました^^
続きの方楽しみにしています、これからも更新頑張ってください!

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.226 )
日時: 2014/08/09 00:44
名前: さくら (ID: QdXVEKhj)

せなさん

いつもコメントありがとうございます^^
今また分岐点にさしかかっていますね。
まだまだシリアスが続いていくので気が重くて面白くないかもしれませんが許して下さい;;

更新がまたまた遅くなりますが、読んで頂けたら嬉しいです
頑張ります!!

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.227 )
日時: 2014/08/09 00:50
名前: さくら (ID: QdXVEKhj)

自室に戻ろうと襖に手をかけたとき、風間は動きを止めた。
ぴりりと緊迫した空気が漂っている。
この気配は何だ。

「固まってないで、入っておいでよ。西の鬼」

自分の部屋から声がした。
風間は一気に襖を開けた。

「こんばんは。西の鬼」
「…誰だ…貴様」

敷かれた布団の奥、障子窓を背にして立つその華奢な影に風間は眉根を潜めた。部屋を見渡しても侵入できるのはそこの障子窓だけ。だがここは二階だ。玄関から入って来たのなら別だが、玄関は施錠され、誰かが気づくはず。

「どこから入って来たのかって顔してるね。そんなのどうでもいいでしょ。それより…」

影がすっと腕を動かす。その手には枕元に置いてあった鬼斬丸が握られていた。

「これ、返してもらうね?元よりお前が持っていていい代物じゃない。お前の手にはあまるものだ」
「…ほう。この俺には扱えんというのか」
「人間に追われ、衰退しつつある鬼の頭領にこれは身に余るものだよ」
「俺だけならいざ知らず、一族を侮辱することは許さん…」

風間は地を蹴ると刀掛けの自分の刀を手に取ると一瞬の早さで影に詰め寄った。
そしてそのまま抜刀し一閃する。
だが。

「あははっ。無駄だよ。だってお前は俺より弱いんだから」
「何…!?」

手応えを感じずに後ろを振り返ると何故か影は風間の背後で嗤っていた。

「そんなんで頭領を名乗るのは問題あるんじゃない?ね、西の鬼」
「貴様…っ俺を愚弄したこと後悔させてやるっ!!」
「あー待った待った」

相手の言葉が神経を逆撫で、風間は憤怒の炎に燃える。
だが余裕のある声で影は待ったをかけた。

「取引しよう。この鬼斬丸を渡すというのなら、お前が大事にしている里には手を出さないでおこう。けれど、もし鬼斬丸を渡せないというなら…」

影が刀を持つ逆の手を壁に向ける。すると何もなかった掌に火花が散り、目に見えない力の固まりが壁に激突した。
壁はおろか、天井まで崩す威力だった。

「どう?お前は弱いけど賢い鬼だと思ってるんだけど…刀と里。天秤にかけるまでもない。答えは決まってるでしょ?」
「…ふん。もう既に刀を奪った者が口にする交渉ではないな」
「あはは。それもそうだね。じゃぁ…」

影は刀を畳の上に放り投げる。ちょうどお互いの距離の中間地点に落下した。

「これでどう?私欲のために刀を欲して里を滅ぼすか…里のために刀を捨てるか…簡単な質問でしょ?ね、西の鬼」

影はうっそりと嗤って風間の反応を窺っている。
その余裕たっぷりな態度が風間の癇に障った。この男の言っていることがどこまで事実かはわからない。
だが、誰にも知らせていないこの居場所を知っていた。そして自分が鬼の頭領であることも。
そのことを考えるとこの相手の脅しも本当だということか。

「交渉する前にまずは名乗ったらどうだ。それとも名乗るのが怖いか」
「あぁ、それもそうだね。名乗っても意味ないけど教えてあげる。俺の名前は芦屋正彦。鬼斬丸と玉依姫の監視役だ」
「たまよりひめ…?」
「あれ?何も知らないのにこの刀持ってたの?うわ、なんて奴だよ。これがどれほどの刀かも知らずに持ってたのか。いや、盗んだんだっけ?」

正彦はその刀は盗んだものだとも知っている。
こうなれば彼はきっと風間の情報を全て知っているのだろう。

「そんな奴にこれを持っている資格はないね。あぁ、交渉は撤回するよ。お前みたいな鬼と交渉するのも腹片痛い」
「何だと…っ!?」

刀を握り直そうとした風間だったが体が動かないことに気がつく。

「あぁ、動かない方がいいよ。無理に動いたら、体。切れちゃうよ?」
「っ!?」

風間は自分の体を見た。何も自分を縛るものはない。だのに。何か細い紐で全身を拘束されている感触がある。
力を込めると正彦の言ったとおり拘束されている部分がひどく痛んだ。

「あぁ、鬼は治癒能力が高いんだっけ?でも痛みを感じないわけじゃないでしょ?動いてもいいけど、そんなことしたら手足はバラバラになるからね?」

正彦はうっそりと嗤うと身動きが取れない風間の目の前の鬼斬丸を拾う。

「刀の意味も知らずによく持っていられたもんだ。高貴なこの刀を盗むなんてそこら辺の盗賊と変わらないな、西の鬼も」
「貴様…っ!!!」

ぶちぶちと嫌な音が部屋に響く。見えない紐が皮膚を破る。出血しようが構わない。目の前の相手に苛立ちは最高潮に達する。
先ほどの手から作り出した力と言い、この見えない拘束と言いこの相手はきっと妖術使いか何かだ。そうなれば物理的な攻撃は効かない。
風間は全身に力を込めた。

「だから、無駄なことはやめた方がいいって。手足千切れちゃうよ?」

正彦の言葉も聞かず、風間の髪は白に変わり、瞳は金色へと変色した。

「愚弄するしか能がないのか、お前は…」

風間は腕を動かすと刀で不過視の紐を斬ろうとする。
だが拘束がなくなることはなかった。舌打ちすると風間は自分の手足が血を流していることにも構わず、目の前の正彦に斬りかかる。

「驚いたな。そこまでしてこの刀が欲しいか」

正彦は嘲笑って一歩後退する。風間の拘束力が増し、着物のあちらこちらが血で染まっていく。

「そこまでこの刀を欲する理由は何なの?お前はこの刀と無縁のはずだ。守護五家ならいざ知らず、分家でもないお前がどうしてそこまでこの刀にこだわるのか」

正彦は興味本位で風間に問うた。この刀の存在を知っているのは玉依姫の関係者と典薬寮だけだ。どこでこの刀の所在を聞きつけたのか気になっていた。
だが風間は気高い鬼だった。戦いの最中己が不利な状況に立たされているという事実に憤慨していた。当然、正彦の問いなど頭に入ってくるはずがない。

「やだな、余裕をなくした鬼っていうのは。でも、用があるのは刀であってお前じゃない。そこで括り付けられてなよ」

正彦は長髪を揺らして踵を返した。そのまま窓から外に出ようとしたそのとき。

「おい」

背筋に、冷たい氷が流れ落ちたような感覚があった。次に全身が総毛立ち、振り返るより早く激痛が背中に走った。

「っ…ぐ!!?」
「背を向けるとは…隙が多い輩だな…」

正彦は目を丸くした。おかしい。なぜ、何故だ。

「何で…立っていられるんだ…」

呪縛を施した。強靭な拘束性がある術だ。いくら鬼でも“特別な力が無い限り”それを解くことはできないはず。それが。
どうして、風間は悠然と立っている。刀を手に立っていられるのか。
正彦は背中を斬られたことも忘れるほど驚愕した。

「俺たちのことを調べているわりに調査不足だったようだな」

風間とは別の声が部屋に響いた。はっとそちらに視線を向けて正彦はさらに目を丸くした。

「来ると思ってたぜ、典薬寮」
「どういうことだ…!?」

正彦の目の前には風間と、そして見知らぬ男が一人。だがこの気配は知っている。嫌悪する奴らと同じ。玉依姫の加護を受けた、力の気配。これは。

「守護五家…!?ば、馬鹿な…!!姫を守る血族は五人…!!それが、六人目…!?どういうことだ、お前は誰だよっ!!」

正彦は声を上げた。こんな男を知らない。本来玉依姫を守護するのは五つの血族から一人ずつ。生まれる時代や後継者によって姫の代で人数はばらばらだが、最大で五人のはずだ。だが。

「驚いてる場合かよ、典薬寮?鬼斬丸を嗅ぎ付けたわりにその辺の調べが足りなかったみたいだな」
「まさか、そんなことが…!!未来では…未来の玉依姫には…!!六人の守護者がいるのか…!!?」
「気づくのが遅かったようだな、典薬寮」

にやりと嗤う男————遼は力を解放すると正彦に向かって跳躍した。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.228 )
日時: 2014/09/05 18:31
名前: さくら (ID: x2W/Uq33)

「…っ!!」

遼の攻撃を寸手のところで躱すと正彦は後退して距離を取った。
早鐘を打つ鼓動を抑えるために何度か深く呼吸をして、目の前の遼を睨む。

「守護者が五人、この時代に来ただけでも厄介なのに…六人目が居ただなんてね…お前の代の玉依姫は恵まれているな…」
「調べが足りなかったお前はどう見ても劣勢だぜ?文句並べてる暇あるのか」

風間と遼の後ろにまた一人男が駆けつけて来た。

「…確かに…この状況で戦おうなんて俺も思わないよ…」

正彦は悔しげに唇を噛んだ。目と鼻の先に目的である鬼斬丸があるというのに、それを奪取することができない。頭の良い正彦は引き際を見極められる。
三対一で勝てない訳ではないが、その内の一人が守護者であればそれは別の話だ。玉依姫の恩恵を借りて力を発揮するのが守護者であるが、単体でも充分の力を持っている。それはこの遼も同じなのだろう。

「それじゃ…次に会うときまで鬼斬丸は君たちに預けておうこう…あぁ、間違っても封印を解こうとしないことだね。今はかろうじで封印が成っているけど、軽い気持ちで封印を解けばどうなるか…そこの守護者はわかっているはずだ…小芝居をしていても…上手くはいかないだろうよ」

正彦は遼を見据えて念を押すように言った。

「西の鬼。それはお前の身に余るものだ。そして封印を解いたときお前は後悔するだろう。強靭な力を操れる者などそうそういない…それじゃまたね…」

正彦は最後に笑みを残すとそのまま霧のように消えた。
静まり返った部屋を見渡して遼はふっと息をつく。典薬寮の気配が完全になくなったことを確認してから、警戒体勢を解いた。

「…おい」

無遠慮な低い声が響く。遼は肩越しに振り返った。

「あの男は何者だ。お前はあいつを知っているのか」
「面倒くさいな…俺は説明とか嫌いなんだよ…」

その場を去ろうとした遼の喉に刀を向けた。

「小芝居とあの男は言っていたな…やはりお前は俺に何か隠しているな…?白状するなら今のうちだ」
「…なら俺にも条件がある」
「条件…?」

刀を向けられても遼は怯まずに風間を睨んだ。

「お前の質問には答えてやろう。だが、俺の問いにも答えてもらうぜ」
「……良いだろう…」

風間は刀を下ろすと鞘に収めた。そして畳に転がっていた鬼斬丸を拾い上げた。

「一体何だってんだよ…」

後から駆けつけた不知火は困惑しきった様子で荒らされた部屋を見渡した。




「あら、ダメよ。大声出しちゃ」
「…っ!!」

珠紀の目の前に立ちはだかる女性、否清次郎はすっと彼女の額に手を当てた。

「静かに、ね?痛めつけるようなことしないわ。私そういう趣味はないしね」

清次郎は微笑すると、額に当てた手から淡い光が溢れた。
優しい顔つきの不審者だが警戒で体が硬直して動けない珠紀の意識は、その光によって奪われて行く。

「い…や…」
「怖がらないで。ただ貴女に会いたいというお方がいらっしゃるのよ…だから眠ってちょうだい…」

優しい声音で清次郎は珠紀を眠りの淵へと誘う。珠紀はそれに抗おうとするが、その抵抗も虚しく膝から力が抜けて均衡を崩した。
倒れる寸前で清次郎は珠紀を抱え上げると素早い動きで外に出る。

「ニーッ!!ニーッ!!!」

その後を必死についてくるオサキ狐を振り返って清次郎は苦笑した。

「主人を守ろうとしてるのね…偉いわ。でもごめんなさい。貴方まで連れていけないのよ」

清次郎はそういうと顎下に手を添えてふっと息を吹いた。その息は優しい風を起こし、オサキ狐の体を取り巻く。宙に浮かんだ体をばたつかせオサキ狐はどうにかその風から逃れようともがくが、上手くいかない。

「ごめんなさいね…少しだけ貴方の主人を借りていくわ…」
「ニーッ!!ニーッ!!!」

オサキ狐の叫びも虚しく、清次郎の影は雨が降りしきる夜の帳に消えて行った。
するといくつかの足音が近づいて来た。オサキ狐は駆けつけた人物を見止めてさらに叫ぶ。

「オサキ狐!!どうした、お前!!」

拓磨がオサキ狐に触れると拘束していた風がなくなった。
オサキ狐は拓磨の手から降りるとすぐに珠紀が消えた方向へと走る。

「おい、どこに…!!」
「部屋に珠紀がいない!!」

真弘は珠紀の部屋を確認すると声を上げた。後から来た原田の表情が険しくなる。

「まさか…!!」

拓磨はすぐさま立ち上がるとオサキ狐を追った。

「おい、拓磨!?」

真弘と原田はすぐに彼の後を追った。
庭へと降りて屯所の外へオサキ狐は走る。その後を必死に追いかけた。雨で視界が悪い上に夜だ。足下に注意を払わなければ泥で足をすくわれる。
全身を雨に打たれながら走っているとピリっと肌を刺す緊張感を覚えた。

「ニーッ!!ニーッ!!ニーッ!!!」

オサキ狐が全身の毛を逆立て警戒心を露にする。拓磨はオサキ狐が睨む視線の先を凝視した。
この自分に出歩く者などいない。ましてや夜だ。聞こえるのは地面を打ち付ける雨の音だけ。家々を囲む塀の上に、その人物はいた。

「早いわね。やっぱり守護者は目敏いわ」

余裕を含んだその声音。闇に包まれ顔まではわからない。けれど。知っている。この緊迫した気配。何度も対峙してきたあの気配。

「典薬寮…!!!」

そこへ真弘と原田が駆けつける。

「あいつ…!!」
「珠紀!!!」

闇で見えないその影は珠紀を抱えている。三人は一斉に臨戦体勢をとった。

「やっぱり狙いは珠紀だったんだな!!典薬寮!!」
「少し隙が多いんじゃないかしら、守護者の方々?それは新撰組の方々にも言えることだけど…容易かったわ、新撰組に潜入することも…」
「何だと…!?」
「ずっと貴方達の行動を監視していたわ。そしてあの小さな鬼の娘も簡単に利用できたし…内部の情報も全て把握したわ…守護者の皆さん、貴方達が置かれている状況も知っているのよ?」
「はったりを…!!」
「あら?じゃぁどうしてこの子が外出したときにこの子は狙われたのかしら?鬼の守護者。貴方は知っているはずよね?」

名指しされた拓磨は眉を潜めた。
それは以前珠紀が巡察に出たときだ。あのときは冴鬼が珠紀を助けてくれたそうだが、駆けつけた拓磨は一度典薬寮と戦った。そのときの相手と今目の前の人物が一致しない。背格好も気配も違う。

「典薬寮は一人だと思っていた?残念。“私たち”はずっと貴方達を監視していた…だから姫を狙うことができた…」
「ちょっと待て…あの小さな鬼の娘って…一体誰のことだ!?」

原田は手にしていた槍を相手に向けたまま叫んだ。

「あぁ…まだ貴方達は知らなかったのよね…いずれわかることよ…全てね」
「…戯れ言はいい…!!珠紀を返せ…!!」

ずっと黙っていた真弘は足下から風を巻き起こし、いつでも相手に爆風をお見舞いできる体勢をとっていた。

「ごめんなさいね。それはできないの。玉依姫とはきちんとお話したい方がいて…」
「珠紀を返せッ!!!」

地を蹴ったのは拓磨だった。跳躍すると相手目がけて拳を握る。
だが拳が相手に当たる寸前で見えない膜に弾き飛ばされた。

「拓磨っ!!」

原田が地面に叩き付けつけられた拓磨を助け起こす。

「く、っそ…!!」

体が痺れる。きっと相手の術だ。あの防御壁に何か細工をしたのだろう。全身が痺れて思うように動かない。

「ごめんなさいね。でも私にも任務があるの。引き下がれないのよ」

相手は慈愛を含んだ声音で言うと珠紀を抱え直した。

「それじゃまた会いましょう。守護者の皆さん。新撰組の方」
「待てっ!!!」
「うおおおおっ!!!」

真弘と拓磨は同時に地を蹴った。真弘は攻撃を見舞い、拓磨は手を伸ばした。
眠る珠紀は目の前。手を伸ばし、彼女を掴もうとする。
爆音が当たりに響た。

「くそ…っ!!!」

爆音が止み、戻って来た雨音に当辺りは支配される。
塀の上にいたはずの影はどこにもない。ただ空を斬った己の拳を睨んで、拓磨は絶叫した。

「珠紀——————ッ!!!!」

答える声は無い。ただ激しい雨音が耳につくだけだった。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.229 )
日時: 2014/09/06 19:10
名前: さくら (ID: x2W/Uq33)

明けない夜はない。
一晩降り続いた雨は上がり、東の空から太陽が顔を出す。
辺りは太陽の光を反射してさらに朝日が眩しく感じられた。
だがそんな清々しい朝とは反対に拓磨たちの顔は曇っていた。

「…拓磨一旦屯所に戻ろう。一晩走り回って疲労も相当溜まっているはずだ…ここは出直そう」
「…原田さんの言うとおりだな…悔しいが…戻ろうぜ…それからまた探そう…」

雨に濡れた体は既に冷えきっており、京を走り回っていたせいで泥まみれだ。
珠紀が典薬寮にさらわれ夜通し探し回ったのだが、彼の姿どころか気配がどこにもなかった。
手がかりも何も得られぬまま、夜が明けてしまったのだ。

「…俺はもう少し探してきます…二人は先に屯所に————」

二人に背を向けて拓磨は歩き出そうとする。

「おい、拓—————」

拓磨を引き止めようと真弘が声をあげようとしたが、それを制したのは原田だった。

「拓磨。お前、立ってるのもやっとなんだろ。そんな状態でもし典薬寮とやらを見つけたとして、戦えるのか」
「…疲れてないっす。俺は大丈夫なんで—————」

拓磨の言葉を遮るように原田は槍の柄の部分で彼の背中に突きを見舞った。その衝撃で拓磨は前のめりに倒れる。

「何を…っ!!」
「どこが大丈夫なんだ?あ?今俺は軽く突いただけだぜ?体はお前が思ってる以上に疲れてんだよ。そんな状態で戦えるのか?答えろよ、拓磨」
「…っ」

肘を突いて拓磨は上体を起こして、原田を見上げた。その顔には怒りが滲んでいる。今すぐにでも槍の矛をこちらに向けそうな剣幕に真弘も押し黙った。

「…帰るぞ。一旦体勢を立て直して出直すのも悪くねぇ」
「…だ…」
「あ?」

拓磨は俯いて自分の拳を見つめて唇を噛んだ。

「俺は…珠紀に…あいつに…言ってないんだ…あのとき…言えなかった…約束を破ったからって…俺は…珠紀を…っ」

唇の端から血が滴る。静かな朝焼けのなか、拓磨の苦しげな声が響いた。

「悪いのは…あいつだけじゃない…俺だって…っ!!……あいつはきっと今も…自分を責めて…苦しんでるのに…早く見つけないと…っ…俺は…っ!!」

立ち上がろうとする拓磨を原田の大きな腕が止める。そして優しく彼の頭を抱いた。

「…そうだな…早く珠紀を見つけてやんねぇとな…きっと珠紀もお前を待ってる…だから、早く回復してまた珠紀を探しに行くぞ…わかったな?」
「っ…ぅ…!!」

こんなにも傷ついて。心も身体もぼろぼろだというのに、運命は彼らに苦難を強いる。互いを求め合うが故に傷つけ、そして同時に愛しく思う。
原田は恨んだ。裂かれた二人の間をさらに引き離す神の采配を。神など信じていないが、この二人を見ていると不憫に思えて神を恨まずにはいられない。

「俺も一緒に探す…必ず珠紀を見つける…だから帰ろう、拓磨…」

真弘は拓磨の肩を優しく叩くと立ち上がらせた。そして三人はよろつきながらも帰路についた。




屯所に戻る頃には太陽は登りきっていた。満身創痍で三人は玄関に入ると目を瞬く。

「…?何だ、随分と騒がしいな…」

平隊士達が慌ただしく廊下を行き交っていた。しかもその平隊士は伊東一派の顔ぶれだった。

「そうだ…!!昨日羅刹が逃げ出して…っその後どうなったんだ!?」

三人は顔を上げて広間に急いだ。すっかり失念していたが、羅刹は昨晩蔵から逃げ出し、その後のことはどうなったのか知らない。広間に向かう道すがら庭や廊下を見渡したが、羅刹の姿はどこにもない。どうやら土方達が上手く対処したのだろうが、この胸騒ぎは一体何なのか。
三人は広間障子を勢い良く開けた。

「まぁ、どうしたのですか、その格好…」
「原田、拓磨、真弘…」

そこには幹部全員が顔を揃えていた。それは侭あることだが、広間の緊迫した空気に違和感を覚える。
上座に近藤、土方、伊東が座っていた。伊東は三人の格好に一瞬眉を潜めたが、真弘を見つめて微笑した。

「ちょうど良かったですわ。鴉取君?本日を以てこの新撰組を後にすることになりました。準備を済ませておいて下さいね」
「え…」

優雅な口調で伊東は真弘に告げる。

「あら、驚くこともないでしょう?いずれここを離れると以前から言っていたことですわ」
「ど、どういう…ことっすか…先輩」

伊東の言葉が理解できない。拓磨は隣に佇む真弘を見つめた。

「…ま、待ってくれ、伊東さん!俺はまだここを離れる訳には…っ」
「あら、貴方の条件を飲めば貴方は私とともに来ると仰ったのではありませんか?」
「そ、それは…そうだけど…!!俺は、珠紀を探さねぇと—————」
「真弘」

その場にいた幹部の目付きが鋭いものとなり、真弘を射抜いた。
背中に冷たいものが流れ落ちる感覚に、真弘はぞっとする。
彼の腕を引いた藤堂は諌めるように声を抑えて言った。

「お前わかってねぇのか!?伊東さんについていくって言った以上それは絶対なんだよ…!口約束とか、そういう話じゃない。知ってるだろ、伊東さんが新しい攘夷志士を集めて独立しようって話…伊東さんについていくっていうことは、新撰組と対立するってことなんだ…!!一度言ったことは覆せない…違えればお前、腹斬ることになるかもしれねぇんだぞっ!」
「そ、それは…わかってる…!!けど、俺は今ここを離れるわけにはいかねぇんだ…!!」

問答している二人を見つめ、そして伊東に視線を移した原田は理解したように口端を吊り上げた。

「…なるほどな…そういうことか…」
「ど、どういうことですか、原田さん…!」
「伊東さん、昨日の羅刹を見たんだな…そうだろう、土方さん」

原田は確信を得たように笑ったが、それは苦悶に歪んでいるようだった。

「口を慎め、左之」
「羅刹を見た…!?そ、それがどうしてこんな…!!」
「私のせいですよ…」

困惑する拓磨は視線を移した。拓磨達が立っている入り口とは別の入り口から山南が現れた。

「山南さん、無理をしてはいけないよ!」

その後を追って来た井上は山南を諌める。だが山南は首を横に振って広間に入ると近藤達の近くに座った。

「もう大丈夫なの、山南さん」
「えぇ…何とか…」

沖田の言葉に山南は微笑して答えた。
この異様な光景は何だ。伊東と山南が同じ場所に座っている。この光景に違和感を感じるのは何故なのか。拓磨は目を細めた。
山南は昼間動けない身体。決して昼間に人前に現れない。羅刹は以前まで守護者に伏せていた人体実験。それは幕府からの密命。漏洩はできない。ここにやって来た頃から伊東一派と新撰組は対立していたように見えた。まさか。
目の前に広がる不気味とも言える光景を見たことで、その違和感は全て繋がった。

「伊東さんたちにも内緒にしてたのか…羅刹のこと…!!」

拓磨の言葉に一同は冷たい瞳になる。
誰も答えない。だが、拓磨にはそれが是ということがすぐにわかった。

「山南さんが生きていることすら伏せていらっしゃったんですもの。いけずな方々ですわ。こんなおぞましい場所にはいられません。だからここを出て行くのです」

近藤と土方は口を噤んで、黙っていた。

「あら、ここを出て行くからと言って意志を違えるつもりはありませんわ。私たちの世を変えようとする志は同じですから」
「そうですな、伊東さん」

近藤は慌てて答える。それから土方と近藤と伊東はこれからの話をいくつかした。資金はどうなる、隊士の采配など話し合われていたがそんなこと拓磨の耳には入ってこなかった。
同じ志士でありながら羅刹のことを隠していた。そして昨夜が発端で新撰組が分裂しようとしている。その発端を作ってしまったのは自分たちではないのか。羅刹を解放したのはきっと典薬寮だ。その騒ぎに乗じて珠紀をさらわれたのだから。

「…なるほど…体の良い言い訳だな…」

原田の悔しげな呟きだけが耳に入って来た。拓磨ははっと顔を上げ、真弘を振り返る。

「先輩、出て行くって…どうして…そんなこと、しないっすよね…?」

頼む。嘘であってくれ。何かの冗談だと願いたい。
だが目の前に佇む真弘は苦しげに眉根を寄せて、押し黙っていた。

「そうだ。俺たちはここを出て行く」

声が、響いた。振り返るとそこには祐一が立っていた。


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