二次創作小説(紙ほか)

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.49 )
日時: 2013/03/02 15:46
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

珠紀はすぐさま大蛇の元に駆け寄ってその手を握った。

「大蛇さんっ!?本当に大蛇さん?」
「あぁ、珠紀さん。貴方にどれほど会いたかったか…もっと確かめさせて下さい」

大蛇は珠紀を引き寄せて抱きしめる。思わぬ大蛇の行動に驚いたのは真弘の方で慌てて二人の間に割って入った。

「大蛇さん、勢い任せのスキンシップはそこまでにしてもらおうか」
「手厳しいですねぇ、鴉取君は」

渋々珠紀を放して大蛇は苦笑した。

「それにしても、何故珠紀さんや鴉取君まで…」
「私達は、別々に来たんですけど…どうして大蛇さんがここにいるんですか?」

話したいことが山のようにある。どうしてここに来たのか。今までどこでどうしていたのか。聞きたいことがありすぎて喉の奥でつっかえている。

「あの、お話は奥でされたらどうですか?私お茶を淹れてきますね」

傍いた千鶴の機転でとりあえず場所を変えることにした。



「大蛇さんはどうやってここに来たんだ?」

広間に移動した三人は向かい合うように座った。広間には三人意外誰も居ない。秋晴れの空を爽やかな風が吹きぬけ、その風は広間にまで届いた。

「私はただ、皆さんと一緒に蔵で掃除をしていて…ある書物が床に落ちたので拾おうとしたら、気が遠くなったんです。そうしたらここに…」
「え、大蛇さんも?」
「珠紀もか?」
「その言い方からすると鴉取君もですか?」

三人は記憶を手繰った。
あのとき、神社の蔵を珠紀と守護五家の面々で大掃除をしていた。
古い蔵は長年掃除されていない。蔵に入る度に埃が舞い、住みついている虫や鼠が徘徊している。これはそろそろ一掃して綺麗にすべきだという珠紀の提案で皆が動いた。

「で、朝から掃除してて…蔵の荷物を全部出そうってことになったんだよね…」

蔵に入っている書物から骨董品まで外に出していた時だった。
力持ちの拓磨を筆頭に男手は荷物を外に出していた。珠紀は掃き掃除をしてると、あることに気がついた。

『大蛇さん、これ捨ててもいいですか…あれ?大蛇さんは?』

周りを見渡しても大蛇の姿が見当たらない。珠紀は蔵の外に出て確認する。
だが、外には荷物を整理する慎司と祐一しかいない。もう一度蔵の中に戻って荷物運びをしていた拓磨と真弘を見止めて、小首を傾げる。

『大蛇さん?』

まだ荷物が散乱している蔵の奥に入っていく。奥で仕事をしているのかもしれないと思って珠紀は歩みを進めた。
奥には本棚が立ち並んでいる。棚をぎっしりと本が埋め尽くし、どれもが埃を被っていた。
長年人が使った形跡がない。その埃だらけの棚から一冊、書物が落ちていた。
誰もいないのに本が開いて落ちている。

『大蛇さん?どこ行ったのかなぁ?』

大蛇の姿が見当たらない。蔵を離れて母屋に戻ったのかもしれないと思った珠紀はその落ちている本を拾おうとした。
その刹那。
目も開けていられないほどの光が本から溢れ、閃光が意識を持っていくようだった。

たすけて———

珠紀が気を失う寸前にか細い声を聞いた気がした。
そうして目が覚めれば京都にいたのだ。

「私はこんな感じだったけど…皆は?」
「私も珠紀さんと同じですよ。蔵の奥に行くと本が落ちていたので、その本を拾おうとして…」
「俺も。珠紀と大蛇さんが見当たらないから奥に行って…そしたら本が…」

三人は互いを見つめた。わかったことが一つ。

「その本に近づいたら必ずここに飛ばされてるな…」

整理された本棚から一冊だけ。どこから落ちたのかその本は不自然に開いてまるで何かに誘っているようだった。

「一体何だ?その本は…」

真弘の問いに誰も答えられない。ただその本が何か鍵を握っているようだった。

「皆さんはいつこちらへ?」
「私は四日前に。先輩は?」
「俺と拓磨は三日前だったな。大蛇さんは?」
「私は一ヶ月前に…」
「一ヶ月!?」

珠紀と真弘は声を上げた。珠紀と真弘達に若干の時間差があるのは知っていたが、大蛇の一ヶ月という間隔の大きさに驚く。

「どうやらその本に近づいた時間の差が、こちらへ着く倍の時間ががかっているようですね…」

大蛇は掃除を始めてすぐにその本に近寄った。そして引き込まれ、時間が経ってから珠紀、真弘、拓磨と続いた。

「あーっ!!一体何がどうなってんだよ!」

わけが分からず真弘が叫んで思考を放棄する。
そこへ千鶴が茶を持ってやって来た。

「失礼します。お茶がはいりました」
「ありがとう、千鶴ちゃん」
「あぁ、気を遣って頂き有難うございます」

千鶴は三人に茶を配り、大蛇の顔をじっと見つめた。

「さっき松本先生と一緒に問診に来てくれていた…」
「大蛇卓と言います。今は松本先生のところでお世話になっているんですよ」

千鶴は洗濯をする前に松本と大蛇を玄関でみかけていた。その時の人物だとわかって千鶴は納得がいったように頷く。

「雪村千鶴です。おおみさんと言うと…珠紀ちゃん達が探していた人ですか?」
「そうなの。私達が探していた人だよ」
「見つかって良かったね」

珠紀が頷くと千鶴は自分のことのように喜んだ。

「なぁ」

真弘が突然声を上げた。一同は真弘の呼びかけに目を瞬く。

「どうかしましたか?鴉鳥君」
「思ったんだけどよ。俺達がいなくなったらきっと祐一や慎司が探してるんじゃねぇのか?」
「そういえば…」

三人が蔵で姿を消したのだ。今頃神社は大騒ぎしているに違いない。
そうして蔵を中心に捜索してれば、またあの本に近づき———

「祐一先輩や慎司君もこっちに来てるかもしれない…?」

珠紀の呟きを誰も否定出来なかった。その可能性は無きにしも非ず。だが必ず京都に飛ばさるかはわからない。この場所ではないところに飛ばされたり、もしかすると時代すら違うかもしれない。

「その可能性は捨て切れませんね…玉依姫に守護五家…何か意図を感じてなりません」
「意図って…誰のだよ」
「それがわかれば戻る方法もわかっていますよ。とにかく今は狐邑君と犬戒君を探してみましょう。玉依姫に守護五家が三人…ここまで揃うことに何か意味があるように思いますしね」

策士である大蛇でも今の状況を打開できない。まだわからないことが多すぎて現状すらよくわからないのだ。
今はただ待つしかない。

「そう言や、大蛇さんはその松本先生って人のところにいるのか?」
「えぇ。私が右も左もわからないときに松本先生が私を拾って下さったんですよ。その恩に報いるために今は松本先生の仕事を手伝っていっるんです」
「へぇ…良かったね。大蛇さん」
「珠紀さん達は?どうしてここに…」
「ちょっと色々あって新撰組の人にお世話になってるんです」

互いの置かれている現状を確認していると、ばたばたと足音が近づいて来た。

「あ、拓磨おかえり」
「あぁ、ってあれ、大蛇さん!?」

広間に現れた拓磨は目を丸くした。大蛇はにっこり笑って出迎える。

「おかえりなさい、鬼崎君。鬼崎君もこちらに来ていたんですね」
「え、え?何で大蛇さんがここに…!」
「ちょっと訳あって…詳細は二人に聞いて下さい」

困惑する拓磨に大蛇は立ち上がって肩を叩く。

「では、私はそろそろ…」
「えっ!もう帰っちゃうんですか?」
「松本先生を待たせていますし…ここにも出来るだけ来るようにしますね。ではまた」

大蛇は一礼してから広間を後にした。
残された珠紀達は安堵の笑みを浮かべる。

「でもま、大蛇さんが見つかっただけでも良しとしようじゃねぇか」
「そうだね。無事で良かった」
「その大蛇さんを今まで探してた俺の苦労は?」

拓磨の虚しい呟きに珠紀はくすりと笑った。

「お疲れ様だったね、拓磨」
「全くだ…俺、あの人苦手かも」
「あの人?」
「沖田さん。嫌味は言われるし…」
「あの人はそういう方なので…」

ともに同行していた千鶴は苦笑した。巡察から戻っても千鶴は洗濯にとりかかる一方で、拓磨だけ沖田に捕まって今日の反省をさせられた。
今までそれにつき合わされていた拓磨は疲れた顔で愚痴を零す。

「俺あの人に嫌われてるのかも…」
「いいじゃねぇか、別に。俺も嫌いな奴できたし」
「先輩にも何かあったみたいだね…」

やさぐれている真弘はきっと藤堂のことを言っているのだろう。隊士となった二人は前途多難だ。
頭を抱える男二人を見て、珠紀と千鶴は苦笑して宥めるしかなかった。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.50 )
日時: 2013/03/06 00:14
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

「火の玉?」

次の日の朝餉に可笑しな議題が上がった。
広間に集まった幹部の面々と珠紀達は目を瞬く。

「あぁ、聞いた者もいるとは思うが三条大橋で制札が何者かに引き抜かれた事件が起こった。そのときに制札を抜き去った者と火の玉を見たっていう目撃情報が入ったんだ」

土方は箸を膳に置いて広間にいる面々を見渡した。

「そのうちまた俺達に出動命令が出るだろうが、そのときは気を引き締めていけよ」

幹部達は深く頷く。土方の隣で朝餉に手をつけず腕を組んでいた近藤が首を傾げた。

「しかし火の玉とはまた妙だな…ただの噂か?」
「制札を引っこ抜いたっていう輩が三条大橋に人を近づけないために流したって可能性も捨てきれないな」
「けど何で火の玉なんですかね?噂を流すならもっと違ったものを流せば良いのに」
「もしかして、本当に火の玉だったりして!?」

自分の両肩を抱いて震え上がる永倉に原田が鼻で笑った。

「何だ、新八。びびってんのか?」
「別にビビッてねぇよ!ただ時間が夜だったし、噂が嘘かもしれねぇだろ?」
「ビビッてんじゃねぇか」

一同が様々な異論や予想を唱えるなか、珠紀は隣に座っていた拓磨にそっと耳打ちした。

「火の玉って…妖か何かかな?」
「さぁな。だがこの時代の方が妖やら神やらがその辺でうろちょろしてるし…今日だって町に結構いたぞ」
「私達も行った方がいいのかな?」
「ああーっ!!」

二人の声が藤堂の叫び声によって遮られた。横に視線を走らせれば藤堂が箸を真っ二つに折らん勢いで拳を握り締めている。肩を震わせて藤堂はその隣に座っている真弘を睨んでいた。

「俺の焼き魚取ったろ…!!」
「はぁ?取ってねぇし、言いがかりかよ」
「嘘付け!口から魚の尻尾見えてるし!!」
「誰かさんは魚食わなくても身長があるんだから、焼き魚なんざいらねぇだろ?親切に食ってやったんだよ」
「はぁ!?きったねー!昨日のことまだ気にしてんのかよっ!俺のおかず返せっ」
「あっ!それ俺の焼き魚!!」

あっという間におかず争奪戦が始まり、手が付けられないほど二人は攻防を繰り返す。
その様子を見て土方は盛大に溜息をついた。出会いがどうっだったかは知らないが、ここまで仲が悪いとは思わなかった。歳が近い藤堂の下なら大丈夫かと思ったが、精神年齢が同じであればその配慮も愚策になってしまった。
代わって近藤はにこにこと微笑んでいる。

「いいなぁ。まるで兄弟喧嘩のようで」
「近藤さん、そういう問題じゃ…」
「二人ともおかずなら俺のをやろう」

まるで父親のようなその行動に土方は更に大きな溜息を零した。近藤は人が良すぎる。そのおかげもあってこれほど組織が大きくなったと言えるが、それは裏で土方が反面教師を買って出たからだ。
また二人の配偶について考え直さなければ、と土方は頭を押さえた。




「先輩があんな子供染みたことするなんて…」
「?何か言ったか?珠紀」
「あ、いえ!」

朝食後、屯所を掃除することとなり原田と珠紀は広間の掃除を任された。障子を外したり、箪笥を移動したりする程大掛かりではないが、月に一度はこうして屯所内を一掃するらしい。
だが巡察に向かった隊が抜け、残った人数で屯所を掃除しなければならない。そのせいで広間の掃除は二人でやるしかなかった。

「ま、ざっとこんなもんだな。次は床を掃いて、水拭きか」

障子を全開にして広間の埃を追い出す。叩きを片手に頷いた原田は珠紀を見た。

「じゃぁ次は箒で床掃いてくれるか?」
「あ、はい」

珠紀は蔵から持ってきた箒を手にとって、床掃除を始めた。
原田はその間桶の水に雑巾を濡らして高くて埃が溜まりやすい格子を掃除する。
珠紀は時折原田にごみの分別を確認しながら広間の掃除を進めた。

「あの、原田さん」
「んー?」

床の水拭きに取り掛かっていた原田は顔を上げた。

「小姓の仕事って一体何をすれば…?」
「小姓?あぁそうか。初めはそういう話だったな」

ずっと抱いていた疑問を原田にぶつけた。珠紀の予想では側近のようなお付のような役割なのだろうが、武士の小姓となればその仕事内容は想像ができない。
原田は立ち上がって笑って見せた。

「特別これっていう仕事はないな。俺は近藤さんみたいに多忙じゃねぇし、誰かの手を借りてやる仕事なんざねぇし」
「じゃぁ私は一体ここで何をすれば…?」
「そうだな…」

一体何のために原田の隊に入ったのかわからない。何かの役に立たなければ、ここに身を置いている者として申し訳がないと思った珠紀は焦った。
土方とも約束したのだ。役に立たなければここを追い出す、と。
原田はしばらく考えて珠紀を見つめた。

「じゃぁ俺の酒の相手でも今度してくれりゃ十分だ」
「お、お酒の相手ですか?」
「大役だぜ?ここは男ばっかだしたまには女と飲みたいしな。何だ不満か?」
「いえ…でも私も拓磨たちみたいに外に出て役に立ちたいんです」

珠紀は真剣だった。男の真弘と拓磨は外へ出て仕事をしているのに、自分だけのうのうと時間を無駄にしていいものか。
珠紀の真摯な眼差しを受けて、原田は浮かべていた笑みを消した。

「女のお前に血なまぐさいことは任せられねぇ。土方さんもそれを思って俺の小姓にしたんだろうな。お前はまだ知らないだろうが、この時代斬られても文句は言えねぇんだ。そんな危険な町へ出せる訳ねぇだろ?」
「危険だから———そんな理由で役立たずにはなりたくありません」

珠紀は原田を真っ直ぐに見上げて答えた。

「何も外にでることだけが役に立つわけじゃねぇ。今みたいに掃除を手伝ってくれたり、家事だって…」
「自分の身は自分で守ります」

わかっていた。遠回しに原田が巡察の足手まといになると言っていることくらい。
それでも役に立ちたい。自分を救ってくれた原田のためにも。
守られて過ごす日々には飽き飽きだ。

「ったく…しょうがねぇなぁ…」

原田は珠紀の視線に負けて、困ったように頭を掻いた。

「わかった…巡察に連れて行けるかどうか、俺が後で土方さんに掛け合ってみる」
「ありがとうございますっ」

頭を下げる珠紀に、原田は感嘆した。強情というか、頑固というか。
絶対に譲れない芯を持っている珠紀の心根に驚いた。

「女は男が守るもんなんだがな」
「え?」
「お前はやっぱりいい女だよ、珠紀」

原田は一歩足を進めて珠紀との距離を縮めた。そして珠紀の横髪を指ですくう。
原田の顔が近くなったことに珠紀は狼狽した。うっそりとした原田の視線に心臓が早鐘をを打つ。顔が火照っていくのが自分でもわかった。

「原田さん…?」

原田は黙ったまま距離を縮める。珠紀はいてもたっても居られず、ぎゅっと目を閉じた。

「…ん。よし、取れたぞ」
「…え?」

目を開けると原田が埃を手に笑っていた。

「埃が髪についてたぜ。何で顔が赤いんだ?」
「それは、は、原田さんが…っ!」

からかわれたことに珠紀は恥ずかしさで叫んでしまった。原田は微笑して珠紀の反応を楽しむ。
和やかな空気が流れる広間の二人を遠くから見ていた影があった。
拓磨も掃除を任され奔走していたところだ。沖田にこき使われ、ごみを捨てに行こうとしていた。
廊下を歩いていたら声がした。その方向に目をやって拓磨は目を細めた。
やけに原田と珠紀の距離が近い。否、近すぎる。拓磨は手にしていたごみを握り締めた。胸に渦巻く感情が息を詰まらせる。
何を妬いているのだろうと冷静になってごみ捨てに向かう。
廊下をずんずん歩いて拓磨は必死に怒りを静めようとしていた。そのため前方が不注意になっていた。角から曲がってきた人影に気付くのが一瞬遅れてしまった。

「きゃっ」
「っと」

軽くぶつかった程度だが拓磨の方が頑丈だったため、千鶴は後ろによろめいた。
咄嗟に千鶴の手を取って何とか転倒は回避できた。

「悪い、ぼーっとしてて…」
「あ、ううん。大丈夫、ありがとう」

手を引かれて体勢を立て直した千鶴は腰を曲げて頭を下げる。

「あ、拓磨君っ」

千鶴は床を指差して悲鳴を上げた。視線を落とせば持っていたごみが散乱していた。千鶴に気を取られて手から落としたらしい。拓磨はすぐさま屈んでごみを拾う。

「ごめんなさい。私のせいで…」
「俺が呆けてたから悪かったんだ。気にするな」

二人でごみを拾い終わると立ち上がった。

「このごみって裏に捨てたらいいのか?」
「あ、うん。私も一緒に行くよ。ちょうど裏の蔵に布巾を取りに行くし…」
「いいのか?じゃぁ頼む」
「うん」

二人は肩を並べて裏に向かった。鬼であるためか、互いが傍にいると安心する。無言の沈黙も嫌にはならなかった。

「拓磨君」
「?」

呼び止められて拓磨は千鶴を見た。

「何かあったの?何ていうか…拓磨君怒ってるみたい…」

鬼の血かそれとも女の勘か。千鶴は拓磨の感情の些事を敏感に感じ取って拓磨を心配そうに見つめた。

「凄いな、お見通しってわけか」
「あ、嫌なら別に無理に言わなくても…」
「俺も心の狭い男になったみたいだ…」

拓磨はぽつりぽつりと語りだした。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.51 )
日時: 2013/03/08 01:09
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

「拓磨君?」

秋の冷たい風が二人の間に流れる。季節は晩秋から初冬に移ろうとしていた。

「お互い好きになったら…あいつのに近づくもの全てが妬ましくて…あいつの全部が欲しいって思うようになってた…」

初めて出会ったときうるさい女だと思った。すぐに泣いて、あれやこれやと喚いて。けれど決して逃げなかった。悲しい運命をともにしたときでも、その運命に抗うことを選んだ。
強情で自分の意思を絶対に曲げない。泣き虫のくせに敵に立ち向かうその姿がいつしか拓磨の心を奪っていた。

「…っと何言ってるか訳わかんねぇよな。悪い、変なこと言った」

拓磨は睨んでいた空から視線を剥がして、千鶴に微笑んだ。

「ううん。私はいいの。つらいことがあったらいつでも言ってね?私で良ければ力になるから」
「ありがとう」

拓磨が誰を想って言っているのかは定かではないが、千鶴は心配そうに言った。
本能の安らぐのを感じて、拓磨は目を細めた。同族だからなどという理由ではない。ただ単純に彼女の優しい心根に惹かれていると感じた拓磨は微笑する。
裏手に回って千鶴が蔵に入って布巾を取りに行っている間、拓磨は焼却炉らしきところにごみを捨てた。
ふぅっと息をついたとき、背中からじわじわと何かが這い上がってくるのを感じた。全身が総毛立つ。
視線を感じて振り返れば、空き部屋の角から人影が見て取れた。
この屯所はもとは寺だったらしい所を改築したらしい。広い敷地内に立っている建物自体も荘厳だ。
その建物の影からこちらを睨んでいる人影は、男らしく刀を提げている。日向を避けるように日陰からこちら様子を窺っていて、風貌まではっきりと見えない。
拓磨は本能が『あれは違う』と叫んでいることに気付いた。

「違うって、何が———」

自分に問いただそうとしたとき、その人影は角に姿を消した。
その人影はここに初めてきたときに感じたものに似ている。ざわざわと神経を逆撫でるような気配が、屯所のあちこちで感じていた。その気配は夜になれば更に色濃くなるようだった。

「拓磨くん?どうかしたの?」

鋭い眼光で人影がいた方を睨んでいた拓磨は相当険しい顔をしていたのだろう。千鶴は心配そうに顔を覗きこんできた。

「あぁ、何でもない…」

本能の警鐘がその後鳴り止むまでに時間がかかった。

「あ…」

床の水拭きが一段落した珠紀はふと顔を上げた。廊下を歩く拓磨と千鶴から視線が釘付けになる。
二人は会話を弾ませながら広間の前を通っていく。

「あんな拓磨の顔、見たことない…私のときにはあんな顔したことないじゃない…」

千鶴に向ける優しい笑顔は見たことがない。珠紀の胸の奥がちくりと痛む。二人を見ていられなくなって、珠紀は目を伏せた。

「何か言ったか?珠紀」
「いえ…」

もう一度二人が居た場所に視線を向けるが、もうそこには誰も居ない。

「さて、ここいらで終わりにするか。珠紀、片付けるぞ」
「はい」

珠紀は胸の最奥で疼く感情に顔を歪ませた。




「あー…早く帰りてぇ」

一方その頃真弘は町に居た。
今日は藤堂率いる八番隊が巡察の当番日だ。当然真弘も八番隊に入隊したのだから、隊士として同行しなくてはならない。
平隊士が並んで歩く最後尾を真弘は気だるそうに歩いていた。
隊の先頭を切って歩く藤堂が後ろを振り返った。

「よし、ここら辺で聞き込みするぞ」

藤堂の掛け声で隊士達が散っていく。通りには店が連なり、人の往来が多い。一人動かない真弘に藤堂は歩み寄った。

「お前も人探ししてるんだろ?早く聞き込みしろよ」
「うっせーなぁ。行けばいいんだろ、行けば」
「お前一言多いよな」
「上から目線で俺に命令するな」
「はぁ?だから俺はお前の隊長で———」

藤堂が抗議しているとき、真弘に目線の先に一人の男がいた。男は辺りを窺いながら雑貨屋に入って手近な骨董品を懐に滑り込ませた。

「あいつ———っ」
「あ、おい!」

真弘は男を追って駆け出した。男は細道に入り、どんどんと狭い道へと走りぬける。真弘は風を身にまとい加速するが、何度も角を曲がる男を見失わないように追撃するのがやっとだった。

「っち」

角を曲がったり細い道は相手を見失いやすい。真弘は一度跳躍して空から男を追う。そして男の先回りをして、真弘はひらりと男の前に着地した。

「っ!?」
「おっさん、懐に隠したもん出せよ」

空から現れた真弘に驚いたのか、その羽織の色に驚いたのか。男は目を見張った。
だがすぐに不敵な笑みを浮かべた。

「くくくっ…」
「あん?何がおかしいんだよ?」

男は可笑しくて堪らないというように笑い続けた。

「あははははっ」
「!?」

細い道を縫うように辿り着いたその場所は全く人気がない。四方は建物が立ち並んで辺りは暗かった。
その影からぞろぞろと男が出て来た。ざっと数えて十人はいる。刀を腰に提げた男達は真弘を囲んで嗤っていた。

「馬鹿だよなぁ、お前。誘導されたって何で気付かないんだからさ」
「何だと———?」
「策に嵌ったってまだ気付かねぇのか?」

どっと真弘を囲む男達が嗤った。
どうやらこの羽織を見て新撰組と判断した不逞浪士達は真弘をこの場所まで誘ったのだ。
まんまと罠に嵌った真弘は舌打ちした。
この場面を過去、どこかで出くわした気がした。記憶を手繰って真弘は思い出す。それはこの時代に来て間もない頃。拓磨とともに柄の悪い武士に絡まれたあの状況と似ている。

「我々は攘夷志士だ。米田先生の敵、討たせてもらおうか」

当然その男の名に覚えはない。以前新撰組が捕らえたか、斬殺した者だということはわかった。

「ったく、新撰組ってのはどんだけ周りから恨みを買ってんだ」

見ず知らずの武士から恨み言を言われるほど、新撰組は随分と喧嘩を買ってきたらしい。真弘はこの羽織を睨んだ。この羽織さえ着ていなければ、こんな面倒ごとに巻き込まれることはなかった。

「大人しく死んでもらおうか」

男達が一斉に抜刀する。だが真弘は微動だにしない。男達は真弘が慄いているのだと思い、一気に飛び掛った。
だが———

「だから巡察なんて来たくなかったんだ」

真弘が手を天に向けると突然台風のような爆風が巻き起こった。土埃が舞い、暴風は真弘の手に集まる。

「な、何だ!?」

一瞬怯んだ浪士達はしかし真弘に目掛けて再び刀を向けた。
数人が飛び掛る。真弘は手に集まった爆風を男達に見舞った。嵐のような風は男達を巻き上げ、空高く舞い上がる。そしてその勢いで地面に叩き付けた。

「この———!!」
「っ!?」

背後から腕を拘束され、真弘は身動きが取れなくなる。その隙に浪士達は刀を振り上げた。

「相手が悪かったな、おっさん」
「あ?」

真弘の呟きはもう聞こえない。真弘自身を中心にして爆風が起こる。あまりの風の強さに真弘を押さえ込んでいた男が吹き飛ばされた。
髪をなびかせ、羽織をはためかせ、真弘は周りの男を睨んだ。

「吹き飛びたい奴からかかってこいよ!」
「ひっ…」

異常な技を使う真弘に怯えた浪士達は後退した。だがその逃げ道を塞いだのは、同じだんだら模様の羽織を着た男だった。

「どこ行くんだよ?」

藤堂は抜刀した刀を浪士に向けた。浪士は焼けになって刀を振り回す。だが、どの剣撃も藤堂にはお見通しだった。全ての攻撃を造作なくあしらうと、隙を突いて一閃する。

「くそっ!!」

藤堂の背後に回り、刀を振り上げる浪士に、反応が遅れた。藤堂は振り返るのがやっとで剣先は目の前まで迫っていた。まずい、と思ったその刹那。
刃物のように鋭い風が脇を通り抜け、男の顔面に直撃した。男はもんどりうって地面に突っ伏した。

「背後ばかりこそこそ狙いやがって———」

真弘は残りの数人を睨みながら、両手に風を集める。真弘の腕に巻きつくように暴風は渦巻く。男達の顔が引き攣っていく。巨大な風の爆弾を真弘が掲げた。

「吹き飛べぇっ!!」

土埃を巻き上げながらその爆風は男達に命中した。一旦空高く舞い上がった男達はそのまま地面に落ちる。気を失った男達を見下ろして、藤堂は感嘆した。

「これ、全部お前がやったのか?」
「まぁな。ったく姑息な真似ばっかりしやがって…」

先ほどの藤堂の技の数々に、藤堂は心底驚いた。素手で、刀を持った武士に勝った。土方が認めるだけはあるとようやく納得した。

「とりあえず、こいつら捕まえて———っ!真弘!!」

気配を感じて藤堂は咄嗟に真弘を突き飛ばした。
建物の影から閃光が走る。それは真弘を確実に狙っていたが、藤堂が突き飛ばしたおかげで標的から外れた。

「待て!」
「追うなって!!深追いしてまた返り討ちにあったらどうするんだよ!」

影から気配が遠のくのを感じて、真弘は顔を顰めた。今の攻撃は知っている。呪符を使ったときに反応で起こるあの閃光。あれは———

「とにかく、こいつら捕まえて屯所に戻るぞ」

真弘は渋々藤堂に同意した。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.52 )
日時: 2013/03/13 00:10
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

不逞浪士を捕縛して連行する道すがら、真弘は腕を組んで考え込んでいた。
先ほど浪士達の罠に嵌った真弘は藤堂の助けを借りて、その状況を打破できた。が、浪士を全員倒したと思ったときだ。
建物の物陰から閃光が走り、真弘を攻撃した。藤堂の咄嗟の行動で事なきを得たが、避けていなければ確実に命中していた。
加えてその閃光には見覚えがある。

「あれは、芦屋がよく使っていた呪符の反応だった…」

鬼斬丸と玉依姫を管理する典薬寮の一員、芦屋は陰陽道を使って呪符や卜部を使ってときに干渉してきた。
その時に得意とする呪符を使って守護五家の邪魔ばかりしていた。呪符を使用したときに起こる閃光の反応が似ている。
だがわかることはそれだけで、なぜ真弘を狙ったのか、その者は何者なのか。考えれば謎は深まる一方で、真弘はふっと溜息をついた。
一つ確信したことは自分“だけ”が狙われたこと。
新撰組に仇討ちを企んでいたなら、近くにいた藤堂も狙ったはずだ。新撰組の羽織を着ていながら真弘を狙ったということは、真弘の正体を知っているということだ。

「ここに俺達の正体を知っている奴なんて…」

新撰組の幹部達と町で出会ったお千という人物くらいだ。
それ以外の者に知られたつもりはない。
真弘達が預かり知らぬ所で何かが動いているのは明確だ。鬼斬丸が絡んでいるようでならない。

「真弘」

隊の先頭の肩を切って歩いていた藤堂が、最後尾を歩いていた真弘のところまで下がってきた。
現実に引き戻された真弘は顔を上げる。

「その、さっきはありがとな。背中を取られるなんて、俺もまだまだだなぁ」

藤堂が先ほど浪士達に襲われたことを言っているのだとわかった真弘は目を瞬いた。
礼を言われるとは思ってもいなかった。
無意識にやっていたことに礼を述べられても困る。だが結果的に藤堂を助けたということになったのだ。真弘はどこかむず痒さに苛まれる。

「ま、俺様がいたから助かったんだな。敬え」
「相変わらず上から目線だなぁ、お前」

照れ隠しのつもりであえて胸を張って威張った。だがすぐに真弘は顔を伏せた。

「えぇっと…俺も助かった…」
「え?」

あまりに小さな声で真弘が言ったものだから、藤堂は目を瞬いた。空耳だろうか、今———

「ったく!このくらい俺だけでどうにかできたんだよっ」
「うっわ、素直じゃねぇな」
「うっせー」

互いに毒づきながらも笑い合っていた。
危機的状況を打開できたのは二人あってのことだ。それは言わずとも二人はわかっている。口にするのが恥ずかしいだけで、互いの欠点を補うことに充実感を覚えた二人の間に新しい関係が生まれた瞬間だった。



捕り物は久しぶりだったらしく、藤堂の帰還に屯所はざわめきたった。

「よくやったな、平助」
「へぇ…すごいじゃない」
「お前が捕り物なんざ珍しいじゃねぇか」

斎藤、沖田、原田が屯所内の清掃を終えて広間で一服してるところに藤堂の朗報に喜んだ。

「その浪士は例の制札騒ぎの…?」
「いや、違うけど俺達に恨みがあるみたいでさ。最初真弘が襲われたんだけど、こいつが頑張ったから捕縛できたんだよ」
「へぇ、君が?」

報告を兼ねて広間に同行していた真弘は藤堂に話を振られて目を瞬いた。

「よくやったな、二人とも。後は俺が引き受けよう。ご苦労だった」

広間の上座に腰を下ろして話を聞いていた土方は満足そうに頷いた。
目を吊り上げて厳しい言動が多い奴だと思っていた真弘はこのとき違う印象を抱く。褒められるとは思っていなかった真弘は胸が疼くのがわかった。
その後報告を終えて真弘は自室に戻る。
真弘の胸に去来する感情に我知らず体が震えた。自分が認められたようで嬉しかったことが本音だ。
ここに来て無理やりに隊士に入隊させられ、自分の本意でない部分が多かった。望んで隊士になった訳でもないのに気に食わない隊長の隊に入ったときは嫌気がさしたくらいだ。
だが、悪くない。
真弘は上機嫌で着替え始めた。



一方真弘の心とは裏腹に空模様は芳しくなかった。
先ほどまで晴れ渡っていた空はどこからか現れた黒い雨雲に覆われる。

「やだ、一雨降るのかな?」

広間の掃除を終えて、珠紀は井戸で手を洗っているところだった。急に暗くなり始めた空を見上げて眉を顰める。
振り出す前に部屋に戻ろうと珠紀が足を向けたときだ。
庭の方から声が聞こえた。何となくそちらに足を方向転換して、庭に顔を覗かせる。
洗濯物が埋め尽くす庭を千鶴と拓磨の姿が見て取れた。

「降りだす前に全部取り込まなくちゃ」
「俺も手伝おう」

清掃を終えてからも二人は一緒だったらしい。庭に下りて洗濯物を仲良く取り込み始めた。珠紀の胸の痛みが一層強まった。針で胸を深く突かれたようにひどく痛む。
珠紀がまどかしいと思ったのは洗濯物が邪魔して二人の姿がよく見えないことだ。
だが見なくともわかる。二人の会話が弾んでいること。見え隠れする二人の顔に笑みが浮かんでいること。

「っ…」

見たくない。
そう思った珠紀は背を向けて井戸へと戻る。見なければ良かった。
後悔と痛みが胸に渦巻いて、珠紀は頭を振る。

「千鶴ちゃんと拓磨…そんな、まさかね」

珠紀の呟きは空に虚しく霧散する。井戸の底を覗けば自分の顔が映った。その自分の顔を見つめて珠紀は胸を押さえる。
きっと杞憂に過ぎない。大丈夫。自分は少し心配性なのだ。
そう言い聞かせて珠紀は水面に映る自分に笑いかけた。もっと自分を、拓磨を信じるべきだ。
珠紀は気を取り直して部屋に上がった。
部屋に戻る途中で珠紀は目を瞬く。隊士達が騒がしい。隊服を着てばたばたと何かの準備をしている。

「珠紀」
「原田さん」

広間を覗くと土方と原田、その隣に永倉がいた。

「あれ、永倉さん。今から巡察なんですか?」
「おうよ。ついさっき三条大橋の制札を守護しろって命が下ったところだ。今から晩までちょっくら言ってくるわ」

永倉は刀を腰に提げて颯爽と出て行った。その後姿はやる気に満ちて珠紀は羨望の眼差しを送った。
自分も外に出て何かの役に立ちたい。祐一や慎司の捜索だってしたい。
その眼差しに気付いた原田が肩をすくめる。そして土方に視線を送った。

「珠紀」
「はい」

土方の硬い声音に珠紀は身が引き締まる思いだった。

「原田とともに巡察に出たいらしいな」
「はい」
「回りくどいのは好きじゃねぇ。簡潔に言うが、女の身であるお前が行ったところで足手まといになるだけだ」
「…はい」

土方の言葉は正しい。誰もが刀という凶器を持ち歩く時代だ。いつどんなときに危険に巻き込まれてもおかしくない。
それでも———

「待っているだけは嫌なんです。誰かに守られているばかりも嫌なんです。私は、私にできることを精一杯やりたいんです」

珠紀は真っ直ぐに土方を見つめた。
許可など出ないかもしれない。荷物にしかならい者を外に出して何の得があるともいえない。
土方は珠紀の目を見据えた後厳しい表情を少し和らげた。

「…良いだろう。よく考えればお前は出会ったとき武士相手に打ち負かしたんだ。その力量さえあれば巡察の足手まといにはならねぇだろ」
「ありがとうごさいますっ」

頭を下げる珠紀に土方は呆れたように溜息をついた。

「まったく、どこかの馬鹿とお前は良く似てるよ」
「だな」
「?」

土方と原田が苦笑する訳がわからず、珠紀は小首を傾げた。
ともあれ、許可は下りた。珠紀はもう一度頭を下げて広を後にする。上機嫌で部屋に戻ろうとしたところで、拓磨と鉢合わせした。

「拓磨…」
「さっき広間で何を話してたんだ?巡察がどうとか言ってたが…」
「別に。拓磨には関係ないよ」

しまった、と珠紀は内心後悔した。だがもう遅い。拓磨の顔が曇る。

「それより、千鶴ちゃんはもういいの?」
「は?何で千鶴の話になるんだよ」

拓磨の表情が険しさを帯びる。だが珠紀も引き下がらず、拓磨を睨んだ。

「楽しそうに洗濯物取り込んでたでしょ」
「それとこれとは話が別だろう。いきなり何言い出すんだよ」
「別じゃない!その前だって二人で廊下歩いてじゃない」
「…じゃぁ俺も言わせてもらうけど、お前だって原田って奴と随分仲良くしてるみたいだな」
「何言ってるの拓磨?原田さんは普通だよ。ってかそんな目で見てたの?」

二人の視線がぶつかり合う。火花が散りそうな空気が重い。

「信用されてないんだね、私」
「どっちが」

拓磨が呆れたように言い捨てた。その態度に珠紀は目を見開く。

「千鶴は関係ない。隠し事するお前にとやかく言われたくないな」

追い討ちをかけるように重ねられた言葉に珠紀は今度こそ、自分のなかの何かが瓦解していくのを感じた。
目の前が暗くなる。天候のせいではない。
珠紀は軋む胸を押さえて声を振り絞った。

「…そう。じゃぁずっと千鶴ちゃんの傍に居ればいいでしょ!!」
「おい、珠紀っ」

珠紀はそのまま駆け出した。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.53 )
日時: 2013/03/13 22:44
名前: さくら (ID: MmCaxbRG)

珠紀は無我夢中で走った。
馬鹿、馬鹿、馬鹿———私の馬鹿…ッ
意地を張らなければ良かった。素直になれば良かった。
後悔だけが胸を占めて胸が苦しい。肺が悲鳴を上げる。四肢が限界を迎えたところで足を止めた。ふと周りを見れば屯所を抜け、知らない場所まで来ていた。

「ここ…どこかだろう…」

息を整えて自分がやってきた後ろを振り返った。
誰も追ってくる気配はない。拓磨が追いかけて来てくれるのではないかと期待した珠紀は更に胸が軋んだ。

「…やだ、もう…自分が嫌になる…」

その場にへたりこんで、珠紀は溢れる涙を零した。
それに同調するかのようにどんよりと曇った空から冷たい雨が降り出す。
最初は細い雨だったが、次第に雨粒は大きくなり地面を叩きつけるほどの豪雨となった。
体温が次第に奪われていく。冷え切った指先で何度も涙を拭って、珠紀は視線をさ迷わせた。
どれだけ目を凝らしても激しい雨のせいで視界が悪い。それでも懸命に見渡す。
建物は近くの民家だけ。人の姿は見当たらない。この雨で皆家屋の中に非難しているのだろう。近くで川の水量が増水しているらしい。激しい水音が聞こえた。その川の上に橋が架かっている。
その橋を渡ってきたことを何とか思い出して、珠紀はよろよろと立ち上がった。橋に向かって歩く。

「戻らなくちゃ…」

こんなところに居ては皆が心配する。自分の軽率な行動に反省しながら、とぼとぼと橋を歩いた。
戻りたくないと思う反面、足を叱責して歩く。こんな子供染みたことをして何になる。
珠紀が橋の半ばまで歩いたところで、突然頭に激しい痛みが走った。
じんじんと頭痛の波紋を広げ、珠紀は痛みに耐えかねて橋の香蘭に寄りかかった。

「っ…!!封印…っ?」

頭痛が警鐘のように何かを訴えてかける。その鈍い痛みには覚えがある。何もこんなときに。珠紀はその場に座り込む。頭痛が激しくて立っていることもままならない。
どくどくと心臓が早鐘を打つ。体は冷え切っているというのに汗が噴出し、頭痛の波紋は全身にめぐる。そして突如全身を裂かれたような比べものにならない激痛が走った。
知っている。この感覚は———

「封印が…封具がっ…!!」

ひとつの封具が何者かに破られた。体中が痛みを訴える。鬼斬丸を封じる封印具が奪取された。珠紀は力を込めて立ち上がる。どうにかしないと。
だが、足は思ったように動いてくれない。香蘭に寄りかかりながら歩こうとしてみるが、上手くいかない。珠紀は歯噛みした。
焦燥と相まって思うようにいかない。封具が破られた方向を睨む。
行かなくては。そう思って一歩踏み出したときに均衡を崩してその場に倒れこんだ。

「…っ」

情けない。拓磨に焼餅など焼いて、勢いで飛び出してきてこのざまだ。自分だけでは何もできない。出来ないどころかこうして誰かの救いを願う始末だ。自分が嫌になる。
その時だった。
激しい豪雨の音で聞こえなかったが、ひとつの足音が近づいてきた。

「拓、磨…?」

何とか顔を上げた珠紀は雨で霞む視界でも、それは拓磨ではないとすぐにわかった。
漆黒の羽織に白の長着。高貴そうな威厳を放つ男の腰には刀と脇差が提げられている。番傘を片手に首には飾りをつけ、驚いたのはその髪の色だ。薄く茶色がかった短髪が揺れる。そして赤い瞳と目が合った。

「あ…」

怖い。
本能が叫んでいる。玉依姫の血がざわめいた。これは危険だ、と。
だが体が思うように動かない珠紀にはどうすることもできず、ただその人を見上げた。

「女がこんなところで何をしている」

男装をして姿を偽っているにも関わらず、その男は珠紀を女だと見破った。低い声音に何の感情も感じられず、珠紀は硬直する。
怖い。恐い。こわい。
恐怖が全身を金縛る。赤い瞳から視線を逸らせずに珠紀は震えた。

「ふん…怯えているのか」

男が嘲笑って珠紀の前で膝を屈めた。雨で見えなかった男の顔が近づく。
綺麗に整った顔立ちはさらに恐怖を与えた。珠紀はどうすることもできずに男を見つめる。

「…変わった気配をしているな……お前、何者だ?」
「ぁ…わ、たし…は…」

珠紀を凝視して眉を顰める男に珠紀は慄く。体が冷え切っているせいか恐怖のせいか、珠紀は上手く喋れなかった。
ふっと男が手を伸ばす。
珠紀は咄嗟に目を瞑った。くっと顎を持ち上げられ、顔をまじまじと一瞥される。

「鬼の類でも妖の類でもないようだな…いやもっと崇高な…神気すら感じる…」

鼻が触れ合ってしまうのではないかと思うほど男は顔を近づけ、珠紀を見つめる。
どうしよう。拓磨、拓磨、恐い。助けて。

「そう怯えずとも良い。何も取って喰おうなどと思ってはおらん」

男は珠紀の怯える顔を見て満足したのかその手を離した。

「先が楽しみだな。体は若干貧相だが…それもまた良いのかも知れん」

いきなり体を値踏みされて、珠紀は遠のきかけていた意識を引き戻した。雨に塗れて着物が肌に張り付いて体の線が丸見えだ。
珠紀は咄嗟に両手で体を覆う。

「ふっ…おもしろい、気に入った。女、この京に住んでいるのか」

率直に尋ねれらて珠紀は縦に頷いた。

「ならばいずれまた会おう。俺は先を急いでいるのでな…」

男は持っていた番傘を珠紀に渡す。

「ぇ…ぁ…」

戸惑う珠紀を置き去りに、男は立ち上がってそのまま橋を渡って行った。
男の姿が見えなくなるまで見送っていた珠紀は番傘を見つめる。一体何者だったのだろうか。

「珠紀ーっ」
「珠紀ちゃん、どこー!?」

複数の足音と声が雨音に混じって聞こえた。珠紀は顔を上げて安堵した。

「珠紀っ!!」

一番に駆け寄ってきた拓磨は珠紀を見つけると駆け寄って抱きしめた。持っていた番傘を落として珠紀は大きな温もりに安心する。傘も持たず追いかけてきたらしい。拓磨も全身ずぶ濡れだった。

「馬鹿っ!心配させやがって…っ」
「拓磨…ごめん、ごめんね…」

珠紀は拓磨の背中に手を回してほっと溜息をついた。恐かった。勝手に飛び出してごめんね。言いたいことは山ほどあった。だが緊張の糸が切れた上に封印の破壊の威力が体に負担となっていた珠紀は、気を失った。

「珠紀…?珠紀っ、おい!!」
「見つかったのか?」

ともに捜索に出ていた真弘と千鶴は珠紀を見止めて安堵した。だが、失神した珠紀を目の当たりにして血相を変える。

「封具が破られたからか…」
「かもしれない…とにかく屯所に」

千鶴はそのときに橋に落ちている番傘を見つけて、首を傾げた。珠紀は屯所を飛び出したときに持って行ったのだろうか。だが彼女を見れば全身が雨で濡れている。
首を傾げながら拓磨達の後に続いて屯所に戻った。


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