二次創作小説(紙ほか)
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- 薄桜鬼×緋色の欠片
- 日時: 2012/09/26 13:48
- 名前: さくら (ID: cPNADBfY)
はい。
初めましてな方もそいうでない方もこんにちは。
またさくらが何か始めたで。と思っている方もいると思いますが
薄桜鬼、緋色の欠片好きの方には読んで頂きたいです
二つの有名な乙女ゲームですね
遊び感覚で書いていくので「なんやねん、これ」な心構えで読んでもらえると嬉しいです←ここ重要
二つの時代がコラボする感じです
あたたかい目で見守ってやって下さい
それではのんびり屋のさくらがお送りします^^
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.44 )
- 日時: 2013/02/22 20:09
- 名前: さくら (ID: MmCaxbRG)
「拓磨…?」
「ん。珠紀か?」
夕餉を取り終え、広間で明日の予定を聞かされた後はお開きとなった。珠紀は率先して湯船を使わせてもらえた。幹部達の配慮で千鶴も同様、早めに風呂をもらえたのだ。
その足で拓磨の部屋に向かう。明かりの灯った部屋に一応声をかけて部屋の主を呼んでみた。
「入って来いよ。外じゃ寒いだろ」
拓磨の返事の声が硬かったことに一瞬目を瞬いたが、今の声は優しい調子だった。
そっと部屋に入ってみると拓磨は庇に背を預けるかたちで座っている。
その隣に腰を下ろして珠紀はほっと息をついた。
「何だよ、溜息なんかして」
「安心したんだよ。何だか今日一日嵐みたいだったから」
珠紀の言葉に拓磨もあぁと頷いた。
本当に目まぐるしい一日だった。目が覚めれば見知らぬ男に連れ去られそうびなったり、新撰組で入隊が何だとか。
色々な状況に直面して少し疲れていた。同じ日本なのに時代が違うというだけでこうも緊張して過ごしたのは初めてだ。
「おーちゃん、もう出てきてもいいよー」
「にー!!」
珠紀の影から飛び出た青い閃光は瞬き一つで小さな狐に変化した。
「おーちゃん、他の人見えるみたいだったから今までずっと影に居てもらったの」
「オサキキツネが他の人に?霊力がないと見えないんじゃなかったか?」
「うん。私もそう思ったんだけどね、土方さん…だっけ?あと千鶴ちゃんにもこの子見えてたみたいなんだよねぇ」
主人の膝の上で弧を描きながら走り回るオサキキツネは嬉しそうだった。その頭を何度も撫でてやるとさらに嬉しいのか愛らしい声で鳴く。
「何でここの人には見えるんだろう」
「それはな!時代だからだ!!」
「先輩、声かけてから入って下さいよ」
唐突に障子を開けて入ってきた真弘に拓磨は怒気を込めた声音で諌めた。だが真弘はそんなことも気にせず、ずかずかと部屋に入り込み二人の前に腰を下ろす。
「時代って?」
「俺達は先祖から血を引いてるから霊力は備わってる。けど時代が進むにつれ、人は妖怪とか神とかを信じなくなった。そのせいで力もなくなって俺達の時代の人間には見えない」
「ここの人が見えるっていうのは…」
「この時代、江戸時代は魑魅魍魎が跋扈してるし、それを信じる人がたくさんいた。興味の有る無し、信じる信じないで視えるもんも視えないってことだ」
真弘は押入れから座布団を引っ張り出して再び腰を下ろす。どうやら長居するらしい。本腰を入れてここに居座る気だと察した拓磨は溜息をこぼした。
「そっかぁ。そんなことで視えるんだね」
「お前も視えるようになるまで修行したろ?興味を持って信じるだけで視えるもんだぜ」
「でも何で先輩がそんなこと知ってるんですか?」
「そりゃババ様の教育のおかげだよ。こんなときに役立つとは思わなかったけどな」
皮肉を込めたその言葉に二人は口をつぐんだ。
悲しい運命を背負わされた真弘はそれに関すること全てを先の玉依姫に教え込まれて育った。凶悪な刀を封じるためには強力な贄が必要だ。その運命を代々継いできた真弘はそれを静かに受け止め、闘ってきた。
死ぬために必要とされる情報を学んでいたあの時間は苦痛以外の何ものでもなかった。
今となっては悲しい記憶となって留まっている。
「っと、こんなしみったれた話をしにきた訳じゃねぇんだった。おい、珠紀。お前今日倒れたって言ってたよな」
「あ、うん。そうそう」
「そうそう、じゃねぇよ。大丈夫なのか?」
「今は何ともないけど…あの時は封印を解こうとしてる痛みに近かったような…」
そこまで口にして珠紀は目を見開いた。
「この時代って…鬼斬丸がまだあるってこと…?」
珠紀の問いかけに二人は静かに頷いた。
「頭痛がしたってことは、鬼斬丸の封印を解こうとしてる奴がいるってことだ」
鬼斬丸は破壊した。だがそれはこの時代からすれば未来の話だ。この時代では今も存在している。
その事実を改めて思い知った珠紀は動揺を隠せない。
「ど、どうしよう…神社に行くべき?で、でもここからどうやって行けばいいのかな…封印は…封具は———」
「落ち着けって。もう頭痛がしないってことは守護者か姫が封印を静めたってことだろ。この時代にもちゃんと守護者も姫もいたはずだ」
「どうしてそんなことが言い切れるんですか?」
「歴代を覚えてるから」
真弘が自分の頭を指差してしれっと言いのけた。
「確か…守護者は一人だったような…」
「え!?一人!?」
「そりゃそうだろう。俺達みたいに六人全員揃って同じ世代ってのは珍しいんだ。生まれてくる時代が違ったり、まだ幼かったり、現役を引退したとか重なると一人だってときもある」
初めて知った事実に珠紀は頷くことしかできなかった。
「私達に何かできないのかな…」
珠紀は真剣に呟いた。その呟きに二人は呆れたように息をつく。
「言うと思ったぜ。いいか。こんな時代だ。勝手に動けないし、大蛇さんだって探さなくちゃいけない。それについては調べてもらってるし…」
「調べてって…誰に?」
「あー!!もうこんな時間だな!珠紀、もうお前寝る時間じゃねぇのか?ほら、おやすみー」
「え?え?え?」
拓磨に背を押されて強制的に部屋を後にした。
「先輩、それはまだ珠紀には言わなくてもいいっすよ。余計な心配するだけだし」
「悪い悪い…」
拓磨は真弘を振り返って睨んだ。
「まぁここで大蛇さんに会えたら現代に戻る方法がわかるかもしれないけど…今は何ともできねぇしなぁ」
真弘の呟きは虚しく部屋に響く。二人が口を閉ざすとしばらく沈黙が続いた。
「…先輩気付いてますか」
「あぁ…二人か…」
「見張られてますね」
部屋の外の廊下の両脇に人の気配を感じる。微かに殺気を漂わせているその気配に、二人は眉根を寄せた。
「信じてもらえてないって感じだな」
「ま、俺等も不審者みたいなものっすからね」
拓磨は立ち上がってうんと伸びをした。
「明日はお前が巡察に出るって言ってたか」
「はい。先輩は?」
「俺はここで留守番。大蛇さんの手がかりしっかり掴んで来てくれよ」
夕餉の時に知らされた明日の予定を思い出しながら拓磨はこくりと頷いた。
「舐められてもんだぜ。ここの人間にもいけ好かない奴が居るしな!」
伊東のことを指しているのだろう。真弘は見張っている気配に向かって叫んだ。
「やってやろうじゃねぇか!俺様の力にびびって腰抜かすんじゃねぇぞ!!」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.45 )
- 日時: 2013/02/23 23:04
- 名前: 竜胆 ◆GuytVczNNY (ID: 4qcwcNq5)
はじめまして
二次創作板で活動させて頂いている竜胆と申します
お話を拝見させて頂きました
同じオトメイトの作品である【薄桜鬼】と【緋色の欠片】のコラボと聞いてどんなものかと興味を持って見に来ました
想像以上の面白さで、しっかりとした設定だと思いました
どちらの作品の特徴もしっかりと反映されていてとてもよかったです
特に、意外性のある真弘先輩の運命を持ってこられて驚きました
原作もされているのですか?
周りの風景描写も美しく、想像力皆無なはずなのにその場面が脳内再生されるほどでした
一つ一つの話の終わり方も上手で先が楽しみになります
個人的には珠紀ちゃんと原田さんのこれからの関係、大蛇さんはどうなっているのかがとても気になります
・・・なんだか、上から目線の様になっていてすみません(汗)
気分を害されていてしまったら申し訳御座いません
それでも、嘘ではありませんのでどうかご了承を・・・
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.46 )
- 日時: 2013/02/24 00:51
- 名前: さくら (ID: MmCaxbRG)
はじめまして竜胆さん
読んでくださってありがとうございます^^
こんなにたくさんコメント頂いたのは初めてで感激しています泣
いやはやこんなに嬉しいことはありません
そんなふうに誰かの心に少しでも私の作品が届いた、というだけで作者である自分は身に余る光栄ですね
二つの全く違うようでどこか共通点のあるこの作品をどうにかひとつのものにできないかいつも悩んでいます
最近では男子キャラが多いので「あれ、こいつはどんな喋り方だったかな?」と自分でわからなくなってきています笑
真弘も基本大好きなので登場回数は多いかと
ゲームをプレイしたのがだいぶ昔なので記憶があやふやなので確か真弘の生い立ちはこんな感じだったような…とあやふやなので本作好きの方には「違う!」という部分があるかと思いますがご容赦いただきたいです汗
こんなふうに具体的にコメントを頂いてこちらも安心しました
私の作品は一体周りの人にはどう映っているのだろうといつも心配でした
全く気分など害していません。むしろ大感動です
まだまだ駄文ばかりつらつらと並んでいますが、読者さんの優しい心とコメントで私が成り立っていると言っても過言ではありません
原田は単に私が好きなだけでやたら珠紀に絡みます笑
それを見て拓磨がやきもち焼けばいいんだ、などと楽観的です
大蛇さんはこれからですね←ネタバレ
おっと私も長くなりましたね
ではまた読んでいただけることを祈っています
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.47 )
- 日時: 2013/02/24 00:48
- 名前: さくら (ID: MmCaxbRG)
「何か叫んでるね」
「あぁ」
新参者三人の監視を土方から蜜命された沖田と斎藤は、三人の部屋の前の廊下の突き当たりに待機していた。
曲がり角の壁に身を隠しながら二人は腰を下ろしている。
部屋から聞こえた真弘の雄叫びが一体何だったのか二人は皆目検討もつかない。
「全く…近藤さんも伊東さんの次はこんな怪しい人たちまで連れ込んじゃうんだから困ったね」
「そう言うな。あの方にはあの方のお考えがあるのだ。俺達はただ従うだけだろう」
「そうだね」
幹部の中でもまだ波紋が広がっている。全く得体の知れない者が突然現れ入隊したのだから動揺が隠せない者もいた。
伊東派のことで小さな小競り合いがこの屯所でいつも勃発している。
他を気にかけるほど余裕があまりないのが正直なところだ。
また芹沢のように新撰組が二手に分かれるのでは、と杞憂を抱く者もいる。
「ねぇ、一君」
「…何だ」
なるべく声を小さくして、沖田は口元に笑みを湛えて一に視線を移す。
「あの子達。どう思う?」
「あの子達とは?拓磨達のことを言っているのか?」
「そう」
「どう…と言われても…お前は何か感じたのか?」
問い返してみると沖田は目を細めて嗤った。月明かりの少ない今晩は僅かな月光で沖田の瞳が不気味に輝く。
「あんまりいい気はしないかな…何だろう。具体的には言えないんだけど…人間じゃないような…」
「人間じゃない?」
「昨日。あの二人を捕縛しようとしたとき、気配が少し違った…まるで羅刹みたいな」
「馬鹿な。変若水は表立って他人に渡る代物ではない」
「分かってるよ。けど、あの子達の本性はあんまり僕は好きになれないなぁ」
一はそう呟く沖田の横顔を見つめた。
名声を欲しいままにしてきた沖田からすれば、二人の底知れない力が気に喰わないのかもしれない。
斎藤は特に沖田のような感情は沸かない。むしろ変わった二人が入隊したことで何か起こるのでは、と先を待つ心構えだ。
「二人の力に慄いているのか?」
「まさか」
即答に近い沖田の一言は迷いが感じられなかった。
「拓磨…君だっけ?僕の隊に入るみたいだし…楽しみだよ」
「あまりいじめすぎるなよ」
斎藤の諌める言葉に沖田は何も答えず、ただ意地悪い笑みを浮かべていた。
次の日。
晴天に見舞われた今日は絶好の巡察日和だ。
朝から沖田の一番隊が巡察に出るということで、拓磨は朝餉を終えて玄関に出ると待っていたかのように沖田がそこに立っていた。
「はい。これ着て巡察に行こうね。あとこれも」
沖田は浅黄色の羽織を拓磨に突き出し、次に刀を差し出した。
「丸腰で歩いてたら今のご時勢、あんまり良くないからね。扱えなくてもまずは刀に慣れることが先だから。それ僕のお古だけど使ってみれば?」
「うっす…」
出会いが出会いなだけ、お互いの印象はあまり良くない。どこかぎこちない空気を打破したのは元気の良い声だった。
「遅れてすみません!私もご一緒しますね」
玄関からばたばたと急いで現れた千鶴は沖田に頭を下げた。沖田はにっこりと微笑んで踵を返した。
「いいよ。じゃぁ全員揃ったし行こうか」
玄関を出るとすでに隊士が集合していて沖田がそれを先導していくかたちで出発した。
拓磨はその後ろを付いていくことにして、とりあえず羽織を着ようとしたが。
「?あれ?」
羽織の掛け襟部分についている羽織紐がどう結ぶのかわからない。周りの隊士を見てやってみるがどう結ばれているのか全く分からなかった。
戸惑っていると横を歩いていた千鶴が手を差し出した。
「この紐はこう結ぶみたいですよ」
千鶴の小さな手が拓磨から羽織紐を受け取り手際よく結んでやる。
「あぁ、ありがとう。助かった」
「この羽織特殊ですよね。初めはわからなくて当然ですよ」
千鶴は人の良い笑みを浮かべて拓磨を見上げた。
「千鶴って言ったか。どうせ同じ歳ぐらいだし、敬語、無理に使わなくてもいい。その方が俺も気が楽だし」
拓磨の提案に一瞬目を瞬いたがすぐに破顔した。
「それ、珠紀ちゃんにも言われた。えっとじゃぁ拓磨君、でいいのかな?」
「あぁ、よろしくな。千鶴」
こうして二人だけで話をするのは初めてだ。改めてこういったことを決めておかないと後々気まずくなったりする。
「どうかしたか?この羽織、似合ってないか」
「えっ!別にそういうわけじゃなくて…」
千鶴は拓磨をじぃっと見上げて何か考えているようだった。その視線に耐えかねて拓磨は声を上げた。
「初めて会ったときから不思議と安心するの。拓磨君の隣にいると」
その言葉を聞いて、あぁと拓磨は内心頷いた。
お千から聞かされて彼女が鬼であることを知っている。だがこちらが鬼とはまだ彼女には教えていない。
千鶴は安堵する理由はわからないが、同族といることで本能が安らいでいるのだろう。
「あ、えっと変なこと言ってごめんなさい」
拓磨が何も言わないことに気を悪くさせたと思ったのか、千鶴は罰が悪そうに謝った。
「いや、大丈夫だ。そんなふうに言われたのが初めてだったから」
拓磨がそう答えるとまた微笑んで前を向いて歩く。
いくつかの辻を曲がって大路に出た。人の活気に目がくらみそうになる。
「そう言えば何で千鶴は巡察についてくるんだ?お前も隊士だからか?」
「あ、私は人探しをさせてもらってるの。巡察について回って父様を探し回ってる」
「父様?親父さんが行方不明なのか?」
拓磨の問いに急に千鶴は顔を曇らせた。あまり話したくないのだろうか。
「私が屯所にいる理由は、詳しくは話せないんだけど新撰組の人たちも父様を探してるから、私も目的が一緒だったから屯所にいるの」
「?何で新撰組が親父さんを探してるんだ?何かあったのか?」
「雑談もそこまでにしてもらわないと仕事が進まないんだけどなぁ」
二人の背後から沖田が不服げに声をかける。
驚いて周りを見れば店が軒を連ねる通りに隊士達が散って検問を開始していた。
「千鶴ちゃんは聞き込みに行くんでしょ?ほら、今行かないともう次の場所に移動するよ」
「あ、はい!」
千鶴は発破をかけられて近くを行きかう人に聞き込みを始めた。
その様子を見ていた拓磨に声をかける。
「近藤さんは君達を迎えたけど、僕はまだ君達を認めてない。その羽織を着たからって仲間になった訳じゃないからね?」
「…」
唐突に沖田の口をついた言葉は容赦ないものだった。だが沖田の言い分にも一理あると納得した拓磨は黙って聞き入れる。
「あんまり僕達に深入りしない方が身のためだよ。早く君達の探し人を見つけてとっとと帰ってもらわないと。ほら、君も聞き込みした方がいいんじゃないの?探してる人がいるんでしょ」
沖田の言葉に背を押されて拓磨は往来を歩く人に聞き込みを開始した。
沖田は目を細めて拓磨の背を睨む。
「やっぱり気に食わないなぁ」
- Re: 薄桜鬼×緋色の欠片 ( No.48 )
- 日時: 2013/02/25 00:40
- 名前: さくら (ID: MmCaxbRG)
拓磨が巡察に出発したということで、真弘は何をすべきか縁やで腰掛け悩んでいた。晴天の今日は日差しが温かい。
心地よさにまどろんでいると背後から耳を劈くような声がした。
「ああっ!!こんなところにいた!何優雅にくつろいでんだよっ」
「あ?」
慌しい足音ともに現れた藤堂はのん気に日向ぼっこを決め込んでいた真弘に不満を口にした。
「お前俺の隊に入隊したんだから顔ぐらい見せに来いよ」
「誰がお前の隊に入ったんだよ」
「だからお前だって!土方さんからそう聞かされたろ!?」
入隊と言えば昨日の夕刻、道場にいたときそんな話があったなと思い出した。その時真弘は伊東に身長について罵られそれどころではなかった。
それを思い出して真弘は眉根を寄せる。
藤堂とはここに来た初日井戸で揉めた人物だ。あまりお互いの印象が良くない。真弘の印象では井戸の順番がどうとか一悶着起こした。
その隊長がいる隊に入ったなど何かの嫌がらせだろうか。
「お前の隊なんざ入らねぇ」
「はぁ!?何言ってんだよっ。そんなことできるはずねぇだろ。もう決定事項なんだし…」
「お前じゃなけりゃどこの隊にも入ってやるよ」
「なっ…言ったな!俺だってお前なんかこっちから願い下げだよ!誰が好き好んでお前を入れたりするか!」
二人の間に火花が激しく散る。一触即発の空気が漂うなか、ひとつ足音が近づいてきた。
「平助、ここに居たか。さっさと広間に集合しろ。いつもの“あれ”だ」
「あ、いっけね!忘れてた」
斎藤はすっと視線を真弘に移して、口を開く。
「お前も来るといい。診てもらって損はないだろう」
「みてもらうって…何をだよ?」
小首を傾げる真弘に斎藤は身を翻す。黙って着いて来いということなのだろうか。
真弘はとりあえずやることもないので、腰を浮かせた。
斎藤の後に続く藤堂と視線がぶつかって再びにらみ合いが始まる。
斎藤について広間に来てみれば、平隊士や幹部が溢れんばかりに集合していた。
それだけでも異様だが、もっと異常だったのは全員が上半身を脱いでいたのだ。
「何だこれ」
「いいからお前も上脱いで列に並べよ」
よく見ればその集団は広間の奥に向かって列をなしていた。最後尾は廊下まで出ている。
「何のために脱ぐんだよ?」
「検診してもらうためだ」
斎藤は首に巻いていた襟巻きを解いて、上半身を脱ぐ。藤堂も続いて上半身を露にした。
「検診?」
「ここには月に一度松本先生という医師が隊士を問診してくれる」
列に並んで斎藤が説明してくれた。
そんなことがあるのかと納得した真弘は大人しく列に並ぶ。
「お前の悩みはあれだろ?身長をどうにかしたい、だろ?」
藤堂が皮肉を込めてにんまりと笑った。その笑顔もそうだが、その台詞が何より頭にきた真弘は額に青筋を浮かべて藤堂を睨んだ。
こちらに来て身長についてからかわれることが多いのは何故なのだろう。
「はっ!その言葉そっくりそのままお前に返してやるよ!」
「お前よりは身長高いんだよ!」
「嘘付けっ!思いっきり爪先立ちしてるじゃねぇか!」
再び舌戦を開始した二人に呆れて斎藤は目を覆った。言い争いが過熱していくにつれ、周りの隊士が騒ぎ出す。
「何やってんだ、お前等」
「うるせぇぞ。静かに列に並べ」
問診を受けに来た原田と永倉が二人の仲裁に入る。
今にも掴みかかろうとする二人にそれぞれげんこつを見舞った。
「って!」
「黙って並べ。そして感激しろ。この俺のすばらしい筋肉をっ」
永倉が脱いでいきなり上半身の鍛え上げられた筋肉を見せつけ始める。
真弘はそれを目の当たりにして若干距離をとる。こういった暑い輩は苦手の部類に入る。あまり関わりたくない人物だ。
「お前は毎回問診のたびに筋肉見せつけなくていいんだよ」
「それ以外に何をすればいいんだっ」
「お前も静かに並べばいいんだよ!」
原田に諌められても尚、永倉は自慢の筋肉を平隊士にひけらかす。
毎度のことなのだろうか、平隊士も苦笑いを浮かべて受け流していた。
「今日も賑やかだな。結構結構。それじゃさっそく、斎藤君から診ようか」
「お願いします」
騒いでいる間に順番が回ってきて、広間の置くに待ち構えていたのは中年の剃髪した人物、松本だった。
腰掛けに座り、向かいにも腰掛がある。斎藤はそこに腰を下ろした。てきぱきと手際よく検診を行ってひとつ大きく頷いた。
「うむ。斎藤君も健康そうで何よりだ。これを維持してくれよ。よし、じゃぁ次」
斎藤は一礼して腰を上げた。次の番が回ってきた真弘は上半身を脱いでから腰掛けに座った。
「新入りだね。さて、君の健康はどうかな?」
松本が検診を始めようとした時だった。
横の障子から薬箱を手に現れた人物に真弘は目を見張った。
「先生。薬の補充、ここに置いておきますね」
「あぁ、ありがとう。大蛇君」
「大蛇さんッ!!!」
真弘は腰掛を倒す勢いで立ち上がった。その声と音に驚いた一同は成り行きを見守る。
「鴉取君!君、どうしてここに…」
「それはこっちの台詞だって!良かったぜ!大蛇さん、この時代に居て…!」
真弘は大蛇に近寄って本人かどうか確認する。
丸い眼鏡に長い髪はそのまま。着物も常時着ていた彼は現代にいたときとそのままだった。
二人は驚いているのか、目を丸くしたまま笑い合っていた。
「二人は知り合いかね?」
「あ、はい」
「何で大蛇さんがここにいんだよ!?探してたんだぜ」
「積もる話があるようだね。大蛇君。ここはいいから、その子と話をしてきたらどうだね?」
「すみません。では、お言葉に甘えて…」
大蛇は一礼すると真弘とともに広間を後にした。
「おい、一体何だったんだ?」
「さぁ…」
「大蛇さんって…確かあいつらが探してた人じゃ…」
「そう言えば松本先生。あの人ちょっと前から一緒に問診に来てたよな」
藤堂の問いに松本は頷いた。
「あぁ、彼とは少し前に出会ってね。倒れているところを私が介抱したら、行き先がないからここに置いてくれって言うもんだから仕事を手伝ってもらってたんだよ」
「何だ案外近いところにいんじゃん」
「だな」
藤堂と永倉が笑い合っていると、松本も笑みをこぼした。
「良かったよ。彼は知り合いもいないみたいだったから」
洗濯物を千鶴と片付けていた珠紀は庭にいた。
「今日はお天気がいいからすぐに乾きそうだね」
「そうだね。でも凄いね、千鶴ちゃん。昔の人はこうやって選択してたんだ」
「未来では違うんですか?」
「うん。まず手洗いじゃないんだよ?洗濯機っていうのがあって———」
珠紀が桶の水を汲もうと立ち上がったとき、角の廊下から現れた人物に目を丸くした。その拍子に桶を足元に取り落とした。
「珠紀ちゃん?どうしたの?」
「あ…あ…」
珠紀の視線を追って見ると真弘と並んで歩いて来た見知らぬ人物に、千鶴は小首を傾げた。
珠紀に気付いた大蛇は顔を綻ばせた。
「珠紀さん…!」
「大蛇さんっ!!」
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