二次創作小説(紙ほか)

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.29 )
日時: 2012/11/22 20:05
名前: さくら (ID: cPNADBfY)

紅聖夜さん

最近忙しくて更新ができませんでした汗
これからがんばりますね!


鬼龍さん

がんばります!
これからちょくちょく更新していきますね^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.30 )
日時: 2012/11/22 21:17
名前: さくら (ID: cPNADBfY)

朝の眩い日差しが広間に満ち溢れる。
朝餉を終えて、膳をさげると近藤がひとつ大きな咳払いをした。

「えー、では。腹も落ち着いたところで、君たちに自己紹介してもらおうか」

新撰組でられば誰もが待ち望んでいた問いだ。
それに待ったをかけたのは原田だった。

「山南さんと伊藤さんは呼ばなくてもいいんですか?」
「山南さんはもう床に就かれたはずだ。伊藤さんには俺が後で説明しておこう。それで構いませんか?」

一が静かに答えると、その視線を近藤と土方に向けた。問われた近藤は大きく頷いた。
一通りの話がつくと新撰組幹部は三人に視線を投じる。
複数の、それも男から視線を一身に受けて、珠紀は逸る鼓動を抑えた。
深呼吸を繰り返し、居住まいを正すと手をついた。

「春日珠紀といいます。町で追われていたときに助けてもらった上に、看病までありがとうございました」

頭を下げる珠紀が誰に対して礼を口にしているのかすぐにわかった。
礼を述べられて土方はひとつ頷くと口を開いた。

「もう体は何ともないのか」
「はい、おかげさまで」
「そうか」

二人だけの会話が進み、珠紀の隣に座っていた真弘が不満そうに声を上げる。

「おい、追われていたって何だよ?お前また倒れてたのか?」
「先輩、後で説明しますから…あ、こっちの人が鴉取真弘先輩です。で、こっちの大きい人が鬼崎拓磨」
「大きいって難だ、おい」

残り二人の自己紹介を終えると、今度は近藤が自己紹介をし始めた。

「うむ。俺はここの新撰組局長を務めている近藤勇だ。こっちは副長の土方。今総長の山南さんは席を外していて———」
「近藤さん。俺たちの自己紹介は後でいいだろう。こいつらに聞きたいことが山ほどあるんだ。全部答えてもうらうぞ」

鋭い眼光で話の権道を奪った土方に拓磨は緊張感を感じざるを得なかった。一度捕まれば逃さない。そう目が物語っているようだった。

「おい、今新撰組って言わなかったか?ここってあの有名な新撰組か?」
「わ、わかりません。私日本史の授業でそこの時代まだ勉強してないです。拓磨」

真弘から珠紀へと質問が流れ、歴史に詳しい拓磨に白羽の矢が立った。

「どうやらそうらしいな…俺も驚いてる…いいか、ここは大人しくしてろよ。新撰組って言えば———」
「何をごちゃごちゃほざいてやがる。珠紀、と言ったか。お前はどうやってここに来たんだ」

土方に指名され、珠紀は自然と背筋を伸ばす。質問の意味を租借して、ぽつりぽつりと答えた。

「えぇっと…信じてもらえるかどうか、わからないんですけど…私の神社の蔵に行って…皆で掃除をしていたんです。あ、ここの二人と他にも二人いて。それでそのうちの一人の人の姿が見えなくなったので、探していたら…急に眩暈がしたんです…それで気付いたら町で倒れていたんです」
「それで柄の悪い武士に追われた———か…」

土方が珠紀の話に言葉を足す。
考え込む土方とは違い、その場にいた幹部は小首を傾げた。

「何で眩暈がして町にいることになるんだよ?」
「えぇっと…私にもわからないんです」
「こいつらの話だと百四十年近く前からやってきたんだと」

藤堂が率直に質問を口にすると珠紀も首を傾げてしまう。話を進めるため土方がその先を説明した。
もちろん土方もその話を完全に信じたわけではない。だがそれ以上にその場に集まった幹部は目を剥いた。

「どういうことだ?未来から来たって言いやがるのか?」
「どうやってそんなことできるんだよ?」
「うむ…これはまた…」

口々に疑問が飛び交うが、未来からやってきたというのも否定できない要素がいくつかあった。
見慣れない格好。外国人かと思うが、まずこの京に港は少ない。お上がおわすこの京洛に外国人など滅多に訪れないはずだ。
加えて話し方。三人の会話を聞いていれば聞きなれない単語や言葉遣いだ。どこかの方言かと思うが、方言だけではない気がする。

「…まぁ、仮にお前達の話を信じたとしよう。では珠紀。お前を襲ったあの鬼は何者だ?」
「わかりません…目が覚めたら突然現れて…」

雲を掴むような、見当がつかない話は解決の糸口が見出せない。
突如町に未来からやってきた三人と、屯所に侵入した不審者。
どれもが常識外れた出来事で、しばらく幹部は口を開けなかった。

「…けど」

突然。何を思ったのか拓磨が声を上げた。

「けど。あいつのあの気配…悪い奴ではないような気がする…」
「どういうことだね?」
「俺と同じだと思うんです」
「同じ?何がだ?」

ぽつりと呟いた台詞を近藤は優しく言葉の先を促した。
だがその回答はまたもや首をひねるものとなった。

「あ、いや…とにかくあいつは珠紀を襲うことが目的じゃなくて…誘拐?だったように思うっす」
「確かに…珠紀をどこかに連れ去ろうとしてたしな…」

思案にふける真弘と拓磨は腕を組んで黙りこくった。何か気になることがあるのだろう。
黙って話を聞いていた斎藤は口を開いた。

「お前たちはこれからどうするつもりだ」
「え、こ、これからですか?これからのことなんて考えてなかったね」
「あぁ。これからか…もしかしたら大蛇さんもここに来てるかもしれないな」
「君達の言う蔵で姿が見えなくなった人のこと?」

琢磨の言葉に沖田は口を挟んだ。

「ではその人が見つかるまでここにいればいい」

近藤が何の迷いもなしに言いのけた。幹部は今度こそ顎を落とした。

「な、何言ってんだ!近藤さん!こんなどこの馬の骨ともわからねぇ奴らを居候させるのか?」
「屯所も変わって部屋も余っているだろう」
「…っそういう意味じゃねぇ!!伊藤さんや山南さんの意見もなしに勝手に決めて———」
「私の一存にしてしまえばいい。何、困っているときはお互い様だ。さがし人が見つかるまでここで過ごせばいい」

近藤のお人よしに今度こそ全員が目を覆った。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.31 )
日時: 2012/12/05 20:23
名前: さくら (ID: cPNADBfY)

近藤が思わぬ提案をしたことで幹部連中は皆溜息をついた。

「ただでさえ伊藤さん達のことだってあるのに…」
「まぁそれがあの人の性分だ仕方がねぇさ」

藤堂は隣に座る原田に耳打ちした。原田は苦笑して近藤を見やる。
珠紀はその場の空気や皆の反応から自分たちが招かれざる客だということに感づいた。横に並ぶ拓磨や真弘も同様のことを察した。

「あ、あのっそこまでしていただく訳にもいきませんので———」
「だが、もしかするとその探し人がここにいるのかもしれないのだろう?」
「確証もありませんし…」

慌てて断りを入れる珠紀に優しく近藤は食い下がった。

「うむ…では、君たちにはここで働いてもらおう」
「は、え?」
「生憎うちは人手が足りなくてね。どうだろう。君たちに隊士として働いてもらうのは。衣食住は提供しようじゃないか。それでどうだ?トシ」

突然の提案に戸惑う珠紀は土方に目を向けた。
土方の眉間には深い皺が刻まれており、口を真一文字に引きつぐんでいるその表情はまさに渋面だった。
恐る恐る様子を窺っていると、ややあって土方が口を開いた。

「…構わねぇ。丁度人手不足で悩んでいたところだ」
「受け入れるんですか?こんな訳のわからない子達を?」
「総司」

土方の判断に戸惑っているのは珠紀たちだけではない。幹部も同じだった。口を挟む沖田によこから斎藤が静かに名を呼んで制する。
土方は続けた。

「だが、邪魔になると俺達幹部の誰か一人でも思ったら即刻ここから出て行ってもらう。いいな」
「本当かよ、土方さん」
「また町で暴れられてはこっちが迷惑だ。ここに置いて見張っておいた方が手間はとらねぇだろ」

土方の鋭い視線が拓磨と真弘に注がれる。二人は罰が悪そうに視線を泳がせた。

「で、でもっ…そんな迷惑はかけられません!」

会ってまだそれほど時間が経っていない人に、そこまで甘える訳にはいかないと珠紀は首を横に振った。
土方の了解を得た近藤は人の良い笑みで答える。

「君達がもといた場所に戻る方法が見つかるまでここにいればいい。なに、こうして出会ったのももしかすると何かの思し召しかも知れんしな」
「でも…」
「珠紀。ここは甘えることにしようぜ。俺達はここの時代をよく知らねぇ。下手に動くよりここに居た方が得策だ」

珠紀の肩を掴みそっと耳打ちする真弘に、拓磨も頷いた。
この時代は珠紀達の知っている現代とは全く違う。刀を提げた武士が闊歩し、身分の違いを弁えていないといつどこで、誰に斬られてもおかしくない時代なのだ。
加えて時は幕末。過激な武士が多いかもしれない。現代の常識が通じないのだ。それならばこの時代を生きる人に世話になったほうが利口というものだ。
二人の考えに納得した珠紀は頷いた。

「あの、じゃぁこれからよろしくお願いします。迷惑にならないように気をつけます」
「うむ。決まりだな」

珠紀が頭を下げるとようやく近藤は満面の笑みで頷いた。
対する土方は難しい顔で何も言わなかった。

「では君達の処遇はどうしようか。二人は隊士として働けるが…」

拓磨と真弘に視線をやって近藤は頷いたが、次に珠紀に目をやって言葉を濁した。

「また男装とかしちゃえばいいじゃないですか。千鶴ちゃんみたく」

沖田が喜々とした目で珠紀を一瞥する。何のことだか話が見えない珠紀は小首を傾げた。
そんな彼女に斎藤が向き直ると静かな口調で説明してやる。

「新撰組は武士の集まりだ。故に女人禁制。女性の存在は他の隊士の風紀を乱すことになる」

つまり、男所帯である屯所に女という存在は扱いにくいものがあるらしい。何となく察した珠紀はさらに小首を傾げた。

「あれ?でも千鶴ちゃんは女の子…ですよね?」
「お、よく分かったな。まぁ見れば分かるんだがな。千鶴もここにいる代わりに男装してんだよ」

千鶴のことを思い出して納得した。出会ったときからどうして女の子なのに袴をはいているのかずっと気になっていた珠紀はようやく理解できた。

「では、春日君には男装をしてもらうということで…だが隊士にするわけにもいくまい…どうしたものか」
「また誰かさんの小姓にしちゃえばいいじゃないですか」
「…総司、それは俺に言ってんのか」

くすくすと笑う沖田は土方を見やる。鋭い眼光で睨み返す土方は何故か苛立っているようだった。

「うむ。それが一番だな。どうだ、誰か小姓として彼女を迎えてくれんか」

幹部の面々を見渡して近藤が提案する。幹部たちは互いに顔を見合わせた。

「僕は遠慮しておこうかな。誰かに世話してもらう程忙しくもないしね」
「同じく」

沖田、斎藤に続いて二人は首を横に振った。残った藤堂と原田が顔を見合わせる。二人は無言で目を見合っていたが、原田がそっと珠紀に視線を移す。自分の身の振りが決められていると感じた珠紀は緊張を覚えた。
目が合った珠紀は瞬いたくと、原田は苦笑を浮かべて手を上げた。

「俺が引き受けます。俺も小姓が必要なほど偉くはねぇけどな」

近藤がそうか、と了解の意味を込めて頷いた。自分の身が決定した珠紀は長身で大蛇とはまた違う大人の雰囲気をかもし出す原田を見つめる。
原田はくるりと珠紀に向き直って目を細めた。

「これからよろしくな、珠紀」
「え、あ、はい!」

その様子を気に食わないといった面持ちで眺めている男二人は原田を睨んだ。
三人のそれぞれの身の振りが決定したことでその場はお開きとなった。
幹部達が退室していくのを見送っていた土方は残された三人に声をかけた。

「待て、お前たちにはまだ聞きたいことがある」

土方と三人、広い部屋で対峙するように向き合った。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.32 )
日時: 2013/01/18 18:46
名前: さくら (ID: cPNADBfY)

土方に呼び止められた三人は再び腰を下ろした。四人だけとなった広間はやけに広く感じられる。
土方は三人を見据えた。その視線が敵意を含んでいることを拓磨と真弘は感じ取った。静寂が漂うなか、土方は口火を切った。

「お前たちは一体何者だ?」

決して気を許さないその鋭い眼光は珠紀をはじめ、拓磨、真弘を射抜いた。

「混乱したらまずいと思って皆の前では聞かずにおいたが…お前たちまだ何か隠しているだろう。話せ」

三人は互いに顔を見合わせた。その顔には疑念や不安が入り混じった複雑な表情だった。土方は三人の回答を辛抱強く待っていると、意を決したのか拓磨が前に向き直る。

「信じてもらえるかわかりませんけど、俺達…正確には俺とこっちの真弘先輩は人間じゃない」
「人間じゃない…?」

こくりと頷くと拓磨は続けた。

「俺達は守護者と言って、姫と封印を護る役目を担った人間なんです」
「姫…?封印…?そう言や確かそいつのことを姫と呼んでいたな」

珠紀の次に真弘へと視線を投げて、土方は眉根を寄せた。
先ほど不審者が庭で暴れていたとき、拓磨と真弘が駆けつけて珠紀を姫と呼んでいたことを思い出す。不審に思いながらもあの場で問いただすこともできずにいたのだ。

「そ。姫ってのはこっちの珠紀のことだ。姫は玉依姫の血を継ぐ巫女のことで、俺達は先祖代々その姫と姫が納める封印を護って来た」
「待て。たまよりひめ?封印って何のことだ。お前達は一体…」

頭を抑えて混乱し始めた土方は待ったをかけた。その反応を見て、拓磨は説明を付け加える。

「昔、絶大な力を手にした鬼を封印した刀。鬼斬丸と呼ばれる刀を封印したんです」
「そしてそれを封印したのは玉依姫神。その封印を手伝ったのが俺達守護者の先祖である妖怪ってわけだ。わかったろ?」

拓磨に続けて真弘が言葉を補足した。
だが、それでも何一つ理解できない土方は不信感からこの話が嘘ではないかと疑念を抱き始めた。

「作り話…と思っても無理はありません。私達もはじめは自分たちの役目を受け入れられなかったくらいですから」

弱々しく微笑む珠紀のその顔は、今までもこんな風に説明しても誰も信じてもらえなかった度に傷つき、心無い人間であれば正体を知って冷たく扱われてきた、そんな物悲しさが伝わってきた。
思い返せばそう信じざるを得ない現象が起こっていた。
不審者を撃退するために、札をとって呪術を使った珠紀。風を纏い刀のように振り回した真弘の技。素早い動きで相手に拳を見舞った拓磨の豪腕。今思えばそれは人のなせる業ではない。
彼らの話を信じてみてもよいのではないだろうか、と土方は思った。

「…ひとまず、お前達が人間ではない血が流れていることはわかった…」
「え、マジかよ。こんなにあっさり信じてくれんのか?」
「ただし、全部が全部信じたわけじゃねぇ。これからおいおい俺の目で確かめていく」
「何だそれ」

真弘が肩を落として唇を尖らせた。

「話はこれで終わりだ。千鶴」
「はい」

いつからそこに居たのか、千鶴は広間と廊下を仕切る襖を静かに開けると、土方の傍まで膝行する。
その様子を見て宇賀谷家に仕える美鶴を思い出させたのは言うまでもない。
洗練された千鶴の所作に見入っている三人とは違い、土方はそんなものを気にする様子もなく、小姓である彼女に用件を伝える。

「東の方に確か空き部屋が三つ並んであったはずだ。そこにこいつらを案内してやってくれ。お前達はもう退がっていいぞ」
「皆さん、こちらへ」

千鶴が立ち上がると入ってきた入り口とは別の襖を開けて先導する。それに続いて三人は千鶴の後をついて退出した。

「…とんだ拾い物をしたもんだ」

静寂な広間に土方の呟きはよく響いた。
まだあの三人に聞きたいことは山ほどあった。なぜここにやってきたのか。彼らの血とはなんなのか。封印されている刀をなぜ護っているのか。
だがどれも喉の奥でつかえて上手く問えなかった。嘘を話しているようには見えないのだが、 “飛びすぎた”話で全くついていけなかったのが正直なところだ。

「ま、人ならざる者ならうちにもいるがな…増えたところで何も変わらねぇだろ…」




「こちらがお三方のお部屋になります」

千鶴に案内されたのは敷地内の片隅、広間からだいぶ離れた部屋だった。小さくはあるが、人一人が生活するには十分な広さだった。

「ここがお一人ずつのお部屋になります。何か不便があったら遠慮なく言って下さい」
「ありがとう、千鶴ちゃん」

千鶴はどこに布団があって風呂場や厠の場所を説明した。そうして何を気に留めたのか急に押し黙った。

「どうしたの?千鶴ちゃん」
「あ…皆さんのお着物はどうなるのかな、って思って…」
「そう言えば…」

三人を一瞥して千鶴は小首を傾げた。三人も同様に首を傾げる。気付いたらここに来たわけで、着替えの服すら持っていない。明日から何を着て過ごせばいいかその場の者は誰もわからなかった。
隊士や幹部が余分な着物を持っているとも思えない。貸してもらえる可能性も低い。着物はその人の身丈に合うものが一番だ。真弘はともかく拓磨は長身だ。採寸して着物を見繕わなければならない。

「そうだ!」

と、突然千鶴が声を上げた。

「あの人に頼めばどうにかなるかも」
「あの人?」

三人はまたも首を傾げた。


Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.33 )
日時: 2013/01/18 20:09
名前: さくら (ID: cPNADBfY)

土方に外出の許可を取りに行った千鶴はそのあとすぐに文をしたためた。そしてその文を送ってしばらくすると返事が返ってきた。

「良かった。あ、でもここのお店私わからない…」

千鶴の行動を見舞っていた珠紀、拓磨、真弘は千鶴の部屋にいた。
千鶴が何か手を打ってくれていることはわかるのだが、一体何を始めようとしているのかがわからない。

「お店?これからどこかに行くの?」
「うん。皆の着物をあつらえてくれそうな人がいて、今その人にお願いしたら近くの呉服屋に皆で来てって返事があったんだけど…」
「けど?どうしたんだよ」

胡坐を掻いていた真弘は首を傾げた。

「私、お店の場所が分からないんです」

参ったな、と千鶴が思案していると廊下から一つ足音が近づいて来た。
足音は千鶴の部屋の前で止まったかと思うと、すっと障子を開けた。

「よ、千鶴。どっか出掛けるらしいな。土方さんが京の地理に疎いお前が外出したいって言ってきたからおかしいって首ひねってたぞ。何かあったのか?」
「原田さん。はい、あの実は…」

千鶴は腰を上げると原田に事情を説明した。ふんふんと相槌を打つ原田を何となく見ていた珠紀はふと視線を上げた原田と目が合って動転した。
自分の身の上を確保してくれた人だ。礼を言うべきか否か悩んでいると、そんな珠紀の気を察したのか原田が優しく微笑した。

「なるほどな。あの譲ちゃんに頼んだわけか。場所はどこだ?」
「ここなんですけど…」

千鶴が返ってきた文を原田に見せると、彼は頷いて目尻を下げた。

「ここなら俺も知ってるところだ。連れて行こうか?」
「いいんですか?ありがとうございます!」

何が解決したのかよく分からないが話はまとまたらしい。

「今からどこに行く気なんだか。な、拓磨。拓磨?」

隣で同じく胡坐を掻いていた拓磨の返事が無いことに真弘は不審に思って顔を上げた。
自分より長身のため当然座高も高い。見上げるかたちで後輩を見やると何故か険しい顔をしている。

「どうした?」
「先輩…ここ…この敷地内に入ってからずっと気になってたんすけど…何か感じませんか?」
「何かって?敵か?」
「…わかんないっす。でも、あまり良いものじゃない…」

拓磨に言われて神経を集中して周囲の気を探るが、怪しいものは感じない。

「何も感じないぞ?気のせいじゃねぇのか?」
「…だといいっすけど」
「お前さっき闘ったから気が立ってんじゃねぇのか?ま、無理もねぇよ。何せ俺等はタイムスリップしたんだ。ちょっと疲れてんだろ」

真弘に宥められ、拓磨はそのまま押し黙った。気疲れから余計な神経を使っているだけなのだろうか。
拓磨が眉根を寄せて思案していると珠紀の声に気付くのが遅れた。

「もう!拓磨ったら!ほら行くよ」
「行くって?」

腕を捕まれた拓磨は何のことだと珠紀の言葉を反芻した。

「着物。買いに行くんだって」




時刻は昼前。優しく澄んだ日差しは温かく、高く抜けるような青空が季節は秋を知らせている。
原田を先頭に千鶴と珠紀が並んで歩き、その後ろを拓磨と真弘がついていく。
町に出れば往来は人の活気で溢れていた。魚屋や八百屋、雑貨等商品を売る声や、人々の声が雑踏に混じって祭のようだった。

「ちっさ…」

真弘は思わず顔を綻ばせた。花籠を持つ花売り娘や、籠を肩に走り抜けていく男の身長。誰を見ても身長は一五〇から一六〇センチほどだ。
当然長身の原田、拓磨が歩いていると目立ってしまう。加えて三人はこの時代にそぐわない格好をしているおかげで余計痛い視線を浴びることになった。

「何か、視線が痛いね」
「ま、俺達はこの時代の人間じゃないしな」
「この視線を浴びながら俺達昨日一日外で過ごしたんだからな」

珠紀が人々の視線に耐えかねて二人にそっと耳打ちした。

「まぁ今のお前達の格好は珍しいからな。特にその短髪。髷を結ってなければ囚人とみなされるのが今の時代だ」
「えっマジかよ!」
「先輩囚人っすね」
「お前もな!」

急に髪をそそくさと隠す真弘に、拓磨が茶化す。
そんなやりとりを見つめていた千鶴と目が合った。

「俺の顔に何かついてるのか?」
「えっ。いえっその…」

真弘が小首を傾げると千鶴は慌てて視線を逸らした。

「そう言や自己紹介がまだだったよな。俺様は鴉取真弘様だ!」
「鬼崎拓磨」
「あ、雪村千鶴です」

朝餉の後にあらかたの面々と自己紹介は済ませたが、千鶴は朝餉の片付けに追われていたため、広間に顔出しできなかったのだ。

「俺にそんな熱い視線を送ってくれるとは、もしかして俺に気があるのか!何だ、そうなのか!照れずに仲良くしようぜ!」
「先輩、それ何ていうか知ってますか?自意識過剰ですよ」
「その子もビビッてんじゃないすか」

千鶴の肩に腕を回して、まるで弟子を得た師匠のように明るく接する真弘に千鶴は戸惑いを隠せない。

「先輩、きっと千鶴ちゃんが身長小さいからちょっと嬉しいんだね」
「お前もそう思うか」

千鶴は僅かながらも真弘と並べば身長が低い。真弘はこれまでコンプレックスである低身長をからかわれてきたのだが、こちらの時代は真弘の身長が平均身長らしい。少し舞い上がっているのがよくわかる。

「賑やかな奴等だな。ほら、着いたぞ」

そうこうしている内にいつの間にか目的に到着していた。
店が立ち並ぶその中のひとつ。のれんが下がっている店の前で原田は立ち止まった。

「ここは?」
「ここは田中屋。呉服屋さんで、ここで知人が着物をみつくろってくれるの。今その人がこのお店で待ってくれてると思うんだけど…」

千鶴が中に入ろうとするより早く、のれんが巻きあ上がった。

「いらっしゃい!千鶴ちゃん!!嬉しいわっ。私を頼ってくれて———ってあら。こちらがそのお三方?」

のれんをくぐって現れたのは煌びやかな着物に身を包んだ少女だった。


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