二次創作小説(紙ほか)

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.240 )
日時: 2014/11/09 15:22
名前: さくら (ID: B.jT5AAk)

遠くで鳥のさえずりが聞こえる。
昨晩の雨が嘘だったかのように、東の空から朝日が顔を出す。
珠紀がさらわれた翌日の朝。清々しい朝の陽気とは反対に、風間たちが滞在している宿は緊迫した空気が漂っていた。

「それで?」

風間の短い一言が部屋に響く。
昨晩典薬寮の襲来により、宿屋は半壊。次の借宿を探すために不知火は出払っている。ぶつくさと文句を垂れながらも風間の命令を守っているのは今だけだ。同盟を組んだ以上は問題を起こす訳にはいかない。それを理解しているからだ。
被害が少なかった一階で風間と遼は向かい合って座っていた。
半壊した宿屋は風が吹く度に歪な音を立てている。朝の清々しい日差しも宿屋の中をよく照らした。

「俺から話すのか」
「当然だろう。元はと言えばお前がここに来てからおかしなことばかり起きている…何か理由があって訊かなかったがここに来る前はどこにいたのかも話してもらおうか」

でなければこれは返さない、と風間は自分の脇に置いてある鬼斬丸を手元に引き寄せて見せた。
遼は大きな溜め息をひとつつくと、どうしたものかと頭を掻いた。
遼がここにいるのは全て玉依姫のためだ。
風間がどういう経緯で鬼斬丸を奪取したのかは知らないが、それを取り返さないと危険と常に隣り合わせだ。現に雑魚ながらもカミや妖の類が身の周りによく現れる。
それは鬼斬丸の封印が弱まっているせいだ。この瘴気を好むカミや妖が近づいて来る。
その鬼斬丸の封印を鞏固にするためにこの時代の玉依姫、璞玉と計画を立てたのだ。その計画は現在も進行中で、そして一番知られてはいけない男に今ことの経緯を話さないと不信感を抱き、そして鬼斬丸には二度と触れられないだろう。それどころか彼はここから追い出すかもしれない。

「…はぁ…」

もう一度大きな溜め息をついて考えを整理する。
今守護者である自分が鬼斬丸の傍から離れるのは一番良くないことだ。封具が一つ解放されたままの状態の鬼斬丸の封印がいつ何がきっかけで綻ぶかわからない。
それならば。

「…俺はこういうことが苦手なんだよ…」

頭を使うことにあまり慣れていない。だが、守護者は自分だけのだ。
目の前の鬼はまだかと急かすような視線を送ってくる。
再三溜め息をついた後、遼は口を開いた。

「俺はこの時代の人間じゃない。未来から来た」

下手に誤摩化して彼を不審にさせて、鬼斬丸から遠ざかるなら、あえて真実を説明しよう。そうすれば打開策はどこかにあるはずだ。大きく賭けに出るしかない。

「そんなことは知っているが?」
「は?」

返って来た言葉はあまりにもあっさりしていて、遼は思わず聞き返した。

「あの男…何と言ったか…あぁ、犬戒と言ったか…あの男が未来から来たということは知っていた…何やら親しくしているお前を見てお前も未来から来たんだと察するのは当然だろう」

風間が言っているのは遼が璞玉の所から返って来た日。色町に風間と落ち合った際に芸者の格好をした信司と会ったときのことだろう。

「俺が訊きたいのはどうして未来から来たんだ、ということだ」

どこまでも捻くれていてでどこまでも人を見下した態度。風間のそういうところが嫌いな遼は眉根を寄せて抗議をしようとしたが、今はそれどころではない。拳を握り、ぐっと堪える。

「…わからねぇ」

ただ一言。遼は首を横に振って答えた。

「わからない、だと?」

風間が嫌疑の視線を向ける。真っ直ぐに遼を見つめて、真実か否かを見定めているような、鋭い視線。

「俺はこの時代じゃなく…未来の、季封村ってところにいて…そこで守護者をしている」
「これのか?」

風間が脇に置いた鬼斬丸に視線を向ける。

「あぁそうだ。俺の他に守護者は五人いて…信司…犬戒も俺と同じ守護者だ」
「何故未来から守護者が来たのだ。どうやって」
「順を追って説明する。急かすなよ」

遼はふっと息を吐いた。腹を括るべきだ。吉と出るか凶と出るか。

「俺は守護者だ。その刀を守る血族。だから」

すっと息を腹に吸い込む。

「俺がお前の傍にいたのはその鬼斬丸の“封印を守るため”だ。“封印を破るため”じゃない」

言い切って遼はじっと相手を見た。
自分の同じ赤い瞳は揺らぐことはない。ただ鏡のようにじっとこちらを見返してくるだけだった。

「…だろうな」

風間のあっさりとした言葉にまたも遼は声を上げそうになる。

「お前を拾って、この刀を奪って来たときにお前はこう言っていた…『その刀を守護していたのは俺だ』と…その時点でおかしいと思っていた。守護している者なら破ろうとしている者を阻止しようとするのが必然だ。お前が俺の傍から離れないのも、それが理由だということも知っていた」

滔々と語り出す風間に、先ほどの覚悟も忘れて遼は目を瞬いた。

「何故お前がこの刀を守護しているのか、そんなことはどうでも良い。問題はただこの刀にかけられた封印が解けるか解けないか、だ。当然守護する者であればその封印の仕組みも知っているはず…そう思ってお前に遣いを頼んだのだが…お前は予想通り俺を裏切ってくれた」

どこか歪な笑みを浮かべる風間に遼は押し黙って彼を見る。嬉しいのか、悔しいのか曖昧なその笑みは彼の心情を読みにくくさせた。

「封印を守護する者がいればそれを統括している者がいるのだろう…その者と何か計画を企て、俺を謀ろうとしていたようだが、残念だったな…」

酷く冷たい声が遼の心臓を鷲掴みにした。
先ほどまで浮かべていた笑みを引っ込め、風間は赤い瞳を遼に向ける。

「俺はそこまで浅はかに見えたか?これでも西の里を治める統領だ。舐めるなよ」

風間の言葉ひとつひとつが空気を揺らし、重い重圧に変えているようだった。
この男は全て見通していたのだ。自分がこそこそと動いていたことも知っていた。
そう思うと遼は何故か笑いがこみ上げてきた。
全て相手が知っていたなら隠す必要もない。これは吉だ。

「そこまでわかっていたならわかるだろう。その刀を返せ」
「嫌だと言ったら?」
「俺がどうするかぐらいわかってんだろ?」

ゆらり。
遼の周辺の空気が不自然に揺れる。
すると瞬時に遼は目の色を変化させ、鋭く尖った爪先を風間に向けた。

「何もかも知っているなら面倒くせぇ話は終わりだ。返せ。それはお前のもんじゃねぇ」
「やっと牙を向いたな、犬」

くつくつと喉で笑うと風間は鬼斬丸とは反対に置いてあった自分の刀を抜いた。

「この刀のために少しでも役に立つのかと思えば、とんだ駄犬を拾ってしまったことに後悔している」
「お前の思い通りに動くくらいなら死んだ方がましだな」

一触即発。ぴりっと空気が張りつめる。

「ひとつ答えてもらうぞ。その刀を盗んだのは何故だ」

遼は風間を睨んだまま問うた。風間は瞬いた後、口端を吊り上げる。その笑みは今までに見たことがない笑み、何かを大切に想うそんな笑みだった。

「お前が一生背負うことのないもののためだ—————」



Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.241 )
日時: 2014/11/26 21:34
名前: Carry Blossm (ID: esFsElNI)

こんちわ!!
お久しぶりです!
小説見たよ。超面白かった〜。
さくらさん文作るのうますぎ∼∼!!
次どうなるのか楽しみに待ってるね♪

ところで質問何だけど、ページ?ってどうやって作るの?
教えて頂戴、さくら先生(笑

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.242 )
日時: 2014/11/30 17:15
名前: さくら (ID: B.jT5AAk)

Carry Blossmさん

お久しぶり^^
コメントありがとう

最近更新が遅れてごめんよ;;
更新していくね!!


ページの作り方??
えっとね…私勝手にできたんだよね…汗
だいたい12〜14??くらいの記事書いたら勝手に1ページ作られてて…
多分作り方もあるんだと思うよ
でもごめんね
私知らないの…役に立てなくて申し訳ない…

わからないことがあったら管理人さんに私はよく質問してるし、気になったら聞いてみたらいいと思うよ^^

先生じゃないからねww
そんな偉い人じゃないからww

こうやって絡んでもらえると嬉しい!!
Carry Blossmさんも更新頑張ってね^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.243 )
日時: 2014/11/30 17:24
名前: さくら (ID: B.jT5AAk)

時間は無情にも過ぎて行く。
昼を告げる鐘の音が拓磨の心を追いつめた。
逸る気持ちを必死に抑え、拓磨は踵を返す。来た道を引き返しながら唇を噛んだ。
今日の午前中だけで京の中心部をくまなく探した。
だが、珠紀どころか典薬寮の影すら掴めない。気配がすればすぐにわかるはずだが、それすらも感じられなかった。
走り回って身体は疲労しているはずなのに、心は急かす。早く、早くと。
今にも走り出しそうになる身体を必死に宥めながら、屯所への帰路に着く。

「…っ」

どうしてこんなにも無力なのだろう。
どうしてこんなにも残酷な仕打ちを受けるのだろう。
捜索の手を止めるとそんな疑問が頭のなかをぐるぐると廻る。
あのとき、どうして。
疑問と後悔が胸に渦巻いて拓磨を追いつめる。心が砕けそうになる。

『考え過ぎなんだよ、おめーは』
『そうだ、拓磨。落ち着いけ』

はっとして後ろを振り返る。
だが、そこには誰もいない。昼の賑やかな大通りの雑踏が目の前に流れるだけだ。
いつもならここに先輩達がいた。
いなくなって初めて気づく。こんなにもあの二人の存在は大きかったのだ。
頼もしい仲間はもう近くにはいない。
孤独が急に足下を救い上げてくるようだった。

「……ッ」

小路に入り、目眩を覚える頭を抑える。
心を強く持たないと、気を張っていないと、何かが崩れそうだ。
息を大きく吸い込んで、自分を落ち着かせる。
大丈夫。本当に独りになったわけではない。
真弘や祐一はただ屯所にいないだけ。京のどこかにはいるはずだ。
信司は行方がわからないが、きっとどこかで無事でいると信じている。
珠紀は————…

「大丈夫ですか、青い顔をしていますよ」

ふわり、と優しい声が振ってくる。

「あ…」

顔を上げれば見知った人物が立っていた。

「どこか体調でも悪いのですか?昨日の今日です。あまり無理はしない方がいいですよ」
「大蛇さん…」

ぎゅっと苦しかった心が緩和されていく。
見知った人が傍にいるだけでこんなにも安心する。と同時に自分の情けなさを冷静になって見つめ直すことができた。

「お、大蛇さん…俺…」
「…大変でしたね、鬼崎君…そんなときに傍にいてやれず…申し訳ありません」

目を細めて頭を下げる大蛇に拓磨は首を横に振った。そうじゃない。そんなことが言いたいわけじゃない。

「お…俺は…どこで…間違えたのか…わからない…」

拓磨は俯いて自分の足下を睨んだ。
どこで、いつ、何を間違えたのか。

「信司は勝手にいなくなるし…珠紀にも…悪いことして…そのまま……先輩たちも…俺に一言もなく…俺を…置いて…ッ!!」

言葉にすると急に現実が押し寄せてくる。
自分が不甲斐無いからか。どこかで選択肢を間違えたのか。後悔が波のように襲いかかってきて、それに抗うと他人を責めたくなる。
悪いのは自分だけか。どうして先輩達は勝手に出て行ったのか。信司は何故単独行動をするのか。
誰も責めることはできない。責任を押し付けることもできない。
行き場のない憤りが溢れて止まらない。

「俺は…ッ!!」

新撰組の綿々の前では強くいよう。心配をかけてはいけない。弱い部分は見せられない。見せてはいけない。しっかしろ、しっかりしろ。

「にー…」

いつの間にか睨んでいた足下の影からオサキ狐が顕現し、拓磨の肩まで登ると彼の頬にすり寄る。

「そんな様子では守護者失格ですよ、鬼崎君。オサキ狐まで心配しているじゃないですか」

顔を上げると優しく微笑む大蛇がいた。

「この時代に来たことには意味がある…そして我々が方々に散らばったことにも意味があると、私は思っています。戸惑うことは多々あるでしょう。ですが、玉依姫が居る限り、鬼斬丸が存在する限り、私たちのすべきことは何ですか?」

諭すような、身が引き締まるような、強かな声。
自然と拓磨の背筋が伸びる。

「大丈夫です。鴉取君たちは一緒にいないだけ。心は同じ。それは犬戒君も。そして私も…心を強く持って。珠紀さんが一番に心待ちにしている貴方までもが、崩れてしまってどうするんですか」
「大蛇さん…」
「大丈夫…典薬寮も珠紀さんを無下には扱わないでしょう。自分を強く持ちなさい。誰も間違ってはいない。自分を責めるのはやめなさい。前を向いて、自分の信じるもののために、その力はあるのですから」

あぁ。
荒れていた心が静かに凪いでいく。昔からこの人はそうだ。年長者であるからか。それとも人の心を汲み取ることに長けているからか。
いつも欲しい言葉をくれる。勇気をくれる。叱咤してくれる。

「…ありがとう、大蛇さん。変なこと言って悪かった」
「それでこそ鬼崎君です」

大きく頷く拓磨に大蛇は満面の笑みで答えた。
肩に乗っているオサキ狐を優しく撫でる。何度もくじけそうになっても、俺にはまだ仲間がいる。
そう思えると先ほどまで重かった身体が軽くなった気がした。

「そう言えば、大蛇さんはどうしてここに?先生のお使いか?」
「あぁ、私は所用がありまして。たまたま向こうから貴方が見えたので声をかけたんですよ」
「あ、じゃぁ足止めしたか…?」
「大丈夫ですよ、急ぐ用でもありませんし。では、私はこれで…辛くなったらいつでも来なさい。悩んでいるのは君らしくないですよ」

朗らかに微笑みながら大蛇は拓磨と別れた。

「強いな、あの人は…俺も見習わなくっちゃな」
「にー」

オサキ狐の肯定するような声に微笑を零しながら、拓磨は屯所に戻った。




拓磨と別れた大蛇は一軒の茶屋に入った。
昼間という時間帯もあり、繁盛していたその店はこじんまりとしていて、座席もさほど多くない。
大蛇は店を見渡し、そしてある人物を見つけた。

「あなたが…鈴鹿御前様の末裔…ですか?」

その人物に語りかけるとくるりと振り返った。
まだ年は珠紀と変わらないであろう、生娘だ。だが、まとう気配が人とは違うことが大蛇にはすぐにわかった。

「そうよ。貴方が私を呼んだのね?」

すっと袂から手紙を取り出したその人は愛くるしい笑顔で微笑んだ。

「鬼斬丸を調べていたら貴女も調べていると知って…お呼びだてして申し訳ありませんでした」
「いいのよ。お互いそう無関係ってわけじゃなさそうだったし。貴方、拓磨君たちのお仲間なのよね?」
「はい、大蛇卓と言います」

自己紹介をするとその人物は大きく頷いた。

「私はお千。貴方とお話したいと思っていたの」


Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.244 )
日時: 2014/12/01 22:41
名前: さくら (ID: B.jT5AAk)

あれ。
顔を上げて辺りを見渡す。
庭の掃除をしていたことを思い出して千鶴は目を瞬いた。自分が庭の池のほとりで立っていることを確認する。

「…まだ本調子じゃないのかな…」

ぼんやりと頭にもやがかかったようだ。
急に記憶が飛んでしまう。先ほどもぼうっとしていたのか、記憶がない。
手にしていた帚を再び動かし、作業を再開させる。
身体は疲労も倦怠感もない。ただ頭がぼんやりとするのだ。
春が近づいて、朝晩と日中の気温差が激しい。そのせいで身体の調子が崩れているのかも知れない。そう思った千鶴は気を取り直した。

「やぁ、精が出るね」
「あ、近藤さん、土方さん。おかえりなさい」

昼から外出していた近藤と土方が屯所に戻ってきた。
千鶴は頭を下げて二人を出迎える。

「近藤さん、後で部屋に行くから先に部屋に戻ってくれ」
「お、そうか。それじゃぁ後で…」

近藤は頷くと先に玄関へと向かった。
その背中を見送って、土方は千鶴に向き直る。

「調子はどうだ」
「あ、はい。ちょっとぼうっとすることがあるんですけど、身体は何の問題もありません」

ぶっきらぼうに訊ねる土方だが、その言葉には優しさや慮る気持ちが込もっていることを知っている千鶴は笑顔で答えた。
だが、土方の顔は険しさを帯びる。

「本当に、身体は何ともないのか?」
「?はい…それが、どうかしたんですか?」
「胸…」
「え?」

ぼそりと呟いた土方は言葉を濁していて、よく聞き取れない。千鶴は小首を傾げて言葉の先を催促するが、土方はどうも言いにくそうだ。

「…お前が倒れる前に…言ってたんだよ…てめぇの中に誰かがいるって……」
「私、そんなこと言ったんですか?」
「は?」
「え、あ、すみません…よく、覚えていなくて…私が倒れたのは庭先で、ですよね…?」
「あぁ、俺の部屋の庭先で…」
「え?」
「は?」

会話が噛み合ない。お互い顔を見合わせながら、さらに続ける。

「私、記憶がないのは広間の庭からで…そこで私倒れてたんじゃ…」
「違うぞ、お前、俺の部屋の庭先で…倒れて俺が…」

混乱する千鶴だが、反対に土方は眉根を寄せた。

「お前の行動がおかしいと他の奴らが言ってたんだ…山崎がお前にしては珍しく物忘れをしていたとか、斎藤までもお前の歩き方が変だとか…お前が倒れる前のことらしいが…」
「…私、倒れる前に山崎さんとも斎藤さんともそんなお話してません…」
「…どういうことだ?俺の目の前で倒れる前にあいつらと会ったって…」

千鶴の瞳が揺れ動く。
それが彼女の否定だと理解した土方は違和感を感じた。

「千鶴」
「え、」

ぐいっと千鶴の腕を引いて引き寄せる。
そして彼女の目線に合わせるように腰を曲げた。

「…お前、千鶴だよな」
「…土方さん?」

大きな瞳は濡れていて、動揺と驚きで揺れている。その瞳を覗き込んで土方は何かを審議しているような、見定めるような険しい視線を送った。

「……お前が倒れる前…俺に言ったんだ…怖い…自分の中に誰かがいるってな…自分の胸を抑えて泣いてたんだ…」
「……わ、私…」
「あれはお前じゃないのか…」

その問いに答えられない千鶴はただ土方の目を見つめ返すことしかできないでいた。記憶が全くないのだ。何かに浮かされてそんなうわ言を土方の前で言ったのだろうか。

「…お前が泣くほど…何かに苛まれているんだろう…お前が倒れた原因もきっとそれだ」

すっと千鶴を解放すると土方はふっと息を吐いた。
千鶴が倒れたと証言している場所と、自分が認識している場所が違う。
これはどういうことなのか。

「そ、そう言えば…」

千鶴は何かを思い出したのか声を上げた。

「拓磨君が…今朝、私を見て言ったんです…誰かに会ったのかって…」
「どうしてあいつがそんなこと聞いたんだ」
「わかりません…」

何かがおかしい。千鶴の身に何か起こっていることは明らかだが、証拠も断言できる要素もない。嫌な予感しかしない土方はこの原因不明の症状をどうにかできないものか考える。

「あ、あの…土方さん…」

考え込む彼に千鶴は恐る恐る声をかける。

「私大丈夫ですから。土方さんに迷惑ばかりかけて、お仕事にも影響が出たりしたら…」

心優しい土方のことだ。きっとどうにか解決できないかと考えてくれているのだろう。それは嬉しい。だが、今隊が分裂し、忙しいこの時期に。自分に割く時間もないはずの彼を煩わせるのは申し訳ない。

「……お前はいつもそうだな…」
「え?」

千鶴に聞こえない声で土方は少し寂しそうに呟いた。
そしてふっと千鶴の頬に手を添える。

「冷たいな…もう日が沈む…掃除もそこそこにして早く休め…無理はするなよ…」
「土方さん…」

春とはいえ、日が傾けば風は冷たくなっていく。
冷えきった頬に土方が触れる手が温か過ぎて感覚が麻痺する。彼の手の温もりを感じ取りたくて、千鶴は目を閉じた。

「……本当は…どこか不安なんです…突然苦しくなって…気がついたら皆さんが心配そうな顔をしていて…私…何かおかしいんでしょうか…」

小さく弱々しく千鶴は言葉を口にする。本当は自分の胸の内に秘めておこうと思っていたことだ。言えば心配する人が多い。優しい人たちはどうにかしようとしてくれるはずだ。だが、今この時期に自分の事情で迷惑をかけるわけにはいけないと心が待ったをかける。

「千鶴…そういうことは早く言え…心配する身にもなれ…」

その言葉を待っていたというように土方はもう片方の手でそっと彼女を引き寄せた。
上半身を包む温もりに初めは緊張したが、まるで父親にあやしてもらっているようで、安堵の息を吐く。

「…辛くなったらいつでも言え」
「はい…」
「…倒れるなら俺の目の前にしろ」
「はい…」
「…遠慮なんてするな」
「はい…」

心の内に根付く不安の塊がゆっくりと溶けていく。
耳を澄ませば土方の鼓動が耳朶を打つ。その音を聞くと安心感が得られる快感が心地よい。
誰かに相談しようかと悩んだ。だが、今屯所は分岐点に立っている。怒濤のように流れる状勢は誰にも止められない。些事とも言える不安を閉じ込めて来た。

「…もう、泣くなよ」
「私泣いてませんよ?」

土方の言葉に顔を上げて抗議する。近くに土方の顔がある。少し恥ずかしいが真摯に心配する土方の視線に羞恥心を感じるのは何か違う気がして、千鶴は逸る鼓動を必死に隠した。

「よく言うぜ…泣いてしがみついてきた癖に」
「し、しがみついて…!?」

頭を振って千鶴は否定するが、土方は苦笑した。

「ぴーぴー泣いてしがみつくなんざお前もまだまだ子供だな」
「こ、わ、わ、私子供じゃありません!!」

千鶴は声を上げて土方に抗議するが、くすくすと笑って土方は聞く耳持たない様子で子供をあやすようによしよしと頭を撫でる。
さらに子供扱いされたと慌てた千鶴は土方を睨んだ。

「…少しは元気になったか?」
「え…?」
「お前はそうやって笑っているのが一番だ。何かあったらすぐに言え、いいな?」

優しい声音でそういうと土方は体を離した。温もりを失って寂しく思ったが、千鶴は微笑んだ。こんなにも気にかけてもらえている。そう思うともう不安もなくなっていた。

「あ、土方さん」

すると門をくぐった沖田が二人に声をかけてきた。巡察に出ていた沖田の隊が帰館したようだ。沖田を先頭に次々と隊士が門をくぐって帰って来た。

「町はいつも通りの様子でしたよ」
「そうか。珠紀は…」

土方の問いに沖田は無言で首を横に振った。沖田の深刻な表情から手がかりすら掴めていないのだとわかる。
隊列の最後尾にいた拓磨を見止めて、土方が声をかけた。

「拓磨。お疲れだったな」
「あ、はい…」
「焦るなよ、俺たちもいつでも協力する」

土方の言葉に拓磨はただ笑って頷いた。彼もまた大変な時期なのだ。できることがあるなら力になりたい。

「ひとつ聞きたいことがあるんだが…」

拓磨は目を瞬いて土方の言葉の先を待つ。

「今朝、どうして千鶴に他の誰かに会ったかなんて聞いたんだ?」

一瞬考えて、拓磨は何の話か理解した拓磨は頷いて答えた。

「わからない…でも、何となく、いつもの千鶴と少し様子が違った気がして…」
「具体的にどう違ったのか、わかる?」

その場にいた沖田も会話に参加する。
拓磨は首を傾げながら千鶴を見つめた。

「…千鶴であって…千鶴のなかに…何か別のものが…あるような…」
「別のもの?」
「わからないけど…ごめん、こういうことは珠紀が一番わかるんだろうけど…」

拓磨の言葉にその場は静まり返る。頼りたい人物は今ここにはいない。
冷たい風が彼らの間を吹き抜けて行く。

「…中に入りましょうか。もう日が沈みます」

辺りを見渡せば隊士達は玄関に入り、草鞋を脱ぎ終わっていた。空を見上げると薄い紫色の帳が空を覆っている。

「そうだな…冷えてきた…」

春風はまだ冷たい。もどかしさを感じる彼らを嘲笑うかのように風が強く吹いた。


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