二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.260 )
- 日時: 2015/02/26 22:05
- 名前: さくら (ID: gIPC2ITq)
「っ!!」
びくりと肩を震わせ、ゆっくりと振り返った。
縁側に立つ人物が正彦だと確認すると珠紀はそのまま駆け出した。
「あ、こら!!」
正彦の制止を振り切って塀に沿って走り、玄関らしき門が見えた。辿り着くとその門の扉に手をかけた。だが。
「どこへ行こうとしても無駄ですよ」
頭上から声がしたと同時に門の扉を開かせまいと扉に押し当てる手が見えた。
「…悪い人だ。結界を破って外へ行くなど…」
正彦が珠紀の横に立ちじっと睨んだ。その語調が低いことに珠紀は警戒心を露にする。
「言いつけは守って頂かないと。所詮ひとりでは何もできないのだから」
その言葉に珠紀のなかの何かが切れた。ぱしんと乾いた音が辺りに響く。
気づけば正彦の頬をぶっていた。
何をされたのか一瞬理解に遅れた正彦はしかし、ふっと口端を吊り上げた。
「馬鹿にするのもいい加減にして!!何よ、誘拐してこんなところに閉じ込めて言いつけを守れ?守るわけないじゃない!!誰があんたなんかの言いなりになるもんですか!!」
「本当に威勢の良いお姫様だ。そういうのは嫌いじゃないけど痛い目をみる前に大人しくした方が良い。俺にだって限界はある」
どんっと門の壁を拳で叩き怒りを露にする正彦だったが、そんな彼にも怯まず、珠紀はきっと彼を見つめた。
「人を誘拐しておいて随分上から物を言うのね。何の弱みを握っているのか知らないけどいつまでも余裕でいられると思わないことよ。きっと拓磨たちが来てくれる…」
「ふふ…それはどうかな。言ったでしょう、ここは異空間だと…果たして彼らにここがわかるかな…?」
どこまでも余裕の笑みをたたえる青年に珠紀は苛立ちを覚える。
「誰も助けには来ない。いいや来れない。彼らが分裂したことは知っているの?鴉取と狐邑だっけ?彼らは離隊して新撰組にはいない…残った鬼崎がひとり君を探しているというわけだ…」
「嘘よ…」
唐突に語り出した正彦に珠紀は首を横に振った。これは自分を陥れるための嘘だ。騙して士気を削ぐつもりだろうか。
「嘘じゃない。離隊した彼らは今どこにいるのか…大蛇と鬼崎は相変わらず屯所にいるみたいだけど…どうだろうね。二人に何ができるんだろう」
珠紀は首を振る。この人は嘘を言っているのだ。彼らが分裂などするはずがない。
「心当たりはないの?特に鴉取。彼はどこか心ここにあらず、だったように俺には見えたんだけど?新撰組に嫌なことでもあったのか…はたまた守護者同士で揉めたのか…」
うっそりと笑みを浮かべてあらぬことを語り出す正彦に首を振って否定したかったが、それができない。真弘の行動に最近怪しい点があったからだ。素直に否定できないことが悔しい。本当に分裂などあったのだろうか。
「助けなんて来ないよ。君はここにいてもらう。無理に結界なんて破ろうとしちゃダメだよ。ほら手がこんなに傷だらけだ。手当をしよう。さぁ中に戻ろう」
負傷した右手を正彦はそっと触れて傷の具合を確かめる。
「嘘よ…信じない。拓磨たちは来てくれるわ…きっと…」
呟く珠紀に正彦は笑みを口元に刻み、珠紀の目を覗き込むようにして腰を折った。
「その希望はいつまで持っていられるだろうね。珠紀」
憎悪が足下から這い上がってくるようだった。男の目には嘲笑う色とどこまでも侮辱するような気色が見えて、珠紀は口を噤んだまま睨み据えた。
「怖い顔をしないで。さぁその格好では体が冷える。中に戻って食事にしよう。暴れたりこうやって逃亡しないかぎり君には危害を加えないから」
負傷した手を握られ珠紀はぐっと唇を噛んだ。どうして自分はこんなにも無力なのだろう。いつも誰かの助けを願うことしかできないのか。
虚しさと悔しさで胸がいっぱいになった。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.261 )
- 日時: 2015/03/01 19:08
- 名前: さくら (ID: gIPC2ITq)
珠紀が目覚めた次の日。
正彦は珠の部屋に入ると大仰に溜め息をついた。
この屋敷には使いの者が何人かいる。そのうちの一人に珠紀の配膳係を任せているのだが、彼女は与えられた食事に一切手をつけていない。その報告を受けて正彦が確認しに部屋へやってきたのだが、報告は確かなようだ。
部屋に入ってすぐに膳が置いてあった。だがどの一品にも箸がつけられた様子はない。正彦は部屋の隅で膝を抱えている珠紀を見つめた。
「いい加減何か口にしてもらわないとあなたの体力も限界だろうに」
「…」
正彦の言葉を無視したまま珠紀はじっと畳を睨みつけていた。
「使いの者が着物を用意したんだけど…気に入らなかったのかな」
単衣姿の珠紀と衣架に掛かっている長着を交互に見た。暗めの地赤に菊や蓮の模様が豪奢にあしらわれた匠の一品だ。用意させたのは正彦で、いつまでも単衣姿でいさせるわけにはいかなかった。
「好みでないなら他のものを用意させよう。それとも袴の方が落ち着くのかな」
珠紀に返事はない。それでも気にせず長着に触れてくすりと苦笑した。
「以前会ったとき袴姿だったね。あれは新撰組にいたから?女人禁制だもんね。それで袴を穿いていたわけか…そちらの方が落ち着くというなら袴も用意させるけど…」
つっと珠紀に視線を送るが何の反応もない。ずっと畳を見つめて動かない。
やれやれと肩をすくめて正彦はゆっくりとした足取りで珠紀に近づいた。
「敵の施しは受けない。っていう君の姿勢は素晴らしいよ。けれどそろそろ限界だろう?」
正彦は少し距離をあけて珠紀の右手に座ると彼女の顔を覗き込んだ。
少しやつれて見える。睡眠もとっていないのだろう。疲労が顔色にでていた。
今日まで珠紀は様々なことを試した。再度施された結界を破り、逃走。根負けした正彦が部屋に結界を張らないことを妥協し、代わりに敷地に巨大な結界を張れば今度はその結界を破ろうとした。従者が少しでも目を離せば逃走を試みようとしていたのだ。正彦も最終手段に出た。部屋と厠以外の行き来を制限するために鎖をつけた。勿論目には見えない術で。物理的に繋ぎ止めたわけではない。正彦にしか見えない鎖を彼女の首につけ、部屋と厠以外の場所に行こうものなら首の鎖を通して体に痛みを与えるといったものだ。酷い痛みではないだろうがそれなりに堪える。そのせいもあってか珠紀は大人しくなった。
「大人しくなったのはいいけど…こうも拒否されると君の命に関わるんだよ?」
「……」
無言を貫き通す珠紀の精神にも完敗だが、正彦は本気で心配していた。彼女の覚悟というものが計り知れない。もしかするとこのまま何も口にしないつもりか。それでは困る。彼女の命を脅かすことは出来ない。
捕虜にしたとは言え鬼斬丸を封印できる最後の砦をそう易々と殺してしまうことは出来ないのだ。
「こんなに傷も作って…そんなに早くここから出たい?」
「当たり前じゃない。吐き気がするわ、こんな場所」
ようやく口を開いてもこの悪態である。正彦は大きく溜め息をついた。
立ち上がって正彦は一旦部屋を出た。そしてすぐに小さな木箱を手に戻って来た。
今度は珠紀の真正面に座るとその木箱を開けて小さな陶器を手に取った。
「手を」
正彦に促されても一切動かない珠紀に仕方なく手を伸ばして彼女の負傷している手を取る。何をするのかと眉を潜めて警戒する彼女に正彦は小さな陶器を開けて見せた。
「塗り薬だよ。君は守護者じゃない。治癒能力は人並みだ。小さな傷でも放っておけば化膿することだってあるんだ」
陶器から少量薬を手にとって傷口に塗りこんでいく。
その際痛みが走ったのだろう。珠紀はびくりと身構えた。
「痛い?でも我慢してね。僕が術を使えたら良いんだけど。治癒術専門は清次郎で俺は術で治すことはできない」
少し寂しそうなその声音に珠紀はじっと正彦を見つめた。
「…私をここに連れて来た人が清次郎という人なの…?」
初めてまともに会話できたことに正彦は安堵してその問いに答えた。
「そう。俺と清は仲間で、清は俺の幼馴染み。今はここにいない」
また少し薬を少量手にとり新しい傷に薬を塗り込む。
その様子をじっと見ていた珠紀は口火を切った。
「…私をさらってからその清次郎さんは誰かに今脅しをかけてるんでしょ…動いたら私を傷つけるって…だから貴方はずっとここにいるのね。私の見張りだけじゃない…執行役も担ってるんでしょ」
珠紀の言葉に正彦は一瞬動きを止めた。珠紀はそれが是と捉え、彼を睨む。
「酷い人…私たちの仲間が動けば私を殺すとでも言ったんでしょう!?」
珠紀は差し出していた腕を引っ込めて正彦を睨んだ。
「…君は聡明なのか愚かなのかわからないな…頭の回転は早いらしいね」
正彦は肩をすくめて珠紀を見つめた。
逃亡を止めたと思っていたらずっと考えていたのだろう。仲間の到達が遅いことを不審に思い、その理由を思案していたに違いない。
「最低…!!そんなことしたら皆が動けないことを知っていて…!!」
「そう。相手は守護者だ。君のことを一番に思っている分その動きは慎重になっている。俺達だって慎重に動かないと彼らにやられてしまう」
「目的は何なの…!!どうして私をさらったの!?」
悲痛に歪むその表情を見ても正彦は何とも思わなかった。そう思った自分に驚いたほどだ。自分はここまで非道な人間になれたのか。
「理由はまだ言えないね。その目的も…もう少し先になればわかるよ。それまでは大人しくしていて欲しい。怪我もしないで」
「嫌よ。皆がここまで来れないというなら私が動けばいい話だもの」
珠紀は立ち上がると襖を開けた。ばちんと電光が彼女の体に走る。
部屋と厠への道以外はそう反応するように施した。だが彼女は痛みに堪えてそのまま外へ向かう。
「やれやれ…」
正彦もその後をゆっくりとした足取りで追いかけた。
珠紀は全身に走る痛みと戦いながら外に出ると施された結界に手をかける。ちょうど塀から頭上にかけて大きな結界だ。屋敷を包み込むように張られている。
結界に触れて拒否反応はない。だが、部屋に張られていた結界よりも鞏固なことに気がつきぐっと唇を噛んだ。残された余力はわずかだ。今この結界を壊せるのか。
「無駄だよ。君にはできない。今の消耗しきっている君にはね」
背後から声がして振り返ると悠然とした足取りで後をついてきた正彦がいた。
珠紀はすっと懐から紙を取り出した。それは長方形の紙で掌より少し大きいものだった。
「それは一体何かな?」
珠紀はその紙を構えるようにして持った。そこまでしてようやく正彦はそれが何かを理解した。
「なるほど、呪符か…」
その呪符は血で書かれていた。紙は障子や掛け軸を破ったのだろう。手の傷はそれによってできたものだった。
「それで一体何を…」
「近づかないで!!近づいたら貴方を傷つけるわよ!!」
珠紀は叫んで彼と一定の距離を保った。正彦は足を止めて彼女を見つめる。
「姫。遊びも大概にしてほしいな。さぁ部屋に戻ろう」
「近づかないでって言ってるでしょ!?」
正彦が一歩前へ出ると珠紀は叫んだ。
「…遊びたいというなら相手してあげるけど…やめておいた方がいい」
「略法!!伏敵!!」
珠紀が唱えると呪符は閃光となり真っ直ぐに正彦に向かって突進した。
まともに食らった正彦はそのまま屋敷の壁に埋まった。
「はぁ、はぁ…!!やった…?」
珠紀は肩で荒い息を繰り返しじっと正彦が激突した壁を見つめる。土煙が巻き起こり視界が悪い。
「はは…流石は玉依姫。力は強大だね」
「嘘…」
瓦礫から起き上がった影に珠紀は目を丸くした。今の一撃は妖を一発で死滅させる威力がある。それをまともに食らったというのに立ち上がった。否、何事もなかったかのように着物についた土埃を払い落としている。
「術で俺に勝つことはできないよ。君は力の近い方を間違っている。君のその強大な力は守護者を通して初めて発揮される。守護者のいない君はちょっと術が使える女の子だ」
悠然とした足取りで珠紀に近づき正彦は微笑んだ。珠紀は抵抗しようとしたが膝から力が抜けた。今の一撃に体力を全て奪われたのだ。
「敵に屈しないその姿勢は俺も感銘を受けるよ。でも姫、今の君では俺には勝てない」
「ッ…!!はな、して…!!」
崩れ落ちそうになった珠紀を抱き留めて正彦はふっと微笑んだ。
体力もなく、体は先ほどから鎖のせいで痛みを感じているはずだというのにそれでも抵抗をする珠紀の姿を見て呆れを通り越して愛おしさを感じたのだ。
「君が懲りるまで何度だって君の逃亡に付き合おう…どこまで抗えるのか俺に見せてみて…」
正彦の声は最後まで聞こえていただろうか。珠紀はとうとう意識を失って彼の腕の中でぐったりと脱力した。
まるで籠に閉じ込めていた小動物が逃走し、それを捕まえに行くというなんとも不毛に感じられるこの現状に何故か可笑しさがこみ上げてくる。
この人は今自分の力で閉じ込め、外には出られない。籠から出ることは出来ない。そうたらしめているのはこの自分だと思うと何とも愉快だった。
この人の命も全て自分の手にある。この人の未来は自分の手にある。愉悦感がなんとも心地よく、正彦は笑みを深くした。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.262 )
- 日時: 2015/03/05 20:14
- 名前: さくら (ID: gIPC2ITq)
黒い煙と赤々と燃え上がる炎。火花が降り注ぐなか燃え盛る家屋のなかにいた。
酸素を食らい、炎は燃やす。家屋を家具を思い出を愛しい人を。
火の手はすでに周囲を覆いつくし、逃げ場はない。それでも。立ち尽くして動けない。愛しい人が目の前に倒れている。助けなければ。
『逃げ、なさい…』
その身体は動けない。炎ではなく病魔が襲い指一本動かすことも難しい。それでも彼女は微笑む。
『泣かないで…あなたが…ここに来てくれて…嬉しかったのよ…』
倒れたその人は必死に腕を伸ばす。頬に触れたその手はとても冷たくけれど優しい手つきに涙が溢れて止まらない。
『忘れないで…あなたがいてくれて…幸せだったわ…あなたを必要としている子がいるの…その子のためにも…忘れないで…あなたが生まれてきた意味を…』
大きな音を立てて家屋が倒壊しはじめた。火の粉を巻き上げながら炎は近づく。
遠くから自分とこの人を呼ぶ声が聞こえる。あぁ今ここでこの人を助けるためには自分には足りないものが多過ぎた。腕力があれば。身長があれば。幼すぎる自分にはこの人を担ぎ上げ外へ連れて行くことも出来ない。
いっそここで一緒に死ねたなら。けれど目の前の瞳がそれを許さないと見つめてくる。
『生きなさい…どれほど辛くても…あなたには生まれてきた意味があるのだから…』
ごうっと炎が吠える。空気を食らい、呼吸もままならないが決して意識を手放してはいけない。この人が死ぬことを許してくれないなら一緒に生きる道を探すしかない。すると自分達を読んでいた声が近づいてきた。
『坊主ッ!!ここにいたのか!!』
男が現れる。赤い髪は炎で少し焦げている。髪だけではない。全身を炎で焦がしながらも、ここまで来たのだ。炎の壁をくぐって男は自分を担ぎ上げる。
二人は短く会話をして男はその場を去ろうとする。
待って。この人も、この人も一緒に。
『ありがとう…拓也…その子をお願いします…』
待って!!一緒に!!この人も一緒に!!!
男の肩に担ぎ上げられ、腕を振って男に訴えるが彼は無視して踵を返す。
『ありがとう…』
その人は微笑んでいた。優しく。いつものように。
待って!!!死んでしまう!!!この人も助けて!!!!
自分の叫び声は決して男に聞き入れられることはなく炎のなかをかいくぐっていく。
やがてその人の顔も立ち上がる炎で見えなくなる。外に出たときには家屋は倒壊した。
外は満点の星空が広がる夜。村人が総出で消火活動にあたっている横で自分だけが救出され、燃え盛る炎が空へと伸びているかのようだ。それを呆然と見ていたとき、隣に小さな少女が立っていた。彼女は無傷だったらしい、外傷もなくしっかりとした足取りだった。愛しい人が残した愛娘。自分のまた愛しい人。
『酷い人…お母様を殺したのはあなたね…』
炎に照らされた少女の表情は殺意に燃えていた。
炎は燃え盛る。空気を食らい、思い出を、人を飲み込み。満点の星空を穿つように。赤々と火の粉を巻き上げて全てを奪う。
「……ッ!!」
びくりと身体が痙攣したと同時に目が覚めた。
上がった息を整えて気づく。全身が汗でぐっしょりだった。
「…また古い夢を見たものだね…」
自分が座って脇息に体重を預けたまま眠っていたようだ。体重がかかっていた足は痺れ痛みを訴える。
自室に戻って一休みしようとした。いつの間にか意識が飛んでいたようだ。障子から差し込む光はなく辺りは暗闇が支配していた。
ゆっくりと伸びをして全身の緊張をほぐす。
そうしていると部屋の外から声がかけられた。
「正彦様。正親様がいらっしゃいました」
「お通ししてくれ」
従者が静かに襖を開けると衣擦れの音が響いた。
「こんなとこに呼び出すとはな。相変わらず陰湿な場所が好きだな、お前は」
「ふふ。光の中にいるより闇の方が落ち着くのは貴方もでしょう」
正彦は立ち上がると燭台に火を灯し、ゆっくりと振り返った。
燭台の光に照らされ浮かび上がった老人に微笑した。
「少し見ない間にまたやつれたんじゃないんですか、おじ様」
「儂の話はいい。それよりも」
「姫なら眠っておいでですよ。ここに来てからろくに食事もとらず、睡眠もせず…その上術を使ったので今はゆっくり休めているところです」
「姫はどこだ」
正彦の話に眉を潜めて正親はよろよろと部屋を出て行く。
その後ろを追いかける。
「こちらです」
すぐ向かいの部屋に珠紀の部屋はある。
障子を開けると布団の中で静かに眠っている珠紀がいた。
「睡眠も食事もとっていないとはどういうことだ」
ひとまず安静にしている珠紀に安心したのか正親は正彦に問いつめる。
「お察しして下さいよ。守護者から引き離され心寂しく、彼らは一向に助けにくる気配はない…そんなときに平常でいられますか」
「多少の抵抗ならば目を瞑るところだが…死んでもらっては困る」
「わかっていますよ。無理にでも食事をとってもらいます」
「そうしろ。では姫がまた全快したときにまたここに来る」
「わかりました」
正親はその場を去ろうとして、それを引き止めた。
「清次郎は…」
「社の方に仕向けた。今のところ奴から連絡がないということは上手くやっているのだろう」
「そう…ですか…」
「何だ。何か言いたげだな」
「……おじ様。こんなことをして一体何をするつもりですか…姫を奪取して璞玉ちゃんの思惑を阻止したいのはわかります…けど鬼斬丸まで奪取しろというのは…」
「お前は儂の言うことだけを聞けば良い。口答えなどするな」
「…………はい」
「鬼斬丸の動向は今調べている。何か動きがあればお前はそちらへ向かえ」
正彦はそれ以上なにも言わない。正親も何も語るつもりはないらしく、用件は済んだとよたよたと部屋を後にした。
老人の背を見送って正彦は目を細める。
「…あんたのいうことを聞いて…良かったことなんて一度もなかっただろうが…」
正彦の小さな呟きは誰にも聞こえない声量で、静かに空気に溶けていった。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.263 )
- 日時: 2015/03/05 20:19
- 名前: さくら (ID: gIPC2ITq)
声が聞こえる。
二人の話し声だ。どちらも男。近いようで遠い場所で話しているのだろうか。会話が聞き取れないが、何か真剣な話をしているようだ。声音が緊張しているようだ。
会話が途切れると近くの襖が開く音がした。何となく眠ったままでいようと目を閉じていると男の声が降ってきた。
「睡眠も食事もとっていないとはどういうことだ」
男と老人の短い会話が終わると老人が部屋を出て行く気配がした。
静寂が部屋に戻るが、もう一人の気配はまだ部屋にある。
珠紀はそのまま目を閉じ続けていた。
「…もう起きてるんでしょ?寝たふりしなくてもいいよ。おじ様は帰ったから」
「……」
正彦に声をかけられても珠紀はそのまま寝たふりをした。
「…ふぅん。今度はたぬき寝入り?ふふ。どうやら君は本当に俺のことが嫌いらしいね」
正彦は困ったような、悲しいような笑みを浮かべていた。無論目を閉じている珠紀がその表情を知ることはない。正彦は静かに退出した。
彼が出て行ったことにほっと息をつく。彼は敵であり、警戒しなければいけない。珠紀はそのままじっとしていた。もう体を起こすことも億劫で、体力がなかったのだ。
静かに眠りの淵に落ちようとしたとき、また襖が開いた。部屋に入ってきたのは正彦で手に何かもっている。かちゃかちゃと陶器のぶつかる微かな音が聞こえた。
「君のその態度は嫌いじゃないよ。でも、君は今弱っている。死なれちゃ困るんだよ。君だってまだ死にたくないだろ?」
そう言いながら正彦が枕元に置いたのは粥の乗った膳で、静かにまた立ち上がる。
「食べる食べないはご勝手に。毒なんて入れてないよ。君を殺して良いことは何一つないんだから。重要なのは君がこちらの手の内ににるってことだよ」
正彦の余裕のある声に珠紀は閉じていた双眸を開きかけた。
助けは来ない。けれど自分を殺すこともしない。ただ利用するのは自分の価値。
言葉の裏ではそう言っているような気がして苛立ちが募った。
正彦はそれ以上は何も言わず部屋を出て行った。
しばらくじっとして正彦が再び部屋に戻ってこないかを確認してから、珠紀は瞼を上げる。
肘をついて上体を何とか起こす。目眩がする頭をもたげると近くに粥の乗った膳が目に止まった。
できてたなのか粥は湯気をあげている。見ているだけで腹の虫が盛大に鳴いた。身体は正直にできている。それに抗うほどの体力もなく、珠紀は恐る恐る粥に添えられている匙を手に取った。
少し粥を掬って口に運ぶ。空腹だった珠紀にはこの上ないご馳走に思えた。ゆっくりと咀嚼して、飲み込む。それを何度か繰り返しているうちに、珠紀は涙を零していた。
泣いてはいけないとこれまでずっと我慢していたのに、堪えても溢れてくる。
「ッ……!!」
ここがどこかさえわからない。見知らぬ土地にさらわれ、助けも来ない。脱走も試みるが容易ではない。その現実が押し寄せてきて重く珠紀にのしかかる。誰も来てくれない。助けは来ない。殺さないと彼らは言っていたがどこまで信用できるかわからない。不安で圧し潰されそうだった。
「拓、磨…ッ」
名前を呼んでも来てくれないことはわかっている。けれど口にせずにはいられない。
「拓、磨…拓磨…!!」
愛しい人の名前は少しだけでも自分に勇気をくれる気がする。脳裏に愛しい人を思い浮かべて耐える。大丈夫、きっと彼は来てくれる。今までだって何度困難に直面しても乗り切ってきた。来てくれる、きっと。
そう希望を抱くことしかできない。それしかできない。
「…それしか、できないの…?」
ふと、自問する。脱走も困難。彼らの助けが難しいなら、他に方法はないのだろうか。
「……もしかすると…」
珠紀は空になった粥の器を膳に戻して布団に横になった。
そして瞼を閉じる。涙をぬぐって深呼吸をした。
再び眠りへ落ちる。その際に強く願った。
どうか、あの人に会わせて—————
「あぁ…お会いできて良かった…姫」
真っ白な世界。光と優しさに満ちた空間。
地面も天井もない何もない世界に、珠紀は佇んでいた。
「お辛い経験をさせてしまいましたね…」
目の前の少女は悲痛な表情で頭を下げる。
「良かった…ここに来れば、どうにかなるかなって思って…やってみて正解だったね」
眠る前に珠紀は願った。この時代の玉依姫に会いたい。
以前夢を共有できたのだ。今回もできるはずだ。珠紀はそう思った。そしてそれは成功した。
「謝らないで下さい。油断していた私が悪かったんだし…」
「いいえ、私はあなた方を巻き込んでしまった…そして今危険に晒してしまっている…」
「あなたのところは大丈夫なの…?何だか聞いた話ではそっちに典薬寮がいるって…」
「大丈夫ですわ。問題ありません。典薬寮と言えど、彼とは少し親しい仲なので…それよりも、そちらは大丈夫ですか?」
「ちょっと、いいかな?」
目の前に立つ少女は朱袴姿で珠紀を見上げている。珠紀は膝を折って彼女の目線に合わせた。
「その敬語やめない?何か、居心地悪いっていうか…」
「いけませんか?」
「無理にとは言わないけど!何だか同じ玉依姫なのに遠い人みたいで…」
珠紀の言葉を聞いて理解した璞玉は大きく頷いた。
「じゃぁお言葉に甘えて…珠紀様は今どこにいるのか…わかる?」
「ごめんね。それが分からなくて…外に何度か出たけど周りは森と平地しかないみたいで…」
「鎖を…つけられているのね…」
璞玉の艶やかな黒髪がするりと肩から落ちる。彼女が伸ばした手の先は珠紀の首もとに添えられた。
「何てことを…正彦の術…」
「知ってるの?」
「はい。彼らが一体何を考え、何を目的としているかはわからないけど、彼らのことならよく知っている…」
「さっきも言ってたけど…典薬寮と親しい仲だって…どういうこと?この時代の玉依姫と典薬寮は協力関係なの?」
璞玉の手が離れると珠紀は小首を傾げた。
年端もいかない少女はみるみると顔を曇らせる。
大きく深呼吸をしたあと、璞玉は決意したように珠紀を見つめた。
「お話します。どうして私があなた方をこの時代に呼んだのか…どうして典薬寮はあなた達を狙うのか…全て…私たちの過去に関係しています…」
少女とは思えないほど硬くて暗い声。
珠紀は心臓が早鐘を打つのを感じた。血が関知している。これから話される過去に因縁と運命が絡んでいることを。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.264 )
- 日時: 2015/03/06 19:40
- 名前: さくら (ID: gIPC2ITq)
長い長い階段を登る。
風は穏やかで、春の息吹を感じる。草木は青く茂り、季節が浮き足立っているのを肌で感じた。
静かな昼下がり、小さい足では一段一段登るのがやっとで、手を引いてくれる人を見上げた。
「これからどこに行くのですか?」
「これから行くところはお前の新しい家だ」
その人を挟んで反対側の手を握っていた男の子が今度は声をあげる。
「お家…?でもぼくたちのお家はおじさまと一緒にいたところじゃないの?」
「お前たちは今日からこれから行く家で住むんだ」
「おじさまも一緒?」
「いいや…」
その人は首を振るだけでそれ以上何も言わなかった。何故かそれ以上聞いてはいけない気がして、口を閉じる。ただ手を引いてくれる手つきが優しいことを感じながらうんしょうんしょと二人の男の子達は賢明に階段を登った。
やっと階段を登りきると息が上がっていた。ふと後ろを振り返ると春の優しい日光に照らされた村が一望できた。随分高いところまで登ってきたのだと実感する。
「いらっしゃい。よく来てくれたわね」
声をかけられて振り返ると、赤い鳥居の下で朱袴を穿いた女性と中年の男性が立っていた。
女性の長い髪は春の柔らかい風に踊り、見え隠れする表情が優しい印象だ。
隣に立つ男性は女性よりも年上なのか、目尻の皺を深くして女性とはまた違った柔らかい笑みを浮かべている。
「ここへ来るのは大変だったでしょう」
近づいてくる女性は膝を曲げると自分と目線を合わせてくれる。
「私は春日玉詠。あなたのお名前は?」
「…あしや、まさひこ…」
「あなたは?」
「たから、きよじろう…」
「正彦と清次郎ね。いらっしゃい、疲れたでしょう」
二人の前に白い手が差し出される。二人は同時に手を握っている人を見上げた。
「行きなさい」
その人はそういうと手を離した。今まで握っていた大きな温もりが消え、手は頼りなく開いたままだ。二人はもう一度その人を見上げる。
何も答えないとわかると二人は目の前の玉詠の手を取った。
優しい温もりに再び手が包まれる。
「さぁ、いらっしゃい。お菓子を用意しているのよ」
玉詠は二人の手を取って歩き出す。
そこで二人は初めて気がつく。荘厳な空気が辺りに漂っている。隣接している森はとても静かで穏やかだ。参道の先にある立派な造りの社を見上げる。ここは神社なのだと改めて気づいた。
正彦は手を引かれながら振り返った。
その人は出迎えてくれた中年の男性と何か話をしていてこちらを見る気配もない。それでも正彦は母屋の玄関に入るまで、視界からその人が見えなくなるまで見ていた———————
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