二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.190 )
- 日時: 2013/12/09 01:44
- 名前: さくら (ID: /NsG2i4v)
自分の女が他の男の腕の中にいる。そんな事実が目の前に広がっているというのにどうして大蛇は待ったをかけるのか。
拓磨は混乱して大蛇を見ると、何故か自分と違って落ち着き払っている。
その余裕が気に障って拓磨は声を荒げた。
「どうして止めるんですか!珠紀が…っ!!」
焦る拓磨に大蛇は珠紀に視線を戻すように促す。拓磨はそれさえも煩わしそうにして、もう一度珠紀を見た。
知らない男の膝の上に乗っている珠紀は抱きついているようにも見える。
だがよく見ると珠紀と男がこちらには聞こえない声で会話をしているようだった。珠紀から顔を近づけて男に何か語りかけている。その距離感さえもどかしい拓磨だったが、単に客といちゃついているようではない。何かを聞き出しているようだ。
「心配するばかりでは珠紀さんのためにはなりませんよ、拓磨君。もっと余裕を持って下さい」
「…珠紀はもしかして…」
ちゃんと自分の果たすべき目的を果たそうとしている。
信司を調べるためにここに潜入した。この機会を逃すまいと彼女なりに奮闘しているのだ。
それを知った拓磨は自分が恥ずかしくなった。
珠紀を心配するばかりで、それが返って彼女の邪魔になるかもしれない。
その事実を知ったとき拓磨は激昂しそうになった気持ちがどこかへ行った。
「…騒いですみません…」
「いいんですよ。拓磨君。君はただ信じてあがればいい。そうすることで珠紀さんも安心して調査できますよ」
大蛇に諭され、拓磨は大きく頷いた。そしてもう一度珠紀に視線を移すと、酒の追加があったのか珠紀は男から離れて部屋を後にするところだった。拓磨は慌てて彼女を追う。
「珠紀!」
部屋を出ると廊下の高欄に寄りかかる珠紀の姿があった。拓磨は珠紀に駆け寄るとその顔をそっと覗く。
「大丈夫だよ…ちょっと気持ち悪いだけだから…」
「水、もらってこようか?」
拓磨は珠紀の腕を支えるようにしてそう提案するが、彼女は首を横に振った。
顔が赤く、目元が伏せがちできっと強い酒を客に勧められて飲んだのだろう。
酒に慣れていない珠紀には厳しいものだった。
「でも、わかったよ…信司君のこと…」
珠紀は顔を上げて拓磨に笑顔を向けた。
「色町で働き始めたのは最近なんだって…すごく人気の芸者だって噂になって…お金をいくら積んでもなかなか座敷には上がらないほどだって…信司君を買いたいってお客さんもいるけど信司君…全部その話を蹴ってるらしいの…それが不思議だってさっきのお客さんが教えてくれたんだ…」
強い酒のせいで若干気分が悪いがそうも言っていられない。
珠紀は拓磨から離れると酒の追加を取りに行こうとする。
「珠紀!!」
拓磨が呼び止めると珠紀はゆっくり振り返った。
「俺、お前が心配だって言って最後まで反対してたりして…悪かった!お前が頑張ろうとしてるのに素直に応援できなくて…」
拓磨は自分の不甲斐なさ、配慮のなさに反省していた。
そんな彼の顔を見て、珠紀は顔を綻ばせる。
「拓磨、私拓磨が頑張ってこいって言ってくれたらもっと頑張れるかも」
珠紀はおどけるように拓磨に言葉を求める。彼女のそんな振る舞いに拓磨は頼もしさと愛おしさを感じながらはにかんだ。
「頑張れよ、珠紀!何があっても俺がついてるんだからな!」
「うん!」
珠紀は大きく頷くと軽い足取りで廚に向かっていった。その背中を見送っていた拓磨はぐっと拳を握る。
男である拓磨がここでできることがない。だから珠紀に一任することになった。
自分はその歯痒さと戦いながら黙って珠紀を見守るべきなのだ。
「…頑張れよ…」
一方その頃千鶴は呆気にとられていた。
「こ、近藤さん。原田さん。それに永倉さんも…!」
座敷に呼ばれて行ってみれば顔なじみがそこにいて緊張がふっとんで驚きが勝っていた。
「平助も、そこにいるぜ」
永倉は呆れたように部屋の隅を指差した。見ると部屋の角で一人酒を飲んでいる藤堂の姿がある。
静々と部屋に入ると近藤がいつもの優しい笑みで千鶴に声をかけた。
「いや、雪村君が緊張していてはいけないと思ってね。様子を見に来たんだよ」
「そうそう!べっぴんになった千鶴ちゃんは今日しか見れねぇからな!」
「お前はただ酒飲みに来ただけだろうが」
いつものやりとりに千鶴は安堵しながら面々に酒を注いでいく。
「あの、原田さん。平助君はどうしちゃったんですか…?」
部屋の角で陰気に飲んでいる平助が気になるのだろう。原田にそっと耳打ちして訊ねると彼は苦笑して肩をすくめた。
「ほっとけ。あいつは色々と多感だからな。そのうち元に戻るさ」
原田の言葉に曖昧に頷きながら、千鶴は新撰組の面々と談笑する。
そうして緊張などとっくに忘れた頃。座敷番に呼び出され、次の座敷に向かうことになった。
「それじゃ頑張れよ、千鶴」
「はい」
「俺たちまだ飲んでるからなー!!何かあったら呼んでくれよー千鶴ちゃん!!」
この短時間で完全に出来上がってしまった永倉は赤い顔を綻ばせながら手をふってくる。
千鶴は大きく頷くと次の座敷に急いだ。
次の座敷は違う店だった。座敷に上がるとそこは襖で仕切っていたいくつかの部屋を繋げていて広間のようになっていた。
当然客数も多く、既に数人の芸者が座敷で働いている。千鶴も部屋に入ってすぐ客に隣の席を勧められ、その客の相手をする。
「新入りかい」
「はい。千鶴言います。よろしゅうおたの申します」
「ははっ。可愛い子じゃねぇか。どれ酒でも注いでもらおうか」
男はそう言うと千鶴に杯を差し出した。千鶴は黙って男の杯を満たすと、男たちの会話に耳を傾ける。
「それで、例の作戦はどうなったんだ?」
「あぁ。決行は明日でいいだろう。奴らも油断しているだろうさ。何せ、新撰組屯所に火をつけるんだ。誰もそんなこと予想してないだろう」
男たちは笑って酒を口に含む。だが千鶴にはそれが笑える話題ではなかった。
背中には戦慄が走り、ぞわぞわと恐怖が地面から這い上がってくるようだった。ここにいる男たちは新撰組の奇襲を企んでいる。
千鶴が最も得たかった情報だ。千鶴は男たちの顔を覚えるとすっと立ち上がった。
「あ?どこに行くんだ?」
「お酒が無くなったので、お替わり持ってきます」
千鶴は努めて笑顔で答えていたが、内心焦っていた。早くこのことを土方に知らせないと。
千鶴は部屋を出ると店の出口へと足を向けようとする。だが、部屋から先ほどの男が後を追ってきた。
「酒などなくなっていなかったぞ。替わりはいいから、俺の話相手になれ」
失念していてが相手は既に酔っている。先ほどのあしらい方では不自然だったのかもしれない。
千鶴はどうしたものかと悩んだ。座敷に戻って男の気が済むまで付き合えば相手が怪しむことはない。だが、ことは一刻を争う。男の相手をしている時間が惜しい。
千鶴は一礼すると踵を返した。ここは振り切るしかない。
「お?どこに行くんだ、おい」
だがそれも逆効果だったらしい。男は嬉しそうについてきた。
「鬼ごっこか?それともこれが嫌よ嫌よも好きのうちってやつか?」
男は遊ばれていると思っているのか喜んで千鶴の後を追ってくる。
「あ、あの追いかけて来ないで下さい!」
千鶴は足下を邪魔する裾を上げると歩調を早める。だが相手も酔っているとはいえ男だ。千鳥足でも追いかけてくる。
千鶴の心は次第に焦燥でいっぱいになっていった。早く報告したいのにこの男をどうすればいいのか。
「どうして逃げる。俺と遊んでほしいのか、ん?鬼ごっこをするにはここは狭いだろう」
男は壁や柱にぶつかりながらも追いかけて、不気味な笑い声まで上げている。
もう逃げるしかない。この男に捕まればきっと離してもらえない。それ以前に泥酔した男が何をするかわからないという恐怖心の方が強かった。
千鶴は必死で足を動かし、なるべく身を隠せるような場所を探す。だが初めて入った店だ。どこにどの部屋があってどこが廊下に繋がっているかなど知らない。
いくつかの無人の部屋の障子を開け、とうとう行き止まりまで来てしまった。
「おぉ?何だ、鬼ごっこはおしまいか?つまらんなぁ。どれでは鬼の俺がお前を捕まえてやろう」
下卑た嗤い声を上げながら男は一歩一歩と近づいてくる。千鶴はその度に後退するが壁に背中が当たったとき、どうすべきなのか必死に考えた。
声を上げれば斎藤か山崎が来てくれるはずだ。千鶴は声を上げようと息を吸ったときだった。
「眠れ———」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.191 )
- 日時: 2013/12/09 20:59
- 名前: さくら (ID: /NsG2i4v)
「眠れ———」
「んごっ…!?」
凛とした声が部屋に響いた。すると突然目の前に迫っていた男が声を上げて倒れた。千鶴は卒倒する男を避けると声の主を見た。
部屋の入り口に立っていたのは珠紀と同じ背丈の人だった。月明かりと他の部屋の明かりを背にしているのでその人物の顔がはっきりと見えない。
だが芸者姿であることはすぐにわかった。結い上げられた髪、崩した着物が描く美しい体の線。
「全く、悪い客に捕まったもんやね」
その人物はやれやれとため息をつくと畳の上に転がって眠っている男を眼下に見た。
「あ、あの…あなたは…?」
「志乃言います。あんたは?」
流暢な郭言葉に千鶴は完全にこの人物が芸者であると確信した。
「千鶴言います。あ、あの助けてくれて、ありが———」
「君…ここの芸者じゃありませんね…」
急に相手の言葉遣いが変わった。色町言葉ではなく千鶴が普段使う言葉使いだ。
その変化に驚いていると相手が千鶴に近寄ってきた。
「君はもしかして…」
「え…?」
今夜は満月だ。雲に隠れていた望月が顔を覗かせれば、世界は明るくなる。
ちょうどそのときだった。丸窓から差し込む月光が千鶴を照らし出した。
「薫君…?」
「え、かおる…?」
一体誰と勘違いしているのだろう。相手は酷く困惑していた。
月光は室内を明るくした。そのおかげでやっと相手の顔を確認できる。
その芸者は驚きで揺らめいている瞳は大きく、雪を思わせるような白い肌は月光に照らされて今には消えてしまいそうなほど儚かった。
触れれば壊れてしまう、触れれば傷つけてしまう。そんな印象を強く受ける。
純粋に美しい人だった。全てが揃っていて、けれどどこか違和感を感じた。
「あ、あの…誰かと間違えていませんか?私は千鶴と言います。氏は雪村で…」
郭言葉を使うことも忘れて千鶴は目を丸くしている志乃———信司に訊ねた。
その言葉に我に返ったのか、信司は慌てて言葉を続ける。
「君が…!あ、いや、こっちの話だから…名前は雪村千鶴…?だって、本当?」
「はい…そうですけど…?」
再度名前を訊ねられ、千鶴は首を縦に振る。
だが相手は何故か驚愕と焦燥とが入り交じった表情でどこか落ち着かない。
名乗っただけだというのにこの反応は一体何なのだろうか。
「ど、どうしてこんなところに…!君まで色町に潜入してたの…!?」
「君まで…って…珠紀ちゃんもここに潜入していること、知ってるんですか…!?」
今回の潜入は君菊とその一部の人間、そして新撰組内の者たちしか知らない事項だ。どうして珠紀まで潜入していると知っているのか。
千鶴はある疑問が頭に浮かんだ。
この人物も新撰組を貶めようとする間者なのかも知れない。でなければ今回の情報を知っているはずがない。
「貴女も…奇襲を企てる人物なんですか…!?」
「え、奇襲?」
何のことかわからないというように信司は小首を傾げた。だが千鶴は警戒心全開で信司と対峙する。
「どうして私と千鶴ちゃんが潜入するって知ってるんですか!?貴女も新撰組を陥れようとするんですか!?」
「ま、待って!誤解だから!落ち着いて!僕はそんなつもりはないし———君はここにいちゃいけない…!」
信司は大慌てで弁解する。千鶴があらぬ嫌疑をかけていることは理解した信司はとりあえずこの場をどうにかしようと言葉を探した。
「君が今ここにいちゃいけないんだ…!きっと新撰組のために潜入したんだろうけど、どうして今日に来たんだ…とりあえずこっちへ」
有無を言わさず信司は千鶴の手を取って別の部屋へと移動する。部屋を出て廊下を突き進むとそこには柵がされてあった。関係者以外立ち入り禁止という意味だろう。信司はその柵をどかすとさらに奥の部屋へと急いだ。
そして一番奥の部屋、外と繋がる窓が少ないため少し薄暗い部屋に着いた。その部屋の障子を開けると千鶴を座らせる。
燭台に火をともして、幾分か薄暗さは解消された。
「ここなら多分大丈夫だから…」
信司は誰に言うまでもなく呟くと珠紀と向かい合うように座る。
「あ、あの一体何の話ですか…?本当に新撰組奇襲を企ててないんですか…?」
初対面のあの凛々しさはどこにもなく、今はただおろおろと焦る少し頼りない印象を抱いた。
信司は何度も首を縦に振ると千鶴は悪い人ではないと確信した。
そこで千鶴は信司に紙と筆を用意してほしいと願い出る。先ほど得た情報を一刻も早く屯所の土方に伝えねばならない。
信司は承諾するとすぐに筆と紙を持ってくるよう禿に頼んだ。するとすぐにそれらが運ばれ千鶴は文をしたためると禿にそれを屯所に届けて欲しいと依頼した。
「ふぅ…」
自分の役目が果たせたことに一種の緊張感がなくなり、千鶴はその場で脱力した。
あとは土方たちに任せておけば問題ない。
「あ…まだ問題があった…」
千鶴は思い出したかのように呟くと目の前に座る信司に視線を戻した。
「あの…どうして私がここにいるといけないんですか?今日に限ってどうしてって仰ってましたよね?」
問題を思い出した千鶴は信司に問うた。だが信司は言いにくそうにしばらく逡巡していて、妙な沈黙が流れる。
「…雪村さんは自分が何者かわかっているんですか…?」
ようやく信司の口から発せられた言葉はそれだった。千鶴は目を瞬いた。一体何の話だというのか。
それ以前にこの人はどうして自分のことを知っているのか。以前どこかで会ったのかと記憶を手繰ってみるがその可能性も虚しく、千鶴は信司と出会った最初の言葉を思い出す。
「かおる君って…一体誰のことなんですか?私とその人を間違えてましたよね」
あれ、と千鶴の記憶が声を上げた。何か引っかかる。似たような会話をしたことがあるような、そんな気がするのだ。
「本当に、何も知らないんですか?自分のことも…過去のことも…」
信司は念を押すように訊ねてくる。
「…何を言いたいのかわかりませんけど…私は雪村千鶴です。他の誰でもありませんし…過去がどうと言われても…」
千鶴がそう答えるとさらに信司は困ったようにひとりぶつぶつと何かを呟いている。それは千鶴には聞き取れない小さな声で何かを算段しているようだった。
「やっぱり、だったら尚更ここにいちゃいけないよ。もう迎えは来るんでしょ?」
「はぁ…」
「だったら僕がその人のところまで送っていってあげる。だから一刻も早くここから———」
「今僕って言いませんでしたか?」
「え?」
立ち上がろうとした信司を引き止めて千鶴は確認をとる。聞き間違いでなければ今確かに自分のことを僕と呼んだはずだ。
「そ、それは今関係ありませんよ。とにかく今は急いで———」
「もしかして、男の方、ですか?」
千鶴が最初から抱いていた違和感。それはきっと信司が男だということだったのかもしれない。よくよく見れば女にしては骨張った手。広い肩。声も心なしか低いように思える。
「うっ…この際バレても仕方ありませんね…!でも!今はそれより君です!早く行きましょう!」
「え、えぇ…?」
慌ただしく今度は店の出口へと向かうらしい。信司はまた珠紀の手をとると早足に歩き出した。
だが千鶴はあることを思い出す。確か珠紀が探しているのは男の人で何故か芸者に扮していると言っていた。それはもしかするとこの人ではないのだろうか。
「あ、あの!貴方はもしかして、珠紀ちゃんが探している人じゃないんですか!?」
千鶴は信司の腕を引いて立ち止まる。問われた信司は動かずじっとしていた。
「だったらその前に珠紀ちゃんのところに行きましょう!良かった、見つかって…」
「行きません。僕のことよりまず君です。急いで色町から出て行って下さい」
「どうして私がここにいちゃいけないんですか?さっきから何を焦ってるんですか?」
信司の顔を覗き込むようにして千鶴は訊ねるが、やはり答えてはくれないのだろう。信司の口はぎゅっときつく閉ざされ再び腕を引いて歩き出す。
まるで何かに追われているようなそんな焦り方だ。
千鶴はどうにか珠紀たちに合流できないかと考える。
そうしている間にも店の玄関に到着し、下駄番の男が二人の下駄を用意する。
「あの、やっぱり珠紀ちゃんに会ってから…」
珠紀がそう提案しようとしたときだ。玄関から一人の人物が入ってきた。
その人物を見止めた信司は目を丸くして固まってしまう。
そしてそれは千鶴も同じだった。
「あら、こんなところで何をしているの?志乃」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.192 )
- 日時: 2013/12/10 20:36
- 名前: さくら (ID: /NsG2i4v)
「あ、あれ…ここどこ…?」
珠紀は替わりの酒を手に途方に暮れていた。
先ほどまで上がっていた座敷の場所がわからなくなってしまったのだ。
廚からそのまま引き返してきたつもりだが、どこかで間違えたのか見覚えのない廊下に出ていた。
周りを見渡せば正面に中庭、左右には部屋へと続く廊下が伸びている。
だがこんなところに来た記憶はなく首を傾げるばかりだ。
「さっき来たところを引き返そう…」
この店は思っていたより広いらしい。回廊や渡り廊下でいくつもの建物を繋いでいる構造だ。必死に記憶を手繰りながら引き返していると、突然経験したことがある頭痛がした。
思わず立ち止まってその痛みをやり過ごそうとするが頭痛は酷くなっていく。
「っ…もしかして…!!」
酒を持っている手とは逆の手で壁によりかかる。本能が叫んでいる。
危険だ、と。
どうするべきか視線を巡らせたときだ。
背後に気配を感じた。
「邪魔だ。どけ」
聞き覚えのある声。珠紀は顔を上げて目を丸くした。
珠紀を見下げるその相手も何かに気がついたのか、驚いているようだ。
「どうしてお前がこんなところにいる…」
「か、風間さん…」
風間は芸子が珠紀だと見抜くと、じっとその顔を見つめた。
「また顔色が悪い…俺と会うときお前はいつも体調が悪いようだな」
風間は口元を歪めると珠紀が持つ酒を取り上げ、もう片方の手で珠紀の腰に手を回した。
「え、あ、の…!!」
「つまらぬ酒の席に飽きていたのだ。付き合え」
風間は一瞬後ろを振り返り、自分が今までいた座敷を一瞥する。
珠紀の返答も待たずして風間は開いている部屋に入った。
六畳ほどの小さな部屋は一つ燭台に火を灯せば十分明るくなった。風間は部屋の中央に座ると視線だけで珠紀も座るように促す。
珠紀はおずおずと腰を下し、あることを思い出す。そして風間が持っていた銚子を取ると彼にそれを差し出した。
「ほう…気が利くではないか」
風間は杯を手にすると珠紀はそこに酒を注いだ。
「この間はお世話になったので…」
珠紀はそう言いつつ頭痛と必死に戦っていた。何故か風間に会うたびに頭痛がするのだ。原因はわからないが本能は危険だと警鐘を鳴らす。
「あの、でもすみません…私座敷に戻らないといけないので…これで…」
珠紀がそう言って立ち上がろうと腰を上げたときだ。すぐに風間の手が伸びてそのまま彼の胸に引き寄せられる。一瞬の流れに驚いていると風間の顔が近くにあることに身を固くした。
「あの…!!」
「顔色が悪いのに座敷に行けば客は驚くぞ。ここで休んでいけばいい」
風間の手が珠紀の頬に触れる。以前会ったときと同じ自分を労るようなその気遣いに珠紀は息を飲んだ。
硬直する珠紀の耳元に顔を寄せ、そっと囁く。
「そろそろ教えてくれてもいいだろう。お前は一体何者だ?何故お前が色町にいる…俺を惹き付けて止まないお前の気配は何だ…」
声は珠紀の耳朶を優しく揺らし、体の力を奪っていくようだった。
「わ、私は…」
必死に腕に力を込めて風間と距離を作ろうとする。言葉の続きを待っているのか風間はじっとこちらを見つめてくる。
「人を…探しているんです…大事な人で…」
「またはぐれたのか?」
風間はくすりと笑った。彼が言っているのは前回会ったときのことを言っているのだろう。前回は原田とはぐれて迷子になっていた。
「ち、違います。はぐれたとかそういうことじゃなくて…私がずっと探している人で…」
「だから芸子の格好をしているのか?」
「え…?」
「何を不思議そうな顔をしている。初めからお前が芸子ではないとわかっていた。芸子であれば前回お前に会えるはずがない。あの時間は稽古の時間だ。芸子は忙しいからな」
珠紀よりも京に詳しい風間はつらつらと理由を並べる。
戸惑う珠紀に構わず風間は口元に笑みを浮かべて珠紀を引き寄せた。
「この間は邪魔が入ったからな。ゆっくりお前と話がしたかった」
「え、え、あの…!」
再び縮まった距離にたじろぐ。こんなにも密着していては身動きが取れない。
焦る珠紀だったが風間の表情を見て目を瞬いた。
安らいでいる。そんな言葉がぴったりだった。風間は瞼を落とし、珠紀のぬくもりを全身で感じようとしている。
その様子が母に甘える子供のように思えて珠紀は何も言えなくなった。
このままでいてあげたいという気持ちもあったがそれは憚られた。何故なら前回風間に会った後、拓磨にきつく言われたのだ。
『もう会うな』と。
それを思い出した珠紀はどうすべきか逡巡した。風間は悪い人ではないと思うのだが、本能は非と言っている。現に今も頭痛が続いている。それに冴鬼も言っていた。風間は危険だと。
「あの…風間さん」
「何だ…」
「私本当に人を探していて…それで、あの…」
やはり離れるべきだ。本来の目的である信司を探し出すことができなくなる。
それだけはできない。珠紀は言葉を選びながらここを退散する口実を探した。
「誰を探しているのだ…」
行かせないと牽制しているのか風間が珠紀の腰や背中に腕を回す。さらに密着する体は布越しに互いの温度が伝わるほどだ。
「芸者の子で…源氏名は志乃…本名は犬飼信司君です」
珠紀は言ってもわからないだろうととりあえず口にしてみたが、風間の口元には違う笑みが浮かんでいた。
「…ほう、お前はあの男の知り合いか」
「知ってるんですか!?信司君を…!!」
思わぬ返答に珠紀は風間を見る。風間の瞳を覗けば至って真剣で嘘や悪戯で言っているようではないようだ。
「教えてやっても構わん。が、それには条件がある」
そう言うと風間は珠紀の手首を掴むとそのまま畳へと押し倒した。
またも一瞬の動作に呼吸も忘れて視界を覆う風間を見上げる。
「お前が知りたいことは全て教えてやろう。だが、そのかわりお前の話も聞かせろ。いいな?」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.193 )
- 日時: 2013/12/10 20:50
- 名前: さくら (ID: /NsG2i4v)
「珠紀の帰りが遅くないか」
先ほどまで珠紀がついていた座敷を監視しなが祐一は呟いた。
大蛇と拓磨も同感らしく、頷いて障子を開けて廊下に顔を出す。そこには誰の姿もなく、部屋から聞こえる喧噪だけが響いていた。
「酒を取りにいっただけにしては遅いですねぇ…」
大蛇は首を傾げながら呟く。横に立っていた拓磨は廊下に出て大蛇を振り返った。
「俺ちょっと探して来ます!」
拓磨は小走りで廊下を行く。廚で往生しているのかもしれないと思い、まずは廚に足を運んだがそこに珠紀の姿はなかった。近くの配膳番に珠紀のことを訊ねると、どうして客がこんなところに来るのかと怪訝そうだったが答えてくれた。珠紀は酒を受け取って部屋に戻ったはずだ、と。
それを聞くと拓磨は踵を返して来た廊下を歩く。部屋に戻る途中で道に迷ったのかもしれないと考えた。
廊下を歩き、右に曲がったときだ。広い庭に出たとき、手入れされた美しい庭に人が落ちてきた。
驚いて顔を上げると二階で喧嘩をしているらしい、男たちの怒号が聞こえてきた。
「新八っつあん!そっちは任せた!」
「よっしゃぁ!任せろ!!!左之!!そっち行ったぞ!」
「あいよ!!っらぁ!!」
障子を押し破ってまた一人庭に降ってくる。破れた障子からは新撰組の面々が垣間見える。どうやら喧嘩の中心にいるのは彼らのようだ。
「何やってんだよ…」
拓磨は嘆息しながら二階へと向かう。新撰組の面々であれば珠紀の行方も知っているかもしれないからだ。
喧嘩が繰り広げられる部屋にたどり着いた拓磨は唖然とした。数人の浪士が畳の上に転がり、伸びていた。渦中の三人、藤堂、永倉、原田はやっと最後の一人を仕留めたのか息を整えているところだ。
「お、おい、あんたたち…これ…」
「おぉ、拓磨じゃねぇか」
「こんなことして大丈夫なのか?」
「喧嘩は向こうから吹っかけてきたんだ。それに答えたまでだよ」
さらりと答える原田に拓磨は笑うしかなかった。これは後で土方に雷を食らうことになるのでは、と一抹の不安を覚える。
拓磨は頭を振って話を元に戻した。
「珠紀、見なかったか?」
畳に転がる男を間違って踏まないように拓磨は足下に注意しながら三人に近づく。
「あ?珠紀ちゃん?見てねぇな」
「俺もだ」
「ってか珠紀も!?千鶴もいねぇんだよ」
藤堂は千鶴を探していたことを拓磨に伝えると、千鶴を捜索すると言って喧嘩の疲労も見せずに部屋を出て行った。
「おかしいな…二人とも消えたのか?」
「珠紀は廚に行ったっきり…千鶴は?」
「俺たちの相手をした後別の座敷に…斎藤と山崎が常に控えてるから俺たちは千鶴の傍にいなかったからな…」
「左之!新八!」
するとそこへ息を切らせた斎藤が駆け込んできた。部屋の参上を見て一瞬顔を歪めたが、それどころではないとこちらに駆け寄ってくる。
「千鶴を見なかったか」
「おいおい、監視役のお前まで千鶴ちゃんどこ行ったのかわからねぇのかよ」
「すまない…目を離した隙に…今山崎が捜索しているが…」
「珠紀もいなくなったらしい。そんなに広くはないが、座敷に入っちまえばどこにいるかなんて…」
「千鶴—!!いない!千鶴—!!ここにもいないっ!!」
原田の言葉を遮ったのは藤堂で、客がいる部屋でも無人の部屋でも容赦なく入って行っているようだ。ばたんばたんと襖が開けられる音が一階から聞こえてくる。
「…ま、ここは平助に任せて俺たちは他を探そう」
面々はその場で解散し、各自捜索することとなった。
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.194 )
- 日時: 2013/12/12 14:00
- 名前: さくら (ID: /NsG2i4v)
「こんなところで何をしているの、志乃?」
店の玄関先で立ち止まった信司は目の前の人物に金縛りにあったかのように動けずにいた。
「薫さん…」
「知ってるんですか…!?」
「以前、町でお会いしただけですけど…」
千鶴はここで彼に会うと思っていなかったのだろう。少し驚いていた。
だが信司はそれどころではなかった。千鶴を庇うように一歩前に出て、薫を睨む。
薫の手には刀らしきものが袋に収められ、それを片手で持っているところを見ると刀に慣れていることがわかる。
「あら、その目は何?志乃」
「…その言葉そっくりそのまま返すよ、薫君」
「君…?」
薫を女だと思っている千鶴は眉を潜めた。どうして薫を“君”と呼ぶのか。訊ねようと口を開こうとしたが、信司と薫の間に流れる空気が張りつめていてとてもそんなことが言える状況ではなかった。
「この間は貴方の仕事の成果を聞けないから、今日貴方に会いに行くと伝えたけれど…」
薫は言葉を切ると千鶴に視線を向けた。薫の目には何故か敵意が感じられて千鶴はたじろいだ。
「ここでは場所が悪いわね。部屋に入りましょう。ゆっくり話がしたいの、ね。志乃…」
「わかったよ…けどこの子を帰らせてからね」
信司はそう言うと千鶴の手をとって歩き出す。だが、行く手を阻むように薫が立ちはだかった。
「そちらの方と一緒に、お話したいのよ、信司———」
「…!!」
信司はぎゅっと唇を噛む。千鶴はどうして信司がここから早く追い出そうとしたのか、薫がここにいるのか全くわからなかった。ただわかることは薫から向けられる明らかな敵意。以前会ったときには感じなかったものだ。
「ほら、さっさと部屋に入りましょう。こんなところで立ち話だなんて不自然でしょ?」
薫は優雅な所作で玄関を上がる。周囲を見渡せば番台や配膳番などがどうしたのかとこちらに視線を向けていた。当然だ。芸子が二人と女三人で玄関で立ち話をしているのだ。
信司は先に部屋へと向かう薫の背中を見つめて、大きく深呼吸をした。
そして後ろにいる千鶴に視線を移す。
「千鶴ちゃん、だったよね。絶対僕の傍から離れないで。お願いだから。約束できる?」
「は、はい…」
是しか許さないというその気迫は男のそれだった。もはや芸子の格好をしていても信司は男にしか見えない。千鶴は大きく頷くと信司も覚悟を決めたのか千鶴の手を握ったまま薫の背を追った。
「何をそんなに緊張してるの、信司」
先に部屋に入って腰を下ろしていた薫はくすくすと笑っていた。その様子だけ見れば以前の薫だが、纏う空気がとても冷たく感じられて、千鶴は信司の手をぎゅっと握った。信司は一瞬千鶴を見て頷いた。大丈夫、安心して。というように。
信司は薫の真正面に座り、千鶴はその信司の斜め後ろに腰を下ろした。
「千鶴さん、でしたよね。奇遇ですわ。こんなところでお会いするなんて…以前は新撰組の方とご一緒でしたのに…今日はお一人ですか?」
「…はい。その、今日は理由があってここに…」
「潜入したんですよね?新撰組奇襲の情報を得るために…」
「っ!?どうしてそれを…!!」
驚愕する千鶴とは対照的に薫は落ち着き払っていた。
「情報には目敏いんです。それくらいのこと知ってますわ。情報網には自信があるんです」
にこやかに微笑むが目が据わっていて心からの笑みでないことがすぐにわかる。その冷たい笑みに千鶴は背中に冷たいものが伝った。
「あ、あの…薫さん…一つ、聞いてもいいですか」
千鶴は勇気を振り絞って薫に訊ねた。
「三条大橋の制札事件…あのとき新撰組はお上の命で制札を護衛していました。その晩…薫さんはどこにいましたか…?」
千鶴はぎゅっと手を握って内心懇願した。どうか答えは否であってほしい。
あの晩原田が取り逃がした人物は薫によく似ていた。一瞬だったがそれでもこの整った顔は忘れない。
薫の答えをじっと待っていると急に薫は笑い出した。
「ははははははっ…ほんっとにおめでたいよね、お前の頭は」
「え…!?」
突然口調が変わったと同時に纏っていた空気が冷たいものから暗いものに変わったように思えた。
「そうだよ、あの晩。僕は三条大橋にいた。仕事でね。僕だってお前たちが護衛するなんて思ってなかったよ」
「か、薫さん…?」
困惑する千鶴だったが薫はそんなことに構う様子もなく、さらに言葉を続けた。
「薫さん、かぁ…ほんとにお前は幸せな環境で育ったんだろうね。でなければいい加減気づくべきだろう」
「薫君。言い過ぎだよ…」
「…君…て、薫さん…は男の人…?」
千鶴は若干混乱しつつ、答えを見出した。そして制札事件のあの夜。彼はあの現場にいた。そう取れる言葉を今発した。
「ど、どうして…」
千鶴の頭にはその言葉しかなかった。どうして性別を偽っているのか。どうしてあの晩不逞浪士に手を貸していたのか。
「あぁ、その顔…その表情…本当に腹立たしいね」
「か、薫さん…?」
「この期に及んでまで“さん”付けかぁ。甘いんじゃないの、千鶴」
突如、薫は無表情になった。さっきまでの優雅な雰囲気などない。瞳の光は失せ、口元からは笑みがなくなった。
「教えて上げるよ、千鶴。お前が知らないこと。そうだな、まずは…俺はお前の兄だよ、双子のね」
「え…!?」
突然何を言い出すのかと千鶴は言葉を失った。
「お前は父親が綱道だと思っているだろうが、違う。俺たちの両親は別にいる。信じられないって顔してるね?だったらこれはどう?」
薫は傍に置いていた刀を袋から取り出し、千鶴に見せた。その刀を見たとき千鶴の思考は完全に止まってしまった。
「雪村家に代々伝わる二対の刀…お前が持っているのは小通連。僕が持っているのは大通連。どう?これで僕がお前の兄だって理解できた?」
確かに目の前にあるのは珠紀が所持している小太刀、小通連だ。それと全く同じ造りで、こちらの方が長刀だった。同じ鍛冶屋の匠がつくったものだと理解できる。
だが、未だに信じられない。薫が兄など唐突すぎる。
「じゃ、じゃぁ私の本当の両親は…どこに…」
綱道が父でなければ血の繋がった両親はどこにいるのか。
千鶴の問いに薫は目を細めた。
「何も覚えていないんだね、千鶴。俺たちは昔小さな村に住んでたんだ…だがある日俺たちは人間に襲われ、村は壊滅。両親が死んで、お前は綱道さんに引き取られ、俺は土佐の南雲家に引き取られた」
「ま、待って下さい…そんなの私知りませんし…どうして村を襲われたんですか…!?」
唐突の真実。記憶にない自分の過去。どれもが衝撃的で話についていけない。
「あぁ、そうか。お前は自分が何者かも知らないのか。だったら教えてあげるよ」
信司と同じことを言われて千鶴は目を瞬いた。一体何だというのだ。信司を見ると拳を握りぐっと何かに耐えているようだった。
「お前はね、千鶴。鬼なんだ。俺もそう。俺たち雪村家は東に住む鬼だ」
「お、に…?」
この人は何を言っているのだろう。千鶴は薫の言葉の意味が理解できなかった。
「信じられないって顔してるけど、よく思い出してごらん。どうしてお前は怪我をしても人より傷の治りが早いの?」
「…!!!」
千鶴は大きく目を見開いた。どうしてそれを知っているのか。傷の治りが早いことは綱道以外知らないはずだ。
「それはお前が鬼である証拠だよ。鬼は代々人との関係を持たずひっそり暮らしてきたけど、ときの権力者は俺たち鬼の力を欲しがる。村を壊滅させられたのも俺たちが協力を拒んだからだ」
「ま、待って下さい…!急にそんな話をされても私…!」
頭が回らないのか千鶴は待ったをかけたが、薫はそれを一笑した。
「待って下さい…?僕は十分待ったよ?千鶴」
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