二次創作小説(紙ほか)

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薄桜鬼×緋色の欠片
日時: 2012/09/26 13:48
名前: さくら (ID: cPNADBfY)



はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです


二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要


二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい

それではのんびり屋のさくらがお送りします^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.185 )
日時: 2013/11/04 23:02
名前: さくら (ID: v20iF7Or)

せなさん

はい^^
リクエストが多かった龍之介ですがなんとかねじ込みました笑
ちょっと無理やり感がしますが、これから彼も何度か登場させようと思っていますので、良かったらまた読んであげて下さいね^^
私も拓磨と珠紀をいちゃつかせるのは大好きです←
不器用な二人を見守ってあげて下さい


竜胆さん

お久しぶりです
季節はもうすっかり秋ですね^^
私が住んでいるところは山に近いのでめちゃめちゃ寒いです
竜胆さんもこの季節体調に気を付けて下さいね

相変わらず竜胆さんの読書力といいますか、鋭いですね
いつもいつも驚かされます
風間に関しては言わずもがな、のようです^^
彼にはもっと新撰組と守護者を引っ掻き回してもらいましょう笑
今回ちらりと冴鬼と雅彦をだしました
二人の背景や過去を今回ちらっと見せたかったのですが、竜胆さんはしっかり受け取ってくださっているようで驚いてます
二人や璞玉と拓魅にもこれから注目してほしです^^
もちろん真弘先輩にも大注目です笑

そして竜胆さんの新撰組と守護者の考えが私はびっくりしました
竜胆さんは感性豊かといいますか、感受性が高いのですね
物語をしっかりと読み込んでそれに加えて自分なりの考えを持つなんてなかなかできることではありません
私は竜胆さんの考えに「凄い…そこまで考えてなかった☆←」とただただ驚いてました
竜胆さんのコメントはためになります
いつもありがとうございます

龍之介はこれからも出していく予定ですので、つたない文面ですがまた読んであげて下さい
それでは私も長々と失礼しました^^

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.186 )
日時: 2013/11/04 23:07
名前: さくら (ID: v20iF7Or)

「志之姐さん、姐さんにお客はんどす」
「あ、はい」

店仕舞いとなり志之がひとり部屋で休憩していたときだ。襖が静かに開けられ志之の禿がにこやかに来客を告げた。
志之———慎司がここに潜入するときに用意してもらった子達だ。
ここに潜入することも容易ではなく、店の人間に少し記憶の細工を施し慎司が昔からここにいた芸者だと記憶を塗り替えた。
慎司は嫌な予感がしたが、禿の案内に静かに部屋を後にした。

「お待っとさんどす。姐さん、私後でお茶お持ちします」
「あ、ありがとう」

禿が来客が待つ部屋まで慎司を連れてくると襖を開けて客にあいさつをしてから、静々と部屋を後にした。

「どうしたの?志之。突っ立ってないで入っておいでなさいな」

案内された部屋にいたのは薫だった。その人物を認めると慎司は我に返り、静かに部屋に入る。
火鉢に当たっている薫と対面するように腰を下ろして慎司は背筋を伸ばした。

「最近は冷え込みが激しいけど、体調崩してない?着物や帯が足りなかったらいつでも言って。潜入してくれているあなたのためだからいくらでも用意するわよ」

薫は朗らかに微笑みながら慎司を見つめる。だが慎司は険しい表情のまま黙っていた。

「どうしたの?何か不満でもあったの?」
「…薫君。話があるんだ」

重々しく開かれた慎司の口調に、薫は眉を顰めた。更に背筋を伸ばして慎司は一度深呼吸すると言葉を身長に選びながら口火を切る。

「君の妹さんのこと…双子の妹だったよね?僕にも双子の妹がいるって君に話したと思うんだけど…今日はそれについて話があるんだ」

薫の顔からは表情がなくなり、慎司を黙って見つめるその視線がとても冷たいものになる。
慎司は臆せずに言葉を続けた。

「君は妹と生き別れて…薫君にとってとてもつらい境遇に置かれたことも前に聞いたんだ…それで、妹さんを妬ましく思うことも…でも、でもさ。僕も妹と生き別れになったけど…妹を…美鶴ちゃんをそんなふうに憎めないんだ…どうして、どうしてそこまで実の妹を恨み続けるの…?」

慎司の問いかけに薫は答えるつもりはないらしい。馬鹿らしいと鼻で笑って首を振った。

「そんな話をするためには私はここに来たんじゃない。あなたの仕事の成果を聞きに来たの」
「薫君。今は僕が質問してるんだ。答えて」

慎司は一歩も譲らない強い意志を瞳に宿して薫の言葉を遮る。
しばらくの沈黙が流れた。お互いに視線を外さず、重苦しい空気が二人の間に流れる。
その沈黙を破ったのは先ほどの禿で静かに部屋に入ってきた。

「お茶、お持ちしました。どうぞごゆっくり」

禿は薫が慎司の知人であることを知っていて何度か薫の姿を見ている。こうして薫が訪問することを承知していた禿はいつものように熱い茶を二人に配るとそのまま部屋を後にした。

「…お茶、飲んだら?冷めちゃうよ」
「…うん」

慎司は薫の言葉に頷くと湯飲みを手に取り茶を口に含む。再び気まずい空気が流れるが、慎司はここで折れるわけにはいかないと自分を奮い立たせ、湯飲みを畳の上に置くと薫を見つめた。

「薫君…教えて。どうして妹をそこまで忌み嫌うの?」
「…はぁ…しつこいなぁ…君も」

薫は大きな溜息をつくと慎司を真っ直ぐに見つめた。

「君と俺の置かれた状況は全く違う。その点に共感されても不愉快なだけだ。前から何度も言ってるけど君には理解できないよ。俺の気持ちなんてね」
「そんなことない…!僕だって双子だし…」
「そういうことを言ってるんじゃないんだよ!君には到底理解できないんだ…!僕がどんな思いをしてきたか…どんなことを強いられて今まで生きてきたのか!」
「じゃぁ僕に教えてよ!一体何があったっていうの!?僕だって力になれるはずだから!」
「君が?俺の力になるだって…?」

薫の口調はすっかり男のものになり、その声音も徐々に低くなる。そして嘲笑うかのように薫は口端を吊り上げて慎司に詰め寄った。

「笑わせるな…!君には絶対理解できない…!幸せ者の君にはね」
「…っ…!!そうやって…そうやって逃げるの?」
「…何だって?」

互いの距離が縮まり、視線が交差する。

「君は臆病者だ。君と出会ってからずっと君のことを訊ねても何も答えてくれない。それってつまり僕に弱みを見せたくないから?僕ってそんなに頼りないの?」
「…おめでたいお頭だね。そうだよお前なんか頼りになんかしてない。お前にいちいち俺のことを話す義理はないんだから」

慎司は一瞬傷ついたような表情をした後、すっと立ち上がり部屋を出て行こうとする。

「じゃぁ僕もこんな仕事辞めるよ。君が僕を頼ってないんだったら…」
「へぇ、拾ってやった恩を仇で返すんだ?」

慎司は肩越しに薫を睨む。互いの視線が絡み合い再び重い沈黙が流れた。
しばらくの睨み合いの末、先に口を開いたのは薫だった。

「…はぁ…全く信じられないくらい強情だね。突っ立ってないで座りなよ」

薫が呆れたように息をつく様子に慎司はおずおずと再び腰を下ろした。

「全てを話してあげる義理は俺にない。君は利用価値があるから利用してるだけ。お前は拾われた恩を返せばいいんだよ」
「…そうやって僕を危険から遠ざけようとしてるの?君が企んでいることは一体何?」

その言葉に薫は目を見開くと慎司の腕を掴み上げた。思わぬ行動に慎司は驚きで抵抗できなかった。

「本当にいらいらするね…!お前のそのおめでたい思考回路には呆れる…!僕のことは詮索しなくていい…!金輪際!ここでそう誓うと言わないとこの腕、折っちゃうよ?」
「っ…!!!」

薫の腕に力がこもり、慎司の腕の骨が軋み始める。激痛に襲われながらも慎司は決して首を横に振らなかった。

「…強情も超えてただの馬鹿なのか。本当に折っちゃうよ?俺にとってはそんなこと容易にできるんだから…」
「…慎司君が…ちゃんと話してくれるって言うなら…誓うよ」
「馬鹿だね。それじゃ契約の意味がなくなるだろ。本当に馬鹿なの?」

みしみしと慎司の腕は悲鳴を上げ、慎司の顔はどんどん苦痛に歪む。
だが決して薫の視線を外さなかった。その強い意志を宿した瞳に薫は舌打ちする。
そして腕を放すと黙って慎司との距離をとった。

「…薫君…?」

突然苦痛から解放された慎司は薫を見上げた。苛立っているのか何かを考えているのか薫は目を伏せたまま口を開かない。
慎司は痛み続ける腕をさすりながらぽつりぽつりと言葉を発する。

「…ずっと気になってたんだけど…薫君はどうしてそんなに力が強いの…?常人以上に力があるように思えるんだけど…」

慎司の脳裏には拓磨の姿が浮かんだ。彼も異形の血を継いでいるため、剛腕だった。戦闘時も己の拳を武器としている。彼とまではいかないが薫にもかなり力があるように思えた。
だがその問いも虚しく薫は黙って立ち上がると部屋を出て行こうとする。

「薫君!話はまだ…」
「また来るよ。仕事の成果については今度教えてもらうから」

それだけを言い残すと薫は静かに部屋を後にした。
残された慎司は悔しそうに唇を噛み、畳を睨む。

「…君の心の扉は本当に硬いね」

以前から何度も話をしようとした。彼の抱える闇が大きいことに気が付いたとき、いてもたってもいられなかった。力になりたい。どうにかしてその闇から彼を助けてあげたい。
だが慎司がそう望めば望むほど薫は距離を置こうとする。彼の抱える闇はそれほどに濃く、深いのだ。
どうにか助けてあげたい。
同じ双子で、同じ妹を持つ兄だ。こうして薫に出会ったのも何かの縁なのだ。どうしても彼を深い常闇から救ってやりたい。だから嫌でも芸者として潜入したのだ。少しでも彼が心開いてくれるならなんだってしよう。それが自分を拾ってくれた彼の恩返しになるはずだから。

「僕は諦めないから…薫君」

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.187 )
日時: 2013/11/11 21:21
名前: さくら (ID: v20iF7Or)

冷え込みが厳しくなり、雪もちらつく師走。
北風が吹きすさぶ街中を男達はぞろぞろと歩いていた。
ある者は飄々と。ある者は沈痛な面持ちで。ある者は平然と。その一向はある場所に到着すると二階建ての民家に入っていく。
出迎えたのは芸者の女で、玄関先で静々と頭を下げた。

「ようお越し下さいました。さ、旦さん方はこちらでお待ち下さい」

君菊は玄関に入ってすぐの広間へと男達を通した。

「もう少しで準備ができますよって。どうぞおくつろぎ下さい」

広間に案内された男達は適当にその場に座ってときを待つことにした。

「はぁ…」

大きな溜息をついた拓磨に、祐一が視線を投げる。

「どうした、拓磨。そんなに心配か」
「いや、心配っていうか…あいつがまず芸者になれるのかどうかも…」
「見た目だけでも繕えば大丈夫だと思うよ。そんなにいつまでも暗い顔してたら珠紀ちゃんに嫌われちゃうんじゃない?」

拓磨の隣に座っていた沖田が茶化すように言った。だが今の拓磨に沖田の冷やかしを受け流せるほどの余裕はなかった。一度沖田を見たあとにまた大きな溜息をつく。
同じように沈痛な面持ちで座る藤堂に永倉が背中を叩いた。

「平助!お前もいつまでしょげた顔してんだ!千鶴ちゃんがやるって言ってんだからお前が背中押してやらねぇでどうすんだ!」
「新八にしちゃ良いこと言うじゃねぇか。平助。新八の言うとおりだ。お前がいつまでも心配そうな顔してると千鶴だってやりづらいだろうが」

原田と永倉に諌められ、藤堂はゆっくりと顔を上げる。
最後の最後までこの作戦に反対していたのは拓磨と平助で、今でも納得していない様子だった。

「二人とも。作戦中は護衛をつける訳だ。何を心配する必要があるんだね」

朗らかに笑う近藤は二人を慰めるつもりだったが、火に油だったらしい。二人は立ち上がって抗議し始めた。

「だから!千鶴にもし、もし何かあったら…!!」
「俺はあいつが無茶しないか心配で…!!」
「わかったから、おめぇら静かにしろ!これは決定事項だ。いつまでもグチグチ言ってんじゃねぇ」

近藤の隣に座っていた土方が二人を一喝する。二人はつい口から出そうになる抗議の言葉を必死に飲み込んでその場に腰を下ろした。斎藤は静かに鎮座し、時が過ぎるのを待つ。

「真弘。お前は珠紀が作戦に参加することどう思ってるんだ」

祐一は隣に座る真弘に訪ねた。腕を組んで胡坐をかいていた真弘は一度だけ祐一に視線を向けると、またすぐに視線を戻した。

「別に…いいんじゃねぇか。俺たちだって作戦中護衛するわけだし」

真弘はそれだけ答えると口を閉ざしてしまった。そんな真弘を見つめて祐一は目を細める。
あの夜。土方と喧嘩腰で話し合った夜から真弘の態度はどこか素っ気無く、いつも上の空の様子が続いている。祐一はその理由を問い詰めたりしないが、心配であることに変わりはない。
祐一の心配する視線に気がつかない真弘はふっと息をついたときだった。

「お待たせしましたー!!」

隣の部屋を仕切る襖が勢い良く開くとそこにはお千がいた。

「お待たせしっちゃってすみません。準備できましたよー」

お千が満面の笑みで男衆を見渡した。

「それじゃ、お二人に登場してもらいましょう。さ、二人とも入って入って!」

お千が襖を全開にしする。すると隣の部屋から衣擦れとともに現れた二人に一同は一瞬息を呑んだ。


今日は色町に侵入するために、千鶴、珠紀が芸者に成りすませるか否かを見極める日だ。
以前から不穏な情報が色町界隈で耳にしていた新撰組は彼女達二人を色町に送り込み、情報を聞き出す作戦に出た。
そして何事も準備が肝心だとお千の勧めで芸者姿の彼女達をぜひ確認して欲しいとのことだった。
新撰組幹部、男達にとってそれぞれの心の内に秘めた想いがある。
彼女達に潜入などと危険な仕事は任せたくないと杞憂に暮れる者。彼女達がやってくれるのならば背中を押したいと後押しする者。面白そうな展開だからこの作戦を実行したいと好奇心に駆られる者。それぞれの想いは交差し、この日を迎えた。
だがそんな彼らの考えも吹き飛ぶほどの光景が目の前に広がっていた。

「…これは…また…」

ようやく声を発したのは原田で、それ以外の者はしばらく言葉が出なかった。
否、目の前の光景を信じられないと目を丸くするばかりだった。

「あの…そんなにおかしいですか…?」
「何か言ってくれないと…」

痺れを切らした二人が恥ずかしそうに口ごもった。
隣の部屋から現れたのは千鶴と珠紀だ。確かにそこにいるのは彼女達なのだが、いつもと違う。
千鶴は一つに束ねていた髪を下ろし、前髪をつくり髱を肩に流す髪型をしている。髷にはいくつも華やかな簪を挿していた。赤の小袖に若草の重ね着で女らしくありながら花も恥らうような麗しさを纏っていた。
一方珠紀は横兵庫と呼ばれる大胆な髪型に転じ、煌びやかな簪を挿している。
山吹の小袖には白菊が咲き誇り、薄紅の重ねで愛らしく、気品ある仕上がりとなった。
二人はこれまで男装を強いられてきた。それ故に彼女たちが本来の姿がどんなものかを男達は知らない者もいたのだ。特に千鶴は出会ってからずっと男装をしてきた。
幹部達は顎を落とさんばかりの勢いで口を開けている。

「いや…化けるもんだね…」
「驚いた…俺が今まで見ていたのは…一体…」
「す、すげー綺麗だ!千鶴!!珠紀も!」
「これは見事な…」
「元がいいからな。綺麗だぜ、千鶴。珠紀」
「これなら芸者として潜入できるな」

幹部達は感嘆の溜息をついて次々に言葉を発した。お千は満足そうに頷いて千鶴と珠紀の間に立つ。

「お化粧もちゃんとしたらこんなに綺麗になるんですよ!これなら今回の潜入、可能だと思うんです!」

男達に承諾を催促するお千は誇らしげだった。
この着物を用意したのも化粧を施したのもお千の計らいだ。ここまで仕立てあげ、生まれ変わったような彼女たちの仕上がりに手応えを感じたに違いない。

「拓磨…」

先ほどから何も言わない守護者たちに近づき、珠紀は拓磨の前で膝を折った。
拓磨と視線を合わせるように珠紀は正座する。

「拓磨…どう、かな…」
「ど、どうって…」

拓磨はたじろぎながらも珠紀を一瞥した。
彼女が和装する姿は見たことがある。それは巫女姿であって、あれはあれで綺麗だと思っていた。だが、化粧を施し、背中を開けるように前掛けから覗く白い肌。いつもと違う出で立ちで、珠紀が女であることを思い知らされる。

「き、綺麗だと、思う…」
「あれぇ?顔が赤いねぇ、拓磨」
「か、からかわないで下さいよ!!沖田さん!!」
「拓磨」

珠紀に名前を呼ばれた拓磨は背筋を伸ばした。

「私ね。頑張るから。頑張って慎司君を取り戻すから…拓磨が心配してくれてるのはわかるんだけど…それでも、私は…」
「…わかった…わかったからもうそれ以上言うな…お前がどこにいようと、どんなことがあっても俺が護るから…だからあんまり無茶するなよな…」
「うん…うん。ありがとう、拓磨」

拓磨の大きな手が珠紀の白い頬に触れる。何度も頷く珠紀はその大きな温もりを嬉しく思った。

「…取り込み中すまないが、珠紀。拓磨。場所を考えて後にしてもらえるか」

祐一が珍しく咳払いすると、二人はその声で我に返った。そして周囲を見渡して顔を茹蛸のように赤らめていく。

「わ、私っ…!!」
「え…何。お前等そういう関係だったの?」
「ち、違うんです、あの!!」
「勝手に二人の世界作ってねぇで本題に入るぞ」

土方の声に二人は何度も頷く。すっかり失念していた二人は羞恥心に駆られながら土方に向き直る。

「今回の準備。千姫さんには感謝する。これなら潜入もできそうだ。な、近藤さん」
「あぁ。まさかここまで変身するとは思ってもいなかったよ。これなら作戦も成功するんじゃないか?他の者の意見はどうだね」

近藤が一同を見渡して意見を聞く。

「大丈夫そうじゃないんですか。結構いけると思いますけど」
「総司と同じく」
「俺も賛成だな。十分潜入できると思うぜ」
「そうだな。千鶴ちゃんと珠紀ちゃんなら大丈夫だろ!」
「…皆がそう言うんじゃ賛成するしかないじゃん」

幹部達の意見は一致し、千鶴はほっと胸を撫で下ろした。

「俺も心配ないと思う。真弘は?」
「…反対する理由はねぇな」

真弘の言葉を受けてお千と君菊が大きく頷いた。

「お客はんにはついて頂きますけど、お酌だけで結構どす。舞いや三味線は素人はんには難しいさかい…うちが何とか手回ししときます」
「二人とも何か困ったことがあったら君菊に聞いてね」

千鶴と珠紀は頷くと、気を引き締めた。これで許可も下りた。準備も整った。あとは自分達の働きにかかってくる。

「それでは。決行は三日後だ。皆、頼んだぞ」

近藤の言葉に一同は深く頷いた。
ただ一人、黙ったまま動かない真弘は目を細めた。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.188 )
日時: 2013/11/25 01:05
名前: さくら (ID: 8HUreQTa)

凩が吹きすさぶなか、千鶴と珠紀は斎藤と山崎に連れられ屯所を後にした。
とうとうこの日が来たのだ。
千鶴と珠紀は今晩芸者に扮して偵察を行う。二人にとっても危険性はあるが、得られる利益は大きい。
彼らを見送っていた原田と永倉、沖田は姿が見えなくなるまでその場に立っていた。

「行っちゃったね」
「嫁に行く娘を見送る気分だぜ」
「だな」

三人はまるで最後の別れのようにしばらくその場で目を細めていた。

「ま、今夜どの道飲みに行くんだ。これが最後じゃねぇだろう」
「いいなぁ…僕も飲みに行きたかったなぁ…」

沖田は口惜しそうに言い残すと軽く咳き込みながらその場所から離れていった。
その背を見送っていた原田と永倉は小首を傾げる。

「総司の奴、まだ風邪治らねぇのか」
「…あぁ。そうだな…」

原田はどこか寂しげに沖田の背を見つめ直し、巡察に出るべくその場を後にした。




「祐一」

縁側に座って洗濯物を一人畳んでいた祐一のもとに、土方が現れた。俯いていた祐一は視界に入ってきた足が誰のものか見止めようと顔を上げる。そして鋭い視線とぶつかった。

「お前に話がある。その洗濯物が片付いたら副長室に来い」

土方はそれだけを言い残すと踵を返した。返事をする間もなく祐一はその背中を見送りながら首を傾げる。一体何の話なのか。
珠紀と千鶴がいない今、家事が疎かになってはいけないと率先して雑務をこなしているが、それが土方の気に障ったのだろうか。
疑問を抱きつつ手早く洗濯物を片付けると祐一は立ち上がって副長室に向かった。

「座れ」

副長室に入るとまず短く命ぜられる。祐一は土方と向き合うようにして腰を下ろした。
いつも緊張感を絶やさない人だが、今日は一段とその空気が張りつめている気がする。祐一は黙って土方の言葉を待った。

「…真弘のことだが…祐一。お前はどう思う」
「…どう思うとは?」

土方の口から出たのは質疑だった。だがその意図を汲みかねて、祐一は問い返した。

「どこかおかしなところはないか」
「…おかしなところ、か…」
「どんなことでもいい。以前と比べておかしな行動を取っているとか…」
「そう言えば…」

祐一は何かを思い出したのか、だが口を閉ざしてしまった。

「どうした。何かあったのか」
「いや、これは俺の杞憂かもしれない…」
「どんなことでもいい。話せ」

土方の纏う空気がさらに張りつめる。祐一は漸う言葉を探しながら語った。

「昨晩…あいつは朝方どこからか帰ってきたようだった…深夜にあいつの部屋を見たが明かりはついていなかった…ここのところあまり顔を見ない…一人でどこかへ出かけているのか…隊務を怠っているようではいようだが…」

祐一の言葉を聞いた土方は黙ったままで、そこまで話し終えると祐一も口を閉ざした。重い沈黙が流れる。
どうして土方が真弘のことを訊ねてくるのか。どうして緊迫した面持ちなのか。全てが疑問に感じられ、祐一はしかしそれを問わなかった。
土方はおそらく多くのことを考えている。あの夜の一件以来あまり良い雰囲気ではないが、土方の力量と判断力、率先力には敬意を払っている。
だから問いただすことはしない。

「…祐一、お前真弘を止めることはできるか」
「…止める?」
「お前も気づいてるだろう。あいつの不審な言動…それはあの夜の一件以来からだ…それは俺に対してのものだともわかっている…」

土方は空気を一度大きく吸うと大仰にため息をついた。

「恨まれることには慣れてる…だが、その恨みの矛先を見失ってる…」

土方の瞳に一瞬だけ影が差す。その目には真弘を憂いているような色合いが見て取れた。祐一は黙って土方の言葉の先を促す。

「…このままでは危うい。それはお前だってわかってるだろ、祐一」

そう投げかけられ、祐一は首を縦に振った。
最近の真弘はどこかよそよそしく上の空で、話しかけても生返事しか返ってこない。何か考え事をしているのだろうが、守護者や珠紀と過ごす時間が圧倒的に少なくなっている。
それを心のどこかでは危険だと察知していた祐一はしかし今まで何もできなかった。

「…お前に頼みがある。これは真弘に関係することだ。聞いてくれるか」

土方の声音がさらに低くなり、辺りの空気が変わる。少しでも体を動かせば肌が切れてしまいそうなほどの緊迫感に祐一は黙って頷いた。

「お前と、斎藤。二人でこれから任務を行ってもらう。これは極秘だ。俺と斎藤、そしてお前しか知らない。他の隊士には一切伝えていない。これから話すことは他言無用だ」

他者にこのことを話せばそのときは覚悟しておけと、まるで脅しのような鋭い視線に射抜かれた祐一は再び頷く。

「お前たちが動くのはまだ先になるだろうが…そのときが来たら存分に働いてもらう。つらいかもしれないが、頼めるか」
「真弘に関係することなら他人事ではない。引き受けよう」
「よく言ってくれた。さっそく話に入るぞ。その任務は————」




「鴉取君」
「…伊東さん」

冷たい風が吹く中庭に真弘を呼び止めたのは、縁側を歩いていた伊東だった。

「こんな所にいたんですね。探したんですよ」
「あぁ…悪い。考え事してて…」
「それは以前私が持ちかけたお話についてかしら?」

伊東は縁側の淵まで来て、真弘と距離を詰める。真弘はその問いに答えなかったが、それを是と受け取った伊東は言葉を続けた。

「前向きに、考えてくれるのかしら?良い返事を聞けるといいのだけれど…」
「まだ返事はいいだろう」
「えぇ。大きな問題ですもの。ゆっくり考えて下さいな。私もすぐには動きませんから」

伊東はそう言うと優雅な所作で縁側から中庭に降りて真弘の前に立つ。

「私はあなたの考えに賛同しているわ。ここは色々と信用ならないところがあるから…」

真弘の瞳が揺れる。その反応を見た伊東はうっそりと微笑み、すっと腰を曲げて真弘の耳に顔を近づけた。

「貴方の考えは正しい…貴方の思いを支援してあげられるのは私だけです…離隊の件、じっくり検討して下さいな」

伊東は顔を話すと真弘と目を見つめ、ゆっくりと口端を吊り上げた。
その笑みを黙って見上げていた真弘の表情はひどく堅い表情だった。
伊東は満足げに頷くと颯爽と踵を返す。
伊東の背が見えなくなるまで見送っていた真弘はふと空を見上げた。

「…俺は正しい…か…」

ぽつりと呟いた虚しい言葉は冬の冷たい風に乗って消えた。

Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.189 )
日時: 2013/12/07 18:29
名前: さくら (ID: /NsG2i4v)

「はぁ…緊張する…」
「大丈夫?珠紀ちゃん」

早鐘を打つ胸をなだめるように手を当てていた珠紀に千鶴が気遣わしげに顔を覗き込む。

「うん…何とか…」
「心配ありまへんえ。何かあったら私を呼んでくれはったらいいんどす。それにお客はんのお酒の相手だけしてくれたら構いまへん。気負わずに、無理せんと」

控え室で座敷に呼ばれるのを待っていた二人を安心させるように君菊が優しく言葉をかける。
二人は強張った顔を少しだけ緩めた。そして大きく息を吸って頷き合った。

「そうだよ。何かあったら拓磨や新撰組の人たちがいるんだし」
「珠紀ちゃん、無理しないでね」
「うん、千鶴ちゃんも」

互いの目的を再確認したところで、座敷番が姿を現す。

「珠紀はん、千鶴はん。お座敷上がっておくれやす」

二人は黙ったまま頷くとゆっくりと立ち上がった。
そして静々と座敷に向かって歩き始めた。
普段着慣れていない着物に足を取られないように慎重に歩を進める。控え室となる屋敷と指名された座敷は違うため、二人は三枚歯の下駄をこれも足下に注意を払いながら店を目指した。
煌々とした色町の光に目を細めて店ののれんをくぐる。そして部屋の場所を聞いた二人は顔を見合わせた。
千鶴は一階の部屋に。珠紀は二階の部屋に指名されたようだ。ここで二人は別れることになる。
二人は意を決したように頷き、それぞれの部屋へと入っていった。
ここからが本番だ。二人は瞳に強い光を宿して座敷に上がる。



「う…そだ…何で…」

その勇ましい背中を中庭を挟んで向かいの廊下から見つめていた遊女、ならぬ信司が呆然としていた。
見紛うはずがない、あの風貌。あの出で立ち。自分が知っている玉依姫だ。

「どうしてこんなところに…」

信司は我に返ると店を出て行こうとする座敷番を呼び止める。

「あの、さっきのあの芸者は———」
「あぁ、千鶴はんと珠紀はんどすか?最近入った舞子どす。気になるんどすか?」
「い、いえ…呼び止めてすみません…」

信司は訝しむ座敷番に礼を言うと珠紀が入っていった部屋へと視線を投じる。
どうしてこんな場所に彼女がいるのか。どうして芸者の格好をしているのか。色んな疑問符が浮かんでは思考を掻き乱す。
そして何かの答えを見出したのか信司は目を丸くした。

「まさか…僕のために…!?」

信司は一瞬顔を歪ませた。だが頭を振って前を向く。

「珠紀先輩、すみません…僕は僕の目的を果たすまでは…」

信司は小さく呟くとその店を後にした。



珠紀は座敷に上がるとまず圧倒された。
すでにその座敷には数人かの芸者が呼ばれており、座敷遊びをしていたり酒の相手をしている。客は酒に酔い、盛り上がっていて珠紀はその賑やかな空気に気後れした。

「おばんどすえ。珠紀と言います。どうぞよろしゅう———」
「あぁ、堅苦しいあいさつはええからはよ、はよ酒の相手してくれや」

障子を開けてしばらく惚けていた珠紀は慌ててあいさつをすると近くにいた男が手招きをしてきた。
珠紀は障子を静かに閉めると手招く男の隣につく。

「新入りかい。そう緊張せんでええよ、どれ。酌でもしてもらおうか」
「は、はい」

既に出来上がっている男は呂律がまわっていない。珠紀は緊張しながらも男の手にある杯に酒を注ぐ。

「はは。今日が初めての座敷か。顔に出てるで」
「はい。緊張してて…」
「なぁにそう気張らんでええよ。芸者は笑ってくれとったらええんじゃ。ほれ、可愛いんやから笑ってみ」

中年の男は真っ赤な顔をひしゃげて笑ってみるよう誘ってくる。珠紀は言われたとおり笑ってみるが緊張のせいか少し歪な笑顔となった。
その様子を見ていた向かいに座っている男が声をかける。

「そんな顔してたら客も逃げるで。どれ儂が芸者のいろはを教えたろ」

男はそう言うと珠紀の隣に移動してくる。男二人が両側に座るとさすがに緊張を隠せない。戸惑う珠紀をよそに酔っぱらった男は珠紀と会話を楽しむ。
だが、ここで困惑している場合ではない。本来の目的である信司がどうしてここで働いているのかつきとめるために来たのだ。珠紀は自分を奮い立たせあがら男たちの相手をする。

「くそ…!あ、あんなに珠紀に近づきやがって…!!」

珠紀が奮闘するその隣の部屋に、拓磨、祐一、大蛇は待機していた。待機とは珠紀に“もしも”のことがあってはいけないと自主的に護衛をしている。
襖を少し開けて隣の部屋の様子を伺っていた拓磨はぎりっと歯を食いしばっていた。

「拓磨。いちいち気にしていてはこちらの気が持たないぞ」
「狐邑君の言うとおりですよ。珠紀さんが頑張っているんですから、我々も影から見守るだけにしようと、そう決めたじゃないですか」
「そ、そうっすけど…」

自分が好いている女が見知らぬ男に接待している様を黙ってい見ているのは想像以上に堪える。
拓磨は今すぐに襖を開けて隣の部屋に乗り込みたい衝動を必死に抑え、黙って見守るしかない。

「我々男はこういった場所では無力です。お金を払えばいくらでも仕様がありますが、そんなこと我々にはできません。今は珠紀さんに委ね、影から見守る。それだけです」

大蛇は拓磨を宥めるために静かに語る。だがそんなことで拓磨の気は鎮まるわけはなく、そわそわと落ち着かない。

「拓磨。見ているから気になるんだろう。隣の部屋の様子など見なくても異変があれば気づける。襖を閉めたらどうだ」
「……うっす…」

拓磨は渋々祐一の指示に従い、そっと襖を閉めた。
隣の部屋の騒ぎ声がこちらまで響いてくる。対照的に無言の時間が流れるこちらの部屋ではときが長く感じられた。静けさに痺れを切らした拓磨はそっと口日を切る。

「あの、そう言えば真弘先輩は…?」
「…ここに来る前に誘ってみたが用事があるとかでここには来ないらしい」

祐一はいつもと変わらない語調で答えた。

「最近真弘先輩付き合い悪いよな。何か一人でやってるみたいだけど、それを問いただしても答えてくれない」
「そうですね…今度私から話をしてみましょう」

近頃の真弘はどこか塞ぎがちで、拓磨や祐一が声をかけても生返事しか返ってこない。いつも溌剌としていた彼とは大違いだ。
彼の変化にそれぞれが嫌な想像を巡らせてしまう。

「それにしても、何故信司は芸者に扮してこんなところにいるんだ」
「それ俺も気になって考えたんすけど、あいつがそんなことする理由はもっと別にある気がするんだよな」
「どういう意味ですか?」

祐一が悪い空気を打ち切るために話題を変えた。

「誰かのためにいつもあいつは動いてた…それくらい優しい人間だから…だからあいつ今誰かのためにこんなことやってるんじゃ…」
「その誰かは、一体どこの誰でしょうね…」

一同が腕を組んで考えあぐねていると隣の部屋が一段と騒がしくなる。不審に思った大蛇が静かに襖を開けると彼は一瞬目を疑った。

「た、珠紀さん…!!」

大蛇の驚いた様子が気になって拓磨と祐一が同じように襖から隣の部屋を覗き見る。
そして二人も言葉を失った。

「お嬢ちゃん積極的やねー!!いいよ、いいよ!!」
「そのまま着物脱いでくれてもええんやでー!!」

他の客が野次を飛ばす。渦中にいた珠紀は接待していた男の膝の上にいる。当の男は満足そうに珠紀を見つめていた。
見れば珠紀の顔が赤い。

「どうだ、俺がお前の旦那になってやる。帯でも着物でも買ったるで?」
「旦那はんなんて…まず結婚しにゃいといけにゃいんですよね…?そんにゃの急ですよぉ」

呂律がおかしい珠紀は力が抜けているのか男に寄りかかってぐったりとしている。
おそらく拓磨たちが目を離している隙に客から酒を勧められたのだろう。

「珠紀は酒に弱かったのか…」
「未成年ですし、ここのお酒は強いですからねぇ…」
「呑気に分析してる場合じゃないっすよ!!助けないと…!!」

立ち上がって襖を開けようとする拓磨に祐一は待ったをかける。

「待て、拓磨」
「どうして止めるんすか!珠紀が…!!!」

そうしている間にも珠紀と男はどんどん密着していく。もう我慢の限界だった。
拓磨は祐一の制止を振り切ろうとしたときだ。
大蛇が今度は待ったをかけた。

「待って下さい、鬼崎君」
「大蛇さんまで…!あれを黙って見てろって言うんですか!!」
「違いますよ。よく見て下さい」

大蛇は拓磨を見上げて微笑した。


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